「シューマンの指」奥泉光

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
指を失ったはずの天才ピアニスト永嶺修人(ながみねまさと)がピアノの演奏を再開したという。彼は確かに指を失ったはずなのに。里橋優(さとはしゆう)は封印していた記憶を辿り始め再び音楽に向き合う決心をする。

物語はミステリーの様相を呈しているが、音楽に傾倒する里橋優(さとはしゆう)と永嶺修人(ながみねまさと)の様子を描いているので、そのなかでシューマンの音楽についての議論が多く展開される。正直、音楽を本格的にやってない人間にとってはほとんど意味がわからないだろう。ただ、音楽は追求すれば奥の深いものだと言うことだけが伝わってくる。

シューマンという作曲家は名前しか知らないが指が不自由だと言うことを本書を読んで初めて知った。

ミステリーとしては一般的な範囲のものだろう。そこで展開される音楽論を好意的に受けるとかどうかで読者の受け取り方はかなり変わるだろう。個人的には、音楽論はほとんど理解できなかったが、それでもここまで音楽を論じることができたら楽しいだろうと感じた。

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「カスタマーサクセスとは何か 日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」」弘子ラザヴィ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カスタマーサクセスについて説明する。

序盤は、なぜ今カスタマーサクセスが重要なのかを、リテンションモデルへのシフトを中心に解説している。従来のモデルを「モノ売り切りモデル」として、リテンションモデルへのシフトは不可避だとしており、ゆえにカスタマーサクセスが重要なのだと説明している。

本書はではリテンションモデルの重要性が増している背景を次の4つの点で説明している。

1.世の中の値付け標準が成果ベースへシフト
2.経済取引の選択権が利用者へシフト
3.競合プロダクトの価値が「中毒になるレベル」へシフト
4.競合のゴールがカスタマーのライフタイムバリューの最大化へシフト

カスタマーサクセスの手法や考え方よりも、リテンションモデルモノ売り切りモデルの違いと、そのシフトの背景にある、技術や消費者の考え方の変化の説明が興味深かった。どれも自分の持っている体感と一致しており、この知識を未来を想像するのに役立てたいと感じた。

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「闇祓」辻村深月

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
澪(みお)の通う高校に、白石要(しらいしかなめ)が転校してくる。澪(みお)は要(かなめ)の澪(みお)に対する行動に悩む中で、陸上部の憧れの存在である神原(かんばら)先輩と近づいていく。

高校生の澪(みお)の物語をはじめとする5つの物語である。いずれの物語もその登場人物たちは、人の嫉妬などの負の感情や悪意に悩まされ、それが周囲に伝染し、不幸の連鎖が起こる様子が描かれる。

序盤から負の言動の描写が、著者辻村深月らしく秀逸で、どんな行動も攻撃しようと思えば攻撃できると感じた。

薄い感謝なんかじゃありませんて、どうしてすぐに言わなかったの?
部活休ませてごめんって謝るのも、謝るから許してくださいって考えで言っているとすれば、こちらは許すしかなくなります。謝ることが他者への圧力や暴力になることをわかったうえで言葉を選ぶのは優しさではなく、ずるさです。

5つの物語で描かれる負の感情の多くは、どれも社会で生活している人には身に覚えのあるものである。自分を不幸にするだけではなく、周囲の人間の気分や人生まで狂わせかねない負の感情を、何のために発するか。論理的に考えて誰の利益にもならない言動にもかかわらず、そんな負の感情は社会からは消えないどころか、常に強く渦巻いているのである。本書では比較的わかりやすい完結に向かうが、世の中の負の感情を風刺してているようにも感じた。

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「Moonflower Murders」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Crete島でホテルを経営していたSusan Ryelandの元に夫婦が訪れ、失踪した娘の搜索を依頼する。編集者時代にSusanが担当していた作家Alan Conwayが遺した物語にその真実のヒントが隠されているという。

前作「Magpie Murders」に引き続き、亡くなった悪戯好きの作家Alan Conwayに振り回されるSusanの様子を描いている。8年前に起こったホテルでの殺人事件の後、Alan Conwayはホテルを訪れ、関係者に話を聞いた後「やつらは間違った男を捕まえた」と言っていたという。そして、その後の著作「Atticus Pund Takee the Case」のなかでは、明らかにホテルの従業員をモデルにしたという登場人物が多数登場するのである。そして、今回ホテル経営者の娘Cecilyが「犯人はここに書いてあった」という言葉を遺して失踪したのである。Susanは夫のAndreaとの関係や、Crete島でのホテル営業に疲れたこともあって、巨額の報酬を約束された依頼に飛びつくのである。

今回もSusanの解決するCecilyの失踪事件と、Alan Conway著書のAtticus Pundの事件解決が含まれており2重に物語を楽しめる。さすがに、二作品目となると「Magpie Murder」ほどのインパクトは感じなかったが、このシリーズは毎回この、Susanが亡くなったAlan Conwayの遺した本に振り回されるというスタイルをとっていくのだろうか、と続編の展開が楽しみになった。

「歪んだ波紋」塩田武士

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第40回吉川英治文学新人賞受賞作品。報道にかかわる5つの物語。

短編集となっているが、いずれも報道で長く働く人物の視点で描く。5つの物語はいずれも世界としてはつながっており、また登場人物も視点が異なるだけで共通している。新聞や報道番組などの古いメディアが、インターネットの発展に伴い少しずつ存在意義を失いつつあるなか、生き残りをかけようとする様子が見えてくる。そして、そんな生き残りをかけようとするなかで、報道としての視聴率、発行部数、ページビューなどの数字を稼ごうとする人々と、人間としての良心、報道としての社会的存在意義やモラルとの間で揺れ動く人々を描いている。

本書はそんななか虚報と呼ばれるフェイクニュースが大きなてーまとなっていく。本来フェイクニュースと誤った情報を報道する誤報とは分けて考えられるが、話題性や視聴率を求める報道の人間のモラルや考え方によって、その境界に踏み込んでいく様子が描かれ、その一方で、視聴者の側も、物語の信憑性や真実ではなく、表面的な面白さを求めるゆえに、表面的な報道に振り回されるという問題も見えてくる。

最新のニュースに振り回されることの無意味さを改めて感じた。もちろん自分の人生にどれだけ緊急性を伴って影響するかによるが、新しい出来事について知るなら、誇張や虚偽や不確かな情報が混じる最新のニュースよりも、真偽や背景や善悪を考慮してまとめ、責任の所在も明らかな発生から数週間から数ヶ月後の書籍に触れるのが一番なのではないかと感じた。改めて報道の存在意義、そしてそれに触れる一般の視聴者としての姿勢を考えさせられる一冊である。

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「鴨川ホルモー」万城目学

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
京都大学に入学した安倍(あべ)は新歓コンパで同じ新入生の女性に惹かれて京大青龍会という怪しいサークルに入会する。2年に1度しか新入生を受け入れないという不思議なサークルの秘密が少しずつ明らかになっていく。

鹿男あをによし」から連続して著者万城目学の世界に浸ることとなった。今回も舞台は関西で京都である。日本の歴史に深く関連づけられた物語のように見えながらも、破天荒な世界に引き摺り込む、というのが万城目学の世界の共通点らしい。

サークルの真実の姿を知った安倍(あべ)はやがて好奇心から鴨川ホルモーへと参加することとなる。新歓コンパで一目惚れした早良京子(さわらきょうこ)との恋愛や、同じ京大青龍会の1年生でありながら中の相容れない芦屋(あしや)との諍いなどもありながら決戦へと向かうのである。

面白くないこともないことはないし、どこかほっこりしたりにやけてしまうというのも否定できない。しかし、僕自身は読書という行為に、物語の面白さだけではなく知的好奇心も期待しているのである。そういう意味では、万城目学作品は日本の歴史に基づいているような気配を漂わせながら実はほとんど関係ない、という展開になることが多いようで、微妙にがっかりさせられるという印象である。

少なくとも万城目学作品は連続して読むものではないなと感じた。

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「ヘヴン」川上未映子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
毎日のいじめに悩んでいた14歳の「僕」の元に、女子生徒の中でいじめられていたコジマから手紙が届き、互いの思いを話すようになる。

クラスのなかでいじめの対象となっていた女子のコジマと男子の「僕」が少しずつ近づいて行く様子を描く。

正直物語の大部分は、「僕」のいじめられる様子と、コジマと「僕」の会話や手紙によるやり取りで進むため、明るい部分はほとんどない。

印象に残ったのは、後半の「僕」が勇気を出していじめの集団の一人の百瀬(ももせ)に話しかけるシーンである。自分をいじめることの無意味さを伝えていじめを止めるように訴えるのだが、百瀬もそれに対して自らの考えを伝える。

自分がされたらいやなことからは、自分で身を守ればいいんじゃないか。単純なことじゃないか。ほんとはわかってるんだろうけどさ、『自分がされたらいやなことは、他人にしてはいけません』、っていうのはあれ、インチキだよ。

本来悪者という扱いを受けるであろういじめっ子の一人、百瀬(ももせ)に多くを語らせているのは、いじめに対しての社会の姿勢に疑問を投げかけのように感じた。

実際、「いじめは正しくない」「自分が嫌なことは人にするな」といくら諭し続けてもいじめがなくならないのが現実である。すべて正しいとは思わないし、もちろんいじめられている側が悪いと断ずるつもりもないが、一つの考えとしては理解できると感じた。本書が注目を集めたのも、いじめる側の意見をしっかり描くことが少ないからだろう。

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「The Seven Moons of Maali Almeida」Shehan Karunatilaka

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2022年ブッカー賞受賞作品。生死の間の世界にいたフリーの写真家のMaali Almeidaは限られた時間で、重要な写真のありかを生きている友人たちに託そうとする。

スリランカを舞台としている点が新鮮である。死の直前の一部の記憶を失って、生死の世界を彷徨うMaali Almeidaは、生きている人間に言葉を伝える手段があると知る。その力を使って、同じアパートに住んでいたJakiとDDに、写真家として撮り溜めて、スリランカ政府や軍隊に大きな衝撃を与える可能性のある写真のありかを伝えようとするのである。

そんな生死に間を彷徨うAlmeidaの視点や、世の中の不公平や無慈悲に嘆く人々の心から内戦の続くスリランカの実情が見えてくる。

All religions keeps the poor docile and the rich in the their castles. Even American slaves knelt before a God that looked away from lynchings.
宗教はみんな貧しいものを従順に、金持ちを仲間にする。アメリカの奴隷たちだって、リンチからは目を逸らす神の前にひざまづくんだ。

諦めて自ら死を選んだり、違う国に新しい人生を見つけに旅立つ人もいる一方で、希望を持ち続け不正と闘おうとするひともいるのである。

The universe does have a self-correcting mechanism. But it's not God of Shiva or karma. It's us.
世界には自ら修正する機能が備わっている。でもそれは神でもシヴァでもカルマでもなく私たち人間なのです。
'Laws are written by men.' you say. 'Who don't mind bad things happening to people who aren't them.'
法律ってのは男によって作られたんだ、つまり自分以外の人間に何があろうと気にしない人間によって作られたということさ。

スリランカの地名が多数登場するだけでなく、Almeida自身が、生と死の間を生きているために、宗教上の生き物と思われる名前が多数登場する。

26年間で7万人以上の犠牲者を出したシンハラ人とタミル人の対立という内戦の実情を本書を読んで初めて知り、スリランカという国に興味を持った。また、スリランカと同じ時期に独立した、フィリピンなどこの時期に独立した国々はどこも、イギリスやアメリカなどの大きな国々の利益や思惑に大きく影響を受けており、複雑な利害関係のなかで翻弄されているのだと感じた。

物語自体にそこまで面白さを感じないが、普段目を向けない宗教と国に目を向けてくれる作品である。

  • LTTE
    「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE:Liberation Tigers of Tamil Eelam)
  • Mahakali
    ヒンズー教の女神。
  • Moratuwa
    スリランカの南西海岸の都市。
  • Jaffina
    スリランカの12番目に大きな都市。
  • Richard de Zoysa
    スリランカの著名なジャーナリストで1990年に拉致されて殺害された。スリランカ政府に繋がりのある殺人部隊に殺害されたとRichard de Zoysa信じられている。
  • Borella Kanatte
    スリランカの都市コロンボにある埋葬地。
  • Malvinas
    英語でフォークアイランド諸島のことで、スペイン語ではマルビナス諸島と呼ぶ。

「錨を上げよ」百田尚樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大阪に生まれ育った又三(またぞう)の破天荒な人生を描く。

物語は小学生時代から順を追って、高校生、社会人、大学生、また社会人とその定まらない又三(またぞう)の人生を描いていく。女性に出会えば、必ずと言っていいほど恋に落ち、執拗なまでにアプローチを続ける点や、女性の影響を受けて進路や仕事を選んでいく感情に任せた生き方が面白い。

そして、そんな破天荒の生き方のなかで、たびたび気づく、学歴による社会の仕組み、世の中の矛盾や心理についての視点が面白い。

そうした知識群の多くは、秀才たちが学校の勉強の延長線上に自然に身につけたものではない、積極的に知識の森に分入らないと手に入れられないものだった。

後半はよりグレーに近い領域の仕事に取り組み始める。そのうちの一つは根室でのウニの密猟である。北方領土という国籍の曖昧な地域に対する、ロシア、日本の難しい立場も見えてくる。

最初は著者自身の体験を別の主人公を据えて描いているのかと思ったが、あまりも破天荒するぎるので違うのだろう。「海賊と呼ばれた男」や「永遠の0」など、深いテーマを持った作品が多い印象に対して、本作品は行き当たりばったりに感じ、本書を書いた理由を知りたいと思った。

とはいえ、又三(またぞう)がさまざまな生き方を体験する中で改めてに、世の中に対してこれまでと異なる視点をモテた気がする。確かに学歴や生まれた環境がその人生に影響を与える部分は多いが、それでもどんな生き方をしても生きていけるのが日本という国なのである。

テーマがはっきりしないので人に勧めることはしないと思うが、人それぞれ得るものはあるだろうと思える作品。

【楽天ブックス】「錨を上げよ(上)」「錨を上げよ(下)」
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「鹿男あをによし」万城目学

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
突然奈良の女子校で先生をすることになった小川(おがわ)の不思議な体験を描く。

女子校で期間限定で先生をやるという羨ましいのかつらいの判断し難い設定で物語は始まる。赴任初日から堀田(ほった)という生徒を中心に思春期の女生徒たちに翻弄されるとともに、奈良公園のシカとの不思議な交流によって、小川(おがわ)は人類を救う重要な役目にも関わることになる。

中盤からは、顧問となった剣道部の活動と、大阪と京都にもある姉妹校との対抗戦である大和杯によって、小川(おがわ)がシカから託された使命は少しずつ複雑になっていく。

本書の魅力は、個性豊かな登場人物だろう。特に際立つのは女生徒の堀田(ほった)の存在である。初日に遅刻の言い訳をしたことから小川(おがわ)は常にその動向を意識をしてしまう。

本書はドラマ化されており、多部未華子が堀田(ほった)の役を演じていたが、あらためて原作を読むとハマり役だと感じた。

奈良にはなぜ鹿がたくさん住んでいるのか。また、先生の一人が考古学を趣味としていることから、卑弥呼の墓の話が登場し、卑弥呼とはどこまで存在が確認されているのかなど、日本の神話や歴史にあらためて興味をむけてくれた。また、物語としては何よりもシカが話すという設定が新鮮で、著者の他の作品も何冊が読んでみたいと思った。

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「テスカトリポカ」佐藤究

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第165回直木賞受賞、第34回山本周五郎賞受賞作品。メキシコから逃れたカルテルのリーダーや日本の医療界から追放された医師などが手を組んで新たな犯罪組織を作っていく。

子供の臓器を販売して利益を稼ぐ等犯罪組織を作っていく様子を描く。本書の特徴は、元麻薬カルテルを支配していた一家で、対立する麻薬カルテルへの復讐を誓うバルミロが、アステカの文化の影響の元に育ったことだろう。バルミロの過去が描かれる際、その祖母であるリベルタのアステカのしきたりへの傾倒が細かく描かれる。

少しずつ犯罪組織が構築される中で、多くのはみ出しものたちが登場し、また裏切りによる処刑などが行われる。

どの人物も麻薬や覚醒剤に溺れ、権力や復讐を欲するなどしており、残念ながら、誰一人として共感できる登場人物はいなかった。むしろ、アステカのしきたりや言葉が繰り返し登場し、またアステカが人間を生贄にする文化のように描かれており、どこまでが史実でどこまでが、噂の域を出ないものなのか、とアステカという国や文化に対する好奇心を植え付けられた。

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「What She Found」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Tracyの元に、25年前に失踪した母親を探して欲しいという依頼が舞い込む。

失踪した女性は当時新聞社のレポーターであり、その調査が失踪に関連があるとみて当時の事件を洗ううちに、Last Lineという過去の麻薬取り締まり部隊の汚職の可能性に近づいていく。なぜLast Lineは解体されたのか、なぜLast Lineの構成員は秘密にされているのか。そして、その過程でTracyの前の部署の仲間であるFazとDelのルーキー時代の経験が明らかになっていく。仲間の過去の過ちを明らかにするべきか悩むながらも、少しずつ真相に近づいていく。

また、警察の予算のためにメディア受けを求める所長Weberとの衝突も面白い。今回は20年以上前の出来事を扱っているために告発できないという法律、Statute of limitations(出訴期限法)という法律が何度も登場し、日本とアメリカの法律の違いなども知ることができた。

どうやら、Last Lineという麻薬取締部隊を描いた物語もあるようなので、そちらも機会があったら読んでみたい。

「本と鍵の季節」米沢穂信

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
図書委員となった堀川(ほりかわ)は、同じく図書委員の松倉詩門(まつくらしもん)とさまざまな出来事に関わることとなる。

堀川(ほりかわ)と松倉(まつくら)は図書委員として少しずつ仲良くなっていく。先輩の家にある金庫の番号を解明したり、ヘアサロンに髪を切りに行ったりするなかで、2人の知識と鋭い観察眼が活きる様子が描かれる。

現代の新鮮なミステリーという印象である。軽い気持ちで楽しむのにちょうど良いだろう。

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「エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する」グレッグ・マキューン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
努力をしないで成果を出す方法を語る。

序盤で、むやみに努力することの危険性を語り、その後、楽して成果を出すための考え方を順を追って意説明している。ポイントは、

  • 楽しく進めること
  • 十分な休息をとること
  • まず始めること
  • 失敗を積み重ねること
  • ゆっくり進めること
  • 大事なものにフォーカスすること
  • シンプルにすること

である。どれも言われてみれば当たり前なことばかりだが、例を交えて説明しているから面白い。

多大な犠牲を払って成功した人々と同じくらい、簡単に成功した人々もいる。ただ、苦労の少ない成功は、物語になりづらいだけなのだ。

努力をするのは悪いことではないが、努力したとしても報われるとは限らない。努力を盲信している人にとっては良いきっかけになるのではないだろうか。

僕自身は楽しいことじゃないと身につかない、という考えで、著者の考え方に近いが、それでも改めてその考えに触れると、自分の考えの純度が上がる気がする。

昨今リモートワーク化が進んでいるが、一方でコロナ禍が収束してオフィスワークに戻して行っている企業もある。しかし、本書を読んで改めて、電車のなかで毎日2,3時間を過ごすオフィスワークスタイルは無駄な努力で決して戻るべきではないと感じた。

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「心淋し川」西條奈加

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第164回直木賞受賞作品。江戸の千駄木町の一角の心町(うらまち)と呼ばれた場所で生きる人々の5つの物語を描いている。

それぞれの人々が時代の流れの中で、好きな人と好きなことの2つの間で揺れ動く様子が見える。

過去は簡単に歴史の一部になってしまう。しかし、そんな歴史の一部の江戸という時代にも、歴史に残らない多くの人々が存在していて、現代の人々と同じように、人間関係や自らの存在意義や恋愛に悩みながら暮らしていたのだと気付かされる。

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「少年と犬」馳星周

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第163回直木賞受賞作品。震災の爪痕が残る東北から九州まで、様々な人が多聞(たもん)という犬と出会う物語。

日本の各地で生活する人たちが、シェパートに似た犬、多聞(たもん)と出会い、生活を共にする。東北を中心に描かれる序盤は、震災後の混乱の様子が伝わってくる。また、多聞(たもん)に出会う人々も、必ずしも日本人をだけでなく、海外から日本に出稼ぎに来ている外国人の目線でも描いている点が印象的である。

そして、それぞれが、多聞(たもん)と行動をともにするうちに、多聞(たもん)が南の方向へ行きたがっていることを悟り、別れの際に南へと送り出していくのである。物語の舞台も少しずつ物語は南へ移動し、やがて、多聞(たもん)の目指していたものが明らかになる。

特に物語展開に驚きはないが、素直な優しい人間と動物の物語である。

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「思わずクリックしたくなる バナーデザインのきほん」カトウヒカル

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
バナーデザインの考え方を様々なアイデアとともに例を交えて解説している。

バナーデザインを始めたばかりの人向けの内容ではあるが、デザイナー歴20年以上になる僕も、いくつか気づきを得ることができた。ぜひ今後デザインで迷った際に思い出したいと思ったことは

  • 意図にあった装飾やあしらいを使う
  • 縦書き
  • 車体
  • 作字

である。なかでも漢字を作字するアイデアは、日本のデザインで使える独自性を出すための有効な方法だと思った。

作者は基本的にPhotoshopでバナーを作っているようで、llustratorでバナーを使うことが多い自分とは、出来上がるバナーの傾向に違いがあることを改めて感じた。異なるツールも試してみたいと思った。

例として上がっているバナーに、デザイン的なツッコミが多々思いついたが、意図した説明をするために、良い例と悪い例を試行錯誤しながら作ってくれたことだろう。このように知識を分けてくれるデザイナーの方々には感謝しかない。

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「言葉にできるは武器になる。」梅田悟司

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
電通のコピーライターである著者が、伝わる言葉の生み出し方を語る。

序盤は、内なる言葉の重要性を語っている。考えることを内なる言葉を発することとしていて、考えてなければ、伝わる言葉は生み出せないというのである。そして「伝わる」にも4つの段階があるとしている。

  • 不理解・誤解
  • 理解
  • 納得
  • 共感・共鳴

中盤からは、考えを深める手法を紹介している。書き出して考えを整理する方法やグルーピングなど一般的に広く知られている手法もあったが、中でも印象的だったのは、「T字型思考法」「真逆を考える」である。

T字型思考法とは「なぜ?」「それで?」「本当に?」を繰り返す手法で、覚えやすく、考えの解像度を上げるために有効だと感じた。

また、真逆を考えるでも真逆にも複数あるという考え方がが新鮮である。

  • 否定としての真逆
  • 意味としての真逆
  • 人称としての真逆

そのほかにも、言葉にプロセスとして5つの方法を紹介している。

  • たとえる(比喩・擬人)
  • 繰り返す(反復)
  • ギャップをつくる(対句)
  • 言いきる(断定)
  • 感じる言葉を使う(呼びかけ)(誇張・擬態)

最後は、より良い言葉を生み出すために著者が心掛けていることを説明している。

  • たった一人に伝わればいい
  • 常套句を排除する
  • 一文字でも減らす
  • きとんと書いて口にする
  • 動詞にこだわる
  • 新しい文脈をつくる
  • 似て非なる言葉を区別する

改めて自分が使っている言葉についてしっかりと考えてみたいと思った。

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「うまくいく人が仕事以外でやっていること99」ステファノ・クセナキス

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著者が人生を楽しむための考え方を語る。

著者がギリシャ人であることから、ギリシャの生活が見えてくる。そんななか結局、著者が言っていることは基本的には

  • 早起きすること
  • テレビを消すこと
  • 学び続けること
  • 持っているものに感謝すること
  • 分かち合うこと
  • コントロールできるものに集中すること
  • 本を読むこと

である。どれもよく聞く話であるが、異国の情景とともにそれを伝えてくれるので新鮮である。よく聞く話だから意味がないというのではなく、よく聞く話だからやはりこの考え方が大事で、何度も繰り返し言い聞かせる必要があるのだろう。

ミスをなくそうとするのではなく、ミスを恐れないようにする。すると、ミスをすることが少なくなった。

改めて大事なことに気づかせてくれる。

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「木曜日にはココアを」青山美智子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本とオーストラリアの人々の日常を描く。

前半は東京の人々の日常や悩みを描き、後半はシドニーの人々を描いている。日常を舞台にした優しい物語である。

青山美智子さんの作品を読み続けていると、シドニーやワーキングホリデーを扱ったネタが多く、若干マンネリ気味である。もう少し間を開けて読むのがいいだろう。

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