「宮本武蔵(五)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の物語の第5話。吉岡道場との決闘の後を描く。
ようやく後半に差し掛かった武蔵の物語。吉岡道場との決闘の後を描く本書は物語のなかでも山場の少ない内容となっている。おつう、城太郎と再び行動を共にしてはまたはぐれるなど、それぞれ新たな人生の方向へと導かれていく。
個人的に印象に残ったのは、はぐれた城太郎、おつうの行方を探すのを手伝ってくれた見知らぬ人へ、御礼に残り少ないお金を渡そうとする武蔵の心の内である。

あの銭が、あの正直者に持ち帰られれば、自分の空腹をみたす以上、何かよいことに費かわれるにちがいない。それからあの男は、正直に酬われることを知って、明日もまた、街道へ出て、ほかの旅人へも正直に働くだろう。

これまでは悩み葛藤を続けてきた武蔵だが、ここへきてその心のありようが結構な境地に達してきたような気がする。残り3冊も楽しみである
【楽天ブックス】「宮本武蔵(五)」

「1%の人だけがやっている 会社に「使われない人」になる30のヒント」渡辺雅典

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アフィリエイターとして著名な著者が会社に使われない人間になるための心得を語る。
序盤は、高校を中退し、仕事でもあまりいいスタートを切れなかった著者自身の過去に触れ、その後、インターネットでの仕事を始めてからの成功と、現在の心がけについて語っている。書かれている内容はどれも特別な事ではなく、むしろその内容からは読者としてもっと本当に会社にいくのが嫌でしょうがないネガティブな思考の会社員を対象にしているようにさえ思える。
書かれている内容に信憑性がないわけではなく、むしろどれも納得のいくものばかりなのだが、世の中に溢れかえっている「成功のための本」の多くに書かれていそうなことばかりで、あまり印象に残らなかった。しかし、定期的にこのような本を読む事はいろんな意味でモチベーションの維持に役立つ気がする。
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「四色問題」ロビン・ウィルソン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
すべての地図は4色で塗り分ける事ができる。経験的に受け入れられてきたこの事実の証明は何年も数学者達を苦しめてきた。そんな四色問題が証明されるまでを描く。
コンピュータを使った美しくない証明として議論を呼んだ証明として興味を持っていた。もちろん問題自体(つまり地図が4色で塗り分けられるという考え)がわかりやすいというのも理由の1つだろう。こういう本は数学者でもない限りすべてを理解するのは不可能なのだが、それでもその雰囲気や数学者達の努力が感じられれば僕にとっては十分なのである。
序盤は「四色問題」がどのように始まり、どのように数学界に広がっていったかを描き、中盤からは、簡単な塗り分けから考え方を説明し、四色問題が難しい理由などを説明する。その過程では11年間にわたって信じられてきた間違った証明も含まれている。
興味深いのは、この証明の「美しくなさ」である。証明をしたアッペルとハーケンは非難されてさえいるということである。

問題は、まったく不適切な方法で解かれてしまった。今後、一流の数学者がこの問題に関わることはないだろう。たとえ適切な方法で問題を解けたとしても、これを解いた最初の人間になることはできないのだから。

数学の証明の難しさ、あるべき姿、など考えさせられる一冊。
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「主よ、永遠の休息を」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
記者の鶴田吉郎(つるたよしろう)は14年前に起きた女児誘拐殺人事件の映像がアダルトサイトに流されていたことを知る。
誉田哲也の初期の作品。物語として「ストロベリーナイト」や「ジウ」といったシリーズと繋がっているわけではないが、著者の原点とも言える。記者である主人公が、すでに過去のものとなった誘拐殺人事件を調べるうちに少しずつ奇妙な点に気づいていくのだが、全体的にはとくに予想を超えたひねりがあるわけでもなく、心情描写も最近の誉田哲也作品と比較すると少なく印象的な部分は少ないように思える。
物語自体を楽しむよりも、誉田哲也という著者を知る上では価値のある一冊かもしれない。
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「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」渡辺奈都子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人間関係をどのように良好に維持するか、と調べているうちに「選択理論」という言葉に出会った。本書は真理カウンセラーの著者がその「選択理論」について語る。
基本となるのは、「変えられるのは自分だけ」という考え方であり、「外的コントロール」つまり他者のコントロールをしないように勧めている。他人の行いに対してひたすら我慢をすることを理想とするように聞こえるかもしれないが、実際には希望を伝えることも勧めている。こちらの希望に沿わなかった場合に罰を与えたり、非難をしなければそれは「外的コントロール」にあたらないのだ。
また、人の感情や行動をいくつかのたとえを用いて興味深く説明している。1つは、車の4輪を用いて前輪を「思考」と「行為」、後輪を「感情」「生理反応」と例えている。つまり車の前輪と同じように「思考」と「行為」は自らの意思で操作できるが、後輪の「感情」「生理反応」はその前輪の結果についてくるものということである。
人の性格についての考え方もわかりやすい。人間は5つの基本的欲求「生存」「楽しみ」「自由」「力/価値」「愛/所属」のグラスを持っているが、それぞれのグラスの大きさは人によって異なるため、そのグラスを満たす量もことなるのだという。
全体を通じたのは、ここ数年自分が人間関係において意識していることとそれほど乖離してはいないということ。見方を変えれば、人によっては「他人に対する諦め」と否定的に受け取ることもあるのかもしれないが、個人的には、本書が推奨する「コントロールしない/されない関係」はもっとも相手を尊重した関係のように思える。人の見方に新たな視点を与えてくれる一冊。
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「「書」を書く愉しみ」武田双雲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
書道家である著者が「書」について語る。
コンピューターが世の中に浸透し、文字を書く機会は本当に少なくなった。そのせいか、文字を書く事が嫌いな人は多い。実際、自分の書く文字が嫌いな人も多いという。僕自身もそんな一人で、特に字が汚いわけでもなく、むしろ「字がキレイ」と言われる事のほうが多いのだが、どうしても自分の書く字が好きになれない。本書はそんな人に、字に対して新しい考え方を与えてくれるだろう。
字がうまくなる方法として「下手な字競争」を紹介している。その名のとおり下手な字を書こうと努めるのだが、どうやったら下手に見えるか、という視点に立って字を眺める事に良って、より深い考察をすることができるという。また、お手本通りに書くという学校での書道の授業に異を唱えている。なぜなら同じ人物が書いたとしても二度と同じ文字は書けないのだそうだ。
その他にも中国や日本の歴史的な書を紹介している。有名な書のなかにも読みやすいものもあれば読みにくいものもあり、そこから伝わってくるのは、文字に正解はないということ。服装や姿勢や髪型などと同じように、文字もその人の個性を表すものなのだろう。
改めて文字というものと向き合ってみたくさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「「書」を書く愉しみ」

「本田式サバイバルキャリア術」本田直之

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハワイと日本の二重生活を送る著者がその経験を基に今の時代を生き抜く考え方を語る。
成功した人は、その成功の多くが偶然的要素に左右された結果であるにも関わらず、本を出してあたかも自分の視点が正しく世間一般的な視点が間違っているように語ることが多い。そういう意味で本書にもあまり期待していなかったのだが、むしろ予想外にまともなことを語っている点が驚いた。
実は、著者の経歴から「思い切って行動すればなんとかなる」的な内容を想像していた。しかし実際には、社内や社外の人脈の作り方や、転職エージェントの利用のすすめなど、今の時代を生き抜くために、リスクを最小限に抑えて、利用できる物はなんでも利用すべき、という考え方が本書のなかで一貫としている。
著者が繰り返し使うのが「サバイバビリティ」という言葉である。何が起きるかわからない今、1つの会社や1つのキャリアに依存する事こそリスクが高く、「シングルキャリア」から「マルチキャリア」へ、「雇われ型」から「スキル提供型」への移行こそ、生き抜くために必要なのだろう。
【楽天ブックス】「本田式サバイバル・キャリア術」

「Fahrenheit 451」Ray Bradbury

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本を燃やす事を仕事とするMontagはある日近所の少女Clarisseと出会う。Clarisseの自由な言動によって、Montagは自らの行いを振り返り悩み始める。
日本語タイトルは「華氏451度」であり、本を燃やすための温度を示している。舞台となっているのは未来の世界で本来なら消防士として火災にあった家を消化する人にあてられるべき「fireman」という言葉が、本を燃やすことを職業にする人に使われている。そして本書はそんなfiremanであるMontagの様子を描いている。
知識や思想を根絶するために本を燃やす、という思想は何年も前からあったもので、映画や物語のなかでもそんなシーンをたまに目にする。おそらく宗教的な対立や独裁政権下で多く起こったできごとなのではないだろうか。本作品が未来を舞台にして、見せててくれるのは、本を燃やすということの意味とその危険や重要性である。
firemanとしての職業を放棄したMontagはやがて社会から逃れて生活している人々に出会う。彼らは多くの本が失われる中で、知識や思想を守り、それを次の世代に受け継ごうとするのである。
本書が言おうとしていることの崇高さはしっかり伝わってくるが、書かれた時代の古さが安っぽさのように感じられてしまう点が残念である。情景描写ばかりで心情描写がほとんどない点も原因なのだろう。同じ意図で現代のすぐれた作家が描いたらどうなるだろう、と考えてしまった。

「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」北健一郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ガンバ大阪の遠藤保仁(えんどうやすひと)、FCバルセロナのシャビ。強いシュートを打つわけでもなく、驚くような鋭いパスを放つわけでもない彼らだがそれぞれのチームの中心人物と評価されている。彼らのどんなプレーがすごいのかを、彼らがときどき出す弱いパスを中心に解説する。
正直サッカーを何年もプレーした事がある人にとってはそんなに新しい内容ではないだろう。遠藤やシャビほど計算し尽くしてはいなくても無意識にやっていることかもしれない。それでもこうやって言葉にしていくつかの例とともに説明されると改めていろいろ戦術というものについて考えるだろう。
また、本書では遠藤(えんどう)のプレーに対して、一緒にプレーした事のある他のプレーヤーの意見も書かれている。そこで語られるのは意図を感じさせるパス。パスカットされる可能性があれば出さないという相手ゴール付近であっても出さないという選択、サイドチェンジの効果などである。いずれも賛否両論あるとはいえ、何事もそうだがパス一本とっても極めようとすればいくらでも上がある、ということを再認識させられる。
サッカーを知らない人にとっても、これからサッカーをテレビなどで観戦する際の助けとなるだろう。
【楽天ブックス】「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」

「初ものがたり」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
江戸の本所深川の岡っ引き茂七(もしち)が地域で起きる事件や諍いを解決していく。
物語自体は、時代こそ違えど殺人、失踪、イカサマなど、現代の探偵物語でも出てきそうなことを扱っている。舞台が現代であればそこら中にありそうな物語であるが、それを江戸という時代で描くところが宮部みゆきらしさなのだろう。宮部みゆきの時代小説はどれに対しても言える事だが、本書も物語を楽しむ中で、江戸の時代の人々の生活が見えてくる。
僕自身「岡っ引き」という言葉の意味さえ知らないほどこの時代に対して無知なのだが、読んでいるうちに日本の人々の生活が、江戸やそれ以前から現在に至るまでどのように発展し変化してきたのか興味を抱いた。日本の過去の人々の生活にももっと目を向けていきたいと思った。
やや解決していない事案もあるような気がするが、ひょっとしたら続編があるのかもしれない。

岡っ引き
江戸時代の町奉行所や火付盗賊改方等の警察機能の末端を担った非公認の協力者。正式には江戸では御用聞き(ごようきき)、関八州では目明かし(めあかし)、関西では手先(てさき)あるいは口問い(くちとい)と呼び、各地方で呼び方は異なっていた。(Wikipedia「岡っ引き」

【楽天ブックス】「初ものがたり」

「Wolves of Calla」Stephan King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Dark Towerシリーズの第5弾。Roland達一行はCallaという町の人々に救いを求められる。その町には何年かに一度仮面を被った「Wolves」と呼ばれるグループがやってきて、町に多くいる双子のうちの一人をさらっていくのだというのだ。
シリーズ中最長の本書。Roland、Eddie、Sussanna、Jake、Oyeは助けを求められてCallaという町に赴き、町の人々から情報を集めながら、約1ヶ月後に迫ったWolvesの来襲に備える始める。そこでは双子の一人がさらわれても残る物もいるのだからそれで甘んじようと言う人々と、これ以上今の状態を続けないために命の危険を承知で立ち上がろうとする人々がいる。
町の老人が昔のWolvesの来襲と一緒に戦って命を失った友人達について語るシーンが個人的にはもっとも印象に残った。

モリーは砕け散った夫の血と脳を浴びながらも、なお動かず。そして叫んで皿を放った。

さて、物語はWolvesの襲撃に備える一行だけでなく、夜になると不穏な行動を始めるSussannaや、Eddie達と同じようにニューヨークからやってきたCallaの町の神父Callahanにも及ぶ。Callahanの語る物語はどうやらStephan Kingの別の作品と繋がっているようで、そちらも読みたくなるだろう。
前作「Wizard and Glass」でも赤い水晶が物語の重要な役割を担っていたが、今回もCallahanが保持しているという水晶が鍵となる。今後この玉の存在が物語にどのように影響を与えていくのか、ようやく近づいてきたシリーズの終盤に対して期待感が高まる。
スピード感溢れる描写に著者の才能を感じた。早くシリーズを最後まで読みたくさせてくれる一冊。

「宮本武蔵(三)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の第三巻。宍戸梅軒(ししどばいけん)や吉岡清十郎(よしかわせいじゅうろう)との対決を描く。
結末はすでに多くの人が知っているように、武蔵が吉岡清十郎に勝つのであるが、その描き方は、数ある宮本武蔵を描いた物語のなかでもさまざまで面白い。本書では、吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)とその弟、伝七郎(でんしちろう)のやり取りが印象的である。長男であるがゆえに重すぎる責任を背負わされて苦悩する清十郎(せいじゅうろう)、そして次男であるがゆえに身勝手に生きる伝七郎(でんしちろう)。本書では清十郎(せいじゅうろう)のつらい境遇が際立つ描き方をされているように感じた。
また、一方で佐々木小次郎(ささきこじろう)の存在感も高まっていく。そして武蔵の幼なじみの本位田又八(ほんいでんまたはち)は日増しに高まる武蔵の噂に嫉妬し、佐々木小次郎(ささきこじろう)の名前を語るようになる。
そんななかで印象的だったのは、吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)との勝負を終えた武蔵が辺鄙な場所に母親と一緒に住む光悦(こうえつ)という人物と出会う場面である。剣のことしか知らない武蔵は、光悦(こうえつ)の焼いた陶器の奥深さに驚くのである。

彼が自負している剣の理から、この人物の底を計ろうとしても、持ちあわせの尺度では寸法が足らないような尊敬を正直に持ってしまった。

第二巻で柳生石舟斎(やぎゅうせきしゅうさい)の切った木の枝のエピソードも印象的だったが、わずかな違いにその技術を感じる武蔵の強い感性はなにか刺激を受ける部分がある。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(三)」

「まち文字 日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?」小林章

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
フォントデザイナーの小林章が各国のフォントについて語る。
タイトルでは丸ゴシックをテーマに扱っているように聞こえるが、実際読んでみると丸ゴシックの話題は冒頭だけで、あとは著者が世界の各地で見るロゴで気づいた事をひたすら写真を織り交ぜて語っている。同じ著者の前作「フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?」と流れもあまり変わらない。むしろ同じ記事が使い回しされているような気さえする。
これだけ世の中に溢れているにも関わらず、普段フォントというものを意識することのない人にとっては、町を歩く際に新たな視点をもたらす内容だろう。一方で、普段からフォントに触れている人にとっては若干物足りないかもしれない。それでもさらっと気軽に読めて、周囲にあるいろんな文字を凝視したくなる気楽な空気感がいい。
【楽天ブックス】「まちモジ 日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?」

「Holes」Louis Sachar

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
靴を盗んだ罪で更生施設に送られたStanleyはそこで毎日穴を掘る事を命じられる。その生活に慣れていくなかで少しずつその目的が見えてくる。
灼熱の大地で毎日穴を掘る、という情景になんか惹かれてしまうのは僕だけだろうか。物語にはその他にもなんだか魅力的な要素が詰まっている。主人公のStanleyの名前が、Stanley Yelnatsと逆から読んでも同じだったり、穴を掘っている近くには猛毒のトカゲが生息していたり、細かい設定がやけに印象的である。
さて、Stanleyが毎日の穴掘りに慣れ施設の生活にも慣れていく様子を描く中で、何度も過去の物語が展開される。どうやらそれはStanleyの曾祖父や祖父の物語のようである。アメリカに渡って財産を築いた曾祖父。強盗に襲われて財産を奪われた祖父。またその地域に長く伝わる伝説も描かれている。禁断の恋をした女性教師とタマネギ売りの物語である。
実は最後にはそんなすべての断片が1つに繋がるのである。正直1度読んだだけではなかなか細かい相関関係がわからない。すぐに読み返したくなる1冊。

「ニーベルンゲンの歌」石川栄作 訳

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ジークフリートという英雄の名前はずいぶん前からよく耳にしていた。名前が一人歩きするぐらい有名な物語なのに読んだ事がないものというのは結構あって、ハムレットやロミオとジュリエットなんかも同じであるが、今回はこの「ニーベルンゲンの歌」を選んだ。
おそらく翻訳者の技術や哲学によって、読みやすさは変わってくることもあるだろうが、現代の若い著者によって書かれているような読者を引き込む面白さを求める物ではないのだろう。ある程度は平坦な物語を我慢する覚悟が必要である。
本書は上巻、下巻それぞれに「ジークフリートの暗殺」「クリームヒルトの復讐」という副題がついているとおり、上巻は英雄ジークフリートの活躍と、暗殺されるまでの物語。そして後半はジークフリートの妻クリームヒルトが復讐を遂げるまでの物語である。
本書を読んでようやく一人歩きしていたジークフリートという名前が人格を持った英雄になった気がする。強く本書をオススメするということはないが、読み損ねた名作は誰にでもきっとあることだろう。
【楽天ブックス】「ニーベルンゲンの歌 前編」「ニーベルンゲンの歌 後編」

「宮本武蔵(二)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の第二巻。宝蔵院を後にした武蔵は柳生へ向かう。そこには宮本村で別れたお通がいるのだ。
マンガ「バガボンド」との比較ばかりになってしまうが、本書では残念ながら宝蔵院胤舜(いんしゅん)との試合は行われない。お互いを認め合って言葉を交わすのみである。本書の見所は、柳生石舟斎(せきしゅうさい)と一本の木の枝の切り口を通じて心を伝え合う場面だろう。達人であるからこそわずかな細い切り口にその技を見いだす。剣の世界に限らずそんな世界があるなら到達してみたいと思わせる。
もちろん柳生でのお通との再会の場面も印象的である。お通に会いたいという思いを持ちながらも、剣の道を歩み続けるためにはそれをすべきではない、という武蔵の葛藤が描かれる。
そして後半では佐々木小次郎が登場する。武蔵と絡むのはまだまだ先の話だと思うが今後の展開を楽しみにさせてくれる。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(二)」

「検事の死命」柚月裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
米崎地検の検察官、佐方貞人(さかたさだひと)の物語。電車内での痴漢事件を扱う事になる。女性は素行が悪い一方で、容疑をかけられた男性はその地域の有権者の家の息子だった。
4編から成る短編集として構成されているが、後半2編はどちらも痴漢事件を扱った1つの物語である。また2編目の「業をおろす」は同じく佐方貞人(さかたさだと)を扱った作品「検事の本懐」の続編となっているので、本書2編目を読む前にそちらを読んでおくべきだろう。佐方(さかた)の父親の生き方を通じて、彼の信念の原点が見えてくる。
さて、本書のメインは痴漢事件の裁判であるが、女性の言動にやや素行の悪さが冤罪の印象を与える。その一方で、容疑を受けた男性の方も権力者の息子ということで真実に関係なく、裁判関係者に圧力がかかってくる。
そんななか佐方(さかた)は真実に導いていくのだが、本書でもそのぶっきらぼうな態度の裏にある信念は一貫している。本書を通じて感じたのは、正義はたった一人の無鉄砲な意思で貫き通せるものではなく、良き理解者や上司はもちろん、そのための根回しや巧妙な政治的駆け引きも必要だと言うことだ。そういう意味では佐方(さかた)の上司である筒井(つつい)の存在が大きいだろう。
最終的な結末はややあっけない印象もあるが、そこにいたる過程では期待に応えてくれた。

母さんは言ってた。自分のための嘘は絶対ついちゃいけないけど、人を助けるためなら許されるって。母さんはそうやって生きてきたんだ。

楽天ブックス】「検事の死命」

「恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか?」イビチャ・オシム

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元日本代表監督のイビチャ・オシムが南アフリカワールドカップの日本代表を振り返る。
日本は南アフリカワールドカップの予選リーグでカメルーン、オランダ、デンマークと戦い、最終的に決勝トーナメント1回戦でパラグアイに破れて大会を後にした。今まで多くの雑誌やメディア、テレビ番組でこの4試合について語られてきたが、やはり経験豊かな監督の目線は異なる。負けた試合はもちろん、勝った試合についても良くなかった点や改善方法を示してくれる。
オシムに言わせると、パラグアイは決勝トーナメントに残った16チームのなかでもっとも勝ちやすい相手だったという。前回大会のトルコと動揺、相手にめぐまれたにも関わらずベスト8に進めなかった事を嘆く。孤立してしまった本田をどうすれば機能させることができたのか。選手の間に「引き分けでもいい」という考えがあったのではないか、などである。
そして日本代表だけでなくその他の印象に残ったチームや選手についても語っている。スペイン、オランダはもちろん、予想外に終わったブラジルやイタリア。すばらしい活躍をしたウルグアイのフォルランなどである。本書を読むと改めて、オシムの視点で試合を見直したくなる。
また、サッカー界の流れについても語る。スペインの優勝がサッカー界にもたらすもの。モウリーニョ主義への懸念、日本サッカーの向かうべき方向など、本書によってまたサッカーが1つ深く見れるようになるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか?」

「宮本武蔵(一)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
もはや説明するまでもないが、数ある宮本武蔵の小説のなかでも人気の吉川英治の作品。すでに本書を原作とする井上雄彦のマンガ「バガボンド」の方が有名である事もあり、わざわざ小説を読もうと思い立つこともなかったが、おそらく日本の小説ベスト100のようなものを作れば間違いなく入ってくるだろうシリーズ。これを機会にと最初の1冊を手に取った。
本書では武蔵(たけぞう)が又八とともに関ヶ原に赴き、やがて追われる身となり、その後、沢庵和尚によって更生し再び修行の旅に出て奈良宝蔵院に訪れるまでを描いている。
すでにマンガで読んでいる内容ではあるが、マンガと違って小説は心情描写が伝わりやすく、特に沢庵和尚と武蔵(たけぞう)のやり取りの部分は涙を誘う。
続きが楽しみだ。
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「Mockingjay」Suzanne Collins

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第13地区に逃げ延びたKatniss達は首都から迫害を受けていたすべての地区を率いて反乱を起こそうとする。一方で首都は爆撃だけでなく、捕らえたPeetaを利用して各地の暴動を治めようとする。Hunger Gameシリーズ完結編。
シリーズ3作目ということで、前2作品では脇役に過ぎなかった登場人物達が個性を持ち生き生きと躍動してくる。正直過去の作品の登場人物の名前を覚えてないとややわかりにくいかもしれない。
13地区はまず、他の各地区を同じように首都に対する反乱に向かわせようとする。電波ジャックによってKatnissを革命の象徴とした映像を流し、人々を煽動しようとするのだ。序盤はそんなメディア戦略の映像を撮るために、Katnissが首都の迫害に苦しんでいる各地区をまわり、そこで人々の支持を集めていく様子が描かれる。
一方、首都は捕らえたPeetaを使って革命の気運を抑えようとする。映像を通じて「反乱をやめるべき」というPeetaの言葉にKatnissは思い悩むが、それでも次第に革命の気運は高まり首都は孤立していく。
物語はむしろその後の戦場での悲惨な物語を描く。革命の象徴とたたえられながらも憎むべき独裁者Coinを倒そうとKatniss。GaleなどのHungerGameの生存者達とチームを組んで戦場に赴いていく。その残虐な首都の兵器に傷つき犠牲を払いながらも進んでいく場面が物語の最大の山場である。
シリーズ完結編にふさわしい内容。ハッピーエンドとは言い難いが、だからこそ現実の戦争の無意味さを訴えているように思える。ぜひ映像化されたものも見てみたいと思った。