「空の中」有川浩

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
地上20,000メートルで航空機と自衛隊機が何かにぶつかって爆発した。調査するためにその空域に向かった光稀(みき)と高巳(たかみ)はそこで人類が発生する以前より人知れず漂っていた知的生命体と出会う。
序盤は言葉も人類の文化も知らない知的生命体との出会いに終始する。光稀(みき)と高巳(たかみ)の掛け合いがいい味を出している。女性でありながら優れた動体視力を備えた航空自衛隊パイロットの光稀(みき)からは千里眼シリーズの岬美由紀(みさきみゆき)を連想せずにはいられない。
そんな地上2万メートルに現れた生命体との遭遇と平行して、小さな知的生命体と出会った四国に住む斉木瞬(さいきしゅん)とその友人の佳枝(かえ)のエピソードも進む。中学生という多感な時期の様子が描かれていて、周囲の大人たちが思っている以上に、人との間に複雑な駆け引きをしている思春期の様子が巧くが描かれている。
しかし、残念ながら本作品中もっとも多くのページを費やされている、「白鯨(はくげい)」と呼ばれたその知的生命体と人類の間に発生する誤解や共存のための話し合いなどは、個人的には面白くもなんともない。、現実に存在する生き物からヒントを得たわけでもなくほぼ100%著者の想像の生き物であるから、その言動には大して興味をかきたてる要素もなく、その間、何度本を閉じたくなったかわからない。
結局、本作品の中でもっとも印象的だったのは、瞬(しゅん)の近所にすむ宮じいのしごく当たり前ともいえる言葉。

間違うたことは間違ごうたと認めるしかないがよね。辛うても、ああ、自分は間違うたにゃあと思わんとしょうがないがよ。皆、そうして生きちょらぁね。

いろいろな要素が詰まっているといえば聞こえはいいが、僕にいわせれば作者の訴えたいことがひどくあいまいで、バランスさえも考慮せずに思いつくままに書いた作品といった印象を受けてしまった。


ハーマン・メルヴィル
アメリカの作家(Wikipedia「ハーマン・メルヴィル」
参考サイト
イオンクラフト(リフター)

【楽天ブックス】「空の中」

「聖域」篠田節子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
出版社に勤める実藤(さねとう)は、退社予定の社員の机を整理していて未発表の原稿を見つける。実藤(さねとう)はその内容に魅力を感じて、完成させるためにその作家を探し始める。
冒頭は書きかけの原稿の中に描かれた物語が詳細に描かれる。東北を舞台としたその物語は、一つの神に仕える若者が東北を旅する物語であり、地方によって神の形も崇拝の方法も異なっていた時代の日本の不思議な空気を感じさせてくれる。
そして物語は現代に戻り、その原稿の作家を探す実藤(さねとう)の様子を描く。終盤は探していた作家との出会い。そして普通の生き方を捨てたその作者が見せる生と死のハザマの世界。死者を現世に導く媒体となる人間、沖縄で言えばユタ、東北で言えばイタコと呼ばれる人間に焦点が移っていく。
全体的にはややアンバランスな印象を受けた。登場する作家が書いた物語なのか、それとも死者と現世のかかわりなのか、著者がこの作品で訴えたい箇所がぼやけている気がした。
本作品のように、登場人物として小説家が登場するような物語は、著者が自分の一つの理想像を描いているような印象を受けることが多い。この作品で言うなら、著者の篠田節子はこの作品の中に登場するその小説家に、「こんな小説も書いて見たい」という自身の願望を映したのではないだろうか。前半部分は少し実験的な小説という印象さえ受けた。
その点も含めて、残念ながら共感したり強く感動をするような内容ではなかった。篠田節子の作品は読むたびにテンポも雰囲気もがらりと変わる。だからこそこの著者の作品を表紙の印象や背面のあらすじだけを頼りに手に取るのは賭けに近く、アタリかハズレのどちらかになってしまう。自分の知識のなさを棚に上げているだけなのかもしれないが、あまりオススメできるような作品ではなかった。


口寄せ
死霊を呼び出して喋らせる事
参考サイト
Wikipedia「蝦夷」

【楽天ブックス】「聖域」

「デカルトの密室」瀬名秀明

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
人型ロボットを開発した尾形祐輔(おがたゆうすけ)は、そのロボット「ケンイチ」と共に日々の生活を送っていた。しかしある人工知能のコンテストの会場で起こった出来事によってその平穏な生活も打ち破られることとなる。
僕らは普段意識していないが、科学者たちが人型ロボット、俗に言うヒューマノイドを人間に似せてつくるにあたった、「人間とは何か」というものを考えるのだろう。内臓などの目に見えない部分は除外したとしても、「四肢と二つの目と鼻と口があって二足歩行していれば人間」などという単純なものでは決してない。どんなに精巧なヒューマノイドを作ったとしても、僕らは瞬時にそれが人間でないと判断できることだろう。なぜなら、人間はまっすぐ立っていても決して静止はしていないし、寝ているときでさえ、寝息だけ立てているわけではないのだから。
人間の中で日常的に行われている動作を、ヒューマノイドで再現させようとして始めて、人間が無意識下でしている多くの行動や動作に思い至るのである。
どこからがロボットでどこからが人間なのか…。そんなテーマで本作品の導入部分も展開されていたように思うのだが、中盤あたりから増え始めた哲学的な言葉の数々にかなり困惑した。そして頻出する「ぼく」という一人称視点が、開発者の尾形祐輔(おがたゆうすけ)を指すのか、ロボットのケンイチを指すのか、そしてそのシーンも現在を指すのか、それとも誰かの回想シーンを描いているのか…、残念ながら最終的に著者の言いたいことの三分の一も理解できていないように思う。
瀬名秀明の久しぶりの作品ということで期待値が高かっただけ残念である。一体どれほどの人がこの作品の内容を理解できたのだろうか。


アラン・チューリング
イギリスの数学者(Wikipedia「アラン・チューリング」)
フレーム問題
人工知能における重要な難問の一つで、有限の情報処理能力しかないロボットには、現実に起こりうる問題全てに対処することができないことを示すもの。(Wikipedia「フレーム問題」
不気味の谷
ロボットや他の非人間的対象に対する、人間の感情的反応に関するロボット工学上の概念。(Wikipedia「不気味の谷」

【楽天ブックス】「デカルトの密室」

「ウルトラ・ダラー」手嶋龍一

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ダブリンで新種の偽百ドル札が発見された。英国情報部員のスティーブンは、真実の究明のために世界を走り回る。
偽百ドル札の出現によって徐々に明らかになる国家間の情報戦を描いている。各国の情報部員たちの、暗号を交えたやりとりや駆け引き。それはそれで現実に近い様子を描いているのかもしれないが、僕の生活圏とあまりにかけ離れた世界と、過剰とも思えるな視点の切り替えが、話に入るのを難しくさせている。
そんな仲、物語の中で重要な役割を演じる日本人女性、内閣官房副長官の高遠希恵(たかとおきえ)、や篠笛の師範である槙原麻子(まきはらあさこ)の多才かつ知性溢れる振る舞いは数少ない魅力の一つである。
また物語中に多くの芸術品や伝統的文化が描かれていて、知識欲を刺激する点も個人的には評価したいところである。
偽百ドル札によって世界情勢が大きく変化するという設定は非常に面白いし、国家間の駆け引きの大部分が国民の目の届かない範囲で行われているのだろうと考えさせてくれたが、残念ながらその魅力的な材料を読者に巧く伝える技量がこの物語にはなかったという印象を受けた。
正直何度本を閉じようと思ったかわからないが、最後まで読み終えたのは、「一度読み始めた本は最後まで読破する」という僕自身の性格によるものだろう。

篠笛
日本の木管楽器の一つ。篠竹(雌竹)に歌口と指孔(手孔)を開け、漆ないしは合成樹脂を管の内面に塗った簡素な構造の横笛(Wikipedia「篠笛」

イムジン河
朝鮮半島38度線付近を流れる臨津江のこと。フォーク・クルセダーズの代表曲。
韃靼海峡(だったんかいきょう)
間宮海峡のこと。
コリドラス
南米に広く分布するナマズ目カリクティス科コリドラス亜科コリドラス属に分類される熱帯魚の総称。(Wikipedia「コリドラス」
参考サイト
篠笛ManiaX – 和風横笛愛好(日本伝統的竹管)
Wikipedia「フォークランド紛争」
Wikipedia「Moto-Lita」

【楽天ブックス】「ウルトラ・ダラー」

「照柿」高村薫

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
昔極道に手を染めながらも今は真面目に働く野田達夫(のだたつお)、難航するホステス殺人事件に関わる刑事・合田雄一郎(ごうだゆういちろう)。幼馴染である2人は1人の女性を接点として18年ぶりに再会する。
心情描写や情景描写の細かい高村薫。その描写の細かさは本作品でも健在である。人は常に何かを考えている。一度にいくつものことを考え、その多くは頭の中で言葉を形成する前に処理され、また別の考えに変わる。そういうどうでもいい頭の中の断片までを高村薫という著者は詳細に描くことで、人間という生物の複雑さを訴えているような気がする。
本作品も、野田達夫(のだたつお)という工場で働く男と、刑事である合田雄一郎(ごうだゆういちろう)という2人の人物に焦点を当てて、その頭の中を詳細に描いている。仕事に追われ、人間関係に悩み、遠い昔の出来事の記憶に大きく影響を受けながら、少しずつ自分でも理解しがたい行動に走り始めていく。
この2人は決して特別なのではない。人間は誰しも、どこかに狂気を備えており、時に説明のつかない行動を起こす、そんな可能性を秘めているのだと思う。それはきっと何かの出来事をきっかけに一気に外側に溢れ出すものなのかもしれない。
高村薫らしい作品ではあるが、物語のスピード感はいつまで経ってもあがらない。途中その遅々とした展開にやや飽きもしたが、最後はそれなりの考えるテーマを僕の心に残してくれたように思う。


ヘンリー・ムーア
20世紀のイギリスを代表する芸術家・彫刻家。(Wikipedia「ヘンリー・ムーア」
赤線
日本で1958年以前に公認で売春が行われていた地域の俗称。(Wikipedia「赤線」
ラシーヌ
17世紀フランスの劇作家で、フランス古典主義を代表する悲劇作家。「ブリタニキュス」「アレクサンドル大王」など。(Wikipedia「ジャン・ラシーヌ」

【楽天ブックス】「照柿(上)」「照柿(下)」

「パプリカ」筒井康隆

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
精神医学研究所に勤める千葉敦子(ちばあつこ)はサイコセラピストであるとともに、人の夢に入って悩みなどを解決する夢探偵パプリカという顔を持つ。そんな人の夢に入ることができる世の中で、最新型精神治療技術「DCミニ」が発明されたことで、それを悪用しようとする人の行動をきっかけとして、次第に夢と現実の区別がなくなっていく。
最初この物語の世界観を理解するのにしばらく時間を要するだろう。ただ、夢という未だ謎の多い部分をうまく題材にしている。この物語の中で描かれているように、夢に出てくる人や物はなにかしら現実世界とリンクしていると僕自身も思う。例えば小さなころの思い出だったり、直前に読んだ本の内容だったり、願望だったり、本人の無意識の中にあるものが目に見える形で現れたものが夢なのだろう。おそらく多くの人間がそう思っているからこそ、この物語はただの架空の話としては片付けられないリアルさを持ち合わせているのではないだろうか。
そして、この物語でかぎとなる「DCミニ」と呼ばれる機器。これによって「DCミニ」利用者は双方の夢に入り込むことができる。2人の人間が1つの夢を共有したら、その夢は次第に意志の強いほうの望む世界に変わっていく。現実には夢を共有するなどということはありえない(あってもそれとわからない)ことでありながらも、きっとそうなるだろう、と読者を納得させてしまうその設定が面白い。合わせて、場所を移動していないのに気がつくと別の場所にいたり、いつのまにかに隣にいる人が別の人物になっていたり、という夢の特性を面白く描いている。

無茶ではなく夢茶、無理ではなく夢理。これは夢なのだ。

とはいえ、やはり冒頭で述べたように、この非現実な世界に入り込むまでに非常に時間がかかった。架空の物語でもある程度専門用語を書き連ねることによって読者にリアルさを伝える手法は僕自身嫌いではない。瀬名英明の「パラサイトイブ」の詳細な描写はその最たるものだと思っているが、そのような手法は物語の非現実具合と密接に関わってくるものだけに加減が難しいのかもしれない。個人的にはこの物語程の非現実の世界であれば、もっと単純でわかりやすい導入部分にしたほうが読者にとっては読みやすい作品になったのではないだろうか。
本作品は映画になったことを知って手に取ったわけだが、内容はまさに映像向きであった。夢と現実が混沌としたクライマックスは、アキラの大友克洋や宮崎駿が好みそうなである。機会があれば2006年に公開された「パプリカ」を観てみたいものだ。


アニマ
男性の人格の無意識の女性的な側を意味する。(Wikipedia「アニマ」
役不足
「素晴らしい役者に対して、役柄が不足している」という意味だが逆の意味で使われることが多い。
海千山千(うみせんやません)
世の中で様々な経験を積み、物事の裏表を知り尽くしてずる賢いこと。また、そのような人。したたか者。(語源由来時点「海千山千」
ラポール
二人またはそれ以上の人たちの間で理解と相互信頼の関係を成立させ、維持する過程。相手の反応を引き出す能力。(はてなダイアリー「ラポール」
容喙(ようかい)
横から口を出すこと。くちばしを入れること。(goo辞書「容喙」
アクババ
トルコの伝説に登場するハゲタカ。死骸を食べて千年生きるとされる。
エディプス・コンプレックス
母親を確保しようと強い感情を抱き、父親に対して強い対抗心を抱く心理状態の事。(Wikipedia「エディプスコンプレックス」
参考サイト
パプリカ オフィシャルサイト

【楽天ブックス】「パプリカ」

「閉鎖病棟」帚木蓬生

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第8回山本周五郎賞受賞作品。
とある精神病院には、重い過去を背負った患者たちが日々の生活を送っている。そんな精神病院の患者たちを描いた物語。
冒頭部分は患者たちの病院に入る前のエピソードが細切れに描かれていて、物語の繋がりを把握するまでに時間がかかるだろう、加えて、精神病院という普通の人にはおそらく馴染みのないであろう舞台設定にややページが重く感じる。それでも馴染みの薄い舞台設定だからこそ感じるものは多く存在していたように思う。
過去に犯した過ちを悔い、外の世界に出ると浴びせられる好奇の視線。いつか退院して外の世界で暮らしたいと思いながらも、もはや普通の生活には戻れないという諦め。そういった一人一人の患者たちの生活や悩みが現実味を帯びて描かれている。普通の人から見れば、奇異な行動と映る彼らの行動にも、彼らにとってはしっかりと意味を持った行動なのだと、感じることができるのではないだろうか。

家に帰りたいけど帰れない。その冷たい壁の存在をすべての患者がどれほど思い知らされてきたことだろう。本当はみんな退院を心から待ち望んでいるのにできない。ここは開放病棟であっても、その実、社会からは拒絶された閉鎖病棟なのだ。

僕らのような「正常」(と世間ではされている)人間こそが彼らのような人の気持ちの理解にもっと努めなければならないのではないか。そんな訴えがこの物語からはひしひしと感じられる。一気に読ませるというようなパワーは残念ながらないし、正直、自分の生活とあまりにもかけ離れた世界の描写に、ページをめくるスピードは最後までゆるやかなままだったが、ラストには相応の感動が用意されていた。
【楽天ブックス】「閉鎖病棟」

「ぶらんこ乗り」いしいしんじ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
いまはいない弟のノートを見つけた女の子がそのノートをめくりながら弟の思い出を語る。
間違っても僕の好みの物語ではないが、先日見た劇、キャラメルボックスの「トリツカレ男」の原作者としていしいしんじ作品に触れてみようと思った。幼くして特異な才能を持っていた、弟。彼がノートに書き留めたストーリーは、どこかにありそうな暖かいつくり話のようで、それでいてなにかもっと深いものを訴えかけているような気がする。
やはり好みの作品ではないが、時にはこんな物語に触れるのもいいのだろう。

「わたしたちはずっと手をにぎっていることはできませんのね」
「ぶらんこのりだからな」
「おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、すてきなこととおもうんだよ」

【楽天ブックス】「ぶらんこ乗り」

「野ブタ。をプロデュース」白岩玄

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第41回文藝賞受賞作品。実はドラマ「野ブタ。をプロデュース」は僕の大好きな作品。機会があったので原作にも触れてみることにした。
桐谷修二(きりたにしゅうじ)というクラスの人気者を演じる主人公が、いじめられっこの編入生、小谷信太(こたにしんた)、通称「野ブタ。」をクラスの人気者にするという物語。
クラスの人気者であり続けるために、クラスの仲間と冗談を言い合い、好きでもない学校のヒロインとお弁当を食べる。そんな修二(しゅうじ)は常に、「着ぐるみをかぶって生きている」と認識している。それは、自分を騙して、人間関係を上手く進めるために違う自分を演じ続ける。そんな世の中に多く存在する「素顔を晒せない人」を風刺しているようだ。

誰が何を考えていようと、社会の中でそれぞれ決められた役割を演じれば、何事もなく一日は過ぎていく。俺たちは生徒として席に着き、おっさんは教師として教壇に立つ。誰がどう見ても授業をしていることが分かれば、世の中は安心し、一日が成り立つ。大事なのは見テクレというヤツだ。
人気者にも必ずつぎはぎがあるものだ。所詮は一人の人間、全てが素晴らしいわけではない。そのつぎはぎをいかにうまく隠すか。凡人と人気者の差はそこにある。

映像化される作品の多くは「原作の方が面白い」と言われる。それはやはり登場人物の心情描写がしっかりされることと、映像化されることによって表面化する不自然さが少ないせいだろう。しかし、この作品に限ってはドラマの方がはるかにいい作品に仕上がっている。ただ、それでも思った。現実はきっとこの原作に近いのだろう、と。現実の「人生」はきっとこの物語のように、あるときを境になんの救いも希望も無く、転がり落ちていくのだ。それを恐れるからこそ、一度着ぐるみを着ることを選んだ人間は一生素顔を晒すことが出来ないのかもしれない。そう感じた。
【楽天ブックス】「野ブタ。をプロデュース」

「グラスホッパー」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
妻を殺された恨みを晴らすために非合法組織の社員として潜入した鈴木(すずき)。人を自殺させるのが仕事の鯨(くじら)。殺し屋の蝉(せみ)。法律の手が届かない場所で繰り広げられる世界。
物語中で、引用される、ガブリエル・カッソの映画やロックスター、ジャック・クリスピンは伊坂幸太郎の架空の人物らしい。物語を楽しむと同時に現実世界の知識を得たい人にとっては敬遠されることなのだろう。それでもこの引用された架空の映画監督ガブリエル・カッソの映画の描写が僕にとってはこの物語でもっとも印象的なシーンとなった。
大きなテーマを裏に秘めているようで、その輪郭は最後まで曖昧なままである。どこまでが現実でどこまでが非現実なのか。著者の訴えたいことをはっきりと汲み取りたい僕にとっては、この曖昧さは受け入れ難く、好みの作品とは言えないが、普段とは少し異なる物語に触れたいと感じている人は一度手にとってみる作品なのかもしれない。


スタンリー・キューブリック
映画監督。「2001年宇宙の旅」「アイズ・ワイド・シャット」など。

【Amazon.co.jp】「グラスホッパー」

「償いの椅子」沢木冬吾

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
海岸近くの公園で、とあるグループのリーダー秋葉辰雄(あきばたつお)と能見亮司(のうみりょうじ)は銃撃を受けた。秋葉(あきば)は死に、能見亮司(のうみりょうじ)は下半身不随となった。それから5年後、再び能見亮司が現れた。公安、警察が能見の行動の監視を始める
車椅子の障害者を主人公とするところに新鮮味を感じた。物語の本筋ではないが、障害者でも運転できるように改造した車や、排泄についての記述は多少の驚きを与えてくれた。そして、能見(のうみ)を監視する、公安や刑事の動きの中からもまた、警察という組織の複雑さや、そこに従事する者の心の葛藤を垣間見せてくれる。
物語は、能見(のうみ)を中心に進行し、視点や心情描写は能見(のうみ)を監視する公安や刑事、そしてその関係者の間を何度も移動しながらも、主人公である能見(のうみ)自身の心情表現は乏しく、それが物語全体を不思議な空気に包んでいくのであろう。
そして、物語は中盤に差し掛かったあたりで大きく動き出し、最終的に能見(のうみ)は大きな事件を起こすことでその心の中を僕に明らかにしてくれた。僕にとって能見の生き方は到底受け入れられるものではないが、世の中にはいろんな人がいて、その中には家族に恵まれなかった人も多々いるであろう。社会や法律が許す生き方では、信念を曲げないわけには行かない人もいるのだろう。そう考えるとこんな生き方もありなのかなと、少し思った。芯の通った生き方はたとえそれがどんなに社会や法律から外れた生き方であっても理解しようと努めたいものだ。
全体を通じては、やや物語りに入り込みにくい印象を受けた。登場人物の相関関係を理解するまでに多少時間を要することは、物語を読む上ではよくあることだが、この物語ではそのための時間が特に多く必要だった。前半部分は特に大きな展開もなく淡々と話が進んだのも物語に入り込みにくかった一つの理由と言えるだろう。ただ、それでも最後は泣ける。
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「プラスティック」井上夢人

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第二グリーンハイツで殺人事件が起きた。物語はその事件に関連する出来事を、5人の男女がそれぞれの視点からワープロで綴る。
井上夢人が新たなミステリーの手法に挑戦した物語といった印象を受ける。ミステリーを読み慣れている読者は恐らく半分も読まずに、物語を包み込んでいる謎の正体に気付くことだろう。そして、ありふれたその題材に対して、作者がどうやってこの物語を終わらせるか、というところに興味を抱くのかもしれない。
ある程度実績を積んだ作家にしばしば見られる実験的手法の物語。同様に実験的手法を用いた物語で思い浮かぶものといえば、恩田陸の「三月は深き紅の淵を」、桐野夏生の「グロテスク」、宮部みゆきの「長い長い殺人」などがあるが、未だその特異な手法で物語を何倍も面白くした作品に出会ったことはない。
【Amazon.co.jp】「プラスティック」

「グロテスク」桐野夏生

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第31回泉鏡花文学賞受賞作品。スイス人と日本人の間に生まれたハーフである主人公の「わたし」。妹のユリコと高校時代の同級生の和恵(かずえ)が殺されたことで、「わたし」の手記として物語は進む。
「わたし」は悪魔的な美貌を持つユリコという妹を持ってしまったがために常に比較されて育ち、その過程で世の中に対して普通とは異なる見方をするようになった。

努力を信じる種族は、なぜにこうも、楽しいことを先へ先へと延ばすのでしょう。手遅れかもしれないのに。そして、どうして他人の言葉をいとも簡単に信じてしまうのでしょう。
自分を知らない女は、他人の価値観を鏡にして生きるしかないのです。でも、世間に自分を合わせることなんて、到底できるものではありません。いずれ壊れるに決まってるじゃないですか。

「わたし」の考え方は僕自身の考え方とかぶる部分もあり、とりたてて新しいものではないが、ここまではっきり文章として表現してもらうと爽快である。
娼婦に走った和恵やユリコの考え方もまた新鮮であるが、僕にとっては殺人犯とされた中国人張万力(チャンワンリー)の手記が印象的である。文化の違いがここまで人生をどれほど不公平にさせるかそれを強く感じることだろう。

中国人は生まれた場所によって運命が決まる。よく言われる言葉ですが、私はその通りだと思います。

張(チャン)の手記の中には四川省の山奥で育ち、富を求めて都市に出て、そして日本へ向かう過程が描かれている。日本という豊かな国に生きていれば決して知ることのできない現実である。著者の意図とは違うと思うが、この部分が僕にとって最も大きな収穫となった。
物語全体は「わたし」目線で進むため、すべての努力を否定するような内容ではあるが、そんな考え自体は嫌いではない。ただ「手記」であることを強調したいのか、余計な記述が多く物語の展開のじれったさを感じてしまう作品ではあった。
【Amazon.co.jp】「グロテスク(上)」「グロテスク(下)」

「レイクサイド」東野圭吾

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
四組の親子が参加する中学校受験の勉強合宿で起きた殺人事件。主人公の並木俊介(なみきしゅんすけ)は、他のメンバーの提案によって事件を隠蔽することに同意するが事件の周囲からは少しずつ不自然な陰が見えてくる。
物語が進むにつれて少しずつ真実が明らかになっていくありがちなミステリーと思いきや少し趣が異なる。俊介(しゅんすけ)が実行犯側にいる点が物語を新鮮にさせているのだろう。それでも最終的に物語を完結させるまでにもう一つ展開が欲しかった気がする。少し物足りない作品であった。
【Amazon.co.jp】「レイクサイド」

「北の狩人」大沢在昌

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
秋田県警の警察官である梶雪人(かじゆきと)は12年前に父親を殺された事件の真相を突き止めるために新宿にやってきた。歌舞伎町で十年以上前につぶれた暴力団のことを聞きまわることで、過去の秘密が次第に明らかになっていく。
歌舞伎町を舞台にした暴力団同士の抗争、台湾マフィアとの駆け引きなどで展開するストーリーはあまりにも普段の私生活とかけ離れているために現実感に乏しい。それでも雪人(ゆきと)に関わる人の少し変わったものの見つめ方が新鮮である。
新宿でキャッチのバイトをしている高校生の杏(あん)はある時思うのだ。

お洒落と男の子と夜遊び。そのみっつしかない毎日が、ひどく下らないことのように思えてきた。

雪人(ゆき)と目的を共にする新宿署の刑事である佐江(さえ)は新宿をこんなふうに語る。

新宿てのは、深い海みたいなもんだ。いつもでかい魚がじぶんより小せえ魚を狙っている。どいつもこいつもゆだんすりゃ食われるのよ。

物語の長さのわりに展開が小さく感じた。主人公の雪人(ゆきと)が東北出身であるという人物設定が感情移入をしずらくさせている感じを受けた。物語中の大きな役割を担う暴力団幹部達にも、その生きてきた背景をしっかり描けばラストのシーンはもっと大きな感動を受けるのではないかと感じた。全体的にはやや物足りなさを覚えた作品である。
【Amazon.co.jp】「北の狩人(上)」「北の狩人(下)」

「西の魔女が死んだ」梨木香歩

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
「西の魔女」であるおばあちゃんが死んだ。主人公であるまいは2年前のおばあちゃんと過ごした中学生に入ったばかりの事を思い出し、物語の大部分はその回想シーンで展開していく。
まいのおばあちゃんと過ごした家は、ジャムを作ったり、手で洗濯物をしたりと、幼い頃に味わった田舎の匂いや風景を思い出してしまう。そして「魔女修行」という名の下にまいは人としての心構えのようなものをおばあちゃんから学んでいく。その過程や、学校生活に悩むまいを見て、ついつい僕は同じ年齢だった中学生の自分自身と比較してしまうのだった。

わたし、やっぱり弱かったと思う。一匹狼で突っ張る強さを養うか、群れで生きる楽さを選ぶか・・・・

きっとまいの「魔女修行」はまいの今後の人生の基盤をつくる大切な時間だったのだろう。
物語全体の感想はというと、やや込められたメッセージが弱いように感じた。物語自体が比較的単調に進むので、最後に心を鋭くえぐるような強烈なメッセージが出てくるのではと期待したが、そのまま終わってしまった感じ。
【Amazon.co.jp】「西の魔女が死んだ」

「血と骨」梁石日

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第11回山本周五郎賞受賞作品。
昭和初期から中期にかけて、在日朝鮮人である金俊平という蒲鉾職人の生き方を描く。
金俊平のように自分以外の人を信じないという生き方は戦時中の騒乱の時代の中では多かったのかもしれない。ストーリーのおもしろさという面ではあまり薦めないが、昭和の歴史を当時の雰囲気を味わいたい方は読んでみるのもいいかもしれない。
お金がなければ見向きもされない。女は体を売っていきるしかない。病気になれば「早く死んでほしい」と思われる。僕の生まれるほんの20数年前までの昭和という時代はそんな時代だったのだ。
【Amazon.co.jp】「血と骨(上)」「血と骨(下)」

「塩狩峠」三浦綾子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新潮文庫WEB読者アンケート第4位。この言葉に惹かれて購入した。
一人の人間が、キリスト教に惹かれ、そしてその教えにしたがって自らの命を投げ出して多くの人を救う。そんな実際にあった話をもとに作られた物語。
明治初期を舞台にしていること。キリスト教の教えが多く主人公の周囲に取り入れられること、そして、自分の性格とあまりに懸け離れた人物像によってなかなか素直に物語を受け入れずらい。それでもこの本を読む前と後では生き方が少なくからず変わるかもしれない。
こんなふうにひたすら自分以外を思いやって生きれるなら、それもまた素敵な生き方なのかもしれない。しかし僕は「人生は一度きり」という考えの持ち主。したがって、やっぱり人生は自分のために生きることにする。
【Amazon.co.jp】「塩狩峠」

「王妃の館」浅田次郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
倒産寸前の旅行代理店が「王妃の館」の宿泊ツアーとして、2つのツアーを組んだ。1つは149万8千円のポジツアー、もう一つは19万8千円のネガツアー、しかも客に部屋を共有させるという無謀なツアーである。そんなツアーの様子がコメディタッチで、ルイ14世時代と絡んで展開していく。
正直「中途半端」な印象を受けた。設定的にはかなりコメディタッチで進みながらも、コメディとして読むととてもおもしろいとは言えない。ルイ14世時代の物語も興味を惹かれたが浅い部分までしか掘り下げられていない。この物語全体としてのテーマが感じられなかった。作者もこの作品を実験的に書いたのではないかという印象を受けた。
【Amazon.co.jp】「王妃の館(上)」「王妃の館(下)」

「ナイフ」重松清

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
イジメをネタにした短編集である。イジメの当人。イジメの被害者の父親など、いろいろな視点の物語が集まっている。イジメを受ける当人よりも、周囲の人間の反応の描き方がリアルである。周囲の人はみんな、助けが必要だと感じ、それをすることでさらにイジメを増長するのではないか。と何もできない自分に怒りを葛藤するのである。
イジメという問題は、僕にはもう縁がない。そう思っていたが、自分の息子や娘がイジメにあったらどうするか?たぶん何もしないだろう。それが一番いいと思うから、しかしそれでいいのだろうか。残念ながらこの本の中にその答えはない。
【Amazon.co.jp】「ナイフ」