オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父親のいない息子に射撃を教えるために、射撃のコースを受けていたMila Pavlichenkoは、ドイツがソ連に侵攻したことで歴史家になる夢を保留して祖国を守るために兵士に志願する。
若くしてシングルマザーとなったMilaが狙撃手としてドイツ兵と戦う物語である。物語は若くして子を持ち夫との離婚手続きを進めながらも歴史家を目指すMilaが、ドイツがソ連への侵攻を開始したことによって大きく人生を狂わされ、やがて多くの仲間と共に狙撃手として活躍する様子と、一方でその数年後、Milaを含むソ連の兵士たちがアメリカのホワイトハウスを訪れる様子を並行して描いている。
ドイツ兵と戦う戦場での物語では、少しずつ信頼できる仲間と出会い、女性ながらも確固たる地位を築いていく様子が描かれる。一方、ホワイトハウスででは、女性が戦場で狙撃手として戦うことに理解のないアメリカ人を相手に、ヨーロッパ戦線にアメリカも加わってもらうことの必要性を各地で訴えるMilaと、それを理解しようとするルーズベルト夫人の様子が描かれ、また、Milaを大統領殺人の犯人に仕立て上げようとするる悪意ある視線が描かれていく。
序盤はオデッサが美しい。本書はロシアのウクライナ侵攻以前に執筆されたということであるが、Milaがウクライナ出身でありながらもロシア人として埃を持って戦っている点が、現在の状況を考えるとなんとも悲しく感じる。
全体を通じて、Milaはどこにでもいる普通の母親だったことがわかる。普通の母親が、息子、友人、家族のためにできることをしようとした結果、狙撃手となったのである。最初はフィクションだと思って読み進めていたが、あとがきによると実はかなり実話に近く、実際にMilaはエレノア・ルーズベルトと親しくしていたことがわかる。エレノア・ルーズベルトという人物に対してももっと知りたくなった。
また、The HuntressのNinaもそうだが、ソ連は女性を兵士として戦場に送り出していた数少ない国だったのだと知った。今回の物語のなかでまたMilaの友人たちで魅力的な登場人物が出ており、著者もあとがきでそのうちその女性たちを主人公に物語を書きたいと書いてあったので楽しみである。