オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人の多い町に出て、記憶した顔と一致する顔がないかを探し続ける見当たり捜査員である、白戸(しらと)は同僚の安藤(あんどう)、谷(たに)とともに毎日犯罪者の顔を探す事を仕事とする。
テレビ番組などで聞いたことのある見当たり捜査であるが、このように小説となってその捜査を見るとその厳しさに驚くだろう。通常でも1ヶ月に1人か2人の犯罪者を見つけられる程度なのだと言う。つまり1ヶ月のうちの大部分は、ただ町に出てなんの成果も挙げられない日々なのである。
実際、本書では白戸(しらと)の同僚の谷(たに)が何ヶ月も成果を挙げられずに憔悴する様子が描かれている。また、逆に白戸(しらと)の、すでに逮捕した犯罪者の顔が忘れられずに苦しむ様子も興味深い。実際の見当たり捜査員にしかわからないであろう悩みや葛藤が描かれている点が面白い。
さて、ある日の捜査の際に、白戸(しらと)が既に死んだと思っていた男の顔を見かけてから物語は大きく動き出す。白戸(しらと)は大きな陰謀に挑んでいく事となるのである。
警察物語としては、組織内の陰謀などはもはや新しくもないが、やはり見当たり捜査員という、見ることのできない人生を見せてくれるという点で興味深い。本書を書くために多くの調査をしたと思われる著者羽田圭介(はだけいすけ)という著者にも好感が持てたので、別の作品も読んでみたいと思った。
【楽天ブックス】「盗まれた顔」
カテゴリー: ★3つ
「光る牙」吉村龍一
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
北海道日高山脈で熊によって一人のカメラマンが犠牲となった。森林保護官を勤める樋口孝也(ひぐちたかや)は上司の山崎(やまざき)とともに熊を追う。
本書では、樋口孝也(ひぐちたかや)とその上司の山崎(やまざき)が冬眠できずに人の味を覚えたヒグマを退治するために奔走するのだが、その過程で見えてくるのはヒグマの恐ろしさだけでなく、それが利己的な人間によって生じた事であり、自然界の復讐のように描かれている点が印象的である。
さて、そんな凶暴な熊を追うなかで、樋口孝也(ひぐちたかや)は自らの不甲斐なさと向き合い、また、尊敬する上司である山崎(やまざき)に少しでも近づくために成長していく。物語の展開としてはそれほど新しくはないが、それをどう描くか、という部分がこのような物語では重要なのだろう。ただ単に動物によってパニックに陥るだけでなく、何かを読者に訴えかける物語であった欲しいものだ。
動物による人間への復讐をテーマにした物語としては「シャトゥーン ヒグマの森」や「約束の地」などが思い浮かぶ。比較して読んでみるのも面白いかもしれない。
【楽天ブックス】「光る牙」
「衛星を使い、私に」結城充孝
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自動車警邏隊の女性警官クロハの日々を描く短編集。
本書は「プラ・バロック」「エコイック・メモリ」に続く第3弾であるが、時間としてはそれ以前ということで、クロハがまだ未熟な時代を描いている。短編集という事で6つの物語に別れているが、どれも読み応えがあり、また根底には一つの共通した問題があり、全体として一つの物語としても捉える事ができる。
さて、このシリーズでいつも印象的なのは、著者が現代のIT技術をうまく物語に組み込む点である。本書でも撮影された画像の位置情報や、交通事故のシミュレーションが捜査に大きく影響を与えるため、新しい知識も得る事ができる。
個人的には第二編の「二つからなる銃弾」が印象的である。射撃の優れた腕を持つクロハが射撃競技に出場する様子を描く。あまり見る機会のない射撃という競技の様子を感じる事ができるだろう。
引き続き本シリーズの続編を楽しみにしたい。
【楽天ブックス】「衛生を使い、私に」
「手足のないチアリーダー」佐野有美
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
生まれつき手足のなかった著者、そんな著者が高校を卒業するまでを語る。
手足のない子供が生まれてきた時の両親の驚きや、障害を持った人の周囲で生きる人間の戸惑いが見えてくる。
印象的だったのは著者が小学校高学年だったときの話、障害にも関わらずその明るい性格から人気者になり、やがてそれが傲慢に変わってしまうという話。障害者とはいえ、友人の気持ちを考えずに行動すれば、結果として友人から孤立してしまうのである。僕らは障害者がイジメを受ける、と聞くとその障害が原因かと思うが、本書の場合は、むしろその障害が明るくクラスの人気者にして、それが結果として傲慢な態度を生み、その結果孤立したというのだから驚きである。
また、周囲の人々の温かさも本書を通じて感じることができる。障害を持った人に取っては、哀れみを受けるよりも、普通の人間として厳しく、優しく接してもらえる事が何よりも嬉しいのだということを改めて知る事が出来た。
【楽天ブックス】「手足のないチアリーダー」
「Among the Mad」Jacqueline Winspear
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
クリスマスの夜、足の不自由な一人の男性が、人通りの多い通りで爆弾を使って自殺した。同じ頃、脅迫の手紙が政府のもとに届き、Maisieは協力を求められる。
脅迫の手紙ではしきりに、国のために戦争に行って、大きな障害を負って働けなくなってしまった人々の救済を求める。実際、第一次大戦から数年経ったこの時代、多くの人が戦争の被害を抱えていたのである。Maisieはそんな犯人の正体を突き止めるために、多くの人と言葉を交わすなかで、自らの恵まれている状況を知るのである。
そんななか、部下のBobbyの妻Doreenは最愛の娘を失ってから行動に支障を来たし、入院することとなる。父や友人緒Prisilaなど、周囲の人と支え合いながら混沌とした時代を生きていく様子が見て取れる。
本書は、Masieが警察と協力して捜査にあたる初めての作品ではないだろうか。Misieは捜査の協力のために、意味がないと思いながらも指示された場所を捜査したりもするのである。しかし、やがてMasieの見つけた手がかりから、戦争中に毒ガスを扱った一人の男性が容疑者として浮かび上がってくるのである。
本書の舞台はイギリスであるが、世界のどこでも戦争が不幸しか生まないことを教えてくれる。
「ぼくはお金を使わずに生きることにした」マーク・ボイル
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
お金の存在の矛盾と世の中に存在する物の大切さを感じ、著者は1年間、お金を使わずに過ごす事を決意する。
無料でトレーラーハウスを手に入れ、住む場所も確保した著者だが、1年を通じていろいろな困難に出会う。何より大変なのが移動である。自転車のパンクに悩まされたり、ヒッチハイクを繰り返して長い時間をかけて移動する様子から、現代の交通の便利さを思い知ると同時に、それを無意識に受け入れていることに疑問を感じるだろう。
著者は現代社会の問題点をこのように指摘する。お金を使う事によって欲しい物は手に入る。それはとても便利で現代の生活には欠かせないシステムではあるが、物を作っている生活者やそれを育む自然からどんどん僕らを遠ざけているのだと。
本書の多くはお金を使わないことを自らに課した著者が四苦八苦する様子であるが、その合間に綴られている現代の社会の問題点はどれも心に響くものばかりだ。
また、無償で他人に親切するからこそ、自分も困ったときに誰かに親切にしてもらえるということを、自らの行動で示し、人と人との繋がりの重要性も語っている。
本書を読み終わってから、スーパーでレジ袋をもらうのを躊躇(ためら)ったり、お弁当屋さんで割り箸を付けてもらうかを一瞬悩むようになったのだから、著者の行動は人々に少なからず影響を与えているのだろう。生き方や社会のあり方について考えさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「ぼくはお金を使わずに生きることにした」
「クリエイティブ・シンキング入門」マイケル・マルハコ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
物事をクリエイティブに考える方法について語っている。
物事の見方や、考え方を変えれば今までとは異なったアイデアが生まれるという例を多く載せている。僕にとっては、正直あまり印象に残らなかったが、あまりアイデアを出すのが得意ではないと思っている人が読んだら、ひょっとしたら何か刺激になる内容があるかもしれない。
個人的には、本書のなかにいくつか出てきた絵が印象的だった。誰もが知っている有名な、見方によっておばあさんに見えたり、若い女性の後ろ顔に見えたりする絵や、ウサギに見えたり鳥に見えたりする絵。また、「Good」と「Evil」という相反する意味を同時に含んでいる絵など、本の内容よりも個人的には印象的だった。
【楽天ブックス】「クリエイティブ・シンキング入門」
「ちょっと今から仕事やめてくる」北川恵海
オススメ度 ★★★★☆ 3/5
ブラック企業で働き疲弊した隆(たかし)だったが、あるとき小学校時代の友人「ヤマモト」と出会って変わっていく。
昨今の「ブラック企業」という言葉の認知度や、働き過ぎと言われる日本の現状を考えると他人事とは思えない。本書で、隆(たかし)と「ヤマモト」の生き方を見る中で、人生のおいて本当に大切なものは何なのかを改めて考えさせれくれるだろう。終盤で隆(たかし)が、働きすぎに疲れて自殺してしまった人間の母親と放すシーンが印象的である。
この本を読んで欲しい人をたくさん知っている。放り出してもいい。逃げてもいい。もっと簡単にそう言えるようになって欲しいと思った。
【楽天ブックス】「ちょっと今から仕事やめてくる」
「決断の法則 人はどのようにして意思決定するのか?」ゲーリー・クライン
オススメ度 ★★★★☆ 3/5
優れた意思決定に関して調べ、その内容をまとめている。
本書では著者とその仲間達が多くの意思決定の現場に実際に行ってその場を観察するとともに、すぐれた意思決定者からも意見を求め、意思決定の法則をまとめている。
救急や戦場で行われた優れた意思決定は、その意思決定者さえも「直感」として、その決定の理由を説明できないことが多い。本書ではそんな直感によってされた意思決定がどのようにして導き出されたのかを探っていく、そんなエピソードはどれも興味深いと同時に、短時間で行われた本当にすぐれた意思決定のための技術は、経験によってしか得られない、と思わせる。
後半は意思決定を分析する話が多くて若干退屈だったが、困難にぶつかったときに、どのように考えればいいか、という参考にはなるだろう
【楽天ブックス】「決断の法則 人はどのようにして意思決定するのか?」
「樹海」鈴木光司
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
富士の樹海に絡んだ6つの物語。
印象的だったのは最初の物語である。人生に絶望して樹海で命を断った男性は、死んでからも意識を失う事なく、自らが首を吊った木に憑依し、自らの肉体が月日の流れとともに腐敗し、やがて骨となる様子を見ることとなる。死んだ後の世界が実際どのようなものなのかわからないが、一カ所で何もできずに固定され、意識だけ永遠に持ち続ける以上に苦痛な状態などあるだろうか。そんな今までにない恐怖を味わえるのは鈴木光司らしく、僕が彼の作品が出るたびに読む理由でもある。
本書はそれ以外にも5つの短編が含まれており、それおれが微妙に関連している。世代を超えた不幸の連鎖や希望が感じられるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「樹海」
「盲目的な恋と友情」辻村深月
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
東京の大学の管弦楽団に参加する学生達の物語。大学が指揮者として迎えたプロ、茂実(しげみ)とバイオリン奏者として参加していた蘭花(らんか)は恋愛関係になる。
前半は蘭花(らんか)目線で物語が進む。将来を有望視される指揮者の茂実(しげみ)と付き合い始め、茂実(しげみ)の元彼女や、周囲の女性との関係に嫉妬する様子などとともに、同じオケの友人である留利絵(るりえ)や美波(みなみ)との人間関係を描く。美人な蘭花(らんか)の学生生活は少女マンガのようだが、やがて茂実(しげみ)との関係は悪化していく。
後半は蘭花(らんか)の友人である留利絵(るりえ)目線で進む。幼い頃から誰もがうらやむような美人の姉を持ち、自分自身はニキビを気にしてコンプレックスを抱えて生きる。やがて、留利絵(るりえ)は友人である蘭花(らんか)に固執していく。
個人的には前半の蘭花(らんか)の物語よりも、嫉妬やコンプレックスに苦しみながらも自分の存在意義を見いだそうとする留利絵(るりえ)目線の方が印象に残った。若くて未熟な心の動きを描くという意味では辻村深月作品らしいといえるが、いい作品の印象が強いため、少し物足りなさを感じてしまった。
【楽天ブックス】「盲目的な恋と友情」
「世界で一番いのちの短い国」山本敏晴
オススメ度 ★★★☆☆ 4/5
アフリカのシエラレオネで、国境なき医師団の一員として働く著者がその日々の生活の様子を語る。
シエラレオネとはどんな国なのか。日本人にとっては、エジプトと南アフリカ以外のアフリカの国はどこも貧しいというイメージで同じなのかもしれない。しかし、本書によると、そのタイトルにもあるように、平均寿命最短、乳児死亡率最悪、妊産婦死亡率最悪など世界一悪い医療統計記録を多数保持しているという。
そんな貧しい国で、毎日人々を救っていると聞くと、ものすごくかっこいい話のようにも聞こえるが、本書で描かれる著者の日常の様子は本当に命がけである。HIV感染者や多くの伝染病が蔓延しているにも関わらず、手を洗うための水さえ手に入れることが難しいのである。
中途半端な気持ちで、「いつか発展途上国で医者として活躍したい」などと思っている人は、実際に行動を起こす前に本書を読んで観た方がいいかもしれない。
【楽天ブックス】「世界で一番いのちの短い国」
「日本でいちばん大切にしたい会社」坂本光司
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本の起業で、著者が世の中に必要と思う企業を取り上げる。
著者は多くの企業は被害使者意識に凝り固まっていると言う。そんな企業は5つの言い訳「景気や政策が悪い」「業種・業態が悪い」「規模が小さい」「ロケーションが悪い」「大企業・大型店が悪い」を繰り返して、変わろうとしないのだそうだ。それに対して、いい企業があるべき次のように表現する。
顧客が3番目に来ている点に多くの人は驚くかもしれない。しかし、今世の中の多くの会社が「経営者」や「顧客」を一番上に持ってきているために、人々の幸せを損なっているように見える。社員が仕合せになることで、顧客や地域にその幸せを共有しようとするのが本来のあるべき流れなのだろう。
中盤以降はそんな著者の目に止まったすばらしい企業を5つ紹介する。紹介される企業は例外なく、顧客よりもまず社員を大切にする点に注目すべきだろう。読者はこんな会社で働いてみたい、と思うのではないだろうか。素敵な会社を作りたいと感じさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「日本でいちばん大切にしたい会社」
「ワールド・カフェをやろう! 会話がつながり、世界がつながる」香取一昭、大川恒
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ワールド・カフェの効用とその方法について説明する。
ワールド・カフェという言葉を知ったのは本当に最近のことである。会社で毎日繰り返されるミーティングのように、人々が協力して物事の解決策や新しいアイデアを生み出すというのは多くの場所で行われていることではあるが、残念ながらそれはなかなか旨く機能しない。多くの場合、上司や部下がいて、立場を気にしたり、同じ職場やコミュニティの人間が集まっていて最初から考え方に偏りがあったりするからである。ワールド・カフェというシステムはそれにたいする一つの解決策とも言える。
本書はそんなワールド・カフェの手法とそれぞれの参加者が意識すべき考え方が説明されている。ワールドカフェで行うべきなのは「ディスカッション」ではなく「ダイアログ」である、とする点が印象的である。この考え方は、世の中の多くの企業で行われているミーティングなどでも取り入れられるべきだと感じた。「ディスカッション」と「ダイアログ」の違いのいくつかを挙げると次のようなものだ。
ワールド・カフェそのもの運営に興味がなくても、本書は話し合いに対する考え方に新たな視点をもたらせてくれるだろう。
【楽天ブックス】「ワールド・カフェをやろう! 会話がつながり、世界がつながる」
「ブータンの笑顔」関健作
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著者はあるテレビ番組を見てブータンに魅せられた。それから必死で勉強し、青年海外協力隊としてブータンで3年間体育を教えることになった。そんな著者がブータンでの出来事を彼自身が撮った写真を交えて語る。
体育の授業の重要性が認識されていないブータンで、体育の楽しさを教えようとするのだが、多くの困難にぶつかる。例えば、体育着はもちろんないし、生徒によっては運動用の服を買うお金もない。また、低学年はそもそも英語を話せない。そして時間に対する感覚も日本人とは大きく異なるのだ。それでも時間をかけて著者は少しずつ、現地の言葉を学び、体育の楽しさを生徒達に伝えていく。
授業や学校の話だけでなく、著者がブータンで体験した驚きのエピソードもたくさん語っている。しかし、そんなエピソードだけでなく本書の半分ほどを占める写真も素敵である。きっと写真を見ただけでも何か感じ入るものがあるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「ブータンの笑顔」
「Naked Statistics: Stripping the Dread from the Data」Charles Wheelan
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
統計が世の中に役立てられる箇所が溢れているかを語る。
情報をしっかりと正確に把握するためには、その情報の裏に潜む意図を見抜く能力も磨かなければならない。本書では多くの例をあげているが、なかでも印象的だったのがとある2つの携帯電話会社AT&TとVerisonの広告である。AT&Tが「アメリカ人口の97%をカバーしている」とそのネットワークの広さをアピールしたのに対して、VersionはAT&Tの地域カバー率の低さを示して対抗したのである。確かに数字だけ見ると97%というのは高い数字に見えるが、携帯電話という商品を考えると、人が集中している大都市だけで使えても便利とは言えないだろう。数字以外のものを見る目を養う事が大切なのだ。
著者は多くの例を交えながら、統計の基本的なことから語っていく。例えば標準偏差やばらつきなど、言葉だけは知っていた言葉についても、それらの言葉の実際に示す意味が理解できるようにだろう。インターネットを経由して多くの情報にアクセスできる今、標準偏差やばらつきな、平均値や中央値などは、すぐに計算できるようにしておきたい。
本書を読んで感じるのは、物事の真偽を統計的に判断することは本当に難しいということだ。素人がその辺の数値から出してきたグラフにはまず疑いを持ってみるようにしたほうがいいかもしれない。素人どころか専門家が過去何度もそのような大きな統計的誤解を招いている例を本書ではいくつも紹介している。
サンプリング一つとっても、偏りのないサンプリング手法がどれほど大切で、それがどれほど難しいかがわかるだろう。例えば、無作為な電話によるアンケートを行うとしても、何も考えずに行えば回答者は電話に出やすい人間や家にいる時間の長い人間に偏ってしまう。著者が言うには、携帯電話の出現がさらにそれを難しくしたのだそうだ。
また、警官の人数と犯罪数の因果関係を証明しようとしても、犯罪が多いから警官を増やした、という事実もあるため、僕らが思っているほど数値だけで簡単に証明できるわけではないのである。
冗長に感じる部分もいくつかあったが統計に関しては間違いなく理解を深められる。本書を読めば、世の中のデータの裏側や、落とし穴が見えてくるだろう。
「ダライ・ラマ自伝」ダライ・ラマ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
5歳のときにダライ・ラマとして即位しその後中国の侵略によってインドに亡命しながらも祖国チベットの平和のために尽くすダライ・ラマ14世がこれまでの生涯を語る。
インドに亡命してから、多くの国の著名人達と出会って、祖国の平和のために尽くすダライ・ラマの姿からは、僕ら日本人が普段意識しない何か大切なものの存在を感じられるのではないだろうか。本書を読もうと思ったきっかけは、チベットを扱った映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」のなかの、神の化身ように人々から扱われているダライ・ラマと、最近メディアで見かける人のいいおじさんのようなダライ・ラマの間の隔たりに興味を持ったからである。本書を読んでその隔たりがすべて埋まったわけではないが、ダライ・ラマが仏教やチベットの伝統を変えてまでそこくに尽くそうとした結果なのだろう。僕らは、仏教に限らず、宗教における地位の高い人の人柄を想像するとき、考え方の偏った人間を想像してしまうが、少なくともダライ・ラマ14世に関しては、新しい考え方を偏見なく受け入れようという姿勢を持っているように見える。
また本書では繰り返し、中国のチベットに対する行いの非道な行いについて触れられている。近隣の国で起こったことにも関わらず、あまり自分が知らなかった事にも驚かされた。
そして、ダライ・ラマのこんな言葉に未来への希望を感じた。
あまりページを先へ先へとめくりたくなるような文章ではなく、多少読み進めるのに根気がいるが、ダライ・ラマという人間を知るのには大いに役立つだろう。
【楽天ブックス】「ダライ・ラマ自伝」
「セブンイヤーズ・イン・チベット チベットの7年」ハインリヒ・ハラー
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
オーストラリア人の登山家がチベットにたどり着く。そこでの生活からチベットの魅力に取り憑かれていく。
ブラッドピット主演で映画になった「セブンイヤーズ・イン・チベット」の原作である。冒頭で著者自身も「わたしには文才がない」と述べているように、映画のように面白く読者を飽きさせないような展開や描写ではなく、むしろ著者自身の体験をひたすら単調に綴った形になっている。そのため、冒険物語を期待して本書を手に取った人にとってはやや期待はずれかもしれないが、それでも著者の体験を通じてチベットという土地の魅力は伝わってくるだろう。
本書を読んで改めて興味を持ったのが、ダライ・ラマ14世の生き方である。最近ではテレビ出演までしているのダライ・ラマは、著者がチベットを訪れた1940年代には、チベットの人はダライ・ラマを直接見ることさえしなかったのである。チベットの平和や世界の平和を守るためにダライ・ラマが伝統よりも重要なこと、として決断した結果なのだろうか。
また、ダライ・ラマ14世の誕生の話を知ると、世の中には本当に「輪廻」というものはあるのかもしれない、と感じる。チベットや、ダライ・ラマについてもっと知りたいと思わせてくれる一冊である。
【楽天ブックス】「セブンイヤーズ・イン・チベット チベットの7年」
「ランウェイ・ビート 」maha
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
青々山学園高校に転校してきた背の低い生徒ビート。おしゃれが好きでかっこいい服を作ってクラス全体を巻き込んでいく。
高校を舞台とした青春物語、コンピューターオタクだったワンダやモデルをしていたミキなど、次々とビートの力に巻き込まれていくなか、やがて一つのブランドを立ち上げようとする。ちなみに、著者はmahaとなっているが、美術を題材とした小説でも有名な原田マハである。しかし、残念ながらほかの原田マハ作品にあるように、美術に関する深い知識のようなものを感じさせてくれる内容ではない。
一気読みしてすっきりしたい人向けの物語。
【楽天ブックス】「ランウェイ・ビート 」
「あるロマ家族の遍歴 生まれながらのさすらい人」ミショ・ニコリッチ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ロマとして生きるミショ・ニコリッチがその人生を語る。
人生のあり方について考えるうちに、イタリア旅行に行った際のジプリーの姿が蘇った。通常の文明社会からは距離をとりながら、移動を繰り返し生活するジプシーの生き方とはどんなものなのだろうか。何に価値を見いだしてそのような生き方をするのだろうか、と。
本書はそんなジプシーとして生きる一人の男性によって書かれたものである。父親と母親との出会いから、著者自身が大人になって多くの人間と関係を築き、また戦争という大きな動きのなかで生き抜いていく様子が描かれている。ジプシーに限らずこの時代は誰にとっても困難なものだっただろうから、ジプシーとそれ以外の人の生活の違い、というのは見えにくい。むしろ、家に住んだり、車に乗ったりと、予想以上に通常の生活をしていることに驚かされた。
本書で描かれる程通常の生活を彼らがするのであれば、疑問はむしろ、なぜ彼らは差別を受けるのだろうか、ということであるが、本書ではそのようなことには触れられていない。それでも動乱の時代を生きた一人の人間の物語としては楽しめるだろう。
【楽天ブックス】「あるロマ家族の遍歴 生まれながらのさすらい人」