「P&G式「勝つために戦う」戦略」A・G・ラフリー、ロジャー・L・マーティン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
P&Gの歴史や内部の出来事を例に、戦略について体系的に説明している。

まず本書では戦略を次の「5つの選択」としている。

(1)勝利のアスピレーション
 どんな勝利を望んでいるのか?
(2)戦場選択
 どこで戦うか?
(3)戦法選択
 どうやって勝つか?
(4)中核的能力
 勝つためにはどんな能力が必要か?
(5)経営システム
 その戦略的選択をするためにはどんな経営システムが必要か?

そして、「5つの選択」と同じように大事なのが、戦略的論理フローという枠組み、およびリバースエンジニアリングというプロセルなのだという。続く章では、この5つの選択と1つの枠組み、1つのプロセスについて例に挙げながら説明していくのである。

「5つの選択」のなかの最初の3つは、よく聞く項目であるが、それでも新しい学びはあるもので、例えば戦場選択について本書では次のいずれかであると説明している。

地理
製品タイプ
消費者セグメント
流通チャネル(消費者にどうやってリーチするか?)
製品の垂直的段階(製品製造のどの段階に参入するか?バリューチェーンのどの位置を占めるか)

製品タイプ 消費者セグメント 流通チャネル(消費者にどうやってリーチするか?) 製品の垂直的段階(製品製造のどの段階に参入するか?バリューチェーンのどの位置を占めるか)

地理、製品タイプ、消費者セグメントあたりは「戦場選択」という言葉を聞いたときにすぐに思いつくかもしれないが、流通チャネル、製品の垂直的段階という戦場選択があることはついつい忘れがちである。

そして本書で印象的なパートは、「5つの選択」の後半以降である。中核的能力は「勝つための能力」であり
、本書ではその能力は結局次のいずれかに当てはまるとしている。

消費者知見(買い物客やエンドユーザーを本当に理解する能力)
イノベーション
ブランド・ビルディング
市場攻略能力
グローバルな規模

そして(5)の「経営システム」とは、これらの選択と能力を支援するシステムを組織のなかに築くことである。それができてはじめて機能する組織が出来上がるのである。そのためのシステムを

戦略を立案・レビューするシステム
中核的能力を支援するシステム

の2つに絞って説明しており、立案した戦略をレビューできない以前のP&Gを悪い例としてあげている。

もっとも印象的だったのが、最後の「リバースエンジニアリング」と呼ばれるプロセスである。それは戦略の作り方である。

(1)選択肢の枠組み
(2)戦略の選択肢を作る
 選択肢を目標に至るまでの幸福な物語の形で表現する。
(3)前提条件を特定する
 選択肢が有効に機能するためにどのような前提条件が必要なのかを明確にする。チーム全体が一丸となって行動するために重要。
(4)選択肢の阻害要因を洗い出す
 案に批判的な目を向け、実現の難しい条件を整理する。懐疑派のメンバーの意見をよく聞くことは全員が納得するためにも重要なステップ。
(5)検証策を立案する
(6)検証を実施する
(7)選択する

としている。やはりポイントは(4)の阻害要因の洗い出しを、(2)の選択肢を作るフェーズと完全に分けている点だろう。ブレインストーミングの原則にもあるように、アイデアの拡散フェーズと収束、検証フェーズを明確に区別してこそ、組織の中にある多数の知見を効果的に行かせるのだ。

その一方で、上がったアイデアを徹底的に検証する方法を、よくある悪い戦略づくりの例として、「時間のかかりすぎ」「妥協に流される」「創造性が失われる」と一蹴している。そのような悪い戦略づくりを毎日のように目にしている僕にとっては非常に耳の痛い話である。今度機会があったら、本書で勧めているように「前提条件」「阻害要因」を明確にする方法で取り組んでみたいと思った。

企業戦略について、新たな視点をたくさんもたらせてくれた一冊。残念ながらすべて理解できたとは言い難い。繰り返し読み直したい。

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「Design Systems」Alla Kholmatova

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
組織が大きくなり、複数のデザイナーで共同作業するようになると、デザイナー同士の共通認識が必要になってくる。それが本書のテーマ「デザインシステム」である。デザインシステムは見た目のデザインだけでなく、社内のフローまでも大きく改善するのである

自分自身がデザインリーダーとしてデザインシステム構築のリードをする立場に立ち、これまでに所属した組織のなかで培ってきた考えを、いくつかの先人たちの知恵と比較して改善したいと思い、本書を手に取った。

本書は、前半ではデザインシステムのメリットや考え方を説明し、後半では組織の中でそれを構築する方法を説明している。特に後半のプロセスの部分は面白い。

本書ではデザインシステムにおいって定義すべきパターンをFunctional PatternとPerceptual Patternの2つに大別しており、それぞれのなかでさらに詳細な進め方を説明している。

Functional Patternについては次の順番書いており、それぞれのなかでその考え方や方法も説明している。

Identify Key Behaviors
Group Existing Elements By Purpose
Define Patterns
Naming

また、Perceptual Patternについては

color
interactive states
typography
spacing
iconography styles
shapes and borders
illustrations
photography
voice and tone
sounds and audio

に分類して語っている。

こうやって書いた見ると、デザインシステムとは非常に厳格なルールのように聞こえるかもしれないが、どれほどデザインシステムを厳格に運用するかはその組織の文化に大きく依存する。本書ではAirbnb, Atlassian, Shopifyなどの有名な企業のデザインシステムを例にとって、その厳格さや自由さの例を挙げている。またデザインシステムの維持をする方法も、担当者や部署を割り当てる方法もあれば、全体で共有し発展させていく方法もあり、どん方法が機能するかは組織で選択すべきだという。

なかなか全体の流れをイメージできなかったデザインシステムの構築から運用までが、具体的に説明されておりとても参考になった。実践する際にはまた読み返すことになるだろう。

「Lead with a Story」Paul Smith

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人間は規則や心がけを伝えただけではすぐに忘れてしまう。しかし、よくできた物語は人の記憶にしっかり残り、聞いた人はまた別の人に語って聞かせることさえある。だから、本当に伝えたいことを伝えるために、そしてそれを組織の中に浸透させるためには物語として伝えることは非常にいい。

本書はそんな物語の伝え方を、ビジネスシーンで発生しそうな様々なシーンにあわせて紹介している。物語の作り方、語り方だけではなく、印象的な多くの物語に触れることができる。本書を読んだだけで最低でも10個は人に語り伝えられる物語を手に入れられるだろう。

個人的には

– 陪審員のテーブルの話
– 檻の中の猿の話
– 震災中に自動販売機に並んだアメリカ人の話
– グァテマラの交差点で出会った少年の話
– 近づくほど小さくなる巨人の話
– 怪我をしながら完走したマラソンランナーの話

などが印象に残った。

後半では自分自身で物語を作り出す方法を書いている。本書の物語の受け売りだけでなく、オリジナルの物語を今後集めていきたいと思った。

「リーン・イン」シェリル・サンドバーグ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグが女性向けのキャリア形成の方法を語る。

シェリル・サンドバーグのような女性が書いた本ということで、「女性も男性と同等の能力がある」という強い信念を持った生き方を語るのかと想像していたが、実際には、彼女自身のキャリアの過程で、女性であるがゆえに受けた差別や、自分自身が遠慮した結果逃したチャンスなど、常に自分自身の失敗談と向き合い学ん鼻知ったことを女性たちに向けて伝えている。

僕自身、普段から「男女平等」なふるまいをしているつもりではある。しかし、本書で彼女が語る、女性と男性の立場の違い、扱いの違い、振る舞いの違いを知ると、思っていたよりも、はるかにたくさん男女の差は存在するのだとわかる。そのうちのいくつかは、男性側の無神経さからくるものもあるが、「成功した男性は好かれるが成功した女性は嫌われる」という世の中全体が持っている価値観からくるものあり、男女平等という世界の実現にはまだまだ道のりが長いことを思い知らされる。

キャリアはマラソンだと想像してほしい。マラソンのスタートラインに男性ランナーと女性ランナーがついたとする。どちらも同じだけ練習を積み、能力も甲乙つけがたい。二人はヨーイドンで走り出し、並走を続ける。沿道の観衆は、男性ランナーに「がんばれー」と声援を送り続ける。ところが女性ランナーには「そんなに無理するな」とか「もう十分。最後まで走らなくていいよ」と声をかけるのである。

女性に対する接し方を改めて考えさせてくれる一冊である。

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「Designing with Data」Rochelle King/Elizabeth F Churchill/Caitlin Tan

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Spotify、Netflixなどなど、IT業界の著名な企業が、ABテストなどの調査を利用してサービスのデザインを発展させる方法について書いている。

本書ではDataを利用した開発手法を3つに分類している。

  • Data Aware
  • Data Informed
  • Data Driven

Data Drivenは取得したデータを信用してデザインを行うのに対して、Data Awareは参考程度に利用するといった意味である。いずれの方法も取得したデータを利用するが、そのデータの重要視具合が異なるのである。僕自身Data Driven Designという言葉を、「データに忠実にデザインする」という意味に受け取っていたが、かならずしもそうとは限らないのである。

さてABテストの利便性はわかっても、数あるテストしたい項目は、コンテンツやサービスの方向性などの大きな項目から、ボタンの色や文言などの細かい項目まで多岐にわたる。本書では第3章からそんな大量の知りたい項目を体系立てて行っていく手法について説明している。覚えておきたいのは、目的からテストまでを5階層にわけた考え方。

  • Goal
  • Problem/Opportunity Area
  • Hypothesis
  • Test
  • Result

そして、探索と評価、グローバルとローカルの2つの軸にテストの内容をプロットする考え方である。

  • Exploration-Evaluation
  • Local-Global

デザイナーのなかには、直感やセンスなど経験で培っていた部分を大切にしていて、データによってデザインするという考え方に抵抗を持つ人も多いだろう。しかし、本書で描かれている手法は、まったくそんなデザイナーの創造性を否定しているわけではない。むしろ、データという実際のユーザーの反応にしっかりと目を向けることで、デザイナーの持つ経験や創造性をさらに効果的に発揮させることができると言っている。

なかなか一度読んだだけで実践するのは難しいだろう。今後実践のなかで何度でも読み返したい。

「No.1エコノミストが書いた世界一わかりやすい為替の本」上野泰也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

漠然とFXで投資をするなかで、FXの持つリスクを正しく理解したいと思って本書を手に取った。
序盤は、「円高」などの言葉の意味もわからないような初心者にも理解できるような、噛み砕いた為替の説明から入り、中盤からは、どのようなできごとが為替に影響を与えるか、などより詳細な為替の動きについて説明している。
僕のようにFX投資するために必要な最低限の知識を持ちながらも、1段階知識のレベルをあげたいという人にちょうどいい。特に後半の2つの章「ドル以外の通貨の実力は?」と「為替相場の動きの法則と読み方・考え方」はまさに知りたかったことで、しかもその知りたかったことを細かくなりすぎない粒度で説明してくれている点がありがい。
世界一わかりやすいかは疑問だが、僕にとっては目的を十分に満たす内容だった。
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「ワーク・ルールズ!」ラズロ・ボック

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グーグルの人事担当者である著者がこれまでのグーグルにおける人事制度のできるまでを語る。

グーグルは世界で最も人気のある企業として認知されているが、実際その文化はどのように作られるのかは正直知らなかった。本書を読むと、ほとんどすべての制度が、データをもとに実験と検証を繰り返しながら少しずつ出来上がったものだとわかる。

本書で題材として上がっている制度のできあがるまでの過程やその背景にある考え方など、どれも非常に興味深い。本書を読むと、どちらかというと組織のなかでレベルの低い人が集まると考えられがちな人事部の仕事も面白そうに思えてくる。また、どんなこともオープンにして、自由に議論が言えるグーグルという環境がうらやましく思えてくるだろう。

「人材は大事」と誰もが言いながらも、グーグルほどその大事さを行動に反映させている組織はないのではないかとも感じた。

たいていの企業は正規分布を使って社員を管理する。...テールは左右対称にはならない。成績の悪い社員は解雇され、さらにひどい人間は入社すらかなわないため、左側のテールが短いからだ。

今後組織づくりに関わるにあたって、もう一度読み直したいと思える一冊。
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「A Steep Price」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Tracy Crosswhiteのシリーズ第6弾である。
前作までで、恋人のDanと結婚して妊娠したその後の物語であり、序盤は妊婦という立場でありながらも、仕事との間に揺れ動くTracyの心が描かれている。そんなTracyの心を見透かしたように、子育ての先輩であるパートナーのKinsが語る言葉が今回もっとも印象的だった。

あっという間に、予想よりもずっと早く、子供達を大学に送り出さなくなるし、さよならを言わなければならなくなる。そして自分自身に問いかけるさ。あの数年間はどこへ行ったのだろう、って。写真を見て、いつ子供達が幼かったかすら思い出せなくて・・・。まだ子供達が小さかったらよかったのにって思うさ。あの頃に戻れたら、子供達がまだ家にいたらいいのにって。だから、家にいることを罰だなんて思わないでくれ。そう思っているのなら、いつかきっと後悔するから。

前作がTracyと同じチームの所属するDelが活躍する物語であったが、今回はDelのパートナーであるFazが主役のような活躍をする。妻であるVeraが癌と診断されたことにより動揺しながらも、家で思い悩んで過ごさないように、仕事に集中しようとするFazであったが、パートナーのDelが腰を痛めたことによって、代わりに新人のAndreaとペアを組むこととなる。ところが、そのAndreaが聞き込みの最中に、容疑者を射殺してしまうという事件に発展していくのである。
一方でTracyは行方不明のインド人女性Kavitaの捜査に関わっていく。Kavitaの友人で、同じくインド人女性のAditiの証言からは、インドの文化における女性の地位の低さが、アメリカで過ごす2人を苦しめていることがわかる。
並行して進む2つの事件と、事件の解決を進めながらも私生活に悩むTracyとFazの2人の様子から、人生のおける多くを学ぶことができる。
こんどはぜひKinsを主人公にしてほしいと思った。

「Interviewing Users」Steve Portigal

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

ユーザーインタビューの方法について書いている。本書は

デザインにおけるインタビューの重要性
インタビューのフレームワーク
インタビューの準備
ただ質問するだけでなく
インタビューの段階
どのように質問するか
インタビューをまとめる
インタビューを最適化する
調査結果でインパクトを与える

の9章からなる。特に学びが多かったのが「How to Ask Questions」の章である。
まずは、沈黙の使い方について書いている。インタビュー中はどうしても沈黙を埋めたくなるが、沈黙を埋めたいというプレッシャーを感じるのはユーザーも同じこと。だからこそ、その沈黙をユーザーに破らせてこそ、貴重な情報が得られるのだという。
また、「相手を正さない」というのも非常にインタビューにおいてやってしまいがちな間違いである。相手の助けたいという高からきたとしても、インタビューが終わってから行うべきなのだという。
例えばユーザーが「こんな機能があったらいいのに」と、すでにある機能について言った時、プロダクトに常に関わっているインタビュアーとしては、「その機能は実はここにあります」と言いたくなるが、一度それをやってしまうと、ユーザーは「ではこんな機能ありますか?」「こうやるにはどうしたらいいんですか?」という流れになってしまい、本来ユーザーの状況を理解するためのインタビューが、出張サポートへと変わってしまうからだという。
結局、インタビュアーが教えるのではなく、ユーザーから彼らの状況や考え方を教わるのが、ユーザーインタビューの目的なのである。そのことを常に念頭においておかなければならないのだろう。
「How to Ask Questions」の章は、今後もインタビューのたびに読み直して、インタビューするメンバーがほかにもいるならぜひ共有したいと思った。

「25年目の「ただいま」5歳で迷子になった僕と家族の物語」サルー・ブライアリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インドの田舎町で迷子になったサルーが、オーストラリアの夫妻に養子に迎えられてから自分の生まれ育ったインドの街を見つける物語。
「ライオン、25年目の「ただいま」」というタイトルで映画化もされた物語。街の名前と駅の名前、そしてその周囲の景色の記憶を頼りに、グーグルアースを使って生まれ故郷を見つけ出すのは、技術的にはそれほど難しくないように思える。それがここまで注目されるのは、25年という長い月日と、オーストラリアとインドの間の生活水準の差が原因なのではないだろうか。
物語の流れとしてはすでに知っていたのでそれほど大きな驚きはなかった。むしろ印象的だったのは、サルーを養子に迎えたオーストラリア人夫妻の養子に対する考え方と、サルーとブライアリー夫妻の養子縁組をしたミセス・ヌードの生き方である。サルーを養子に迎えた、ミセス・ブライアリーは12歳のときに、茶色い肌の子供が立っているビジョンを見たのだという。それ以来、いつかそれを実現しようと生きてきたのだという。
必ずしも血の繋がった子供を育てることだけが幸せではないと、改めて感じるのではないだろうか。
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「ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現」野口悠紀雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世間で騒がれているブロックチェーンについて、その仕組みと期待される実用例を説明している。

これまでブロックチェーンというと、ビットコインなどの仮想通貨とあわせて語られることが多かった。しかしその応用範囲は通貨だけでなく多岐にわたり、ブロックチェーンが広まるにつれて起こるであろう世の中の変化を把握したくて本書を手に取った。

序盤はブロックチェーンの仕組みについて説明しており、多くのブロックチェーン関連の書籍と重なる点が多かったが、中盤以降は、期待される実用例や、そこに至るまでの障害について触れている。

本書を読んで気づいたのは、金融業界へもたらす影響は、金融業界が長年古い体質であるからこそ、想像以上に大きいであろうということ。また、障害は技術的な部分よりも、法律、運用、人の先入観による部分が大きいだろうということである。それでも、本書で示されている、選挙制度へのブロックチェーンの利用や、シェアリングエコノミーへの利用は、さらなる便利で公平な社会へ希望が持てるものである。

全体的にブロックチェーンの仕組み、現状、問題点をわかりやすく解説していて非常によみやすく興味を持って読むことができた。今後もブロックチェーンの動向に注意を向けていたい。
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「沈みゆく大国アメリカ」堤未果

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
先日読了した、アメリカ合衆国大統領トランプの政権を扱った「炎と怒り トランプ政権の内幕」のなかで「オバマケア」という言葉が頻繁に出てきたため、その内容を知りたくて本書にたどり着いた。

オバマケアとはオバマ大統領が目指した国民皆保険制度を指す。医療費の高騰によって医療費によって破産する人があとをたたないなか、日本のように国民全員が医療保険に加入する世の中を目指した政策である。しかし、実際には意図したようには機能せず、むしろアメリカの医療崩壊を加速させることとなった。本書はそんなオバマケアの詳細と、それによって実際どのようなことが起こった、もしくはおきているかをわかりやすく説明している。

例えば、オバマケアには次のような項目がある。

フルタイム従業員50人以上の企業はオバマケアの条件を満たす保険提供義務。

しかし、大部分の企業が行ったのは、フルタイムの従業員をパートタイムに格下げして保険提供の義務を生じさせないことだったという。それによってフルタイム従業員として生活していた低所得者層は労働時間を減らされた結果、別の仕事を探さなければならなくなったという。

同様に保険会社に向けた次のような項目に対しては

保険会社が既往歴での加入拒否や、病気になってからの途中解約は違法。

保険会社は保険の損失リスクをカバーするために、薬代を大幅に引き上げたのだという。

本書が描くアメリカの医療とオバマケアの意図と結果からは、日本が学ぶべき部分が多く含まれている気がする。どれほど理想を描いた政策であっても、先の予測を誤れば悲劇に発展するのである。そのほかにもアメリカの医療のさまざまな問題点を指摘しており、非常に興味深く読むことができた。また、同時に、僕らが当然のこととして受け入れている、国民保険制度も非常の貴重なものだと改めて感じた。
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「沈まぬ太陽」山崎豊子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本の航空会社に務める恩地元(おんちはじめ)は入社後、労働組合の委員長として賃上げ交渉やストライキを指導したことから、パキスタン、エジプト、ケニアへと左遷されていく。
日本航空をモデルにして描かれた作品。10年にも及び海外に左遷された主人公恩地元(おんちはじめ)も実在の人物をモデルにしており、企業名、人物名こそフィクションであるが、1970年代、80年代の日本航空を描いている。
物語のクライマックスはやはり、日航機墜落事故を扱った「御巣鷹山編」だろう。経費削減、利益優先の追求や、社内政治の横行によって、安全管理を怠った結果がついに、500人以上の犠牲者へとつながるのである。日航機墜落事故を扱った物語としては横山秀夫の「クライマーズハイ」も名作ではあるが、本作品では物語全体5章のうちの1章を墜落事故と犠牲者の遺体回収等に割いており、当時の報道からは知ることのできなかった事実を知ることができる。
そして、後半は新たに会長として送り込まれた人物によって、少しずつ会社が改善していく様子が描かれている。汚職や脱税、社内政治の様子はなかなか複雑で理解するのも難しいが、余裕がある人は勉強して知識とするのもいいのではないだろうか。
30年という月日が経っているために現代とのギャップも楽しめるかもしれない。全体的に非常に読み応えがあり、今まで読んでいなかったのが不思議なほどである。著者の魂が感じられる貴重な物語と言えよう。
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「Fifty Quick Ideas To Improve Your User Stories」Gojko Adzic, David Evans

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アジャイルにおける開発の速度は、ユーザーストーリーをどのように作り出すかによって大きく変わってくる。本書はそんなユーザーストーリーを効果的に作り出す50の方法を解説している。
それぞれの手法に対して「採用することによる主なメリット」と「どのように採用するか」を箇条書きにわかりやすくまとめていて非常に読みやすい。それぞれの手法は、組織の大きさや形態によって、適応できそうなものや難しそうなものもあるが、開発を効果的かつ効率的に発展させるための重要な考え方で溢れており、プロダクトオーナーやスクラムマスターだけでなく、開発にかかわる全ての人に役立つだろう。
個人的に印象的だったのがユーザーの行動を変えるフェーズとして頭文字をとったCREATEである。

Cue
Reaction
Evaluation
Ability
Timing

僕らがユーザーの行動を変えようとした時、上記のどの行動に変化をもたらそうとしてのかを明確にすると、より具体的な施策へとつながるだろう。
また、Storyの優先順位を決める上で指標となる考え方で、書籍「Stand Back And Deliver」のなかでNiel Nickolaisenが語っている考え方である。その考え方で重要なのは目の前のStoryに対して次の2つの問いかけをすることである。

それはミッションにとって不可欠か
(ビジネスはそれなしに進められるか?)
それはマーケットで差別化するものか
(ユーザーに大きな利益をもたらすか?)

そのあとの決断の仕方等は詳しくはぜひ本書を読んでいただきたい。
なかなか一度読んだだけで、実際の開発に適用することは難しいだろう。繰り返し読んで実践することで組織に浸透していく内容だと感じた。

「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」西野亮廣

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
絵本「えんとつ町のプペル」を絵本としては珍しい分業制で作成し、絵本としては記録的な発行部数を実現した、キングコングの西野亮廣が、その成功までの過程で行ったことやその考え方を書く。
具体的に言うと、クラウドファンディングでお金を集める方法や、自分に対するアンチの存在を利用する方法などであるが、どれも非常に的を得ていると感じた。
そんななかでも発売前の絵本をネット上で公開したことについては、多くのページを割いて説明している。著者は言う、「無料にすることは実力を可視化すること」と。インターネットでさまざまな人が発信できるようになた今、個人や企業の実力は可視化され、それを秘密にしていたり、「お金を払わないと何も使えません」では誰も利用してくれないでただただ機会を失っていくんだと感じた。
そのほかにも

お客さんはお金がないわけではなく、お金を払うきっかけがない。
本は本屋さんで売るよりも、スナックで売った方が売れる

などの話が面白かった。
言っていることはどれも非常に共感できる部分があるが、表現の仕方が、若干反感を買いそうな点も感じた。その一方で、その反感を買うような言い方も狙ってやっているのだろうとも思わせる。せっかくなのでこのスタイルを突き進んで欲しいと思った。
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「ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち」マーゴット・リーシェタリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
黒人に対する差別が根強く残っていた頃にNASAのために計算手として尽くした黒人女性たちについて語っている。
戦時中にNASAの前身となる組織で戦闘機の開発に貢献した黒人女性たちは、戦争の終了とともに宇宙開発に従事することなり、その貢献はやがてアポロ計画へとつながっていく。
ドキュメンタリー形式で描かれているため、登場人物が多く、なかなか一人一人をしっかり把握はできないが、数学を得意としていた女性たちの活躍は感じられる。また、その一方で、彼女たちの有能さだけでなく当時の黒人に対する差別の大きさも見えてくる。そしてそんな逆境のなか、黒人の評価をあげようと尽くした彼女たちがなんともかっこいいのだ。
女性は数学が苦手などという固定概念は一体誰が生み出したものなのだろう。本書を読めばそんな考えはなんの根拠もないことがわかるだろう。
映画化もされているのでぜひそれも見てみたいと思った。

「毎朝、服に迷わない」山本あきこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スタイリストの著者が服のコーディネートについて語る。
まず重要なのは、

センスのいいコーディネートにとっていちばん必要なのは、本当はセンスではなく、まずアイテムです。

ということだ。そのコンセプトにのっとって、本書ではさまざまな「使いまわしのきくアイテム」を紹介している。基本的に女性向けのコーディネートを扱っているが、男性にも採用できるアイテムや考え方が含まれている。個人的に「さっそく買ってこよう」と思ったのがストライプシャツ、ジージャン、白のトートバッグである。
毎日私服で働いている人にとってはファッションは印象を大きく左右するもの。不必要に労力やお金をかけたくはないが、考え方ひとつで大きく改善できるならぜひしたい。早速本書の考え方を取り入れていきたいと思った。
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「僕は君たちに武器を配りたいエッセンシャル版」瀧本哲史

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これからの時代の生き方について語る。
どちらかというと、これから社会に出て行く若い人向けに書かれた内容だが、僕のような社会人10年以上の人間が読んでも学ぶ部分はある。
物と同じように、人も同じ能力を持った人間がたくさんいれば、価格競争になってしまう。つまりコモディティ化が進んでしまうのだ。賃金を下げたくなければコモディティにならない生き方をすることが重要なのである。
著者はコモディティ化しないための生き方として4つの生き方をあげている。

マーケター
イノベーター
リーダー
インベスター

である。今後の生き方を改めて考えさせられた。
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「Webコピーライティングの新常識 ザ・マイクロコピー」山本琢磨

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マイクロコピーの重要性を、過去の著者の経験と実例をもとに語る。

マイクロコピーとは、トップページにあるような大きな文言ではなく、Webサイトやアプリケーションの各所に散らばるコピーのことである。本書はマイクロコピーの重要性を謳う理由は次のように語っている。

トップページの修正ではひどい時には2週間以上かかり、いったんサイトの稼働を止めなければならないほどだったのに、奥のページにいけばいくほど修正箇所は小さくなる。修正にかかる時間も短くなり・・・なのに売り上げは大きく上がる。
興味深いのは、たくさんの例を本書で示しているにもかかわらず、結局のところどんなサイトでも通用するような正解のコピーの書き方はないということである。あるサイトで成功したコピーが他のサイトでは逆効果になることもあり、そのサイトのユーザー層によって傾向は変わるのだという。結局、何度もABテスト等を繰り返して探っていくしかないのだという。
実際にコピーを見直す時にもう一度読み直したいと思った。
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「ファシリテーションの教科書 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」吉田素文

オススメ度 ★★★★☆ 3/5
組織の英知を結集するためにファシリテーションが重要だと感じ、本書を手に取った。

本書はファシリテーションを「仕込み」と「さばき」という大きな2つの部分に分けて構成している。「仕込み」の章で面白かったのが「出発点と到達点を明確にする」という点。ビジネスにおける議論は次の4段階から形成され、その出発点と到達点を意識する必要があるというのである。

  • 「議論の場の目的共有」
  • 「アクションの理由の共有・合意」
  • 「アクションの選択と合意」
  • 「実行プラン・コミットの確認・共有」

必ずしも議論の参加者全員が同じ段階にいるとは限らないため、参加者によっては個別にケアして納得感を持った状態で同じ出発点に立ったうえで議論を開始する必要があるだろう。

後半は、「さばき」であり、一般的にファシリテーターの求められる能力はこちらの方が大きいのではないだろうか。「さばき」の基本動作として本書では

  • 発言を引き出す
  • 発言を理解し、共有する
  • 議論を方向づける
  • 結論づける

という4つを挙げている。それぞれの動作について考えられる障害、それに対するアドバイスがたくさん書かれており、定期的にファシリテーターを務める人であれば手元に一冊おいておいて何度も見返したくなることだろう。個人的には「発言の理解」の部分が印象的で、論点(=問い)、主張、根拠、目的を考えて人の意見を聞くということの重要性気付かされた。ファシリテーションを学びたくてたまたま本書を手に取ったが非常に満足である。
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