「A Game of Thrones(A Song of Ice and Fire)」George R. R. Martin

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
7つの王国を舞台としたファンタジー。
最初はそれぞれの土地の名前と、人の名前を覚えるので精一杯だろう。北の地Winterfellに構えるのはEddard StarkとCatelyn Tully Starkの夫婦から成るStark家である。その息子達Jon, Robb, Sansa, Arya, Brandon, Rickonが物語の中心となる。息子達6人はある日Jonが見つけた6匹の狼をそれぞれが1匹ずつ飼うのである。Stark家の象徴でもある狼は彼らの良き友人となる。

物語は7つの王国の支配者であるRobert Baratheonに王の片腕(the Hand of the King)にEddard Starkが指名されたことから動き出す。Eddardは9歳のAryaと11歳のSansaの2人の娘を連れて南のKing’s Landingへ向かって旅立つが、一方でEddardの前のKing’s Handは暗殺されたという噂を耳にする。一方でWinterfellに残ったStark家のなかで、Eddardと別の女性の間で生まれたJonはStark家を継ぐ資格がないため、Winterfellの北にある「The Great Hall」に向かう。The Great Hallの北では不可思議なことが起き始める。

少しずつ名前を覚えてくると全体が見えてくる。名前や土地の名前の多さに圧倒されるのは最初だけで、位置関係がわかってくると、それぞれの家の持つ紋章にある動物が意味を持っている事に気付くだろう。

また、物語が進むに連れて過去の歴史も少しずつ明らかになっていく。現在の統治者であるRobert Baratheonは前の王Aerys Targaryenを倒して王位に就いたという。そしてその際、僻地へ逃げたTargaryenの兄妹ViserysとDaenerysの様子も本作品では描かれている。最初は兄Viserysの言われるがまま行動していたDaenerysが少しずつたくましくなっていく姿が先の展開を楽しみにさせてくれる。

やがて明らかになるLannister家の秘密、それを暴こうとしたEddardとその娘達は大きな動乱に巻き込まれて行くのである。

大作とも言える本作品を読み終えてもまだ物語は始まったばかりといった印象である。忘れないうちに続編に取り組みたい。

「村上海賊の娘」和田竜

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦国時代に瀬戸内海で勢力を誇っていた村上海賊を、戦に憧れる娘景(きょう)を中心に描く。
海賊という言葉はよく聞くけれども、どこか外国や物語の中にのみ登場する存在であって、日本の歴史にはそぐわない気がしていたのは僕だけだろうか。だからこそタイトルの「村上海賊」が不思議で魅力的に聞こえるのだろう。主人公が女性なのだが、残念なのが冒頭でいきなりその景(きょう)が嫁ぎ先に困るような醜女(しこめ)だと書かれているということだ。男性読者はいつもヒロインを理想の女性像と重ね合わせて読むからこれは非常に残念なのだが、本書を通じて景(きょう)の大活躍を見る事によってそんな考え方もくつがえされていく。
さて、物語は本願寺の地を狙う織田信長に対して、その地を守ろうとする本願寺側が兵糧を毛利家に求め、毛利家はその兵糧を運ぶために村上海賊を頼る、という構図である。しかし、本願寺、毛利、村上海賊もいずれも、異なる思いを抱えた人物が存在するために、いろんな駆け引きが発生するのである。
しかし、最初は「家の存続」や「地位の向上」を意識しながら行われていた細かい駆け引きが、やがて戦が本格化するにしたがって、潔よく、誇り高い行動に変わって行く様子が非常に爽快である。

大なるものに靡き続ければ、確かに家は残るだろう。だが、それで家を保ったといえるのか。残るのは、からっぽの容れ物だけではないか。

村上海賊の景(きょう)はもちろん、弱虫であった弟の景親(かげちか)や雑賀党(さいかとう)の鈴木孫一(すずきまごいち)などかっこいい人物ばかりである。極めつけは景(きょう)の最大の敵となった七五三兵衛(しめのひょうえ)である。どのように決着するのかぜひ楽しんでいただきたい。
また、本書のなかではわずかな登場しかしない織田信長が、とてつもないオーラを放つ人間として描かれているのも印象的である。もちろん歴史上重要な人物なだけにそのように描くことは特に驚きでもないが、「今だったら誰にあたるのだろう?」と考えてしまう。
物語自体が面白いのはもちろん、歴史を読み解くと「○○が勝った」「○○が負けた」だけで終わってしまう出来事を、ここまで分厚い物語にし、そこに関わった人物をここまで人間味あふれる存在として見せることのできる著者の描写の技術に感動する。
【楽天ブックス】「村上海賊の娘(一)」「村上海賊の娘(二)」「村上海賊の娘(三)」「村上海賊の娘(四)」

「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アウグストゥスの統治の後の紀元14年から68年までを描く。
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロと支配者の変わるこの時代である。ローマの歴史に詳しくない人でも皇帝ネロの名前ぐらいは歴史の教科書で目にしたことがあるだろう。キリストの迫害で有名なネロゆえに、その性格も自分勝手な人間を思い描いていたが、本書を読むと決してそんなことはなかったのだとわかる。ネロ自信は立派であろうと努めたのである。
印象的だったのは、いい皇帝ほど歴史に名を残さず、いい皇帝ほど小さなことで非難されるというジレンマである。アウグストゥスがすでに国の基盤を作ったこの時代、皇帝のやるべきことは小さな事をコツコツ調整することであった。ティベリウスはそれを着実に行ったのだが、結果として良くも悪くも教科書に名を残すほどの人間にはならなかった。また、もし国のどこかの地で争いが起こっていれば国民の関心はそちらに向かい、細かい社会制度や皇帝自身の私生活など誰も気にしないのだが、平和に国が統治されれば人々の関心は細かいことに向かって行き、結果として皇帝の人間関係などが批判の対象となるのである。
いろんな部分で2000年前の出来事が現代と共通していると感じた。言い換えると、人間は2000年かけて、技術的には成長しても、人間的にはまったく成長していないのではないか、とも感じてしまったのである。過去から学べることはたくさんあるのに、限られた人間しかそれを意識し日々努めてはいないのかもしれない。
さて、絶頂を迎えたローマがこれからどのように終焉に向かって行くのか。「ローマ人の物語」もようやく折り返し。続きが楽しみである。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち(一)」「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち(二)」「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち(三)」「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち(四)」

「0ベース思考 どんな難問もシンプルに解決できる」スティーヴン・レヴィッド/スティーヴン・ダブナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
物事を解決するためには多くの知識や経験を必要とすることもあるが、一方で先入観を持たずに望めば他の人が見えない解決方法が見えることもある。しかし、先入観を持たずに物事を見つめるのは言うほど簡単な事ではない。本書はそのためのヒントを多くの事例を交えながら紹介している。
面白かったのはフードファイター小林尊(こばやしたける)がホットドッグ大食い大会を制覇するために行ったことを書いた章である。小林尊(こばやしたける)は前年25本だった優勝記録を一気に50本に伸ばして圧勝したのである。しかし、小林は元々大食いだったわけではなかったというのである。小林が行ったのは単純に優勝するための試行錯誤とそれを実現するために特化した練習なのだという。

たとえばホットドッグを端から食べろだなんて、ルールのどこにも書いていない。そこで単純な実験から始めた。食べる前にソーセージとパンを半分に割ってみたらどうだろう?こうすると、噛んだり呑み込んだりする方法に幅が出たし、口でやっていた仕事の一部を手に任せられてラクになった。

また、「コブラ効果」や「ナイジェリアの詐欺」の話も面白かった。これから行う事の結果を予想したり、多くの人の行動を少しでも自分の望む方向へコントロールしようとするときのヒントとなるだろう。
実は本書は「ヤバい経済学」と同じ著者によるもので、実はこの2冊の間には「超ヤバい経済学」という本もあるそうなのでそちらも後で読んでみたい。
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「情熱教室のふたり 学力格差とたたかう学校「KIPP」の物語」ジェイ・マシューズ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ナレッジ・イズ・パワー・プログラム(KIPP)」はマイケル・ファインバーグとデヴィッド・レヴィンによって1994年に設立された教育プログラムである。低所得者層の子供達が中心でありながらも目覚ましい成果をあげているKIPPができるまでの様子を、情熱的な2人の教師に焦点をあてて描いている。
最初は、教育への強い情熱を持ちながらも教室の生徒達を静かにさせることさえできなかったファインバーグとレヴィンだったが、やがてボールというカリスマ教師に出会ってその手法を学び、少しずつ自分達の教育スタイルを確立して行く。そしてやがて2人は「KIPP」という教育プログラムを立ち上げる事を決意するのである。
KIPPの特長として印象的だったのが、「教師の誓い」「保護者の誓い」「生徒の誓い」である。そこには教師、保護者、生徒たちが守るべきことが箇条書きに書かれており、3者が協力することが優れた教育を行うためには必要なのだろう。また、勉強しようとする他の生徒達を守るために、授業中に他の生徒を妨害するような生徒に対しては断固とした姿勢で対応する姿も印象的である。この姿勢は授業という場に限らず、共通の目的を持ったすべての組織に有効なように感じた。
ファインバーグとレヴィンは、KIPPを大きくする過程で、多くの障害を乗り越えて行く。時には周囲から非難されるような強引な手法を用いながらも、理想の教育のために突き進んでいくのである。その強引さは、保守的な教育界を変えるためには正攻法では難しいことを教えてくれる。様々な種類の人々が住むアメリカの教育を帰ることは日本よりはるかに難しそうに見えるが、彼らが様々な困難を克服しながらKIPPを軌道に乗せて行く様子は教育にはまだまだ可能性があると感じさせてくれるだろう。
母親や生徒達の視点で描かれている場面もいくつか挟まれており、最初は手に負えないかった生徒が、優秀な卒業生になる姿は涙を誘う。教育にもまだまだ改善の可能性があるのだと感じさせてくれる。

チャータースクール
アメリカ合衆国で1990年代から増えつつある新しい学校の試みで、チャーター(Charter)と呼ばれる特別認可、あるいは達成目標契約により認可された学校である。(Wikipedia「チャータースクール」
参考サイト
Teach For America

【楽天ブックス】「情熱教室のふたり 学力格差とたたかう学校「KIPP」の物語」

「武士道ジェネレーション」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「武士道シックスティーン」に始まるシリーズの第4作目。剣道に青春を捧げた香織と早苗の大学以降の物語である。
序盤は早苗の結婚式に始まり、大学時代の回想シーンで2人の高校後の様子が描かれるが、物語が主に早苗(さなえ)の結婚後、香織(かおり)の大学卒業後である。香織は毎日桐谷道場で子供達の稽古を任されるようになる。
相変わらず剣道に関してだけはおそろしくストイックな香織と、のんびりした早苗のやり取りはほのぼのしていてのんびり読み進めることができる。その一方で、「武士道セブンティーン」から続く、香織(かおり)と黒岩レナの因縁の対決も健在である。2人の関係が友情に変わって行く様子が暖かい。また、香織(かおり)が道場で子供達を指導する中で、自らの剣道に対する情熱を、子供達に伝えようとする様子も素敵である。
そんな中、特に香織(かおり)が道場の少年の1人に伝えた言葉が強烈である。

世のためを思い、他人を敬い、精進を怠らない。人はこの三つを守っていれば、どこででも、どんな時代でも、生きていける

どこかに書いてとっておきたいような素敵な言葉である。
そんな時、師範である桐谷玄明(きりたにげんめい)が体調の衰えを理由に道場を閉じる事を示唆するのである。香織(かおり)が自ら跡継ぎになろうと名乗り出てもかたくなに道場の閉鎖を取り返さない玄明。やがて香織(かおり)は桐谷道場の剣道秘密に迫って行くのだ。
厳しい鍛錬を通じて、香織は身をもってその信念を体現しようとする。

誰かを守れる力を、あたしも今、勉強中なんだ。あたしはな、胸を張って、お前たちに伝えたいんだ。正しい力っていうのは、こういうことだって、お前たちに、教えてあげたいんだ。それがな、あたしなりの武士道なんだよ。

また、同じ時期に桐谷道場にやってきたアメリカ人、ジェフも物語に彩りを与えている。議論の好きなジェフとの会話からアメリカと日本の考え方の違いが見えてくる。戦争に対する考え方、力に対する考え方。武士道の考え方の価値を改めて感じられるだろう。

日本は、とても強い。でも戦争しナイ。強い力、持ってる。強い技、たくさん持ってる。でも、相手を倒すは、しナイ。戦いを終わらせる、ために、戦う。アメリカも、それをしタイ。そういう勉強、始めるといい、思いマス。

信念を持って生きる事のすばらしさを感じられる1冊。改めてシリーズまとめて読み直したくなった。
【楽天ブックス】「武士道ジェネレーション」

「Logo Design Love: A guide to creating iconic brand identities」David Airey

オススメ度 ★★★★☆
ロゴデザインの本というと多くのロゴを集めたものが多い。それはそれで見ていて楽しいが実際に仕事としてロゴデザインをする人にとっては物足りないだろう。なぜなら素晴らしいロゴは、見た目だけでなく、クライアントの求めるものを満たすからこそ素晴らしいのだから。

本書はロゴを紹介しながらも、クライアントのロゴデザインをする上での仕事の進め方や注意点を多くの事例を交えながら説明する。どのようにして相手の担当者をプロジェクトに巻き込むか。プロジェクトとして良く起こりうる事は失敗はどのようなことから始まり、それを避けるにはどうするべきなのか、など。

単に注文を受けるだけになってしまうことも陥りがちなワナである。最初の頃は私にもそんなことがよく起こった。クライアントが私にフォントや色を指定してくるのである。そして「大丈夫です。明日までに修正します。」と私は答えるのだ。つまり私の知識や経験を利用しないで、クライアントが私の仕事をしているのである。

もちろん、ロゴデザインにおいて基本的に抑えておかなければ行けない点も一通り網羅している。

ロゴは企業がやっていることを示す必要はない
歯医者のロゴで歯を見せる必要はないし、配管業者のロゴでトイレを見せる必要はない、インテリアショップのロゴで家具を見せる必要はないのだ。

また、技術的な話だけでなく、見積もりについても描いてある。印象的だったのは、ピカソが描いたスケッチの話を用いて、経験による金額の上乗せを説明している点である。

「この絵にどうしてそんなにお金がかかるの?ほんの数秒しかかからなかったじゃない」
「マダム。それを学ぶのにこれまでの人生がかかりました」

成功事例だけでなくTropicanaなどの失敗事例も掲載している点が面白い。本書を通じて多くの素晴らしいロゴに出会う事ができたし、またロゴデザインがしたくなった。

参考サイト
davidairey.com
logodesignlove.com
identitydesigned.com

 

関連書籍
「It’s Not How Good You are, It’s How Good You Want to Be」Paul Arden
「Design Is a Job」Mike Monteiro
「Identify」Chermayeff & Geismar & Haviv
「The Win Without Pitching Manifest」Blair Enns
「Steal Like an Artist」Austin Kleon
「Thinking with Type」Ellen Lupton
「Designing Brand Identity」Alina Wheeler
「Lateral Thinking」Edward de Bono
「The Art of Client Service」Robert Solomon
「Bob Gill So Far」Bob Gill
「A Smile in the Mind」Beryl McAlhone
「The Fortune Cookie Principle」Bernadette Jiwa
「Seventy-nine Short Essays on Design」Michael Bierut
「The Geometry of Type」Stephan Coles
「Aesop’s Fables」Aesop
「The Design Method」Eric Karjaluoto
「Work for Money, Design for Love」David Airey

「ハケンアニメ」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
その時期にもっともDVDを売り上げる「ハケンアニメ」を目指すプロデューサーやアニメーター達の様子を描く。

最近はあまりアニメを見る機会がないが、別に興味がない訳ではなく時間が取れないだけ。僕らが子供の頃とは違って今はアニメは深夜に放映されることが多く、またそこに割かれるお金や人も大きくなっているようだ。本書はそんなアニメ制作の様子を3人の登場人物に焦点をあてて描く。

1人目はプロデューサーである有科香屋子(ありしなかやこ)。才能を認めている監督に存分に力を発揮してもらうために振り回されながらも奮闘するのである。アニメーション制作の現場を描く様子には、アニメと小説という風に形は違うけれども、同じようにクリエイティブな仕事をする著者辻村深月が、普段感じているだろうことがにじみ出てくるのが面白い。例えば、香屋子(かやこ)に対してアニメーターがこんなことを言うのだ。

勝てると思いますよ。あの人、人の顔覚えないから。そこが弱点。

きっと辻村深月自身が人の顔を覚える人に対して特別な思いを抱くのだろう。こういう部分がフィクションを単純に「作り話」として済ませられない理由である。フィクションでありながらも現実に適応できる考え方が多く埋め込まれている作品こそ僕にとっての「いい作品」である。

ちなみに、2人目の登場人物は法律を学んだ後にアニメ業界に転身した映画監督斉藤瞳(さいとうひとみ)である。女性でありながらもドライな正確な瞳(ひとみ)は、声優やプロデューサーやアニメーターなど現場のいろんな人との関係に悩みながらも、自分の理想とする作品を作り上げて行くのである。

3人目はアニメーターで驚くほど上手い絵を描く並澤和奈(なみさわかずな)。絵を描くのが好きで仕事をしているが、自らオタク女子と認識しており、リア充にコンプレックスを持っている。もっとの多くのページが割かれているこの和奈(かずな)の章は、アニメの世界に没頭する「オタク女子」と呼ばれる女性の複雑な心を爽やかに描く。

和奈(かずな)が制作に関わったアニメの舞台となった地方の街が「聖地巡礼」によって観光を盛り上げようとしているなか、和奈(かずな)自身もその活動の担当を任され、熱血公務員宗森(むねもり)と協力することとなるのである。地方公務員の「リア充」宗森(むねもり)の地域を盛り上げようとする努力を目の当たりにするなかで、少しずつ和奈(かずな)の心が変化して行く様子が面白い。

理解できない相手のことが怖いから、仰ぎ見るふりをして、この人を突き放して、下に見ていた。自分は非リアで、充実した青春にも恋愛にも恵まれてないんだから、これくらいのことを思う権利があると、勝手に思っていた。人より欠けたところが多い分、自分の方が深く物を見てるんだからと自惚れていた。

そしてそれぞれがすばらしいアニメを制作することを目指しやがてハケンアニメが決まるのである。時間を確保して良いアニメが見たくなる爽やかな1冊。

【楽天ブックス】「ハケンアニメ」

「成功する子失敗する子」ポール・タフ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中には成功する子と失敗する子がいる。自分の子供を成功させたくて、お金をかけて教育を施したり、厳しくしつけたりする親がいるが、果たしてそれは正しいのだろうか。
まず誤解しないで頂きたいのは、本書で言う「成功」とは、いい大学に入ったり、いい成績を取ったり、という「短期的な成功」ではないという点である。逆境のもくじけず、物事に挑戦するこころを常に持ち、それによって人生を幸せに生きることが本書の言う「成功」なのである。
まず本書が紹介しているのが、子供時代の逆境によるストレスと成人してからの人生のネガティブな結果には明らかな相関関係である。ストレスが発達段階の体や脳にダメージを与えるのというのである。しかし、一方で親の愛情によってそのストレスは軽減することもできるのだという。つまり、不幸な境遇や貧しい家庭に育っても、親が愛情を注いで育てることで将来成功をする心を持った子供は育てることができるのである。
そしていくつかの教育機関と人に焦点を当てている。そのうちの一つがKIPPアカデミーである。KIPPアカデミーは革命的な教育で低所得層の子供達の成績を向上させ多くのメディアにも取り上げられたにもかかわらず、卒業生のうち大学を卒業した者はわずか21%だった。「一体卒業生達が大学を卒業するために何が必要だったのか」KIPPの創立者であるレヴィンは成績以外の生徒達に必要な者を探し始めるのである。
後半ではチェスの強豪であるIS318の生徒達とチェスの指導者スピーゲルのやり取りを紹介している。スピーゲルが試合に負けた生徒達に必ず試合の後、自分の駒の動かし方と向き合わせて検証させているシーンが印象的である。負けと向き合い、困難と向き合うことの一つの答えだろう。また同時に、チェスだけに打ち込むことが本当に子供達にとって幸せかどうかはわからないとしているスピーゲルの態度も興味深い。
結局本書はどんな育て方が正しいとか、どんな人生が幸せであるとか書いてはいない。貧困問題など現在アメリカ社会が抱える問題を指摘して締めくくっている。
多くのことを考えさせる1冊。機会があれば定期的に読み返したい。

KIPPアカデミー
The Knowledge is Power Program (KIPP) is a nationwide network of free open-enrollment college-preparatory schools in under-resourced communities throughout the United States.(Wikipedia「Knowledge Is Power Program」)
関連書籍
「オプティミストはなぜ成功するのか」
「ちいさなことへのこだわり」(未邦訳)「Sweating the Small Stuff」
「情熱教室のふたり」ダイヤモンド社
「特権の代償」(未邦訳)「The Price of Privilege」
「過食にさようなら」デイヴィッド・ケスラー
「ゴールラインを超える」(未邦訳)「Crossing the Finish Line」
「本物の教育」(未邦訳)「Real Education」
「ここに子供はいない」(未邦訳)「There are No Children Here」
「野蛮なる不平等」(未邦訳)「Savage Inequalities」

【楽天ブックス】「成功する子失敗する子」

「ジョコビッチの生まれ変わる食事」ノバク・ジョコビッチ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
度重なる体調不良によって敗退することの多かったジョコビッチは医師のアドバイスで食事を買えてから劇的なる変化を果たし、ついに世界ランキング1位に上りつめた。そんなジョコビッチが食事の重要性について語る。
子供時代やこれまでの成功の過程を挟みながら、食事に対する考え方を書いている。ジョコビッチの食事の改善はひと言で言ってしまえばグルテンフリーである。グルテン不耐性という小麦製品に対して過敏な体だったために試合中に不調を起こしていたのである。グルテンとは大麦や穀物に含まれるタンパク質でパンに柔らかさを出すために使われるが、一部の人間はグルテンを消化できないために深刻な肉体反応を引き起こすのだと言う。

私たちのほとんどが大なり小なり恒常的なグルテン反応ーー体が重かったり、疲れたり、気弱になったりーーを経ている可能性が非常に高い。そして、こういった症状を普段の生活から来ている疲れだと思い込んでいる場合が多いはずだ。

本書はこのようにグルテンというものの存在を意識を向けてくれるが、すべての人にグルテンフリーを勧めているわけではない。人には、乳製品、カフェインなどそれぞれ体に合わない製品があり、それを知ることによってもっと健康な生活を送れるというのである。本書はそんな自分にあわない食べ物を見つける方法として、14日間一部の食物を食べない期間を設け、体調の変化を見ることを勧めている。実際、ジョコビッチはグルテンフリーを最初に14日間試したとき、1週間で毎日悩まされていた鼻づまりが消えたのだそうだ。確かに14日だけなら我慢できるものもたくさんあるだろう。実際体に合うか合わないかわからないのに怪しい食べ物をすべて辞めるよりも手軽に始められる。
また、ジョコビッチの食事に対する真摯な向き合い方にも感心する。ジョコビッチはそれぞれの食べ物を口にするときに、筋肉になるように、エネルギーになるように、と意識しながらゆっくり食べるのだそうだ。部分的にでもぜひ見習いたいと思った。

セリアック病
小麦・大麦・ライ麦などに含まれるタンパク質の一種であるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる自己免疫疾患。(Wikipedia「セリアック病」

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「アジャイルサムライ 達人開発者への道」Jonathan Rasmusson

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アジャイルという言葉をよく耳にするようになってすでに数年が経った。言葉としては何度もその説明を聞くことはあっても、なかなか実際の進め方がわからない。本書はそんな人がさらに深くアジャイルな開発を理解するのに役立つだろう。

アジャイル開発の手法がいくつかあるなかで、本書はエクストリーム・プログラミングに焦点をあてて書いている。正直、まだスクラムやリーンとの詳細な違いがわからないが、よく使用される言葉はスクラムでは次のように対応するということだ。

  • イテレーション(スプリント)
  • マスターストーリーリスト(プロダクトバックログ)
  • 顧客(プロダクトオーナー)

全体を通じで感じるのは、結局臨機応変にプロジェクトを走らせることを突き詰めた結果がアジャイルという手法だということで、正確に定義された枠組みはないし、まだまだ発展の余地はあるということ。むしろアジャイル開発との比較で描かれる、アジャイルではない開発手法の無駄の多さに驚かされる。

また本書ではアジャイルなメンバーとしてゼネラリストが求められていると書いているが、デザイナーとプログラマーの垣根を維持している点が興味深い。デザイナーもプログラムを、プログラマーもデザインをできることこそゼネラリストの理想形だと思った。

後半では著者自身それぞれの項目だけで1冊の本が書けるというユニットテスト、リファクタリング、テスト駆動開発にも軽く説明している。その内容よりもそれに抵抗する人の考えや、それによって説得方法が見えてくる点の方がありがたい。
現在僕の会社ではアジャイルコーチを迎えてアジャイル開発を少しずつ取り入れているが、そこで話している内容をさらに理解するのに役立った。
【楽天ブックス】「アジャイルサムライ 達人開発者への道」

「自分を動かす言葉」中澤佑二

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本代表主将までのぼり詰めだ著者はその徹底した生き方の力の源の一つとして「言葉の力」を挙げている。イビチャ・オシム、岡田武史、貴重な出会いのなかで著者が授かった言葉を紹介している。

本書のなかではいくつも印象的な言葉が紹介されているが、なかでも印象的だったのはこの言葉。

人生において『成功』は約束されていない。しかし人生において『成長』は約束されている

田坂広志さんの「未来を拓く君たちへ」のなかで紹介されていた言葉だそうである。また、この言葉は以前も聞いたことがあるような気がするが、マジックジョンソンのこの言葉も印象的である。ちょっと長いのだが全文引用させていただく。

『お前には無理だよ』と言う人のことを聞いてはならない。
もし、自分で何かを成し遂げたかったら、できなかったときに
他人のせいにしないで、自分のせいにしなさい。
多くの人が、僕にも『お前には無理だよ』と言った。
彼らは、君に成功してほしくないんだ。
なぜなら、彼らは成功できなかったから。
途中であきらめてしまったから。
だから、君にもその夢をあきらめてほしいんだよ。
不幸な人は不幸な人を友達にしたいんだよ。
決してあきらめては駄目だ。
自分のまわりをエネルギーであふれたしっかりした
考え方を持っている人で固めなさい。
近くに誰か憧れる人がいたら、その人のアドバイスを求めなさい。
君の人生を帰ることができるのは君だけだ。
君の夢が何であれ、それにまっすぐ向かって行くんだ。
君は、幸せになるために生まれてきたんだから

一方で「この言葉のどこに動かされたんだろう?」と思うような言葉も紹介されている。きっと言葉の重さは、その言葉を構成する単語や文と同じくらい、その言葉を与える人や、その言葉を与えられる状況に影響されるのだろう。そして本書で言葉について語るなかで、中澤の支えになった人々との交流が描かれる。悔しさや悲しさや情けなさや優しさ、そういったものすべてを自分の力にしてきたことが伝わってくる。

【楽天ブックス】自分を動かす言葉

「中級スペイン語読み解く文法」西村君代

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

「中級スペイン語」ということで、一通りスペイン語の文法を学んだ人向けの内容である。どんな言語にも言えることかもしれないが、スペイン語においても接続法まで一通り学んで本をスペイン語で読み始めると、どうしても理解しにくい文章や、使い分けの難しい文章に出会うことが多々ある。本書はそんな悩みをすべてではないが解決してくれるだろう。
例えば、スペイン語においては主語を省くことができたり、主語がある場合でもその位置は英語ほど明確に決まっていない。そのため、読むときには理解はできても、実際書いたり話したりする状況では、主語をどこに置くべきか悩むことがある。本書はその点についてこのように説明している。

聞き手との間であらかじめ共有されている情報を旧情報と呼び、新しく情報価値のある情報を新情報と呼ぶとすると、旧情報、新情報の順に現れることが普通です。通常<主語→動詞>の順になるのは、主語が文の話題になることが多いからです。したがって、主語が新情報である場合には、語順が入れ替わります。

その他にも英語学習の後にスペイン語に入った人には非常に悩ましい箇所をわかりやすく解説している。文法の基本的な部分に軽く触れた上で、文法の先の、実際に使われている傾向に踏み込んで解説している点が非常に有り難い。
また、最後の数ページではスペイン語の成り立ちや地域による違いについて説明している。ラテン語の変化からアラビア語やアメリカ大陸の先住民の言語の影響など言語の発展に対する興味も喚起してくれる。また、スペイン語の地域差についても説明している。例えばvosotrosとustedesの使い分けや、直接人称代名詞の地域による傾向等、どれもある程度スペイン語を学んでいる人には避けて通ることのできないことなので少しずつ覚えて行きたいと思った。
もちろん1回読んだだけですべてを理解すること等できないのでスペイン語に触れながら繰り返し読み返したい。
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「海の翼 エルトゥールル号の奇蹟」秋月達郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
イランイラク戦争の際、日本人を救出するためにトルコが航空機を飛ばした話は有名である。それは1800年代後半に起きたエルトゥールル号の恩返しであった。
僕自身もトルコを訪れた事があり、トルコ滞在中には日本が本当にトルコに愛されている事を感じてその理由を知ろうとした事もある。だから、エルトゥールル号の物語とイラン・イラク戦争のときのトルコの行動は知識としては知っていたが、それが本書で書かれているような劇的なものだとは思っていなかった。
本書で描かれている、日本人のトルコ人の救出や、また一方で、トルコ人達の日本人の救出は、決して政治的な駆け引きなんかではなく、一般の人々の助け合いの結果なのである。トルコに行った事ある人や、これからトルコに行こうとしている人にはぜひ読んで欲しいと思った。
また、トルコ共和国の初代大統領であるアタチュルクについてもトルコに行ったときに名前だけは知っていたが、日本人から大きな影響を受けていたことは初めて知った。
恩を忘れないトルコ人の姿から僕ら日本人も学ぶ物があるだろう。
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「「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」酒井崇男

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
なぜアップルやグーグルやトヨタは成功し、日本の電気・半導体・通信・IT企業は完敗してしまったのか。それは「タレント」の重要性を理解していたか否かなのだ。本書はそんな視点で企業が発展して行くためにどのようにしてタレントと向き合うかを語っている。
今や、材料や労働力はどこでも手に入れる事ができるので、物を作るのは人件費や物価の低いところを選ぶ事ができる。そうなると企業として重要なのは何なのだろう。本書はそれを「設計情報」だと主張する。優れた設計情報」さえできあがれば、あとはそれをひたすら各地で現実に存在する物やサービスに転写するだけなのである。そしてその「設計情報」を作る人こそが「タレント」と呼ばれる人なのである。
「タレント」というとなんとなく「すごい人」という印象しかないが、プロフェッショナルやスペシャリストと比較するとタレントというものが何なのか分かりやすいだろう。

単なるスペシャリストは、知識を活用する「目的」よりも「知識そのもの」にアイデンティティを持っている人が多い。プロフェッショナルも同様である。一方、優れたタレントは、知識にせよ職業にせよ、「目的」を達成するための「手段」だと考えているところに際立った特徴がある。

世の中がただ一言「天才」とか「才能のある人」と読んでいる人の正体が分かった気がする。
また本書は後半でタレントを育む事の成功例としてトヨタの主査制度を挙げている。興味深いのは、トヨタの主査制度は日本よりもアメリカで高く評価されている点だろう。
著者は言う。アメリカは日本ほど新たな文化を創造するのは得意ではないが、いいものを徹底的に分析して取り入れる能力は非常に高く、日本で生まれた主査制度もそうやってアップルなどの企業で成果を上げたのである、と。
アメリカという国の見方が少し変わった。
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「The Girl in the Spider’s Web」David Lagercrantz

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ドラゴンタトゥーの女」という印象的なタイトルで、映画にもなったこのミレニアム3部作は、「面白い本」と聞かれたら必ずタイトルである。不幸にも著者のスティーグ・ラーションが亡くなったことで、続編を諦めていたのだが、本書によって別の著者による4作目がつくられたのである。

正直、著者が変わったことで本書は懐疑的に見ていた。実際序盤は描写がややしつこく、シリーズ三部作までに感じられたテンポの良さが失われてしまった印象を受けたが、中盤から物語が大きく動き出すとそんなことも気にならなくなり十分に楽しむ事ができた。

物語は、人工知能の第一人者であるBalderが殺害されることから始まる。しかし、幸か不幸かBalderの自閉症の息子Augustがその現場を目撃していたのである。それに気付いた犯人だが、その不自然な行動から自閉症と判断し、自閉症の子供であればわざわざ目撃者として殺す必要はないとその場を去る。実はAugustは自閉症でもサヴァン症候群という見た物を強烈に記憶し、写真のような絵を描く事のできる能力を持っていたのである。それを知ってAugustを殺そうとする犯罪集団とAugustを守ろうとするBlomkvistやSalanderを描く。

得意のハッキングで誰よりも早くAugustの危険を察知して救出するSalanderは、これまでの4作品のなかではもっともSalanderが優しくかっこいい人間として描かれている気がする。それはAugustという少年と行動することになったこの物語のせいなのか、著者が変わったせいなのかはわからないが、Salanderに対する見方が変わるかもしれない。

また、Augustの救出劇だけでなく、雑誌社ミレニアムの社員達も重要な活躍をする。特に若い優秀なAndrei Zanderは重要な役割を担う鵜。若く優秀でジャーナリズムを愛するAndrei Zanderの好きな映画、好きな小説が本書で触れられていたので挙げておく。

そして、やがて現れるSalanderの双子の姉妹Camilla Salanderの影。里親の証言からCamillaの歪んだ考え方が明らかになって行く。
今後も続編があることを感じさせる終わり方で、次回作品が楽しみである。

Elliptic Curve Method
The Lenstra elliptic curve factorization or the elliptic curve factorization method (ECM) is a fast, sub-exponential running time algorithm for integer factorization which employs elliptic curves.(Wikipedia「Lenstra elliptic curve factorization」)
レナード・ノーマン・コーエン
カナダのシンガーソングライター、詩人、小説家。日本では主にシンガーソングライターとして知られ、熱心なファンも多い。80歳を超える現在もアルバムをリリースするなど精力的に活動中。(Wikipedia「レナード・ノーマン・コーエン」
「供述によるとペレイラは… 」
ファシズムの影が忍びよるポルトガル。リスボンの小新聞社の中年文芸主任が、ひと組の若い男女との出会いによって、思いもかけぬ運命の変転に見舞われる。タブッキの最高傑作といわれる小説。
「Dark Eyes」ニキータ・ミハルコフ
1987年のイタリア語とロシア語の映画で、19世紀を舞台に、ロシア人と恋におちたイタリア人を描く。

「組織戦略の考え方 企業経営の健全性のために」沼上幹

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
組織というのは大きくなるに従って昨日しなくなって行く。無駄なミーティングに費やす時間が多くなり、忙殺される人がいる一方で、暇な人もいる。本書は組織が陥りがちなこととその改善方法や予防を著者の経験から説明する。
「組織戦略」という言葉からは、むしろ企業などの組織を競合とどのように渡り合って行くか、を描いたような印象を受けたが、本書で描かれているのは、むしろ組織内部が機能するための方法である。
まずは組織を単純なヒエラルキーと捕らえる事から説明する。組織とは、業務をプログラム化し、そのプログラムで対応できない状況のみを管理者・経営者が判断するという形を基本としているのだ。この状況が機能しなくなるのは、例外処理が増えすぎて管理者・経営者が忙殺されてしまうことから起こるのだそうだ。本書はこんな状況に対して5つの解決策を挙げて説明している。

(1)現場従業員の知的能力アップ
(2)情報技術の装備
(3)スタッフの創設
(4)事業部制
(5)水平関係の創設

中盤では、事業部制、職能性、マトリクス組織という3つの代表的な組織構造についてメリットとデメリットを説明している。

事業部制
各事業部の独立性を高めていくのならば、なにもひとつの企業としてまとまっている必要などないはずである。短期的な市場への適応には都合が良いのだが、効率性が低下してしまうといった問題が出て来やすい。

また、マズローの欲求階層説を挙げて、日本の多くの企業が「自己実現欲求」を過信していると語る。

マズローの欲求階層説
(1)生理欲求
(2)安全・安定性欲求
(3)所属・愛情欲求
(4)承認・尊厳欲求
(5)自己実現欲求
何かと言えば自己実現という言葉に酔いしれている会社は、承認・尊厳欲求について深く考える思考を止めてしまっている。承認・尊厳欲求を充足するためには、ポストとカネ以外にも多様な方法があることを考えなくなっていく。

本書の多くは僕自身が過去企業に属していて感じた事を再確認させてくれた。今後組織作りに携わる事が会ったら繰り返し読み直したいと思えるほど内容の濃さを感じた。
【楽天ブックス】「組織戦略の考え方 企業経営の健全性のために」

「蘇る教室」菊池省三/吉崎エイジーニョ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「学級方向立て直し請負人」という異名を持つ菊池省三の教育方針を、元生徒である著者が描く。
学級崩壊はなぜ起きるのか。序盤は現状の教育の現場と、菊池が立ち直らせた生徒達、立て直したクラスについてのエピソードとその方法について描いている。
まず印象的なのは本書のなかで「ほめ言葉のシャワー」と呼ばれる取り組みである。「ほめ言葉のシャワー」とは毎日帰りのホームルームで、その日の日直がみんなの前に立ち、生徒がそれぞれその人のいいところを褒めるのだ。いい行動を褒められる事で、引っ込み思案な生徒も、自分の存在価値を認識するのである。そして、普段素行の悪い生徒も、自分にもいいことができるということを学ぶのだそうだ。
その描写を見て思ったのは、両親に褒められることのない生徒というのが決して少なくないという点だろう。「ほめ言葉のシャワー」という取り組みによって変われる生徒がたくさんいるのは、その裏返しなのだ。
僕自身が比較的いい育てられ方をしたために、そのような状況で育てられる環境というのが想像しにくいのだが、教育というものを突き詰めるためには、多くの子供達がどのような環境で育てられているかを理解するのは大切だと思った。
菊池が生徒たちに教えようとするものの多くは、一生通じるような考え方ばかりである。

「怒る」と「叱る」の違い
怒るとは、「自分中心の感情で相手に接すること」。叱るとは、「相手の存在を認め成長を願って強く意見すること」。
「群れ」と「集団」の違い
個人が自分らしさを発揮して自立しているグループが「集団」。個人の考えよりもその場のなんとなく流れる空気、特にマイナスの空気が勝るのが「群れ」。

本書は教育に関する内容について書かれているが、大人になって誰もが一人前と認めて、自分を叱ってくれないと思う人は、菊池が生徒達に教えようとしていることに感じるものがあるだろう。

一生懸命だと知恵が出る、中途半端だと愚痴が出る、いい加減だと言い訳が出る

【楽天ブックス】「蘇る教室」

「快挙」白石一文

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校を中退して東京に出て、離婚歴のあるみすみと、写真家を目指しながらも満足に生活費を稼ぐ事のできない俊彦(としひこ)の2人が、人生の数々の障害を乗り越えながらも共に生きて行く様子を描いている。

数年前に読んで、今でも好きな本である同じ著者の「私という運命について」は女性を主人公としているが、本作品は俊彦(としひこ)という男性目線で展開する。

写真家として大成しなかった俊彦(としひこ)はやがて小説家を志すようになる。成功間近で不幸が重なりつらい日々が続き、さらに病気に悩まされたりする中、妻のみすみが俊彦(としひこ)を支える。また一方で、みすみも流産を繰り返し失意の日々を送るときは俊彦(としひこ)がその支えとなる。

決して幸せとは言えない人生をお互いに支え合う様子がなんとも心に染みる。人生にはいい時もあれば悪い時もあり、そんななかの平穏が人生にとてもっとも幸せな瞬間だったいるするのだ。自らの人生を振り返る俊彦(としひこ)はみすみと過ごしたいくつかの時期に対してこんな風に語るのだ。

いまにして思えば、手をつなぎ、毎日と言っていいほど共に須磨寺を歩いたあの頃が、私たち夫婦にとって最も幸福な季節だったのかもしれない。
いまにして振り返れば、地蔵通りに転居してからの数年間は、私とみすみにとって最も穏やかな日々だった。

幸せは、過ぎ去って初めて気付くものなのだと、改めて気付かせてくれる。
安定した人生を相手に提供するのではなく、不安定な人生を共に乗り越えて行くという生き方こそ素敵で、2人の間に強い絆を作るものだと教えてくれる。
【楽天ブックス】「快挙」

「イーロン・マスク 未来を創る男」アシュリー・バンス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカの起業家であり、スペースXのCEOであるイーロン・マスクについて語る。
スティーブ・ジョブスの次に世界を変えるのはこの男、と言われるイーロン・マスク。正直、最近になって初めてイーロン・マスクという名前を知って興味を持ったのだが、本書はそんな興味をさらに大きくしてくれる。
彼のやってきたことのなかで最も印象的なのはスペースXの取り組みだろう。彼は、人類が宇宙を旅する事を本気で実現しようとしているのだ。宇宙に行く事は可能だとしても、それが一般の人間が楽しむレベルになることはないし、そもそもそこまで宇宙に行くことに魅力もメリットもない、と多くの人は考え、だからこそ、世の中の企業は宇宙という分野に注力する事はなかったのだろう。しかし、マスクはそんな常識を覆し、古い権力や考え方に振り回されないようにロケットに必要なすべてをスペースXで作ることを実現して行くのだ。
AppleのiPhoneなどのかつてのイノベーションは、今ある物を改善したり、今はある物の隙間に新たなチャンスを見い出すようなものだったが、スペースXの取り組みは、これまでのイノベーションとはまったく違った印象を与えてくれる。それは誰も目を向けていなかった先へ人類を導く取り組みなのだ。
また、マスクはスペースXだけでなくテスラという企業で今までにない車を作る事にも取り組む。こちらについても本書を読むまで知らなかったが、多くの失敗を経て完成したテスラのモデルSにとても興味をかき立てられてしまった。
マスクのように、何事に対しても情熱的に生きてみたいと思わせてくれる。
【楽天ブックス】「イーロン・マスク 未来を創る男」