オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
リッツ・カールトン大阪の開業に携わり、開業後は副総支配人としてその運営に関わった著者がそのホスピタリティについて語る。
実際僕自身リッツ・カールトンは足を踏み入れたこともないのだが、「クレド」というものについて語るとき必ず挙がるのがリッツ・カールトンであり、その徹底されたサービスはよく知られているところである。
しかし、世の中に多くのサービスがあって、そのどれもが顧客目線でサービスの質を向上しようとしているにも関わらず、そんな中でもリッツ・カールトンが際立って高い評価を受ける理由はなんなのか。そんな疑問に本書はわずかではあるが答えてくれることだろう。
なかにはもちろん高いお金をかけるからこそ実現するものもあるが、いくつかは異なる業種にも適用できるようなものであり、それだけでなく、単純に人と人とのコミュニケーションの際にも利用できそうな考え方まで示されている。
以前読んだ、オリエンタルワールドのサービスについて書かれた本の内容と類似点がある印象を受けた。どちらもあらゆる過程で根本となるポリシーをもとに判断を下しているのである。こんなことが実現できるならぜひそんな会社で働いてみたい、と思わせる一冊である。
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カテゴリー: ★3つ
「On the Island」Tracey Garvis-Graves
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生T.J.とその家庭教師のAnnaがモルジブに向かう途中、航空機が墜落し、やがて2人は小さな島に流れ着く。
過去いくつもの物語が作られている、無人島漂流記という題材。本作品は先生と生徒という男女でその物語が展開していく。飲み水の確保や、火をおこすことに悪戦苦闘する姿は比較的予想されているもの。その土地特有の病気もまたその一つであって、男女であればやがて恋愛関係になるのも予想通りかもしれない。
本作品で予想外のことと言えば、過去、無人島漂流記という物語は島から脱出して物語を終えるのにもかかわらず、本作品ではその後の2人の様子も描かれている点だろう。島での生活と、都会の最先端の文化での生活のギャップや、飛行機事故の生存者として有名になってしまったが故の2人の苦悩するさまなどが新しい。
すべてがフィクションではなくて、9.11やスマトラ沖地震を物語に絡めている点も面白い。
「クラウド化する世界 ビジネスモデル構築の大転換」ニコラス・G・カー
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Googleのサービスに見られるように、世の中はクラウドというスタイルへと移行しつつある。本書の序盤はそんな「クラウド」について、過去にクラウド化された物を例にとって初心者にもわかりやすく説明している。
その例に使用されているのが、「電力」である。発電機が発明されて、電気にガスよりも多くの利点があると世の中が認識すると、すぐにお金のある企業は発電機を買って電気を利用し始めるが、やがて「電力」はおのおのの企業や家庭がその敷地内で発電するものではなく、現在の「発電所」と呼ばれるような、ひとつの場所で多くの電力を発電し必要とされる場所に送られることが一般的になっていった。
この電力の進化の流れは、現在の「クラウド」と呼ばれるものと同じ流れであり、そう考えると「クラウド」という言葉こそインターネット向けに使われ始めたものではあるが、その進化の流れは決して特別新しいものではないことがわかる。遠距離に送ることができて、その送るインフラが整備されていれば、それはひとつの場所で大量に生産するほうが効率的で、利用者にとっても余計な知識や維持費が不要になるのである。
そんなクラウドの流れを説明するとともに、中盤以降ではセールスフォースなど現在あるクラウドサービスについて解説し、終盤にかけてはクラウド化が人に及ぼす影響に対して疑問を投げかけている。
翻訳のせいか若干読みにくく、また全体的に著者が言いたいことや本全体としての焦点が「Google」なのか「インターネット」なのか「クラウド」なのか、はっきりしないと感じる部分もあるが今のインターネットの流れを把握するには非常にわかりやすい内容である。
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「プラナリア」山本文緒
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第124回直木賞受賞作品。
無職の人々を扱った5つの物語。それぞれ無職になった理由はさまざまである。乳がんと診断された人や、社内結婚のすえに離婚して社内にいずらくなった人、単純に主婦だったり、学生だったり。
直木賞という賞を取るにはやや地味な印象もあるが、むしろこういう内容の本が共感され、評価されるのは、世の中の多くの人が実際には、テレビのドラマのなかに出てくるように、実際にはばりばり仕事をしているわけでもなく、青春を謳歌している訳でもなく、思うようにならない現実に悶々としているからだろう。
僕自身が共感できたかというと首を捻らざるをえないのだが、共感を集める理由も判る気がする。もっと人生経験を積む必要がきっとあるのだろう。
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「1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター」五十嵐貴久
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
真面目に生きていた主婦美恵子(みえこ)は、息子が高校受験に失敗したのを機にアルバイトを始める。そこでの出会いからやがてバンドをやることになる。
「青春に年齢制限はない」的な、陽気な青春小説で、物語の持つメッセージ性はある意味、すでに使い古されたもの。それでもいろいろ心に訴えかけてくるものがある。本作品の特長はその舞台を1995年に設定している点だろう。オウム真理教や阪神大震災が起こったのがまさに1995年なのである。
親友であるかおりの離婚を繰り返す自由奔放の生き方と、美恵子(みえこ)の堅実な生き方を対照的に描きながら、幸せの形に絶対的なものはなく、どんな人でも人を羨みながら生きていることを訴えてくる。
そして、そこに万引きして美恵子(みえこ)に見つかった雪見(ゆきみ)と元プロの新子(しんこ)が加わってディープパープルを演奏することになる。少しずつ本音をさらけ出すなかでそれぞれの人生観が見えてくるのが面白い。
特に、堅実に生きてきた美恵子(みえこ)がバンドの練習に打ち込むうちに、過去の自分の行き方に思いを馳せるシーンが印象的である。高校のころ、バンドを組んでいた先輩に憧れながらも、当時は女子がバンドを組むなんて考えられなかった、と。
きっと、誰もが今の自分と違う自分に憧れながらも、自分という殻を敗れずに退屈した日々に埋もれていくのだろう。それでも失敗を恐れずに動き出せば、そこにはきっと新しい何かが待っている。そんなメッセージが感じられる一冊である。
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「桐島、部活やめるってよ」朝井リョウ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
バレー部のキャプテン桐島が部活を辞めた。同じときに同じ高校で生活を送っている生徒達の物語。
男子生徒、女子生徒だけでなく、クラスの中心人物、誰からも相手にされないような目立たない生徒など、さまざまな生徒の視点から物語を展開する点が面白い。
クラスでの上下を意識して、自分は「下」だと考える映画部の生徒の視点がある一方で、「上」に位置付けられるサッカー部でクラスの目立つ存在である生徒が、映画部が映画について語る時の生き生きした表情にあこがれるシーンが印象的だ。
他人から見たらどんなにうらやましがられるような、例えばスポーツ万能、容姿端麗な存在であったとしても、悩みを抱え、自分以外の境遇をうらやみながら生きているのだということを認識させられる。
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「非選抜アイドル」仲谷明香
「非選抜アイドル」
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
AKB48の仲谷明香(なかやさやか)がAKB48とその夢を語る。
世の中をにぎわすAKB48のシステムについて少し興味があったので本書を取ったのだが、AKB48のファンというほどのものでもないので、この著者の名前すら知らなかったのだが、どうやらかなり初期の頃からAKBに参加している女性のようだ。
本書では仲谷明香(なかやさやか)の幼い頃の生活、夢、AKB48のオーディションを受けるための経緯と、その後のAKB48の活動が描かれている。声優になるのが夢、と公言しながら、AKB48での活動を通じてチャンスを待ち、やがてその夢が実現に近づいていく様子が面白い。
生まれてからようやく20年経過したばかりの女性の言葉にどれほど学ぶところがあるのだろう、などという気持ちもなかったわけでもなかったのだが、いろいろ考え試行錯誤しながら夢に近づいていくその姿勢は、見習うべき部分も大きい。組織で生き残る必要がある社会人にとっても多少刺激になるのではないだろうか。
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「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」辻村深月
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
母親を殺して行方をくらました幼馴染、チエコを探すライターのみずほ。チエコとの共通の知人や同僚を訪ねて情報を集めていく。何故彼女は母親を殺したのか、そしてどこにいるのか。
みずほがいろんな女性からチエコについての話を聞いていく過程のなかで、30歳という節目の年齢に差し掛かった女性の本音が見えてくる。友達との付き合いのこと。合コンでの振るまいでのこと。結婚のこと。例によってそんな読んでいる読者まで目をそむけたくなるような本音の描写が魅力といえるだろう。
物語が進むにしたがって、何故みずほがそこまでチエミを見つけることに執着するのか、その理由が明らかになっていく。
悪くはないが、残念ながら辻村深月作品は、ある程度の長さと登場人物の多さあってこそ魅力的な作品に仕上がる傾向があるように感じた。
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「光待つ場所へ」辻村深月
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
若者の揺れ動く心を描いた3つの物語を扱った短編集。
短編集ということで、やや控えめではあるがほかの辻村作品同様、憧れ、見栄や嫉妬など人が集まれば当然生じる多くの複雑な感情が描かれている。
最初の物語は、絵画に情熱をかける大学生清水あやめの物語である。表向きは、絵画という共通のものによって結びつき協力し合う友人たちを演じながらも内面ではの絵画の力量で人を評価し、時には貶したりするのだ。
また2話目は売れないモデルの物語。その事務所に所属する人たちは、自分たちより明らかに地位が低いと見えるモデルをみんなで嘲笑する。
嫉妬などの他人の失敗を望む気持ちは、何か汚らわしいもののように世の中では受け入れられていてどこかタブー的な感じもするが、それを必ずといっていいほど描く辻村作品を読むと、不思議なことに、むしろそれが人間の人間らしい感情として見えてくる。
そして今回も、それぞれのエピソードは過去の作品と関連付けられているようだ。1話目には「冷たい校舎の時は止まる」の登場人物が主人公として出てくるし、2話目は「スロウハイツの神様」とつながっている。辻村作品ファンにははずせない一冊。
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「日本人が知らないウィキリークス」 小林恭子/白井聡
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
最近メディアでよく見かける「ウィキリークスス」という名前。何やらあまり評判がよくないらしいが、一体どんな理念で、どんな活動をしていて、何をしたがゆえに現在ほど議論の的となったのか。
日本のメディアはなぜか海外メディアはほど注目していないが、非常に興味深いものである。本書ではウィキリークスの過去の活動とその活動に対する批判の内容を丁寧に解説している。
そこからいくつか面白いことが浮かび上がってくる。例えばウィキリークスに限ったことではないが、機密情報をリークされた側が、その相手に対して訴訟を起こすということはよくある話だが、結果的にはむしろ訴訟を起こすことで、漏れた情報に対して世間の注目を集め、またその情報が真実であることを世間に知らしめてしまうということ。そして、一度ネット上に公開された情報はそのサーバが閉鎖されたとしてもコピーされて永遠にネット上に存在し続けてしまうということだ。本書でも言っているようにウィキリークスのやっていることはそんなネット上の特性を最大限に利用しているのである。
だからこそウィキリークスの理念が重要になってくる。一体ウィキリークス集まった情報から、どれを公開すべきか、一体どのような考えによって決断しているのか。本書では過去の大きな情報リーク事件を解説しながら、国益とは何か、公益とは何か、正義とは何か、といった部分まで論じている。
すでに多くの人が知っているとおり、正義とは視点によって異なるもので絶対的なものではない。国益とはについても、もはやウィキリークスは単にサーバーが一時的にどこかの国に属しているだけで実質的にどの国にも属していない、などその特異なる点にも触れている。
後半部分はややわかりにくい観念的な話になってしまったが、前半部分は非常に密度の濃い内容であった。 印象的なのは終盤に書かれたウィキリークスの方針について述べた言葉。
本来リアルタイムで注目を集めるべき事象ながらもやはり英語圏ではない日本メディアの取り上げ方は一テンポ遅れてしまうのが残念なところ。翻訳された情報はやはりリアル感が乏しい。
【楽天ブックス】「日本人が知らないウィキリークス」
「泣いた日」阿部勇樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本代表阿部勇樹について、幼少時代のことクラブでのこと、日本代表でのことなどを、阿部勇樹本人や、家族、そしてオシム監督が語る。
タイトルにあるように、本作品は阿部勇樹の涙もろさをテーマとして構成されており、実際に本書を読んだ印象は、サッカー選手としては本当に阿部勇樹は繊細であるということ。それでもそんな彼が日本代表まで上り詰めることができる日本のサッカー界はなかなか悪くないのだろう。
阿部勇樹本人が語る章では、ジェフ時代に出会ったオシム監督とのことについて非常に多くページが割かれていて、阿部がオシム監督から受けた影響の大きさが見て取れる。
後半には父や妻の視点で阿部勇樹が語られ、どれも等身大の阿部勇樹を見せてくれる。
一方で、日本代表にクラブチームなどにおける試合などにはほとんど触れていないため、むしろサッカーファン向けの内容とは言えないのかも知れない。
【楽天ブックス】「泣いた日」
「遠まわりする雛」米澤穂信
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
神山高校の古典部を描いた物語の第4弾。
本作品は前3作と違って、短編集となっている。古典部の4人、省エネがモットーの折木奉太郎(おれきほうたろう)、物事は広く浅く取り組む福部里志(ふくべさとし)、そして地元の名士の娘、千反田(ちだんだ)える、そして福部に想いを寄せる伊原麻耶香(いはらまやか)。
例によってあまり重要でもない日常の謎に挑み続ける4人。他愛のないことだけどどこか深みを感じさせるエピソード。印象的だったのは、6話目の「手作りチョコーレート事件」。福部里志(ふくべさとし)に想いを寄せる伊原麻耶香(いはらまやか)は毎年バレンタインデーには、福部(ふくべ)にチョコレートを渡そうとするのだが、彼はどうにかして受け取ることを回避しようとする。そこには福部(ふくべ)なりの深い理由があった…。
軽い物語の寄せ集めではあるが、だからといって読み終えた瞬間に記憶から消えてしまうようなものではなく、むしろ何か心の中に漂い続ける深みがある。悪くない一冊。
【楽天ブックス】「遠まわりする雛」
「ビブリア古書堂の事件手帖2 栞子さんと謎めく日常」三上延
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
店主篠川栞子(しのかわしおりこ)が退院して戻ってきた北鎌倉のビブリア古書堂。そんな古本屋で起きる古本にかかわる物語。
第2弾となる本作品は、前作と違って店主栞子(しおりこ)が戻ってきてビブリア古書堂にいる点だろう。それでも本の事以外を話すのは苦手なため、接客を基本的にアルバイトの五浦大輔(ごうらだいすけ)に任せることとなる。
全体的には未だに何を考えているかわからない栞子(しおりこ)と高校時代から栞子(しおりこ)に想いを寄せる大輔(だいすけ)の不器用な恋愛物語といった雰囲気になってくる。
もちろん、そんななかでも古本に関する興味深いエピソードはちりばめられている。アントニイ・バージェスの「時計じかけのオレンジ」や足塚不二雄の「UTOPIA」などがそれである。
大輔(だいすけ)の昔の恋人が現れたり、栞子(しおりこ)の母親のエピソードがあったりと、少しずつ2人の背景が明らかになっていく。例によって、のんびり気楽な読書に最適な一冊。
【楽天ブックス】「ビブリア古書堂の事件手帖2 栞子さんと謎めく日常」
「傍聞き」長岡弘樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
救急隊員、女性刑事、消防士といった特殊な職業に就いている人を描いた4つの物語。
4つの物語を収めているにもかかわらず薄いため、あまり期待していなかったのだが、どの物語も非常に深く、結末は予想をいいほうに裏切ってくれる。2番目の表題作「傍聞き」で日本推理作家協会賞短編部門受賞したということだが、個人的に印象的だったのは最初の物語である「迷走」である。
ナイフで刺された怪我人を搬送中の救急車だが、病院の近くにたどり着きながらも怪我人を下ろすことなく、病院の周囲をサイレンを鳴らし続けながら走る。その怪我人と面識のある救急隊長の意図は、怪我人を救うことなのかそれとも…。
残りの3つの物語も短いながらもそれぞれの登場人物の個性がしっかりと出た物語となっている。この手軽さでこの深さ。読む価値ありといえる。
【楽天ブックス】「傍聞き」
「凍土の密約」今野敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ロシアに精通した公安捜査官倉島(くらしま)の物語の第3弾。都内で発生した殺人事件の捜査に加わるように倉島(くらしま)は理由も告げられずに指示される。
「曙光の街」「白夜街道」に続く第3弾である。前2作品は元KGB諜報員ヴィクトルと倉島(くらしま)の双方に焦点をあてた物語だったが、本作品では残念ながらヴィクトルは名前として出てくるだけで姿を現さない。そのためシリーズのなかではかなり地味な展開になっている。
さて、都内で発生した殺人事件で、明らかにプロの仕業と思われる遺体を目の当たりにし、倉島(くらしま)はそのロシア絡みの情報網から一人のロシア人、アンドレイ・シロコフという名前にたどり着く。いったいその男は何を企んでいるのか、なんのために被害者たちを殺したのか。その真相を突き止めるため、倉島(くらしま)はロシア人やその関係者たちから情報を得ようとする。しかしそれは、一歩間違えればこちらの動きを相手に教えて、自らも命を狙われかねない行動。常に危険な駆け引きの連続である。ある人間について調べるためにその人間の名前をネットで検索するだけで、追跡者として特定され命の危険にさらされる。そんな様子はなんでもかんでもまずインターネットで調べようとする人にとっては衝撃かもしれない。
さて、真実が明らかになるにつれてそれは第二次世界大戦中の出来事へとつながっていく。公安捜査官の活動は近年いろいろな刑事ドラマに取り上げられるせいか、一般の人にもある程度知られるようになっては来ているが、それでも平和な日本を満喫している僕らにはとても現実感わかない世界である。本作品はスピード感や読者を一気に引き込む力があるわけではないが、そんな公安捜査官たちが、僕らの視界に入る前のところで平和を守ろうと奔走する姿が伝わってくる。
【楽天ブックス】「凍土の密約」
「特等添乗員αの難事件I」松岡圭祐
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人とは違った考え方を常にする浅倉綾奈(あさくらあやな)はそれゆえに社会に適応できずにいた。その才能に目をつけた警察キャリア壱条那沖(いちじょうなおき)は、綾奈(あやな)に社会に適応させるべく特別な授業を受けさせることを決める。
松岡圭祐ワールドの新たなヒロインの第一作であるが、本作品には万能鑑定士シリーズの凛田莉子(りんだりこ)もかなり頻繁に登場する。物に対する知識を極限まで蓄えた凛田莉子(りんだりこ)と、物事を人とは別の視点から眺めることに長けた浅倉綾奈(あさくらあやな)が悪事をたくらむ輩と対決する物語である。
第一作ということで、浅倉綾奈(あさくらあやな)の成長の姿が非常に面白い。個人的に印象的だったのは綾奈(あやな)の教育担当である年配の元教師能登(のと)のその考え方である。
年配はゲームをしないとかマンガを読まないとか、一体誰が決めたのだろう。いつまでも新しい物事に目を向けて生きていたいと思える言葉である。
そして終盤に向かうにつれ立派な一人前の添乗員になっていく綾奈(あやな)。さて、壱条(いちじょう)との恋模様はどうなるのか、家族とはうまくやっていけるのか。続編が楽しみである。
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「Relentless」Simon Kernick
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2人の子供に恵まれた普通の幸せな結婚を楽しんでいたJohn Meronはある日、旧友からの久しぶりの電話を受けて以降、追われる身となる。真実が見えないまま家族を守るためにMeronは奔走する。
ジェットコースター小説というものがあるならまさにそれ。物語の大部分でMeronは逃走、銃撃戦、誘拐、拉致と言ったスリリングな内容で占められている。ハリウッド映画を見ているようなスピーディな展開で栄が向きな物語と言えるだろう。
逃走劇の渦中にいるMeronとその妻Kathyだけでなく、過去につらい出来事ゆえに犯罪捜査に対して違った思いを抱き続けるBoltの心の内なども印象的である。
そして次第に明らかになる大きな犯罪の影。結末に関してやや説明不足の部分もあるような気がするが、一気に読める内容である。また物語の舞台がイギリスという点も面白い。
「天空の帝国インカ その謎に挑む」山本紀夫
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
文字を持たないゆえに謎に包まれたインカ帝国。その歴史とそこでの生活、文化などを何年もアンデスに通い続けた著者が語る。
インカ帝国の謎の一つに、なぜそんなにも高地に彼らは文明を築いたのか、というものがあり、その点に対して非常にわかりやすく説明している。
印象的だったのがその異形のものを崇拝する文化である。アンデスではじゃがいもやトウモロコシなどの収穫物だけに限らず、兎唇や斜視や双子など人間に対しても希少な存在を敬う文化が根付いているという。いじめや差別の起こる現代社会をみるとそれはむしろ非常に望ましい文化のようにさえ思える。
終盤では、その滅亡の謎に迫る。なぜこれだけ永きにわたって繁栄した文明が、スペイン人の侵攻によってあっさりと滅んでしまったのか。筆者はそこに事実と経験に基づいて推測を語っている。それは異形なものを崇拝する文化にかかわるものであった。
タイトルから期待した「謎」というよりも、しっかりとした調査によって得られた事実に近いことが説明されていて、あまり面白い、とお勧めできるものではないが、インカ帝国について純粋に理解を深めたい人にはお勧めできる内容である。
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「ビブリア古書堂の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち」三上延
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
鎌倉の古本屋の店主である篠川栞子(しのかわしおりこ)は人見知りで口下手だが、古本をこよなく愛し、古本に関わることではすぐれた洞察力を発揮する。就職浪人中の五浦大輔(いつうらだいすけ)は本の鑑定のためにその古本屋を訪れる。
やはり本シリーズの魅力は篠川栞子(しのかわしおりこ)のその個性だろう。「千里眼シリーズ」で有名な著者、松岡圭祐も「万能鑑定士」シリーズで、非常に知識のある女性を描いているが、最近で言えば「鉄子」と言われる女性鉄道オタクが市民権を得たように、世の中が度を越して知識を持っている女性を求めているのかもしれない。
物語はそんな篠川栞子(しのかわしおりこ)と五浦大輔(いつうらだいすけ)の周辺で起きる、言ってしまえばそれほど深刻でない日常の問題を、栞子(しおりこ)が解いていく。その過程で語られる、古本に関わる小話や、夏目漱石、太宰治などの日本文学が非常に好奇心を掻き立ててくれる。誰もが聞いたことのある著者でありながら、なんとなく「古臭い」「退屈」といったイメージをぬぐえずに実際に読んだことのない人は多いのだろう。本作品は、そんな躊躇している人の背中を押してくれるだろう。実際僕も、太宰治を何冊か読んでみようか、と読み終わって思った。物語自体が、「ものすごい面白い」とかいうわけではないが、心地よく視野を広げてくれる作品である。
本作品では、鑑定、古本に深くかかわる内容である、古本屋といえば京極夏彦の「姑獲鳥の夏」、鑑定といえば松岡圭祐の「万能鑑定士シリーズ」が僕のなかで印象的だったので、まだ読んだことのない人は読み比べてみてはどうだろうか。
【楽天ブックス】「ビブリア古書堂の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち」
「観察眼」遠藤保仁/今野泰幸
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本代表の遠藤保仁(えんどうやすひと)と今野泰幸(こんのやすゆき)が、過去のサッカー人生や、現在の日本代表、Jリーグなどを語る。
今野(こんの)の語る内容からは、とりたててとりえのなかった選手が日本代表になるまでの苦労や心構えが感じられる。人見知りゆえに、初めて代表に呼ばれたときは風をひいてしまった苦労など、組織の中で自らの長所を知り、それを活かしつつ監督の求める要求にこたえる。というむしろサッカーに限らず組織のなかでの心構えとして通用しそうな内容である。
また、後半の遠藤(えんどう)の内容からは、さすがに現日本代表のキープレイヤー的な視点を感じさせてくれる。
2人の語る内容からは、ザッケローニの求める理想の選手像とオシムの求める選手像の違いが見えてくる。また、間の章ではアジアカップ準々決勝のカタール戦について、試合経過ごとの2人の心のうちを語っている点が面白い。その試合を観戦していない人がどれほど楽しめる内容か、はなんとも言えないが、2人とも派手な選手ではないだけに、その心のうちは新鮮である。
【楽天ブックス】「観察眼」