オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
借金を抱えて父親がいなくなった。母は二階から飛び降りて寝たきりになった。誠は犯罪に手を染めながらも、中学生の正二(しょうじ)、小学生の香(かおり)とともに植物状態の母を介護しながら生きていく。
3人は借金を返すために暴力団から与えられた仕事をこなしつづける。自らを英雄化した幻想にのめりこむことで現実を耐えようとする誠(まこと)の心が痛々しい。正二(しょうじ)はその家庭環境故に学校で孤立しつづける。色彩を失ったような毎日を淡々とこたしつづける兄妹の様子を、物語時代も淡々と描き続ける。そんななか、死んだ人が見えるという香(かおり)の存在が物語に彩りをそえている。
上下二冊にわたって、そんな希望もない日々を淡々と描いているため、とても読んでて面白いとは言えないが、それはそれでその不毛な日々をしっかり描写しているともいえるのかもしれない。「歓喜の仔」というタイトルから、天童荒太の出世作「永遠の仔」との物語的なつながりを期待したが、残念ながらそれらしい箇所は見られなかった。
【楽天ブックス】「歓喜の仔(上)」、「歓喜の仔(下)」
カテゴリー: ★2つ
「レヴォリューションNo.3」金城一紀
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
落ちこぼれ男子校の通称ゾンビーズの男たちの自由奔放な生活を描く。
爽快さはあるかもしれないが、残念ながらそれ以上ではない。大人社会の矛盾やストレスや矛盾を、若さと無鉄砲な若者の目線から描く。むしろ高校生や中学生に受けるないようなのかもしれないが、すでに社会に出た人間から見ると、現実感が薄くうつってしまう。
著者の作品は直木賞を受賞した「GO」以来であるが、「GO」のような内容の深みは感じられない。
【楽天ブックス】「レヴォリューションNo.3」
「Shallow Graves」Jeffery Deaver
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
映画のロケ地を探してPellamがMartyとたどり着いたのはClearyという田舎町。しかしその街に滞在している最中に、Martyが不可解な死を遂げる。PellamはMartyの死の真相を暴こうと決意する。
田舎町で退屈な生活を送っていた人々が、都会からやってきた映画関係者のPellamが来た事で、警戒したり、期待したりする様子が描かれている。きっと、若い頃は都会に出て、何かのきっかけで田舎に戻ってきて、現状に不満をいいながらも年を取っていく。そんな流れは日本もアメリカも同じなのだろう。アメリカの文化のある一面を知るという意味では悪くないかもしれない。
Jeffery Deaverの初期の作品で、現在のRincoln Rhymeシリーズにあるようなスピード感は読者を引き込むような魅力は残念ながら感じられない。
「八月の魔法使い」石持浅海
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
洗剤メーカーの役員会議で報告されていない事故報告書が見つかり、役員たちは副社長のいすを巡ってそれぞれを非難し始めた。その間、万年係長である松本係長も事故報告書の処理を部長に訪ね始める。小林拓真(こばやしたくま)と恋人の美雪(みゆき)は腐敗し始めた会社の大改革を目撃する事になる。
石持浅海(いしもちあさみ)らしく、今回も会社の会議室と、一つのセクションと言うわずかな空間だけで展開する物語。会議室では夏休み中の気楽な会議だったはずのものが、誤って差し込まれていた事故報告書によって一変するのである。そして、小林拓真(こばやしたくま)は与えられたわずかな情報から誰がこの一連の出来事を意図して、何を目的に行っていくかを解明していく。
企業のなかの権力争いを題材にしているせいか、残念ながら他の作品のようなスリルは味わえなかった。この辺の受け止め方は、現実の世界で、企業にどのように所属し、それをどう捉えるかによるのかもしれない。
【楽天ブックス】「八月の魔法使い」
「心臓と左手 座間味くんの推理」石持浅海
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
警視庁の大迫警視はあるハイジャック事件を機に知り合った沖縄を愛する青年、通称「座間味くん」とたびたび過去の事件について意見を交わす。そんな中で「座間味くん」はその推理力を見せる。
本物語は、石持浅海の別の作品「月の扉」と関連する部分が多く、「月の扉」を読んだ人のほうがより楽しめるだろう。僕自身、「月の扉」の物語を漠然としか覚えていなかったのだが、「座間味くん」の推理を楽しむ分にはまったく問題がなかった。
短編集の形をとっていて、最後の一編をのぞいてはいずれも大迫警視が事件の概要を話して、それに対して「座間味くん」が意見を述べる、という形をとっている。つまり、「座間味くん」は大迫警視が語った言葉だけで状況を分析し、警察が気づかなかった真実を推理してみせるのだ。物語が展開する場所の狭さはいかにも石持浅海らしい。
しかし、感想としてはやや「座間味くん」の推理は行き過ぎていて納得しかねると感じる部分も多々あった。また、最後の1編をのぞいた6編ともに事件の概要以外はほとんど同じ展開だったため、やや退屈を感じてしまった。
ちなみに石持作品ではすでに碓氷優香(うすいゆか)というヒロインがいるが、この本名の明らかになっていない「座間味くん」も今後何かほかの展開があるのだろうか。
【楽天ブックス】「心臓と左手 座間味くんの推理」
「永遠。」村山由佳
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
幼なじみの弥生の母が亡くなった。彼女は亡くなる前に別れた弥生の父親について語った。父親に固執する弥生を幼なじみの「俺」目線で描く。
なにしろ短い。まれに見る薄さの本でしかも作者のあとがきが後半のかなりを占めているので内容だけに限ればもっと薄い。実際に本物語は映画「卒業」(有名なダスティンホフマンのものではなく)との合同企画の一部ということらしいので、作者自身は小説だけでも楽しめるもの、という前提で書いたようだが、映画の存在が不可欠である事も事実なのだろう。
読んだ感想としても、物語的に短すぎて記憶からすぐに消えてしまいそうである。おそらく映画とセットで評価すべきものなのだろう。
【楽天ブックス】「永遠。」
「Water for Elephants」Sara Gruen
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
失意のなか飛び乗った列車はサーカスの一団だった。Jacobは獣医という専門を生かしてそこで働く事となる。
サーカスで生きるという普段まず意識する事のない生き方。そんななかで同じサーカスの人々との人間関係に悩み、またサーカスという団体ゆえにそこで見せ物として活躍する動物たちとの関係も面白い。当時の上下関係や給料の支払いなどは、本物語で描かれているように、周囲が「サーカス」という言葉の華やかさに抱くほど煌びやかなものではなかったのだろう。給料の支払いが遅れる事や、支払いを諦めて団を去る者など当時のサーカス事情が伝わってくる。
あとがきを読むと、過去のいくつかの歴史的なエピソードを取り込んでいるようだ。一つの言語しか理解しないゆえに役立たづとレッテルを貼られた像。飼い主を殺してしまったゆえに電気で処刑される事になった像、など、むしろサーカスという歴史に興味をかきたてられる。
残念ながら物語自体はそれほど山あり谷ありというような面白いものではなく、もう少し読者を引き込むような展開にできなかったのかという点が残念である。
「荒野へ」ジョン・クラワカー
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
所持金をすべて燃やしアラスカに向かった青年は、4ヶ月後朽ち果てたバスのなかで死体となって発見される。彼の残した日記や人々の証言をもとにその軌跡とこころのうちを探る。
「イントゥ・ザ・ワイルド」というタイトルで映画にもなった作品の原作である。世の中の面倒な人間関係や従わなければいけない社会のルールなどからまったく離れて自然のなかで時の経過をしっかりと味わいながら生きていきたい、そんな思いはきっと誰しもが持っているものなのだろう。実際にアメリカ中が彼の死に関心を持ったのもまたそんな理由からだと思う。
本書では必ずしも彼の行動に対して肯定的な意見ばかりが書かれている訳ではなく、彼は準備不足で大自然に踏み込んだ愚かな若者に過ぎない、という意見も描かれており、過去の歴史を振り返って同じように、無鉄砲に自然のなかに踏みこんで亡くなったり行方不明になった人々の例に触れている。それぞれはどこか人間の根底にある欲求を示しているようで非常に興味深い。
それでも著者は、単独で登山を繰り返した自らの経験をあげながら、彼と著者との違いは単にその行為の中で命を落としたか生き延びたかというだけであるということを強調し、彼の行動を理解し、受け入れる視点で描いていく。終盤では未だ明らかになっていない、彼の死の原因についても著者なりの見解を述べている。
映画とセットで楽しむべきかもしれない。
【楽天ブックス】「荒野へ」
「ペンギン・ハイウェイ」森見登美彦
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
好奇心旺盛な小学校4年生のアオヤマ君は日々の出来事をノートに記録し、不思議なことは研究して真実を知ろうとする。そんな彼の町にある日突然ペンギンが現れた。ペンギンはどこからやってきたのか。
これは理系人間の僕にとってはかなり理解しがたい物語である。ペンギンに変わるコーラの缶やシロナガスクジラなど、必死でそれぞれの意味を理解しようとするが、読み進めるうちに、そもそもそれぞれに意味を求める事が間違っている気がしてきた。きっとそれが正しい接し方なのだろう。
不思議なのは、前半はそんな意味不明な物語が苦痛で仕方がなかったのだが、なんだか物語が進むにつれて、なんとなくそんなリズムに慣れていってし心地よさのようなものを感じてしまうのである。何かの賞で候補にあがっていたので手にとったのだが、やはりその「候補」という時点でも疑問に思ってしまう。
こういう本を推す人の意見を聞いてみたいところだが、きっと聞いてもこの物語の面白さが理解できるようにはならないのだろう。大きく好みのわかれる作品。
【楽天ブックス】「ペンギン・ハイウェイ」
「絶対にゆるまないネジ 小さな会社が「世界一」になる方法」若林克彦
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
絶対にゆるまないというネジを開発したハードロック工業株式会社の代表取締役社長が、そんな世界に一つだけのネジの開発の過程やそれに関するエピソード、そして小さな企業が生き残るための心構えを語る。
北京オリンピックのとき、砲丸投げの砲丸も日本の町工場が作ったものがもっとも飛距離を出すとしてに話題になった。規模的に小さな日本の企業が、その質の良さで世界に受け入れられるのは同じ日本人として誇らしい。このハードロック企業の「絶対にゆるまないネジ」もまた同じように印象に残っていた。
本書は、そのネジの仕組みはもちろん、それがシェアを拡大するまでの苦労を描いている。「継続は力なり」とか商品にかける情熱が大切というような、多くの成功した企業経営者が書いていることばかりであまり驚きとともに受け入れられるような内容はないのが残念だが、他の成功物語と異なるのは、著者が営業の大切さを訴えている点だろう。「いいものだからといって売れるとは限らない」。これこそきっと小さな企業ゆえに重視しなければならない哲学なのだ。
プロジェクトXのような内容を期待して読むとやや期待はずれかもしれない。
【楽天ブックス】「絶対にゆるまないネジ 小さな会社が「世界一」になる方法」
「ファミコンの驚くべき発想力」 松浦健一郎
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
僕はファミコン世代。小学生時代はまさにそのブームのど真ん中。それからゲームは進化して、今ファミコンのゲームの画面を見ると、長い年月が経った事を実感するが、当時は、その限られたメモリや様々な制限のなかで面白いゲームを作ろうという、制作者たちの試行錯誤があったのだという。本書はそんな制作サイドの裏話に触れられることを期待して手に取った。
いくつかの有名なゲームを例にあげてその裏話を披露している。面白かったのはドラクエの呪文の話。メモリ使用量を減らすためには使用できるカタカナはわずか20文字にしていた。つまりホイミやラリホーなどドラクエIからある呪文はそんな制約のなかから生まれたのである。その他にもドルアーガの塔やスーパーマリオブラザーズなど懐かしのゲームの裏話を見せてくれる。
その制限がたくさんあったなかでゲームを作り出そうとしたファミコンソフト開発者の心を今の制作者たちも見習うべきだと著者はいう。現代のゲームはほとんどファミコン時代に比べるとほとんど制限がないといってもいいくらい何でもできる。しかし、だからといっていたずらにデータを増やして、ユーザを待たせたりするべきではないというのだ。
上にあげたドラクエやドルアーガの話は非常に面白かったが、残念ながらそんな話ばかりでなく、メモリや演算など、プログラムに普段触れている人にしかわからなそうな話も混在して、本書自体がターゲットを絞り込めていない印象を受けた。いろいろ語りたい事はあるのだろうが、もう少し読みやすさを優先して本を書いて欲しかった。
【楽天ブックス】「ファミコンの驚くべき発想力」
「号泣する準備はできていた」江國香織
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第130回直木賞受賞作品。
本書は12の小さな物語からなる。いずれもすでに人生を謳歌する若い時代を終えて、どう生きていくか、と考える世代の男女の目線をとらえているように見える。一つ一つの物語がとても唐突に始まり、短いがゆえに唐突に終わる。それでもそんな12の物語全体が漂うなにか共通した空気があるようにも感じる。恋愛感が多く描かれているのはやはり女性作家ならではだろうか。
直木賞を受賞したという事はすくなくとも複数名の人にこの作品は強い印象を与えたという事なのだが、正直、なかなかしっかり伝わってきたとは言えない。いつかこのよさが理解できる日が来るのだろうか。本著者の作品は初めて触れたのだがもう何冊か試してみたいところだ。
【楽天ブックス】「号泣する準備はできていた」
「英語多読法 やさしい本で始めれば使える英語は必ず身につく」古川昭夫
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
学習塾SEG(Scientific Education Group)で英語の多読を勧める著者が英語の上達における多読の有効性を語る。
基本的に本書で述べられているのは、ある程度の単語を覚えたら、ひたすら英語を多読することが英語上達への近道ということである。そして重要なのはその多読のためにレベルに合った本を選ぶことなのだという。過去の生徒たちの成績をもとに、その根拠を説明する。
そしてよくある多くの反論、例えば、「理解できない単語は何度読んでも、辞書で調べない限り理解できない」など、に答えていく。著者が言うには、繰り返し出てくる単語はその前後の文脈から意味を想像できるし、むしろ大事なのは、辞書をひくことによって読書のスピードが落ちるのを避ける事なのだという。しかし、著者が強調しているのは、多読は有効だが決して万能ではないということ。発音をよくするためには当然音声を使ったシャドイングなどの練習も必要だと言う。
本書ではレベル別にいくつかオススメの本が掲載されているので、英語の多読に挑戦したいと思っているひとには助けになるかもしれない。残念ながらすでに英語で普通に読書を楽しんでいる人にとってはあまり役に立つ内容ではなかった。内容についてもやや冗長な部分もあるように感じた。
【楽天ブックス】「英語多読法 やさしい本で始めれば使える英語は必ず身につく」
「イチロー式集中力 どんな時でも結果が出せる!」児玉光雄
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
過去のイチローの言動に触れながら、目的を達成するための行動や考え方を説明する。
そもそもバッティングの結果だけで評価される野球選手と、様々な分野で仕事をしている人にとっての「成功」を同じ視点で見ていいのかはかなり疑問だが、必ずしも仕事に役立てようとするのではなく、趣味でやっているスポーツの工場のため、とでも考えればそれなりに意義を見いだせるだろう。
おそらく著者も本書を書くためにイチローに会ったわけではないのだろう。30分ほどで読めてしまう内容なだけに、機会があるなら軽く眺めてみるのもいいかもしれない。
返し示している。そこからわかるのは、まだまだゲーム理論は進化の過程にあるということ。今後の発展にも関心を持っていたいと思わせてくれる。
【楽天ブックス】「イチロー式集中力 どんな時でも結果が出せる!」
「英雄の書」宮部みゆき
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
中学二年生の兄がクラスメートを殺傷し、姿を消したため、小学生の妹の友里子(ゆりこ)は兄の行方を探そうとする。兄の部屋の書物たちが言うには、兄は「英雄に魅入られた」のだという。
普段の宮部作品のような、平和に見える現代社会に生まれる人々の摩擦を描いた作品を期待したのだが、実際には「ブレイブストーリー」に続くファンタジーということだった。上下巻にわたる物語ではありながらも、ファンタジーとしては短めに類するだろう。残念ながら非現実的なその世界観がなかなかしみ込んでこないで、そのファンタジーゆえの非現実感がそのまま違和感として受け取れてしまった。
別にファンタジーが嫌いなわけではなく、「ロードオブザリング」や「獣の奏者」などは比較的楽しめたと思っている。思ったのは現代社会とリンクしたような、中途半端なファンタジーは書くのが難しいということ。また、ファンタジーはその世界観を読者の心のなかで構築するためにある程度の長さが必要になるということ。
そんなわけで残念がらあまり楽しむことができなかったが、その辺も読者の気分に左右される部分もあると思うので、ぜひ挑戦してみていただきたい。
【楽天ブックス】「英雄の書(上)」、「英雄の書(下)」
「ホーキング、宇宙のすべてを語る」スティーヴン・ホーキング
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
イギリスの車椅子の物理学者、スティーヴン・ホーキングが宇宙についてわかりやすく語る。
サイモン・シンの「宇宙創生」を読んで、人々が永遠にたどり着くことができない宇宙についてその仕組みを何年もかけて明らかにする過程に魅了され、もう少し深く掘り下げたわかりやすい本はないか、と思い本書を選んだ。
本書はホーキングが最初に宇宙について書いた「ホーキング、宇宙を語る」をより読みやすく面白くした。と序文にあるのだが、とても「誰にでも理解できる」とは言いがたい内容である。その読みにくさは内容だけでなく、翻訳にも問題があるのかもしれないが、どちらにせよ消化不良な印象はぬぐえない。
数学関連の本もそうだが、その分野の最先端の話を理解するのに一冊の本を読んだだけで足りることなどないのである。1つのステップとして、少しずつでも本書に出てきた意味のわからない単語を理解するよう努めたい。
【楽天ブックス】「ホーキング、宇宙のすべてを語る」
「ふちなしのかがみ」辻村深月
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
5つの少し不思議で少し怖い物語。
個人的に好きなのは最初の「踊り場の花子」。どんな学校にでもある七不思議。それは「七不思議」と呼ばれてはいるけれど実際には七つ誰も言えなかったり、人によって微妙に異なるように覚えていたりする。そもそも七不思議は誰が言い始めたのか、実際に起こった出来事に由来しているのか。そんな疑問をうまく物語に仕上げている。
また、2話目の「ブランコをこぐ足」で生徒たちがやったとされる「キューピッド様」もなんか懐かしさを感じさせる。
ややわかりにくい物語もあるが、「学校の怪談」的な程よい怖さ、程よい不気味さが夏に向かうこの時期にマッチしている気がする。残念なのはあまり辻村深月らしい鋭い描写がなかった点だろうか。
【楽天ブックス】「ふちなしのかがみ」
「V.T.R.」辻村深月
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
マーダーライセンス。つまり人を殺すことを許された男、ティーの物語。恋人であり同じくマーダーライセンスを持つR(アール)の行方を探して情報を集め始める。
最近、辻村深月(つじむらみづき)作品を読み漁っているのだが、本作品はやや雰囲気が異なる。というのも辻村作品でありながらも、著者チヨダコーキのデビュー作品という設定なのだ。チヨダコーキというのは、辻村作品の「スロウハイツの神さま」で登場するカリスマ作家である。その書かれた著作が青少年に影響を与えて大きな殺人事件が起きる、という設定だったと思うが、その作品が、本作品なのかどうかは定かではない。
したがって、残念ながら他の辻村作品に共通した、羨望と嫉妬など複雑な感情の入り交じった人々の心の描写は全くといっていいほどないのある。物語の展開がゆっくりなため、途中ややストレスを感じたのだが、終わってみると、「悪くない」と思ってしまった。続編かもしくは僕自身が気づかなかった背景があってもおかしくない。
【楽天ブックス】「V.T.R.」
「ブラバン」津原泰水
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
友人の結婚式の演奏のために高校時代の吹奏楽部を再結成することになった。25年の時を経て再びあつまる人々の物語。
コントラバスを担当していた他平等(たひらひとし)によって物語は語られ、25年前の高校生活の様子と、現代のメンバーを集める様子が描かれる。残念ながら少し時代のずれている僕にはあまり共感できなかったのだが80年代の音楽シーンの変遷をしっかり描いているようで、その時代に同じように音楽に青春をかけた読者にとっては響くないようになっているのではないだろうか。
希望に満ちた10代と希望の薄れた25年後、幸せをつかんだものとそうでないもの。25年という時間によって、人生の暗と明を同時に表現しようとしているようにも感じられる。
非常に登場人物が多く、語り手が25年前と現在の状況を交互に織り交ぜて語るためになかなか時代の区別がつきにくく非常に読みずらい。爽快な青春物語を期待しただけに、なかなか伝わってこない物語に結構ストレスを感じてしまった。
【楽天ブックス】「ブラバン」
「哲学のすすめ」岩崎武雄
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
そもそも「哲学」という分野にあまり今まで目を向けていなかった。と突然思い立って手に取った。本書はまさにそんな「哲学って何?」というような人向けの内容で、著者は哲学の必要性を訴え続ける。
世の中にはどうしても「哲学か科学か」というように、二者択一を迫るような風潮があるが、著者自身も決して科学を否定しているわけではなく、例えば、何か目的があって、それを達成する手段が科学であり、何を目的とするか、が哲学であると語る。つまり哲学とは「価値観」なのである。
「哲学」と言うと、少し距離を置いてしまう人も「価値観」と聞くと、それは誰しもが持っているもの、として身近に感じられるのではないだろうか。
なかなか回りくどく複雑な説明が多く、なかなか理解しやすい本ではなかったが、興味深い話もいくつか拾うことができた。もう少しコンパクトにして、重要な部分をわかりやすく書くこともできたのではないかと思える内容。
【楽天ブックス】「哲学のすすめ」