オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者が多くの政治家たちをインタビューし、その会話のなかで疑問に思ったことなどを素直につづる。
「インパラの朝」の旅行記の女性ならではの独特かつ素直な視点と、深く考えて生きている様子に好感を抱いて、本作品にも同様のものを期待して手にとったのだが、読み始めてすぐ実は旅行記ではないと気づき、読むのをやめようかとも思ったのだが、読み進めるうちに本作品も悪くないと思い始めた。
政治関連の本というとどうしても、漠然とした政策や理念の羅列になってしまって何一つ具体的なことが見えてこないのだが、本書ではそんな僕らが思っていることを著者が代弁してくれる。わからないことをはっきりと「わからない」と言ってくれる著者の姿勢が新鮮である。政治家の説明だけ聞くと正論に聞こえるけど、なんだかそれは正論過ぎて実現しそうにない、と言ってくれるところもなんだかほっとする。
そして、日本の状況をアメリカや北欧など、著者の海外での経験と照らし合わせて比較して見せてくれる。著者は別に「ああすべき」とか「こうすべき」と語っているわけではないが、「どうすればいいんだろう?」と読者が素直に考えてしまうような、少し敬遠したくなるような政治や政策を近くに運んできてくれるようなそんな一冊である。
政治や政策を熟知している人には別に薦められるような内容でもないが、イマイチ政治に関心がない、という人は読んでみるといいのではないだろうか。
【楽天ブックス】「Beフラット」
カテゴリー: ★4つ
「現代アート、超入門!」藤田令伊
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
西洋絵画の良さはわかるが現代アートは何がいいのかさっぱりわからない。という人は多いだろう。実際僕もそんななかの一人。一体現代アートはどうやって楽しめばいいのか?そんな人にまさにうってつけの一冊。
著者は元々は普通のサラリーマンだったという経歴ゆえに、普通の人の目線に立って解説を進めていくため、難しい話は一切ない。ピカソの「アヴィニヨンの娘たち」、デュシャンの「泉」、アンディ・ウォーホルの「ブリロボックス」など節目となった作品や、マグリットの「光の帝国」やマーク・ロスコの作品のように意味不明なものまで、その楽しみ方を非常にわかりやすく解説している。
すでに現代アートを楽しめている人にはほとんど意味のない内容だが、現代アートに興味を持ちつつも「さっぱりわからない」という人が一皮向けるのにはちょうどいい一冊。個人的に本書を読んで思ったのは、もはや現代アートにおいては「アート」=「美術」という等式は成り立たないということ。
個人的には現代アートとは、常に人々の既成概念を破壊しようとして進化しているように感じた。できるだけ現代アートの動向にもアンテナを張っておきたいと思う。
複雑なことを考えずに現代アートを楽しもう、と思えるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「現代アート、超入門!」
「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」金哲彦
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リクルートランニングクラブで小出義雄監督とともにコーチとして活躍した著者が、フルマラソンの魅力やトレーニングの基礎知識、そして、タイプ別のトレーニングメニューを紹介している。
先日読んだ小出義雄監督の「マラソンは毎日走っても完走できない」とは異なって本書の著者はインターバルトレーニングを推奨していないなど、若干異なる部分もあって戸惑うが、全体的には非常に読みやすい。本書では基本的な項目の説明ののち、3つのタイプの人間に合ったトレーニングメニューをフルマラソンの100日前から掲載している。何から始めればいいかわからないようなマラソン初心者にとっても、非常に具体的でわかりやすい内容と言えるだろう。
個人的には、どのメニューも外での練習を基本としていてジムなどで行う場合などの代替練習などにも触れてほしいと感じたりもしたが、基本的には満足のいく内容である。むしろトレーニングメニューは永久保存版にしたいくらいである。
【楽天ブックス】「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」
「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」マイケル・ルイス
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
サブプライム・ローンにまつわる大変動を予期し、それをもとに財をなす準備をあらかじめ整えていた一握りの人物に焦点をあて、その過程と心の内を描く。
残念ながら、僕自身が本書で書かれていることをすべて理解ししたなどとは言えない。というのも、全体的に著者の別の作品「マネーボール」同様非常に読みやすい文体で書かれているが、聞き慣れない金融商品や専門用語など調べなければ分からないことや、調べてもわからないこともまた多く含まれているのだ。それでも、「勝ち組」の側にいた彼らが感じた金融という虚像に対するなんともやるせない空気が本書を読むことで伝わってくるのだ。
そしてまた、漠然とではあるが世界中がアメリカ発の住宅好況に酔っていた2000年代半ばにその裏で何が起こっていたかを理解することもできるだろう。メディアなどで語られるサブプライムローン問題は非常に簡潔で、あまりにもわかりやすいために逆に「なんでこんなわかりきったことが起こったのか?」とさえ思えてしまうが、実際に起こっていたのは、ひたすら複雑になった債権と、その複雑さについていけずに不当な格付けをする格付け機関。そして、それをなんの疑問も持たずに信じきっていたトレーダー達という構図なのである。言ってみれば、購入相手を見つけるためにわかり難く構成された債権のわかりにくさに世界が飲み込まれてしまったようなものである。
正直、最初の時点での僕の感想は、自らを賢いと思い込んでいるトレーダーたちさえも気づかなかったことに目をつけ、そんなエリート達を出し抜くなんてなんて爽快なことなのだろう、というものだっが、実際にスティーヴ・アイズマンやマイケル・バーリ達を襲ったのは「勝利の爽快感」などというものではなく、形も根拠もないものを信じ気って混乱へと突き進んだ世の中へ対する虚しさのようである。
しっかり理解するためにはまだまだ僕の知識は足りない。類する本をいくつも読む必要がありそうだ。
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「ハーバードからの贈り物」
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカのハーバード大学では最後の授業で、教授たちは、これから社会に巣立つ学生たちにむかって、未来への助言をかねた話をするのだそうだ。本書はそんなハーバード大学の教授たちが学生たちに語る話をまとめたものである。
自分にもし過去に戻ってやり直せるとしたなら、高校時代、どこの大学に進むか、ということをもう一度真剣に考えて進路を決めたい。Facebookのマークザッカーバーグの物語やGoogleの創立者の物語のなかで見える、アメリカの学校の雰囲気は僕にそう思わせる。
そんなアメリカの名門ハーバードの教授たちが話すというのだからなんとも興味をひかれる。そもそも僕の大学に時代はどうだったのだろう。そんなありがたい話はなかった。そもそもどれが最後の授業なのかさえ覚え得ていない。
さて、本書では集められた教授たちの話のいくつかは、教授自身の話であり、いくつかは教授の家族、友人の話である。どれもページ数にしてわずか数ページ。それでも間違いなくいくつかは心に残ると思う。 卒業してもう何年も経っているが読んでもまったく問題ない。個人的に印象に残っているのは、こんな話。
あなたは毎日の生活のなかでいろんな人と関わっている。なかには一日中顔を合わせている職場の同僚もいれば、ほとんど言葉を交わさないコンビニの店員もいる。あなたは、そんな関わり合いのなかで、その人は自分をどう認識するか?というもの。人と人とのかかわりあいのすべてが、その人に自分をポジティブに認識してもらうチャンスなのだという。
こうして改めて反芻するだけで涙が出てくる。そんなありがたい話が盛りだくさんの一冊。
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「マラソンは毎日走っても完走できない 「ゆっくり」「速く」「長く」で目指す42.195キロ」小出義雄
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高橋尚子をオリンピック金メダルに導いたことで有名な、小出義雄監督が、マラソン初心者がやりがちな間違えや、効果的に記録を伸ばすためのトレーニングを紹介する。
なんといっても本書の帯のコピー「マラソンの練習が分かっていないから30kmあたりで歩いてしまう人が多いんだよね」。この言葉にやられてしまった。実際僕が唯一挑戦したフルマラソンは26km付近で失速。その後は歩いてゴールするのがやっと。毎週のようにスカッシュやサッカーをやっていて体力に自信のある僕のよこを、おそらくマラソン以外のスポーツなど一切していないだろう年配の人たちが最後はどんどん抜いて行くのだ。恐らくマラソンに対する考えを間違えていたのだろう、と漠然と感じさせてくれる経験だった。
さて、本書のなかにはその答えに近いものが書かれている。一度もフルマラソンになど挑戦したことのない人が思い描く「マラソン」とは、せいぜい学生時代の校内マラソンの延長で、5キロかせいぜい10キロ程度なのだろう。そういう人は、肺活量を鍛えるためにひたすら走りがちだが、本書ではむしろ「足をつくる」ということを重視している。
肺活量はたしかに勝負のなかでは疎かにできなものなんだろうが、完走という目標をもっているひとにはたしかに優先度の低いものなのだろう。本書では、「足をつくる」ことを意識しつつ、その目標をハーフマラソン、フルマラソン、と、目標となるレース別にメニューを紹介している。
個人的には、そのトレーニングが、どの筋肉を鍛え、どういう状況で役に立つか、といった内容が書かれていなかったのが残念だが、それでも、読めばいやでもモチベーションがあがってくるに違いない。
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「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流世界最強マネジメント」フェラン・ソリアーノ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マンチェスターユナイテッドやレアルマドリードにチームの強さの上でも収益の面でも大きく遅れをとったスペインの名門FCバルセロナ。2003年に最高責任者に就任した著者が、FCバルセロナが世界最強のチームになるまでの過程を論理的に説明していく。
本書はサッカーのチームをその題材として描いているが、内容はいろんなことに応用できるだろう。印象的だったのは第4章の「リーダーシップ」である。この章ではチームを4つのタイプに分類し、それぞれのタイプに応じて指導者が取るべきリーダーシップのタイプについて語っている。
たとえば、チームのタイプが「能力はあるが意欲に欠けるチーム」であれば指導者は「メンバーの意見を聞き決断を下す」役割を担うべきで、チームのタイプが「能力があり意欲にあふれたチーム」であるならば、「メンバーに任務を委任し、摩擦が起きそうなときだけ解決に向けて調整をする」役割となる。というようにである。
一体世の中のどれほどの「リーダー」が、自分のチームのタイプに応じて自らの振る舞いを変えているだろうか。「リーダーは変わる必要がある」ということを漠然と理解している人もいるだろうが、ここまではっきりと示してくれるのは非常に新鮮である。そして、本書ではリーダーのタイプと合わせて、実際にバルセロナで指揮をとった、ライカールトやグアルディオラの言動にも触れているのである。僕自身、過去転職を繰り返して多くの自己顕示欲旺盛な「リーダー」を見てきたが、本書はそんな彼らに突きつけて見せたい内容に溢れている。
さて、「リーダーシップ」の内容にだけ触れたが、それ以外にも興味深い内容ばかりだ。「チーム作り」や「戦略」「報酬のあり方」など、もちろんいずれもサッカーを基に話が進められているが、どれも現実に応用可能だろう。
全体的には、バルセロナの成績だけでなく、所属した選手や周囲のビッグクラブ、たとえば銀河系軍団のレアル・マドリードなどに触れているため、サッカーを知らない人間がどれほど内容を楽しめるかはやや疑問だが、個人的にはお薦めの一冊である。
【楽天ブックス】「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流世界最強マネジメント」
「The Drawing of the Three」Stephen King
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Dark Towerに向かってただひたすら浜辺を歩くガンマンの目の前にひとつのドアが現れる。そのドアを開けるとどうやらそれは誰か別の人間の目で別の世界を見ているようだ。
「The Dark Tower」シリーズの第2弾である。このシリーズを読む前の予備知識として第1弾の「The Gunslinger」は非常に退屈だが、本作品以降は面白くなる、と聞いていたのだが、正直第1弾の退屈さは予想を上回る程で、続きを読もうか躊躇するほどだった。しかし、本作品。ガンマンであるRolandの旅が今後も不毛な大地を舞台に続くのかと思いきや、突然現れたドアによって、突然現代と繋がって非常にスリルあふれる展開になる。
最初のドアから見つめる世界は、飛行機に乗って、これから麻薬の密輸をしようとしている男の視点、いはゆる僕らの言う「現代」であった。そしてすぐにRolandは自分はただドアを通してその視点から世界を見つめるだけでなく、その男自身の行動を操れることを知る。そしてその世界からこちらの砂漠に物を持ってくることができることも…。
そして、そのRolandに視点を奪われながら、密輸を企てる男EddieはRolandの力を借りて危機を乗り越えながら、やがてマフィアの争いに巻き込まれていく。かなり思い切った展開で、前作と本作の間に著者のなかの本シリーズに対する大きな変化が感じら違和感もあるが、面白くなったことは間違いない。
本作品中ではそのドアが鍵になるのだが全体で3つのドアが現れる。2つ目のドアから見えるのは車椅子の女性の視点。やがてRolandは「何故、この時代なのか?」「なぜこの人間なのか?」とそのドアが自らを導く意味について考えるようになる。Rolandの過去はいまだ謎のままだが、そのドアを通してRolandが見て、ときには操作する人物達それぞれのドラマが本作品を非常に面白くしている。次回作が楽しみになる一冊。
「NO LIMIT 自分を超える方法」栗城史多
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世界七大陸最高峰の単独・無酸素登頂に挑む登山家栗城史多(くりきのぶかず)の写真と声を集めている。
正直内容はお世辞にも濃いとは言えない。文字は大きいし写真ばかりだし、30分もあれば読み終えてしまえるような内容である。しかしだ、挑んでいることがことだけに、書かれている言葉が重いのだ。
僕らには、彼が挑んでいることがどれほど大変なのか想像すらできない、「無酸素登頂が普通の登頂とどのように違うのかもわからない。そんな状態で、言葉が重く伝わってくる、なんて軽々しく言うのもおこがましいが、彼が本書の中で「何かを伝えたい」の「何か」を部分的かもしれないが、受け取った。と考えていいのではないだろうか。
さて、本書のなかで、栗城史多(くりきのぶかず)の過去の挑戦のなかでいくつか心に残っていることをつづっているのだと思うが、なかでも印象的だったのは、2009年のエベレスト登頂の失敗を大きな糧として挙げている点だろう。
僕も比較的楽観的に物事を考え、苦難さえも楽しめる人間だから、考え方に重なる部分もあった。物事をマイナスに考えてしまう人が読めばいろいろ参考になるのではないだろうか。
なんかもっと大きいことに挑戦したくなる一冊だ。
【楽天ブックス】「NO LIMIT 自分を超える方法」
「聖書の名画はなぜこんなにおもしろいのか」井出洋一郎
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
聖書の内容を知っていれば西洋絵画はもっと楽しめるはず。そういう考えでよく絵画に扱われるエピソードや、有名な絵画を例にとって解説している。
旧約聖書を中心に解説し、それぞれのエピソードで有名な絵、そしてその絵の登場人物の判断の仕方を解説している。当たり前のことであるが、各々のエピソードに登場する人物に対して、それぞれの画家の持つ印象は異なる。それゆえにその人物はそれを描く画家によって風貌が異なる。そういったなかで、どうやってその人物をそれと判断するか、と考えたときに、「アットリビュート」という物の存在が重要になる。
「アットリビュート」とは「○○を持っているのは○○だ」という考え方である。必ずしもそれは物ではなく時にはその風貌。例えば年老いているはず、とか若いはず。という要素として現れてくる。驚いたのは、絵画のなかに善と悪が存在する場合、右に位置するものが正しいということ。それゆえに「右(right)」=「正しい(right)」なんだそうだ。
本書で初めて知った印象的な画家は、アンドレア・マンティーニャ。ぜひ今後もしっかりとチェックしたい。
いずれにしても聖書の物語をしっかりと把握しておかないと理解しにくいものばかりで、まだまだ学ぶことは一杯あり先は長い、と感じさせてくれる一冊であった。
【楽天ブックス】「聖書の名画はなぜこんなに面白いのか」
「天地明察」冲方丁
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第31回吉川英治文学新人賞受賞作品。第7回本屋大賞受賞作品。
江戸時代、碁打ちである渋川春海(しぶかははるみ)はその一方で数学や星にも興味を持って精進する。そんな多方面に精進するその姿勢ゆえにやがて、国を揺るがす大きな事業に関わることになる。
物語は指導碁をしていた折に、老中酒井に「北極星を見て参れ」と命を受けて、春海(はるみ)の人生は動き出す。その北極出地の最中に聞いたこんな言葉が、その後春海(はるみ)の人生に大きく関わることになる。
実はこのくだりを読む瞬間に初めて、いままで暦の歴史というものを考えたことがなかったことに気づいた。現在使われている暦が、グレゴリウ暦と呼ばれることや、閏年の適用方法などは知っているが、ではそれが過去どのような経緯を経て世界共通の正しい暦として浸透したかは考えたことがなかったのである。それでも、今持っている知識。たとえば、一日の長さや、地球の楕円形の公転軌道から、それが非常に複雑な計算と、何年物太陽の観察なしには成し遂げられないものだということはわかる。
ある意味「掴み」としては十分である。僕のような理系人間はそのまま一気に物語に持っていかれてしまうことだろう。
物語は渋川春海(しぶかわはるみ)がその生涯に成し遂げた多くのことを非常に読みやすく面白く描いているが、そこで強調されるのは、春海(はるみ)の探究心や好奇心といった物事に対する姿勢だけでなく、春海(はるみ)の物事の達成をするのに欠かせなかった、多くの人々との出会いである。
水戸光国、関孝和、本因坊道策、保科正之、酒井忠清。いずれもどこかで聞いたことあるような名前ではあるが、正直、本作品を読むまでほとんど知らない存在だった。彼らの助けがあってこと、借りて春海(はるみ)が偉大なことを成し遂げたということで、それぞれの当時の立場や実績などにも非常に興味をかきたてられた。
「明察」という言葉は僕らにとって馴染みのある言葉ではない。本作品中でその言葉が使われるのは、数学者同士が問題を出し合い、自分の出した問題に対して、正答という意味で「明察」という言葉が使われている。
そして、本書のタイトルの「天地明察」とは。それは、天と地の動きを明確に察するという意味。現代においてでさえそれはもはや神の領域のような響きさえ感じるその偉業。当時それはどれほど困難なことだったのだろうか。また、世の中を変えるような偉業に一生かけて挑み続ける生涯のなんと充実していることだろう。情熱と充実感、人生の意味などについて考えさせる爽快な読み心地の一冊。
【楽天ブックス】「天地明察」
「君の望む死に方」石持浅海
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
社長である日向貞則(ひなたさだのり)は、医師に余命6ヶ月と診断されたことによって、一つの計画を実行することにする。それは、自分に恨みを持つ社員梶間(かじま)に自分を殺させることだ。そして実行のために、その人物とカムフラージュのために何人かの幹部候補社員たちを熱海の保養所に集める。
なによりもその設定自体が面白いだろう。「誰かに自分を殺させる。」こんな設定はそうそうあるものではない。ひょっとしたらそんなあり得ない設定に抵抗を抱く人もいるかもしれないが、すでに何冊か石持浅海作品を読んでいる僕にとっては、これから展開される物語に対して期待感が高まるのを感じた。
本作品も石持浅海らしく保養所という狭い空間のなかで進んでいく。そこに集められた5人の幹部候補社員と、社長である日向(ひなた)。補佐役の専務。そして、その場をコントロールするために日向(ひなた)に招かれた3人である。その3人のうちの一人が、碓氷優佳(うすいゆか)なのである。読んだことある読者ならすぐに気づくことだろう。この物語は石持浅海の別の作品「扉は閉ざされたまま」と同じ世界で、その数年後を描いているのだ。そして「扉は閉ざされたまま」でも碓氷優佳(うすいゆか)が重要な役を演じた。
さて、二泊三日の研修という雰囲気でイベントは進みながらも、2人の駆け引きが進む。どうやって日向(ひなた)を合宿中に殺してなおかつ自分は警察に捕まらないように、と考える梶間(かじま)。そして、どうやって梶間(かじま)に「復讐を果たした」と思わせながら、自分を殺させて、そのうえで警察に捕まることなく会社を継いでもらおうかと考える日向(ひなた)。
とはいえ、「扉は閉ざされたまま」を読んだことのある人間には最後の展開が予想がついてしまうことだろうう。最終的に碓氷優佳(うすいゆか)がすべてを解決してしまうのだろう、と。それを知ったうえでなお先が楽しみなのは、2人の意図をどうやって碓氷優佳(うすいゆか)が上回って解決するかというその爽快感への期待ゆえなのだ。結果が見えているのにここまで楽しいのは、必ず事件が解決されるとわかっている探偵物語と似ているかもしれない。
そしてその期待は最後まで裏切られることはない。正直学ぶもののない物語のための物語と切って捨てることはできる、そんな人によって好みの分かれる作品ではあるが、それを補うだけの魅力を感じるのは、単に僕の好みが知的な女性、という理由のせいだけではきっとない。
過去の石持作品の雰囲気が好きで、それを再度味わいたくて本書を手に取った人には決して後悔させない一冊。個人的には先に「扉は閉ざされたまま」を読んでから挑戦して欲しいもの
【楽天ブックス】「君の望む死に方」
「My Sister’s Keeper」Jodi Picoult
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
骨髄白血病を患うKateを救うために遺伝子操作をして生まれたAnna。両親は、Annaは輸血や骨髄移植などを繰り返させてKateの命を永らえさせる。しかしある日、Annaは自分の意思で自分の行動を決める権利があるはず。と、両親に対して訴訟を起こすことを決意する。
なんという重いテーマなんだろう。言ってしまえば「命の比較」である。1つの命を生きながらえさせるために、1人の健康な人間に痛みや不自由を強いることが正しいのか。本作品で扱われているのは、そんな軽く恐れを抱くほど重いテーマである。前半部分は回想シーンを繰り返しながら、Kateが白血病と診断されて、Annaを生む決意をする両親のSaraとBryan。そして、KateとAnnaの兄Jessiの生活など、常に死と隣り合わせの人間が家族のなかにいるがゆえに、普通の生活とはかけ離れた日常を送らざるを得ない家族の生活が描かれる。
本作品の注目すべきなのはその重いテーマだけでなく、そのテーマをより現実的に見せる、さまざまな描写である。例えば病院に検査や手術に向かうたびに自分の部屋を過剰なまでにきれいにするKateや、自分の言う事をKateの言う事ほどしっかりと聞いてもらえないと感じる兄Jessiなどがそれである。
そして後半は舞台を法廷に移す。証人として証言するそれぞれの心のうち。特に父親であるBryanの証言は涙を誘う。。
最後まで証言することを拒むAnna。そして訴訟を起こしたAnnaの本当の意図は最後まで明らかにならない。訴訟を通じて次第に心を通わせあう弁護士のCampbellとAnna。Campbellの連れている犬の名前がJugdeという点が個人的にはヒットである。
僕ら日本人からすればAnnaの生まれる過程。つまり遺伝子操作による出産という部分にも興味を持ってしまうのだが、残念ながらその点には本作品は触れていない。このへんがアメリカと日本の文化の違いだろうか。
なんにしても後半は涙を誘うシーン満載である。
「チーム」堂場瞬一
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
箱根駅伝への出場を逃した大学の中から選ばれて作られる学連選抜。複雑な思いを抱えて各大学から集まった選手たちが一つのチームとなって箱根駅伝での優勝を目指す。
真面目に見たことなどないが、箱根駅伝と言えばもはや知らないものはいないだろうともうぐらいの正月の一大イベントで、そこで起きる様々なドラマ。襷を繋ぐことにかける選手たちの熱い思いもなんとなく想像できる。しかし、そのイベントの知名度のわりにはそれを物語とした小説やドラマなど、本作品に出会うまで聞いたことすらなかった。本作品を読むと駅伝というのが非常に物語に向いていると感じるのだが、ひょっとしたらそれは著者の力量によるものなのかもしれない。
単純に箱根駅伝を扱うなら、それはおそらくそのなかの出場大学に焦点をあてるのだろうが、本作品が選んだのは「学連選抜」というチーム。どんなチームスポーツにおいても選抜チームのつくる記録というのは常に、チームスポーツの意義に疑問を投げかける可能性を持つ。単純に優れた選手だけを集めて勝ててしまうなら、はたしてそれはチームスポーツなのか?長年かけて育んだチームワークの勝利への貢献度が低いのであれば、それはもはや個人競技なのではないか、そんな疑問である。
さて、そんな学連選抜チームのなかでも、本作品は特に4人の選手を中心に描いている。昨年10区で失速し、今年こそリベンジを、と思いながらも大学自体は箱根出場を浦(うら)。「化け物」と呼ばれるほど優れていながらも所属した大学のほかの選手の力不足で箱根出場を逃した、山城(やましろ)。かつては浦(うら)と同じ陸上部に所属しながらも、進んだ大学のほかの選手の志の低さに流され、本気で気持ちを入れては知ることをしなくなった門脇(かどわき)、そして実力はありながらも1年生と経験の乏しい朝倉(あさくら)である。特に際立っているのは、箱根はいずれ走るマラソンへの調整と位置づけ、チームワークを軽んじる山城(やましろ)だろうか。
それでもそこはこういうった物語の常で、衝突を繰り返しながらも少しずつ一つにまとまっていくのであるが、その過程でみえる駅伝というスポーツの異質な面や、箱根駅伝というスポーツの奥深さが非常に好奇心を刺激する。
なんか来年の正月はちょっとテレビを見そうである。一気読みの一冊。
【楽天ブックス】「チーム」
「ツイッターノミクス」タラ・ハント
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
本書で一貫して主張しているのは「ウッフィーを増やす」ということである。「ウッフィー」とは何か。明確に本書でそれが定義されているわけではないが、「信頼」とか「安心」とか「尊敬」といった言葉で置き換えられそうなもの。
著者が言うのは、現在ほど、SNSが浸透している今、利益をあげようとするなら、「ユーザー数を増やす」「利益をあげる」「価格をあげる」とか、過去の慣習に従うのではなく、ウッフィーを増やすことこそその近道だと説くのである。
この考え方には僕自身非常に納得できるものがある。例えば映画を例にとってみても、映画館に足を運ぶ人の多くはCMで観た映像だけを頼りに決断して、実際に面白かったかどうかを知る手段はほとんどなかったが、インターネットが浸透した今では、映画を観終わった人がすぐにその感想を情報を発信してしまうのである。「クチコミ」の広まるスピードがインターネット以前と以後では何倍にもあがってしまったのである。
つまりそれは、言い換えるならインターネット以前の時代では「印象」だけで顧客を得ることのできていたものが、今は「内容」を伴わなければ不可能になったおいうことなのだ。
著者の体験をもとに、あらゆるウッフィーの増やし方と、自らの成功例、そして、いくつかのアメリカの企業を例にとってウッフィーを増やすことに成功した例や失敗した例を挙げている。どの例もとても興味深い。
またアメリカの企業のSNSに関する認知上は日本のそれよりはるかに進んでいることがわかる。日本にも速く追随して欲しいものだ。
さて、この「ウッフィーを増やす」という感覚。企業であれ個人であれ、その重要性を知っている人はすでにその何年も実践しているのだろう。そして、きっとその重要性を知らない人はいつまで経っても理解できないのだろう。結局それは人を信じるということに繋がってくるのだから。
なんにせよ、多くの企業がウッフィーの重要性を理解し、それを獲得することを第一に考え始めたら、すべてに人にとって過ごしやすい世界になるだろうと感じた。
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「決断のとき」ジョージ・W・ブッシュ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュ。2001年から2009年の8年の8年の間に下した大きな決断を振り返って描く。
時系列ではなくいくつかのテーマを順に描いている。そのうちのいくつかはアメリカの政治や経済に詳しくないとなかなか理解するのが難しいものだったが、他は興味深く読むことができた。多くの人と同じように、僕にとって興味深かったのは、第7章「アフガニスタン」、第8章「イラク」、第9章「カトリーナ」、そして9.11を描いた第5章「炎の日」である。
いずれも、ニュースや新聞では見れなかった動きや、大統領の葛藤が見える。
描かれている内容のいくつかは薄れた記憶を鮮明にしたし、いくつかは、当時まったく知らずすごしていた自分の無知さを知ることになり、そのうちいくつかは僕が知っている内容と実は微妙に異なっていて、メディアというフィルタを通じて日本に届けられる内容と、大統領という決断を下した当事者に見えている内容の見え方が大きく違うことに、改めて、「見え方の違う現実」というものを意識させられた。
全体を通じて感じたのは、ブッシュ大統領が、常に「自分がどう見えるか」「自分をどう見せるか」というのを強く意識しているということだ。こういう書き方をすると鏡ばかり見ている自意識過剰な人間のように聞こえてしまうかもしれないが、彼が常に気をつけているのは、自分の自信のなさを少しでもカメラの前で見せてしまうことが、国民に大きな影響を与えるということを知っているからである。
例えば、イラク問題について語る際、彼は常に4つのカテゴリーの視聴者を意識していたという。第一は戦争遂行と戦費の支えとして欠かせないアメリカ国民、第二は命の危険を冒している米軍兵士、第三はイラク国民。そして第四が敵であるテロリストである。そんな彼の注意深い言動が、結果的に成功したことも失敗したこともある。いずれも、表情やわずかな仕草が世界に影響を与えてしまう立場にいる人間にしか語れない内容で、非常に印象的である。
本書ではほかにも肝細胞問題などの簡単には答えの出ない問題に触れている。多くの人種や宗教を抱える国だからこそ起こる異なる考え、日本の政治が簡単そうに思えてしまう。
また、文章からはいまなお、その決断の瞬間、結果的に思い通りに進まなかった出来事を悲しみとともに振り返るブッシュの重いが読み取れる。
そして、また、本書のなかで引用される言葉の数々。自分の決断が多くの人々に影響を与えるという立場で大きな責任を背負ってきた人間が言うだけに、どの言葉も重い。
そして、最後はホワイトハウスを出たあとのことも書かれている。世界の中心から、穏やかな生活へと。その変化の大きさはとても僕ら一般人が想像できるようなレベルのものではないだろう。
多くの日本人は最終的にブッシュ大統領を好ましく思っていないのだと思う。その理由がなぜだかはわからないが、本書はその考えを多少なりとも変えることになるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「決断のとき(上)」、】「決断のとき(下)」
「秋葉原事件 加藤智大の軌跡」中島岳志
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
記憶に新しい秋葉原連続無差別殺傷事件の犯人加藤智大(かとうともひろ)。彼はなぜ追い詰められていったのか、彼はなぜ事件を起こさなければならなかったのか、そんな視点で加藤智大(かとうともひろ)を見つめていく。
時系列で加藤の成長の過程が説明されていく。いきなりページをめくる手を鈍らせたのは、小学校、中学校時代の母親の虐待のような厳しいしつけである。
虐待や厳しいしつけを受けたからといって、そんな人すべてが犯罪を起こすわけではないから結局本人の責任。という人もいるだろう。しかし、これほどその厳しいしつけの影響が加藤の性格に如実に現れているを目の当たりにすると、加藤が成人しているとはいえ両親への責任の追及をすべきなのではないかと感じてしまう。また、そこになにか負の連鎖のようなものも感じてしまった。大学に行かなかったことで自分たちの生活に満足していない両親が、過渡な期待を子供たちに押し付けることで、形は違えどやはり次の世代にも不幸な人生が形作られていくのだ。
しかし、高校以降の加藤の生活には、僕の思っていた以上に、素敵な友人たちがいたようだ。。「きっと悩みを打ち明ける相手もいなかったのだろう」と思っていただけに、その点は逆に驚かされた。
以降も、転々とする職場や、ネットの掲示板上にも加藤の気持ちを理解してくれようとしてくれる人がいるという事実になんだか救われた気がする。
しかし、残念ながらそれらの好意に上手に甘えることのできない加藤。この性格もおそらく家庭での育てられかたによって、形作られたのだろう。そんなしつけを強要した母親や、同じ母親のもとで成長した加藤の弟は事件に対してどう思うのか、実際そのような手記が出ているということなので、そちらもぜひ機会があれば触れてみたいと思った。
終盤に差し掛かるにつれて、結局事件を起こした原因はなんだったのか。誰が悪いのか。何の罪なのか。今後同じような事件を起こさないためには世の中はどう変わるべきなのか、と考えてしまう。しかし、そこには当然明確な答えなどない。
次第に追い詰められていく加藤が、犯行直前にも掲示板に書き込みを続けていた。
きっと誰でも、彼に共感する部分を持っているのだと思う。自分の不幸の原因がわからなくて、何が自分を幸せにしてくれるのかわからなくて、そんな鬱憤を社会や人のせいにして、自分のなかの孤独を常に感じて、自分を理解してくれる誰かと話したくて・・・。誰しもきっとそんな感覚に覚えがあるだろう。それでもそういう人たちが「今のところ」このような事件を起こしたり自殺したりしないのは、その気持ちを一時的にであれやわらげてくれる存在、機会を周囲に持っているからだろう。
さて、僕はこの本を読んでどうすべきか・・・。なんか、僕は割と甘えている人間に冷たかったり厳しかったりするのだが、くだらない愚痴や、退屈な人の話でも、これからはもう少ししっかり聞いてあげようかな、と少し思った。
【楽天ブックス】「秋葉原事件 加藤智大の軌跡」
「外科医 須磨久善」海堂尊
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本人でありながら世界からも注目を浴びる心臓外科医。日本初のバチスタ手術に挑んだ男でもある。その心臓外科医としての地位を固める過程が綴られる。
著者海堂尊はドラマや映画にもなった「チームバチスタの栄光」で一躍有名になり自信も医者であるという異例の経歴の持ち主である。そんな彼が出した実際の外科医についての本ということで興味を抱かずにはいられなかった。
本書では今までに須磨(すま)が越えてきたいくつかの壁について語っている。序盤に触れられているのは須磨(すま)が海外からのオファーによって経験することになった公開手術である。
似たような状況をドラマなどで見たことがあるからある程度は想像できるものの、実際にはそれは通常の手術とは比べ物にならないくらい多くのことを気にかけながら進めなければいけない手術で、緊張やプレッシャーも信じられないほどのものだということがわかるだろう。
それ以外のいくつもの困難とわずかなチャンスをものにしながらその地位を固めていく須磨(すま)。そこでは日本の医学会の保守的で異端児を嫌う風潮が何度となく触れられている。
そして後半はバチスタ手術について触れている。現在バチスタ手術の状況や、臓器移植が実質ほとんど行われていないという実情が、須磨にバチスタ手術の必要性を強く感じさせたこと。など、日本最初のバチスタ手術が本当に多くの人の助けを借り、また、費用いくつかの解決しなければいけない問題を越えてようやく実現されたものであることがわかる。
医療現場の実情だけでなく、ぶれない須磨(すま)の生き方も本書を通じて見えてくる。自分を複雑化しないで単純に「外科医」という基本から逸脱しないで物事を考え決断するその姿勢には見習うべきものを感じた。
そのほかにも「本物」に対する須磨(すま)の考え方が印象的だった。
人とは違う生き方をずっと続けていた人というのはやはりそれなりのものが身につくのだと、それが本書を読んでいて伝わってくる点に驚かされた。
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「武士道エイティーン」誉田哲也
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
前作「武士道セブンティーン」で福岡南高校で剣道を続けることを決意した早苗(さなえ)は香織(かおり)と全国大会で対戦することを約束する。本作はその後を描いた物語。
前2作は、早苗(さなえ)と香織(かおり)の物語で、その2人の視点を交互に物語が展開していったが、本作では、早苗(さなえ)の姉でモデルの緑子(みどりこ)の仕事や恋の話。香織(かおり)の通う道場の師範、桐谷玄明(きりたによしあき)の物語など、今までとはやや異なり、いくつかのサブストーリーが含まれている。
こういう風に言うと、今までの物語がぼやけてしまうように聞こえるかもしれないが、メインの早苗(さなえ)と香織(かおり)の物語ももちろん今まで以上の密度で展開されていく。香織(かおり)の東松高校と早苗(さなえ)の福岡南はともに全国への出場を決め、二人の剣道へかけた高校生活は集大成を迎えようとするのである。
そこからは見所泣き所満載である。実現した早苗(さなえ)と香織(かおり)の対戦。待ち望んだ対戦でその緊張感を楽しむ二人の気持ちが手に取るようにわかる。
そして、因縁の黒岩レナと香織(かおり)の死闘。剣道に関する知識がほとんどゼロなため、書かれていることを100パーセント理解できないのが悲しいが、それでもそこからほとばしる緊張感や竹刀のこすれる音が聞こえてきそうなのは、その描写力のすごさなのか、僕自身が物語に入り込みすぎなのか…。正直僕はこういうのに涙腺がかなりゆるいらしい。
メインの物語だけでなく、福岡南のチンピラ教師吉野先生の話す過去や、香織(かおり)に憧れつづけた田原美緒(たわらみお)の物語も読み応え十分である。
三部作の最期にふさわしいシリーズ中最高の傑作。放課後の汗と砂埃のなかで明日のことなど考えずにひたすらなにかに力をぶつける、そんな時間が恋しくなってしまうだろう。
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「張り込み姫 君たちに明日はない3」垣根涼介
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リストラを請け負う企業の面接官として働く真介(しんすけ)の物語の第3弾。今回も真介(しんすけ)の退職を促す面接によって、人生の岐路に悩む人たちの物語がリアルに描かれる。
本書で退職を勧められるのは、英会話学校、旅行代理店、自動車ディーラー、写真週刊誌で働く人たち。いずれも業界的に長くとどまる場所ではないところが共通している。
英会話学校の章では数年前のNOVAの倒産を期に浮き彫りになった英会話学校の内情、そしてインターネットの普及が逆風となっている現状を描いている。僕自身英会話に長く興味をもっているため特に楽しむことができた。
旅行代理店の回ではその業界の利益の少なさと残業の多さ。とはいえ本作品でもっとも印象深かったのが、この章でその退職を勧められることになった男。古屋陽太郎(ふるやようたろう)である。7年間、その会社に籍を置きながらも会社に対する忠誠心などまったくなく、その考え方は非常にドライで、個人的には非常に共感できる。
続く自動車ディーラーの章や写真週刊誌の章でも、人生の岐路にたった彼、彼女が、自分のやりたいことを再確認し、周囲の人に助けられて決断し、新たな一歩を踏み出していく様子は涙を誘うだろう。
毎回思うことだが、このシリーズを読むと転職がしたくなる。
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