オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
首から上と薬指以外を動かすことのできない犯罪学者RhymeとAmeriaの物語。裁判の重要な証言者となるはずの航空会社の2人を、その2人を殺すために雇われた殺し屋Coffine Dancerから守る任務を負う。
犯罪学者Rhymeシリーズの第二作目である。前作と同様、証拠至上主義のRhymeの捜査過程で、犯罪現場に残されたわずかな物質が多くを語ることに驚かされる。
また、本作品ではRhymeとAmeliaだけでなく、殺し屋のターゲットであり、小さな航空会社を経営し、自らもパイロットであるPerceyの生き方も大きく扱っている。コックピットの中が自分の居場所、というPerceyの生き方に、最初は嫌悪していたAmeliaも次第に心を通わせていく。
そして今回、RhymeやAmeliaにとって脅威となるのはCoffin Dancerと呼ばれる殺し屋。彼のもっとも強力な武器は「Deception(欺き)」である。最後まで先を読ませない展開に十分に楽しませてもらった。
カテゴリー: 英語
「The Bone Collector」Jeffery Deaver
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeは犯罪学者であり、法医学のスペシャリストである。事故によって体が不自由になったことで一線を退いたRhymeにニューヨーク市警から協力の依頼が来る。Rhymeはパートナーとして先入観を持っていない女性警察官Amelia Sachsを選ぶ。
数年前にハリウッドで映画化された物語の原作である。犯罪現場に残された塵や埃から、犯人を追い詰めていく展開は、世の中に数ある警察小説と大きく異なる部分である。身体を動かして実際に犯罪現場に趣くことのできないRhymeはAmeliaに指示して、証拠を回収させる。Ameliaは証拠の回収を重視するゆえに被害者の感情を考えないRhymeの指示に反感を覚えながらも、次第にそのやり方と重要性を理解し始める。
物語全体ではわずか数日という期間を描いたものでありながらも、その短い期間に互いの信頼を深めていくRhymeとAmeliaのやりとりが面白い。そうやって2人で協力して犯人を追い詰めていく一方で、もう一つ物語に不思議な魅力を与えているのは、Rhymeが身体の不自由を失ったがゆえに希望を失い、常に死にたがっている点だろう。そして、身体が不自由なゆえに、死ぬことすら人の手を借りなければできないのである。
死にたいと思ったことはあっても、Rhymeには死んでほしくないAmeliaと、Ameliaの思いを理解しながらもそれでも死にたいと考えるRhymeが言い合うやりとりが本作品の山場の一つといえるだろう。
映画の記憶がかなり薄れていたせいで十分に楽しむことができた。ただ、スラングがたくさん含まれているので、過去に読んだ英語の本に比べてやや難易度が高かったか。
「Kite Runner」Khald Hosseini
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アフガニスタンに住む古い友人から連絡を受けたAmir。その連絡によって子供のころから長い間悔やんでいた古い心の傷と向き合うことになる。
読み始めて気付いたのだがどうやら本作品は「君のためなら千回でも」という邦題で映画化された作品の原作ということである。アフガニスタンで幼少期を過ごし、やがてその国の歴史的混乱からアメリカに移住するAmirと、その親友Hassanの物語で、その大部分が回想シーンで展開する。
なんとも本作品を深いものにしているのは、やはりアフガニスタンという多民族国家を舞台にしているせいだろう。Amirは多数派のパシュトゥン人、一方のHassanはハザラ人。
Hassanの父親がAmirの家の使用人だったために、気付いたときにはすでに仲がよかったAmirとHassanだが、Amirは少しずつ2人の立場の違いに気付き、その事実に抗えない自分を責める。そんな幼少期から深い人種的差別と向き合わなければならないその生活が序盤の印象的な部分である。
AmirがHassanを探して町を走り回っているとき一人のクラスメイトの言葉が刺さった。
タイトルとなっている「Kite runner」。これはAmirとHassanが凧揚げの大会に参加して、その大会が大きな2人の思い出だったことから名づけられているのだろうだろう。
さて、やがてAmirは遠い地アメリカで結婚し、夢を実現させつつある。そこで受けた電話によって再びアフガニスタンに向かうのである。
僕らは9.11以降のアフガニスタンには比較的知識を持っているが、それ以前にどのようなことがあったのかを知らない。本作品からは、人種的な問題はあったにせよ、少年たちが凧揚げに熱中できるような平和な国だったことは伝わってくるだろう。
そんな歴史的背景だけでなく、AmirとHassanの悲しいけどなんとも素敵な信頼関係にうらやましくもなる。そんな作品である。読んだらみんなきっと凧揚げしたくなるはず。
「The Girl who Played with Fire」Stieg Larsson
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Lisbeth SalanderはBlomkvistと距離を置くことを決めて海外に旅に出る。一方Blomkvistは、新たな2人のパートナーと共にスウェーデンの裏に広がる性売買の実態を暴こうと動き出す。
Stieg Larsson三部作の第二作である。前半は前作「The Girl Who has The Dragon Tatoo」の後のSalander、Blomkvistとその周辺の様子が描かれて、ややスピード感に懸ける部分があるが、3つの殺人事件を機に、Salanderが追われる身となって、物語は一気に加速する。
面白いのは、事件を巡って3つの方向から真相を究明しようとする動きがあることだろう。一つは警察であり、残りの2つは、Salanderの無実を信じる、Blomkvistと、Salanderの職場である、警備会社である。
一見ただの殺人事件に見えていたものが、次第にSalanderの過去と深く関わっていることが明らかになってくる。「All The Evil」と呼ばれた日、Salanderに何が起こったのか、すべての公式な記録から抹消されたその出来事。その結末はまたしても想像を超えてくれた。
また、凶暴な売春婦と一般的に忌み嫌われているSalanderを、わずかであるが信頼している数人の人間がいて、彼らが必死になってその無実を証明しようとする姿がなんとも温かい。特に、彼女の保護者であり理解者であったPalmgrenとチェスをするシーンなどでは、彼女の中の優しさのようなものも感じさせてくれる。
物語としては文句なし。個人的にはもう少しスウェーデン語やスウェーデンの地名を知っておいたほうが楽しめるだろう、と思った。
「Child44」Tom Rob Smith
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2009年このミステリーがすごい!第1位。
時代は1953年のソビエト。大戦の英雄でありMGB(国家保安省)のLeoは内部の諍いから、妻と友にモスクワから遠い東の地に送られる。そこでLeoは子供を狙った連続殺人事件に出会う。
本作品から面白い部分を挙げればいくらでもあるが、まずは、戦後の混乱のソビエトの社会であろう。未完成な社会ゆえに、未完成な正義が幅を利かせている。KGBがその間違った正義であり、彼らに嫌われたらどんなに誠実な人間さえも容疑者にされる。そして人々は自らが密告されることを恐れるがあまり、ひたすら目立つことを恐れて生きていくのである。このような魔女狩りのような世界がわずか数十年前に隣国で存在していたことに驚いた。
さて、本作品では、そんな権力の象徴的存在であるMGBであるLeoが、その権力を失っていく。そして権力を失ったことによって正直な意見を妻のRaisaから聞かされ、そこから見えてくる真実がさらにLeoを苦しめるのである。Leoの妻、Raisaが語った言葉などはまさにどんな社会にも通じる真実を表現しているだろう。権力を持った人の周囲では人は正直ではいられないのである。
やがてLeoとRaisaは協力して連続殺人事件を解決しようとする。そんな協力関係の中で少しずつ変化していく二人の関係が大きな見所の一つである。そして、連続殺人事件の謎。何故、事件はいつも線路の近くで起きているのか、何故子供ばかりが狙われるのか。何が犯人を残酷な殺人へと突き動かすのか。
揺れ動く登場人物の心の動き、作品中から教えられる悲劇の歴史、物語展開も最後まで予想を巧に裏切ってくれた。この完成度は誰にでもオススメできる。
「Down River」John Hart
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年エドガー賞受賞作品。
5年前に町を離れたAdamの元へ、旧友のDannyから連絡が入り、Adamは生まれ育った町に戻ることを決める。殺人の容疑をかけられた町、そして母が自殺した町へ。
舞台となるのはノースカロライナ州シャーロット。大きなブドウ園を所有する地元の名士の下に生まれ幸せな子供時代をすごしながらも、母親が目の前で拳銃自殺を図ってから家族の歯車が狂い始める、Adamの行動の中からときどきそんなトラウマが見え隠れする。
5年ぶりに故郷に戻ったAdamは、義理の兄弟や旧友、昔の恋人との再会するなかで、その5年という月日の中で変わってしまったもの、そして未だ変わらないものと向き合い、自分だけでなく、多くの人が同じように5年間苦しみながら過ごしてきたことに気付く。
本作品からは、家族でブドウ園を切り盛りしようとするアメリカの一つの家庭の様子が見えてくる。これはそんな家族の中で起こった小さな間違いから生じた大きな悲劇の物語といえよう。
登場人物それぞれが持っている苦悩の描き方が印象的である。誰もが人は弱く、間違いを犯すものだと知りながらも、自分の不幸を他人のせいにしたり、自分を正当化したり、とその心は常に揺れ動いているのである。そしてそれでも月日は流れていく。近くを流れる、子供時代から親しんだ川、そしてなにかを伝えるかのように表れる白いシカ。いったい何を意味するのだろう。
「The Girl with the Dragon Tattoo」Stieg Larsson
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
名誉毀損の有罪判決を受けた、失意のジャーナリストBlomkvistの基に、すでに第一線を退いた経済界の大物、Vangerから仕事の依頼が来る。それは30年前にいなくなった当時17歳の少女の事件を解決して欲しい、というものだった。
物語の舞台はスウェーデンの田舎町である。事業家のVangerの家系ゆえに、その親類や関係者たちで居住者の多くが占められており、その日は、唯一他の場所へ行くルートとなっていた橋で交通事故が起こったため実質孤立した場所となっていた。そんな中で消えた少女。残された写真や警察の調査報告書から少しずつ真実に近づいていこうとする。
「どうして彼女は…」とか「彼女は一体何を…」というように、今は存在しない彼女の心を推し量る場面では、名作、宮部みゆきの「火車」や同じく宮部みゆきの「楽園」で味わった空気と同じものを感じさせてくれる。関係者に30年前のことをたずねて歩くうちに、それぞれが持つ思いを知っていく。
そんな Blomkvistの調査と平行して、話はタイトルにある、竜の刺青のある女Salanderの物語も進んでいく。スウェーデンを含む北欧の国々と聞くと、僕らは日本と比較してはるかに教育体制が整っているような印象を持つが、彼女はその生い立ちから、生きていくために後見人制度に頼らざるを得ない。そこで発生する問題からは、北欧といえどもまだまだ多くの改善すべき点があると感じさせてくれる。
さて、少女の失踪の秘密は、やがて聖書の中の文章と深く結びついていく。その過程で、僕の興味を強くひいたのが聖書の「外典」の話である。聖書はもともとヘブライ語で書かれているが、その原典に存在しないもの(つまり選出されなかったもの)を「外典(Apocrypha)」と呼び、カトリック、東方教会、プロテスタントでそれぞれ選定の基準が異なる。というもの。
こうやって徐々に徐々に真実が明らかになっていく物語、というのは、どうしても期待感を高めすぎてラストがそれに伴う衝撃を用意できていないことが多いのだが、本作品はその点も及第点はつけられる。
物語中で登場する多くの地名がスウェーデン語であるということから、言語にも興味を持つだろう。ただの謎解きだけでなく、ヨーロッパから、やがてはオーストラリアにまで広がるスケールと、読んでいるなかで多くの現実の問題や人々の生活に深く根付いている宗教にまで物語は広がり、非常に楽しめた。
読んでいる最中に、翻訳して出版したくなったが、先日本屋で「ドラゴン・タトゥ-の女」というタイトルで邦訳が並んでいるのを発見したので、興味がある方はそちらも手に取ってみるといいだろう。もちろん、英語で読んでも非常に読みやすい。500ページを超えるその厚さに多少躊躇するかもしれないが、読み始めれば時間も忘れて読み進められることだろう。
「HOT ROCKS」Nora Roberts
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
犯罪者である父親を持っているという過去を捨てて、新しい場所で自分の店を開いていたLaine Tavish。ある日、彼女の店に年老いた男が訪ねてくる。一方ニューヨークでは2800万ドルのダイヤモンドが盗まれたという。
恋愛小説のベストセラー作家NoraRobertsの作品。Laineの父親が絡んだダイヤモンドの強奪によってLaine自身も犯罪に巻き込まれていく。一方で保険会社に雇われて、ダイヤモンドを取り戻そうとする私立探偵のMax。Maxはダイヤモンドのありかを探るために娘のLaineに近づく。
なんといっても犯罪者の娘という設定が面白い。それゆえに物語中で見えてくる、Laineの賢さやしたたかさが彼女自身を魅力的に見せてくれる。終盤、Laineは数年ぶりに、今も犯罪を続けている父親と再会する。そこで、まだ子供だと思っていた娘が、自分の店を持ち、自分の人生をしっかり生きている姿に、ショックを受けながらもどこか誇らしげな父親Jackの態度が印象的である。その一方で、娘のLaineに会いに行くための交通手段としてさえも、車を盗み、娘にしかられる父親のやりとりもほのぼのとしていて一つの見所と言えるだろう。
父親のJackが犯罪者でありながらも憎めないのは、やはりその犯罪を通じて人を傷つけたり、被害者の人生に致命的な傷をつけるような犯罪はしないという哲学のせいだろう。ルパンやキャッツアイなど、多くの英雄的に犯罪者が持っている哲学でありがちではあるが、読者を引き付けるためには必要な要素なのだろう。
それにしても、J.D.Robbs(Nora Robertsがサスペンスを書くときに使用している名前)の著者名で書かれている巻末のエピソードが物語を複雑にしている。一体これはどういうことなのか。誰かの解説が欲しいところだ。