「Moonflower Murders」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Crete島でホテルを経営していたSusan Ryelandの元に夫婦が訪れ、失踪した娘の搜索を依頼する。編集者時代にSusanが担当していた作家Alan Conwayが遺した物語にその真実のヒントが隠されているという。

前作「Magpie Murders」に引き続き、亡くなった悪戯好きの作家Alan Conwayに振り回されるSusanの様子を描いている。8年前に起こったホテルでの殺人事件の後、Alan Conwayはホテルを訪れ、関係者に話を聞いた後「やつらは間違った男を捕まえた」と言っていたという。そして、その後の著作「Atticus Pund Takee the Case」のなかでは、明らかにホテルの従業員をモデルにしたという登場人物が多数登場するのである。そして、今回ホテル経営者の娘Cecilyが「犯人はここに書いてあった」という言葉を遺して失踪したのである。Susanは夫のAndreaとの関係や、Crete島でのホテル営業に疲れたこともあって、巨額の報酬を約束された依頼に飛びつくのである。

今回もSusanの解決するCecilyの失踪事件と、Alan Conway著書のAtticus Pundの事件解決が含まれており2重に物語を楽しめる。さすがに、二作品目となると「Magpie Murder」ほどのインパクトは感じなかったが、このシリーズは毎回この、Susanが亡くなったAlan Conwayの遺した本に振り回されるというスタイルをとっていくのだろうか、と続編の展開が楽しみになった。

「The Sentence is Death」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。離婚調停を専門とする弁護士Richard Pryceが殺され、殺人現場には182の文字が描かれていた。今回も前回と同様にHawthorneの事件解決を本にするためにAnthonyは事件に関わっていく。

前作「The Word is Murder」の続編で、物語としてもHawthorneとAnthonyのコンビで事件の真相に近づいていくのである。調べるうちに殺害されたRichardは数年前に洞窟探検の最中に友人Chalieを亡くしているという。また、Richardの離婚裁判によって被害を被ったAkira Annoという作家に脅迫されているのをレストランで多数の人が目的している。犯人はAkira Annoなのか、それとも洞窟探検で亡くなった友人の関係者の復讐なのか。

そんななか、警察のGrunshawはHawthorneに犯人逮捕の先を超されまいと、Hawthorneの動きを逐一報告するようにAnthonyを脅迫する。また、同時に、本を書くためには事件の経緯だけでなく主人公となるべくHawthorneの人柄を知らなければならないというAnthonyの努力は、今回も続いていくのである。

Anthony Horowitz作品は本作品で3作目だが、やはり「Magpie Murder」の印象が強くて、本作も物足りなさを感じてしまった。

「The Word is Murder」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2020年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。ある女性が自分の葬儀の手配をしたその日に殺害された。そんな興味深い事件を教えてもらったAnthonyは元刑事のHawthorneとともに事件を本にすることを前提として事件の捜査に参加する。

小説と実際の作者の世界が交わるという点では、「Magpie Murders」と似ている点もある。また本書は著者自身を主人公としており、スピルバーグ等実際に存在する人物も何人か登場することからどこからが小説でどこからが現実の話なのかわからなくなる点も魅力と言えるだろう。

自らの葬儀を手配した当日に絞殺されたDiana Cowperだったが、調査を重ねるうちに、10年ほど前に自らが運転する車の交通事故である少年が命を落としていることがわかってくる。Dianaの死はその少年の死に関係があるのか。AnthonyとHawthorneは捜査を続けていく。

そんな真実を追求する動きのなかで、Anthonyはなかなか自分のことを語らないHawthorne人間性に疑問をもち、やがて自分一人で真実を見つけようとするのである。

本書もこのミステリーはすごい!海外編第1位を獲った作品ということで期待値が高かったが、前作「Magpie Murders」の衝撃が大きかったのでそれに比べるとやや物足りない感じを受けた。

「Magpie Murders」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年このミステリーがすごい海外編第1位作品。2019年本屋大賞翻訳小説部門受賞作品。

ロンドンで名の知れた名探偵であるPundは助手のFraserと共に、Saxby-on-Avonで起こったSir Magnusの殺人事件の捜査にのりだす。

すでに人生の先が短いことを悟ったPundだが、Saxby-on-Avonからロンドンまでやってきた女性の依頼によって、心を動かされ、Saxby-on-Avonので領主であるSir Magnusが殺害されたことで事件の捜査に乗り出すのである。小さな町故にそれぞれの住人たちの交友関係も狭く、街の人間関係が少しずつ明らかになり、ほとんどすべての人にSir Magnus殺害の動機があることがわかる。

途中まではよくある振り時代の探偵ミステリーという雰囲気だが、後半物語は予想外の方向へ動き出す。細かいことは語ることはできないが、今まで読んだことないほどの斬新さを持っており、2つのミステリーを同時に楽しめたかのような分厚い満足感を感じられるだろう。このミステリーがすごい 海外編第1位も納得である。久しぶりに読書の面白さを感じさせてもらった。多くの読者にこの感覚をぜひ味わってほしい。

「The Skin Collector」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2016年このミステリーがすごい!海外編第1位。

ニューヨークに古くから残る地下道。そこから侵入し人を殺害し、その肌にタトゥーを掘るSkin CollectorにRhymeが挑む。
今回の犯人は本シリーズの最初の作品Bone Collectorの犯人に強く影響を受けているようで、Skin Collectorと呼ばれている。本書のなかでもBone Collectorの内容が何ども触れられているが、正直もう3,4年も前に読んだ話なのでほとんど覚えていないのが残念である。Bone Collectorの物語のとき少女だったPamとAmeliaの関係が本書では1つの焦点となっている。立派に大人になって巣立っていこうとするPamにAmeliaは嫉妬し、その事実を素直に受け入れられないのである。

また、一方でWatch MakerとRhymeのやり取りも前作より続いている。信じられないことに刑務所で亡くなったWatch Makerであるが、その共犯者を暴き出すためにその葬儀に身分を隠してPulaskiを送り込むのである。

正直ややマンネリ感が出てきた。捜査の手法が変わらないのは仕方がないとはいえ、物語自体に新しさが感じられなくなってきた。これから本シリーズを読もうと思ってい人には第3作、4作の「Stone Monky」「Vanished Man」あたりがもっとも面白いと伝えたい。それ以上は特に時間を割いて読む必要はない気がしてきた。

ミノル・ヤマサキ
日系アメリカ人建築家。ワシントン州シアトル出身の日系二世。ニューヨークの世界貿易センタービルの設計者。(Wikipedia「ミノル・ヤマサキ」

ヘイマーケット事件
1886年5月4日にアメリカ合衆国シカゴ市で発生した暴動。後に国際的なメーデーが創設されるきっかけとなった事件。(Wikipedia「ヘイマーケット事件」

「The Lock Artist」Steve Hamilton

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年バリー賞長編賞受賞作品。2011年エドガー賞受賞作品。

幼い頃のできごとによって話す事をしなくなったMikeだが、2つの才能を持っていた。一つは絵を描く事、そしてもう一つはどんな鍵でも開けてしまうこと。そんなMikeは金庫破りになっていた。

最近よく見られる手法ではあるが、本作品もある程度のときを隔てた2つの時間を交互に描いていく。片方はまだ学生のMikeを描き、話さないがゆえに周囲の人々から孤立していながらも、その才能で少しずつ自らの存在感を示していく。もう一方では、すでに金庫破りとして仕事を受けて、犯罪者たちに加わって行動する。物語を読み進めるに従ってこの2つの時間の間の出来事が少しずつ埋まっていく。
金庫破りを描いているので、Mikeが金庫を開ける際の描写がやはり新鮮である。そもそもダイヤル錠がどのような仕組みになっているのか、どれほどの人が理解しているのだろうか。軽くでもダイヤル錠の仕組みを知ってから読むともった楽しめるかもしれない。
Mike自身もなりたくて金庫破りになったわけではなく、その過程にはいくつかの運命的出会いがある。その一つが、Mikeと同じように絵を描く事を得意とするAmeliaとの出会いである。Ameliaと話すことのできないMikeは絵でお互いの意思を伝える。小説ゆえに、そんな絵による会話が文字でしか見えないのが残念であるが印象的なシーンのひとつである。
さて、仕事中でもかたくなに話そうとしないMikeの言動から、「幼い頃何があったのか」「なぜ彼は話せないのか」という疑問が読み進めるうちにわいてくるだろう。そんな好奇心が読者の心を物語を最後まで引っ張っていくのである。
しだいに打ち解け心を許し合うMikeとAmeliaだが幼い頃のできごとを話そうとしないMikeの言動もAmeliaの心にブレーキをかける。また、Mike自身も金庫破りという仕事ゆえに次第に危険な出来事に巻き込まれるようになる。
悲しくも温かい物語。

「Affinity」Sarah Waters

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
2001年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。
引きこもりだったMargarettは人の勧めで、刑務所を訪れて囚人の女性たちと話をするようになる。そこで出会った霊媒師の女性Selina。会話を重ねるにつれて2人は惹かれ合っていく。
すでに成人していた、兄弟が結婚して巣立っていく中、働くこともなく引きこもり生活を続けているため居場所を見つけることができない。そんなMargarettが囚人たちの生き方に自分を重ねあわせていく。刑務所で彼女が体験したことを家に帰ってきて日記に書く、という形態をとっているため、ひたすらMargarettの一人称で進んでいき、その心のうちが描かれる。そこが本作品の個性であり魅力である。
同時に、Selinaの視点に立って2年遡った状態からも物語は描かれる。一体どんな状況で彼女は罪を犯したのか。そして、その2年前のSelinaの周囲の出来事がどのようにして今の刑務所へと結びついていくのか、と想像しながら読み進めていくことになるだろう。
「ミステリー」というカテゴリに本書を分類することにまったく違和感がないが、どうも今ひとつ何か期待していたレベルには達していない気がする。

「The Cold Moon」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズの第7弾。2つの殺人現場には古風な時計が置かれていた。Rhymeと犯人、通称Watchmakerとの知恵比べが始まる。
犯罪の現場にわずかに残された微粒子から犯人につながる手がかりを見つけけだして犯人を追い詰める流れは本シリーズに共通し、本作品でも例外ではない。
そんなシリーズの中で、本作品で新しいのは、Amelia Sachsが自らRhymeとは別の犯罪捜査にも専念している点だろう。しかし、それはやがて同じく警察官だったSachsの父の過去へと繋がって行く。
また、本作品は、会話中の相手のしぐさや表情からその真偽を読むスペシャリスト、Katheryn Danceが登場し、Rhymeとの2人の主役級が登場する稀有な物語とも言える。証拠しか信じないRhymeは次第にKatherynを認め、その能力を頼るようになる。
前作「The Twelfth Card」でルーキーとして登場したRon Pulunskiが失敗しRhymeにしかられたりしながらも次第に成長していく姿も物語を面白くさせている。
一方で犯人の追跡劇は一転二転三転と引っくり返る。現場に置かれた時計は何を意味するのか。なぜこの人々が被害者として選ばれたのか。ややいろいろな要素を詰め込みすぎた感がある。そして、本作品に関してはその終わり方も少し異質である。賛否両論あるのではないだろうか。

Red Stripe
ジャマイカのビール(Wikipedia「Red Stripe」

「The Power of The Dog」Don Winslow

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2010年このミステリーがすごい!第1位。
1970年代から30年近くにわたり、メキシコ、アメリカ国境付近で広がるアメリカへの麻薬を密輸する組織と、それを摘発しようと奮闘するアメリカ人Artを描く。
なんといっても注目すべきはこの物語が実話をベースに描かれているということだろう。もちろん組織の名前などは架空のものが付けられているが、事実に詳しい人間が読めば、物語のなかの誰が実在した誰を描いているのかすぐにわかるのではないだろうか。。
メキシコの地名やアルファベットの頭文字だけで表現される多くの組織名など、お世辞にも読みやすいとは言いがたいが、メキシコとアメリカの国境付近の歪んだ空気が伝わってくる。
裏切りと制裁の組織のなかで地位を固めていくAdanとRaul。そしてニューヨークから成り上がったCallan。友人を拷問のすえ殺されたことで麻薬組織撲滅を使命としていきるArt。コールガールとして成功したがゆえに組織と深くかかわることになったNora。それぞれの視点からその犯罪を見つめて言うr。
平和な日本に生きている僕らには想像もできないような現実がそこにあることに驚くだろう。アメリカ、メキシコ国境で、なぜ何年もの間お金は北から南に流れ、麻薬は南から北へ流れるのか、その理由がわかるだろう。

DEA
アメリカ合衆国の麻薬取締局(まやくとりしまりきょく、Drug Enforcement Administration、略称:DEA)は司法省の法執行機関であり、1970年規制物質法の執行を職務とする連邦捜査機関である。(Wikipedia「麻薬取締局」

「Child44」Tom Rob Smith

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2009年このミステリーがすごい!第1位。
時代は1953年のソビエト。大戦の英雄でありMGB(国家保安省)のLeoは内部の諍いから、妻と友にモスクワから遠い東の地に送られる。そこでLeoは子供を狙った連続殺人事件に出会う。
本作品から面白い部分を挙げればいくらでもあるが、まずは、戦後の混乱のソビエトの社会であろう。未完成な社会ゆえに、未完成な正義が幅を利かせている。KGBがその間違った正義であり、彼らに嫌われたらどんなに誠実な人間さえも容疑者にされる。そして人々は自らが密告されることを恐れるがあまり、ひたすら目立つことを恐れて生きていくのである。このような魔女狩りのような世界がわずか数十年前に隣国で存在していたことに驚いた。
さて、本作品では、そんな権力の象徴的存在であるMGBであるLeoが、その権力を失っていく。そして権力を失ったことによって正直な意見を妻のRaisaから聞かされ、そこから見えてくる真実がさらにLeoを苦しめるのである。Leoの妻、Raisaが語った言葉などはまさにどんな社会にも通じる真実を表現しているだろう。権力を持った人の周囲では人は正直ではいられないのである。

私があなたと結婚したのは怖かったから。もし拒絶したらいつか私も逮捕されるって思って、嫌々了解したのよ。つまり私たちの関係は恐怖の上に成り立っていたの…。もしこれからも一緒に過ごすのなら、今から本当のことを話すようにするわ。気持ちのいい嘘じゃなくて。

やがてLeoとRaisaは協力して連続殺人事件を解決しようとする。そんな協力関係の中で少しずつ変化していく二人の関係が大きな見所の一つである。そして、連続殺人事件の謎。何故、事件はいつも線路の近くで起きているのか、何故子供ばかりが狙われるのか。何が犯人を残酷な殺人へと突き動かすのか。
揺れ動く登場人物の心の動き、作品中から教えられる悲劇の歴史、物語展開も最後まで予想を巧に裏切ってくれた。この完成度は誰にでもオススメできる。

ウラジーミル・レーニン
ロシア出身の革命家、政治家、法律家。優れた演説家として帝政ロシア内の革命勢力を纏め上げ、世界で最初に成功した社会主義革命であるロシア革命の成立に主導的な役割を果たし、ソビエト社会主義共和国連邦及びソビエト連邦共産党(ボリシェヴィキ)の初代指導者に就任、世界史上に多大な影響を残した。(Wikipedia「ウラジーミル・レーニン」
チェーカー
レーニンによりロシア革命直後の1917年12月20日に人民委員会議直属の機関として設立された秘密警察組織の通称である。(Wikipedia「チェーカー」
フェリックス・ジェルジンスキー
ポーランドの貴族階級出身の革命家で、後にソ連邦の政治家に転じた。革命直後の混乱期において誕生間もない秘密警察を指揮し、その冷厳な行動から「鉄人」「労働者の騎士」「革命の剣」など数多くの異名で呼ばれた。(Wikipedia「フェリックス・ジェルジンスキー」