「Fahrenheit 451」Ray Bradbury

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本を燃やす事を仕事とするMontagはある日近所の少女Clarisseと出会う。Clarisseの自由な言動によって、Montagは自らの行いを振り返り悩み始める。
日本語タイトルは「華氏451度」であり、本を燃やすための温度を示している。舞台となっているのは未来の世界で本来なら消防士として火災にあった家を消化する人にあてられるべき「fireman」という言葉が、本を燃やすことを職業にする人に使われている。そして本書はそんなfiremanであるMontagの様子を描いている。
知識や思想を根絶するために本を燃やす、という思想は何年も前からあったもので、映画や物語のなかでもそんなシーンをたまに目にする。おそらく宗教的な対立や独裁政権下で多く起こったできごとなのではないだろうか。本作品が未来を舞台にして、見せててくれるのは、本を燃やすということの意味とその危険や重要性である。
firemanとしての職業を放棄したMontagはやがて社会から逃れて生活している人々に出会う。彼らは多くの本が失われる中で、知識や思想を守り、それを次の世代に受け継ごうとするのである。
本書が言おうとしていることの崇高さはしっかり伝わってくるが、書かれた時代の古さが安っぽさのように感じられてしまう点が残念である。情景描写ばかりで心情描写がほとんどない点も原因なのだろう。同じ意図で現代のすぐれた作家が描いたらどうなるだろう、と考えてしまった。

「Wolves of Calla」Stephan King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Dark Towerシリーズの第5弾。Roland達一行はCallaという町の人々に救いを求められる。その町には何年かに一度仮面を被った「Wolves」と呼ばれるグループがやってきて、町に多くいる双子のうちの一人をさらっていくのだというのだ。
シリーズ中最長の本書。Roland、Eddie、Sussanna、Jake、Oyeは助けを求められてCallaという町に赴き、町の人々から情報を集めながら、約1ヶ月後に迫ったWolvesの来襲に備える始める。そこでは双子の一人がさらわれても残る物もいるのだからそれで甘んじようと言う人々と、これ以上今の状態を続けないために命の危険を承知で立ち上がろうとする人々がいる。
町の老人が昔のWolvesの来襲と一緒に戦って命を失った友人達について語るシーンが個人的にはもっとも印象に残った。

モリーは砕け散った夫の血と脳を浴びながらも、なお動かず。そして叫んで皿を放った。

さて、物語はWolvesの襲撃に備える一行だけでなく、夜になると不穏な行動を始めるSussannaや、Eddie達と同じようにニューヨークからやってきたCallaの町の神父Callahanにも及ぶ。Callahanの語る物語はどうやらStephan Kingの別の作品と繋がっているようで、そちらも読みたくなるだろう。
前作「Wizard and Glass」でも赤い水晶が物語の重要な役割を担っていたが、今回もCallahanが保持しているという水晶が鍵となる。今後この玉の存在が物語にどのように影響を与えていくのか、ようやく近づいてきたシリーズの終盤に対して期待感が高まる。
スピード感溢れる描写に著者の才能を感じた。早くシリーズを最後まで読みたくさせてくれる一冊。

「Holes」Louis Sachar

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
靴を盗んだ罪で更生施設に送られたStanleyはそこで毎日穴を掘る事を命じられる。その生活に慣れていくなかで少しずつその目的が見えてくる。
灼熱の大地で毎日穴を掘る、という情景になんか惹かれてしまうのは僕だけだろうか。物語にはその他にもなんだか魅力的な要素が詰まっている。主人公のStanleyの名前が、Stanley Yelnatsと逆から読んでも同じだったり、穴を掘っている近くには猛毒のトカゲが生息していたり、細かい設定がやけに印象的である。
さて、Stanleyが毎日の穴掘りに慣れ施設の生活にも慣れていく様子を描く中で、何度も過去の物語が展開される。どうやらそれはStanleyの曾祖父や祖父の物語のようである。アメリカに渡って財産を築いた曾祖父。強盗に襲われて財産を奪われた祖父。またその地域に長く伝わる伝説も描かれている。禁断の恋をした女性教師とタマネギ売りの物語である。
実は最後にはそんなすべての断片が1つに繋がるのである。正直1度読んだだけではなかなか細かい相関関係がわからない。すぐに読み返したくなる1冊。

「Mockingjay」Suzanne Collins

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第13地区に逃げ延びたKatniss達は首都から迫害を受けていたすべての地区を率いて反乱を起こそうとする。一方で首都は爆撃だけでなく、捕らえたPeetaを利用して各地の暴動を治めようとする。Hunger Gameシリーズ完結編。
シリーズ3作目ということで、前2作品では脇役に過ぎなかった登場人物達が個性を持ち生き生きと躍動してくる。正直過去の作品の登場人物の名前を覚えてないとややわかりにくいかもしれない。
13地区はまず、他の各地区を同じように首都に対する反乱に向かわせようとする。電波ジャックによってKatnissを革命の象徴とした映像を流し、人々を煽動しようとするのだ。序盤はそんなメディア戦略の映像を撮るために、Katnissが首都の迫害に苦しんでいる各地区をまわり、そこで人々の支持を集めていく様子が描かれる。
一方、首都は捕らえたPeetaを使って革命の気運を抑えようとする。映像を通じて「反乱をやめるべき」というPeetaの言葉にKatnissは思い悩むが、それでも次第に革命の気運は高まり首都は孤立していく。
物語はむしろその後の戦場での悲惨な物語を描く。革命の象徴とたたえられながらも憎むべき独裁者Coinを倒そうとKatniss。GaleなどのHungerGameの生存者達とチームを組んで戦場に赴いていく。その残虐な首都の兵器に傷つき犠牲を払いながらも進んでいく場面が物語の最大の山場である。
シリーズ完結編にふさわしい内容。ハッピーエンドとは言い難いが、だからこそ現実の戦争の無意味さを訴えているように思える。ぜひ映像化されたものも見てみたいと思った。

「Wizard and Glass」Stephan King

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
暴走し始めた知能を持った機関車との対決を終えたRolandは旅する3人の仲間にSusanという女性との出来事を語り始める。
前作「The Waste Lands」の最後に暴走する機関車Blaineになぞなぞ対決を挑まれたRolandの一行だが、Eddieの機転でその場を勝利する。本書はむしろその後にRolandがJake、Eddie、Susuannahの要望に答えて語る自らの過去、Rolandの14歳の時の出来事が中心となる。
Rolandは同じ訓練をつんだCuthbert、AlainとともにHambryという町の調査に赴くのだが、その町にはBig Coffin Huntersと呼ばれる3人組が権力を持っていて、やがて外部から来たRoland達3人との対立を深めていく。また、RolandはSusanという、すでに町の権力者と結婚を約束した美しい女性と出会い恋に落ちるのである。使命を果たそうとするなかで恋に溺れるRolandに、CuthbertやAlainは不信感を強めていく。
今までその過去はほとんど謎に包まれたままだったRolandだが、本書でようやくその辛い過去が明らかになっていく。あまり感情を見せないRolandだが、若き日Rolandからはその感情の揺れ動く様子が見て取れる。
SusanやBig Coffin Huntersの存在は言うまでもないが、物語を面白くしている要因の1つは、Hanbryの町に住む赤い水晶を持った老婆Rheaの存在である。本書のタイトルはまさにそれであり、おそらくシリーズの今後含めて水晶も老婆の存在も大きな鍵となっていくだろう。
今後の感動的で壮大な展開を予感させる。日本人の間にももっと読まれて欲しいと思える作品。

「Hotel on the Corner of Bitter and Sweet」Jamie Ford

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1986年、シアトルにあるホテルのオーナーが変わって長い間地下室に眠っていた物が発見される。年老いてすでに妻を亡くしたHenryの過去の辛い思い出を呼び起こす。
太平洋戦争中にシアトルに住んでいた中国人Henryと日系2世のKeikoの物語。2人は白人が多数を占める小学校に通っていたため、他の生徒からいじめられ、孤立していたために次第に仲良くなっていく。
Henryの父は中国からアメリカに渡ってきたため、Henryには中国語を話す事を禁じ、アメリカ人として育つ事を求める。同時に戦争によって日本人を忌み嫌うのである。Keikoは日本人の容姿を持ちながらもアメリカで生まれ育ったために国籍はアメリカ人で英語しか話す事ができない。そんな2人の社会と自らの個性の間で悩む姿が物語のなかから感じられる。
やがて太平洋戦争は激化し、迫害やスパイとしての活動を懸念したアメリカ政府は、日本人街から日本人は内陸部の場所へ移動を命じ、KeikoとHenryは合う事さえ困難になっていく。

Henry!君は希望をくれたんだ。希望さえあればどんな困難でも乗り越えられる。

本作品はフィクションであるが、あの戦時中の混乱のなか、おそらく似たような出来事はあったのだろう。歴史の本では決して語られないが、戦争という人間の起こす愚行によってもたらされる不幸な側面に目を向けさせてくれる。

「Best Kept Secret」Jeffrey Archer

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
世間の注目を集めた相続争いが一段落して、と妻Emmaそしてその兄のGilesは元の生活に戻る。
「Time Will Tell」に始まるHarry Cliftonシリーズの第3弾。それぞれの登場人物のその後が様子が描かれる。結婚したGilesは結婚し選挙運動に努める。EmmaとHarryは息子のSebastianを育てながらEmmaはビジネスを、Harryは作家として成功しようとする。Gilesの夫婦間の問題や、HarryとEmmaの養子縁組などそれぞれ悩み事が尽きない。
それでも本作品ではむしろ息子のSebastianの成長が中心となっているようだ。物語の後半は、まさにそSebastianが中心となっていく。不自由なく育ったせいか次第にその破天荒な振る舞いが問題になり、やがて犯罪へと巻き込まれていく。
それぞれの主要な登場人物たちは相変わらず魅力的ではあるが、残念ながら物語が分岐しすぎてしまったせいか、小さな諍いなど日常的な問題の寄せ集めになってしまって、「Time Will Tell」や「Sins of Father」で見られたような感動するようなエピソードに乏しい印象を受けた。

「Catching Fire」Suzanne Collins

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハンガーゲームを勝利したKatinissとPeetaは勝利のパレードに忙殺される。しかし二人がハンガーゲームでとった行動はハンガーゲームの主催者である「首都」の反感を買っており、またその行動は各地にすこしずつ支配下におかれた12の地域に反乱の空気をもたらしていく。
映画化もされた「Hunger Game」の続編である。前作は残念ながらバトルロワイヤルの焼き直しのような、陳腐な物語に過ぎないが、本作品はむしろ体制に対する人々の団結と戦いの物語になっている。前作では存在感のなかった脇役にすぎなかった登場人物たちが、本作品ではハンガーゲームという残酷なイベントによって若い人々の命を玩ぶ「首都」に対して少しずつ疑問を感じ、それを行動に移していくのである。しかしそれでも「首都」の持つ力は絶対で、KatnissとPeetaは再びハンガーゲームに導かれていくのである。
前半はやや物語はゆっくりと進む。個人的にはむしろ、後半のハンガーゲームのシーンよりもそれ以前のハンガーゲームが決まってからの人々の勇敢な行動が印象的だった。
そして物語は続編へと委ねられる。続きも読まなければならないようだ。

「Angel’s Game」Carlos Ruiz Zafon

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
20世紀初頭のスペイン、バルセロナ。David Martínは作家になるための道を歩んでいく。そんなある日、宗教を作って欲しいという依頼を受ける。
前半はMartínの作家になっていくなかで、友人であり保護者であるPedro、Martínが想いを寄せるCristina、Martínに憧れて作家を目指すIsabellaなど、読み進めていくうちにMartínの周囲にある温かい人間関係が見えてくる。そんななかMartínは宗教を創って欲しいという依頼を破格の値段で受けるとともに、周囲に不思議な出来事が起きるようになるのである。そして時期を同じくしてMartínが住んでいる古い家の部屋の中で、前の住人の持ち物にその依頼人の名前を発見するのである。
依頼人の目的は何なのか。この家には誰が住んでいたのか、そして彼には一体何が起こったのか。そんな彼の行動はさらに多くの困難を招く事にになるのである。
何よりも物語全体がつくりあげるバルセロナの当時の雰囲気がすばらしい。また、同著者の別の作品「Shadow of the Wind」にも登場した「忘れられた本の墓場」も登場し、Martínの友人として本屋の店主とその息子が描かれており、本という物の存在に対する著者の愛情がひしひしと伝わってくる。
しかし、残念ながら多くの謎を残したまま本書は終了し、今後続くであろう続編にその解決を委ねる事となっている。本書だけですべてを評価する事はできないが、ややミステリアスで超自然的な内容を含んでいるため「Shadow of the Wind」のような心地よい読後感や雰囲気を味わおうとしていると裏切られるだろう。
とはいえ次回作は読まなければならないだろう。

「Pretty Little Liars #3: Perfect」Sara Shepard

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Aliが遺体となって発見され、犯人として疑っていたxxが殺された。一体Aとは誰なのか。不安に怯えながらAria、Spencer、Emily、Hannaは日々の生活を送る。
「Pretty Little Liars」のシリーズ第3弾である。毎度のごとく恋愛や十代の女性にありがちな女性同士の見栄の張り合いや、派閥意識のなか普段の生活を送りながらも、4人はAと名乗る人間から来るメールなどに怯え続ける。そんな中やがてEmilyは自分のAliとの記憶のなかに抜け落ちている部分があることに気づくのである。そして、両親に寄るとどうやら幼い頃にもそういう経験をしたことがあったという。どうやらその抜け落ちた記憶の部分に真相にたどり着く鍵があるようだ、と不安になっていくのだ。
大きく物語の動く第3弾。すぐに続きを読みたくさせる。

「The Sins of the Father」Jefferey Archer

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アメリカにたどり着いたHarry、Harryの子を宿したEmma、そしてHarryの親友であるGile。それぞれの人生が分岐し始める。
前作「Time Will Tell」の続編である。結婚を約束したEmmaが実は兄妹の可能性があることを知り、戦死した事にして他人の名義を乗っ取ってアメリカに入ったHarryだが、そこでは乗っ取ったアメリカ人の罪を被って服役する事と成る。一方でEmmaはHarryの戦死という事実に疑いを持ちその事実叙調査を独自に始めていく。Emmaの兄でありHarryの親友であるGileは兵役に志願しドイツとの戦地に赴いていく。
なかなか前作を読んでいない人にとって楽しむ事は難しいかもしれない。前作を読んでいる人には、前作では脇役に過ぎなかった登場人物たちが、それぞれ活躍していく様子を楽しむ事ができるだろう。
やがて物語は後継者選びへと発展していく。Barrington家を継ぐのはその息子のGileなのか、それとも別の男の息子として育てられたが産まれるのが数ヶ月早かったHarryなのか。すぐに続編へと手を伸ばしたくなる一冊。

「Different Seasons」Stephen King

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
四つの作品を集めた短編集であるが、一作目の「Rita Hayworth and the Shawshank Redemption」は映画「ショーシャンクの空に」の原作であり、三作目の「The Body」は映画「スタンドバイミー」の原作という短編集ながらもそれぞれの物語は非常に濃密で完成度の高い出来となっている。映画が非常に忠実に描かれているので、いまさらこの二つの作品の素晴らしさは語る必要もないが、四作目の物語「The Breathing Method」もまた強烈な作品に仕上がっている。
主人公である男性は、ある物語を語る会に通うようになる。そこでは毎回参加者の一人がほかの参加者に向けて物語を語るのだが、あるクリスマスの晩に参加者の一人の医師が過去を思い返してある女性の物語を語るのである。その女性は役者を夢見てニューヨークに出てきたが、出会った男と恋に落ちて妊娠し、男が去ったあとも一人でその子を産んで育てようとして、医者であるその語り手のもとを訪ねたのだと言う。彼女の産まれてくる子供のための強い意志は、その語り手である医師の心に永遠に刻まれることとなったのである。
出版されたのが1983年という本であるが、30年を経た今読んでも決して不満に思う事はないだろう。長く心に残るであろう作品。

「Agent6」Tom Rob Smith

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ロシアでKGBの一線を退いたLeoと妻のRaisa、そして容姿にとった2人の姉妹の4人は質素だが平和な生活を送っていた。教師としてArisaは国際交流のイベントのために、2人の娘を連れてアメリカにいくこととなる。
「Child44」「SecretSpeech」に続く、冷戦時代のロシアを描いた第3弾。誰もが秘密警察KGBの目を恐れて生活しているロシア。前二作品でKGBの第一線から退いて両親を殺された姉妹ZoyaとElenaとともに暮らしていた。思春期を迎えた ZoyaとELenaを連れて、妻であり教師のRaisaがアメリカでアメリカの生徒たちとの交流イベントに向かうところから物語は大きく動き出す。
アメリカ人歌手Austinは、かつて共産主義を支持していたためCIAから睨まれてその活動の場所を失ったが、ソ連は彼を共産主義の象徴として再び表舞台に立つように説得しようとする。そんな陰謀に巻き込まれるRaisaとElena。そうしてアメリカで起こった出来事がその後のLeoをアフガニスタン、アメリカへと向かわせるのである。
僕ら日本人がアフガニスタンやタリバンについて意識したのはきっと9.11テロ以降であろう。本書はそんな混沌に陥るアフガニスタン、そしてそれを引き起こした冷戦時代のソ連、アメリカの関係を見せてくれる。太平洋を越えた3国にまたがって、前2作品以上に大きなスケールで展開される物語。
おそらくシリーズラストとなるであろう、むしろ終わりに近づくにつれて、読み応えのあるシリーズが終わってしまう事にさみしささえ覚えてしまう作品。

「Before I Go To Sleep」S J Watson

短期記憶しかもつことのできないChristineは一晩眠ると前の日の記憶を失ってしまう。だから毎日日記をつけることで前の日に起こった事がわかるようにした。彼女の毎日は、隣で眠る知らない男を夫と認識する事から始まる。
ここ数年短気記憶を扱った物語をたびたび目にする。「博士の愛した数学」「50回目のファーストキス」など、どちらかといえば、短期記憶しか持たないということを、毎日毎日を大切に生きる、ということにつなげる内容が多いように思うのだが、本書はもっとそれをミステリアスに使っている。
医者が言う事と、夫が言う事、そして自分が日記に書いている事に矛盾があるためにChrristineは悩む。そして同時に、今知った事を明日には忘れてしまうという恐怖も味わうのである。息子がいるのかいないのか、息子は生きているのか死んでいるのか、そもそも自分が記憶を失ったのは、交通事故なのか暴行をうけたからなのか。ときどき脳裏に浮かぶ記憶の断片が、少しずつChristineの過去を明らかにしていく。
もはや展開としてはどんな結末にもできる流れだったので驚きはなかったが、一つの物語の試みとしては面白い。

「Sleeping Doll」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人の心を自在に操るカリスマ的犯罪者Daniel Pellが脱獄した。人間の所作や表情を読み解く「キネシクス」分析の天才でカリォルニア州捜査局捜査官のKathryn Danceがその行方を追う事となる。
Rincoln Rhymeシリーズで何度か登場したKathryn Danceを主人公に据えたシリーズの第一弾。会話する人のわずかな動作からその真偽を見抜く技術に長けているゆえに、聞き込みや取り調べでその技術が発揮される。目の動き、手足の動作など、人の感情は実はかなりの部分が表面に現れているのだ。
そうして次第にDanceはPellを追いつめていくのであるが、同時にDanceの夫を失って1人で2人の子供を育てる姿も描かれており、そんな人間らしさがRincoln Rhymeのシリーズとは違って共感できるかもしれない。
やや結末は予想のついた部分もあったが全体的に無難な出来である。ただ、Danceのもつ技術の特異性で読者を引きつけられるのはおそらく一作目だけで、2作目、3作目と続くなかでどのようにシリーズを魅力的なものにしていくのかというのが、個人的には気になるところである。

「Shallow Graves」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
映画のロケ地を探してPellamがMartyとたどり着いたのはClearyという田舎町。しかしその街に滞在している最中に、Martyが不可解な死を遂げる。PellamはMartyの死の真相を暴こうと決意する。
田舎町で退屈な生活を送っていた人々が、都会からやってきた映画関係者のPellamが来た事で、警戒したり、期待したりする様子が描かれている。きっと、若い頃は都会に出て、何かのきっかけで田舎に戻ってきて、現状に不満をいいながらも年を取っていく。そんな流れは日本もアメリカも同じなのだろう。アメリカの文化のある一面を知るという意味では悪くないかもしれない。
Jeffery Deaverの初期の作品で、現在のRincoln Rhymeシリーズにあるようなスピード感は読者を引き込むような魅力は残念ながら感じられない。

「Pretty Little Liars #2: Flawless」Sara Shepard

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
行方不明だったAliが遺体となって発見され、葬儀で一緒になったAria、Hanna、Emily、Spencer。4人はそこでようやく、4人ともAと名乗る人物から脅迫めいたメールを受け取っていた事を知る。誰もがAliをAだと思っていたが、Aliは死んでいたという事実が分かった今、再び疑心暗鬼が始まる。
前作同様Aria、Hanna、Emily、Spencerの4人に視点を展開して進んでいく。前作から呪いの言葉のようにそれぞれが口にしていた「Jenna thing」の内容も本作品で明らかになる。それはJennaとTobyという近所に住む兄妹に関する出来事だった。ある晩のAliのいたずらによってJennaは失明することになったが、翌日にはJennaの兄のTobyがその罪を被ったのである。一体死んだAliはTobyにあの夜何を言ったのか。
そして同時に4人それぞれの日常が展開していく。1作目ではなかなか理解が、登場人物の個性を認識していなかったが2作目となると次第にそれぞれの個性を理解していくのを感じる。Hannaは、父親が再婚しようとしている先には美人で同年代のKateがいるために、自らのルックスにコンプレックスを持っている。姉の恋人を奪う事になったSpencerは家族との関係を悪化させていく。AriaはHannaの元恋人のSeanと接近していく。そしてEmilyはTobyと近づいていくのである。
まだまだシリーズ序盤らしいが、少しずつ物語が面白くなっていくのを感じる。

「The Lock Artist」Steve Hamilton

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年バリー賞長編賞受賞作品。2011年エドガー賞受賞作品。

幼い頃のできごとによって話す事をしなくなったMikeだが、2つの才能を持っていた。一つは絵を描く事、そしてもう一つはどんな鍵でも開けてしまうこと。そんなMikeは金庫破りになっていた。

最近よく見られる手法ではあるが、本作品もある程度のときを隔てた2つの時間を交互に描いていく。片方はまだ学生のMikeを描き、話さないがゆえに周囲の人々から孤立していながらも、その才能で少しずつ自らの存在感を示していく。もう一方では、すでに金庫破りとして仕事を受けて、犯罪者たちに加わって行動する。物語を読み進めるに従ってこの2つの時間の間の出来事が少しずつ埋まっていく。
金庫破りを描いているので、Mikeが金庫を開ける際の描写がやはり新鮮である。そもそもダイヤル錠がどのような仕組みになっているのか、どれほどの人が理解しているのだろうか。軽くでもダイヤル錠の仕組みを知ってから読むともった楽しめるかもしれない。
Mike自身もなりたくて金庫破りになったわけではなく、その過程にはいくつかの運命的出会いがある。その一つが、Mikeと同じように絵を描く事を得意とするAmeliaとの出会いである。Ameliaと話すことのできないMikeは絵でお互いの意思を伝える。小説ゆえに、そんな絵による会話が文字でしか見えないのが残念であるが印象的なシーンのひとつである。
さて、仕事中でもかたくなに話そうとしないMikeの言動から、「幼い頃何があったのか」「なぜ彼は話せないのか」という疑問が読み進めるうちにわいてくるだろう。そんな好奇心が読者の心を物語を最後まで引っ張っていくのである。
しだいに打ち解け心を許し合うMikeとAmeliaだが幼い頃のできごとを話そうとしないMikeの言動もAmeliaの心にブレーキをかける。また、Mike自身も金庫破りという仕事ゆえに次第に危険な出来事に巻き込まれるようになる。
悲しくも温かい物語。

「Pretty Little Liars」Sara Shepard

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女性から見ても美しく魅力的なAlisonを中心として集まった仲良しの女子5人組、しかしある夜を境いにAlisonは行方不明になり、それから3年が経って残りの4人Aria、Hanna、Spencer、Emilyもそれぞれ少しずつ疎遠になり、それぞれ新しい友人や生活を見つけて別々の日々を送るようになっていた。
日本で言うと中学生から高校生にあたる年代なので、彼女たちの興味の対象はもちろん勉学だけでなく、部活動や女友達や恋人やパーティなど。そんななか、4人はそれぞれ実はAlisonと個別に他の人に知られたくない秘密を共有していた。そのためにAlisonの失踪を嘆きはすれど、どこかで、これで秘密が公になることはない、と安堵する思いも持っている。そんな微妙な心のうちが面白い。
そんななかAという名乗る人物からそれぞれのもとに、Alisonしか知り得ない内容のメールが届き、それぞれがAlisonの影におびえ始めるのである。これは誰かのいたずらなのか、それともAlisonはどこかで生きているのか、と。
そんな物語の進行とは別に、彼女たちの興味のあるブランドや、食べるものなど、アメリカの生活に根付いているだろうものや表現がたくさん出てくるのが個人的にうれしい。「ビバリーヒルズ青春白書」や「The O.C.」を小説で楽しめる感じである。
残念ながら本作品は物語の本当にプロローグに過ぎないという事が読み終わってわかる。多くのいくつかの謎を残して続編に引き継がれてしまうのだ。急がずに読み続けていきたいと思う。

「Twilight (The Twilight Saga)」Stephenie Meyer

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
家庭の都合からワシントン州のForksに引っ越した高校生のBellaはそこで父親との新たな生活を始める事となる。しかし、新しい高校でBellaは他からは距離を置いているグループと出会い、次第にそのなかの一人Edwardに惹かれていく。
映画にもなった有名な物語。すでに映画を第3作まで見てしまったため、どうしても映画の印象が拭いきれないが、聞くところによると、小説が非常に美しくまとめられているということだったので読む事にした。
今更説明するまでもないが、本作品は人間と吸血鬼との恋愛物語。第1弾の本作品は基本的にはBellaとEdwardが惹かれ合い、お互いの生き方考え方の理解を深めていく様子が主に描かれているため、あまり大きな展開はない。続編に対する下準備という意味で読むべきだろう。
強いて言うなら吸血鬼という生き方に憧れるBellaの気持ちが巧く伝わってくるような描き方がされている気がする。BellaとEdwardの会話のシーンが多いので、若干退屈するかもしれない。