「Misery」Stephan King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ベストセラー作家であるPaulはある日ドライブをしていて事故に遭う。目を覚ましたそこは、彼のファンである女性Annieの家だった。Paulはそこで監禁生活を強いられながら小説「Misery」の続編を書く事を強要されるのである。
Annieの狂気や、Paulに対する残酷な仕打ちがある一方で、小説を書くという事の難しさ、深さを感じる事ができる。例えば、Paulが書いている物語の面白さに、Annieがついに結末を教えるように迫るのだが、それに対して、Paulは、自分にも結末はわからない、と答える。いくつか候補として考えている結末はあるが、どのうちのどれを選ぶかは自分にもわからないと。また、Annieの小説に対する意見も面白い。彼女は最初にPaulが書いた内容を読んでどこか違和感を感じてそれをPaulに伝える。Paulもまた、監禁されているという環境にもかかわらず、一人の読者の意見としてそれを尊重し、物語をより矛盾のない形に修正していくのである。何かKingの物語に対する価値観が凝縮されているようにも感じる。
そして、小説云々は別にしてもその強烈な描写はやはりすごい。例えば、主人公がなにかの窮地に陥った時、僕らはどこかで、このひとは主人公だから、「きっとうまく逃れるんだ」的な考えを持っていると思うのだが、そんな楽観的な部分を見事に裏切ってくれる。日本の作家五十嵐貴久の「RICA」もまたそんな残酷な行為をする女性の物語であったがどこか似た部分を感じる。ひょっとしたら五十嵐貴久もKingの作品に影響を受けたのかもしれない。

「Language of Flowers」Vanessa Diffenbaugh

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
孤児として育ったVictoriaはいままでどんな里親の元でも一緒に暮らす事を拒んできた。10歳になったVictoriaはElizabethというワイン農場の元で生活するようになるが…。そして18歳の今。
18歳になって一人で生きていく事になったVictoriaと、10歳でElizabethと会ったときの様子が交互に展開していく。なぜ今も一人で生きているのか、一体10歳でElizabethと出会ってその後何が起こったのか、そんな間の8年間に対する疑問が、ページをめくるにしたがって少しずつ埋まっていく。
本作品の魅力は、そのタイトルからも分かる通り、Victoriaの花と花言葉に対する思い入れの強さである。しかし、彼女の花に対する情熱もまた、その10歳当時の彼女のElizabethとの生活から来ているのである。
花言葉は、辞書や時代によって意味が異なり、ときには一つの花が矛盾する2つ以上の意味を持つ事もあるのだという。Victoriaはたくさんの花言葉の辞書をつきあわせて、どれがもっともその花にふさわしいか議論し、自らの一冊の辞書を作っていくのである。
そして、そんな花に対する思い入れの強さが、彼女の周囲を少しずつ変えていく。住居、仕事、恋人、そして過去。孤児として育った故に、自らを無価値な人間と蔑むVictoriaが次第に自らの価値を見つけ生き方を見つけていくのが面白い。
本作品を読んだ人はきっと花言葉に興味を持つだろう。

「Water for Elephants」Sara Gruen

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
失意のなか飛び乗った列車はサーカスの一団だった。Jacobは獣医という専門を生かしてそこで働く事となる。
サーカスで生きるという普段まず意識する事のない生き方。そんななかで同じサーカスの人々との人間関係に悩み、またサーカスという団体ゆえにそこで見せ物として活躍する動物たちとの関係も面白い。当時の上下関係や給料の支払いなどは、本物語で描かれているように、周囲が「サーカス」という言葉の華やかさに抱くほど煌びやかなものではなかったのだろう。給料の支払いが遅れる事や、支払いを諦めて団を去る者など当時のサーカス事情が伝わってくる。
あとがきを読むと、過去のいくつかの歴史的なエピソードを取り込んでいるようだ。一つの言語しか理解しないゆえに役立たづとレッテルを貼られた像。飼い主を殺してしまったゆえに電気で処刑される事になった像、など、むしろサーカスという歴史に興味をかきたてられる。
残念ながら物語自体はそれほど山あり谷ありというような面白いものではなく、もう少し読者を引き込むような展開にできなかったのかという点が残念である。

「The Shadow of the Wind」Carlos Ruiz Zafon

オススメ度 ★★★★★ 5/5

2005年バリー賞新人賞受賞作品。

1945年、10歳になったDanielは父に「本の墓場」と呼ばれる場所に連れて行かれて自分だけの一冊を選ぶように言われる。そこでであった本「The Shadow of the Wind」に取り憑かれたDanielはその著者Julián Caraxの他の本を探そうとするが、その著者の本はすべて燃やされてしまったと知る。いったい著者Julián Caraxに何があったのか。

一冊の本との出会いから始まる壮大な物語。Danielの心を「本の墓場」で出会った「The Shadow of the Wind」が掴んで話さなかったのと同じように、僕の心をこの「The Shadow of the Wind」は夢中にしてくれた。主人公Danielの友情、親子の絆、恋愛だけではなく、彼をとりこにした著者、Julián Caraxの恋愛や人間関係のもつれからうまれた壮絶な人生にまでが次第に明らかになっていく。地理的にもバルセロナからパリに広がり、当時の世界情勢も反映された見事な内容に仕上がっている。

一冊の本との出会いをきっかけに始まる物語であると同時に、Daniel自身も父とともに本屋を営む故に、読書というものの人生に与える大きさを考えさせてくれるだろう。終盤に書いてある言葉が重く響いてくる。

読む人に、その人自身の内側を見せてくれるような、全身全霊をもって取り組むような、読書の美学というのは次第に失われつつあるのだろう。すばらしい読者は月日とともに少なくなっていくのだろう。

読み終えた瞬間の喪失感のなんと大きな事か。読書の大好きな人にぜひ読んでほしい。出会えた事を感謝したくなる物語。

和訳版はこちら。

「The Hunger Games」Suzanne Collins

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
その地域を支配していた一つの地区、その権力を誇示するために、ほかの12の地区から男女1人ずつを選び、計24人の男女による生き残りゲーム、「ハンガーゲーム」を開いていた。Katnessはクジで選ばれてしまった妹Primの代わりにHunger Gameに出る事を決意する。
一言で言ってしまえばバトルロワイヤルの焼き直し、ということになってしまうのかもしれないが、それが地域間での争いの果てに起こったという背景設定や、未来の物語であるという点が異なる。また、参加者24人それぞれが異なる地域の出身であるがゆえに、その地域の属している産業や自然環境によって、得意とするもの、知識が異なるという点も面白い。
スポンサーというシステムも物語を面白くしている要素の一つである。スポンサーは自らが勝たせたい参加者に贈り物をすることができるのだ。それは水だったり食べ物だったり武器だったり薬だったりと、ハンガーゲームの戦況を左右するものになりうる。だから、参加者たちはハンガーゲーム開始前のデモンストレーションやインタビューで、可能な限りスポンサーを得ようとアピールするのだ。ハンガーゲームの趣旨に賛同しようがしまいが、それが自らの生死を左右するからである。
さて、物語の性質上優勝するのはこのKatnessなのだろう、と誰もが予想するので、興味の対象はその過程になる。ハンガーゲームの途中で仲良くなった女性とは最終的に殺し合わなければならないのか。同じ地区から出場した男性とは恋愛関係になるのか。
最後は若干行き過ぎな印象もあるが、常にスリリングな展開で、読者を一気に読ませる力のある物語。すでに2つの続編が書かれているということなので、機会があったら読んでみたい。

「Sarah’s Key」Tatiana de Rosnay

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
パリに住むアメリカ人ジャーナリストのJuliaは第二次世界大戦中のパリで起こったユダヤ人迫害事件について調べ始める。やがて彼女は当時の一人のユダヤ人の女の子Sarahにたどりつく。
ホロコーストは世界史上の指折りの悲劇なだけに、それを扱った作品は世の中に多く存在している。本書もそのうちの一つだが、その舞台をパリに据えている点がやや異質かもしれない。実際僕も本書を読むまで、パリでパリの警察によってユダヤ人たちがポーランドに送られるたということを知らなかったのである。
本書では、現代のJuliaが当時を調べる様子と並行して、第二次大戦中のパリのユダヤ人たちの様子が一人の女の子目線で描かれる。彼女こそそのSarahなのである。ある朝、パリの警察によって家を出るように促されたSarahだが、すぐに迎えに帰ってこれると思って、弟を秘密の戸棚に隠して鍵をかけておいたのだ。2人はその後無事に再開を果たすことができたのか。そしてSarahのその後は。
また、物語が進む過程で、アメリカ人でありながらフランス人と結婚して家庭を築いたJulia目線でその2つの国民性の違いが見えてくる点も面白い。
大戦中の悲劇が現代によみがえる。忘れてはいけない負の歴史に目を向けさせてくれる一冊。

Vel’ d’Hiv’(ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件)
第二次世界大戦下のフランスで行われた最大のユダヤ人大量検挙事件である。本質的には外国から避難してきた無国籍のユダヤ人を検挙するためのものだったとされる。1942年の7月、ナチスの「春の風」作戦として計画されたもので、ヨーロッパ各国でユダヤ人を大量検挙することを目的とした。(Wikipedia「ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件」
anti-Semtism(反ユダヤ主義)
ユダヤ人およびユダヤ教に対する差別思想をさす。(Wikipedia「反ユダヤ主義」
Drancy internment camp(ドランシー通過収容所)
ナチス・ドイツがフランス・パリの北東のドランシー市(セーヌ=サン=ドニ県)に設置したユダヤ人移送のための収容所。フランスのユダヤ人をポーランドの絶滅収容所へ移送するまで仮に収容しておく通過収容所だった。1941年8月の設立から1944年8月の解放までの間におよそ7万人のユダヤ人がドランシーからアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所などへ移送されている。フランスにおけるホロコーストの鍵となる地であった。(Wikipedia「ドランシー収容所」
Yad Vashem(ヤド・ヴァシェム)
ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)の犠牲者達を追悼するためのイスラエルの国立記念館である。イスラエルの首都エルサレムのヘルツルの丘にある。(Wikipedia「ヤド・ヴァシェム」

「Dead Zone」Stephen King

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校の教師のJohn Smithは幼いころの出来事によって未来が見える事がある。それでも恋人と普通の生活を送っていたが、交通事故によって4年半もの間昏睡状態に陥る。
予知能力を持った青年の物語。超能力を持つ人間の物語というのは決して珍しくない。人にはない力を持った故に起きるJohnnyの心の中の葛藤も他の多くの超能力者を扱った作品と共通する部分がある。「人には知られたくない」「普通の人間として生きたい」と思いながらも、予知能力ゆえ、知人が不幸にあうことを黙っていることはできないのだ。
本書ではそんな超能力者に対する大衆の行動も面白く描かれている。その力を利用して自らの知人や家族を捜してほしいと願うもの。スターとしてビジネスに利用しようとするもの。そのタネを見破ろうとするもの。それでも世間はすぐに忘れていくのである。
本作品で重要な役となるのは、恋人SarahとJohnnyの母Veraだろう。SarahはJohnnyが昏睡状態の間に新しいパートナーを見つけて家族を築いていたが、その後はJohnnyの良き友人となる。心身深いVeraはJohnnyのその力を見て、「神が目的を持って与えたもの」という。その言葉を強く意識するJohnnyは、最後までその力を使ってどうやって生きるべきか考え続けるのである。
そしてJohnny自身が政治に強く関心を持っていることもあり、物語は次第に大統領選へと移っていく。アメリカ国民の未来を左右しかねない大統領選。そこでJohnnyは何を見たのか。超能力者を扱った作品のなかでも傑作と言えるだろう。

Kent State Shooting
ケント州立大学で1970年5月4日起こった事件。ガードマンが67発の弾丸を放ち、4人の生徒が亡くなった。(Wikipedia「Kent State shootings」
IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)
アメリカ合衆国内国歳入庁(アメリカがっしゅうこくないこくさいにゅうちょう) またはIRS (The Internal Revenue Service)は、アメリカ合衆国の連邦政府機関の一つで、連邦税に関する執行、徴収を司る。日本でも、そのままIRS(アイアールエス)と呼称されることもあるが、内国歳入庁や米国国税庁などと翻訳される。連邦政府の機構上は財務省の外局であり、日本の省庁になぞらえれば財務省の外局である国税庁に相当する。ワシントンD.C.に本部を置く。(Wikipedia「アメリカ合衆国内国歳入庁」

「To Kill a Mockingbird」Harper Lee

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1961年ピューリッツァー賞受賞作品。
アメリカ南部アラバマ州。未だ黒人差別が色濃く残る町で生活する一家を描く。弁護士のAtticusは息子Jemと娘のScoutを信念を持って育てていく。そんなある日、彼は白人女性に対する暴行の容疑を受けた黒人男性の弁護を担当することになった。
「アラバマ物語」で知られている物語で日本でも知られており、おそらくアメリカでは知らない人はいないのではないかというぐらい有名な物語。実際、先日読んだ「The Help」の物語のなかでも取り上げられている。信念を持って弁護士を務める父、いつも一緒に遊ぶJemを、娘のScoutの目線で語る。序盤は自然の豊かで毎日外で面白いことを探して過ごす兄弟と近所のDillの様子が描かれていてほのぼのと進むが、やがて物語は黒人差別へと焦点を移していく。同時に外でいつも一緒に遊んでいたJemとScoutも年齢があがるに従って、次第に異なる生活を送るようになる。そんな多感な兄弟に、黒人の弁護を引き受け町の人々から「黒人の味方」として蔑まれる父親はどう映るのか。揺れ動きながらも成長していく様子が見て取れる。
現代から見ると、その黒人蔑視の社会はいいものとは言えないが、家族を愛する父親の信念がしっかりとその子供たちに根付いていく様子が伝わってくる。

でも、これだけは言わせてくれ、そして決して忘れないでくれ。どんな時であろうと白人がそういうことを黒人に対してするとき、それが誰であれ、どんな裕福な人だろうが、どんな権威ある家系の出身だろうが、そんな白人はクズだ。

毎日家族と過ごす時間を持てる古き良き時代の理想の父親像としても本作品を楽しむことができるのではないだろうか。

「The Help」Kathryn Stockett

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1960年代のミシシッピ州。そこでは黒人差別が未だに色濃く残っていた。黒人女性たちが家政婦として白人に仕えるなかで、ジャーナリストになる夢を持つ白人女性Skeeterは、黒人女性たちの声をまとめた本を作ろうと思い立つ。

物語は2人の黒人家政婦の生活から始まる。子供を愛するAibileenと、口は悪いがケーキを作らせたら右に出るもののいないMinnyである。

Aibileenは子供が好きで、仕えた過程の元で世話した子供たちの人数を誇りに思っていて、2人の幼い子供のいる家庭に勤めている。Minnyはとある出来事によってそれまでの雇い主から解雇され、白人のコミュニティのなかで孤立した風変わりな女性Celiaの元で働くことになる。Aibileenとその勤め先の子供達の関係も面白いが、MinnyとCeliaのおかしな関係も心を和ませる。

それほど遠い昔ではない1960年代にまだこれほどの差別が残っていたということに驚かされる。白人と黒人は、食事を同じテーブルですることもなければ、トイレやバスタブまで別のものを使うべきと信じられていたのだ。途中想起したのはルワンダのツチ族とフツ族のこと。彼らの差別は結果として大虐殺という事態に発展してしまったが、1960年代のミシシッピの黒人と白人もきっかけがあれば大きな混乱になっていたであろう。

こう書くと、当時の白人達はみんなが黒人を害虫のように扱っていたように思うかもしれないが、白人のなかにも差別を悪として親身になって黒人の家政婦たちに接していた人がいたということは知っておくべきだ。

さて、若い白人女性Skeeterは何か今までにない読み物を書こうと思い立ち、白人家庭に勤める家政婦達の声を本にすることを思いつき提案するのだが、思うように進まない。なぜなら、白人のSkeeterには簡単な決断に思えるものが、MinnyやAibileenにとっては大きな危険に自分の家族をさらすものなのである。その温度差が物語が進むにつれてひとつの目的の達成へと向かっていくのが面白い

私は周囲を見回した。私達は誰にでも見えるひらけた場所にいる。彼女にはこれがどれだけ危険なことかわからないのか...。公衆の面前でこんなことを話すということが。

本が出版されたら白人女性たちは誰のことが書かれているかわかるだろうか。黒人の家政婦たちを解雇するだろうか。そんな不安を抱えながらもSkeeter、Minny、Aibileenは秘密裏に出版に向けて奔走する。

日本は差別という現実にあまり向き合うことのない平和な国。それゆえに自分の無知さを改めて思い知らされた。物語中で引用されている人物名や組織名にも改めて関心を持ちたい。多くの人に読んで欲しい素敵な物語である。

公民権運動
1950年代から1960年代にかけてアメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)が、公民権の適用と人種差別の解消を求めて行った大衆運動である。(Wikipedia「公民権運動」
モンゴメリー・バス・ボイコット事件
1955年にアメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリーで始まった人種差別への抗議運動である。事件の原因は、モンゴメリーの公共交通機関での人種隔離政策にあり、公民権運動のきっかけの一つとなった。(Wikipedia「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」

「The Burning Wire」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズの第9弾。今回の犯人は電気を自由自在に操る。
電気を使って感電させたりすることで殺害するという今回の犯人。読み進めていくうちに感じるのは、ものすごい効率的な殺人兵器と化すにも関わらず、人々の生活にあふれている「電気」という存在に対する違和感である。極悪非道で進出機没な犯人だが、Rhymeはいつものごとく現場に残されたわずかな手がかりから犯人を追跡していく。AmeliaやPulunskiが失敗を重ねながら悪戦苦闘する姿も毎度のことながら面白い。
さて、そんな電気使いの犯人の追跡とあわせて、メキシコでは「The Cold Moon」以来、逃亡し続けている通称「Watch Maker」の追跡も逐一連絡がRhymeの元に入ってくる。遂にWatch Makerは捕らえられるのか?そんな楽しみも味わえるだろう。
パターン化している部分も感じないことはないが、相変わらずテンポよく読めるのが辞められない一因だろう。

「On the Island」Tracey Garvis-Graves

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生T.J.とその家庭教師のAnnaがモルジブに向かう途中、航空機が墜落し、やがて2人は小さな島に流れ着く。
過去いくつもの物語が作られている、無人島漂流記という題材。本作品は先生と生徒という男女でその物語が展開していく。飲み水の確保や、火をおこすことに悪戦苦闘する姿は比較的予想されているもの。その土地特有の病気もまたその一つであって、男女であればやがて恋愛関係になるのも予想通りかもしれない。
本作品で予想外のことと言えば、過去、無人島漂流記という物語は島から脱出して物語を終えるのにもかかわらず、本作品ではその後の2人の様子も描かれている点だろう。島での生活と、都会の最先端の文化での生活のギャップや、飛行機事故の生存者として有名になってしまったが故の2人の苦悩するさまなどが新しい。
すべてがフィクションではなくて、9.11やスマトラ沖地震を物語に絡めている点も面白い。

「Howl’s Moving Castle」Diana Wynne Jones

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
帽子屋の姉妹3人は、父親の突然の死によってそれぞれの道を歩むこととなる。2人の妹が家をでたあとに、帽子屋を受け継いだ長女のSophieは、突然やってきた西の魔女の魔法で年老いた女性となってしまう。
ハウルの動く城の原作である。映画のなかでSophieの見た目が若くなったり年老いたりする理由を知りたくて手に取った。そんな動機なのでどうしても映画と比較しながら読み進めてしまったが、後半はかなり内容が異なっていて十分に楽しむことができた。
物語はハウルの城で過ごすことにしたSophieとHowlに弟子入りした少年Michael、そしてHowlと火の悪魔Calciferうを中心に繰り広げられていく。とはいえそんななかにも不思議な因果関係がある。CalciferとHowlは契約を交わしており、その契約によってCalciferは城の暖炉から動くことができない。そして、Calciferは自分のHowlとの契約を解除してくれれば、西の魔女がSophieにかけた魔法を取り除くことを約束する。しかし、その契約を解除する方法はCalciferもHowlも契約によって口にすることはできないのである。
城のなかで過ごしながらSophieはなんとか、その契約を解く方法を探る。その一方で、Howlは西の魔女との一騎打ちを避けようといろいろ思考を凝らす。Sophieの2人の妹も物語に大きくかかわってくる点が印象的である。
原作を読めばいろいろなぞは解けるだろうと思っていたが、解けた部分もあれば一段と深まった部分もあり、思ったのは、もう一度映画を見なければならない、ということ。

「War Horse」Michael Morpurgo

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
イギリスの牧場でその牧場主の息子、Archureと共に畑を耕していた馬Joey。幸せな生活を送っていたJoeyだが、国が戦争へと向かう中でやがて、騎兵隊の一員として戦争に参加することとなる。第一次世界大戦の混乱を駆け抜けた一匹の馬の物語。
物語が馬Joeyの目線で進む点が面白い。戦争によって飼い主の思いも関係なく戦争に参加することを強いられる。戦争という混乱の中ゆえにJoey自身にも多くの出会いと別れがある。尊敬できる馬との出会い。嫌いな馬との出会い。頑張り屋のポニーとの出会い。馬の気持ちを理解してくれる将校や、若い兵士、やさしい少女との出会い。
もちろんJoey自身は動物なのでいななくことしかできないが、その周囲で同じように戦争に参加する人々がひとり言のようにJoeyに向かって語る言葉が、戦時中の人々の本音を表しているようだ。

俺にはわかる。俺だけた唯一この部隊のなかで正気な人間だって。おかしいのは他の奴らさ。でも彼らはそれがわからない。彼らは理由も知らずに戦うんだ。
どうしてなんだ・・・。どうして戦争はすばらしいもの、美しいものを何でも、何もかも壊してしまうんだ。

動物という純粋さのせいだろうか、人間同士の物語であれば見慣れた出会いや別れの物語が、動物目線にするとこんなにも感動的な物語になるのだ。

「Only Time Will Tell」Jeffrey Archer

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1919年にイギリスに生まれたHarry Cliftonを描く。
父のいない貧しい家庭で育ったHarryが成長する様子を描く。面白いのは物語がHarryだけでなく、母Maisie Cliftonやよき助言者となったOld Jackなどの目線で展開する点だろう。
そのHarryの成長する過程で多くの困難を乗り越え、そして父の死の真相と向き合うことになる。物語的面白さだけでなく当時のイギリス歴史やその生活が見えてくる点が興味深い。
残念ながら本作品は「The Clifton Chronicles」の第1作ということで、イギリスが戦争に向かうところで物語を続編へと譲ることになるが、続編もぜひ近いうちに読んでみたい。

「Relentless」Simon Kernick

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2人の子供に恵まれた普通の幸せな結婚を楽しんでいたJohn Meronはある日、旧友からの久しぶりの電話を受けて以降、追われる身となる。真実が見えないまま家族を守るためにMeronは奔走する。
ジェットコースター小説というものがあるならまさにそれ。物語の大部分でMeronは逃走、銃撃戦、誘拐、拉致と言ったスリリングな内容で占められている。ハリウッド映画を見ているようなスピーディな展開で栄が向きな物語と言えるだろう。
逃走劇の渦中にいるMeronとその妻Kathyだけでなく、過去につらい出来事ゆえに犯罪捜査に対して違った思いを抱き続けるBoltの心の内なども印象的である。
そして次第に明らかになる大きな犯罪の影。結末に関してやや説明不足の部分もあるような気がするが、一気に読める内容である。また物語の舞台がイギリスという点も面白い。

「No Time for Goodbye」Linwood Barclay

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ある朝、14歳の少女Cynthiaが目覚めると父も母も兄もいなくなっていた。それから25年後、結婚して娘と3人で暮らすCynthiaはいまだに25年前の夜の出来事を忘れられずにいた。
物語は家族の失踪から25年後、Cynthiaの夫のTerry目線で進む。過去の経験から娘のGraceから目が離せないCyinthia。それに対して、過去を忘れて前へ進むべきだと主張するTerry。前半は、そんなぎくしゃくした家族のやり取りで展開する。
印象的なのは25年間、失踪した家族の理由を考え続けて、何度も「自分のせいかも?」と自分を責め続けたCynthiaの心のうちだろう。
家族の失踪に対して物語的に説明をつけようとすればいくらでも説明のつく出来事を考えることはできる。それゆえに期待はずれな結末を覚悟したりもしたのだが、結末に待っていた真実は予想以上に深く泣ける家族の物語だった。
おそらく今年もっとも泣かされた物語。

その後の数時間に起こったことによって、そのメモはただのメモではなく、母親が娘に遺した最後のメモになってしまった。

「Fire Starter」Stephen king

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
実験的投薬によって不思議な力を身につけたAndyとVicky、しかし2人の娘Charlieはさらに強力な力を持つこととなる。それは念じるだけで火をおこすことのできるパイロキネシスだった。AndyとCharlieはその力のために組織Shopから追われることとなる
宮部みゆきのクロスファイアのもととなった物語と聞いて非常に興味を持って手に取った。物語の鍵となるのパイロキネシスという能力を持ちながらもその力をコントロールしきれないゆえに自らの力におびえる7歳の少女Charlieと、その父親で人の心を操作する能力を持つAndyである。
2人はその逃避行のなかでたびたびその力を使わざるを得ない状況に陥るのだが、使い過ぎることによって自らの体力や命さえも脅かすのである。個人的にはCharlieの力が無意識に出てしまうシーンなどが印象的だ。たとえば、泣きわめくCharlieの横で、温度計の目盛りがじわじわ上がっていくのを見て、なんとかCharlieに平静さを取り戻させようと努めるAndyのシーンや、階段を降りようとしてテディベアのぬいぐるみにつまずいた次の瞬間にぬいぐるみが燃え上がるシーンなどがそれである。
さて、超能力者を中心にすえた物語は多々あるが、終わりはだいたいその人が死ぬか能力を失うか、である。Stephen Kingがこの物語をどうやって終わらすか、という点も途中から僕の興味をそそる部分だったのだが、その点も及第点をあげられるだろう。幼い女の子Charlieがその年齢に似合わないたび重なる試練を乗り越えて成長していく物語としてその心の揺れ動くさままでしっかりと描かれている。
ややスピード感に欠けると感じる部分もあるが非常に満足できる内容である。

「Dog On It 」Spencer Quinn

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
探偵のBernie Littleは行方不明になった少女Madisonを愛犬のChetと一緒に探すことになる。
本作品は徹底して、犬のChet目線で進む。彼のコミカルな語り口調が本作品の最大の魅力だろう。言ってしまえば、物語自体は、事件に巻き込まれた行方不明の少女を探すというありきたりな展開だが、Chetの目線ゆえに非常に面白く味付けされている気がする。
犬ゆえに匂いに非常に敏感で、一方で色の判別に自信がない。そして、主人のBernieがいないと、カギがかかってなくてもノブを回すことさえできないゆえに部屋から出ることもできない。重要なことをうったえようと吠えはするけれども食べ物をもらうとすっかり何をうったえようとしていたかすっかり忘れてしまう。など、そんな犬ならではの言動が非常に面白く描かれている。
展開として興味深いのが、Chetだけは早々に犯人の隠れ家に連れて行かれて、場所も犯人も知っているにも関わらずそれを人間のBernieに伝えることのできない、という点だろう。あまり海外作品でこのようなノリのものを読んだことがないので新鮮だった。シリーズ作品らしいので続きもぜひ読んだみたい。

「The Waste Lands」Stephen King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Dark Towerシリーズの第3弾である。前作では元の世界は荒野でも舞台はそこに現れたドアが続いているNewYorkだった。しかし、今回いよいよ、Roland、Eddie、Susannahは荒野、本作品ではやがてMid-Worldと呼ばれるようになる世界の旅が中心となる。
序盤は第一弾「Gunslinger」で登場した少年、JakeをNewYorkからMid-Worldへつれてくることが山場となる。そして4人となった彼らは引き続き、DarkTowerを目指す。
さて、そんななか本作品はなぞなぞが鍵となる。引用される英語のなぞなぞはどれも興味深いものばかり。例えばこんななぞなぞである。。

What is the difference between a cat and a complex sentence?

これに対する答えはこうなのだそうだ。

A cat has claws at the end of its paws, and a complex sentence has a pause at the end of its clause.

日本のなぞなぞとは少し異なり、答え方が韻を踏む、というのがあるようだ。本作品中で4人はなぞなぞについて繰り返し語り、そんななぞなぞが4人の冒険を大きく左右することになる。
やや終わり方が中途半端な気がするが、今までおぼろげだった世界の全貌が少しずつ明らかになってくる、シリーズの展開を一気に加速させてくれる一冊である。

「The Broken Window」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Rhymeのもとへ長い間連絡を取っていなかった叔母から電話があった。従弟のArthurが殺人の罪で逮捕されたと言う。しかし、Arthurは人を殺せるような人間ではない、調べていくうちに、無実の人間を容疑者に仕立て上げ、自分はのうのうと生きている人間がいることがわかる。
犯罪学者Lincoln Rhymeシリーズの第8弾。今回の相手は「すべてを知る男」。情報化された個人情報を利用し他人になりすまし、その人間の前科、習慣、趣味、商品の購入履歴などを基に、もっとも犯人にしやすい人間に狙いを定めて、その家や車に犯罪の起きた場所とつながる証拠をおく。
捜査の過程で浮かんできたデータマイニングという業界。その業務は人々のすべての情報をたくわえ、整理しそれを企業に提供するというもの。むしろそれは近い未来への僕らの生活に対する警鐘のようだ。犯人によってクレジットカードを勝手に使用され、犯罪にりようされて生活を破壊された元医師の言葉など、ただフィクションという言葉で済ませられないものを感じる。

人々はコンピューターを信じるんだ。コンピューターが、あなたはお金を借りていると言えば、あなたは金を借りているということになるし。あなたは信用に値しないと言えば、たとえ億万長者だろうが、信用されない。人はデータを信じて、事実なんて気にしないのさ。

それでもいつものように次第に犯人を追い詰めていく。
さて、今回もAmelia Sachsはもちろん、ルーキーから少しずつRhymeに鍛えられて成長しているRon Pulaskiも非常にいい味を出している。無実の罪で捕らえられたArthurがRhymeの従兄弟ということで、シリーズ内であまり語られなかったRhymeの学生時代に触れられている。個人的には犯人との対決よりも、その学生時代の物語により引き込まれた気がする。