「告白」湊かなえ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第6回本屋大賞受賞作品。
娘を生徒に殺された女性教師は、最後の日のホームルームである告白をする。自分の行ったことに苦悩する生徒。子供の行動に悩む親や兄弟。一つの事件を機に見えてくる人の心を描く。

映画がヒットしているそのまっただなかで読むことになった。基本的に告白や日記という形で物語は進むため、ややスピード感に欠け、単調な印象を受けた。

娘を殺された教師の告白から始まり、その殺人に関わった生徒二人の目線、その親の日記と続く。物語に必要とはいえ、中学生の日記にしてはあまりにも長く、描写が上手すぎるという点は読みながら不自然さが拭えなかった。

最後まで非難と復讐の物語。現実の世界では、常に救いがあるわけではないので、必ずしも希望の見出せる作品にする必要はないが、それにしてももう少し上手い描き方はなかったのだろうか、と感じた。
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「博士の愛した数式」小川洋子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第55回読売文学小説賞受賞作品。第1回本屋大賞受賞作品。
家政婦を務める主人公は、家政婦紹介組合からの紹介でとある男性の世話をすることになった。その男性はその男性は数学の博士で、交通事故により80分間しか記憶を保持することができない。博士と主人公の私、そしてその息子のルート、3人の不思議な物語である。
素数、友愛数、完全数など昔習ったような記憶を持ちながらも忘れてしまった数学の言葉が多々出てくる。この物語は理系の人間が読むか、文型の人間が読むかで大きく印象が異なるかもしれない。また、80分しか記憶が持たない人間がどのような気持ちになるのか物語を読み進めるうちに考えることだろう。たった80分間のために何かを学ぼうと思うだろうか、向上心がわくだろうか。人と会話をしようと思うだろうか、と。普段考えないことを考えさせてくれる作品ではあったが、この物語が世間で受けている評価ほどすばらしい作品とは思えなかった。
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「夜のピクニック」恩田陸

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第26回吉川英治文学新人賞受賞作品。第2回本屋大賞受賞作品。
高校生活最後を飾る「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統の行事である。互いに意識し合う西脇融(にしわきとおる)と甲田貴子(こうだたかこ)の2人も各々いろいろな想いを抱えながら高校最後の「歩行祭」がスタートする。
物語の視点は融(とおる)と貴子(たかこ)に交互に切り替わる。それぞれの目に映るもの、記憶、友人達との会話、気持ちの描写だけで物語は展開されていく。
スタートしたばかりの前半は余裕から会話も弾む。転校していった友達の話。学校内で広がっている噂話。友人の恋愛の話。そして、そんな中で3年生である融(とおる)や貴子(たかこ)は歩行祭が人生で得難い機会であることを実感している。

みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。
どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。

物語中盤からは、距離を歩いたことで疲労が増しそれぞれが無駄な会話を辞め、夜が訪れると共に気持ちが昂ぶり、本当に語りたいことを語り始める。そして人の言葉に対しても自分を偽らない素直な反応しかできなくなる。
学生時代の部活の合宿や、旅行の夜の妙な高揚感を思い出す。人の気持ちを素直にさせるのは非現実的な環境なのかもしれない。
そして、そんな状況で、普段言えないことを素直に口に出した、融(とおる)や貴子(たかこ)の友人達の言葉が心に残る。融(とおる)の友人の忍(しのぶ)、貴子(たかこ)の友人の美和子(みわこ)は物語の中で特に重要な役割を果たしているように感じる。

雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほど分かるけどさ、雑音だって、おまえを作っているんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。

高校生の恋愛感についても鋭い視点が見える。僕が中学生の頃に感じていた恋愛感、周囲の女性達に感じていた違和感。例えばそれは恋に恋する気持ちだったり、思い出として恋愛したい気持ちだったりする。それらの感情を融(とおる)や忍(しのぶ)が代弁してくれているようだ。

何か変だよ。愛がない。打算だよ、打算。青春したいだけだよ。あたし彼氏いますって言いたいだけ

物語は歩行祭の80キロの道のりのみを描き、言い換えるなら登場人物はひたすら歩くだけである。それでも思い出や気持ち、友人達との会話を巧妙に織り交ぜて読者を飽きさせることがない。大人になってからはめったに味わうことのできない懐かしく甘い気持ちにさせてくれる作品だった。「六番目の小夜子」「ネバーランド」に代表されるように、恩田陸のこの世代を主人公とした作品にはいい作品が多いが、そんな中でも最もオススメの作品になった。
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