「チグリスとユーフラテス」新井素子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第20回日本SF大賞受賞作品。
惑星ナインへの移住した人類だったがやがて人口が減っていき、ついに最後の子どもルナだけとなった。孤独のなかルナはコールドスリープについていた人々を起こし始める。
突拍子もない設定で最初はかなり物語に入っていくのに抵抗があったが徐々に著者が伝えようとしていることが伝わってくるような気がする。ルナはコールドスリープをしていた4人の女性を目覚めさせ、彼女達が死ぬまで一緒に過ごすのだが、その4人の価値観がいずれも異なる点が面白い。1人目のマリアは子孫を残すことを人生の目標としていたから、一人残されて孤独に打ち拉がれるルナを見て子供を産む事の是非に心を動かす。3人目の朋実(ともみ)は絵を描く事を生き甲斐にしていた。永遠だと思っていた芸術さえもやがて朽ち果てると知った朋実(ともみ)もまた自分の考えを見直す事になる。
そして最後に起こされた灯(あかり)。彼女は惑星ナインへの移住した最初のメンバーの1人。自分たちのやってきたことが無駄に終わらないためにルナが想いも寄らない行動を起こし始める。
人生とはなんなのか、生きる意義とはなんなのか。改めてそんなことを考えさせてくれるだろう。
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「新世界より」貴志祐介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第29回日本SF大賞受賞作品。1000年後の日本。そこはサイコキネシスを自在に操る超能力者たちの世界。厳しい規律によって秩序は保たれていた。
貴志祐介の久しぶりの作品は、上、中、下と三冊にわたる大作。物語は渡辺早紀(わたなべさき)が過去の悲しい記憶を振り返って書く手記という形をとっている。
最初はどこかのまったく現実と関係ない想像の世界を描いているようにも見えたが、次第にそれは、人類があるときを境に、超能力の存在を受け入れ、何人かがそれを自由に扱えるようになったがゆえに起こった混乱の後の世界であることが明らかになっていく。
サイコキネシスによって、つまり対象に一切触れたり、道具を使用することなく念じるだけで人を殺すことのできる人間の存在によって起こる混乱としては、なかなか納得できるものがある。
さて、物語はそんな世界のなかで自らの力をはぐくんでいく早紀(さき)とその友人たちを描いていく。その過程で、人間が住む場所の外には、多くの未知なる生物が潜んでいることがわかる。そして、鍵となるのは、人間同士が殺しう事をしないためにそれぞれの人間が心のなかに持つ攻撃抑制である。それゆえに、超能力を自在に操りながらも人間同士の殺し合いが起こることがない。そんな世界で生きている早紀(さき)が過去の歴史を知るにつれて、現代の核爆弾や殺人平気を知り、「古代人は狂っている」と感じるあたりには考えさせられるものがあるだろう。
やがて、物語は、ほかの生き物たちから「神」とあがめられる人間たちと、そんな「神」である人間の支配から逃れようとする動物たちの間の対立へと変わっていく。最終的に、何を訴えたいのかよくわからないが、なんにしても、不毛な殺し合いや逃走、追跡劇に非常に多くのページを費やしているため、全体のページ数に見合うだけの内容はないように個人的には感じたがほかの人はどう思うのだろう。

炭疽菌
炭疽(炭疽症)の原因になる細菌。病気の原因になることが証明された最初の細菌であり、また弱毒性の菌を用いる弱毒生菌ワクチンが初めて開発された、細菌学の歴史上で重要な位置付けにあたる細菌である。また第二次世界大戦以降、生物兵器として各国の軍事機関に研究され、2001年にはアメリカで同時多発テロ事件直後に生物兵器テロに利用された。(Wikipeida「炭疽菌」
久留子(くるす)
家紋。別名十字架紋。ポルトガル語で十字架のことをクルスと呼んだからことに由来する。(家紋の湊
テロメア
真核生物の染色体の末端部にある構造。染色体末端を保護する役目をもつ。(Wikipedia「テロメア」

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「蒲生邸事件」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★★ 5/5

第18回日本SF大賞受賞作品。
孝史(たかし)は偶然出会った男によって昭和11年の東京に連れて行かれ、その時代で、その時代を必死に生きている人々と接する。

俺はどうして今ここで拳を振り、群集に向かって叫ばないんだ。このままじゃいけないと。僕は未来を知っていると。引き返せ。今ならまだ間に合うかも知れない。みんなで引き返そうと。

北朝鮮の国民の映像がテレビで良く流される。日本の人間から見ると明らかにおかしい。金正日の何を信じているのか・・。そして、その先に明るい未来がないことも僕らにはわかる。それでも僕らには何もできない、彼等になにを助言しようと彼等は信じようとしない。生まれた時から彼等はそういう世界にいるからだ。戦時中の日本についても同じことが言える。今の時代から見ると明らかにおかしい。「大和魂」なんて言葉を理由に、銃弾の中に何度も突っ込んで行ったと言う。僕がその時代のその場所に行くことが出来たら、彼等をとめることができるだろうか。広島、長崎の原爆をとめることができるだろうか。未来がわかっていても、一人の力なんて無力なのかも知れない。

「なにか面白い本ない?」と人に聞かれた時、僕がまっ先に挙げる本のうちの一冊である。
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