「火のないところに煙は」芦沢央

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者は自分の一つの不思議な体験をベースにホラー体験を集めて本にすることにした。そんな体験を綴った物語である。

第一話の「染み」のみが著者自身が体験した出来事で、以降は少しずつ関係者や読者から集まってきた奇妙な体験を語っている。どれも怖い話ではあるが、同じぐらいその周囲の登場人物のふるまいが興味深い。どれも身近な人は過去の知り合いを思い浮かべてしまう。それぐらいそれぞれの人物描写に説得力があった。

個人的に印象的だったのが第四話で拝み屋が語る言葉である。

その霊との縁を作りたくなければ、寄り添うように語りかけてはいけません。

本書がどこまで実話なのかはわからないが、著者自身の体験が他の体験を呼び寄せているかのように感じる。霊やホラー体験に限らず、あるものに意識を向けるとそれに関連する人や情報が集まってくるというのはよくあることだろう。呼び寄せたくないものは普段はできる限り考えないようにするべきだと感じた。

個人的に印象に残っているホラー系小説は小野不由美の「残穢」なのだが、本書も現代のホラーという印象で面白くて一気に読んでしまった。

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「The Diamond Eye」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父親のいない息子に射撃を教えるために、射撃のコースを受けていたMila Pavlichenkoは、ドイツがソ連に侵攻したことで歴史家になる夢を保留して祖国を守るために兵士に志願する。

若くしてシングルマザーとなったMilaが狙撃手としてドイツ兵と戦う物語である。物語は若くして子を持ち夫との離婚手続きを進めながらも歴史家を目指すMilaが、ドイツがソ連への侵攻を開始したことによって大きく人生を狂わされ、やがて多くの仲間と共に狙撃手として活躍する様子と、一方でその数年後、Milaを含むソ連の兵士たちがアメリカのホワイトハウスを訪れる様子を並行して描いている。

ドイツ兵と戦う戦場での物語では、少しずつ信頼できる仲間と出会い、女性ながらも確固たる地位を築いていく様子が描かれる。一方、ホワイトハウスででは、女性が戦場で狙撃手として戦うことに理解のないアメリカ人を相手に、ヨーロッパ戦線にアメリカも加わってもらうことの必要性を各地で訴えるMilaと、それを理解しようとするルーズベルト夫人の様子が描かれ、また、Milaを大統領殺人の犯人に仕立て上げようとするる悪意ある視線が描かれていく。

序盤はオデッサが美しい。本書はロシアのウクライナ侵攻以前に執筆されたということであるが、Milaがウクライナ出身でありながらもロシア人として埃を持って戦っている点が、現在の状況を考えるとなんとも悲しく感じる。

全体を通じて、Milaはどこにでもいる普通の母親だったことがわかる。普通の母親が、息子、友人、家族のためにできることをしようとした結果、狙撃手となったのである。最初はフィクションだと思って読み進めていたが、あとがきによると実はかなり実話に近く、実際にMilaはエレノア・ルーズベルトと親しくしていたことがわかる。エレノア・ルーズベルトという人物に対してももっと知りたくなった。

また、The HuntressのNinaもそうだが、ソ連は女性を兵士として戦場に送り出していた数少ない国だったのだと知った。今回の物語のなかでまたMilaの友人たちで魅力的な登場人物が出ており、著者もあとがきでそのうちその女性たちを主人公に物語を書きたいと書いてあったので楽しみである。

「星落ちて、なお」澤田瞳子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第165回直木賞受賞作品。明治時代、日本画家の娘として生まれたとよの画家としての人生を描く。

明治から大正にかけての6つの時期のとよの人生を描く。画鬼とよばれた父暁斎(きょうさい)の元で育ち、絵を学んでそだったとよは、暁斎(きょうさい)が亡くなったことで、自分の絵のスタイルや、その生き方を悩む様子を描いている。

また、とよだけでなく同じように父の影響を受けて、自らのスタイルに固執する兄周三郎(しゅうさぶろう)や、逆に絵の才能を開花させられなくて早々に居場所を失った弟の記六(きろく)など、画家の家に生まれたさまざな人生が見える。

日本画家として知っているのはせいぜい、狩野家、歌川家程度だったが、本書を読むと、歴史に名を残せなかった多くの画家たちがいたことがわかる。そして、現代の多くの芸術家と同じように、流行りや廃りのなかで自らのスタイルと求められるスタイルのなかで葛藤していたことがわかる。

後半には、関東大震災の場面があり、東北大震災と同じように、当時の家族を心配し、家まで歩いて行く様子が描かれている。物語の中で関東大震災に触れるのは初めてなので新鮮である。随分昔の話のように感じるが実際にはすでに電車が走っていたという事実に気付かされた。

全体的に、芸術家としての生き方の難しさを改めて感じさせられた。

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「宝島」真藤順丈

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第160回直木賞受賞作品。戦後のアメリカの占領下の沖縄で生きるグスク、レイ、ヤマコの3人の若者たちを描く。

物語の舞台は1950年代の沖縄から始まる。戦後の混乱の続くなかで、若者たちは戦果アギヤーとよばれる活動に励む。戦果アギヤーとは米軍基地からの窃盗を働く行為であり、食料品などを盗んで地元の人に配ることなどもあったことから、むしろ英雄視されていたというのである。

序盤から、自分がどれほど沖縄の歴史に疎かったかを思い知らされる。1970年以降に生まれた自分には、沖縄とは一時期アメリカの領土となっていたものがのちに変換された土地という程度の認識しかない。しかし、その混乱のなかで育ってきた若者たちにとっては、まさに人生を左右する出来事だったのである。この物語はそんな混乱の沖縄で思春期を迎えた3人の幼馴染、グスク、レイ、ヤマコの目を通じて一気に物語に引き込んでいく。

3人は、戦果アギヤーの際に行方不明になった3人の英雄のオンちゃんの影を探しながら、自分たち自身もオンちゃんのような沖縄の英雄になりたいという思いを抱いて生きていく。グスクは警察官になり、ヤマコは先生になり、レイは反乱分子となりながらそれぞれの答えを見つけようとする。

やがて、沖縄返還の話が持ち上がる中で、島民も軍の存在に依存する人たちと、軍の圧政に苦しい返還を待ち望むものなど異なる考え方が生まれる中、アメリカ軍の傲慢なふるまいに怒りが積み重なっていく。

さてはアメリカーがやったか、また島民を轢いたな。
基地から吹き荒れる人災に公正な裁きがくだされないことに、住民たちはとっくに忍耐の限界を迎えている。

そんななか3人は英雄オンちゃんの消息に近づいていくのである。

オンちゃんは、帰ってきてたんだなあ

今まで、同じ日本にありながらもほとんど知らなかった沖縄の辿ってきた歴史を、3人の若者の感情と共に、生々しいほどに感じることができた。情けないことにゴサの動乱もVXガス放出事件も、軍用機墜落事故についてもこの物語を読んで初めて知った。

27年間のアメリカ統治がそこで暮らす人々に大きな爪痕を残したことやその時代を生きた人々の強さを感じられる作品。

戦果アギヤー
アメリカ統治下時代の沖縄において、米軍基地からの窃盗行為を行う者たちを意味する言葉。「戦果を挙げる者」という意味である。(Wikipedia「戦果アギヤー」)

宮森小学校米軍機墜落事故
1959年6月30日にアメリカ合衆国統治下の沖縄・石川市(現:うるま市)で発生したアメリカ空軍機による航空事故。(Wikipedia「宮森小学校米軍機墜落事故」)

レッドハット作戦
沖縄本島の米軍基地知花弾薬庫に極秘裏に毒ガスが貯蔵されていることが明るみに出たのをきっかけに、これを島外に移送するため1971年に実施されたアメリカ軍の一連の作業である。(Wikipedia「レッドハット作戦」)

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「異文化理解力」エリン・メイヤー


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
異文化に対する取り組み方を語る。

先日読んだ「NO RULES: 世界一「自由」な会社、NETFLIX 」において、著者が異文化理解力の考えに触れており、もっと深く知りたいと思った本書を手に取った。

本書の冒頭でも語っているように、「気が利く」という存在は「文化」に依存しする。つまり、ある文化で「気が利く」人間やふるまいが、他の文化ではまったく異なる存在として受け取られることがありえるということである。つまり、グローバルビジネスの機会が増えるに従って、異文化を理解する能力へのニーズが高まっっているのである。

本書ではそんな文化の違いを理解する鍵を、8つの指標に基づいて例を交えながら説明している。

  • コミュニケーション(ローコンテキストかハイコンテキスト、)
  • 評価(直接的なネガティブフィードバックか間接的なネガティブフィードバック)
  • 説得(原理優先か応用優先か)
  • リード(平等主義か階層主義か)
  • 決断(合意志向かトップダウン式)
  • 信頼(タスクベースか関係ベースか)
  • 見解の相違(対立型か対立回避型か)
  • スケジュール(直接的な時間か柔軟な時間か)

よく日本人は「空気を読む」とか、海外では発言しないと誰も聞いてくれない、と聞くが、それは「コミュニケーション」にあたる部分で、文化の違いとは上にあるようにコミュニケーションだけが原因ではない。例えば同じハイコンテキストなコミュニケーションスタイルを持つ中国人と日本人は、すべてにおいてうまくいくわけではない。なぜなら決断方法も異なるからである。中国はトップダウン式に決断し、日本は合意による決断をする傾向があるのである。

本書では8つの指標を様々な例や実体験を交えて説明し、さらにその違いに対する対処方法まで紹介している。

ちなみに、この指標はその国民のすべてを一つの型にはめるものではなくあくまでも傾向を捉えるためのもので、同じ国民の中にもそれぞれ個性があり違いがあることを否定しているわけではない。どんな傾向があるかを知り、事前に心構えを持つことによって不必要な行き違いをを少なくすることができるのである。

日本とその他の国の差だけでなく、日本全体の傾向や、日本の職場で自分が居心地が悪いと感じる時の理由にも気づくことができた。僕自身は信頼をよりタスクベースで作る傾向があり、日本人全体はより関係ベースなのだと気づいた。だから自分は飲み会や歓迎会など不必要だと思う一方、多くの人が今でもそのような会の催しにこだわり続けるのだろう。

これから少しずつグローバルな関わりが増える中で、相手の文化によってある程度の心構えを持つことだけでなく、どんな文化出身の上司や同僚の言動にも戸惑わないで受け止められることが大事だと感じた。常に手元に置いておきたいと思った。

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「A Rule Against Murder」Louise Penny

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ArmandとReine-Marieの夫婦は結婚記念日を祝うためにホテルに滞在していた。しかし台風の晩に別の宿泊客のMorrow一家のJuliaが亡くなったことで、Armandは捜査を始める。

真相解明のために、ホテルのスタッフやMorrow一家の家族から話を聞いていく中で、Morrow一家の家族の闇が見えてくる。Morrow家は、かつてそのホテルに大きな寄附をし、すでに他界した父親の銅像のお披露目のために集まっていた。お互いへの思いを打ち明けていくなかでThomas,Julia,Peter,Mariannnaの4人の兄弟の親の愛への渇望が明らかになっていく。

そんなMorrow家のなかで再婚相手としてMorrow家の一員となりその家族の様子を一歩離れた位置から見ているFinneyの視点が面白い。

The only thing money really buys? Space. A bigger house, a bigger car, a larger hotel room. But it doesn't even buy comfort. No one complains more than the rich and entitled.
お金で買えるものはなんだとおもうかい?場所だ。大きな家、大きな車、大きなホテルの部屋。しかし、それでは快適さは得られない。お金持ちや地位のある人ほど不平を言うものだ。

また、Armandの父親の過去も明らかになる。「臆病者」と呼ばれた父親を持ったことで周囲の人間からは馬鹿にされたり、同情されたりするが、Armandの父親に対するの思いの告白から違ったの側面が見えてくる。それは自らの過ちを認めて行動を変えられる尊敬すべき人間の姿である。

父親になると、子供のまでで常に自信に満ちている人間でありたいという思いがあるのは事実である。しかし、その一方で、間違っていたらそれを認めて謝罪し、自らの行動正せる人間でありたい、と改めて感じた。

正直、主人公の刑事の滞在中のホテルで殺人事件が起きるという古臭い設定に、序盤でがっかりしかけたが、最終的には両親の愛情に飢えた子供たちと、子供を愛した親の悩みながら生きる姿を感じることができた。

「くもをさがす」西加奈子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コロナ禍で移住先のバンクーバーで乳がんが見つかり、その治療の様子を描く。

直木賞受賞作品の「サラバ!」が有名な著者が、エッセイとして自らの乳がんの治療の経緯と、バンクーバーの生活の様子を描く。

乳がんの診断から順を追って描いている。そのなかで、バンクーバー生活の中で著者が気づいた、日本との文化の違い、医療の違いなどが見えてくる。無責任なバンクーバーのスタッフたちに憤慨する一面があるかと思えば、そのほがらかなスタッフたちに勇気をもらう場面もあり、日本とバンクーバーを比較してどちらが良い悪いと単純に言えないことを改めて感じさせられる。

また、乳がんという女性特有の病気を患った人間の視点や生活も伝わってくる。抗がん剤治療や放射線治療のつらさのなかで、多くの友人たちに恵まれて乗り越えている様子が感じられる。

両胸があったところに、2本の赤い線が引かれていた。真っ直ぐ、定規で引いたような線だった。…本当に綺麗な傷跡だった。
書くことを、身体がどうしても拒むほどのいにくい瞬間があったし、書くことを、やはり身体がどうしても許してくれない美しい瞬間もあった。

病気に悩んでいる人が勇気をもらえる内容である。

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「13階段」高野和明

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
犯行当時の記憶を失った死刑囚の無実を証明するために、刑務官の南郷正二(なんごうしょうじ)は出所したばかりの三上淳一(みかみじゅんいち)とともに調査を始める。

刑務官の南郷正二(なんごうしょうじ)と三上淳一(みかみじゅんいち)が調査をする。その過程で淳一(じゅんいち)の刑務所生活の原因となった2年前の傷害致死事件と、南郷(なんごう)の刑務官になる経緯など、少しずつ二人の過去が明らかになっていく。

興味深いのが南郷(なんごう)の刑務官の葛藤である。南郷(なんごう)は死刑囚の処刑を担当したことから、2人の人間を殺したのに裁かれていないと悩み続けているのである。処刑を担当する刑務官の様子も描かれるが、処刑を担当する刑務官が、自分の罪悪感から逃れるために死刑囚の過去の犯罪を知ろうとするところが興味深い。

最後はそれまで散りばめられていた伏線が回収されていくが、若干詰め込みすぎな印象もある。南郷(なんごう)を中心に、世間にあまり知られていない刑務官の職務やその葛藤に焦点をあてて、物語自体をもう少し単純にしてもよかったのかもしれない。

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「スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術」ジェフ・サザーランド

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スクラムの手法を確立した著者がスクラムの生まれた経緯やその仕組みについて語る。

序盤はFBIやCIAなど、これまでのウォーターフォールにプロジェクトの進め方がうまくいかない事例を交えながら、スクラムが誕生するまでを説明している。

第二章ではチームについて解説しており、良いチームを作るための重要なことを説明している。そんななか、改めて強く頭に留めておきたいと感じたのは次の3つである

  • 主体性
  • 機能横断的
  • 非難は無意味

今後、個人批判については、本書の次のフレーズを使いたいと思った。

プレーヤーを憎むな、ゲームを憎め

中盤からは実際の進め方を説明している。著者がデイリースタンドアップでの問いかけを次のようにしている点が印象的だった。デイリースタンドアップがただの報告会になっているなら、チームの妨げを語るのが良いだろう。

  • 1.チームがスプリントを終了するために、昨日何をしたか
  • 2.チームがスプリントを終了するために、今日何をするか
  • 3.チームの妨げになっていることは何か

また、複数の作業を同時にこなそうとするマルチタスキングを完全に否定している。

マルチタスクは失敗の元
得意だからマルチタスキングをするのではありません。注意力が散漫なため同時にあれこれやろうとするのです。他のことに手をつけようとする衝動を制御できないということです。

スクラムの中で各自が幸せであることを重要視している点も印象的だった。本書ではスプリントが終わるごとに次の4つの問いに応えることを勧めている。

  • 1.会社内での自分の役割について、一から五のスケールで表すとどう感じているか。
  • 2.同じスケールで、会社全体についてどう感じているか。
  • 3.なぜそう感じるのか
  • 4.何を一つ変えれば次のスプリントでもっと幸せだと感じられるか。

昨今はどこにいってもプロジェクトをスクラムで進めている組織ばかりだが、より効果的にスクラムを利用するためには、このやり方に至った理由を理解することが重要だと改めて感じた。

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「NO RULES: 世界一「自由」な会社、NETFLIX」リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現在AppleやGoogleなどのGAFAと同列に語られるNetflixのカルチャーについて語る。

本書はネットフリックスの創業者であるリード・ヘイスティングスとエリン・メイヤーが交互に語ることで進んでいく。リード・ヘイスティングスは以前の会社で会社の規則を細かく規定して行った結果、多くの優秀な人材やクリエイティブな環境が失われて行ったと感じており、その反省がネットフリックスの文化に反映されているという。

まずネットフリックスは社内の能力密度を上げることを目指している。そんな文化を築くために繰り返し出てくる言葉がが次の2つである。

フリーダム&レスポンシビリティ(自由と責任)
コンテキストによるリーダーシップ

本書では休暇、退職、情報共有、フィードバック、経費の承認などの事例を交えながら、ネットフリックスのカルチャーとそこに至った経緯を説明していく。どれも驚かされながらも、納得のいくものばかりである。そんななか、特に取り入れたいと思ったのは、フィードバックの文化である。フィードバックで意識する要素をネットフリックスでは4Aとして次のように定義している。

  • 1.相手を助けようという気持ちで Aim to Assist
  • 2.行動変化を促す Actionable
  • 3.感謝する Appreciat
  • 4.取捨選択 Accept of Discard

最後には文化の違いなども考慮して5つめの適応させる Adaptを追加している。やはりフィードバックの前に良いところを伝えたり、オブラートに包んだりすることは、相手の育ってきた文化によっては必要なのだろう。

また、イノベーションを生み出すためのイノベーションサイクルも印象的である。

  • 1.「反対意見を募る」あるいはアイデアを「周知する」
  • 2.壮大な計画は、まず試してみる
  • 3.「情報に通じたキャプテン」として賭けに出る
  • 4.成功したら祝杯をあげ、失敗したら公表する。
承認など要らない、判断するのは自分なのだ

どれもさっそくできる範囲で実践してみたいと思った。会社の文化を変えるのは難しくても、自分が行動することは今日からできるはずだと感じた。

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「ジェフ・ベゾス 発明と急成長をくりかえすAmazonをいかに生み育てたのか」ブラッド・ストーン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アマゾンの創業者でありCEOのジェフ・ベゾスを中心に彼の関わってきた事業や私生活を描く。

面白いのはアマゾンの物語ではなく、ジェフ・ベゾスの本であるということだ。そして、事業やサービスをベースにそこで起こった出来事を描いている点が興味深い、それゆえに、ジェフベゾスとトランプ大統領とのやりとりや、ジェフ・ベゾスが所有する他の会社、ワシントンポストやブルーオリジンについても知ることができた。

もちろんアマゾンの事業の過程やそこで起きる困難についても同じように興味深く読むことができた。アマゾン内広告、マーケットプレイスの話からは、アマゾンも常にフェイスブック、グーグルの影響を受けながら事業を展開していることが伝わってきたし、また中国やインドなど国によって文化が異なるため、それぞれマーケットを広げるためには特有の難しさがあることが改めて伝わってきた。

個人的にはブルーオリジンとスペースXの話が面白かった。今後もアマゾンの動向に注意していきたいと思った。

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「ローマ人の物語 終わりの始まり」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
紀元160年から210年頃のローマ帝国の様子を描く、ハドリアヌスの後、アントニヌス・ピウスからマルクス・アウレリウスに始まり、セヴェルスまでの時代である。

今回は「終わりの始まり」ということで、すでにローマ帝国の滅亡を知っている著者の立場から、それを予感させる動きに目を向けさせている。

マルクスの死の誤報に、皇帝を名乗って謀反を起こしたアヴィディウス・カシウスの言葉が特に印象的である。

哀れなローマ帝国よ。すでに持っている資産の保持しか頭にない者どもと、新たに資産家になることしか考えない者どもに苦しまされているのだ。哀れなマルクスよ。偉大なる徳の持ち主ではあるが、寛容な指導者という評判を欲するあまりに、貪欲な者どもが闊歩するのを許している。

指導者は常に寛容さと厳しさの間で揺れ動き、どの立場を取っても非難されることになるのだろう。

マルクス・アウレリウスにだけでなく、セヴェルスも含めて、皇帝たちの苦悩を見る中で、改めて国とは大きな組織でしかないことを認識させられる。つまり、会社やチームなどの運営のあらゆる面にも同じ問題が起こる可能性があり、彼らの苦悩の中に現代に活かせることはたくさんなるのだ。

時に指導者は、市民や後継者に理解されない政略でも、未来を考えて遂行しなければならないのである。そしてそのためには、その有効性を確信していなければならない。

どの皇帝の行動も理解できる部分があり、改めて大きな人を束ねることの難しさを感じた。

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「影響力の武器[第三飯]」ロバート・B・チャルディーニ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
社会心理学者の著者が、人から承諾を引き出すテクニックにはどんなものがあるのかを語る。

人が承諾をしやすいパターンを6つの章に分けて解説している。次の6つである。

  • 返報性
  • コミットメントと一貫性
  • 社会的証明
  • 好意
  • 権威
  • 希少性

いずれの例についても、それに関連するエピソード、研究結果だけでなく、防衛法についても語っている。つまり、本書を読むことによって、このパターンを利用するだけでなく、このパターンで利用されないようにすることもできるのである。

どのエピソードも面白かったが、個人的に印象的だったのは、玩具メーカーがクリスマス後の売上の落ち込みを防ぐためにたどり着いた戦略である。コミットメントと一貫性を利用したその戦略には感心するしかない。

ある意味、最後の章で紹介されていた次の読者からのエピソードに、返報性、コミットメントと一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性の全ての要素が含まれている気がする。

スーパーマーケットにちょっとした試飲コーナーがありました。感じのいい女の子が飲み物を差し出してくれました。飲んでみると悪くありません。それからその飲み物の感想を聞かれました。「美味しい」と答えたら、四缶パックの購入を勧められました。… 購入は断りました。けれども、そのセールスウーマンは諦めませんでした。「一缶だけでもいかがでしょう?」と言いました。でも私も諦めませんでした。
そうしたら彼女は、その飲み物がブラジルからの輸入品で、今後のこのスーパーマーケットで手に入るかどうかはわからないと言いました。

さっそく自分の仕事や趣味や、毎日の人間関係のなかに取り入れられないか、考えてみようと思った。

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「SIMPLE RULES「仕事が早い人」はここまでシンプルに考える」ドナルド・サル/キャスリーン・アイゼンハート

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
単純なルールによって成功したさまざまな事例を紹介し、シンプルなルールの力とその方法を説明する。

イエズス会やミツバチの行動など、あらゆる組織の例をあげて、シンプルなルールが機能することを説明していく。中盤ではビジネスシーンを中心に成功した例を紹介しており、後半ではうつ病や婚活などプライベートでの例を紹介している。

そんななかでシンプルなルールを3つのカテゴリに分けている。

  • 境界線ルール
  • 優先順位ルール
  • 停止ルール

である。

シンプルなルール=簡単にできるルール

ではないということである。シンプルなルールだからこそ、外部から押し付けるのではなく、現場の経験や長い時間をかけて発展や試行錯誤が重要なのである。シンプルなルールをつくる基本として4つ挙げている

  • 「自分の経験」をとことん利用する
  • 「他社の経験」をうまく拝借する
  • 「科学的証拠」で巧みに補強する
  • 「話しあい」でレベルを上げる

である。

改めてシンプルなルールはを作ることで行動を起こしやすくなると気づいた。今までも無意識に作っているものなどあったが、さっそく意識して会社やチームのコミュニケーション指標や毎日の趣味にとりいれてみたいと思った。

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「四十九日のレシピ」伊吹有喜

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
亡くなった妻乙美(おとみ)は夫に四十九日までのタスクを与えていた。夫と別れて実家に戻ってきた娘の百合子(ゆりこ)と、妻の愉快な友人たちと共に熱田良平(あつたりょうへい)は四十九日の準備を始める。

失意の熱田良平(あつたりょうへい)の元に、井本(いもと)と名乗る19歳の女性が訪れることから物語は始まる。乙美(おとみ)が生前関わっていた互助活動で知り合った井本(いもと)に、自分が死んだ後にやるべきことを頼んでいたのだという。良平(りょうへい)へ井本(いもと)に促されて49日の準備を始め、そこに娘の百合子(ゆりこ)やお手伝いのハルミが加わることで少しずつ賑やかになっていくのである。

楽しい雰囲気の展開のなかに、人生の深みを感じさせてくれる。特に新鮮さを感じるのは乙美(おとみ)は良平(りょうへい)の後妻であり、娘の百合子(ゆりこ)も子供がいないということである。

子供を持つ人生だけがあるべき姿でない、そんな生き方の多様性を教えてくれる。結局人をうらやむのではなく自分の人生のなかでできることに楽しみを見出すことが、幸せになる近道なのだと改めて感じた。

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「The Song of Achilles」Madeline Miller

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Patroclusは親の期待に応えることができず、知り合いの息子を誤って殺害したことで追放され、そこでAchillesと出会うのである。

PatroclusとAchillesが出会い、PatroclusはAchillesの美しさと強さに惹かれていく。やがて、スパルタの王Menelausの妻で絶世の美女であるHelenがトロイの王子パリスに連れ去られたことによりギリシャ軍とトロイ軍の間でトロイア戦争が始まる。AchillesとPatroclusはどちらもAchillesの母Thetisによって、トロイア戦争で自分達が死ぬと知らされながらも、栄誉のために参加を決意するのである。

常に強い存在感を示すのがAchillesの母で神に近い存在のThetisである。人間であるPatroclusを嫌うThetisは一方で息子であるAchillesの人生を常に見守り、その人生を良い方向に導こうとするのである。子離れできない母が神に近い存在だからなんともタチが悪い。

やがて、トロイア戦争はAgamemnonとAchillesの衝突によって、少しずつトロイア軍が優勢になっていく。Patroclusは自らのプライドを優先しようとしないAchillesのせいで多くの戦友が戦死していく様子に苛立ちを感じ始めるのである。

トロイア戦争の流れはの大きな流れは変わらない。しかし、AchillesとPatroclusの心の葛藤を中心に描かれている点が新しい。その一方で、それぞれの重要な戦いはなんともあっさり進む。たとえばAchillesとHectorとの戦いも例外ではない。

トロイア戦争という、神話の中でも有名な出来事で、結末も分かりきっている物語である。それにもかかわらず視点を変えるだけでここまで新鮮に面白く描けることに改めて驚かされた。

「銀行とデザイン デザインを企業文化に浸透させるために」金沢洋/金子直樹/堀佑子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
三井住友銀行(以下SMBC)のインハウスデザイナーが社内の文化を変えてデザインの強い組織にする過程を描く。

他の会社でインハウスデザイナーがどのようにデザインの文化を組織に広めていくのかを知りたくて本書にたどりついた。

世の中の変化に危機感を感じたSMBCは2016年にようやくインハウスデザイナーの採用を開始する。2017年までに入社した3人のデザイナーが本書の著者であり、「デザイナーは見た目を整える人」という考えを持っていた組織にデザインの文化を広げていく過程を説明している。

面白かったのはSMBCのデザインチームはデザイナーズミッションを掲げていることである。

  • 高いプレゼンス
  • デザイン経営の中心
  • 一流の人材、一流の品質
  • 力を発揮する環境は自ら創る

組織が大きくなればなるほど、単に会社やサービスのミッションやビジョンや中期目標だけだはなく、チームや部署などのミドルサイズのユニットにもミッションや目標、原則を掲げることが重要である。それによって毎日の作業に忙殺されるだけでなくチームとしてのまとまりを持って動けるのである。

デザインシステムの5原則として次のように定義している。

  • 一貫性
  • わかりやすさ
  • インタラクション
  • 社会的責任
  • クラフツマンシップ

一般的ではあるし、インタラクションという言葉がここに含まれるのは疑問ではあるが、その辺は組織次第である。人まねではなく組織にあった原則を考え抜くことが必要なのだろう

最後の章の「デザイナーとして意識していること」はどれも共感することばかりである。

  • インハウスデザイナーの強み
  • 本質的なデザインの成果
  • バランス感覚
  • あきらめない姿勢
  • マネジメント層への定期報告
  • デザイナー以外にデザインの価値を伝える
  • 考えが保守的な人にはユーザーの声を伝える
  • 「ふわっとした考え」はすぐに可視化

改めて単に上流から下流までのデザイン業務をこなすだけでなく、社内に文化を浸透させていくことの難しさと重要さを感じた。

また、本書の執筆に関わったSMBCのデザイナーたちがみんな、HCD-Net人間中心設計専門家資格を保持していることも印象的だった。資格自体を取得したとしても、知識や技術が極端に変わるわけではないが、それによって意気込みや安心感が周囲に伝わるなら、メリットはあるのだと感じた。

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「みんなではじめるデザイン批評」アーロン・イリザリー/アダム・コナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
長年デザイン批評に関わってきた著者がデザイン批評を機能させるための方法を語る。

デザインレビューを導入しようとしても、自己防衛に走る人が多くなかなかうまくいかないことが多い。そんな状態の解決策があるのではないかと思い本書に辿り着いた。

本書では、レビューで起こりがちな反応を次の3つに分類しており、必要なのは批評だけだと語る。

  • 反応型
  • 指示型
  • 批評

批評のベストプラクティスとして次の6つを挙げており、それぞれについて詳細に語る。

  • 質問で始める
  • フィルターを通す
  • 思い込みをしない
  • 押し付けない
  • 長所について話す
  • 視点について話す

繰り返し触れているのは、批評とは常に目的に対しての分析であるべきだということと、目的とは次の四つの要素から構成されるということである

  • ペルソナ
  • シナリオ
  • 目標
  • 原則

全体的に翻訳よくなかったのでわかりにくいが、目標は目的、原則は仮説デザインコンセプトという言葉のほうが日本のデザイン文化にしっくりくると感じた。

その他、批評でやってはいけないことなどについても触れている。

  • フィードバックを依頼したのに、聴かない
  • 賞賛や承認が欲しくてフィードバックを求める
  • フィードバックをまったく求めない

批評をする側のベストプラクティス

  • 目的を忘れない
  • 聴いて、考えてから反応する
  • 基本に戻る
  • 参加する

シャレットデザインスタジオなどの発想手法についても触れていたのでしっかり覚えておきたい。

全体的に、改めて批評を文化として取り入れるためには、良いファシリテーションが重要だと感じた。ファシリターターが覚えておくべき批評の4つのルールを挙げている。

  • 誰もが平等
  • 誰もが批評家
  • 問題解決を避ける
  • 変更についての決定を急がない

なかでも特に難しいのは、「問題解決を避ける」である。人間の脳は分析的思考と創造的思考を同時には行わないために、解決策を考え始めると分析的思考ができなくなるというのである。

デザイン・レビューに時間かける人は多く、デザイン・レビューは往々にして批評と同じと考えられている。だが、デザイン・レビューは批評ではない。デザイン・レビューはしばしば、プロセスを先に進める、あるいは実際に稼働させることを目指して、何らかの承認得るために計画される。

本書ではデザイン・レビューとデザイン批評を別物と考えており、どのように定義して分けて考えているのか曖昧だった。個人的には日本語で使われているデザイン・レビューとは必ずしも承認を求めるための場ではなく、本書の考え方はデザイン・レビューでも使えると感じた。ただ、建設的に批評の場と承認の場を混在すべきでないという考えは間違いないので、この辺を解決していきたい。

どの考えもさっそく実践に取り入れていきたい。また最後の章に扱いにくい人の対処方法があるので、必要になった時に戻ってきたい。

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「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ帝国の道路、下水、医療、教育について語る。

ローマ帝国をここまで歴史に沿って説明してきたが、本書ではインフラに焦点をあてて解説している。本書のサブタイトルである「すべての道はローマに通ず」という言葉は、歴史に興味がない人でも聞いたことがあるぐらい有名な言葉で、それ自体がどれほどローマ帝国のインフラが優れていたかを語っていることだろう。

明らかになっているローマ帝国のインフラと著者の考察が、国に限らず、組織やコミュニティなど、多くの人が共同で活動する団体をどのように整備していくべきかを考える上で、新鮮な視点を提供してくれる。

自国の防衛という最も重要な目的を、異民族との往来を断つことによって実現するか、それとも、自国内の人々の往来を促進することによって実現するか。

同じ時代に東方で万里の長城という壁を作った人々がいる一方、人々のつながりをつくる道路と橋を作ることにこだわったローマ人の考え方が面白い。

インフラとは、経済力があるからやるのではなく、インフラを重要と考えるからやるのだ…

これまでローマ帝国の歴史を見てきて、リーダーのあるべき姿など様々なことを知った。そんななか、これまでの戦いの歴史と比較すると退屈に聞こえがちな「インフラ」という本書のテーマだが、予想以上に多くの学びがあった。

さて、ここまでしっかりとしたインフラを備えた国がどうやって滅びてしまったのか、そのきっかけは何だったのか。シリーズは次からローマ帝国の滅亡へと進んでいくので、さらに続きを読み進めるのが楽しみになった。

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「だれでもデザイン 未来をつくる教室」山中俊治

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインエンジニアの著者が中高生向けに開いたデザインの教室の様子を記録している。

著者自身プロダクトデザインを多く手がけていることもあってか、序盤はスケッチをすることの重要性を説明している。

MacbookAirのネジの向きや、初代マッキントッシュの形の話は興味深く、製造過程を意識するということの重要性を教えてもらった。また、アメリカと日本の食文化の違いで、スプーンの理想の形が変わるという話も、文化の違いを考えることが良いデザインを生み出すためには必要だと改めて教えてもらった。

全体的に学生多態に向けたデザインの授業であるが、そのなかでアイデアを発展させる方法を、デザインという作業に初めて触れる学生たちに教えているところが興味深い。僕自身仕事で、デザイン初心者に接する機会は多々あるので、その際にデザインを説明する言葉として、本書で出てくるいくつかの言葉を覚えておきたいと思った。

アイデアって時間がかかる。今日体験したように短時間で頭を活性化することも効果的ではありますが、ちょっと間をおいたりすることも大切です。
自分に自信がないと、どうしても「誰からも文句を言われないもの」を作ろうとしちゃうんだよね。でもそれは無難でつまらないものに至る道でしかない。
誰もが知っているようなかっこいい車は、大体ひとり、または2,3人でデザインしています。
完成前のデザインはいいところも悪いところもあるのが当たり前なんだけど、悪いところは目につきやすいからそればっかり集中していいところを殺してしまうんです。その結果、悪くはないけど、なんか普通だねってものになったり、なにがしたかったのかわからなくなっちゃう。

合間にいくつか著者が手がけたプロダクトの話が挿入されている。そんななか紹介されている、義足の女の子の走る姿が美しい。ただ単に役に立つものを作るだけではなく、使いたいと思えるもの、そして、ファッションのように仲間内で話題に上ったり、選ぶことを楽しめるものへと発展させるのがデザインの進化だと感じた。

なかなかWebやアプリなどのスクリーン上のデザインの世界にいると気づかない、デザインの視点を与えてくれた。

関連書籍
「アイデアの作り方」ジェームス・W・ヤング

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