オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インドから家庭教師としてイギリスに移住してきた女性が狙撃された。誰もが羨むような美しい女性だったのも関わらず、なぜ殺されなければならなかったのか。Maisieはその女性の兄の依頼によってその真実を調査する。
調査の過程でMaisieはその女性Ushaが誰からも好かれるような女性だったことを知る。誰からも好かれるような女性なら、殺人の動機は一体どんなものだろう。と思うところだが、本書では「誰もが羨むような眩しい女性は、いるだけで妬みを買う」という視点にも触れている。人間の醜い部分を見せてくれるようで興味深い。
また、事件の解決へと調査をすすめるなかで、Maisieの大きな決断をする。結婚を求めている交際相手Jamesとの関係に区切りをつけるため、またメンターであり亡くなったMauriceの教えに習って、Maisie1人で旅に出ることを決意するのである。事件の解決と同じぐらい、Maisieのこの決断が本書の焦点だと感じた。そして、そのために事務所を閉めて、Maisieと共に働いていたSandraとBillyもそれぞれの道を進むこととなるのである。
最終回のような一冊だが、まだ続編はあるようだ。
カテゴリー: 英語
「Steal like an Artist」Austin Kleon
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アートを作る上での心構えを著者の経験から語る。
タイトルにもあるようにアートを作りたければ「アイデアを盗め」と堂々と語っている。確かに僕自身もデザインに関わってきて思うことだが、上達の近道はいいデザインを真似ることである。「それは盗作ではないのか?」と思う人もいるだろう。そんな問いに本書はこんな風に答えてくれる。
アートに限らず、スポーツでも音楽でも、いいものを真似ようとして努力する中で、それでもその人の体格や能力でどうしても真似できない部分に出会う。そこを自分なりに工夫した結果、オリジナルが生まれるのだという。
ちなみに良い盗み方と悪い盗み方をこう書いている。良い盗み方は多くのものを盗むこと、悪い盗み方は一つのものを盗むこと。納得がいく部分があるのではないだろうか。
また、著者は仕事以外に趣味を持つことを推奨している。一見関係ないように見えることでも、趣味を持つことは何かしらいい影響を与えてくれるのだと。たしかに、いい仕事をする人は何かしらの趣味にも打ち込んでいるような気がする。
何か新しいものを創り出すことを考えた時、人の真似をするのはどこか後ろめたいもの。でも世の中の創造的なものはみんなそういうステップを踏んで生み出されたのだと、堂々と語ってくれる点がなんとも清々しい。
「The Day of Jackal」Frederick Forsyth
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1963年フランス、「アルジェリアは永遠にフランス」をもっtーに活動する秘密軍組織OASは大統領シャルル・ド・ゴールの暗殺を企てる。すでに多くの幹部が警察に目をつけられている中、暗殺を実現するための唯一の方法が、外国人の殺し屋を雇うことだった。その殺し屋のコードネームこそジャッカルなのである。
空港の名前にもなっているシャルル・ド・ゴールだが、実際にはその在任中にどのような政策を行ったのかをほとんど知らなかった。また、アルジェリアがもともとはフランス領だったことは漠然とした知識としては持っていながらも、どのように独立したかをこれまで気にかけたこともなかった。
本書は暗殺を依頼されたジャッカルが暗殺のために入念な準備をする様子と、その暗殺を防ぐ任務を課せられたClaude Labelが、わずかな手がかりを元にすこじずつジャッカルを追い詰めていく様子が描かれている。いくつものパスポートを用意し、いくつもの変装を用意して厳重に警戒されているであろうド・ゴールに近づくための準備をするジャッカルも、もた、外見的な特徴しかわからないじょうたいで、海外の警察のつながりをもとに暗殺者を絞り込んでいくLabelも、まるで本当に起こった真実を描写しているようで、とても1971年に書かれた小説とは思えない。
概要として語ってしまうと、「暗殺者とそれを捕まえる刑事」となってしまうが、その描写の緻密さは一読の価値ありである。
1954年から1962年にかけて行われたフランスの支配に対するアルジェリアの独立戦争。(Wikipedia「アルジェリア戦争」)
「A Win Without Pitching Manifesto」Blair Enns
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザイナーとして他のデザイナーやデザイン企業と差別化を図る方法について語る。
本書で繰り返し主張していることはタイトルにあるように「Win Without Pitching Manifesto」である。クリエイティブな業界で仕事をする人は、仕事を得るためにコンペに参加して、無料で提案内容を披露したり、値段を安くすることで、勝負するデザイナーや企業を見たことがあるだろう。ひょっとしたら自分自身がそのようにして仕事を取ってきているかもしれない。
しかし、値段を安くすることをしている限り、クライアントを完全に満足する仕事はできないというのである。そして、一度値段を安くすると、その負のスパイラルから永遠に抜けられないというのだ。「楽しい仕事をしているから、忙しくても満足」では続かない。本書はそんなクリエイティブ業界のよくある状況から抜け出すための次の12の話を語っている。
We Will Replace Presentations With Conversations
We Will Diagnose Before We Prescribe
We Will Rethink What It Means to Sell
We Will Do With Words What We Used to Do With Paper
We Will Be Selective
We Will Build Expertise Rapidly
We Will Not Solve Problems Before We Are Paid
We Will Address Issues of Money Early
We Will Refuse to Work at a Loss
We Will Charge More
We Will Hold Our Heads High
印象的だったのは、コンペでプレゼンをすることを、医者に例えてさとしている点である。「医者は診察をしないうちに薬を処方したりしない」と。つまり、クライアントの問題点をしっかり調査しないうちに提案をするのは間違っているというのである。
読み終えて思ったことだが、本書はクリエイティブな仕事の仕方について書いているが、自らの価値を少しずつ高めていく考え方としては、必ずしも仕事に限ったことではなく、人間関係にも適用できるかもしれないと感じた。
「The Skin Collector」Jeffery Deaver
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2016年このミステリーがすごい!海外編第1位。
ニューヨークに古くから残る地下道。そこから侵入し人を殺害し、その肌にタトゥーを掘るSkin CollectorにRhymeが挑む。
今回の犯人は本シリーズの最初の作品Bone Collectorの犯人に強く影響を受けているようで、Skin Collectorと呼ばれている。本書のなかでもBone Collectorの内容が何ども触れられているが、正直もう3,4年も前に読んだ話なのでほとんど覚えていないのが残念である。Bone Collectorの物語のとき少女だったPamとAmeliaの関係が本書では1つの焦点となっている。立派に大人になって巣立っていこうとするPamにAmeliaは嫉妬し、その事実を素直に受け入れられないのである。
また、一方でWatch MakerとRhymeのやり取りも前作より続いている。信じられないことに刑務所で亡くなったWatch Makerであるが、その共犯者を暴き出すためにその葬儀に身分を隠してPulaskiを送り込むのである。
正直ややマンネリ感が出てきた。捜査の手法が変わらないのは仕方がないとはいえ、物語自体に新しさが感じられなくなってきた。これから本シリーズを読もうと思ってい人には第3作、4作の「Stone Monky」「Vanished Man」あたりがもっとも面白いと伝えたい。それ以上は特に時間を割いて読む必要はない気がしてきた。
日系アメリカ人建築家。ワシントン州シアトル出身の日系二世。ニューヨークの世界貿易センタービルの設計者。(Wikipedia「ミノル・ヤマサキ」)
ヘイマーケット事件
1886年5月4日にアメリカ合衆国シカゴ市で発生した暴動。後に国際的なメーデーが創設されるきっかけとなった事件。(Wikipedia「ヘイマーケット事件」)
「The Kill Room」Jeffery Deaver
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
反アメリカ運動家のRobert Morenoが取材を受けている最中に銃撃により殺害された。殺害がアメリカ政府の内部による犯行ではないかという疑いのもの、調査の依頼がLincoln Rhymeのもとに舞い込む。
犯罪者が床や壁、被害者などと接触した際には、必ず何かの物質交換が起こる。したがって犯罪現場や被害者に残された粒子のような細かい物質が、犯人を特定する手がかりとなるのである。そんな、すでに本シリーズを読み続けている人にとってはおなじみの考え方に従って捜査は進んでいく。
まず面白いのは、今回の犯罪がアメリカ政府の内部の犯行であることが疑われるということである。そして被害者が、反アメリカ主義の運動をしているという点で、すでに現実社会の複雑な善と悪の絡み合いが見えてくるのだろうと思わせてくれる。
アメリカ政府の内部犯行であることが疑われるため、Rhyme、Sachs、Pulaskiなどは捜査関係者を慎重に選びながら進めることとなる。そんななか調査の結果を報告するためにいる地方検事のNance Laurelの存在も新しく面白い。特にSachsは同じ女性としてLaurelのやり方に反発を覚えながら捜査にかかわるが、やがてLaurelの本当の考え方を知るに従って少しずつ打ち解けていくのである。
また、犯罪に関わる元兵士のパイロットの心情描写や、料理に強烈なこだわりを見せる犯人の描写が面白い。本シリーズは今回に限らず、犯人たちの特異な執着をその目線で描いてくれる点が非常に魅力的である。それはやがて、アフガニスタンやイラクで起こっている兵士たちの問題など、普段目を向けることのない物事に新たな関心をもたらしてくれるだろう。
「A Game of Thrones(A Song of Ice and Fire)」George R. R. Martin
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
7つの王国を舞台としたファンタジー。
最初はそれぞれの土地の名前と、人の名前を覚えるので精一杯だろう。北の地Winterfellに構えるのはEddard StarkとCatelyn Tully Starkの夫婦から成るStark家である。その息子達Jon, Robb, Sansa, Arya, Brandon, Rickonが物語の中心となる。息子達6人はある日Jonが見つけた6匹の狼をそれぞれが1匹ずつ飼うのである。Stark家の象徴でもある狼は彼らの良き友人となる。
物語は7つの王国の支配者であるRobert Baratheonに王の片腕(the Hand of the King)にEddard Starkが指名されたことから動き出す。Eddardは9歳のAryaと11歳のSansaの2人の娘を連れて南のKing’s Landingへ向かって旅立つが、一方でEddardの前のKing’s Handは暗殺されたという噂を耳にする。一方でWinterfellに残ったStark家のなかで、Eddardと別の女性の間で生まれたJonはStark家を継ぐ資格がないため、Winterfellの北にある「The Great Hall」に向かう。The Great Hallの北では不可思議なことが起き始める。
少しずつ名前を覚えてくると全体が見えてくる。名前や土地の名前の多さに圧倒されるのは最初だけで、位置関係がわかってくると、それぞれの家の持つ紋章にある動物が意味を持っている事に気付くだろう。
また、物語が進むに連れて過去の歴史も少しずつ明らかになっていく。現在の統治者であるRobert Baratheonは前の王Aerys Targaryenを倒して王位に就いたという。そしてその際、僻地へ逃げたTargaryenの兄妹ViserysとDaenerysの様子も本作品では描かれている。最初は兄Viserysの言われるがまま行動していたDaenerysが少しずつたくましくなっていく姿が先の展開を楽しみにさせてくれる。
やがて明らかになるLannister家の秘密、それを暴こうとしたEddardとその娘達は大きな動乱に巻き込まれて行くのである。
大作とも言える本作品を読み終えてもまだ物語は始まったばかりといった印象である。忘れないうちに続編に取り組みたい。
「Elegy for Eddie」Jacqueline Winspear
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
馬を操る才能を持った知恵遅れの男性Eddieが職場の事故で亡くなった。他殺の可能性を信じる友人達がMaisieに真相の調査を依頼する。やがてMaisieはその事件の裏にある大きな流れに気付くこととなる。
このシリーズに共通している事だが、事件の解決への過程のなかで、Maisie自身が抱える内面の問題や、当時の世の中の流れが見えてくる点が非常に魅力的である。今回はBillyが捜査の過程で襲われ入院した事を発端として、Billyの妻で精神的に不安定なDoreenがMasieを責めることによってMaisieは自分の行動を顧みる。
実際、Maisieは長年のメンターだったMauriceが残した遺産を持て余し、また、貧しい世の中において自分が豊かな財産を持っていることへの罪悪感からか、社員として働くBillyの家族や家庭、夫を事故で失ったSandraの学費を経済的に支援するのである。親友であるPrisillaにも「それが本当に正しい事なの?」と示唆されて改めて自分のやっていることを考えるのである。世の中のために何かしたいと感じながらも、どのようにそれを行うべきか悩む様子は非常に共感できる。
また恋人Jamesとの関係も一つの局面を迎える。結婚して欲しいJamesと、未だに自分が人生で何を求めているかをわかりかねているMaisieの関係が少しずつぎくしゃくしていくのである。そして調査を進めるなかで少しずつ世の中の大きな流れに気付いて行く。
一方ドイツでは密かに弾薬や若者達の飛行訓練が加速しているという。愛する人たちを守るために戦争を避けたいと思うMaisie。また一方では、愛する人たちを守るために戦争に備えようとする男達がいるなかで、世の中が確実に再び戦争に向かうことを知りながらもどうしようもできない無力感を感じるのである。
「Irene」Pierre Lemaitre
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
パリで2人の女性が惨殺される事件が起こった。Camilleはチームのメンバーと協力してその事件解決に務める。
日本でも「その女アレックス」で有名になったシリーズの第1弾である。ある猟奇殺人を発端としてやがてCamilleは過去に起こった奇妙な殺人事件のいくつかも含めて、ある小説にある殺害シーンと酷似していることに気付くのである。殺人者は何を基準にそのシーンを選んでいるのか、そしてどんな欲望を満たすためにそのような行為を繰り返しているのか、大学の教授や、本屋の店主などの協力を得て、殺人の現場に共通するシーンを描写している本がないか突き止めて行く。
やはり、小説に描かれた殺人シーンに似せて殺人が行われる、というのが本書の際立つ点だろう。見方を変えれば、すでに残酷な殺人シーンは世界中で書き尽くされている、と言う事もできる。本書で触れられているその殺人シーンを描いた小説が実在するものなのか非常に興味がある。
さて、物語の全体像は猟奇殺人鬼を追いつめて行く刑事の物語、とまとめることができるかもしれないが、実際には刑事Camilleの幼少期や恋人との時間や心の内を多く描写されている点も面白い。特に、興味深いのがCamilleは女性も見下ろさなければならないほど背の低い人間であるということだ。小説のような見た目を重視しない媒体で、なぜ主人公をそのような設定にしたのか不思議である。また、Camilleの母親が画家だったため、Camilleは一時期本気で画家になるために絵画の勉強に打ち込んだという、そんな経歴が事件解決にどのように関連して行くのか考えながら読み進めるのも面白いだろう。
またCamilleと妻Ireneとの関係も細かく描かれており、Ireneが妊娠した事によって2人の関係は少しずつ変わって行く。そんな恋愛模様も楽しめる。若干、結末が予想できるかもしれないが、パリを舞台にした警察物語に触れる機会があまりないので、全体的に新鮮に感じた。
「Logo Design Love: A guide to creating iconic brand identities」David Airey
オススメ度 ★★★★☆
ロゴデザインの本というと多くのロゴを集めたものが多い。それはそれで見ていて楽しいが実際に仕事としてロゴデザインをする人にとっては物足りないだろう。なぜなら素晴らしいロゴは、見た目だけでなく、クライアントの求めるものを満たすからこそ素晴らしいのだから。
本書はロゴを紹介しながらも、クライアントのロゴデザインをする上での仕事の進め方や注意点を多くの事例を交えながら説明する。どのようにして相手の担当者をプロジェクトに巻き込むか。プロジェクトとして良く起こりうる事は失敗はどのようなことから始まり、それを避けるにはどうするべきなのか、など。
もちろん、ロゴデザインにおいて基本的に抑えておかなければ行けない点も一通り網羅している。
また、技術的な話だけでなく、見積もりについても描いてある。印象的だったのは、ピカソが描いたスケッチの話を用いて、経験による金額の上乗せを説明している点である。
成功事例だけでなくTropicanaなどの失敗事例も掲載している点が面白い。本書を通じて多くの素晴らしいロゴに出会う事ができたし、またロゴデザインがしたくなった。
「Don’t Make Me Think, Revisited: A Common Sense Approacd to Web Usability」Steve Krug
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本書のオリジナルはもう15年以上前に出版されユーザビリティの考え方の基本を広く網羅している。それだけでも今でも十分に通用するないようであるが、さがにスマートフォンに関する内容が追加されて出版されたのが本書である。
前半はユーザーがどのようにWebを見て、世の中のWebはどのように変わるべきなのかについて語っている。例えば「Webは本のように読むのではなく、斜め読み(scan)するのだ。」という話は、ユーザビリティに関心のある人ならすでに何度も聞いた事のある話だろうが、改めて今自分が作っているものが、本書で言われている基準を満たしているかどうかと向き合う機会になるだろう。
中盤以降はユーザビリティテストの重要性と、その進め方である。多くの人がユーザビリティテストの重要性は知りながらもそれを実現するために必要な労力に躊躇してしまうのではないだろうか。本書ではいろんな簡単に始められるユーザビリティテストを紹介して、どんなユーザビリティテストからでもサイトやアプリの改善点は見つかるはず、と強調している。ユーザビリティテストを始めるにあたって起こりうる障害や問題を挙げて、その解決方法まで提示してくれるのである。ひたすら著者が繰り返しているのは、「まずは始めることこそ重要」ということである。
またアクセシビリティについても触れている点が印象的だった。なぜか最近「アクセシビリティ」という言葉を聞かないが、その重要性が失われたわけではない。どうしても僕らはユーザーが自分と同じような能力を持っているものと考えがちだが、これを機にもう一度「アクセシビリティ」を考えてみるのがいいだろう。
また、途中で著者のオススメの本を紹介してくれる点も有り難い。知識がさらに広がって行く感じが得られるのも嬉しい。
- 「It’s Our Research」Tomer Sharon
- 「The User Experience Team of One」Leah Buley
- 「Influence: The Psychology of Persuasion」Robert Cialdini
- 「How to Get People to Do stuff」Susan M. Weinschenk
「A Lesson in Secrets」Jacqueline Winspear
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Maisie Dobbsシリーズの第8弾である。1932年夏、戦時中に出版した絵本が反戦運動を呼んだGrebille Liddicoteの動きを知るため、Liddicoteが学長を務める大学に潜入することとなる。一方で古くからの友人であるSandraが夫を仕事中の事故で亡くして、Maisieの元へ救いを求めてくる。
興味深いのは常にドイツのヒトラーの影が物語全体に見える部分だろう。例えばMaisieの潜入した大学ではディベートが行われており、そこで行われる議論の多くはヒトラーに関連することが多く、当時の世の中の空気をイギリス人の視点で見る事ができる。特にヒトラーやムッソリーニは教科書にも出てくるので知っているが、オズワルト・モズレーについては本書を読むまで知らなかったので、当時の人々にとって大きな出来事が忘れ去られて行く虚しさのようなものも感じてしまった。
そんな世界状況のなかMaisieはScotland Yardと協力して大学内でLiddicoteの動向を探るのだが、ある日Liddicoteが大学内で殺害される。Liddicote殺害の犯人を突き止めようとするなかで、多くの関係者に話を聞くうちに、Liddicoteの出した反戦を訴えた本が多くの人の人生に影響を与えたことがわかってくる。「良心的兵役拒否者」と呼ばれる戦争に参加することを拒否した人たちは刑務所に入れられたと言うが、日本と同様に、イギリスでも戦争に反対することは、人からの軽蔑を受け入れる勇気のいる行為であったことがわかるだろう。
今回も、捜査だけでなく、父や恋人のJamesとや親友のPrisillaなど、いろんなことを悩みながら生きて行くMaisieを見ることができる。特にJamesとの結婚を意識し、結婚と仕事との間で悩むMaisieの心は、現代の人々にも共通するような気がする。
少しずつ第二次大戦に近づく世界状況、シリーズがどこまで続くのか楽しみである。
「Nothern Light」Philip Pullman
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
映画にもなった「ライラの冒険 黄金の羅針盤」の原作である。ヨーロッパではハリーポッターと並ぶほど有名なファンタジーの物語という事で興味を持った。
ライラ達の住む世界では、すべての人間はdæmonという動物と常に行動している。そしてその動物は状況に応じて数種類の動物に姿を変えるのである。例えばLyraのdæmonはPanatalaimonと呼ばれ、状況に応じてネズミになったり竜になったりするのである。その世界では人間とdæmonと呼ばれる動物との関係は特別なものと認識され、人間が思春期を迎える頃にdæmonは姿を変えることをやめて1つの形に落ち着くのである。
タイトルにもあるように、本書はライラの周囲の人がオーロラの不思議な力に魅せられたことから始まる。冒険家であるライラの叔父Asrielは北に向かって旅に出る一方で、ライラには魅力的な女性であるMrs.Coulterによって、それまで過ごした街を出るのである。
やがて、ライラは未来を予知する羅針盤の力を借り、さらに魔女やジプシー等と協力して北へ向かうこととな
「Wicked: Life and Times of the Wicked Witch of the West」Gregory Maguire
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
劇団四季の「ウィキッド」を観劇してから、オズの物語のファンである。本書は言うまでもなく「ウィキッド」の原作。後に「ウィキッド」としてオズの魔法使いでは悪の化身「西の魔女」とされる生まれながら緑の肌を持つElphabaの生涯を描く。
序盤はGlindaとElphabaの嫉妬や恋愛や意地など、どこにでもありそうな女性の成長の様子を微笑ましく描かれている。緑の肌をして社交的ではないElphabaだったが、Glindaと同じ部屋になったことで、次第にGlindaと仲良くなって行くのだ。しかし、月日が経つに従って、2人は人生の選択を迫られて行く。
おそらく本書で描かれているのは、多くの人が「オズ」という言葉から想像するよりもはるかに政治的な世界だろう。エメラルドシティを中心としたオズの国では動物たちが人間と同じように、話し、多くの職業に就き社会を構成する一部となっていたが、やがて、動物達は言葉を喋らず家畜として暮らすべき、という政策が広まる事になる。そんな政策に反対するElphabaは心を同じくするたちとともに抵抗しようとする。Elphabaの妹NessaroseもやがてともにGlindaやElphabaと過ごす事になる。物に執着しないElphabaだが、父が、妹のNessaroseだけに与えた靴にこだわりを持つ。
そして月日とともに、Glinda、Nessarose、Elphabaは別の道へ進むこととなる。父からの愛を求めたElphabaが混乱するオズの世界に翻弄されながら、やがて西の魔女になっていくのだ。やがてDrothyという名の女性がやってくる。一緒に飛んできた家でNessaroseを押しつぶすして殺す事になったDrothyはElphabaがこだわりつづけた靴をはいてエメラルドシティに向かうのである。
残念ながらハッピーエンドとは言えないが、オズの物語に深みを増してくれるだろう。
「The Girl in the Spider’s Web」David Lagercrantz
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ドラゴンタトゥーの女」という印象的なタイトルで、映画にもなったこのミレニアム3部作は、「面白い本」と聞かれたら必ずタイトルである。不幸にも著者のスティーグ・ラーションが亡くなったことで、続編を諦めていたのだが、本書によって別の著者による4作目がつくられたのである。
正直、著者が変わったことで本書は懐疑的に見ていた。実際序盤は描写がややしつこく、シリーズ三部作までに感じられたテンポの良さが失われてしまった印象を受けたが、中盤から物語が大きく動き出すとそんなことも気にならなくなり十分に楽しむ事ができた。
物語は、人工知能の第一人者であるBalderが殺害されることから始まる。しかし、幸か不幸かBalderの自閉症の息子Augustがその現場を目撃していたのである。それに気付いた犯人だが、その不自然な行動から自閉症と判断し、自閉症の子供であればわざわざ目撃者として殺す必要はないとその場を去る。実はAugustは自閉症でもサヴァン症候群という見た物を強烈に記憶し、写真のような絵を描く事のできる能力を持っていたのである。それを知ってAugustを殺そうとする犯罪集団とAugustを守ろうとするBlomkvistやSalanderを描く。
得意のハッキングで誰よりも早くAugustの危険を察知して救出するSalanderは、これまでの4作品のなかではもっともSalanderが優しくかっこいい人間として描かれている気がする。それはAugustという少年と行動することになったこの物語のせいなのか、著者が変わったせいなのかはわからないが、Salanderに対する見方が変わるかもしれない。
また、Augustの救出劇だけでなく、雑誌社ミレニアムの社員達も重要な活躍をする。特に若い優秀なAndrei Zanderは重要な役割を担う鵜。若く優秀でジャーナリズムを愛するAndrei Zanderの好きな映画、好きな小説が本書で触れられていたので挙げておく。
そして、やがて現れるSalanderの双子の姉妹Camilla Salanderの影。里親の証言からCamillaの歪んだ考え方が明らかになって行く。
今後も続編があることを感じさせる終わり方で、次回作品が楽しみである。
「The Mapping of Love and Death」Jacqueline Winspear
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第一次大戦中にイギリス兵として働いたアメリカ人の地図製作者が亡くなった。その両親は、彼が直前まで連絡をとっていた恋人を捜して欲しいという。調査を開始してすぐにMaisieは彼が戦場で撲殺されたことに気付く。
Maisieが依頼を受けてすぐに依頼主夫妻が襲われて入院するなど、謎が深まる一方で、Maisieの若い頃からのメンターであるMauriceが体調を崩し始める。本シリーズは常に、解決する事件と並行して、Maisieと周囲の人間関係が描かれるが、本書では特にMauriceとの様子が多く描かれる。Maisieは少しずつ衰えていくMauriceの姿を見て、彼が今までに与えてくれたものの大きさに気付くのである。そんなMaisieの様子は、一生に大きな影響を与えるメンターとの出会いの重要性を改めて教えてくれる。Mauriceのような優れた考えを持っている人間と若いときに出会えたMaisieの幸運を思うと、むしろ年齢を重ねた僕らは、今後育つ若き人々に重要な存在となりたいと思った。
また、一方で事件に関しては、地図製作者という仕事の魅力も伝えてくれる。戦時中に、他国の地図がどれほど重要だったかが伝わってくる。本書では「地図制作者は芸術家である」と語るシーンがある。地図製作者はただ機械的に地図を起こすのではなく、何をどこまで描くべきか、使用者の目的を考えて地図を造り出すというのである。
いつものように人生における多くのことを考えさせてくれる一冊。
「UI is Communication: How to Design Intuitive, User Centered Interfaces by Focusing on Effective Communication」Everett N McKay
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
UIについて語る。
タイトルも示しているように、本書がひたすら繰り返すのは、UIはコミュニケーションである、ということである。例えば、新宿駅で本屋の場所をたずねたときに、ニューヨークの本屋を紹介するというのは普通のコミュニケーションであればありえないことだが、世の中の多くのサイトはそのようなことを平然と行っているのだ。
同様に同じ事を繰り返したずねるのも普通のコミュニケーションであれば失礼で、相手を深井に感じさせることである。しかし、僕らは何度もメールアドレスを入力する事があるし、同じエラーメッセージが何度も表示される事がある。また、興味深いのは言葉の使い方である。「You failed….」(あなたは失敗した)のようにユーザーを避難する言葉ではなく「Something went wrong.」(異常が発生しました)のようにシステム側に問題があることを示唆する言葉を使うべきだというのである。
なぜこのようなことが起きるかというと、UIデザインは未だにシステム目線で行われているからなのだ。それを表すのに次のような印象的な言い方をしている。
上記のような内容を、徹底的に実際のサイトやアプリを例にとって解説してくれる。本書は世の中のすべての物の見方を変えてくれるだろう。UIデザインに関わる人は必読の一冊。
「Under The Dome」Stephan King
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
メーン州にある町Chester’s Millをある日突然取り囲んだ巨大なドーム。生き物の出入りはできなくなり陸の孤島と化す。有限となった電気や食糧を求めて混乱がはじまる。
設定が変わっているが、ドラマ「Lost」などと多くの物語と同様に、秩序を保とうとするもの、権力を手に入れようとするもの、などを描いた物語である。ドームの発生によってChester’s Millは2つに別れる、一方は、政治家であり、自動車販売も手がけながら裏では麻薬の密売を行っていたBig Jimを中心とする人々である。彼らは麻薬の密売の事実が表沙汰になることを恐れ、ドームの混乱を利用して、その罪を人に着せようとする。
もう一方はアフガニスタンで兵士として勤めた経験を持つBarbie。Chester’s Millの外の人間であるため、何人かの人間ともめ事を起こした経験を持つが、その経験から、政府から孤立状態となったChester’s Millを率いる立場に任命されるが、それがさらに周囲との軋轢を生む事になる。
Chester’s Millのなかではそのような権力争いが進む中、外からは政府がなんとかしてドームを破壊しようとする。そもそもドームを生み出したのは一体誰なのんか、何なのか。次第に秩序のなくなっていくChester’s Millでそれぞれが生き、大切な物を守ろうとする。
状況としては変わっていて面白いが、ただ単に規模の大きなサスペンス物語という印象で、過去のキング作品にあるような深さや描写の巧さのようなものは感じられい点が残念だった。
「Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us」Daniel H. Pink
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
あらゆる組織において重要な、社員のモチベーションをあげるための方法を書いている。
人間は初期には食欲や性欲によって行動をしていた。そして1900年代は罰と報酬によって行動していた。そして、世の中の仕事の単純作業の多くはコンピューターによって行われるようになった今、人々は今までにないほど創造性を求められるようになったのである。本書ではこれまでの報酬によるモチベーションを「モチベーション2.0」と呼び、好奇心による内なるモチベーションを「モチベーション3.0」と読んでいる。
著者は最初に、一つの実験の結果を見せてくれる。2つのグループがあるパズルを解くための時間を計測する実験である。報酬を約束されたグループは報酬をもらわなかったグループよりも早くパズルを解決するが、次の実験として、2つのグループともに報酬をもらえないということになると、前の実験で報酬をもらったグループのほうが、最初から最後まで報讐をもらえなかったグループよりも作業が遅くなる、という面白い結果である。つまり、報讐は短期的には効果があるが、長期的に見ると作業者のモチベーションを落としているのである。
また、報酬を目ざす作業者はショートカットを求める方向に向かうため、創造性を発揮する事が少なくなるという。だからこそ、より創造性が求められる現代において、「モチベーション3.0」を生み出せるかどうかが企業の生き残りの鍵となるだろう。本書ではいくつかの例をあげて、「モチベーション3.0」を育むための人への接し方や声の掛け方、褒め方を説明している。
しかし、著者は報酬を与えるということをすべて否定しているわけではない。創造性を必要としない単純作業の場合にはむしろ報酬は効果的に機能するというのである。報酬が役に立ちそうな状況についても説明しているので非常にわかりやすい。
会社に限らず、チームやコミュニティなど、組織を構成する多くの人に取って、効果的に機能を果たす組織をつくるために役に立ちそうな内容が詰まっている。会社の人間にもぜひ読んで欲しいと思った。
「Among the Mad」Jacqueline Winspear
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
クリスマスの夜、足の不自由な一人の男性が、人通りの多い通りで爆弾を使って自殺した。同じ頃、脅迫の手紙が政府のもとに届き、Maisieは協力を求められる。
脅迫の手紙ではしきりに、国のために戦争に行って、大きな障害を負って働けなくなってしまった人々の救済を求める。実際、第一次大戦から数年経ったこの時代、多くの人が戦争の被害を抱えていたのである。Maisieはそんな犯人の正体を突き止めるために、多くの人と言葉を交わすなかで、自らの恵まれている状況を知るのである。
そんななか、部下のBobbyの妻Doreenは最愛の娘を失ってから行動に支障を来たし、入院することとなる。父や友人緒Prisilaなど、周囲の人と支え合いながら混沌とした時代を生きていく様子が見て取れる。
本書は、Masieが警察と協力して捜査にあたる初めての作品ではないだろうか。Misieは捜査の協力のために、意味がないと思いながらも指示された場所を捜査したりもするのである。しかし、やがてMasieの見つけた手がかりから、戦争中に毒ガスを扱った一人の男性が容疑者として浮かび上がってくるのである。
本書の舞台はイギリスであるが、世界のどこでも戦争が不幸しか生まないことを教えてくれる。