「Life in Motion: An Unlikely Ballerina」Misty Copeland

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
バレエダンサーであるミスティ・コープランドのこれまでの人生を描く。
バレエというと、裕福な家庭の女の子達がするものというイメージがあるが、著者であるミスティはどちらかというとかなり貧しい家庭の生まれである。それどころかMistyの母は何度も結婚と離婚を繰り返したため、強大も別々の父親を持ち、たびたび引っ越しを繰り返し、モーテルに住む事まであり、自分の部屋どころか自分の寝床を確保することさえ難しいような子供時代を過ごしたというから驚きである。
しかし、才能のある人間は才能を見つけて育てる人間を呼び寄せるのか、それともそんな人間に恵まれたから才能が開花したのか、いずれにしても、成功者の周囲には必ず鍵となる人物がいるものだ。バレエ教室を経営するCindyがまさにMistyにとってそんな人間となる。遅くにバレエを始めたMistyの才能に早くから注目し、教室まで遠くて通う事ができないMistyの送り迎えをするだけでなく、Copeland家がモーテルに住み始めたのを機に、Mistyを引き取って一緒に生活する事になる。そしてバレエを教えるだけでなく、その家庭事情ゆえに引っ込み思案で自らの意見を言うことをあまりしなかったMistyに繰り返し質問をして、本人の自我を育む事となったのである。
また、才能あふれるMistyだが、黒人ということで、未だにアメリカのバレエ界に根付く人種差別に何度も遭遇する事となる。しかし、過去の黒人バレリーナ達が自分に道を開いてくれたという信念と、自らも次の世代の同じような境遇の人々へバレエの世界を開くという姿勢で少しずつバレリーナとして成功していく。Mistyのバレエに対する姿勢はとても刺激となる。彼女の姿勢はまさに完璧主義者であり、目の前にあるモノを突き詰め、毎日時間を費やすことによって、人を感動させるような技術身に付くということを改めて教えられた気がする。

ステージでは照明がバランスと重心に影響を及ぼし、空気を暖め、それがトゥシューズを少し柔らかくする。衣装の重さや動きにくさはダンサーの動きに影響を与える。

「Naked Statistics: Stripping the Dread from the Data」Charles Wheelan

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
統計が世の中に役立てられる箇所が溢れているかを語る。
情報をしっかりと正確に把握するためには、その情報の裏に潜む意図を見抜く能力も磨かなければならない。本書では多くの例をあげているが、なかでも印象的だったのがとある2つの携帯電話会社AT&TとVerisonの広告である。AT&Tが「アメリカ人口の97%をカバーしている」とそのネットワークの広さをアピールしたのに対して、VersionはAT&Tの地域カバー率の低さを示して対抗したのである。確かに数字だけ見ると97%というのは高い数字に見えるが、携帯電話という商品を考えると、人が集中している大都市だけで使えても便利とは言えないだろう。数字以外のものを見る目を養う事が大切なのだ。
著者は多くの例を交えながら、統計の基本的なことから語っていく。例えば標準偏差やばらつきなど、言葉だけは知っていた言葉についても、それらの言葉の実際に示す意味が理解できるようにだろう。インターネットを経由して多くの情報にアクセスできる今、標準偏差やばらつきな、平均値や中央値などは、すぐに計算できるようにしておきたい。
本書を読んで感じるのは、物事の真偽を統計的に判断することは本当に難しいということだ。素人がその辺の数値から出してきたグラフにはまず疑いを持ってみるようにしたほうがいいかもしれない。素人どころか専門家が過去何度もそのような大きな統計的誤解を招いている例を本書ではいくつも紹介している。
サンプリング一つとっても、偏りのないサンプリング手法がどれほど大切で、それがどれほど難しいかがわかるだろう。例えば、無作為な電話によるアンケートを行うとしても、何も考えずに行えば回答者は電話に出やすい人間や家にいる時間の長い人間に偏ってしまう。著者が言うには、携帯電話の出現がさらにそれを難しくしたのだそうだ。
また、警官の人数と犯罪数の因果関係を証明しようとしても、犯罪が多いから警官を増やした、という事実もあるため、僕らが思っているほど数値だけで簡単に証明できるわけではないのである。
冗長に感じる部分もいくつかあったが統計に関しては間違いなく理解を深められる。本書を読めば、世の中のデータの裏側や、落とし穴が見えてくるだろう。

「An Incomplete Revenge」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ある田舎町の不動産の購入を考えているJames Comptonはその周辺で起きている不審火を懸念して、Maisieにその物件の調査を依頼する。そこは毎年都会から多くの人がHopの栽培に訪れ、ジプシー達も住む、地元民とそれ以外の人との不和を抱えた町だった。
Maisie Dobbsシリーズの第5弾である。ロンドンに拠点をすえて活動する女性探偵Maisieを描いており、毎回物語のなかで戦争の悲惨さを訴える点が本シリーズの特徴である。今回は田舎町を舞台としており、この町も多くの若者を戦争で失った悲しい町である。この町で、毎年同じ時期に発生する不審火をMaisieが調査することによって、少しずつ町の抱える秘密が明らかになっていくのである。
興味深いのは、Maisieが町のはずれに住んでいるジプシーたちと関わりを持つ点である。やがてMaisieの祖母も同じジプシーの出であることが明らかになる。ジプシー達から「救世主」とされたMaisie。1人のジプシーの奏でる美しい音色に触れて、Maisie自身も新たな方向に感覚を育んでいくのである。
また、植物人間となってしまったかつての恋人で死期が迫っていることを知り、ずっと避けていたその母親との再会を決意する事になる。5作目となる本作品だが、いまだに物語が力は健在である。本書が第1弾以外、日本語化されていないのが本当に残念である。

「Messgenger of Truth」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
展覧会の準備中に組み立ててあった足場から落ちて亡くなった期待の芸術家Nick。双子の姉であるGeorginaがその死に他殺の疑いを抱いて、Maisieに調査を依頼する。
Maisie Dobbsシリーズの第4弾。探偵物語というだけではもはやありふれたものになってしまうだろう今、本シリーズは戦争の悲惨さをその物語のなかで常に訴える点が面白い。本作品はある芸術家Nickの死の謎を解くことが調査の目的であるが、彼は戦争から戻ってきた後にその悲惨な体験を絵に描くことで芸術家として開花する事となったし、依頼主でありNickの双子の姉であるGeorginaは文章を描くことに才能を持ち、戦争を描写することで評価をあげたのだった。また、NickとGeorginaの姉であるNollyも夫を戦争で失っているという過去を持つ。そして、Maisieが少しずつ真実に近づいていくに従って、各々が戦時中に受けたつらい経験や過去、知りたくなかった出来事が見えてくる事になる。
また、調査だけでなくMaisieのアシスタントのBillyの生活や、Maisieに想いを寄せる医者Andrew Deneとの関係にも変化が起きる。心に傷を抱えながらもそれぞれが少しずつ人生を歩んでいく様子が印象的である。また、一方で、ドイツでヒトラーが勢いを増しているという。今後どのように展開していくのだろうか。

「Indemnity Only」Sara Paretsky

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
有名銀行の幹部と名乗る男からその息子の恋人を探して欲しいという依頼を受ける。しかし、調査を始めたV.I. Warshwskiが最初に見つけたのはその息子の死体であった。
V.I. Warshwskiシリーズの第1弾。V.I. Warshwskiという名前から日本人の僕にはそれが男性だか女性だか判断できなかったのだが、女性である。
行方不明の若い女性の捜索という簡単な仕事のはずが、マフィアや巨大な組織犯罪と関わっていく事となる。シカゴを舞台としており、シカゴを本拠地とするメジャーリーグチームの動向など、アメリカ人の生活も伺える点が面白い。本書の事件はややありきたりではあるが今後どう物語が広がっていくのか、このシリーズをもう少し読んで善し悪しを判断してみたいと思った。

「A Mind for Numbers」Barbara Oakley

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
効果的に勉強するためにはどうすればいいのか。著者自身も学生時代は数学の能力をまったく伸ばす事が出来なかったが、軍隊に入ってロシア語を学び数学の必要性を感じてその方法に気付く。多くの例とともに効果的に学ぶ方法を語る。

数学や試験や言語だけでなく、学ぶというのは運動や楽器演奏などすべてに適応されるもので人生を生きていくうえで欠かせないもの。しかし、勉強しているけれども成績が上がらない、練習しているけれど上達しない、ということはたびたびある。誰もが1度は、●時間勉強したけどこの時間に意味があったのだろうか。と疑問に思うような時間を経験した事があるだろう。上達しない練習に時間をさくのであればその時間を他の事に費やした方がいいだろう。そういう意味では、人生を豊かに効率に過ごすために方法を本書は教えてくれると言える。

まず印象的なのは、Diffuse ModeFocus Modeの使い分けである。僕らは勉強するときに「集中する」ことを良いこととしているが、本書では、Diffuse Mode、つまり集中していない状態も同じように効果的に学ぶためには大切だと語る。もちろん集中していない状態が進歩を助けるのは、集中している時間に積み重ねたものがあってこそであるが、それによって集中していない時間にも脳が無意識下で情報を処理し続けるのだという。集中している時間と集中していない時間を適切に配置することで効率的に学ぶことができるのである。

また、「勉強した気になってしまう行動」や、「無駄な勉強」というのにも触れているので、知っておくと非常に役に立つだろう。例えば僕自身も過去やったことがあるのだが、蛍光ペンで教科書の重要な部分を塗っていくという方法。これは手を動かした事によって学んだ気になってしまうが実際にはほとんど効果がないのだそうだ。また、教科書を読んだだけでわかった気になるのもしばしば陥りがちな無駄な勉強法である。多くの教科書はそれぞれの章末に問題をつけているが、多くの人はこの重要性に気付いていない。本書では、必ず自分で問題を解いて自分の理解をテストすることの重要性を強調している。

その他にも、勉強を先延ばししてしまう人がとるべき対策方法や、多くの勉強に適用できそうな記憶方法についても触れている。向上心のある人には多いに役立つ内容と言える。

「Fluent in 3 Months」Benny Lewis

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多くの言語を話す著者が言語学習の方法や考え方を語る。
著者自身スペインにスペイン語を学びにいって半年以上経過しても何も話せなかったという経験を持つ。そんな著者が今では10言語以上を自在に操るというのだからその内容は言語学習者にとっては有益な物ばかりである。最近書かれた本なので、インターネットやスマートフォンを使って効果的に言語学習をするためのツールや方法がたくさん書かれている。
面白かったのは、インターネットのチャットを利用するという方法。もちろんそれぐらい誰でも思いつくのだが、著者が紹介するのはあえて女性の名前でログインするということ。そうすればいろんな男が話しかけてくる、というのである。これは学ぶ言語によらず世界共通なのだろう。
また、言語学習の方法だけでなく、言語学習者が陥りがちな考え方のワナについてもふれている。そもそも「流暢に話す」の定義は何か。母国語でできないことをその学習言語でやろうとしていないだろうか。「言語が話せる」とはどのレベルのことを言うのか。「訛り」がまったくなくなるのが理想なのか。
そして、多くの言語学習者がそれを諦める際に言う言い訳についても著者は一蹴している。「準備ができたらネイティブと話す」と言っていつまでも一人で勉強している人に対しては「準備ができる日など永遠に来ない」と。
言語学習や異文化交流など、改めてその意味を考えさせてくれる一冊。著者が引用しているいくつかの名言が印象的だった。

The best time to plant a tree is twenty years ago. The second best time is now.
The difference between a stumbling block and a stepping stone is how high you raise your foot.

「Talent Code」Daniel Coyle

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ブラジルはなぜ多くの有名なサッカー選手を長年にわたって排出するのか。ロシアの一つしか室内コートを持たないテニスクラブはなぜ世界で20位以内の女子テニス選手をアメリカ全体よりも多く生み出すのか。そんな問いかけとともに、著者は才能の育成のための方法を語る。

最初に著者が説明するのはDeep Practiceというもの。現在の持っている技術の及ぶぎりぎりの場所で練習を繰り返す事により、技術はもっとも効果的に伸びるのだという。様々な実例や過去の事実を交えてその内容を説明する。そして最初の問いかけ、ブラジルが有名なサッカー選手を生み出す理由にも触れる。その答えは、ブラジルがずっと強かったわけではなく、ペレの出現以降急激に力をつけたことや、昨今のブラジルの世界の舞台での失速を見事に説明してくれる。

また、後半では幼少期にどのように子供に接することが才能を育むために効果的なのかについても、いろいろな実例から説明している。才能というのはDeep Practiceに長い時間を費やす事によってもっとも効果的に伸ばす事ができる。つまり、子供達は、結果よりも努力の量を評価されてこそ長い時間を練習に費やそうとするのである。

本書で語られているのはスポーツや音楽の発展に関するものばかりだったが、Deep Practiceはあらゆる面で有効に見える。僕らは日常生活を送る中で、いろいろな技術を改善しようと努めているが、果たしてしっかりとDeep Practiceできているだろうか。そんなことを考えさせられる。また、子育てをしている人は子供への接し方を考えさせられるだろう。

「Leading at a Higher Level」Ken Blanchard

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
いくつかの企業を紹介しながら、リーダーシップのあるべき姿を説明する。

一般的な組織はピラミッド型で上に行けばいくほど決断できる部分が大きくなるが、理想の組織は顧客に近い下の人間ほど決断できる部分を大きくすることで、それぞれの社員もモチベーション高く効果的な組織を作る事ができるという。

真のリーダーは、そんな組織のために顧客に接する部下達に奉仕(serve)することが理想なのだと言う。どうしても組織は、部下は上司に奉仕(serve)する形になりがちだが、それが顧客よりも上司を重視してサービスやモチベーションの低下に繋がるのである。また、後半では組織に「変化」を起こすために行うべき事についても触れている。常に組織のなかの多数派である「一般社員」目線で考えことの重要性を教えてくれる。

残念ながら僕が今従事している業務に適用するのは難しそうだが、理想の組織を作りたくさせてくれる一冊。

「Pardonable Lies」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦時中ドイツ軍に撃ち落とされて死んだとされた息子。しかし妻は病気で死ぬ間際、息子は生きているはずだから探して欲しいと夫に依頼する。夫は妻との最後の約束を守るため、Maisieに息子が死んでいる事を確認するよう依頼する。
Maisie Dobbsシリーズの第3弾。終戦直後の混乱のヨーロッパを舞台に描く探偵物語で、いずれの物語も戦争中に人々が負った傷に深く関連して描かれる点が面白い。依頼によって戦争中に戦闘機のパイロットをしていた男の消息に迫る中、親友で兄3人を戦争で失ったPricillaからも長男のPeterがどこで死んだのか突き止めて欲しい、と依頼される。
僕らは普段、歴史上の事実からしか戦争というものを捉える事ができないが、本シリーズを読むと、戦争が終わって10年以上経過しても、人々の生活や心のなかに戦争の傷が残っている事を感じさせてくれる。
過去と向き合う親友を見て、Maisie自信も過去と向き合おうとする。戦争中に看護婦として働き、恋人を失った野戦病院の場所をもう一度訪れる事を決意するのだ。
ややできすぎな偶然と感じる部分もあったが、戦後の人々の苦しみを登場人物の感情や行動を通じて伝えてくれる一冊。

「One for the Money」Janet Evanovich

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
お金がなくて困ったStephanie Plumは法廷に現れない犯罪者を捕まえる仕事、Bounty Hunterをすることを決意する。最初のターゲットは殺人を犯して逃亡したもと警察官で、なんとStephanieの学生時代の知り合いの男Morelliだった。
ターゲットであるMorelliを追ううちに、逆にStephanieは窮地を救われることとなる。そして次第にMorelliとStephanieの間に妙な協力関係が生まれていく。
Stephanieが失敗を繰り返しながらも、少しずつBounty Hunterという仕事に慣れていく様子が面白い。Stephanieが住んでいる町が非常に狭くて、そこら中に知り合いや元同級生がいて、みんなが結婚相手を世話しようとしている点が、懐かしい温かさを感じさせる。Bounty Hunterという職業自体が日本では馴染みが薄いので、文化の違いが反映されているような気がする。そもそもなぜ日本にはBounty Hunterという職業が存在しないのだろう、と考えてしまう。
続編もあるようだが、Stephanieが成長する様子が見れるかもしれない。

「Mobile First」Luke Wroblewski

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
スマートフォンの普及によってWebの作り方は大きく変わった。著者はMobile Firstというコンセプトでその考え方を語る。
その考え方は、Mobileという限られたスペースに情報を入れようとするために、不要な情報や要素はすべて削ぎ落とす必要がある。その上で出来上がったMobile用のWebからPC用のWebを作成する際に、本当に役立つものだけを付け加える、という、まさにMobileサイトを中心とした考え方である。
面白いのは、冒頭で著者は言っている。

今までは日本人でもない限り誰もモバイルでWebを閲覧しようなどとはしなかった。

つまり、数年前まで日本はモバイルでのWeb閲覧という分野においては世界でも進んでいたのだ。にもかかわらず、海外のWeb情報サイトではそこらじゅうで目にする「Mobile First」という言葉、日本ではまったく聞かない。すでに世界から遅れをとっているということなのか、それとも単に文化の違いなのか。

「Beautiful Lies」Lisa Unger

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
車にひかれそうになった子供を助けたところを報道され、世間からの注目を浴びたRidleyだが、それを機にいろいろなことが起きるようになった。やがてそれは彼女自身の出生の秘密にまでおよんでいく。
本書は兄Aceと父と母の家庭に育った女性Ridleyの物語。自分の姿が報道されたあと、本当の父と名乗る人から手紙を受け取るのである。自らの出生に疑問をもつRidleyは少しずつ大きな陰謀に巻き込まれていく。実は自分は過去・・・とか、疾走したあの人が実は・・・、という流れの本が多くて読み終わってあまり時間が経たないうちに記憶から薄れてしまっている。
さて、本物語りでは、Ridleyの叔父が何年も前に行っていた福祉制度が物語の鍵となるのだが、昨今日本で議論になったことと非常に似ているため、いろいろ考えさせられる物があるだろう。子供を育てることができない母親に、「それが母親の責任」とその義務を強いて不幸な子供達を増やすのか、それとも子供を手放す自由を社会が受け入れ、子供達を育てる施設を整えるのか。
本書ではRidleyと同じように自分の出生に悩んで家を飛び出したAceもたびたび登場する。ドラッグから抜け出せなくなったAceの存在が日本とアメリカの文化の違いを際立たせているような気がする。
一度両親を、自分の本当の親じゃないかも、と思い始めたRidleyには過去のすべてのできごとが嘘っぽく見え始める。考えてみると、人は他の家庭がどのように子供に接するか、ほかの家庭の親と子供接し方が自分の家庭のそれとどのように異なるかというのは、本当に知る機会がないんだな、と考えさせられた。

「Tell No One」Harlan Coben

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Beckの妻Elizabethは8年前にが凶悪な犯罪者によって殺された。しかしある日匿名のメールを受け取り、8年経った妻の姿を目にする事となる。
匿名のメールによって妻の存在を知らされる、しかしそのことは誰にも話してはいけない、という読者を物語に引き込む手法としてはありきたりな流れである。それでもBeckに協力してくれる友人達が個性豊かで特にモデルのShaunaやBeckの妹のLindaなどは物語を現代風に印象づけている。
特に文化や歴史的な事実と物語が絡んでいるわけでもないので、気楽に読む事ができるだろう。

「The Pillars of the Earth」Ken Follett

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現代と違って何年もかかる建築の過程で周囲の政治も変われば建築家も財政状況も変わる。1つの大聖堂の建築に関わる人々の物語。
物語は大聖堂の建築に関わりたいと願う建築家のTomとその家族がとある修道院を訪れてそこでPhilipと出会う事から始まる。やがてPhilippは不幸なできごとによって焼け落ちてしまった教会をTomの力で再建する事を決意する。物語の序盤はそんなTomの恋愛や家族のことやPhilipの苦悩で占められる。
そして、中盤からは様々な登場人物が生き生きと躍動してくる。一人はTomの2番目の妻Ellenの息子Jackであり、彼は彫刻に非凡な才能を見せ、やがて大聖堂の建築を担うようになる。また領主の娘に生まれたAlienaはWilliamの策略によって、その地を弟Richardと追われるが、自分たちの地位を取り戻す事を決意し強く生きていく。
大きな建物も2,3年で、気がついたら出来上がってしまっている現代の感覚だとなかなか想像できないが、政治の不安定な当時は、大きな建物を建築するためには相当の月日が必要な事がこの物語から見えてくる。次回、海外旅行で建築物を見る際はまた違った視点でみることができるだろう。
壮大な物語で読み終わるのにかなり時間がかかった。続編もあるらしいのでぜひ読んでみたい。

「Birds of a Feather」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Maisie Dobbsは食料品店のチェーンのオーナーから、家出をした娘を捜して欲しいという依頼を受ける。しかし、その消息をたどるうちに、その娘の友人の何人かが死亡していることに気づく。
Maisie Dobbsのシリーズの第2弾である。このシリーズは舞台を終戦直後に設定しており、内容も戦争体験に関わる部分が多い事は第1作「Maisie Dobbs」の感想で触れた。本作品でもその内容は単純な家出人の捜査ではなく、やがて戦時中の人々の行いにつながっていく。
また捜査とは別に、Maisieの人間関係にも問題が生じる。特に唯一の肉親である父親の素っ気ない態度に悩むのである。その感覚は父親が入院した事によってその想いはさらに加速する。そしてMaisieの元で一緒に働くBillyの振る舞いにも変化が現れるのである。
MaisieのメンターであるMauriceの存在は本作品でも大きいが、医師でありMauriceの友人のDeneの言葉もまた興味深い。

聞いた感じでは、あなたの父親はきっとすぐに回復することだろう。彼はすでに事実を受け入れて、回復した先にある未来を想像しているのだから。すでに自分が進むべきステップを意識しているのだから。

ただの探偵物語では終わらない深さがある。引き続き続編を楽しみたい。

「Maisie Dobbs」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
終戦からまだまもないなか、Maisie Dobbsはロンドンで探偵事務所を始める。浮気調査の過程で、戦争で体に傷を負った人々が集団生活をしている施設に行き当たる。
体裁としては私立探偵が依頼された内容を解決する、というよくある形をとっているがシリーズ第一弾となる本作品では、Maisiの幼い頃の経験と、その後の従軍看護師として戦地に赴き、恋愛や友人達の悲劇と出会う様子が描かれている。むしろ謎を解明していく流れよりも、Maisieの過去の物語の方が本書においては重要な役割を担っているような気がする。
また、依頼された内容も、ある男性の妻の浮気調査でありながら、最終的に行き着いた先は戦争によって体に傷を負った元兵士達が集団生活を送る施設、というように戦争の悲劇に関することが多くを占めている。そのため、ただの現代を舞台とした事件解決物語とは違った雰囲気を持っている。
Maisieの考えのなかで重要なのは、MaisieのメンターであるMauriceからの教えである。Maisieは迷ったとき常にその考え方に戻って考え直すのである。そんなMauriceの言葉はどれも深く印象的である。

真実は抑圧されればされるほど強力になり、やがてわずかなひびでその壁は崩れ世に出る。

そしてラストはMaisieの過去の一部が明らかになる。シリーズ作品なのでぜひ続編も読んでみたい。

「The Light Between Oceans」M L Stedman

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Tomとその妻Isabelはオーストラリアの無人島で灯台の光を維持することを仕事としていた。ある日その島にボートが流れ着く。そのボートにはすでに息を引き取った男と赤子が乗っていた。
戦争でのつらい経験を引きずって生きていたTomは、人のいない島で灯台の光を管理するという仕事を選ぶ。そんな折に出会ったIsabelと結婚し、2人で家族を作ろうとするがIsabelは3人の子供を流産してしまうのだ。そして、そんな失意の2人のもとに赤子を乗せたボートが流れ着く。
戦争中の自らの行いによって良心の呵責に苦しむTom。そんなTomの過去に対する言動や、自らの正義感や信念を反映した生き方が印象的である。
1920年代を舞台にした物語という事でおそらく今とはかなり異なるのだろうが、灯台を管理するという仕事やその役割、そして灯台そのものについても興味をかき立ててくれる。また、オーストラリアを舞台としている事からその時代の人々の言動に触れるうちに、オーストラリアのこの時代の歴史をほとんど知らない事に気づかされた。

「A Prisoner of Birth」Jeffrey Archer

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
結婚目前だったDannyは親友のBernieを殺した罪を着せられて終身刑を言い渡される。Dannyの刑務所生活と真犯人への復讐の計画が始まる。
もともと読み書きのできないDannyは刑務所で同じ部屋になったNickによって多方面の教育を受けてその才能を開花させていく。そして、偶然の出来事によって刑務所の外へ出る機会を得たDannyは、真犯人グループへの復讐を始めるのだ。
やや出来過ぎの感もあるが、全体的には目覚ましく動き続ける物語は読者を飽きさせる事はないだろう。また、物語自体が、ロンドンからスコットランド、スイスのジュネーブなど、いろんな場所へ展開される点も面白い。イギリス人でもスコットランドの発音に戸惑う場面など、日本にいてはわからない現地の人々の感覚が見えてくる。
Jeffrey Archerの物語は法廷の場面が多いという印象があるが、本書も同様に緊張感あふれる法廷シーンを見せてくれる。
個人的には物語の終わり方が好きだ。もちろんここで詳しく書く事ができないのが読んでもらえればこの余韻に浸れる終わり方をわかってもらえるかもしれない。
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「Song of Susannah」Stephen King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Callaの町でWolves達との勝利にわくRoland一行だが、妊娠したSussannahが行方をくらました。Roland、Eddie、Jakeそして神父のCallahanがSusannahを追ってニューヨークに向かう。
多重人格者のSusannahが行方をくらましたことで、それぞれが別の世界へのドアをくぐる。EddieとRolandは1977年のメーン州、JakeとCallahanは1999年のニューヨークだった。それぞれの登場人物が別々に行動するため、今までのようなそれぞれの個性が団結した展開を見る事はできないが、それぞれまた違った側面が見えてくる。
子供を産んで育てようとするSusannahの中の人格Miaと、後から追ってくる救いを待つために少しでも時間を延ばそうとするSusannah。2人が1つの体のなかで駆け引きを繰り返すのが面白い。そしてそんななかにもう1つの人格Odettaが割り込んでいくのだ。
一方で、鍵となる駐車場を管理している本屋のオーナーを追うEddieとRolandは、やがてその近所にある小説家が住んでいることを知る。その小説家はStephen Kingというそうだ。現実世界がKingの小説のなかに取り込まれたのか、それともRolandやEddieが現実世界にでてきたのか、Stephen Kingのそんな試みが見られるのが本書の一番の山場かもしれない。
長く続いたシリーズの最後に繋がる一冊。これまでのシリーズと比較すると面白さとしてはやや不足しているかもしれないが、その後の展開には必要な一冊なのだろう。