オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
目が覚めるとそこは不思議な世界。現実の世界では将棋のプロを目指していた塚田裕史(つかだひろし)は、その世界で、18体のそれぞれの能力を持った生き物を動かして、敵である青軍と七番勝負をすることとなる。そこは夢なのか仮想空間なのか。
なんとも突飛な舞台設定である。実際著者である貴志祐介は「クリムゾンの迷宮」でも人間同士で生き残りをかけたゲームのような物語を描いているが、本作品では塚田(つかだ)含む登場人物たちは、なぜその場所にいて、なぜ戦うことになったかがわからなく、その点が物語のカギなのだと推測できる。
さて、理由もわからず塚田(つかだ)は現実世界で知り合いだった人間を駒として青軍と戦うのだが、その過程で、将棋や囲碁、チェスなど伝統的なゲームについて言及される点が興味深い。またその舞台となっている場所が昨今有名になった長崎の軍艦島をモチーフとしている点も個人的には好奇心を刺激してくれた。むしろそこまで調べ上げているなら将棋や囲碁の純粋な勝負の世界を描いたほうが面白い物語になったのではないかと感じた。
感想としてはやはりこの非現実すぎる物語をすんなり楽しむのは誰にとってもなかなか難しいのではないかと思う。とはいえこのような物語を世に出せるのは著者の過去の実績があるからゆえなのだろう。普通の人が同じものを書いてもまず出版社は却下するに違いない。そういう意味では現代アート的感覚で触れてみるのもいいかもしれない。
【楽天ブックス】「ダークゾーン」
カテゴリー: ★2つ
「自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来」グナル・ハインゾーン
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
社会・経済学者である著者は、世界で発生するテロの原因として、「ユース・バルジ」というものに着目した。
「ユース・バルジ」とは「過剰なまでに多い若者世代」と言い換えることもできる。僕らが扮装や戦争の原因としてあげるとしたら何だろう。おそらく「宗教問題」や「貧困」を挙げるのではないだろうか。しかし、上でも書いたように、本書の著者の視点はやや異なる。若い男性の比率が多くなりすぎると彼らは自らの有り余ったエネルギーの矛先を求めそれがやがて内戦や虐殺につながるのだという。
ある意味「貧困」などより非常に納得のできる考え方である。著者はその「ユース・バルジ」がいかに過去紛争や内戦に影響を与え、また今後どのようなことに警戒しなければならないかを語る。面白いのは例えば、出生率が1の先進国と出生率が6のイスラムの国が戦争をした場合の話。イスラムの国の戦死者は多くの場合、その家族の次男や三男であるのに対して、先進国の場合その家族の長男である場合が多い。そうなると当然一家の大黒柱を失った親によって、先進国では戦争に対する反発も高まる、というもの。
今までこんな視点で考えたことがなかっただけに新鮮であった。残念ながらそんな今後も続く第三世界の「ユース・バルジ」に対してどのように対応すべきか、というようなことは書かれていない。残念ながら将来を悲観しているだけである。個人的には、そんな若者がエネルギーを平和的に消費する手段として「スポーツ」という答えもあるような気がするが、本書はそのようなことには触れていない。それでも全体的に非常に面白いと思える考え方だった。
残念なのは翻訳があまりにも酷いということ。関係代名詞を無理やり訳したのか4行にもわたる文章が頻出し、3,4回読み直さないと意味の取れない文章が多々あり、非常に読みにくい。英語が読める人には迷うことなく原書で読むことをお勧めする。
【楽天ブックス】「自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来」
「Affinity」Sarah Waters
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
2001年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。
引きこもりだったMargarettは人の勧めで、刑務所を訪れて囚人の女性たちと話をするようになる。そこで出会った霊媒師の女性Selina。会話を重ねるにつれて2人は惹かれ合っていく。
すでに成人していた、兄弟が結婚して巣立っていく中、働くこともなく引きこもり生活を続けているため居場所を見つけることができない。そんなMargarettが囚人たちの生き方に自分を重ねあわせていく。刑務所で彼女が体験したことを家に帰ってきて日記に書く、という形態をとっているため、ひたすらMargarettの一人称で進んでいき、その心のうちが描かれる。そこが本作品の個性であり魅力である。
同時に、Selinaの視点に立って2年遡った状態からも物語は描かれる。一体どんな状況で彼女は罪を犯したのか。そして、その2年前のSelinaの周囲の出来事がどのようにして今の刑務所へと結びついていくのか、と想像しながら読み進めていくことになるだろう。
「ミステリー」というカテゴリに本書を分類することにまったく違和感がないが、どうも今ひとつ何か期待していたレベルには達していない気がする。
「迷宮」清水義範
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
記憶を失った「私」は治療と称して、一人の男と会い、ひとつの犯罪に関する記事を読ませられる。その犯罪とは、ある猟奇殺人事件だった。
読み始めてすぐに、おそらくエンディングには大きなどんでん返しが待ってるだろうと推測できる。明かされない男と「私」の正体。きっとこの2人の招待が鍵なのだろう、と推測できる。
そして「私」は新聞記事や週刊誌の事件に関する記事を読ませられる。多くの読者と同じように僕自身もその結末として考ええられるあらゆる想像をしながら読み進めた…。
さて、残念ながら結末は納得のいくものではなかった。というよりも僕には理解の範囲を超えていた。例えば有名な乾くるみの「イニシエーション・ラブ」のように、ほかの情報を整理しないと理解できないものかと思い、検索して調べたりもしたが、1回読んだだけでは理解のできるものではなかった。
解説できる人がいるならぜひ解説して欲しいところだ。
【楽天ブックス】「迷宮」
「The Gunslinger」Stephen King
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
黒衣の男は砂漠を逃げていく。ガンマンは追った。そんな冒頭で始まる物語。Stephen Kingの「The Dark Tower」シリーズの第1弾である。
なぜガンマンが黒衣の男を追い続けているのか、彼らは過去にどんな因縁を抱えているのか。その説明は一切描かれない。ただガンマンは男を追い、立ち寄った町で男について尋ね歩く。男はなぜ蘇ったのか。19という数字は何を意味するのか。
自分の英語力が未熟なせいかと思うほど意味の繋がらない回想シーン。いずれもおそらくこの後のシリーズの続編でその細かい物語の断片が繋がっていくのだろうと思われる。本作品だけを評価すると、残念ながら面白いとはとても言えないが、「The Dark Tower」というシリーズを読む上で欠かせない作品として我慢して読むべきなのだろう。
「野村の「眼」」野村克也
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
弱小チームだったヤクルトスワローズにID野球を浸透させ、3度の日本一に導いた野村克也。その野球に対する考え方を語る。
「ID野球」「野村再生工場」。このような単語は野球に詳しくない人間でも何度か聞いたことがあるだろう。こういう言葉が浸透したのは、おそらく野村の監督としての振る舞いが、ほかの監督とは違っていたからだろう。
本書では、野村克也がプロになってレギュラーを掴むまでの過程。そして中盤以降は、ヤクルト、阪神、楽天での監督としての目線で、選手や試合、戦術について語っている。
残念ながらその内容は、野球以外のものに応用できるとは言いがたく、野球ファンのための内容と言える。すでに70歳を超えている著者に対して求めるのは酷なのかもしれないが、その語り口調からは謙虚さよりも傲慢さが感じられる点が残念である。
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「錯覚」仙川環
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
結婚直前に失明した菜穂子(なほこ)は人口眼の埋め込みの手術をする。わずかな視力を取り戻した菜穂子(なほこ)の目の前で事件が起きる。
物語の核となるのは、失明と、人口がんによるわずかな視力の間にある人生に及ぶを違いの大きさによって、悩む菜穂子(なほこ)の思いだろう。当事者の菜穂子(なほこ)だけでなく、むしろ婚約者の功(いさお)の反応のほうが興味深い。「好き」という気持ちだけでなく、今後訪れるであろう困難なども含めて、現実的に考えて決断しようとする人間がいる一方、眼が見えるか見えないかで態度を変えるのはおかしい、と主張する人間もいる。
本書はむしろ事件による展開よりも、そんな人々の葛藤のほうが面白く思えた。とはいえ、全体的には事件に焦点をあてているためやや焦点の定まらない物語のように感じた。
【楽天ブックス】「錯覚」
「レディ・ジョーカー」高村薫
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
1999年このミステリーがすごい!国内編第1位
競馬仲間として知り合った男たち5人はある日、企業を脅して大金を得ることを思いつく。お金の使い道も、目的もなく。
久しぶりの高村薫作品である。競馬場通いの男たちが、明確な目的もなく企画したビール会社相手の誘拐恐喝事件。面白いのは、犯人たちの誰一人として、お金が必要な切迫した理由があったわけでもなく、ただ退屈な毎日とすでにこの先にもなんの期待も持てない自分の人生を悟った上で「なんとなく」と犯罪に走ってしまったことだろう。
一方で誘拐されたビール会社社長の城山(しろやま)の、社会における企業の立場、社内における自分の立場。企業の利益を優先するがゆえに警察に嘘の証言をしなければならない葛藤や罪の意識なども見所である。
そして、「マークスの山」や「照柿」など、高村作品にはおなじみの刑事。合田刑事も本作品で重要な役どころを演じている。
さて、これは高村作品においてはどの作品にも共通した世界観と言えるかもしれないが、思い通りにならない世の中、そして、それでも生きていかなければならないむなしさ。そんな空気が作品全体に漂っている。犯人の追跡劇や、優れた刑事の推理劇に焦点をあてたよくある警察物語とは大きく一線を画しているといえるだろう。
一方で、決してスピーディではない本作品の展開は読者によって好みの分かれるところである。僕自身も、この展開で3冊ものページ数を費やすのはやや受け入れがたいものがあった。
【楽天ブックス】「レディ・ジョーカー(上)」、「レディ・ジョーカー(中)」、「レディ・ジョーカー(下)」
「クリエイター・スピリットとは何か?」杉山知之
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
デジタルハリウッド学長の杉山知之がクリエイター・スピリットについて語る。
どちらかというとこれからクリエイターを目指そうという若い人に向けられた内容ではあるが、すでに社会に出て10年以上経っている僕にとってもところどころ心に残る内容はある。
特に著者が本書内でたびたび繰り返しているのは、日本という国にすんでいるということが、どれほどクリエイターにとって恵まれているか、ということである。
技術的なことももちろんあるが、それよりも特定の宗教を持たないからこそ、多くの国の人が縛られる先入観を持たないために自由に発想することができる、というのが印象的だった。
1時間もかからず読めてしまうないようなだけに値段ほどの価値があるかどうかは疑問であるが、軽い気持ちで手にとって見るのも悪くないだろう。クリエイターの視点で日本という国を外から見ることができるのは新鮮である。
【楽天ブックス】「クリエイター・スピリットとは何か?」
「Bone by bone」Carrol O’Connel
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
20年前に行方不明になった弟Josh。兄Orenは軍隊を辞めて、生まれ育った街に戻ってくる。
舞台となるのはアメリカの田舎町。
みんな街のすべてのひとの、仕事や人間関係や趣味まで知り尽くしているような小さい街。そんな限られた人間関係のなかで、20年前に失踪した少年の事件がふたたび街の人々を動かし始める。
前に読んだ同じ著者の作品「Judas Child」と非常に視点が似ているように思う。前作でもそうだったのだが、小さい町ゆえの人々の人間関係が物語の根底となっている。本作品では、その緊密さは、緊密さはゆえの暖かい親密さというようなポジティブな方向ではなく、緊密ゆえにすべてを知っていて、そんななかで人は人の悪いところを見ようとする余りに、生きるための窮屈さとして、ネガティブな描かれ方をしているようだ。
物語は行方不明になっているOrenの弟の骨と思われるものがときどきOrenの家のポーチに置かれていることから動き出す。真実が次第に明らかになる過程でいくつか印象的な要素が取り入れられている。たとえば、行方不明になったJoshが写真を撮ることに関しては類稀な才能を持っていたこと、一人の女性が書き続けているバードウォッチングのログブック、街の人は誰れでも一度は参加してしたことがあると言われる「死者を呼ぶ会」などである。そのログブックにはある日を境に実在する鳥は一切描かれなくなり町の人の人間性を暗示するスタイルへと変わっていた。そして、「死者を呼ぶ会」では、参加者は行方不明のJoshに毎回呼びかける話をする。これらの要素も物語を魅力的なものにしていると言えるだろう。
事件の真実よりも、その過程で描かれる、人間関係や人々の苦悩など心情に焦点がおかれている様に感じた。個人的にはもう少しスピード感が欲しいところである。
「運命の人」山崎豊子
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新聞記者の弓成亮太(ゆみなりりょうた)は昭和46年沖縄返還交渉の取材中に日米間の密約に気づく…。
以前より何人かから薦められていながらも機会がなかったため今回が初山崎豊子作品となった。物語冒頭で舞台となっているのは昭和46年であり、その題材は沖縄返還交渉という、僕にとっては生まれる前の出来事である。正直、あまり深く考えたことがなかったのだが、冷静に考えてみると、間違いなく沖縄返還というのは歴史的事実だったのだろう。そんな大きな出来事にいままでほとんど関心を持っていなかったことに少し驚かされた。
さて、物語は弓成亮太(ゆみなりりょうた)という、正義感あふれる敏腕新聞記者を中心に進む。沖縄返還交渉に関わるひとつのスクープが、やがて、「知る権利とは?」「外交とは?」という大きな問いかけになり、物語中で描かれる裁判のシーンを通じて、日常よく耳にする言葉の意味まで考えさせられるだろう。
本書を読了後に沖縄返還について調べてみると、本書の内容はかなり事実に近いことが描かれているらしい。きっと年配の人にとっては常識とも言える事件なのかもしれない。教科書には載っていないほど新しく、しかし自分が生まれる以前というほどの古い、この期間に起こった出来事はもっとも無関心にすごしてきてしまったようで、もう少し関心を向けるべきなのだと感じた。
とはいえ、このような内容では仕方がないことなのか、若干登場人物が多すぎて、物語に入り込みにくく、お世辞にも読みやすいとは言えない。また、後半部分はむしろ物語のそれまでの本筋とは外れて沖縄の悲劇の歴史に焦点があたっているように感じ、作者の訴えたいことが不明瞭な印象を受けた。一つの物語としてみるのか、それとも読みやすい現代史として本書を見るのかで評価は変わってくるのかもしれない。
本作品が山崎豊子の他の作品、たとえば「沈まぬ太陽」「白い巨塔」と比較するとどの程度の出来なのかが気になるところである。
「新世界より」貴志祐介
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第29回日本SF大賞受賞作品。1000年後の日本。そこはサイコキネシスを自在に操る超能力者たちの世界。厳しい規律によって秩序は保たれていた。
貴志祐介の久しぶりの作品は、上、中、下と三冊にわたる大作。物語は渡辺早紀(わたなべさき)が過去の悲しい記憶を振り返って書く手記という形をとっている。
最初はどこかのまったく現実と関係ない想像の世界を描いているようにも見えたが、次第にそれは、人類があるときを境に、超能力の存在を受け入れ、何人かがそれを自由に扱えるようになったがゆえに起こった混乱の後の世界であることが明らかになっていく。
サイコキネシスによって、つまり対象に一切触れたり、道具を使用することなく念じるだけで人を殺すことのできる人間の存在によって起こる混乱としては、なかなか納得できるものがある。
さて、物語はそんな世界のなかで自らの力をはぐくんでいく早紀(さき)とその友人たちを描いていく。その過程で、人間が住む場所の外には、多くの未知なる生物が潜んでいることがわかる。そして、鍵となるのは、人間同士が殺しう事をしないためにそれぞれの人間が心のなかに持つ攻撃抑制である。それゆえに、超能力を自在に操りながらも人間同士の殺し合いが起こることがない。そんな世界で生きている早紀(さき)が過去の歴史を知るにつれて、現代の核爆弾や殺人平気を知り、「古代人は狂っている」と感じるあたりには考えさせられるものがあるだろう。
やがて、物語は、ほかの生き物たちから「神」とあがめられる人間たちと、そんな「神」である人間の支配から逃れようとする動物たちの間の対立へと変わっていく。最終的に、何を訴えたいのかよくわからないが、なんにしても、不毛な殺し合いや逃走、追跡劇に非常に多くのページを費やしているため、全体のページ数に見合うだけの内容はないように個人的には感じたがほかの人はどう思うのだろう。
【楽天ブックス】「新世界より(上)」、「新世界より(中)」、「新世界より(下)」
「誘拐の誤差」戸梶圭太
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
10歳の礼乎(れお)は学校からの帰り道に近所の男に殺される。捜査を開始する警察と事故を隠そうとする犯人。事件の周囲の人々を描く。
新しいのは、殺された少年礼乎(れお)が魂となって浮遊し、自分の殺された事件を解決する様子を見ようとする、その目線で物語が展開する点だろう。多くの人の心の声が聞こえるから、物語の目線がいろんな関係者に移っているように感じられるが、実際は一貫して魂となった礼乎(れお)目線なのである。
内容はというと、悲しいほど自分勝手で醜い人間たちのオンパレード。犯人はもちろん、警察や被害者の家族たちや街の人たちまで。誰一人感心できる登場人物など出てこない。読んでいるうちに疲れてくるような内容である。最近、こういう人間の醜さだけを見せる物語が増えた気がするが気のせいだろうか。
ひょっとしたら最後に何か面白い展開が待っているかもしれない、と最後までがんばって読んだが残念ながら期待に沿うものは最後までなかった。ひらがなと擬音の多い文章のせいで、ページ数ほどに時間がかからないが、中身も濃いとはいえないだろう。
とはいえ、本作品を評価する人もいるらしいので、人によっては絶賛するようなものなのかもしれない。
【楽天ブックス】「誘拐の誤差」
「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
太平洋戦争末期に太平洋の島に残された日本の軍用犬、北、正勇、勝と米軍のエクスポロージョン。4頭の犬たちはさまざまなかたちで子孫を作り、その血は、戦争の時代に翻弄され世界に広がっていく。
最初の4頭の子供たちはその類稀なる才能ゆえに、ある犬は犬橇でその才能を生かし、あるものは、先祖と同様に戦争でその才能を発揮する。
太平洋戦争から、冷戦の時代に入り、ベトナム戦争、アフガン戦争と20世紀に起こった戦争や紛争、そして、それだけではなく、米ソの宇宙開発など、歴史的な出来事とその背景を描きながら犬たちの動向を描いていく。むしろ20世紀の戦争史として読んだほうが期待に沿うかもしれない。
そして、軍用犬を戦力として重宝する国々によって、気がつけば数世代前には兄弟だった犬たちが敵と味方に分かれて戦っているのである。
考えてみれば人間の所在は、国籍や民族などしっかりと記録されているが、犬においてはそのようなものはなく、その犬の先祖がどこで生まれたか、とかその犬の従兄弟が今どこで何をしているか、など正確に把握することなどまず不可能なのだろう。そう考えると本作品が描く世界は、決して物語のための誇張とはいえないのかもしれない。
そういった意味では本作品は間違いなく斬新的な作品と言える。ただ、斬新的ゆえに読む人によって好みが分かれし、僕としても、もっと少ない数の犬に集中して描いてくれたほうがありがたく、犬も人間も誰一人共感できる形で描かれていないことによって、ずいぶん読みにくさを感じてしまった。
【楽天ブックス】「ベルカ、吠えないのか?」
「田村はまだか」朝倉かすみ
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第30回吉川英治文学新人賞受賞作品。
クラス会の3次会でとあるバーになだれこんだ5人。彼らは同じく同級生だった田村(たむら)を待ちながら、思い出話、近況報告に花を咲かせる。
物語の中心となる5人は40歳。夢を追ったり、甘い恋をするには歳をとりすぎているが、人生をあきらめるには早すぎる。そんな人生の中だるみ的な位置を生きている。
そんな5人が酒を飲みながら交わす会話は、いずれも、ものすごく面白くもなければものすごく退屈でもない、ほどほどの話。そしてみんな純情でもなければ、悪人でもない。そんな中途半端な年齢を生きる彼らのなかから何か感じられるものがあるのかもしれない。面白いのは、この友人田村(たむら)を待っている、という設定だろう。なにかの折りに彼らはつぶやくのだ「田村はまだか」「田村遅すぎる」と。そうやって登場していないにも関わらず、なんども会話のなかで触れられていくうちに田村(たむら)がどこか伝説めいた響きをもってくるから不思議である。
ただ、残念ながら、末尾の解説で「若いひとにはぴんと来ないんじゃないかとすら思う。」と書かれているように、ちょっと僕にはこの作品のよさを掬い取ることができなかったようだ。(僕が「若いひと」かどうかは置いておいて)。
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「キラークエスチョン 会話は「何を聞くか」で決まる」山田玲司
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
200人を超える「初対面対談」を繰り返してきた著者がその経験から、人との会話を盛り上げるために有効な質問とその理由をまとめている。
久しくこういう本は手にとっていなかったのだが、軽くさらっとなにか読みたいなと思って購入してしまった。数年前に読んだ本、確か「聞く技術」というようなタイトルだったと思うが、そこに書かれていたことと若干共通する部分もあり、本書でも、人は誰でも自分のことを話したがる生き物だから、会話では「話す」ことよりも「聞く」ことのほうが大切と書いてある。
実際自分もなるべく「話す」より「聞く」を実行しようと意識はしていて(実際にできているかは別問題)、その結果として、何度も会話をしたことがある人が自分の仕事さえも知らないなんてこともたまにあったりする。
そんな「聞く」ことの重要性を理解した上で、こんな質問が共通点のない人物同士でも会話を盛り上げる、というような20個ほどのキラークエスチョンはがまとめてある。
そこであげられているキラークエスチョンの詳細へはここでは触れないとして、結局大事なのは、相手へのリスペクト、そして、いかに相手を主人公にできるような質問をするかということなのだろう。そして印象的だったのが、自分の弱点を見せることで相手は話しやすくなる、という部分だろうか。次回から実行してみたいとこだ。
そんなふうに、いくつか考え方として面白い部分があるにはあったが、30分もしないで読めてしまう本書に660円とは・・・。気になった方には立ち読みをお勧めしめする。
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「輝く夜」百田尚樹
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
クリスマスイブの女性たちの奇跡を描いた5つの物語。
注目の百田尚樹の新作ということでやや好みのテイストとは異なるにも関わらず「こういう物語はどんなふうに描くのだろう」という想いで手に取った。5編ともクリスマスイブに女性に起こった奇跡を描いている。
最初の1編、2編あたりは、こんな物語もたまにはいいな、などと思いながら読んでいたが、さすがに4編、5編とありえない偶然が続けば、感動よりもむしろ冷めてしまう。むしろ想ったのは、こんなありえない確率のできごとでも起きない限り恋愛は成立しないのだろうか、という疑問。
この物語で感動するには現実を知りすぎてしまったようだ。どちらかというえば中学生、高校生向けのラブストーリーという感じ。5編とも主人公の女性のこころがあまりにも美しすぎるのも現実感が乏しい、あまり百田尚樹に恋愛ものは期待できないかも。
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「沈底魚」曽根圭介
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第53回江戸川乱歩賞受賞作品。
中国のスパイが日本に潜んでいるという情報を得て、警視庁外事課は動き出す。
江戸川乱歩賞受賞作品ということで期待したのだが、残念ながら最近増えてきた公安警察小説のなかでも特に際立ったところはない。スパイものはどうしても2重スパイ、3重スパイ、騙し合いという展開になってしまって、その範囲内ではいくら裏をかこうとも読者の想像を超える面白さには繋がらないのだろう。もう少し何かスパイスがほしいところだ。
とはいえ、このような中国などを相手にしたスパイ物語を最近よく読むようになった気がする。つまりそれが現実のものとして受け入れ始めているからなのだろう。
本作品に限らずスパイ物語というのは登場人物の名前が多くなりすぎるうえ、おのおのの利害関係が複雑になりすぎるため、なかなか物語にしっかりと着いていきずらいのもよくあることで、いかにその多くの登場人物を個性を持って描けるかが、諜報活動を描く小説には求められるのではないだろうか。
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「霧のソレア」緒川怜
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
テロリストが仕掛けた時限爆弾によって成田空港に向かう289人の乗客を乗せた航空機が墜落の危機に瀕する。女性パイロットの高城玲子(たきれいこ)の手に乗客の命はゆだねられる。
トラブルに巻き込まれた航空機を生還させるという物語は決して少なくない。小説でも映画でも、その多くは、そこにいる人々の恐怖やそれを克服して協力し合う人間物語を描いており、本作品にもその要素は十分に入っているが、同時に、航空機に取り入れられている技術や、それに関わるスタッフの役割などに触れている点が新しい。
物語は墜落の危機に瀕した航空機だけでなく、機内に乗っている要注意人物の存在によって国家間の脅威にまで発展した展開になっていく。その過程で、過去の多くの航空機事故に触れている。内容としては、著者のデビュー作ということもあって、力のこもった作品に仕上がっている。
個人的な感想としては、航空機内のパイロットや一般乗客、そして爆弾を持ち込んだテロリスト、国の運命を担う各国政府。多くの視点があるのはいいと思うのだが、どれかをメインに扱って、はっきりと視点に優劣をつけたほうがよかったのではないだろうか。おそらく本作品でもメインは女性パイロット高城玲子(たきれいこ)など機体に穴の開いた状態で生還しようとする姿だろうが、テロリストから自衛隊など、すべてをその視点から頑張って描きすぎててしまって複雑になりすぎてしまった感がある。とはいえ、現在の問題点や過去の事件など多くの要素をまとめて一つの物語に仕上げるという姿勢は評価したい。今後の作品に対する。
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「国境事変」誉田哲也
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新宿で殺害された在日朝鮮人の吉男(よしお)。事件を担当する警視庁捜査一課は事件解決のために弟の英男(ひでお)を追求する。しかし英男(ひでお)は公安が長年かけて作った情報提供者であった。刑事と公安という同じ警察組織内の目的を異にする組織の思惑が交錯し始める。
公安嫌いの刑事東(あずま)と、公安でありながら、どこかその仕事に疑問を抱いて任務に就いている川尻(かわじり)。この2人の目線で物語は進む。印象的なのは、川尻(かわじり)の学生時代の経験や、在日朝鮮人であるがゆえに、普通の生活を送ることができない英男(ひでお)の過去やその経験から来る言葉だろう。
そして、物語はたびたび国境の島、対馬に向けられる。これほど重要な位置にありながらも、僕ら日本人がほとんど意識することのない島。その重要性を知るだろう。
いくつかの組織名称が登場するゆえに若干組織の利害関係がわかりにくく、スピード感にも欠ける部分があるが、それよりむしろ、すれ違いながらも少しずつ近づいていく、東(あずま)と川尻(かわじり)という二人の警察職員の緊張感が面白い。
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