「Silent Patient」Alex Michaelides

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著名な殺人犯で画家であるAlicia Berensonの殺人の真実を知るためTheoはAliciaに近づいていく。

自らも幼い頃の父親との関係に深い傷を抱えていきているTheoは、自らの夫を殺して精神病院に入院してからは、一言も喋らない話題の画家Aliciaが、同じように父親との関係から心を病んでいるのだと考え、その病院The Groveに入所し、Aliciaを担当することとなる。すでに施設自体が閉鎖間近とされるなかで、職員たちとの駆け引きをしながら少しずつAliciaの信用を勝ち取り真実を語らせようとする。

そんなAliciaをかたらせようと少しずつ努力するのと並行して、妻のKathyとの関係にも悩み続ける様子も描かれる。役者をしているKathyは公演間近になると遅くまで練習に明け暮れるが、あるとき妻のパソコンにある一件のメールに気づき、すこしずつ浮気の疑いを濃くしていくのである。

やがてAliciaの子供時代の事実が明らかになり、夫を殺した理由が見えてくる。また、それと同時に、TheoとKathyとの関係に対しても、Theoの決意とともに大きく動いていく。

特に大きな目新しさは感じなかったが、退屈しない程度には楽しめるだろう。

「A Cold Trail」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
シアトルの自宅の建て替えのために故郷のCeder Groveに戻ったTracyは地元の警察署長であるCallowayから1993年になくなったHeather Johansenの殺害事件に関連した未解決の事件の捜査を依頼される。娘のDaniellaのために、誇れる故郷を作ろうとTracyはその真実の解明に乗り出す。

Tracy Crosswhiteシリーズの第7弾である。Danと結婚し娘のDaniellaが生まれた後の最初の物語である。20年以上前に亡くなったHeather Johansenの事件の真実を探っていた記者のKimberlyと元弁護士のMathewが不幸な事故によって相次いで亡くなったのである。事故と片付けるにはあまりにも不可解な死の謎を解くうちにCeder Groveの暗い部分が少しずつ明らかになっていくのである。

序盤は娘を危険に晒すことを不安視して、捜査に参加するTracyに反対するDanだが、少しずつTracyの考え方に理解を示していく。本作品は久しぶりにシアトルではなくCeder Groveを舞台としているため第1弾につづいて、Tracyや妹のSarahの過去とのつながりが描かれる。事件の解明の手がかりを探してSarahの日記を読んだり、捜査のために昔の友人にあったりするのである。昔は若かった友人たちが、40歳を超えてそれぞれ街の中心として生きているというギャップが面白い。ある人は出世しある人は結婚して母となっているのである。明るい未来を語りながらも、やがて平凡な大人へとなっていくのである。

毎回このシリーズには事件解決とは別に、家族や仲間のテーマがあるのが面白い。今回は、娘のDaniellaが生まれたことによる、TracyとDanの生活の変化や考え方の変化が重要なポイントと言えるだろう。DaniellaのベビーシッターとしてTracyの家にやってきたThereseが、アイルランドの文化を持ち込んできた点も面白い。シリーズが進むごとに家族の形態が少しずつ変化しているのも興味深い点だろう。Danilellaが大きくなるに従ってどのような家族になっていくのか注目して続編も読んでいきたい。

「Agile Software Development」Peter Oliver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Agile開発の基本的な考え方を説明している。

スタートアップで仕事をしていると、基本的にAgileに則った進め方になるが、常に進め方に課題はあり、そのヒントとなるような内容があればと思い本書を手に取った。

最初はAgileの説明から入り、ScrumとKanbanという二つのAgileの考え方をわかりやすく説明している。

Scrumの基本を、

透明性(Transparency)
調査(Inspection)
適応(Adaptation)

とし、Scrumの三つの役割、つまりScrum Master、Product Owner、Cross Functional Teamを説明している。一方でKanbanの6つの哲学を

Visualization
Limiting work in progress
Flow management
Making policies explicit
Using feedback loops
Collaborative or experimental evolution

としてそれぞれを説明している。

どちらかというと今までScrumを中心とした体制のもとで仕事をしてきたが、部分的にKanban方式を採用した方がうまくいくことも多いので、Kanbanの考え方をもう少し取り入れてみたいと思った。

やはりページ数が限られているので、それほど印象的な内容はなかったが、Agileの進め方について簡単に理解したい人にはちょうどいいのではないだろうか。

「The Girl Who Takes an Eye for an Eye」David Lagercrantz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
刑務所に服役中のSalanderに会いに行った際、BlomkvistはLeo Mannheimerという36歳の男性について調べるように言われる。Blomkvistが調べたところ、ある日を境にLeo Mannheimerが左利きから右利きになったという。

Stieg Larssonの「The Girl with the Dragon Tattoo」に始まる物語の5作目。著者がDavid Lagercrantzへ変わってから2作目にあたる。前作「The Girl in the Spider’s Web」で法律に反する行為を行なったSalanderが刑務所で服役している状態で本作品は始まる。

その刑務所のなかでさえ、すべての権力を掌握し、艦種でさえ逆らうことのできない囚人Benitoや同じ刑務所にいるバングラデシュ出身の美しい女性Fariaの存在など、最初から問題山積みであるが、物語は、助けを申し出たBlomkvistに対してSalanderがLeo Mannheimerという男性の名を挙げたことで始まるのだ。

そして、いろんな情報源を頼りに少しずつLeo Mannheimerの真実に迫るうちに、Salanderの過去と大きくつながっていることが明らかになっていくのである。

シリーズ全体を通じて言えることだが今回も、普段なじみのないストックホルム周辺の地名が多く出てきて、遠い異国の地の人生を感じることができる。そして、人当たりは悪いながらも、正義感に突き進むSalanderの冷静な行動は爽快である。ただ、残念ながら、前作までにはあった一日中読んでいたくなるような勢いが今回は感じられなかった。著者が変わったせいなのか、物語の展開ゆえにそうなったのかはなんとも判断できない。

また、物語の過程で、「人の人格を決めるのは、才能なのか環境なのか」という研究結果に触れている部分があり、過去何度も議論が重ねられたこの問題について改めて考えさせられた。また、過去関連する多くの実験が試みられたこともわかり、その実験の内容や結果をもっと知りたくなった。
シリーズとしてはまだまだ続きそうなので、続巻が出る限り読み続けたいと思った。

「The Girl who Played with Fire」Stieg Larsson

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Lisbeth SalanderはBlomkvistと距離を置くことを決めて海外に旅に出る。一方Blomkvistは、新たな2人のパートナーと共にスウェーデンの裏に広がる性売買の実態を暴こうと動き出す。
Stieg Larsson三部作の第二作である。前半は前作「The Girl Who has The Dragon Tatoo」の後のSalander、Blomkvistとその周辺の様子が描かれて、ややスピード感に懸ける部分があるが、3つの殺人事件を機に、Salanderが追われる身となって、物語は一気に加速する。
面白いのは、事件を巡って3つの方向から真相を究明しようとする動きがあることだろう。一つは警察であり、残りの2つは、Salanderの無実を信じる、Blomkvistと、Salanderの職場である、警備会社である。
一見ただの殺人事件に見えていたものが、次第にSalanderの過去と深く関わっていることが明らかになってくる。「All The Evil」と呼ばれた日、Salanderに何が起こったのか、すべての公式な記録から抹消されたその出来事。その結末はまたしても想像を超えてくれた。
また、凶暴な売春婦と一般的に忌み嫌われているSalanderを、わずかであるが信頼している数人の人間がいて、彼らが必死になってその無実を証明しようとする姿がなんとも温かい。特に、彼女の保護者であり理解者であったPalmgrenとチェスをするシーンなどでは、彼女の中の優しさのようなものも感じさせてくれる。
物語としては文句なし。個人的にはもう少しスウェーデン語やスウェーデンの地名を知っておいたほうが楽しめるだろう、と思った。

Presbyterianism
キリスト教プロテスタント教会の中で、カルビン派を崇拝する派のこと。
GRU
ロシア連邦軍における情報機関。参謀本部情報総局を略してGRUと呼ばれる。旧ソ連時代から存続している組織である。(Wikipedia「ロシア連邦軍参謀本部情報総局」
Minsk
ベラルーシ共和国の首都。
アスペルガー症候群
興味・関心やコミュニケーションについて特異であるものの、知的障害がみられない発達障害のことである。「知的障害がない自閉症」として扱われることも多いが、公的な文書においては、自閉症とは区分して取り扱われていることが多い。(Wikipedia「アスペルガー症候群」

「The Girl with the Dragon Tattoo」Stieg Larsson

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
名誉毀損の有罪判決を受けた、失意のジャーナリストBlomkvistの基に、すでに第一線を退いた経済界の大物、Vangerから仕事の依頼が来る。それは30年前にいなくなった当時17歳の少女の事件を解決して欲しい、というものだった。
物語の舞台はスウェーデンの田舎町である。事業家のVangerの家系ゆえに、その親類や関係者たちで居住者の多くが占められており、その日は、唯一他の場所へ行くルートとなっていた橋で交通事故が起こったため実質孤立した場所となっていた。そんな中で消えた少女。残された写真や警察の調査報告書から少しずつ真実に近づいていこうとする。
「どうして彼女は…」とか「彼女は一体何を…」というように、今は存在しない彼女の心を推し量る場面では、名作、宮部みゆきの「火車」や同じく宮部みゆきの「楽園」で味わった空気と同じものを感じさせてくれる。関係者に30年前のことをたずねて歩くうちに、それぞれが持つ思いを知っていく。

家族にとってはそれは時間がかかるだろう。でもそのうち彼らも悲しみと失望を乗り越え、元の生活に戻っていく。なぜなら人生は続くし、生きていかなければならのだから。そして最後は、昼も夜も被害者のことを考えるのは、調査を続けなければならない刑事ただ 1人になる。

そんな Blomkvistの調査と平行して、話はタイトルにある、竜の刺青のある女Salanderの物語も進んでいく。スウェーデンを含む北欧の国々と聞くと、僕らは日本と比較してはるかに教育体制が整っているような印象を持つが、彼女はその生い立ちから、生きていくために後見人制度に頼らざるを得ない。そこで発生する問題からは、北欧といえどもまだまだ多くの改善すべき点があると感じさせてくれる。
さて、少女の失踪の秘密は、やがて聖書の中の文章と深く結びついていく。その過程で、僕の興味を強くひいたのが聖書の「外典」の話である。聖書はもともとヘブライ語で書かれているが、その原典に存在しないもの(つまり選出されなかったもの)を「外典(Apocrypha)」と呼び、カトリック、東方教会、プロテスタントでそれぞれ選定の基準が異なる。というもの。
こうやって徐々に徐々に真実が明らかになっていく物語、というのは、どうしても期待感を高めすぎてラストがそれに伴う衝撃を用意できていないことが多いのだが、本作品はその点も及第点はつけられる。
物語中で登場する多くの地名がスウェーデン語であるということから、言語にも興味を持つだろう。ただの謎解きだけでなく、ヨーロッパから、やがてはオーストラリアにまで広がるスケールと、読んでいるなかで多くの現実の問題や人々の生活に深く根付いている宗教にまで物語は広がり、非常に楽しめた。
読んでいる最中に、翻訳して出版したくなったが、先日本屋で「ドラゴン・タトゥ-の女」というタイトルで邦訳が並んでいるのを発見したので、興味がある方はそちらも手に取ってみるといいだろう。もちろん、英語で読んでも非常に読みやすい。500ページを超えるその厚さに多少躊躇するかもしれないが、読み始めれば時間も忘れて読み進められることだろう。

ウプサラ
スウェーデン中部の都市で、ウプサラ県の県都。人口は約13万人(2000年)で、スウェーデン第4位。よりスウェーデン語に近い発音はウップサーラ。北欧最古の大学であるウプサラ大学がある。(Wikipedia「ウプサラ」
キルナ
スウェーデンで最も北に位置する都市(正確には、市、kommun)である。鉄とライチョウがが街にとってとても重要な産業であり、またキルナという名称がサーミ語のギーロン(Giron、ライチョウ)に由来している事による。(Wikipedia「キルナ」
ペンテコステ派<
キリスト教のプロテスタント教会のうち、メソジスト、ホーリネス教会のなかから1900年頃にアメリカで始まった聖霊運動、つまりペンテコステ運動 (Pentecostalism)からうまれた教団、教派の総称ないし俗称。(Wikipedia「ペンテコステ派」
参考サイト
Wikipedia「旧約聖書」
Wikipedia「外典」