「Magpie Murders」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年このミステリーがすごい海外編第1位作品。2019年本屋大賞翻訳小説部門受賞作品。

ロンドンで名の知れた名探偵であるPundは助手のFraserと共に、Saxby-on-Avonで起こったSir Magnusの殺人事件の捜査にのりだす。

すでに人生の先が短いことを悟ったPundだが、Saxby-on-Avonからロンドンまでやってきた女性の依頼によって、心を動かされ、Saxby-on-Avonので領主であるSir Magnusが殺害されたことで事件の捜査に乗り出すのである。小さな町故にそれぞれの住人たちの交友関係も狭く、街の人間関係が少しずつ明らかになり、ほとんどすべての人にSir Magnus殺害の動機があることがわかる。

途中まではよくある振り時代の探偵ミステリーという雰囲気だが、後半物語は予想外の方向へ動き出す。細かいことは語ることはできないが、今まで読んだことないほどの斬新さを持っており、2つのミステリーを同時に楽しめたかのような分厚い満足感を感じられるだろう。このミステリーがすごい 海外編第1位も納得である。久しぶりに読書の面白さを感じさせてもらった。多くの読者にこの感覚をぜひ味わってほしい。

「さざなみのよる」木皿泉

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40代で癌で亡くなったナスミとその死の周囲にいる家族や友人を描く。

夫の日出男(ひでお)、姉の鷹子(たかこ)、妹の月美(つきみ)と、それぞれの視点からナスミの死を描く。40代の死という早すぎるわけでもない、そのやや早めな死に、周囲の人々の捉え方や感じ方もそれぞれである。その視点は、ナスミの幼馴染や、昔の同僚など少しずつ関係の薄い人たちへ移っていくが、少なからずナスミの生き方が影響を与えていることがわかる。

なによりもナスミの死が周囲の人にプラスの影響を与えている点がすごい。誰しも最期はこんな風にありたいと思うだろう。もちろんそれは、死に方よりもそれまでの生き方が何よりも大事なのである。そんな、今日の生き方を考えさせてくれる優しい一冊。

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「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年本屋大賞受賞作品。

3人の父、2人の母のなかで高校生になるまでにたびたび家族の形がかわるなかでいきてきた優子(ゆうこ)の物語。

父と母がたくさんいることをわかりながらも、優子(ゆうこ)の高校生活を中心に物語は進んでいく。そして、少しずつではあるが過去の父や母との出会いや別れが明らかになっていくのである。そんななかでも印象的なのは2番目の母で、自由奔放に生きる梨花(りか)の生き方、そして3番目の父、人のために生きることに生きがいをかじる森宮(もりみや)の姿だろう。

自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来がに倍以上になることだよって
自分じゃない誰かのために毎日を費やすのって、こんなに意味をもたらしてくれるものなんだって知った

誰もが若い時は自分のために、そして年齢を重ねて、子供が生まれたり、自分の余生が短くなっていくに従って人のために生きるようになるが、その重視する比率や、変わっていくタイミングは人によって異なる。今回は早くして人のために生きるたくさんの人たちを描いている。この優しい世界にぜひ浸ってほしい。

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「涙香迷宮」竹本健治

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2017年このミステリーがすごい!国内編第1位作品。

黒岩涙香の隠れ家が見つかったことから、暗号マニアや航路位悪いこう研究家など、各方面の専門家とともに牧場智久(まきばともひさ)はその隠れ家の調査に参加することとなる。

黒岩涙香という人物も、名前を聞いたことがある程度で、その経歴はほとんんど知らなかった。しかし、五目並べを体系化して連珠を作成したり、多数の小説を描いたり偉大な人物であったということがわかる。

どれほどの人が知っているのかはわからないが、「いろはと」は「いろはにほへと」で始まる有名な句に代表されるように、日本語の48文字を重複なく使って意味のある文章を作るというものである。本書の目玉は、黒岩涙香の隠れ家で見つかった48のいろはであり、本書がどこまでフィクションなのだかわからないが、この48のいろはをすべて著者が考えたのだとしたら驚くべきことである。

物語は、黒岩涙香のいろはの謎を説くなかで、参加者の一人が毒殺されたことから、謎解きとともに犯人さがしの様相も呈してくるが、あくまでも謎解きがメインだろう。

いろは、連珠など新しい知識を与えてくれるとともに、好奇心を大いに刺激してくれる作品である。著者、竹本健治の作品は本書が初めてだが、本書に含まれるいろはからもわかるように、日本語に対して深い知識と優れた感覚を持っているのは間違いないだろう。

本書は、同じ主人公である牧場智久を主人公としたシリーズの一つということで、他の作品もぜひ読んでみたいと思った。きっと同じような言葉の不思議な世界を味わえることだろう。

【楽天ブックス】「涙香迷宮」

「GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代」アダム・グラント

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人に惜しみなく与える人をギバー、自分の利益を優先させる人をテイカー、損得のバランスを考える人をマッチャーという。様々な事例を交えながら3つのタイプの人間と成功するための心がけを説明する。

ギバーの生き方が豊かな人生を送れることは誰もが予想することだろう本書でも基本的にギバーを推奨する点は特に驚くべきことではないが、面白いのは、どんな分野でももっとも成功している人はギバーだが、一方でもっとも劣っている人もギバーなのだという。

したがって、本書のテーマは、つまり、気遣いが報われるギバーと、人に利用されるだけのギバーが存在するということである。本書のテーマはそんな2つのギバーの違いを見極めることである。

成功するギバーになるために必要なことは、「自己犠牲的」になるのではなく、自己の利益と他者の利益の二つを同時に目指す「他社志向的」な生き方をする必要があるということである。相手に同情しすぎてただ利用されるだけで終わる人も多いという。本書では、テイカーと付き合うときはマッチャーになるように努めることを勧めている。

テイカーを相手にするときは、自衛のために、マッチャーになるのがいい。ただし、三回に一回はギバーに戻って、テイカーに名誉挽回のチャンスを与える。

僕自身は他社志向のギバーなのかもしれないが、もっとギバーになるための指針があふれていた。また、僕の周りにも利用されるだけのギバーがたくさんいるので、彼らにもぜひ読んでほしいと思った。

【楽天ブックス】「GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代」

「一億円のさようなら」白石一文

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
50歳を超えた鉄平(てっぺい)はある日、長年連れ添った妻が20歳のときに34億円の遺産を受け取っていたことを知る。妻の大きな秘密を知ってしまったことで鉄平(てっぺい)の人生は動いていく。

なによりもこの34億円という一生遊んで暮らせるだけのお金がいきなり目の前に現れた、という設定が面白い。秘密を知られたことを知った、妻の夏代(なつよ)は鉄平にお金のことを黙っていた理由を告げるのである。過去には経済的な理由で断念したこといくつかあったために、鉄平はその考え方理解できないのだ。

個人的には、夏代(なつよ)の考えは理解できる。お金があるからこそわかる悩みというのがあるのだろう。

こんなお金があったら、これからの自分の人生は何をしても本気になれないし、楽しくもないし、きっと誰のことも信用できなうなるだろうって。・・・こんなお金は最初からなかったことにするしかないんだって。

やがてお金の力を理解してほしいということで夏代(なつよ)は鉄平に1億円をわたして自由に使うように言うのである。人は、お金の悩みがなくなったゆえに人生で本当に大切なものを人は探し出すのだろう。鉄平(てっぺい)も心機一転これまでやりたくてできなかったことに挑戦していくのである。

鉄平(てっぺい)の会社の権力争い、妻の夏代(なつよ)との関係、新たな道へ進もうとする子供達、学生時代のエピソードを描いており、舞台も福岡を中心に、鹿児島、長崎、金沢を舞台にその人生を描く。50歳を超えても人生は気持ち次第でいくらでも楽しくできるのだと教えてくれる一冊。

【楽天ブックス】「一億円のさようなら」

「Post Mortem」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1991年エドガー処女長編賞受賞作品。バージニア州リッチモンドで発生する女性を狙った連続殺人鬼Stranglerの事件を解決するため検死官であるKay Scarpettaが真実に迫っていく。

すでに発行から30年が経っているので、描かれる捜査環境などは違うのだろうが、物語の面白さはまったく損なわれていない。少しずつ犯人に迫っていく点は予想通りであるが、面白いのはKayとその周囲の人との人間関係だろう。その筆頭は、Kayの家に頻繁に訪れる姪のLucyである。Kayの妹で母であるDrothyが頻繁に家を留守にすることからKayの家をたびたび訪れ親しくなったLucyだが、幼いながらもIQの高い彼女は、やがて事件解決のカギとなる行動をする。また、頼れる刑事だが、どこかぶっきらぼうなMarinoとのやりとりも面白い。そして犬猿のなかだった新聞記者のAbby Turnbullとも、Abbyの妹が殺人鬼の犠牲者となったことにより、すこしずつ近づいていき犯人逮捕のために協力しあうようになる

そんななか印象的だったのは犯人逮捕のために、被害者の共通点を探しすために、黒人の被害者であるCecile Tylerの妹と電話で話すシーンだろう。

「お姉さんもあなたみたいに話すのですか?」
「そうです。それが教育ってもんですよね。私たち黒人だって白人みたいに話しますよ」

白人と黒人で話し方にそれほど違いがあることを意識してこなかったので、話し方でそれを判断するのが普通だということに驚かされた。日本という民族の混ざりの少ない場所で生きている限りわからないことなのだろう。とはいえ繰り返しになるが本書がかかれてもう30年が経っているので、この辺の教育の偏りも解消されてきているのかもしれない。

そんな時代の変化もシリーズを読めばわかるのではないかと思った。続編も引き続き読んでいきたい。

「ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か」エリヤフ・ゴールドラット

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
製品の制作工場の改善を中心に、企業の目的に対してどのように生産性を上げるかを、物語形式で説明する。有名な本であり以前読もうと思ったが時間がなくてできなかったためようやくこのタイミングで読むことができた。

物語、出荷遅れなどのトラブルの絶えない工場長であるアレックスが、成果が上がらなければ3ヶ月で閉鎖されることを告げられ、追い詰められたアレックスが、物理の教授であるジョナ先生に助言を求めることからから始まる。そこからジョナはこれまでの工場に置ける既成概念というものを一つずつひっくり返していくのだ。

ジョナが言うには大事なのは、

  • スループット
  • 在庫
  • 作業経費

という3つを重視することである。そして、それを向上させるために

  • 従属事象
  • 統計的変動

ということを考えなければならないのである。

結果を言ってしまえば、工場の生産性は、ボトルネックに依存するということである。ボトルネックを最大稼働させて、極力ボトルネックに無駄な仕事をさせないことが、生産性向上の鍵となるのである。アレックスは工場長としてジョナの助けを借りながら、見事に工場を再生していくのである。

物語としても面白いが、本書は生産管理ソフトの発売物とである会社の社員が、もっと広くこの手法やソフトを知ってもらうために書いたというのだから面白い。何かを知ってもらうためには、ビジネス本のような体裁だけでなく小説という形もありえるのだと再認識させてもらった。

【楽天ブックス】「ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か」

「Still Life」Louise Penny

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2006年アーサー・エリス賞、ジョン・クリーシー・ダガー賞、2007年アンソニー新人賞、バリー新人賞、ディリス賞受賞作品。

先日読んだ、「All the Devils are Here」が実はArmand Gamacheシリーズの第16作品めということで、最初から読もうと、シリーズ最初の作品である本書にたどり着いた。

カナダケベック州のスリーパインズという田舎町で、年配女性Janeが自ら描いた絵画を初めて町の展覧会に出品した数日後弓矢が当たって亡くなった。Janeは周囲の人から好かれていたが、誰もJaneの自宅の二階に入ったことがないという。Janeにはどのような秘密があったのか、またその秘密は事件と関係があるのか、警察官のArmand GamacheとJean-Guy Beauvoirは見習いのNicholとともにThree Pinesで真実の解明に乗り出す。

田舎町ゆえに、そこに住んでいる人の背景も様々である。Gamacheが少しずつ人々から話を聞く中で、殺害されたJaneの背景と、凶器として使用された弓の存在が明らかになる。事件解決と並行して、警察官として未熟で失敗をしがちのNicholにいろんな振る舞いを諭すシーンが興味深い。続くシリーズでもNicholとGamacheとの師弟関係が見れるなら楽しみである。また、カナダというと英語圏のイメージがあるが、ケベック州はフランス語を公用語とする土地で、英語ネイティブに対する差別が存在していることは本書を読んで始めた知った。

やがて、物語は過去の町の人々の過去の行いまで明らかにしていくこととなる。Janeの過去と誰も足を踏み入れたことのない家の二階の様子が明らかになり、真犯人の解明につながっていく。

絵画と弓矢を絡めた物語。シリーズものは第1作品目が良いものであることが多いが、このシリーズもそれがあてはまるようだ。第1作と第16作を読了したという妙な状態になってしまったが、間を埋める残りの作品も少しずつ読み進めたいと思った。

「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」大島真寿美

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第161回直木三十五賞受賞作品。

江戸時代の大阪。穂積成章(ほづみなりあき)は浄瑠璃に心を奪われ、やがて近松半二と改名して浄瑠璃の立作者(たてさくしゃ)を目指すのである。

近松門左衛門亡き後の世の中を描いており、本書の主人公である近松半二は近松門左衛門にあやかってつけたということである。調べてみると実際に多くの浄瑠璃作品を世の中に出している実在の人物なのである。近松門左衛門という名前は知っていたが歌舞伎と浄瑠璃の違いもよくわかっていなかった。歌舞伎は人間が演じるのに対して、浄瑠璃は人形劇なのだそうだ。

半二は、同じ竹本座の人形使いの吉田文三郎に言われて浄瑠璃を書き始め、友人である久太が並木正三(なみきしょうざ)と改名して歌舞伎界に少しずつ新たな風を引き起こしながら成功していくのと競うように、半二も浄瑠璃で少しずつ頭角を現して成功していく。やがて、半二は渾身の妹背山を書き上げるのである。母との軋轢や妻との出会いなど、半二の浄瑠璃にかける人生を描いている。

考えてみれば、映画も存在しなかった江戸時代、今の僕らにとっての映画やアニメの役割を担っていたものが浄瑠璃や歌舞伎なのだろう。そして、そんななかで大成しようとする半二や正三、そしてなどの人形遣いは言ってみれば映画監督や、主演俳優なのだろう。当時の娯楽の様子が伝わってくる。

【楽天ブックス】「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」

「希望が死んだ夜に」天祢涼

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
深夜の住宅街の空き家で通りがかりの警察官により、首を吊った女子中学生春日井のぞみが見つかり、その場にいた女子中学生冬野ネガが拘束された。「私が殺した」と主張する冬野ネガに対して、神奈川県警の真壁と仲田が真実解明していく。

本書を読んで初めて知ったのが、2000年に少年法が改正されて、現在の少年法の適用は14歳までとされていることである。本書の冬野ネガは14歳で、少年法の適用範囲を出ており、それにより取調室が使われるなど、通常の被疑者と同じ扱いをされるのである。

送検するまでの2日間にできるかぎり真実を明らかにしようと真壁(まかべ)と仲田(なかた)が奔走する様子を描いている。真壁は将来を期待される刑事なので、一つの実績と位置付けてできるかぎりスムーズに真実を解明したいと考える。一方でパートナーとなる仲田蛍(なかたほたる)は生活安全課の仕事をしながら過去数々の少年に絡んだ事件を解決した経歴を持っている。論理的に状況を分析して真実に近づこうとする真壁と、関係者の心のうちを想像しながら真実を見出そうとする仲田という異なる考え方を持つ2人がともに行動するのだが、少しずつ真壁の考え方に変化が現れていくのである。

やがて、冬野ネガの家庭が貧困家庭であったことが判明していく。真壁自身シングルマザーの貧困家庭から刑事になった経歴を持つため、それでも殺人の言い訳にはならない、と見ていたのだが、少しずつ真実が明らかになるにつれて考え方を変えていく。

貧困は珍しくない。どんな過酷な状況でも努力すれば道は開ける。「母を楽にさせたい」という一心で這い上がってきた俺が言うのだから間違いないーーそう思っていた。…そして俺は、「母に楽をさせたい」という一心で、勉強しかしていなかった。母にだけ苦労をかけて、自分は努力する余裕があったのだ。

送検までの2日間の事件解決の物語ではあるがその間の真壁の人間的な成長の物語でもある。女子中学生2人の友情を描きながら、親のあり方や生活保護に対する世の中の偏見など多くの題材がつまった密度の濃い一冊。

【楽天ブックス】「希望が死んだ夜に」

「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2つのシステムという考え方をベースとして人間がどのように決断するのかを解明していく。

2つのシステムという考えを中心としている。システム1は自動的に高速で動き、コントロールできないもの。つまり僕らが第一印象とか、直感的にという言葉で表現するものである。システム2は頭を使わなければできないもののことを言う。本書ではこの2つのシステムを用いて、人間がどのように決断するのかを、多くのひねりの効いた質問を被験者に投げかけた結果の例とともに説明していく。

注目すべきは、システム2はより正確な答えを出すにもかかわらず、人間はシステム1の出す直感的な答えに飛びつきがちだと言うことである。その代表例として本書で紹介している例が次の問いである。

バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
バットはボールより1ドル高いです。
ではボールはいくらでしょう?

こちらの問いに、ハーバード大学などの有名大学の学生の50%以上が間違えたと言うのである。

そのほかにも、アンカリング効果、プライミング効果、損失回避、平均回帰、ピークエンドの法則などを説明している。システム1とシステム2の動きを理解するための、例が多数含まれているので、自分自身でそれを経験して納得しながら理解することができるし、飲み会のネタとしても面白いかもしれない。

実験の結果を掲載する必要があったためかもしれないが、若干似たような話の繰り返しに感じる部分もあったが、サービスを作る上で知っておくといいと思える人間の心理を多数紹介している。Webサイトの文言を考えたり、同僚を説得する際にぜひ取り入れていきたいと思った。

【楽天ブックス】「ファスト&スロー(上)」「ファスト&スロー(下)」

「[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61」中村和正

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインで人を動かすために利用できる手法を紹介している。

デザインの言語化能力、および提案力が向上することを期待して本書にたどり着いた。すでに知っているものや、知っているけれど呼び方を知らなかったもの、初めて聞いたものなどあり、どれもしっかり覚えてデザイン業務に活かしていきたいと思った。

マジカルナンバー
人が覚えていられる情報の数は4±1

ジャム効果
ジャムを6種類にした場合の購入率が30%だったのに対し24種類にすると3%になったということから選択肢が多いと購入率が低くなることを示した事例

カリギュラ効果
障壁が高いほどやる気が出る心理

バイヤーズリモース
購入後に必ず訪れる不安のこと。この不安を取り除くには先輩購入者の姿を見せたり、サンクスレターを送るという手法がある

ザイアンスの法則
繰り返すことで高まる信頼と高感度

テンション・リダクション 緊張状態が消滅したあとの注意が欠落した状態のこと。大きな買い物をしたあとに、ついでにもう一つオススメするのがこれを利用した方法。「色違いをもう一色」や「よく一緒に購入されている商品」などがこれにあたる

ツィガルニック効果
完了できなかったタスクのほうが、完了したタスクよりもよく覚えている傾向にあるという理論

カクテルパーテイ効果
騒がしいなかでも自分の名前や、興味のある話だけ集中して聞くことができる現象。「ようこそ、〇〇さん」のように、サイト上にユーザーの名前を含めるのがこれにあたる。

バンドワゴン効果
「みんなと同じ」が安心する心理。「ダウンロード数〇〇」や「ユーザー数〇〇人突破」がこれを利用したものである。

スノッブ効果
バンドワゴン効果とは反対の心理で、他人がもっているものとは同じものは欲しくないという心理。「初回限定」「〇〇県限定」がそれにあたる。

ウェブレン効果 値段が高いほど喜ばれること。ブランドなど「高いものを持っている」という見せびらかし意欲がそれにあたる。このような商品は安くしてしまうと逆に売れなくなる。

バーナム効果
曖昧な言葉を使って自分のことを言っているように感じる現象。「何をやっても英語を話せないあなたに」「楽しいことは好きな人」「意外とへこみやすいが、すぐに立ち直ることができる人」など、受け取る人の誰にでもあてはまると思われるような曖昧な言葉外使うことで自分のことを言っているように感じさせることができる。

ベビーフェイス効果
丸顔や大きな目を見ると、無邪気、無垢という印象を抱き、警戒感が薄れる心理。トップページに掲載する人物写真などがそれにあたる。

ディドロ効果
揃えたくなる心理。シリーズなど商品を同じ種類のセットにして販売することで、この効果を利用して販売を拡大することができる。

シャルパンティエ錯覚
数字よりもイメージに左右される心理。「鉄10kgと綿10kgはどちらが重い」などのように、じっくり考えればわかることだが印象が異なり、印象に左右されることが多い。

ピーク・エンドの法則
経験した記憶は、良かれ悪かれそのピークと、最後の体験で記憶されるということ。

ウィンザー効果
第三者から間接的に情報が伝わることで、信頼性が増す心理。クチコミやレビューなどがこれにあたる。

目標勾配仮説
ゴールが見えるとやる気が加速する心理。10個のスタンプカードよりも12個で最初から2つ押してあるスタンプカードの方が完了率が高いのがこちらを利用した施策。

組織規模でデザインをするためには、ただ単に綺麗なデザインを作れるだけでは不十分で、社長やプロダクトオーナーなどの意思決定権者に対してデザインを言語化して納得させることが必要である。そのために使用できる言葉が本書にはあふれていた。

【楽天ブックス】「[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61」

「All the Devils Are Here」Louise Penny

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Gamache家の面々はパリのレストランで緒に夕食をとったあとに、Gamache家の祖父がわりであるStephen Horowitzがひき逃げに会い昏睡状態となる。意図的にStephenを狙ったとして、その意図を探るうちに大きな陰謀に巻き込まれていく。

Armand Gamacheとその子供たちが協力して大きな陰謀を暴いていく物語。謎解きの物語であると同時に、家族の物語でもあり、カナダのケベック州とフランスのパリという大きなスケールで展開していく。印象的だったのは、長い間心を開かなかった息子DanielとArmandの関係である。今回の事件を機に、少しずつお互いの心の内を打ち上げ、やがて幼い頃のDanielの心の傷が明らかになっていくのである。

物語の随所にパリの街並みや地名が描かれるのも印象的だった。本書を読んだらきっとパリへぜひ行ってみたくなるだろう

あとになって気づいたことだがどうやらこれはArmand Gamacheを主人公とした物語の第16作品めということで、いきなり16作品めから読み始めてしまったいうことだ。とはいえすでに16作品目というのを感じさせないほどの一冊で完成された物語。ニューヨークタイムズのベストセラーということだがそれも納得である。これまでの15作品も少しずつ読み進めたいと思った。

「ゼロから作るDeep Leanrning Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装」斎藤康毅

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近流行りのディープラーニングについて深く理解したいと思って本書を手に取った。

パーセプトロンの考え方から実施のニューラルネットワークの考え方、そして実際の学習方法まで丁寧に解説している。数学の知識としては微分と行列の考え方がわかっていればある程度ついていけるのではないだろうか。GitHubからソースコードをダウンロードして実際に動作を確認して理解を深められる点がありがたい。デバッグモードで実行して途中の数値を確認することで理解を深めることができた。

ディープラーニングについての感想は、思っていたほど万能なものではなく学習というフェーズが鍵になることがわかり、全体的にまだまだ伸びしろのある分野だと感じた。誤差逆伝播法や畳み込みニューラルネットワークの内容についてはしっかり理解したとは言い難く理解を深めるには繰り返し読む必要性を感じた。とりあえず大事なことは繰り返し出てくるという前提で続編に進もうと思った。

【楽天ブックス】「ゼロから作るDeepLeanrning Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装」

「何者」朝井リョウ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第148回直木35賞受賞作品。

就職活動に悩む4人の大学生を描いている。

ルームシェアをする拓人(たくと)、光太郎(こうたろう)と、たまたまそのアパートの上の階に住んでいた理香(りか)とその留学友達瑞月(みづき)は、エントリーシートなどの作成とともに就職活動をしていた。それぞれの就職活動の進捗状況を伺いながら、強がりながらも、すこしずつそれぞれの行動に本性が滲み出てくる。そんななか、それぞれが、TwitterやInstagramを発信しており、そこで強がったり、人を見下したりしている様子が描かれるのである。

実際の就職活動がここまで陰鬱としたものかどうかは疑わしいし、ここまで今のこの世代の人たちがSNSに縛られているとは思えないが、誰もが本書で描かれているようなん、強がっている自信家の外向けの顔と、思い悩む弱いうち向けの顔、他人を思う優しい顔、などを使い分けているのかもしれない。

朝井リョウの作品は今まで2作品読んだが、どこか薄っぺらい印象を持っていたが、人の二面性を描いていて、一皮むけた感じがする。人を冷めた目で見る拓人(たくと)や、不器用にも就職活動を突き進む理香(りか)、そして就職活動をしている人々を「没個性」と語って夢に逃げる理香(りか)の恋人の隆良(たかよし)など、誰もが、いずれかの行動に共感を覚えるのではないだろうか。

若い作家の作品は、あるとき突然進化するが、朝井リョウにとって本書がそれにあたるように感じた。この先の作品も読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「何者」

「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」ジーナ・キーティング

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Netflixの創業から発展を描いていく。

今でこそユーザーの一人として楽しませてもらっているNetflix。元々はDVDの宅配レンタルとして始まったという漠然とした知識はあったが、アイデアとしてそこまで斬新とは思えない内容から始まったNetflixがどのような考えと施策でここまでの企業に成長をしたか知りたくて本書にたどり着いた。

創業者のランドルフとヘイスティングスによって試行錯誤しながら少しずつ規模を拡大していくなかで、もっとも物語として魅力できなのは、店舗によるレンタル大手のブロックバスターとの、熾烈な主導権争いでろう。既存店舗からオンラインへ消費者が移っていく中、Netflixに遅れてオンラインレンタルに踏み切ったブロックバスターが猛烈な追い上げを見せるのである。

本書はNeflixと同じぐらい、ブロックバスターのCEOであるアンティオコを中心として多くの主要人物の様子を描いている。ブロックバスターはやがて引退したアンティオコのあとを引き継いだキーズの愚策によって凋落するが、Netflisの発展は、ブロックバスターの存在なくしては語れないだろう。

後半の山場はユーザーにおすすめする映画の精度をあげるためにNetflixが100万ドルの賞金をかけて実施したアルゴリズムのコンテストである。最初はアルゴリズムに自信のある人々が世界中から参加して順位を競っていたが、やがて、すぐれたチームどうした融合してさらにいいものを作るようになる。

全身全霊をかけて自分の信じるものにかける生き方が本当に羨ましい。Netflixが、他のスタートアップと違うところは、創業メンバーの多くが、すでに社会人経験をある程度している人間だということだ。つまり、僕らも今からでもできるとうことである。そんな勇気をもらえる一冊。

【楽天ブックス】「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」

「マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ」山崎明

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
品質はいいのに「安くていいもの」しか作れない日本の企業を嘆き、BMWやロレックスなどを例に、ブランドの育て方を語っている。

高級なブランドを作ろうと思ったら何をすればいいだろう。高品質なものを高く売ることから始めたらいいだろうか。おそらく高級なブランドを作るために考えなければならないのは、品質と値段だけではないのだ。ブランドが確立されれば、品質によらず商品が高く売れる。本書は自動車ブランドを中心い多くの例を交えながら、ブランドを語っている。

序盤では、海外のブランドに焦点をあて、それらがどのようにブランドを確立していったかを説明している。例えば、BMWは50年ほど前までは高級と呼ばれるレベルではなかったが、「運転を楽しむ」という個性を追求した結果、今ではメルセデスと並ぶブランドに成長している。そのほかにもロレックスやポルシェ、フォルクスワーゲンのブランド戦略を説明している。

中盤以降は、日本のメーカーに目を向けて、なぜブランド価値が上がらないかを説明している。トヨタがレクサスブランドを別に作りながら、やっていることが変わらないため、結局レクサスはトヨタと同じ大衆車という認識を持たれてしまっている。ブランドの価値を理解して、買収してもブランドの名を残すフォルクスワーゲンなどの海外ブランドと比較して、買収するとともに自社名に変更してしまうソニーなど(コニカミノルタ買収の件)日本企業をブランドの理解が乏しいと嘆いているのである。

そんななか、最後にマツダについて、唯一日本で海外ブランドと渡り合えるポテンシャルを持っていると推している。最近多方面でマツダへの注目の高さを耳にするので、今後にぜひ期待したい。

本書を読んで、海外の有名な自動車ブランドの多くが、実はフォルクスワーゲンの傘下に入っていることに驚かされた。ベントレーもブガッティもランボルギーニも現在はフォルクスワーゲンなんだという。この驚きがまさに、フォルクスワーゲンのブランド戦略がうまくいっている証拠と言えるだろう。ブランドを作るために大切なことがたくさん詰まっている一冊。

【楽天ブックス】「マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ」

「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント」マーティ・ケーガン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
すぐれた製品の背後には必ず製品開発チームを率いて、顧客の抱える課題を解決する人間がいる、という著者の持つ信念をもとに、プロダクトマネジメントという役割について語る。

僕自身はデザイナーであるが、比較的プロダクトマネジメントという役割に近い位置におり、プロダクトマネジメントという役割を詳しく知ることはキャリアにおいてプラスになると考えて本書にたどりついた。

まず、序盤では、ロードマップを作って製品を開発する方法を「製品開発が失敗する方法」として否定しており、リーンやアジャイル型の開発を推奨している。しかし、多くの開発チームがリーンやアジャイルの考え方を十分に活かしきれていないとしている。

1.リスクには最後ではなく最初に取り組む。
2.製品の定義とデザインは、順を追ってではなく、協調させながら同時に実行される。
3.大切なのは機能を実装することではなく、問題解決をすることである。

ロードマップのデメリットは、開発チームの目を機能の実装に向けさせてしまう点がよくないのだという。本書では、ロードマップに変わるものとして、

製品のビジョンと戦略
ビジネスの目標

を挙げている。

本書を読んで知ったのは、プロダクトマネージャーが備えなければならない知識の多さ、そして注意しなければならない領域の広さである。本書ではプロダクトマネージャーが備えるべき資質・知識として

・顧客に関する深い知識
・データに関する深い知識
・自分のビジネスについての深い知識
・市場と業界についての深い知識
・頭が良く、創造的で、粘り強いこと

を挙げている。

中盤では、成功するためのプロセスとして、目標管理のためのOKRや、製品発見のための、プロトタイプやユーザーインタビューなどを説明している、それぞれが単独で一冊の本になりそうな分野を非常にコンパクトにまとまっていて、全体を網羅的に知りたい人にはちょうどいいのではないだろうか。

すぐに取り入れたいとおもった手法は、製品開発チームに顧客の利益に集中させる方法として書かれている。ワーキングバックワードプロセスと呼ばれるもので、架空のプレスリリースを考えるというものである。プレスリリースとして人々の注目を集めるためには、その製品がどのように顧客の生活を向上するかを簡潔に伝えなければならない。ワーキングバックワードプロセスとは、架空のプレスリリースを作って、製品開発チームに実現したいことを共通認識させるためのものである。同様の目的としてカスタマーレターという手法も紹介しているが、どちらも、目的が曖昧になったり、機能実装だけにフォーカスして、解決すべき課題を忘れがちな開発プロセスにおいて、明日からぜひとりいれたいと思った。

各章の間に挟まれているプロダクトマネージャーの物語として、AppleのiTunesやAdobeのCreative Cloudを率いた話も面白かった。

全体的に、翻訳がわかりにくくて読みにくい部分はあったが、プロダクトマネジメントについて包括的に説明している良書といえるだろう。機会があれば繰り返し読んでしっかり内容を理解したいと思った。

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「明るい夜に出かけて」佐藤多佳子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第30回(2017年)山本周五郎賞受賞作品。

大学を休学してコンビニのアルバイトに励んでいた富山(とみやま)の唯一の楽しみは、深夜のラジオ、オールナイトニッポンのアルコ&ピースの番組を聞くことだった。

富山(とみやま)は目的を失って深夜のコンビニアルバイトで生活をしているなか、コンビニに訪れた高校生の女子佐古田(さこだ)が、同じリスナーであることから少しずつ近づいていく。また、同じように毎晩顔をあわせるなかで、コンビニの先輩であった鹿沢(かざわ)にも少しずつ心を開いていく。

そして少しずつ、高校で居場所を探している佐古田(さこだ)、歌い手として自分を表現している鹿沢(かざわ)の物語も描かれていく。自分のやりたいことを探しながら、現実のなかで試行錯誤している若者の様子が描かれている。

オールナイトニッポンという名前だけは聞いたことにあるラジオ番組に興味を持った。僕自身も中学生の頃よくラジオを聞いたが、深夜のラジオが作り出す独特の雰囲気をまた味わいたくなった。ラジオ番組を中心とした友人との交流のなかで少しずつ自分のやりたいことを見つけていく様子が爽やかではないものの、なんとなく非常に現実味があって、懐かしく感じた。

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