「The Last Child」John Hart

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2010年バリー賞長編賞受賞作品。2010年エドガー賞受賞作品。
双子の妹が誘拐されて行方不明になってから、13歳のJohnnyの世界は変わってしまった。父親は失踪し、母親は失意の日々を送っていた。それでもJohnnyは強くいき続けた。
「Down River」に続いて、John Hartは本作品で2冊目となる。彼の作品はどうやら家族のありかたを常に意識しているように見え、本作品にもそんな要素が詰まっているように感じた。母と子、父と子、Johnnyとその母Katherineだけでなく、彼らに対して親身になって接する刑事Huntとその子Allenや、Johnnyの親友であるJackとその父Cross。
いずれも家族として崩壊しているわけではないが、どこか歯車のかみ合わない関係を続けている。ところどころでお互いに対する不満がにじみ出てきて、その予想外の不満に戸惑い、それでも修復して「家族」であり続けようとする意思が根底に見えるあたりに、何か著者のうったえたいものがあるような気がする。
一気に物語に引き込むような力強さはないが、じわじわと読者の心を覆い尽くしていくような独特な世界観がある。そんな世界観に多くの人が涙するのではないだろうか。

「Down River」John Hart

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年エドガー賞受賞作品。
5年前に町を離れたAdamの元へ、旧友のDannyから連絡が入り、Adamは生まれ育った町に戻ることを決める。殺人の容疑をかけられた町、そして母が自殺した町へ。
舞台となるのはノースカロライナ州シャーロット。大きなブドウ園を所有する地元の名士の下に生まれ幸せな子供時代をすごしながらも、母親が目の前で拳銃自殺を図ってから家族の歯車が狂い始める、Adamの行動の中からときどきそんなトラウマが見え隠れする。
5年ぶりに故郷に戻ったAdamは、義理の兄弟や旧友、昔の恋人との再会するなかで、その5年という月日の中で変わってしまったもの、そして未だ変わらないものと向き合い、自分だけでなく、多くの人が同じように5年間苦しみながら過ごしてきたことに気付く。
本作品からは、家族でブドウ園を切り盛りしようとするアメリカの一つの家庭の様子が見えてくる。これはそんな家族の中で起こった小さな間違いから生じた大きな悲劇の物語といえよう。
登場人物それぞれが持っている苦悩の描き方が印象的である。誰もが人は弱く、間違いを犯すものだと知りながらも、自分の不幸を他人のせいにしたり、自分を正当化したり、とその心は常に揺れ動いているのである。そしてそれでも月日は流れていく。近くを流れる、子供時代から親しんだ川、そしてなにかを伝えるかのように表れる白いシカ。いったい何を意味するのだろう。

シャーロット(ノースカロライナ州)
ノースカロライナ州南西部に位置する商工業、金融都市。(Wikipedia「シャーロット(ノースカロライナ州)」