「鹿男あをによし」万城目学

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
突然奈良の女子校で先生をすることになった小川(おがわ)の不思議な体験を描く。

女子校で期間限定で先生をやるという羨ましいのかつらいの判断し難い設定で物語は始まる。赴任初日から堀田(ほった)という生徒を中心に思春期の女生徒たちに翻弄されるとともに、奈良公園のシカとの不思議な交流によって、小川(おがわ)は人類を救う重要な役目にも関わることになる。

中盤からは、顧問となった剣道部の活動と、大阪と京都にもある姉妹校との対抗戦である大和杯によって、小川(おがわ)がシカから託された使命は少しずつ複雑になっていく。

本書の魅力は、個性豊かな登場人物だろう。特に際立つのは女生徒の堀田(ほった)の存在である。初日に遅刻の言い訳をしたことから小川(おがわ)は常にその動向を意識をしてしまう。

本書はドラマ化されており、多部未華子が堀田(ほった)の役を演じていたが、あらためて原作を読むとハマり役だと感じた。

奈良にはなぜ鹿がたくさん住んでいるのか。また、先生の一人が考古学を趣味としていることから、卑弥呼の墓の話が登場し、卑弥呼とはどこまで存在が確認されているのかなど、日本の神話や歴史にあらためて興味をむけてくれた。また、物語としては何よりもシカが話すという設定が新鮮で、著者の他の作品も何冊が読んでみたいと思った。

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「テスカトリポカ」佐藤究

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第165回直木賞受賞、第34回山本周五郎賞受賞作品。メキシコから逃れたカルテルのリーダーや日本の医療界から追放された医師などが手を組んで新たな犯罪組織を作っていく。

子供の臓器を販売して利益を稼ぐ等犯罪組織を作っていく様子を描く。本書の特徴は、元麻薬カルテルを支配していた一家で、対立する麻薬カルテルへの復讐を誓うバルミロが、アステカの文化の影響の元に育ったことだろう。バルミロの過去が描かれる際、その祖母であるリベルタのアステカのしきたりへの傾倒が細かく描かれる。

少しずつ犯罪組織が構築される中で、多くのはみ出しものたちが登場し、また裏切りによる処刑などが行われる。

どの人物も麻薬や覚醒剤に溺れ、権力や復讐を欲するなどしており、残念ながら、誰一人として共感できる登場人物はいなかった。むしろ、アステカのしきたりや言葉が繰り返し登場し、またアステカが人間を生贄にする文化のように描かれており、どこまでが史実でどこまでが、噂の域を出ないものなのか、とアステカという国や文化に対する好奇心を植え付けられた。

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「What She Found」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Tracyの元に、25年前に失踪した母親を探して欲しいという依頼が舞い込む。

失踪した女性は当時新聞社のレポーターであり、その調査が失踪に関連があるとみて当時の事件を洗ううちに、Last Lineという過去の麻薬取り締まり部隊の汚職の可能性に近づいていく。なぜLast Lineは解体されたのか、なぜLast Lineの構成員は秘密にされているのか。そして、その過程でTracyの前の部署の仲間であるFazとDelのルーキー時代の経験が明らかになっていく。仲間の過去の過ちを明らかにするべきか悩むながらも、少しずつ真相に近づいていく。

また、警察の予算のためにメディア受けを求める所長Weberとの衝突も面白い。今回は20年以上前の出来事を扱っているために告発できないという法律、Statute of limitations(出訴期限法)という法律が何度も登場し、日本とアメリカの法律の違いなども知ることができた。

どうやら、Last Lineという麻薬取締部隊を描いた物語もあるようなので、そちらも機会があったら読んでみたい。

「本と鍵の季節」米沢穂信

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
図書委員となった堀川(ほりかわ)は、同じく図書委員の松倉詩門(まつくらしもん)とさまざまな出来事に関わることとなる。

堀川(ほりかわ)と松倉(まつくら)は図書委員として少しずつ仲良くなっていく。先輩の家にある金庫の番号を解明したり、ヘアサロンに髪を切りに行ったりするなかで、2人の知識と鋭い観察眼が活きる様子が描かれる。

現代の新鮮なミステリーという印象である。軽い気持ちで楽しむのにちょうど良いだろう。

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「エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する」グレッグ・マキューン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
努力をしないで成果を出す方法を語る。

序盤で、むやみに努力することの危険性を語り、その後、楽して成果を出すための考え方を順を追って意説明している。ポイントは、

  • 楽しく進めること
  • 十分な休息をとること
  • まず始めること
  • 失敗を積み重ねること
  • ゆっくり進めること
  • 大事なものにフォーカスすること
  • シンプルにすること

である。どれも言われてみれば当たり前なことばかりだが、例を交えて説明しているから面白い。

多大な犠牲を払って成功した人々と同じくらい、簡単に成功した人々もいる。ただ、苦労の少ない成功は、物語になりづらいだけなのだ。

努力をするのは悪いことではないが、努力したとしても報われるとは限らない。努力を盲信している人にとっては良いきっかけになるのではないだろうか。

僕自身は楽しいことじゃないと身につかない、という考えで、著者の考え方に近いが、それでも改めてその考えに触れると、自分の考えの純度が上がる気がする。

昨今リモートワーク化が進んでいるが、一方でコロナ禍が収束してオフィスワークに戻して行っている企業もある。しかし、本書を読んで改めて、電車のなかで毎日2,3時間を過ごすオフィスワークスタイルは無駄な努力で決して戻るべきではないと感じた。

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「心淋し川」西條奈加

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第164回直木賞受賞作品。江戸の千駄木町の一角の心町(うらまち)と呼ばれた場所で生きる人々の5つの物語を描いている。

それぞれの人々が時代の流れの中で、好きな人と好きなことの2つの間で揺れ動く様子が見える。

過去は簡単に歴史の一部になってしまう。しかし、そんな歴史の一部の江戸という時代にも、歴史に残らない多くの人々が存在していて、現代の人々と同じように、人間関係や自らの存在意義や恋愛に悩みながら暮らしていたのだと気付かされる。

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「少年と犬」馳星周

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第163回直木賞受賞作品。震災の爪痕が残る東北から九州まで、様々な人が多聞(たもん)という犬と出会う物語。

日本の各地で生活する人たちが、シェパートに似た犬、多聞(たもん)と出会い、生活を共にする。東北を中心に描かれる序盤は、震災後の混乱の様子が伝わってくる。また、多聞(たもん)に出会う人々も、必ずしも日本人をだけでなく、海外から日本に出稼ぎに来ている外国人の目線でも描いている点が印象的である。

そして、それぞれが、多聞(たもん)と行動をともにするうちに、多聞(たもん)が南の方向へ行きたがっていることを悟り、別れの際に南へと送り出していくのである。物語の舞台も少しずつ物語は南へ移動し、やがて、多聞(たもん)の目指していたものが明らかになる。

特に物語展開に驚きはないが、素直な優しい人間と動物の物語である。

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「思わずクリックしたくなる バナーデザインのきほん」カトウヒカル

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
バナーデザインの考え方を様々なアイデアとともに例を交えて解説している。

バナーデザインを始めたばかりの人向けの内容ではあるが、デザイナー歴20年以上になる僕も、いくつか気づきを得ることができた。ぜひ今後デザインで迷った際に思い出したいと思ったことは

  • 意図にあった装飾やあしらいを使う
  • 縦書き
  • 車体
  • 作字

である。なかでも漢字を作字するアイデアは、日本のデザインで使える独自性を出すための有効な方法だと思った。

作者は基本的にPhotoshopでバナーを作っているようで、llustratorでバナーを使うことが多い自分とは、出来上がるバナーの傾向に違いがあることを改めて感じた。異なるツールも試してみたいと思った。

例として上がっているバナーに、デザイン的なツッコミが多々思いついたが、意図した説明をするために、良い例と悪い例を試行錯誤しながら作ってくれたことだろう。このように知識を分けてくれるデザイナーの方々には感謝しかない。

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「言葉にできるは武器になる。」梅田悟司

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
電通のコピーライターである著者が、伝わる言葉の生み出し方を語る。

序盤は、内なる言葉の重要性を語っている。考えることを内なる言葉を発することとしていて、考えてなければ、伝わる言葉は生み出せないというのである。そして「伝わる」にも4つの段階があるとしている。

  • 不理解・誤解
  • 理解
  • 納得
  • 共感・共鳴

中盤からは、考えを深める手法を紹介している。書き出して考えを整理する方法やグルーピングなど一般的に広く知られている手法もあったが、中でも印象的だったのは、「T字型思考法」「真逆を考える」である。

T字型思考法とは「なぜ?」「それで?」「本当に?」を繰り返す手法で、覚えやすく、考えの解像度を上げるために有効だと感じた。

また、真逆を考えるでも真逆にも複数あるという考え方がが新鮮である。

  • 否定としての真逆
  • 意味としての真逆
  • 人称としての真逆

そのほかにも、言葉にプロセスとして5つの方法を紹介している。

  • たとえる(比喩・擬人)
  • 繰り返す(反復)
  • ギャップをつくる(対句)
  • 言いきる(断定)
  • 感じる言葉を使う(呼びかけ)(誇張・擬態)

最後は、より良い言葉を生み出すために著者が心掛けていることを説明している。

  • たった一人に伝わればいい
  • 常套句を排除する
  • 一文字でも減らす
  • きとんと書いて口にする
  • 動詞にこだわる
  • 新しい文脈をつくる
  • 似て非なる言葉を区別する

改めて自分が使っている言葉についてしっかりと考えてみたいと思った。

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「うまくいく人が仕事以外でやっていること99」ステファノ・クセナキス

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著者が人生を楽しむための考え方を語る。

著者がギリシャ人であることから、ギリシャの生活が見えてくる。そんななか結局、著者が言っていることは基本的には

  • 早起きすること
  • テレビを消すこと
  • 学び続けること
  • 持っているものに感謝すること
  • 分かち合うこと
  • コントロールできるものに集中すること
  • 本を読むこと

である。どれもよく聞く話であるが、異国の情景とともにそれを伝えてくれるので新鮮である。よく聞く話だから意味がないというのではなく、よく聞く話だからやはりこの考え方が大事で、何度も繰り返し言い聞かせる必要があるのだろう。

ミスをなくそうとするのではなく、ミスを恐れないようにする。すると、ミスをすることが少なくなった。

改めて大事なことに気づかせてくれる。

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「木曜日にはココアを」青山美智子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本とオーストラリアの人々の日常を描く。

前半は東京の人々の日常や悩みを描き、後半はシドニーの人々を描いている。日常を舞台にした優しい物語である。

青山美智子さんの作品を読み続けていると、シドニーやワーキングホリデーを扱ったネタが多く、若干マンネリ気味である。もう少し間を開けて読むのがいいだろう。

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「Cruel and Unusual」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
検視官Kay Scarpettaシリーズの第4弾である。死刑囚のRonnie Joe Waddellの死刑が執行された直後に、連続して不可解な殺人事件が起き、その現場から死刑囚の指紋が見つかる。

これまでの3作品とは少し異なる物語展開である。死刑囚のRonnie Joe Waddellの死刑が実行されたその日に、Eddie Heathという13歳の少年が殺害され、その殺害現場は、Ronnie Joe Waddellが10年前にRobyn Naismithの殺害後に残したものとそっくりだった。また、その数日後に遺体で発見された占い師の家でも10年以上刑務所にいたはずの、Ronnie Joe Waddellの指紋が発見されるのである。処刑されたのはRonnie Joe Waddellだったのか、そして、彼は一体何を知っていたのか。

また、かつてのKay Scarpettaの恋人Mark Jamesが亡くなったことも明らかになる。Kay ScarpettaはMarkの死から立ち直りながら、事件の真実に迫っていくのである。

これまでの作品のなかで、かなり大きな陰謀の気配を感じさせる内容である。ただ、ちょっと消化不良な内容だった。

「アメリカの高校生が学んでいるお金の教室」アンドリュー・O・スミス

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生向けにお金に関わる知識を説明している。

お金の知識を持っていることが重要なのは誰もが認識しつつも、その知識を得る機会は日本にはほとんどない。本書は、貯金や投資だけでなく、就職や保険、老後資金についても語っている。

タイトルにある「アメリカの高校生が学んでいる」というのが真実かどうかは怪しいが、高校生にもわかるように優しく書いてある。とはいえ、順番に語っているので普通に前から読むとかなり退屈だろう。むしろ手元においておいて、ふと気づいたときに読み直すような使い方をすべきなのかもしれない。

むしろ付録として書いてある「絶対に覚えておきたいお金のヒント10」が印象的だった。

  • 1.シンプルに
  • 2.質素に暮らす
  • 3.借金をしない
  • 4.ひたすら貯金
  • 5.うまい話は疑う
  • 6.投資の多様化
  • 7.すべてのものには税金がかかる
  • 8.長期で考える
  • 9.自分を知る
  • 10.お金のことを真剣に考える

そのほかにも、「大学生活のヒント」、「新社会人のためのヒント」があり、どれも納得することばかりで、息子が大きくなったら読んでほしいと思った。

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「オードリー・タンが語るデジタル民主主義」大野和基

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タンが民主主義へのデジタルの活用法を語る。

オードリー・タンの政治に興味をもったきっかけや、これまでにプロジェクト、そして台湾の政治の動向などを語る。

印象に残ったのはクアドラティックボーティングという投票手法である。各自99ポイント持っていて1票の投票のためには1ポイント、2票の投票のためには4ポイント、3票の投票のためには9ポイント消化するシステムである。これの良いところはそのシステムの仕組み上必ず複数案に投票せざるを得ないということである。

また、ネット上で表明される意見に対して、返信機能をつけずに賛成と反対のみの意思表示にすることで、挑発などの発生を防ぐことができるというのも新鮮で、さまざまなプラットフォームに導入できる思った。

誰もが選挙などの政治の世界が遅れていて、ITを活用することでもっと改善できると感じていることだろう。それをまさに実現に動いているオードリー・タンの考え方は新鮮である。

台湾は日本よりも人口が少ないからこのようなことが可能なのだと言って、切って捨てることはできる。しかし、オードリー・タンは、東京都などの都道府県なら台湾と同じぐらいの人口なのでできるはずだとと語る。

いろんなことを考えるきっかけとなった。日本の政治にももう少し目を向けたいと感じた。

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「濁り水 Fire’s Out」日明恩

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
台風で水かさが上がり、各地で警戒が強まるなか、大山雄大(おおやまたけひろ)を含む消防隊員たちの活躍を描く。

鎮火報 Fire’s Out」に始まる消防士大山雄大(おおやまたけひろ)の日常を描く物語の第4弾である。

火災ではなく台風で物語が始まる点がシリーズの過去の作品と異なるところである。そんななか、台風で増えた水かさに溺れた女性の救助が間に合わず悔やむ隊員たちのなかで雄大(たけひろ)は、友人守(まもる)と裕二(ゆうじ)の言葉から、不審な点があることに気づくのだ。

他の日明恩(たちもりめぐみ)作品と同じように、単純に善と悪に分けられない出来事のなかで、深く考えさせられる。大山雄大(おおやまたけひろ)のやる気がないような態度をとりながらも、根底には正義感がある点もいつもの流れであるがどこか憎めない。

全体的には、消防士の事情の説明が多く、物語のスピード感が損なわれてしまっている印象である。シリーズ第1弾ならともかく、すでにシリーズ4作品目なので、もう少し説明を省いて物語の展開を優先してもよかったのではないだろうか。

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「優しい水」日明恩

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
石塚洋(いしづかひろし)は近所の川で不思議な水を見つけ、その水の性質を調査し実験を始める。

石塚洋(いしづかひろし)は、見つけた水を人に飲ませると、その人は大人しくなるということに気づく。そんな悪戯心からの行動がやがて、大きな事件へと繋がっていく。

世の中にはさまざまな種類の病気や細菌があることが伝わってくる。また、少しずつ広まっていく不思議な水の調査をする警察や研究者たちが、オンラインゲーム上でコミュニケーションをとっている点が面白い。

日明恩の作品といえば「鎮火報」や「それでも、警官は微笑う」が印象的であるが、本作品は今までの作品とはまったくことなり、別の人物が書いているかのようである。日明恩にとっても、新たな試みを込めた作品なのだろう。つまらないとは言わないが、これまでの日明恩のような、深さのある問いかけを期待して読み始めると、裏切られた気になるかもしれない。

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「絶叫」葉真中顕

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
マンションで飼い猫に食べられて身元不明となった遺体が見つかった。国分寺警察署の奥貫綾乃(おくぬきあやの)は自殺か事件かを解明していくなかで不思議な事実に気づく。

捜査する警察の側と、一方でマンションの持ち主でおそらく遺体の身元であろう鈴木陽子(すずきようこ)側を交互に描きながら、少しずつ核心へと近づいていく。そこでは、母から愛されなかった一人の女性の不幸な人生が浮かび上がっていく。

また、捜査の過程で、少しずつ綾乃(あやの)自身の過去の失敗した結婚生活も描かれている。世の中をうまく生きることができない、鈴木陽子(すずきようこ)に綾乃(あやの)は、共感に近いものを感じていくのである。

誉田哲也の「ストロベリー・ナイト」シリーズや宮部みゆきの「火車」連想させる世界観である。つまらなくもなかったが特に新鮮さも感じなかった。過去の名作をうまく寄せ集めて書き上げたという印象である。もう少し綾乃(あやの)の生き方を深く描いて人間味を出したほうが良かったのかもしれない。

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「フェイスブックの失墜」シーラ・フレンケル/セシリア・カン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
マーク・ザッカーバーグとシェリル・サンドバーグを中心に困難の時代のフェイスブックを描いている。

これまであった多くのフェイスブックの起業を描いた成功物語とは異なり、タイトルにあるように企業として大きくなった上の困難の時代を描いている。

序盤はマーク・ザッカーバーグとシェリル・サンドバーグの出会いやシェリル・サンドバーグのそれまでの経歴を描いる。シェリル・サンドバーグ個人がフェイスブック参加後に向き合ってきたフェイスブックの男尊女卑文化や縄張り争いについても触れている。広告部門にリソースを割けないことに苛立つサンドバーグの立場も容易に想像できる。マーケット部門とエンジニア部門が敵対する感じも容易に理解できる。

後半は、フェイスブックが通ってきた多くの歴史的な出来事と、それに対するフェイスブックの対応、主にザッカーバーグとサンドバーグの振る舞いを中心に描いている。その経緯やフェイスブック内部の議論や不和を知る中で改めて大企業の社会的責任の大きさを再認識させられる。

人と人をつなげることをミッションに掲げながら、人がつながることで起こる悲劇に会社としてどのような対応をすべきなのだろう。他者を貶めるヘイトスピーチやフェイクニュースなど、間違った情報だからといって削除できないのは納得できる。しかし、それでもその結果大きなマイナスの動きになってしまう要因は、人と人との繋がりを容易にしているフェイスブックにあり、企業としてどのように対応すべきなのだろうか。自分が彼らの立場だったらどんな答えを出しただろうと考えさせられた。

全体的に、マーク・ザッカーバーグとシェリル・サンドバーグの苦悩ばかりが見えてくる内容だった。また、並行して、多くの大きな事件を知ることができた。たとえば、トランプ大統領の大統領選の裏にあったフェイスブックの重要性は噂程度にしか知らなかったし、その後の国会議事堂襲撃事件や、ミャンマーのロヒンギャ族の件は本書を読んで初めて知った。やはり国内のニュースに触れているだけではわからないことが多すぎると改めて気づいた。

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「Verity」Colleen Hoover

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
二流作家のLowenは、交通事故で続編を書けなくなった人気作家Verityの続編を任され、その執筆のためにVerityの残した資料を調べ始める。

Colleen Hooverは「November 9」が面白かったので、同じくおすすめとして挙がる本書にたどり着いた。

Verityとその夫Jeremyは、双子の娘を事故で亡くしており、Verityは交通事故で満足に話すこともできなくなったことを知る。そんなVerityの続編を書くためにLowenはVerityの書斎の大量の資料を自由に見ることを許されるが、そんななかVerityのそれまでの生活を描いた手記を発見する。

そんな一方、Lowenは健気に身動きのできない妻の看病をし、唯一残された息子Crewを可愛がるJeremyは惹かれていくのである。

時間を見つけて少しずつVerityの遺した手記を読み進めるLowenは、その夫婦関係が経験した悲劇の経緯とVerityがどのように考えていたかを知ることとなるのである。

November 9」が結構印象的だったので期待したのだが、比較的ありがちなサスペンスで終わっている気がする。

「経営者のためのウェブブランディングの教科書」佐野彰彦


オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
経営者向けに、ウェブブランディングを説明する。

本書ではウェブブランディングに3S6G法というプロセスを用いて取り組んでいる。

  • 1.ターゲットの心理を先読みする
  • 2.与えるべき結論を設定する
  • 3.1と2をつなぎ合わせるアイデアや演出方法を考える
  • コンセプト
  • ラインナップ
  • 特徴
  • 実例・実証
  • 温度感
  • ニュース性

どれも自分の考えと特に違和感なく重なった。タイトルの通り経営者にとってわかりにういウェブの使い道をしっかり指南している。なんといっても体系化して説明している点がわかりやすいだろう。

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