「Sharp Objects」Gillian Flynn

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
シカゴでリポーターを仕事としているCamilleは生まれ故郷の町Wind Gapで少女Annの殺人事件が起こったことを知り、スクープのために故郷に戻り、そこで数年ぶりに母Adoraと妹Ammaと再開する。

生まれ故郷に戻って調査を開始した直後に、行方不明になっていた少女Natalieの遺体が発見される。犯人は町の人間なのかそれとも外からやってきた人間なのか。なぜ被害者の歯を抜くのか。目撃情報を集めるために町を歩く中で、過去の同級生や知り合いと再開していくなかで今まで知らなかったことが明らかになっていく。

また、母と再会し、その生まれた家で過ごすことになったことで、少しずつ歪んだ家族の様子も見えてくる。Camilleは以前妹Marianを病気で失っており、母Adoraとともにその悲劇を経験しているのである。そんな悲しみを経験したからなのか、心を病んだCamilleは尖った刃物などで自らの体に文字を刻み込むことで心の安らぎを得ることを習慣としているのである。そして、そのような家と母の下で生活しているからか、異なる父から生まれた妹のAmmaも荒んだ生き方をしていく。

殺人事件の解決の物語ではあるが、心に深い傷を抱えた人たちの悲しい家族の物語でもある。Gillian Flynnという著者はよく聞くが本書で初めて触れた。ほかの有名作品もチェックしたいと思った。

「The Four Agreements: A Practical Guide to Personal Freedom」Don Miguel Ruiz


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人は親や社会や周囲の人々との多くの合意の中で生きており、多くの悩みや悲しみはその同意によって生まれるのだという。本書ではほかの多くの合意を忘れて、たった4つの合意だけ意識して生きることを勧めるている。

オススメ書籍としてそこら中で名前が挙がる作品で、またそのタイトルにあるFour Agreementも調べようと思えば簡単に調べることができるが、そのFour Agreementの背景にある考え方まで知りたいと思って本書にたどり着いた。4つのAgreementは次の4つである。

1.Be Impeccable With Your Word
2.Don’t Take Anything Personally
3.Don’t Make Assumptions
4.Always Do Your Best

本書を読む前は2のDon’t Take Anything Personallyや3のDon’t Make Assumptionsに共感したのだが、本書を読むと1のBe Impeccable With Your Wordの持つ力の大きさに気づかされる。だからこそこの合意が最初にくるのだろう。

人は使う言葉によって、悪い言葉なら呪いをかけ、良い言葉ならプラスの魔法をかけるのだという。使う言葉一つ一つがそれを聞く人、使う人に影響を与えると言うことを意識する。それこそがBe Impeccable With Your Wordであり、元気が出る魔法を、周囲の人にかけられるような、もしくは悪い呪いを解くような、人をプラスの方向に導ける言葉遣いをしていきたいと思った。

わずか数100ページと非常に短いわりに、とても有名な本なのでぜひ一度読んでおくべきだろう。ただし、1度読むだけでなく何度も人生の中で立ち止まっては自分に言い聞かせてこそ役立つ内容なんだと感じだ。

「Silent Patient」Alex Michaelides

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著名な殺人犯で画家であるAlicia Berensonの殺人の真実を知るためTheoはAliciaに近づいていく。

自らも幼い頃の父親との関係に深い傷を抱えていきているTheoは、自らの夫を殺して精神病院に入院してからは、一言も喋らない話題の画家Aliciaが、同じように父親との関係から心を病んでいるのだと考え、その病院The Groveに入所し、Aliciaを担当することとなる。すでに施設自体が閉鎖間近とされるなかで、職員たちとの駆け引きをしながら少しずつAliciaの信用を勝ち取り真実を語らせようとする。

そんなAliciaをかたらせようと少しずつ努力するのと並行して、妻のKathyとの関係にも悩み続ける様子も描かれる。役者をしているKathyは公演間近になると遅くまで練習に明け暮れるが、あるとき妻のパソコンにある一件のメールに気づき、すこしずつ浮気の疑いを濃くしていくのである。

やがてAliciaの子供時代の事実が明らかになり、夫を殺した理由が見えてくる。また、それと同時に、TheoとKathyとの関係に対しても、Theoの決意とともに大きく動いていく。

特に大きな目新しさは感じなかったが、退屈しない程度には楽しめるだろう。

「Big Little Lies」Liane Moriarty

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
オーストラリアで、20代後半でシングルマザーとして息子のZiggyを育てるJaneはPirriweeという浜辺近くの地域に移り住み、幼稚園でMadelineやCelesteなど年上の母親たちと出会う。

事の起こりは幼稚園の初日にJaneの息子のZiggyが幼稚園への多額の寄付をするRenataの娘の首を絞めた、という報告から始まる。それ以来、RenataとRenataと仲の良い母親たちはJaneに敵対し、一方でMadelineやCelesteたちは証拠のないなかでJaneを攻めることを不当として対立していくのである。

幼稚園での人間関係が少しずつ悪化する一方で、JaneのZiggyを産むまでのの経緯が明らかになっていく。どのようにその男と出会い、どのようにしてZiggyを授かったかが明らかになっていくのである。

シングルマザーとして子育てと新しい環境に溶け込む為に苦労するJaneだが、その友人のMadeline、Celesteもまたそれぞれ悩みを抱えている。Madelineは元夫とその間に生まれた最初の娘と、現在の夫とその間に生まれた2人の子供の間で複雑な人間関係のなかで生活している。元夫とその再婚相手であるBonnieの子供も同じ幼稚園に通っているというから人間関係はさらに複雑である。Celesteは誰もが憧れるような美しく裕福な夫婦で2人の双子の息子にも恵まれているが、ときどき発生する夫Perryの暴力に悩まされている。

やがて、物語はある大きな事件が起きるtrivia nightへと進んでいく。

日本だろうとオーストラリアだろうと国に関係なく、世の中の子供を大事に思う母親たちによって、必要もない諍いが起き、また幼稚園の先生はそれに振り回されるのだということがわかった。失敗をしながら人間関係を学んでいくということをしっかり覚えておきたいとと燃える内容だった。

「Between the World and Me」Ta-Nehisi Coates

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
黒人の父が黒人の息子に対して白人社会のアメリカで生きる心構えを説く。

リビングで子供達が楽しくカードゲームをする、テレビでよく放送される幸せな家庭をDreamと呼び、同じ国に住みながらそんなものはテレビの中だけの世界で、現実にあると思っていなかったと言う。

興味深いのは、本書で、著者の知り合いで将来を期待された黒人の若者が警察に間違って殺されたシーンを嘆くところだろう。間違ったその若者を殺した警察自体も黒人だったことから、黒人がアメリカで生きる中で、常に怯え、疑心暗鬼でなっていることを感じさせる。著者はそんな疑心暗鬼の生き方に対して、息子に警鐘を促しているのである。

そして、また、その中で、不条理に殺された黒人の名前や事件などにも触れており、機会があったらぜひしっかり一つ一つ調べてみたいと思った。そんななかでも特に印象に残ったのは、南北戦争の部隊であるゲティスバーグを観光した時に、著者が感じたことが印象的である。多くの人々がその戦場で亡くなった人を英雄視する点に違和感を覚えたと言う。黒人を殴ったりレイプしても許される、そんな生まれた時から持っていた非人道的な特権を守るために多くの若者が死んでいったことに呆然としたのだ。

本書を読んで、改めて黒人にアメリカの社会がどのように写っているか、自分には理解できていなかったことをを知った。奴隷解放が行われてからまだ100年と少し、公民権運動が行われてからまだ50年程度、まだまだ多くの黒人差別が残っているのだ。もちろん、黒人差別がまだまだ残っていることは知識としては知っていたが、結局僕らが目にするアメリカはニュースもドラマも白人が作ったもので、本書が触れているような世界はほとんんど見せていないと言えるだろう。

しかし明るい点としては、本書が多くの注目を浴びたということである。人々が平等に向かって進んでいると言う証拠とも言えるかもしれない。

「Body of Evidence」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ストーカーの恐怖に怯えていた女性作家がBerylが帰宅直後に何者かによって惨殺された。なぜ怯えていた被害者は犯人を部屋に入れたのか。検死官のKay CarpetaはMarinoとともに真実に迫っていく。

物語の序盤で昔の恋人だったMarkが突然Kayの前に現れる。Berylの事件についてMarkは警告を与えるが、KayはMarkの狙いはなんなのか、その突然の訪問の意図を疑う一方で、昔のように恋人同士に戻りたいと思う欲求の間で揺れ動くのである。

そして、捜査開始して間も無く、Berylの師匠であり長く一緒に過ごしたCary Parperも殺害され、その直後にHarperの妻も自ら命を絶った。この死の連鎖はどこから始まったのか。大きな陰謀の気配を感じながらも捜査を続けていく。そんな捜査の過程で印象的だったのが、Berylの車を洗浄した作業員Al Huntの証言である。Huntは人の声の色が見えるのだという。Berylの声を色で表現したHuntはやがて事件の解決につながる証言をするのである。90年代にすでに物語の中に色を見ることのできる、超感覚者を扱っていることに驚かされた。

真実に迫るにつれ、少しずつものを書くことにしか楽しみを見出せないBerylの悲しい生き方が見えてくる。やがて犯人はKay自身にも少しずつ迫っていく。フロリダ州観光地であるKeyWestが物語の重要な場所になるため、その南国の豊かな香りによって、事件による残虐さが際立った気がした。

まだまだシリーズの2作品目ということで長い旅が始まったばかりだが、少しずつ読み進めていきたいと思った。

「A Fatal Grace」Louise Penny

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カナダのモントリオールから数時間の田舎町スリーパインズでカーリング観戦中の女性が感電死した。Gamacheは捜査に乗り出す。

Armand Gamacheシリーズの第2弾である。第1弾の「Still Life」でスリーパインズという美しい街を舞台にして魅力的な登場人物が多数出てきて、今回は別の街を舞台に事件が起きるのかと思っていたら、今回も同じ場所で、同じ登場人物にまた出会えたことが嬉しい。GamacheとBeauvoirは、スリーパインズのなかで嫌われていたCCという名の女性がカーリング観戦中に感電死したことで現場に行き、再び前回の事件で知り合った人々の話を聴きながら事件の解決に挑むのである。CCの娘や夫との不思議な関係や、CCの周囲の人に嫌われることを厭わない行動が真実解明の焦点となる。

また、第1弾でその無礼な行動からGamacheに操作のメンバーからはずされたYvette Nicholも今回も登場する。前回の反省から心を入れ替えたというNicholだが、GamacheやBeauvoirは警戒しながら接する。Gamacheの真実を解明するにあたって人の考えに耳を傾ける姿勢が姿勢が印象的である。GamacheはBeauvoirに。どんな殺人やその手法も、一見突飛で衝動的な行動に見えても、犯人にとっては筋の通った理由があるのだと説明するのである。

Gamache、Beauvoir、Nichiol、またスリーパインズの芸術家Claraなども含め、事件解決のなかでそれぞれが人間として成長していく様子が伝わってくる。

「Magpie Murders」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年このミステリーがすごい海外編第1位作品。2019年本屋大賞翻訳小説部門受賞作品。

ロンドンで名の知れた名探偵であるPundは助手のFraserと共に、Saxby-on-Avonで起こったSir Magnusの殺人事件の捜査にのりだす。

すでに人生の先が短いことを悟ったPundだが、Saxby-on-Avonからロンドンまでやってきた女性の依頼によって、心を動かされ、Saxby-on-Avonので領主であるSir Magnusが殺害されたことで事件の捜査に乗り出すのである。小さな町故にそれぞれの住人たちの交友関係も狭く、街の人間関係が少しずつ明らかになり、ほとんどすべての人にSir Magnus殺害の動機があることがわかる。

途中まではよくある振り時代の探偵ミステリーという雰囲気だが、後半物語は予想外の方向へ動き出す。細かいことは語ることはできないが、今まで読んだことないほどの斬新さを持っており、2つのミステリーを同時に楽しめたかのような分厚い満足感を感じられるだろう。このミステリーがすごい 海外編第1位も納得である。久しぶりに読書の面白さを感じさせてもらった。多くの読者にこの感覚をぜひ味わってほしい。

「A Cold Trail」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
シアトルの自宅の建て替えのために故郷のCeder Groveに戻ったTracyは地元の警察署長であるCallowayから1993年になくなったHeather Johansenの殺害事件に関連した未解決の事件の捜査を依頼される。娘のDaniellaのために、誇れる故郷を作ろうとTracyはその真実の解明に乗り出す。

Tracy Crosswhiteシリーズの第7弾である。Danと結婚し娘のDaniellaが生まれた後の最初の物語である。20年以上前に亡くなったHeather Johansenの事件の真実を探っていた記者のKimberlyと元弁護士のMathewが不幸な事故によって相次いで亡くなったのである。事故と片付けるにはあまりにも不可解な死の謎を解くうちにCeder Groveの暗い部分が少しずつ明らかになっていくのである。

序盤は娘を危険に晒すことを不安視して、捜査に参加するTracyに反対するDanだが、少しずつTracyの考え方に理解を示していく。本作品は久しぶりにシアトルではなくCeder Groveを舞台としているため第1弾につづいて、Tracyや妹のSarahの過去とのつながりが描かれる。事件の解明の手がかりを探してSarahの日記を読んだり、捜査のために昔の友人にあったりするのである。昔は若かった友人たちが、40歳を超えてそれぞれ街の中心として生きているというギャップが面白い。ある人は出世しある人は結婚して母となっているのである。明るい未来を語りながらも、やがて平凡な大人へとなっていくのである。

毎回このシリーズには事件解決とは別に、家族や仲間のテーマがあるのが面白い。今回は、娘のDaniellaが生まれたことによる、TracyとDanの生活の変化や考え方の変化が重要なポイントと言えるだろう。DaniellaのベビーシッターとしてTracyの家にやってきたThereseが、アイルランドの文化を持ち込んできた点も面白い。シリーズが進むごとに家族の形態が少しずつ変化しているのも興味深い点だろう。Danilellaが大きくなるに従ってどのような家族になっていくのか注目して続編も読んでいきたい。

「The Serialist」David Gordon

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2012年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。

Harryは、ポルノ小説家でありゴーストライターでもある。さらに時には偽名を語り、SFから吸血鬼まで様々なジャンルを書く売れない小説家なのである。ある日、過去に3人の女性を殺して現在死刑間近の犯罪者Darian Clayから仕事を依頼される。それは彼に手紙を送ってくる女性たちにインタビューしてほしいというものだった。

Harryが売れない小説家であるために、会う人会う人に小説家として尊敬されるどころかむしろ見下されているところが全体を面白くさせているのだろう。その筆頭はHarryのアシスタント兼マネージャー的な役割を担う、高校生のClaireである。元々は彼女の論文を書くバイトをしていたことから知り合ったのが今ではパートナーとして毎日一緒に過ごしているのである。序盤はそんな小説家として日常を面白く描いている。

やがて、HarryはDarian Clayに関わり、それによって、事件の被害者の家族や弁護士や、警察官との関わるようになる。Clayの要望通りに、Clayにファンレターを送ってくる人にインタビューを進める中で、さらに大きな事件に巻き込まれていくのである。

偽名で出した吸血鬼小説が人気があったり、犯罪者であるDarian Clayの考え方に深い理解を示したりする点が面白い。Harryが書いていると思われるSFや吸血鬼物語が挟み込まれ、それが意外と面白いのである。実際に著者David Gordon自身も本作品以外にあまりヒット作と呼べるものがなく、主人公であるHarryに自分自身を重ねているのではないだろうか。そして、そんな自分自身からヒントを得て描いたリアルな二流小説家の表紙が本作品の最高の魅力と言えるだろう。

「The Sense of an Ending」Julian Barnes

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年ブッカー賞受賞作品。イギリス青年だったAnthony Websterの一生を描いた作品。

学生時代に仲のよかったAnthony, Colin, Alex, Adrianの4人組の中で特に頭が良かったのはAdrian Finnである。やがて4人は生涯続く友情を約束しながらも別々の道へ進み、Adrianはその頭脳を活かしてケンブリッジ大学へ進学し、Anthonyの元恋人Veronicaと付き合うこととなるのである。自分の元恋人と親友であるAnthonyが付き合うことに複雑な思いを抱きいていたAnthonyだが、やがてAdrianが自殺したという連絡が届くのだ。

自分たちのヒーローだったAdrianがどうして命を絶ったのか、そんな想いにかられながらも人生は進む。Margaretという妻と結婚して、Susanという娘が生み、やがてMargaretとも良い関係を保ちながらも離婚することとなる。そして離婚して数年経った後、1度しか会ったことのないVeronicaの母からAnthonyに向けて遺産が残されていることから、もう一度40年前の出来と後を考え始め、少しずつその真実に近づいていくのである。

Anthonyの若い時代からは、文学と音楽をエンターテイメントにそこに情熱を注ぐ、60年代のイギリスの男性の生き方が見えてくる。Anthonyの人生をゆっくり描くのかと思ったが、物語中盤ですでに人生の晩年の離婚した状態で、後半はゆっくり人生を振り返り過去のVeronicaやAdrianに思いを巡らす部分に多くページを割いている。人生の晩年を迎え、すでに自分の人生の大きなイベントは終わってしまったAnthonyが、過去を振り返り、人生をより良いものにしようと奮闘する姿が印象的である。

「Post Mortem」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1991年エドガー処女長編賞受賞作品。バージニア州リッチモンドで発生する女性を狙った連続殺人鬼Stranglerの事件を解決するため検死官であるKay Scarpettaが真実に迫っていく。

すでに発行から30年が経っているので、描かれる捜査環境などは違うのだろうが、物語の面白さはまったく損なわれていない。少しずつ犯人に迫っていく点は予想通りであるが、面白いのはKayとその周囲の人との人間関係だろう。その筆頭は、Kayの家に頻繁に訪れる姪のLucyである。Kayの妹で母であるDrothyが頻繁に家を留守にすることからKayの家をたびたび訪れ親しくなったLucyだが、幼いながらもIQの高い彼女は、やがて事件解決のカギとなる行動をする。また、頼れる刑事だが、どこかぶっきらぼうなMarinoとのやりとりも面白い。そして犬猿のなかだった新聞記者のAbby Turnbullとも、Abbyの妹が殺人鬼の犠牲者となったことにより、すこしずつ近づいていき犯人逮捕のために協力しあうようになる

そんななか印象的だったのは犯人逮捕のために、被害者の共通点を探しすために、黒人の被害者であるCecile Tylerの妹と電話で話すシーンだろう。

「お姉さんもあなたみたいに話すのですか?」
「そうです。それが教育ってもんですよね。私たち黒人だって白人みたいに話しますよ」

白人と黒人で話し方にそれほど違いがあることを意識してこなかったので、話し方でそれを判断するのが普通だということに驚かされた。日本という民族の混ざりの少ない場所で生きている限りわからないことなのだろう。とはいえ繰り返しになるが本書がかかれてもう30年が経っているので、この辺の教育の偏りも解消されてきているのかもしれない。

そんな時代の変化もシリーズを読めばわかるのではないかと思った。続編も引き続き読んでいきたい。

「Still Life」Louise Penny

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2006年アーサー・エリス賞、ジョン・クリーシー・ダガー賞、2007年アンソニー新人賞、バリー新人賞、ディリス賞受賞作品。

先日読んだ、「All the Devils are Here」が実はArmand Gamacheシリーズの第16作品めということで、最初から読もうと、シリーズ最初の作品である本書にたどり着いた。

カナダケベック州のスリーパインズという田舎町で、年配女性Janeが自ら描いた絵画を初めて町の展覧会に出品した数日後弓矢が当たって亡くなった。Janeは周囲の人から好かれていたが、誰もJaneの自宅の二階に入ったことがないという。Janeにはどのような秘密があったのか、またその秘密は事件と関係があるのか、警察官のArmand GamacheとJean-Guy Beauvoirは見習いのNicholとともにThree Pinesで真実の解明に乗り出す。

田舎町ゆえに、そこに住んでいる人の背景も様々である。Gamacheが少しずつ人々から話を聞く中で、殺害されたJaneの背景と、凶器として使用された弓の存在が明らかになる。事件解決と並行して、警察官として未熟で失敗をしがちのNicholにいろんな振る舞いを諭すシーンが興味深い。続くシリーズでもNicholとGamacheとの師弟関係が見れるなら楽しみである。また、カナダというと英語圏のイメージがあるが、ケベック州はフランス語を公用語とする土地で、英語ネイティブに対する差別が存在していることは本書を読んで始めた知った。

やがて、物語は過去の町の人々の過去の行いまで明らかにしていくこととなる。Janeの過去と誰も足を踏み入れたことのない家の二階の様子が明らかになり、真犯人の解明につながっていく。

絵画と弓矢を絡めた物語。シリーズものは第1作品目が良いものであることが多いが、このシリーズもそれがあてはまるようだ。第1作と第16作を読了したという妙な状態になってしまったが、間を埋める残りの作品も少しずつ読み進めたいと思った。

「The Testaments」Margaret Atwood

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2019年ブッカー賞受賞作品。

Gileadという国を題材として、そこに関わる女性3人を主に描いている。Gileadでは女性は子供を産む存在として、一部をのぞいて女性たちは読み書きをす学ぶこともできず、家事に関する教育を受けた後、若くして選ばれだ男性との結婚をして子供を産むこととなる。LydiaはGileadの中の女性でトップに君臨する女性で、Gileadの男性の権力者との間で駆け引きをしながら自らの地位を盤石にしていく。また、AgnesはGileadのなかで育つ少女で自分の出自に疑問を持ちながらも優しい母の元に育つが、母が病死したことから少しずつ周囲の出来事に疑問を持つようになる。DaisyはGileadの外で生きる少女で、Gileadの悪い噂を見聞きしながら成長していくが、やがて両親の死をきっかけに大きく人生が動き出す。

1人の女性と2人の少女を中心に描いており、あまりにもリアルに描いているので、Gileadという街が実際に存在していたのではないかと調べてしまったが架空の国の物語である。

本書単独で読んでも十分に面白いが、実際にはこの作品は著者によって20年前に書かれた「The Handmaid’s Tale」の続編ということだそうで、そちらもぜひ読みたいと思った。順を追って読んだ方がさらにいろいろ見えてくることだろう。

「All the Devils Are Here」Louise Penny

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Gamache家の面々はパリのレストランで緒に夕食をとったあとに、Gamache家の祖父がわりであるStephen Horowitzがひき逃げに会い昏睡状態となる。意図的にStephenを狙ったとして、その意図を探るうちに大きな陰謀に巻き込まれていく。

Armand Gamacheとその子供たちが協力して大きな陰謀を暴いていく物語。謎解きの物語であると同時に、家族の物語でもあり、カナダのケベック州とフランスのパリという大きなスケールで展開していく。印象的だったのは、長い間心を開かなかった息子DanielとArmandの関係である。今回の事件を機に、少しずつお互いの心の内を打ち上げ、やがて幼い頃のDanielの心の傷が明らかになっていくのである。

物語の随所にパリの街並みや地名が描かれるのも印象的だった。本書を読んだらきっとパリへぜひ行ってみたくなるだろう

あとになって気づいたことだがどうやらこれはArmand Gamacheを主人公とした物語の第16作品めということで、いきなり16作品めから読み始めてしまったいうことだ。とはいえすでに16作品目というのを感じさせないほどの一冊で完成された物語。ニューヨークタイムズのベストセラーということだがそれも納得である。これまでの15作品も少しずつ読み進めたいと思った。

「The Woman in the Window」A. J. Finn

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
過去のトラウマから家の外に出ることができなくなった女性Anna Foxを描く。

Annaは宅配の食事に頼りながら、以前は夫と娘と3人で暮らしていた家のなかで一人で暮らしていた。Annaの楽しみは、近所の人々の出入りを観察すること。そしてインターネットで悩んでいる人に対して処方の助言をすることである。物語は、Annaの家を近所に新しく移り住んできたRussell家の息子Ethanとその母Janeが訪れたことから大きく動き出すのである。

物語の途中の展開はある程度予想ができた。家にひきこもる女性の証言を周囲は誰も信じてくれない、という王道のパターンである。面白いのは家のなかだけで生きるAnnaの楽しみの一つが映画を見ることで、「めまい」などの有名な映画のシーンがなんども引用される点である。どれも有名な作品だろうとは思われるのだが見たことがないのが悔しくて、近いうちにチェックしたいと思った。

「Agile Software Development」Peter Oliver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Agile開発の基本的な考え方を説明している。

スタートアップで仕事をしていると、基本的にAgileに則った進め方になるが、常に進め方に課題はあり、そのヒントとなるような内容があればと思い本書を手に取った。

最初はAgileの説明から入り、ScrumとKanbanという二つのAgileの考え方をわかりやすく説明している。

Scrumの基本を、

透明性(Transparency)
調査(Inspection)
適応(Adaptation)

とし、Scrumの三つの役割、つまりScrum Master、Product Owner、Cross Functional Teamを説明している。一方でKanbanの6つの哲学を

Visualization
Limiting work in progress
Flow management
Making policies explicit
Using feedback loops
Collaborative or experimental evolution

としてそれぞれを説明している。

どちらかというと今までScrumを中心とした体制のもとで仕事をしてきたが、部分的にKanban方式を採用した方がうまくいくことも多いので、Kanbanの考え方をもう少し取り入れてみたいと思った。

やはりページ数が限られているので、それほど印象的な内容はなかったが、Agileの進め方について簡単に理解したい人にはちょうどいいのではないだろうか。

「The Huntress」Kate Quinn

オススメ度 ★★★☆☆ 4/5
第二次世界大戦後、多くのドイツ人将校たちがニュルンベルク裁判で有罪判決を受けたが、小規模な戦争犯罪者たちは名前を変え、国外で普通の暮らしに戻っていた。そんな戦争犯罪者に弟を殺された戦争ジャーナリストのIanと仲間たちは世界中に逃亡した戦争犯罪者たちを正義のもとに引き出そうとしていた。

物語は三つの物語が織り混ざって進む。IanとTonyは戦争犯罪者を追い詰める組織を維持しながら、Ianの弟を殺したLorelei Vogtの足取りを探していく。一方、時代を遡ってソビエト連邦の東の果て、バイカル湖の近くの田舎町で育ったNinaは、やがてパイロットとを目指して西へと向かう。アメリカのボストンに父とクラス女性Jordanは父の再婚相手に不信を感じながらも少しずつ新しい生活に馴染んでいく。

まず何よりも戦争犯罪というと、ナチスのヒトラーや映画にもなったアドルフアイヒマンという大量殺戮に関わった人物しか考えたことがなく、本書で扱っている数人程度を殺害した戦争犯罪者という存在事態を考えたこともなかった。そんな小さな戦争犯罪者たちをIanとTonyは探し出し裁判を受けさせるようと活動しているのである。本書ではやがて、Lorelei Vogtという女性一人に絞って、Ianの妻Ninaと3人でアメリカに渡るのである。

一方で、ソビエト連邦のパイロットのNinaの物語が、この物語だけで一冊できそうなほどの濃密なのも驚きである。Ninaの物語は、バイカル湖周辺という首都モスクワから遠く離れた田舎で始まり、不時着した飛行機のパイロットに遭遇したNinaはパイロットになることを夢にみて西へ西へといくのである。日本から見たらどんな文化があるのかまったく想像できない地の描写も魅力的だが、戦時中のソビエト連邦の女性パイロットの物語としても秀逸である。Kate Quinnにはこの物語に絞ってぜひもう一冊描いて欲しいところである。

最初はなぜIanの書類上の妻でしかないNinaをここまで詳細に描くのかわからなかったが、物語が終盤に進み、Lorelei Vogtを追い詰める中で少しずつNinaの存在感が高まっていく。Kate Quinnの作品を全部読んでみたいと思わせてくれた一冊である。

和訳版はこちら。

「Where the Crawdads Sing」Delia Owens

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年本屋大賞翻訳小説部門受賞作品。ノースカロライナ州の湿地帯に暮らすKyaの家族は、父のアルコール依存症と暴力の前に一人、また一人と家を出て行って、最後にはKyaと父の二人だけになった。やがて父も家に戻らなくなり、Kyaは一人で野生の生き物とともに生きていくこととなった。

狼少年など、幼い子供が文明と離れて生きていく物語はあるが、この物語のKyaの場合、幼い頃は両親がいたために言葉を話すこともでき、また、人間の文化から遠く離れて生きているわけではないので、ボートの燃料を買うためにとった貝を近所のお店で売ったりして生ききているのである。両親がいないために、学校のなじむこともできずに、やがて人々から「Marsh Girl」と蔑んで呼ばれ、様々なうわさが飛び交うこととなる。

前半は、Kyaの家族がいなくなったあとに一人で生きる様子を描いている。Kyaの様子だけでなく、その近隣で見られる、鳥や植物の描写が非常に細かく、物語の展開以外にも新たな視点を与えてくれるだろう。

十代後半になると、そんな不思議な存在に魅力を感じる男性たちと恋愛関係に陥る。教育や街の生活と離れて生きていくKyaの物語。後半はそんなときに起こった一つの事件を描いている。

一人の女性を中心として自然を描いたあまり類を見ない作品。物語の展開として面白いとは言えないかもしれないが一読の価値はありである。

「The Alice Network」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
子供を身ごもって母とフランスに旅行中のCharlieは、戦時中に行方不明になった従姉妹のRoseを探して、手がかりとして手に入れた一人の女性Eveを訪ねる。その女性は戦時中に女性の諜報活動として大きな役割をになったAlice Networkの一員だった。

それまで保守的な母の言う通りに生きてきて、子供を身ごもってしまったが故に、遠くのスイスで秘密裏に子を産んで元の生活に戻ろうと母と旅行していた際に、CharlieはRoseを訪ねて母の元から逃げ出して、唯一の手がかりとし浮上したEveという女性を訪ねる。EveとEveと行動をともにしていたFinnとの3人で心当たりとなった場所を訪ね回る中で、それぞれが少しずつ心を開き始め、お互いの過去を語りはじめる。

物語は 1915年の第一次大戦中にEveが諜報活動の採用を受けてAliceと出会い少しずつ諜報活動の重要な役割を担っていく場面を交互に展開していく。現在と過去の間が少しずつ埋まっていくのである。Eveの醜い手には一体何があったのか、その美しいAliceは今どうしているのか。読者は、多くの部分に興味をそそられて先へ先へとページをめくっていくだろう。

3人がフランスの様々な場所を移動するのが興味深い。パリなどいくつかの有名な都市しか知らない僕にとっては、聞いたこともない都市が実は戦時中は戦況を分ける重要な場所だったと知って驚かされた。また、戦時中の女性たちの行き場のない怒りややるせなさも、EveやLilyの行動を通じて知ることができた。そしてなにより、この物語は、実際に存在した女性Louise de Bettignies(コードネームをAlice Dubois)を題材としているという点も、本書を通じて初めて知った。機会があったらもっと調べてみたいと思った。

この本の著者Kate Quinnの書籍に触れるのは今回が初めてであるが、他の作品もきっと深い内容だろうと思わせてくれた。ぜひ、有名な作品から順によんでみたい。

和訳版はこちら