「WHYから始めよ!」サイモン・シネック

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
WHYを中心としてWHAT、HOWと外に向かう図をゴールデンサークルと呼び、WHYの重要性を語る。

TEDトークで、WHYの重要性を語る、有名な著者サイモン・シネックのプレゼンテーションを見たことがあったので、そのコンセプト自体は理解しているつもりでいたが、初めて動画を見てから数年経ち、改めてその世界に触れたいと思って書籍を手に取った。

WHYの重要性をさまざまな角度から例を交えて解説している。興味深かったのはのイノベーションの普及を示した図として有名な鐘形曲線で説明している章である。図の右側にいるレイト・レイトマジョリティ(後期多数派)やラガード(出遅れ)は値段、つまりWHATしか気にしないために、この層をターゲットにすると企業として低価格競争に巻き込まれてしまうのだ。つまり図の左側の層の、イノベーター(導入者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリー・マジョリティ(初期多数派)や忠誠心を抱いてもらうことこそ成功への近道で、そのためにWHATではなくWHYを広めるべきだと語る。

いくつかの企業の例を交えて説明している。サウスウェスト航空、マイクロソフト、ウォルマート、アップル、どれも興味深い話ばかりである。面白いのはWHYは重要だがWHYだけでも組織は動かないとしている点である。例えばアップルは常に企業の成功物語で名前の上がる企業であるが、著者はWHY型のスティーブ・ジョブズと、WHAT型のスティーブ・ウォズニアックの組み合わさったことが成功の大きな要因だとしている。アップルの成功の話を「Quiet」では、外向型人間と内向型人間が組み合わさったことを成功の要因として語っていたので、いろんな見方があるのだと感じた。

全体的に、本書の内容には自分の経験からも思い当たるふしが多々ある。常々多くの企業がWHYを明確にしないことでブランディングに失敗していると感じるし、株主の圧力ゆえにか、売上至上主義のなかでABテストなどでデータを重視しすぎた結果、WHYを見失ったWHAT型になっていると感じる。

例えば、Photoshopなどのクリエイティブツールを生み出したAdobeは、すでに当初の創造力を広める哲学を見失い、現在は詐欺まがいの手法で短期的な売り上げを上げることしか考えていない。iPhone以降10年以上革新的な製品を生み出していないアップルもAdobeほど惨憺とした例ではないが、WHYを失いかけている企業と言えるだろう。

昨今安定した売り上げを目指してサブスクリプション型のサービスを提供する企業が多く見られるが、WHYに共感できない企業のサブスクリプションサービスを利用しても、最終的にお金をむしり取られるだけである。著者が言うように、企業が本当に相手にすべき相手は低価格につられて簡単に動く人間ではなく、WHYを重視している人なのである。

当たり前ではあるが、動画で見ただけではわからない深みとともに著者の言いたいことが理解できた気がする。多くの企業のマーケター、ブランドデザイナーの必読の本とであろう。

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「Rejection Proof: How I Beat Fear and Became Invincible Through 100 Days of Rejection」Jia Jiang

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
拒否される恐怖心を克服するために始めた拒否セラピー、それは100日かけて毎日拒否に出会うというもの。

何年か前に著者のTedTalkと拒否セラピーのクリスピークリームの回が印象に残っていた。それは拒否されるためにクリスピークリームで作るのが難しそうなドーナツを注文するにもかかわらず、店員は拒否することもなくそのドーナツを作って出してくれる、というもの。久しぶりにその動画が見たくて検索したところ、書籍化しているということでくその前後の出来事も知りたくなり本書を読むに至った。

驚いたのはクリスピークリームの出来事は拒否セラピーを始めて間もない3回目の出来事だということ。著者にとって拒否セラピーを始めてすぐにこのような印象を変える出来事に出会ったことは幸運だったことだろう。改めて、無茶な依頼にも親切に対応したクリスピークリームの店員Jackieのように、真剣な依頼には真剣に対応する人間でありたいと思った。

僕自身はそれほど他人からの拒否に恐怖心はないが、拒否に恐怖心を抱く人の気持ちが本書を通じてよくわかった。速い話が、拒否されるのが怖い人は、拒否は自分自身の性格や能力の否定と感じるのである。一方で、僕のように拒否に恐怖心のない人は、もともと自信があるせいもあるが、拒否はたまたまタイミングが悪かったり依頼側と回答側の相互利益が成立していないだけだと捉え、自分自身の性格や能力の欠如とはほとんど関連づけないのである。

中盤以降は、拒否セラピーで有名になったせいで、著者にもさまざまな依頼が舞い込む様子が描かれる。そんななか、著者はたびたび断る側にまわることとなる。その過程で拒否される側だけでなく、拒否する側の考え方にも気づいていくのである。

When you deliver a rejection to someone, give the bad news quickly and directly. You can add the reasons afterward, if the other persons wants to listen. No one enjoys rejection, but people particularly hate big setups and "yes-buts." They don't lessen the blow––in fact, the often do quite the opposite.
誰かの依頼を断る時は、簡潔にかつ直接伝えてください。相手が理由を知りたい時に、理由は後から付け加えればいいのです。断られるのが好きな人などいませんが、人は特に、長い前置きや、「はい、でも」のような言葉を嫌います。そんなものは衝撃を和らげるどころか時にはまったく反対に作用します。

終盤では拒否セラピーの最後の挑戦として、著者は、妻の転職の手助けをする。それは妻のもっとも働きたい会社であるGoogleへの転職を成功させることである。

上で書いたように、僕自身は著者ほど拒否されることに抵抗はないが、むしろ本書では拒否する側としての姿勢に学ぶ点が多かった。何かを依頼された時に単純にNOと言って終わりにするのではなく、自分の好みや都合が合わないことを説明することで、依頼側は自分自身の否定と捉えずに済むのである。この点は早速取り入れたい思った。

ぜひ日本語化して日本にも広まってほしい内容である。

英語新表現
cuss out 罵る、罵倒する
psych out 不安にさせる、心理的に見抜く
strike a nerve 神経質になる
conform to the norm 規範に従う
sell a bridge 騙す
stick up for 支持する、応援する
break out in hives じんましんがでる
measure up to 見合う、匹敵する
off the wall 型破りな、突飛な
far cry ほど遠い

「宇宙になぜ我々が存在するのか 最新素粒子論入門」村山斉

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宇宙の観測の歴史と共に素粒子論について説明する。

ここ最近素粒子論をもう少し理解しようと思っていろんな本を漁っている中で本書に辿り着いた。素粒子論の本の中では珍しく数式がほとんどなく文章を中心とされている。

これまでいくつか素粒子論の本に触れてきて思うのは、素粒子論の理解を難しくしているのは、どこまでが確認された事実で、どこまでが研究者の中で受け入れられている仮説なのかの線引きが曖昧なことだと感じる。それに対して、本書では歴史の流れに沿って、生じた仮説とその後の観測による確認を順を追って説明してくれるので、どのようにして現在の素粒子論に辿り着いたかが比較的わかりやすかった。

相変わらず理解できないことが多いが、発見しにくいニュートリノの存在や性質。電荷に影響を与える6種類のクォーク、重さのきっかけとなるヒッグス粒子など、漠然とであるが粒子の特徴について知識を深めることができた。引き続き本書で軽く触れられていたインフレーション理論、標準理論、核融合反応について知りたいと思った。

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「メディアの闇「安倍官邸 VS. NHK森友取材全真相」」相澤冬樹

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
森友事件の取材の様子を語る。

森友事件について知りたいと思って本書を手に取った。

森友事件について詳細に説明するためには、その周辺の出来事や情報の確度を伝えるために情報を得た流れなどを説明する必要があるのは理解できる。しかし、それにしても、著者が認める優れた記者とそのエピソードの紹介に数ページ割いているにも関わらず全て仮名とするなど、脱線が多すぎる。

また、同時に著者自身の報道記者としての行動に自画自賛する雰囲気が滲み出ており、客観的な事実を知りたい側としては、その主観性の強さが本書の信頼性を損ねているように感じた。

全体的に「全真相」というには内容が薄い上に脱線が多すぎる。タイトルから森友事件に関する事実が書かれていると期待する読者は、自分と同じように期待を裏切られたと感じるだろう。内容としても残念だったし、売るために中身と一致しないタイトルを平然とつける出版社の存在を認識させられたことも含めて残念である。この出版社の本を読むのはしばらく控えたいと思った。

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「フラットランド」エドウィン・アボット・アボット

★★★★☆ 4/5
二次元の国フラットランド、三次元の国スペースランドなど異なる次元の世界を描く。

序盤は二次元の国フラットランドの様子を描いている。立体世界ではない、つまり高さのない世界なのですべての人間が線としてしか認識できず、色の濃淡でその形を判断し、その形から相手の地位を知る。

面白いのは中盤以降である。二次元の国の住人が、一次元の国ラインランドやゼロ次元の国ポイントランドの人と会話して、自分達の世界のことを伝えようとする。また、一方で二次元の国の住人が、三次元の国スペースランドからやってきた訪問者の説明に混乱する様子を描いている。次元の多い側の人間が次元の少ない側に自分達の世界の説明に四苦八苦する様子や、次元の少ない側が理解できなくて最後には怒り出す様子から、自分達の住む世界よりも多い次元の世界を理解することの難しさを感じる。

一方で、その異次元間の交流から、僕らが四次元世界を理解するための手がかりも含まれている。本書を読んだからと言って四次元より上の世界がすぐに理解できるわけではないが、考えやすくはなるだろう。他の本にはない不思議な感情を刺激する作品である。上から下は見えるが、下から上は見えない、という先日読んだ「具体と抽象」と共通するテーマを感じた。

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「移民大国アメリカ」西山隆行

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカの移民問題についてこれまでの歴史から現在の状況まで詳細に説明する。

日本も高齢者社会となり、経済を維持するためには移民の受け入れは避けられないだろう。そんななかアメリカが現在直面している移民関連の問題は、日本が近い未来に遭遇する問題と考えて知りたいと思い本書に辿り着いた。

多くの知らない事実を知ることができた。まず、移民問題といっても、不法移民、合法移民などざまざまな視点があり、多くの人が混在した視点で移民問題を語っているということ。また、二大政党の共和党、民主党の基本的な考えとして、民主党の方が移民に肯定的と捉えられ、非白人からの支持を集めているとされているが、それぞれの党の中でも移民賛成派、反対派がおり、党をまたがった議論になっているということなどである。

移民への国としての対応方針を決定する連邦政府に対して、州内住み着いて移民を社会に溶け込ませるための教育や福祉等の対応を強いられる州政府の関係も興味深い。決めるだけの連邦政府と、負担を強いられる州政府という構図になってしまうのも仕方のない話である。

中盤以降、キューバ系、メキシコ系、日本系、中国系、韓国系、ユダヤ系などの視点で、アメリカの中での影響力とロビー活動について触れている。ある国の中で特定の文化の人々が生きやすい環境を作るには、その国の中で影響力を強める必要がある。そのためにはロビー活動が欠かせないのだという。以前は強かった日本系コミュニティのロビー活動が最近は下火で、一方で韓国系や中国系が影響力を強めているのだという。

海外で同じ国の人間同士でつるむことをどこか馬鹿にした見方をすることがあり、日本人街などを敬遠する人も多いが、そこにはメリットもあるのだと再認識させられた。

改めて、アメリカの移民問題は思っている以上に複雑な問題であることがわかった。移民の国という理念があり国自体も移民によって作られた国という認識があるから、移民を受け入れるのが当然という考えも未だ根強く、そしてすでに大量の移民を受け入れてきたから、移民や不法移民の労働力に依存した社会構造ができあがっているから複雑な問題となっているのである。

引き続き、アメリカだけではなく世界の移民問題を知りたいと思った。次はフランスやドイツ、イギリスの移民問題などヨーロッパの国の実情について知りたい。

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「予想通りに不合理」ダン・アリエリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人間は実際には世の中が思っているほど合理的に行動していないのではないか、そんな疑問を抱いた著者がさまざまな実験を通して人間の不合理さを確認していく。

人間の不合理な行動をさまざまな実験や研究結果とあわせて説明していく。本書で触れられている内容の中には聞いたことがある事象もあるので、有名な書籍だと「ファスト&スロー」や「ヤバい経済学」「影響力の武器」と似ている部分があるし、内容としても若干重なっている部分があるだろう。

それでも新鮮な内容や改めて日常生活の中で意識したいと思える発見がいくつかあった。個人的に印象的だったのが社会規範と市場規範を扱った「社会規範のコスト」の章とプラシーボ効果を扱った「価格の力」の章である。

普通にお願いすると引き受けている頼み事が、お金を払うと拒絶されたり不快感を与えることがあることは誰しも体験として知っているあろう。本書では、そんな行動を社会規範と市場規範という二つの言葉で説明している。

  • 社会規範…わたしたちの社交性や共同体の必要性と切っても切れない関係にある。たいていほのぼのとしている。
  • 市場規範…ほのぼのとしたものは何もない。賃金、価格、賃貸料、利息、費用便益など、やりとりはシビアだ。

仕事やプライベートで現在うまくいっていない関係があるのだとしたら、現在どちらの規範に基づいてやりとりしているか、関係者はそれぞれどちらの認識で受け取っているかを考えると解決への糸口が見えるかもしれない。

「価格の力」の章ではプラシーボ効果について深掘りしていく。誰もがプラシーボ効果というのは聞いたことがあるだろう。思い込みが実際に効用として現れるという現象である。驚いたのは今でも、長年効果があるとされてきた薬や治療法が実はただのプラシーボ効果だったと判明する例があるのだという。

数年前に妻の大腸癌の抗がん剤治療治療をデータを見て受けない決断をしたことがあった。データを見てわずか8%の人間にしか効果がないにもかかわらず高い費用とつらい副作用を考慮して決断したのだが、あれもひょっとしたら数年後にはただのプラシーボ効果だった判明するかもしれない。

一方で、高いお金を払っているからこそより高い確率でプラシーボ効果が発揮されるという点や、医師自身も信じているからこそ効果が出やすいという点で、医療費や薬代の高騰は今後も簡単には止まらないのだと思い知った。

前述のように似た内容の本によく出会うが、このような本にも定期的に触れる必要があるだろう。早速日常生活に活かしていきたい。

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「コロナ狂騒録」海堂尊

★★★★☆ 4/5
2020年、コロナ禍に対処する東城医大の医師たちとコロナ禍で1年の延期をしながらも東京五輪に突き進む日本の政策を描く。

コロナ黙示録」に続く、コロナ三部作の第二弾である。政府の愚策と東京五輪開催への固執のためにコロナウィルスが蔓延するなかで、引き続きコロナ患者を受け入れ続ける東城医大が次第に疲弊していく様子を描く。

コロナ患者の対応のために、自分達の命を危険に晒しながらも疲弊していく医療現場からは、そんな医療現場を支援するのではなく誰の利益にもならない五輪開催に固執する政治に失望する声が上がるのだ。如月師長の声がそんな政府の愚策の現実を端的に語っている。

世の中で一番辛いのは、ゴールの見えない我慢をすることよ。それなのに一歩外に出たら能天気な人々は居酒屋でどんちゃん騒ぎ、あの患者さんはキャバクラに行って感染したなんて聞かされると気持ちが萎える。
こんな状況下で五輪開催に固執する連中から、五輪に看護師を派遣してほしいという要請が届き、その一報で、現場で懸命に働き、ギリギリで業務に携わっていた看護師のこころが折れた。彼らは『五輪かいのち』か、という二者択一の問いを、突きつけてきたのだ。
子供の運動会はやっちゃダメなのに、なぜ大人の運動会は、やってもいいんですか。

前作の繰り返しになるが、本書は著者の一つの視点から見た出来事にすぎないのですべてを鵜呑みにするのは危険である。それでも、本書を読んで強烈に感じたのは自責の念である。自分達の無知や政治への無関心や諦めが、日本の政治の堕落をどんどん加速させているのである。無駄と思いつつも、簡単ではないと知りつつも、一人一人が声をあげなければダメなのだ。

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「ぎょらん」町田そのこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人が死ぬ際に最期の思いをこめて遺すと言われるぎょらんと呼ばれる珠がある。身近な人の死とともにぎょらんに出会った人々を描く。

7編の短編集という形式をとってはいるが、視点が変わるだけで、登場人物は共通している。いずれの物語でも、親友や家族の死に直面した人々の本心や、自分自身の本心を知って戸惑う様子が描かれる。そして、答えや救いを求める彼らの前にぎょらんが登場するのである。

高校生、若い社会人から年配の人々までのさまざまな立場の人のぎょらんとの出会いを描いている。人生のどんなフェーズにおいても身近な人の死はある日突発的に訪れることが伝わってくる。

あの日、私たちにはまだ仲直りできる未来があったのだ。

そんな中、全編を通して鍵となる人物が、親友の死に遭遇してから長い間引きこもり生活を送っていた男性御船朱鷺(みふねとき)である。朱鷺(とき)はやがて葬儀社で働くことで社会復帰をしながらも、同時に自分の人生を大きく狂わせたぎょらんの真実に迫ろうとする。自分を苦しめたぎょらんとはなんだったのか、なぜぎょらんに出会って幸せになる人もいれば、苦しむ人もいるのか。

涙無くしては読めないポイントがいくつもあり、久しぶりに良い作品に出会ったという印象である。町田そのこ本屋大賞を受賞した「52ヘルツのクジラたち」で初めて触れた。実際そちらのの方が有名な作品だと思うが、個人的には本書の方が深みがあるし、何倍もよかった。実は本書の方が前に書かれた作品ということで、他の作品も読んでみたいと思った。

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「博報堂デザインのブランディング」永井一史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長年ブランディングに関わってきた著者がその考え方を語る。

前半は著者のブランディングの考えを語り、後半はこれまで著者が手がけてきた事例を紹介している。

僕自身もデザイナーとしてブランディングに関わることはあるが、その過程で、言葉が定着していないために聞き手に伝わりやすい言葉選びに悩むことがある。そのため、本書のように他のブランディングに関わる方がどのような言葉を使っているのかが気になるところである。

本書では一般的にはブランドコンセプトと呼ばれることが多いブランドの核となる考えを「思い」と呼んでいる。そして、コンセプトデザイン、ビジュアルデザインと呼ぶことが多い、二つのデザインのカテゴリを思考のデザインカタチのデザインと呼んでいる。どれも結局受け手に伝わりやすいかどうかで場合によって使い分けるべきだろう。

また、デザインにおいて適切な情報のインプットが必要なのはよく知られたことであるが、著者はそのインプットを5つに分類している点が印象的である。

  • 歴史性 ブランドのオリジンにさかのぼる
  • 機能性 何の仕事、どんな商品かを考える
  • 文化性 どんな豊かさやライフスタイルを提案できるかを考える
  • 社会性 ブランドがどう社会に役立つのかを考える
  • 関係性 ブランドと生活者の関係性を考える。

漠然とインプットを探すと視点が曖昧になりがちだが、こうして整理されるとしっかり網羅できる点が良さそうである。このインプットのぶんらうい方法は早速取り入れたいと思った。

後半は事例説明ではあるが、伊右衛門、表参道ヒルズなど誰でも知っている有名ブランドが溢れているのは圧倒される。知識としてブランディングの手法を知っているだけでは叶わない実績のインパクトと大企業でブランディングに関わるメリットをあらためて感じた。

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「コロナ黙示録」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年の終わりが近づく中で武漢でコロナウィルが広がり、東城大学医学部附属病院もコロナ患者の対応を強いられることとなる。

物語は彦根(ひこね)、速水(はやみ)、厚生労働省の白鳥(しらとり)など、これまで海堂尊が「チーム・バチスタの栄光」から作り上げた架空の東城大学医学部附属病院を中心とする医療の世界の主要人物たちがコロナ禍を迎え撃つ様子が描かれている。

物語はもちろんフィクションなので実際の登場人物とは名前が異なっているが、安倍首相ではなく安保首相とするなど、その名前や関連の出来事から、事実に近いことを書いていることがわかる。全体的に著者の医師としての立場から、コロナ禍の政策に対する怒りが伝わってくる。コロナ禍のみならず2020年周辺に起こった、東京五輪の開催や森友学園問題についても深く切り込んでいる。

医療従事者から見たコロナ禍の混乱は、最後に白鳥(しらとり)がつぶやく内容に凝縮されているだろう。

経済ばかり気にして医療のことは気に掛けない。そんな無法地帯の最前線で医療従事者がバタバタ倒れていく。そんな生き地獄で医療崩壊の一歩手前の惨状は、暗愚な安保首相と彼を取り巻く害虫官僚、粛々と間違った方針を強要し続けた僕たち厚生労働官僚、そうした実態を報じないメディアが作り出したものだったんだ。

もちろん著者自身の思いや偏見が混ざっていることは差し引いて考えなければならないが、政治の影響下にあるメディア(御用メディアと呼ぶらしい)の報道を見聞きしているだけではわからない真実が見えてくる。森友問題についてはもう少し詳細に掘り下げたいと思った。同じ著者の「コロナ狂騒録」の方も楽しみである。

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「罪の轍」奥田英朗

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1960年代の北海道礼文島、漁師の手伝いをしながら、空き巣を繰り返していた宇野寛治(うのかんじ)は警察に終われ東京に向かうこととする。

物語は序盤のみ礼文島の宇野寛治(うのかんじ)の様子を描き、中盤以降は、東京で刑事として働く落合昌夫(おちあいまさお)が他の刑事たちと、その警察官区で繰り広げられる窃盗、殺人そして、誘拐事件の解決に奔走する要するを中心に描く。

本を読むときに大切にしているのは、物語自体を楽しんだり、その本を読むことで得られる知識を吟味することだけでなく、なぜ著者は今これを書いたか、という視点である。本書でいうと、なぜ今さら1960年代を舞台にした誘拐事件を物語として描こうとしたのか、である。

正直最初の印象としては、誘拐事件と身代金の受け渡しという、そこらじゅうで使い古された物語で特に学ぶべき点はなさそう、というものだった。しかし、読み進めるにつれて少しずつ興味深い点も見えてくる。

高度経済成長期のこの時代を扱った物語は少なくないが戦時中ほど物語の舞台になることは多くないので、意外と知らないことが多いことに驚かされた。本書を読むまで、電話の普及のタイミングをあまり知らなかったが、本書によると、この時代に少しずつ固定電話を持つ世帯が増えたのだという。また、物語の舞台に東京スタジアムというプロ野球の野球場が登場する。こちらについても今まで聞いたこともなかったので、長いプロ野球の歴史に改めて感銘を受けた。

そんななか、誘拐事件に固定電話が使われるようになり、いたずら電話に悩む刑事が電話の匿名性を嘆く点が面白い。もちろん逆探知は可能なので完全な匿名性ではないのだが、現代のネットの匿名と似たような空気を感じる。結局人間の歴史とは、少しずつ人々が情報へのアクセシビリティの向上と、人と人との接点の数の増加の歴史であるであり、その過程で多くの議論や事件が生じるのだと改めて気付かされた。

歴史を学ぶ意義と同様に、過去を知ると、現代との比較で世の中の流れがわかり、未来が予想しやすくなる。そういう意味では50年前を舞台にした本書はいろいろと新たな視点をもたらしてくれたが、傑作というにはもう一つ何かが足りないという印象である。

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「情弱すら騙せなくなったメディアの沈没」渡邉哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
昨今のメディアの凋落について過去の経緯や原因などを含めて説明している。

2021東京五輪の開会式や、2024東京都知事選など、昨今民放が世の中から大きく批判される機会が増えていている。その一つの原因はインターネットという情報発信・取得手段の普及であるが、それ以外にもさまざまな要因が絡んでいるのだろう。メディアの動きをより深く理解したくて本書にたどり着いた。

序盤ではテレビ番組制作の流れと、質の低下の原因について説明している。録画視聴が普及するに従って広告収入の低下を招く。そして、テレビ局はコストカットを強いられ、番組を外注に頼ることが多くなった結果、質の高い番組を作ることができなくなってきたのだという。つまり、現在は事件の報道に人を派遣するリソースもなければ、良い番組を制作する技術もないのである。

印象的だったのが、メディアと暴力団との関係について触れている点である。メディアと暴力団との関係は長く続いていながらも、その悪い印象を払拭するために、メディアはそこからの脱却を図ってきたのである。しかし、その過程でまたいくつかの事件が表面化しているのである。暴力団というと良いイメージを抱かない人も多いのかもしれないが、長い歴史の中で見ると、警察などの組織が未発達な時代に、暴力団は特定の地域や分野の治安維持のために存在意義を発揮していた組織である。従って、過去に暴力団と密接な関係があったというのは当然のことではあるのだが、それを改めてわかりやすく説明してくれている。

中盤以降では東京オリンピックでのロゴの盗作問題や出来事に関連する電通の力の弱体化や、NHKの問題について触れている。そして、最後にはすでに終わっているとしている新聞についても取り上げて現状やその原因に触れている。

興味深かったのが、多くの人が大歓迎すると思っていた電通の力の衰退を、著者は必ずしも良いこととは受け取っていない点である。これまで多くの関係者や関連企業が参加する国際イベントには人々が思っている以上の関係者調整が必要であり、これまでそのノウハウは電通と博報堂に集中してきたのである。著者の電通弱体化による懸念は、次第に海外の大きな資本がこれまでの電通の立ち位置を奪っていくことである。

現状のメディアに対して新たな視点をもたらしてくれた。本書で学んだ内容をふまえて今後もメディア情勢をじっくりみていきたいと思った。本書は読む前に持っていた期待にしっかり応えてくれた。

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「火口のふたり」白石一文

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
賢治(けんじ)は従姉妹直子(なおこ)の結婚式のために帰省し、そこで久しぶりに直子(なおこ)と再会する。結婚式までの二人の様子を描く。

賢治は41歳、直子は36歳というアラフォーのひとときの関係を描く。

賢治(けんじ)は離婚経験があり、直子は独り身でこれまでフリーターとして生活してきた。そんな人生に心から満足されてない二人の、結婚式当日までの期限つきの関係からは、人生の矛盾や教訓が見えてくる。直子(なおこ)と賢治(けんじ)それぞれが別れ際に語るコメントが印象的である。

生きてるだけで楽しいって思える人と、成功しなきゃ楽しくない人がいたら、生きてるだけで楽しいって思える人の方が何倍も得だ

いまやりたいことをやっていると、人間は未来を失い、過去に何も残せない。明日のために必死の思いで今日を犠牲にしたとき、初めて立派な昨日が生まれる。
俺たちの住むこの社会において最大にして最善と見做されているルールはこれだ。

白石一文の物語は、「私という運命について」「一億円のさようなら」など、深みを感じさせる作品が多いので、今回も久しぶりにそんな世界に浸りたいと思って本作品を手に取ったが、残念ながらそこまで印象的なものではなかった。

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「具体と抽象」細谷功

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
具体と抽象について語る。

人間は動物に比べてずっと抽象的な概念の扱いに長けている。本書ではさまざまな事例を交えて、具体と抽象について語っている。例えば、人間同士の会話などで問題となる、物事の伝わりやすさは、想定している抽象度が語り手と受け手の間で異なることによって起きる。

最も印象的だったのは抽象と具体の世界をマジックミラーに例えた章である。

上(抽象側)の世界が見えている人には下(具体側)の世界は見えるが、具体レベルしか見えない人には、上(抽象側)は見えないということです。

基本的に具体側に近づけば近づくほど、誰でも理解できるようになっていく。逆に言えば、抽象側を広く理解できる人ほど、多くの視点を持っている賢い、時には変人と呼ばれる人間なのだろう。本書では相対性理論のアインシュタインを挙げているが、一般の人には問題の意味すら理解できない数学の問題なども、それのわかりやすい例である。

結局、多くの人が知りたいのは次の2点である。抽象寄りの人が、自分の立ち位置ほど抽象化した事象を理解できない人にどう対応すべきか抽象的思考能力を向上させるためにはどうすれば良いのか。しかし、残念ながら本書では、さまざまん経験を積むこととしか書いてない。実際、その答え以外ないだろう。

書いてあることはいずれももっともで、むしろ当たり前すぎる。しかし、当たり前にもかかわらず、この具体度と抽象度のずれが多くのコミュニケーションのずれを日常で気に生みながら、人はそれに対応する手段も持たず、また改善に努めようとさえしていないのである。

読後の感想としては、こんな当たり前のことをダラダラ書き連ねて、特に具体的な行動提案ももない残念な本という感じだったのだ。ちょっと時間が経ってみると、ここまで世の中の真理をしっかり語った本もなかったと、本書の斬新さに気づき始めた。つまり評価の難しい本である。ぜひ、自ら手に取って判断していただきたい。

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「マルセイユ・ルーレット」本城雅人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元サッカー選手の村野隼介(むらのしゅんすけ)はユーロポールの捜査員としてサッカー賭博の取り締まりに加わることとなる。

タイトルのマルセイユ・ルーレットとはフランスサッカーの英雄ジダンが好んで使っていた技であり、サッカーを好きなら人ならだれでも一度ぐらいは聞いたことがあるだろう。著者は「スカウト・デイズ」でプロ野球のスカウトの物語を描いていたので、今回も同じように普通にスポーツを楽しんでいる上では見ることのできない視点からサッカーを描いていることを期待して手に取った。

物語はフランスを中心としたサッカー賭博を題材としており、異国の地でサッカーに関わる3人の日本人の視点で描く。サッカー賭博を捜査するユーロポールの村野隼介(むらのしゅんすけ)、父親が遺したフランスで子供向けのサッカー教室の運営に奮闘する平井美帆(ひらいみほ)、そして、フランスでプロのサッカー選手として生きる水野弘臣(みずのひろおみ)である。

もっとも印象的なのは水野弘臣(みずのひろおみ)である。大きな夢を追ってフランスの地にやってきたにもかかわらず、少しずつサッカー賭博の罠に嵌まり込んでいくのである。きっかけは試合後の仲間と気晴らしで、カジノに行ったことだった。そして、気がついたときには大きなサッカー賭博の組織のために八百長をせざるを得ない状況に陥っているのである。

一般の人ば持つ、八百長に関わるサッカー選手に対するイメージは、お酒や麻薬に溺れる人のような自制心のない人間だろう。しかし、実際にはサッカー賭博の組織は、普通のサッカー選手でさえも陥るように巧妙に罠を張り巡らしているのである。改めてサッカー選手に限らず、多くの注目を集めるプロ選手は、私生活さえも質素に送るべきだと感じた。

サッカー賭博が世の中に多く存在するのはサッカーファンとしては残念なことであるが、大きなお金の動くところには、そこで儲けようとする人々が集まってくるのは当然の流れで、それは現実として受け入れなければならないだろう。本書はサッカーにそんな新たな視点をもたらせてくれた。

著者の作品には他にもスポーツを題材にしたものがいくつかあるようなので、他の作品も読んでみたいと思った。

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「サイゼリヤ革命 世界中どこにもない“本物”のレストランチェーン誕生秘話 」山口芳生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
安さと品質で大衆の心を掴んで発展を続けるサイゼリヤの根本にある考え方を語る。

本書を読んでみると、サイゼリアの企業の本質が世の中の幸せであることが伝わってくる。昨今世の中に溢れかえっている利益や株主のご機嫌取りしか考えてない企業の方々にぜひ見習ってほしい。

そんななかもっとも印象的だったのは、サイゼリヤの味に関する考え方である。

たまに来てもらうのであれば、インパクトのある味にしたほうがいいのは当然だ。何かの機会にふと思い出して「あれが食べたい」とたまらなくなる….
 だが、サイゼリヤはおいしさを「毎日食べても味わいがあり、いつまでも食べ続けたくなる味」ととらえた。

これは食べ物に関する事業だけでなくあらゆる面について言えることなのではないだろうか。最近はオンラインでのサービスが増え、クリック率やCV率が簡単に数値化できるようになったからこそ、その副作用としてインパクトばかりを求め過ぎている気がするからこそ、なおさらそう感じた。

後半は、サイゼリアの初期の奮闘の様子なども描かれており、大いに刺激を与えてくれる内容だった。なんといっても、味で世の中を幸せにするだけでなく、その過程で、日本の地方や海外にまで多くの雇用を生み出していることに大きく感銘を受けた。引き続き、世の中を良くするための取り組みを続けてほしいと思った。

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「Ugly Love」Colleen Hoover

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
看護師を目指して勉強中のTate Collinsはパイロットの兄のアパートでしばらく過ごすこととした。そこで同じように他のパイロットの男たちと出会う中、そのうちの一人Miles Archerに惹かれていく。

少しずつ惹かれ合うTateとMilesだが、Milesは二人の関係に2つの条件をつける。過去は詮索しないこと。未来を期待しないこと。そんな条件に抵抗感を抱きながらもMilesが好きでたまらないTateは、その条件を受け入れて関係を続けるが、もっとMilesのことを知りしたい、というジレンマに苦しんでいく。

物語はそんなTateとMilesの恋愛と並行して6年前のMilesの恋愛が描かれる。まだ大学生だったMilesが大学に転校してきたRachelという女性に恋をするのである。

そして次第に、6年前のRachelとの出来事がMilesの心に大きな傷を遺し、そのためにMilesはTateと必要以上に親密にならないようにブレーキをかけているとわかる。TateとMilesの現代の物語では少しずつそんな中途半端な関係に苦しむ様子が描かれ、6年前のRachelとMilesの物語では、一見幸せに見える二人の関係が描かれるが、6年後のMilesの苦しみを知っているからこそ、悲劇が起きる予感が漂うのである。

そんななかTateやMilesが住むマンションの管理人であり80歳のCapがTateやMilesの相談役となりの、しばしば深い言葉を吐く。

Some people… they grow wiser as they grow older. Unfortunately, most people just grow older.
年齢と共に賢くなる人がいる。しかし、残念ながら多くの人はただ歳をとるだけだ

最後は予想通り泣かせてもらった。「November 9」の印象からColleen Hooverの本は軽い部分と重い部分のコントラストが激しい傾向にあると知っていて、今回もきっと期待を裏切らないだろうと思ってはいたが、それでも前半はTateとMilesのラブシーンが多さには辟易してしまった。ラブシーンに突入するたびに「またこの学びのないラブシーンを時間をかけて読まなければならないのか」、と正直うんざりしてしまった。最後が思いっきり泣かせる展開なだけに、そのような前半のバランスの悪さが残念である。

英語新表現
talk myself down 自分を卑下する
I'm beat. 私はへとへどです。
outie 出べそ
closed off 心を閉ざしている
sell myself short 自分を安売りする

「替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方」国分峰樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
専門性の身につけ方について語る。

序盤はAIによって置き換えられていく仕事の話やChatGPTの話など、そこら中で語られているようなことばっかりだったので、また内容の薄い本を読み始めてしまったかと思ったが、中盤以降いくつか興味深い話に出会うことができた。

基本的に著者の語っていることは自分の考えと近いと感じた。特に「やらなければいけないこと」ではなく「好きなこと」に目を向ける、と自分らしい問いを立てること勧めている点は、自分が常々思っていて、今の日本ではもっと人々が目を向けるべき感じる部分である。

今まで僕が考えていなかった考えでは、本だけでなく、論文を読むことも勧めている点が印象的だった。論文の探し方についても説明しているので、こちらは早速取り入れたいと思った。

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「ドーナツ経済学が世界を救う」ケイト・ラワース

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これまでの経済学とは考え方の異なるドーナツ経済学の概要と、その基準に従って世の中を良くする方法を提案する。

序盤では経済学の歴史と、これまでの経済学が主にGDPの向上を目指していたため、必ずしも人々の幸せや環境の維持といった、現代の人々が「良い」と感じる世界にはつながっていないことを説明する。そして、その後に本書のドーナツ経済学の基本的な考え方と、これまでの経済学との異なる次の7つの考え方を語っている。

  • 1.目標を変える
  • 2.全体を見る
  • 3.人間性を育む
  • 4.システムに精通する
  • 5.分配を設計する
  • 6.環境を創造する
  • 7.成長にこだわらない

経済学の歴史や現代社会との矛盾についての話は非常に面白い。経済学が面白そうだと思って本書に至ったのだが、過去の経済学のGDP重視の考え方を知ると、少なくとも今での経済学は趣味としてしか役に立たないだろうと感じた。

その一方で、環境的に安全社会的に公正な範囲にすべての人を入れるということを念頭においたドーナツ経済学の考え方はまさに今の世の中が目指すべきものと言えるだろう。中盤以降、ドーナツ経済学の観点から著者はさまざまな提案をするのだが、中でも特に再分配の手段として世界中で考えたり部分的に実行されている方法が興味深かった。バングラディシュのバングラペサやスイスのツァイトフォアゾルゲなどそれぞれ個別に調べてみたいと思った。

付録として社会的な土台の指標、環境的な上限の指標を書いてあるので項目だけでもしっかり頭に入れて、今後機会があれば詳しく調べてみたい。

社会的土台の12の分野
食料
健康
教育
所得と仕事
水と衛生
エネルギー
ネットワーク
住居
男女の平等
社会的な平等
政治的発言力
平和と正義
環境的な9の許容限界
気候変動
海洋酸性化
化学物質汚染
窒素及び燐酸肥料の投与
取水
土地転換
生物多様性の喪失
大気汚染
オゾン層の減少

経済学を学んだことがない人間にとっては理解するのが難しい箇所も多々あったが、全体的に興味深く読むことができた。

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