「The Huntress」Kate Quinn

オススメ度 ★★★☆☆ 4/5
第二次世界大戦後、多くのドイツ人将校たちがニュルンベルク裁判で有罪判決を受けたが、小規模な戦争犯罪者たちは名前を変え、国外で普通の暮らしに戻っていた。そんな戦争犯罪者に弟を殺された戦争ジャーナリストのIanと仲間たちは世界中に逃亡した戦争犯罪者たちを正義のもとに引き出そうとしていた。

物語は三つの物語が織り混ざって進む。IanとTonyは戦争犯罪者を追い詰める組織を維持しながら、Ianの弟を殺したLorelei Vogtの足取りを探していく。一方、時代を遡ってソビエト連邦の東の果て、バイカル湖の近くの田舎町で育ったNinaは、やがてパイロットとを目指して西へと向かう。アメリカのボストンに父とクラス女性Jordanは父の再婚相手に不信を感じながらも少しずつ新しい生活に馴染んでいく。

まず何よりも戦争犯罪というと、ナチスのヒトラーや映画にもなったアドルフアイヒマンという大量殺戮に関わった人物しか考えたことがなく、本書で扱っている数人程度を殺害した戦争犯罪者という存在事態を考えたこともなかった。そんな小さな戦争犯罪者たちをIanとTonyは探し出し裁判を受けさせるようと活動しているのである。本書ではやがて、Lorelei Vogtという女性一人に絞って、Ianの妻Ninaと3人でアメリカに渡るのである。

一方で、ソビエト連邦のパイロットのNinaの物語が、この物語だけで一冊できそうなほどの濃密なのも驚きである。Ninaの物語は、バイカル湖周辺という首都モスクワから遠く離れた田舎で始まり、不時着した飛行機のパイロットに遭遇したNinaはパイロットになることを夢にみて西へ西へといくのである。日本から見たらどんな文化があるのかまったく想像できない地の描写も魅力的だが、戦時中のソビエト連邦の女性パイロットの物語としても秀逸である。Kate Quinnにはこの物語に絞ってぜひもう一冊描いて欲しいところである。

最初はなぜIanの書類上の妻でしかないNinaをここまで詳細に描くのかわからなかったが、物語が終盤に進み、Lorelei Vogtを追い詰める中で少しずつNinaの存在感が高まっていく。Kate Quinnの作品を全部読んでみたいと思わせてくれた一冊である。

和訳版はこちら。

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第156回直木三十五賞、2017年本屋大賞受賞作品。

ピアノコンクールに集まったピアニストたちの様子を描いている。

マラソン大会だけを描いて1冊を終える「夜のピクニック」も驚きだったが、本作品も、数日間にわたって行われるピアノコンクールのみを扱っており、その前後の物語はほとんどない。参加者の視点、審査員の視点、参加者の妻や友達の視点に切り替わりながら、文庫本にして2冊の量を読者を飽きさせずに読ませ続ける。それぐらいピアノコンクールという多くの人にとって未知なイベントを、ドラマチックに仕上げているのである。

物語は、ピアノに情熱を注ぐ4人の人を中心に描いている。かつては天才少女として活躍したにもかかわらずピアノをやめていた栄伝亜夜(えいでんあや)20歳、サラリーマンの高島明石(たかしまあかし)28歳、優勝候補のマサル19歳、自宅にピアノを持っていないという異色の環境の風間塵(かざまじん)16歳である。

1次予選、2次予選、3次予選とコンクールは進み、少しずつ調子をあげていく人もいれば、緊張で実力を発揮できない人もいる。間違いなくシビアな世界で、多くの人が報われずに終わるとわかっていても、そんな舞台に出て戦うことを選んだ人生を羨ましくも感じてしまう。

音楽を奏でるということをやってこなかった読者にも、音楽を奏でることの魅力が十分に伝わってくる。きっと多くの人が本書を読んだ後に、その音楽を聴こうとYouTubeを彷徨うだろう。直木賞、本屋大賞のダブル受賞も納得の一冊。

【楽天ブックス】「蜜蜂と遠雷(上)」「蜜蜂と遠雷(下)」

「みかづき」森絵都

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
昭和36年、小学校の用務員室で勉強についていけない子供達に勉強を教えていた大島吾郎(おおしまごろう)の元へ、生徒の母、赤坂千明(あかさかちあき)がやってくる。学習塾を一緒に作るためであった。戦後から平成まで、千葉で始まった学習塾の物語である。

物語は、大島吾郎(おおしまごろう)が赤坂千明(あかさかちあき)立ち上げた八千代塾が、時代の波に乗って大きくなる様子。そして、大島家の
家族の様子が描かれている。教え方や、補習塾と進学塾の方針の争い、学習塾の生き残りをかけたいやがらせ工作や合併など、今まで漠然としか知らなかった塾業界の様子がよくわかるだろう。

今でこそ学習塾の存在は当たり前で、むしろ塾に行ってない人のほうが珍しい時代だが、昭和30年代40年代は、塾に行っている生徒は白い目で見られたという、それが少しずつ変化し、平成に入ると塾に通ってない生徒の方が珍しい存在となっていく。また一方で、企業としての塾と、行政としての教育委員会の関係も少しずつ変化していくのである。

本書では、教育は常にどこかが足りないと感じながらも、それを補おうと努力するぐらいがちょうどいいと言っている。

欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むものかもしれない

描かれている時代も長く、登場人物も多く読み応えがある。教育に関心がある人にはぜひ読んでほしい一冊である。

【楽天ブックス】「みかづき」

「簡単だけど、すごく良くなる77のルール デザイン力の基本」ウジトモコ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

デザイナーの著者がいいデザインをするためのルールを説明する。

僕自身も20年以上デザイナーとして生きている人間なので、本書に書いてあることの多くが、毎日取り組んでいる考え方ばかりである。しあし、それでも改めて「この考え方は重要だ」と再認識したことや、今まで考えてもいなかったこと、無意識に実践していたことを言語化した表現に出会うことができた。

「良い」「悪い」≠「好き」「嫌い」
共感するから心が動く

デザイナー向けというよりも、いいプレゼン資料を作りたいビジネスマンや、デザイナーと関わる非デザイナーのための本であるが、デザイナーが読んでも、新たな気づきがあるだろう。

【楽天ブックス】「簡単だけど、すごく良くなる77のルール デザイン力の基本」

「サードドア 精神的資産の増やし方」アレックス・バナヤン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ビル・ゲイツやスピルバーグ、レディ・ガガはどのようにしてその偉大なるキャリアの最初の一歩を踏み出したのか、そんな成功者の最初の一歩を本としてまとめることを思い立った著者は行動を始める。そんな著者の悪戦苦闘しながらインタビューを繰り返す様子を描いている。

ウォーレンバフェットやビル・ゲイツに話を聞くためになんども断られながらも少しずつ、著名人の間で人脈を築いていく様子が描かれており、何事もくじけずに分析し戦略を練って行えば少しずつ実現できるのだと伝わってくる。その過程で、ビル・ゲイツやレディ・ガガ、ジェシカ・アルバやウォーレン・バフェットなどの人柄も見えてくる点も面白い。

なかなか本書のどこが役に立つとは言えないが、諦めずにしつこくメールを送り続けて失敗した話もあるので、よく言われがちな「なにごとも諦めなければ達成できる」という形ではない。人脈をつくるために戦略を練ることも重要だし、一つの方法に固執することもなく考え付く限り多くの場所に種をまき、芽が出たところを攻めるという方法も効果的だということがわかる。

企業や組織だと「広報」という仕事があるが、個人で人脈を広げることに今まで意識をしてこなかったので、これを機会にできることをやってみたいと思った。

【楽天ブックス】「サードドア 精神的資産の増やし方」

「Grid Systems」Kimberly Elam

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
グリッドシステムについて知りたくて、グリッドシステムの世界的に有名な著書の一つである本書にたどりついた。

多くのデザイナーが無意識のうちに綺麗にレイアウトするために身につけていることだろう。しかし、デザイナーには美しいものをデザインするだけでなく、周囲の関係者たちを納得させることも必要なのである。本書は良いデザインを言語化する手がかりにあふれている。

The Law of Thirds
3×3のグリッドシステムでは、4つのグリッドが交差するポイントが視覚的な焦点となる。
The Circle and Composition
ワイルドカード要素として、円はレイアウト上のどこにでもおくことができる。テキストの近くにおけばそのテキストへ注意をひきつけられる。テキストの間に配置すれば、その情報を分けることができる。テキストから遠くに配置すれば、注意をひきつけ、視線のフローを操作できるし、全体のバランスを整えることにも使える。

最近ではあまりグリッドシステムを用いたデザインというのは少ないのかもしれないが、知識として知っておくとデザイン作業よりむしろデザインの意図を伝えるに当たって大いに役に立つと感じた。

「A/BTesting:Practical Insights and Common Pitfalls」Divakar Gupta

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ABテストの手法、ツールについて語っている。

序盤は簡単なABテストの説明をしており、中盤からはABテストで起こりがちな落とし穴、またABテストのためのツールなどを紹介している。大部分はABテストの15の落とし穴にページを割いており、いくつか興味深いものがあった。いつでも言及できるように覚えておきたい。

Running an A/B test without thinking about statistical confidence is worse than not running a test at all — it gives you false confidence that you know what works for your site when the truth is that you don’t know any better than if you hadn’t run the test

平均値のみを気にする


例えば新しいUIをリリースして、次の一週間のアクセス数が大きく伸びたとしても、日別に伸びているかを確認すべき。一日だけ極端に伸びた結果全体の数値を上げているのだとしたらそれは別の要因によるものだからだ。

「なぜ」を知ろうとしない

例えばABテストが失敗した場合、機能が良いものであるにも関わらず、デザインがよくなかったり説明が悪かったりする。単純に失敗した、だけでなく、「なぜ」失敗したかを知ることは、さらなる成功へ近づくのである。

正直、あまり順序立てた書き方をしておらず、よくあるABテストの落とし穴を思いつくまま羅列しているような内容なので退屈で頭に入りにくいが、もう一度じっくり読み直してみたいと感じた

「遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 改題:美学としてのグリッドシステム」ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第二次世界大戦後のグラフィックデザインをリードした著者がその生涯を語る。

グリッドシステムを学びたくてグリッドシステムの提唱者である著者の名前で検索したところ本書に出会った。デザインに情熱を注いた人の人生は、自分のデザイナーとしての考え方になにかしらプラスな部分があるだろうと考えて手に取った。

1914年に生まれた著者は、授業中にノートに描いていた落書きを褒められたことによって、少しずつデザインの世界に傾倒していく。少しずつ仕事を手にして有名になっていった著者は、1960年には日本でもデザインの教育に関わる。20年間連れ添った妻を交通事故で亡くした後、日本人の吉川静子(よしかわしずこ)と結婚する。

戦時中にすでに海外のデザイン教育はここまで進んでいたことに驚く。タイポグラフィの行間をひたすら研究する著者のこだわりに触れると、現在のデザイナーたちが簡単に行なっているグラフィックデザインが、ずいぶん表面的だけのことのように思えてくる。また、日本での教育や、妻が日本人であるこということで、グリッドシステムの著者が日本と大きなつながりを持っていることにも驚かされた。

その後著者はIBMのデザイン顧問に任命され、グリッドシステムを確立する。

グリッドシステムは完璧な秩序をもたらすシステムとして価値があるばかりでなく、与えられた仕事を計画し構成するために必要な情報や指示を、あらかじめすべて含んでいる。

終盤では軽くグリッドシステムについて触れているが、とても満足の行く内容ではなかったので、改めて「グリッドシステム」を読んでみたい。

著者のグラフィックデザインにかけた人生はデザイナーとして大きな刺激となった。

【楽天ブックス】「遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 改題:美学としてのグリッドシステム」

「Google Analyticsで集客・売上をアップする方法」玉井昇

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Google Analyticsで取得できる数値からどのようにWebサイトを改善するかを説明している。

Google Analyticsを導入するとそのたくさんの数値に驚くが、結局その数値をどのようにWebサイトの改善につなげたらいいかわからない人も多いだろう。今回は僕自身が久しぶりに仕事でGoogle Analyticsの数値からアクションプランを考えることになったので、本書を手に取った。

一番わかりやすく使えそうなアクションの方法は、たどり着いた検索キーワードによって、滞在時間、直帰率を見る方法である。もし、あるキーワードから一定数のアクセスがあるにも関わらず、滞在時間が短い、または直帰率が高いというような現象が観察できたなら、そのキーワードの記事をもっと増やすべき、ということである。

ほかにも知らなかったGoogle Analyticsの機能についていくつか触れられているが、実際に動かしながらやらないと身につかないだろう。また、GoogleAnalyticsの現状のバージョンとの違いからか、すでにない機能について語られている部分もあったので注意が必要である。

もう一度分析をしながら読みすすめてみたい。

【楽天ブックス】「Google Analyticsで集客・売上をアップする方法」

「たゆたえども沈まず」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の美術を世界に広めるべくパリに渡った2人の日本人、林忠正(はやしただまさ)、重吉(じゅうきち)が、同じくパリで美術を生業とする2人のオランダ人と出会う。

2人のオランダ人とは、テオとフィンセント・ファン・ゴッホである。弟のテオは当時のフランスの主流派な絵画を扱う仕事をしながらも、浮世絵や印象派などの新しい芸術の流れに惹かれていく。一方で兄のフィンセントはテオの収入に頼って安定しない生活をしながらも、少しずつ絵描きとして生きることを目指していく。

今でこそ、印象派や浮世絵は絵画の一つの流れとして認知されているが、それまでの宗教画などの世界では当時異端として扱われ、よのなかに認められるまでに時間がかかったことがわかる。また1800年代には3回の万国博覧会が開かれるなど、パリが世界の文化の中心だったことが伝わってくる。本書に登場する林忠正(はやしただまさ)は実在の人物で、日本の文化や美術の普及に努めたことがわかった。本書の物語を通じて、世界的でもっとも有名な画家の一人であるゴッホの人生に、日本人や日本の文化が大きく影響を与えたことがわかる。日本人として誇らしさを感じさせてくれる。

ゴッホの狂気の人生は絵画に詳しくなくても知っている人は多いだろう。しかし、本書のように弟のテオとの関係のなかでその人生に触れるとまた違った面が見えてくる気がする。同じように、これまで美術の一派に過ぎなかった、印象派、浮世絵というものについても新たな視点を与えてくれる。

【楽天ブックス】「たゆたえども沈まず」

「続・インターフェースデザインの心理学」 Susan Weinschenk

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ユーザーがWebやアプリのデザインに対してどのように行動するかを、科学的に検証し、それを説明している。

科学的な検証結果を説明している一方で、作業工数などは一切考えていないので、実践的ではないという批判もあるかもしれないが、知識と知っているだけで多少役に立つこともあるのではないだろうか。

いくつか本書の中で今後のデザイン業務に活かせそうだと思った事柄をあげると次の2点である。

人は左右対称を好む


これはすべて左右対称にするべきということではなくて、非対称のデザインはむしろ人の注意をひくために効果的な場合もあるということなので、安心感を与えたいか、注目させたいかを判断して状況に応じて使い分けるべきなのである。

感情と視線の戦いでは感情が勝利する


デザインに人の画像を入れる場合、その視線をユーザーは追うからその視線の先にボタンなどを配置する、というのは多くのデザイナーが実践している手法だが、本書の実験結果では、単に視線が向いているだけでなく、表情に感情が現れている方が効果的という。今後写真素材を選ぶ際は感情も含めて考えたい。

デザイナーは美しいものをデザインするだけでなく、周囲の非デザイナーを説得する必要性も日常的に発生する。そのようなときにこのような話ができるとより説得力が上がり、信頼できるデザイナーになるかもしれない。

【楽天ブックス】「続・インターフェースデザインの心理学」

「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」越前敏弥

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
学習塾や予備校の講師などの経歴を持ち「ダヴィンチコード」などを訳した経歴を持つ翻訳家としても活躍する著者が、日本人が間違いがちの英語を集めてそれを解説する。

英語の勉強も英検1級を取得したあたりでひと段落した感じだが、学べば学ぶほどネイティブとの語彙力の差は感じるばかり。定期的に英語力のさらなる向上に努めているなかで本書に出会った。

結構な英語上級者でも序盤のいくつかの例文を見ただけで自信が吹き飛ぶだろう。まったく意味がとれなかったり、完全に意味を真逆にとらえてしまう例文がいくつも含まれているのである。著者の詳細な解説によって、本書を一回じっくり読むだけでも英語力は一段階レベルアップすることだろう。

章と章の間に含まれている著者の対談の様子も面白い。印象的だったのは著者が日本語訳の重要性を強調している点だろう。昨今、英語教育は文法や日本語訳から、よりコミュニケーションという方向にシフトしているが、それによって「なんとなくわかった」気になってしまうのが危険だという。自分の理解したことが本当に正しかったかは日本語訳にして確認することで初めてわかるというのである。

続編があるならえひそれも読んでみたい。この著者の英語の書籍を全部読んでみたいと感じた。

【楽天ブックス】「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」

「アマゾンのすごいルール」佐藤将之

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5

アマゾンジャパンの立ち上げ当初にアマゾンに参加した著者がアマゾンの文化について語る。

著者がアマゾンについて思うことや、著者のアマゾン人生のなかでの印象的な出来事をほとんどランダムに書き連ねているので、読みたい場所から読むことができるといえば聞こえがいいが、物語も筋もないので記憶に残りにくい。

それでも、自分の働いている会社でも取り入れたいなと思ったものは、「1ページか6ページでまとめる」という制度。提案資料を長々と書くのではなく、誰でも簡潔に要点を把握できるようにページ数をルール化しているのである。これによって提案者は高い文章作成能力を求められるのだという。確かに過去を振り返ってみれば、仕事のなかでたくさんしゃべることはしゃべるが結局何が言いたいのかわからない、という人はたくさん存在し、積み重なればそういう人の意見を聞く時間も組織にとっては無視できない大きさであることを考えると、このアマゾンの1ページルールはぜひ真似したい制度である。

そのほかにもほかの企業にはないような制度があふれている。あまり知らなかったアマゾンという企業の文化に少し触れられた気がする。

全体的にはもう少し内容の濃いものを期待していたし、物語的な要素も欲しかった。

【楽天ブックス】「アマゾンのすごいルール」

「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」リーアンダー・ケイニー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2011年にスティーブ・ジョブスがなくなって、多くの人がアップルは衰退していくと思ったことだろう。しかし実際にはその後CEOの座に就いたティム・クックによってアップルは世界初の一兆ドルの企業となった。ジョブスとは多くの面で異なるCEOはどのようにしてアップルを進化させたのかに迫る。

正直この本に出会うまで、ジョブスの後のアップルのCEOを知らなかった。もちろん、名前を聞いたことはあったのしてもすぐに思い出せるほど認識していなかった。しかし、実際にはジョブスの死後アップルはさらに発展したと知って、どのようにティム・クックがアップルを導いたのかを知りたくなって本書を手に取った。

本書でもっとも興味深いのは、ティム・クックのものの考え方である。

世界を我々が発見したときよりも良い場所にして後に残す

これはティム・クックが繰り返し引き合いに出し、今やアップルという企業自体のものの考え方にもなっている言葉である。実際、アップルはジョブスの死後、一気に環境や自分たちの関係会社のケアや、慈善団体への寄付など、世の中に良い行いをする方向へ大きく舵をきったのである。また、ティム・クックは同性愛者であることを公開しており、それゆえにジェンダーマイノリティでや、アジア系、メキシコ系などの少数派に対する理解が強い。それも企業としての強みになっているのだろう。

本書のクライマックスは、サンバーナーディーノで14人の死者を出した狙撃事件の容疑者のiPhoneのロックの解除を巡ってFBIと争った場面である。悲劇的な事件を起こした容疑者の捜査という正義を理由に、iPhoneのロック解除の権限を求めたFBIに対して、それによって引き起こされるユーザー情報の危険性を懸念してアップルは拒否するのである。

必ずしも正しいことは、多くの人の支持を集めるわけではない。それでもアップルの決断は、やがて理解され多くの人の支持を集めるのである。

ティム・クックによって、すばらしい製品を生み出していたアップルが、さらに人格的にも優れた企業となったのだと感じた。

【楽天ブックス】「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」

「Becoming」Michelle Obama

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ミッシェル・オバマが、ピアノの先生の上の階に家族で間借りしていた幼少期から、バラック・オバマとの出会い、そしてバラックが大統領としての任期を終えるまでを描いている。

序盤はミッシェルの子供時代を描いている。ファーストレディとなった人だから黒人とはいえ裕福な家庭に育ったのだろうと想像していたが、まったくそんなことはない。それでも両親の考え方がミッシェルのその後の生き方に大きく影響を与えたことは伝わってくる。また、足の病気に悩んだ父の生き方も間違いなく大きな影響を与えたことだろう。

そして、中盤ではバラック・オバマとの出会いが書かれている。やはりバラックは出会った時から異彩を放っていたということだが、この点はひょっとしたら運命の人と出会ったミッシェルの目線だからなのかもしれない。何よりも印象的なのは、バラック・オバマは心のそこから世の中がよくなることを願って行動しているという点である。

そして、その後の夫婦生活も面白い。州知事から大統領、と少しずつ政治家としてのキャリアを積み重ねるバラックを見ながら、「家族の時間が十分に取れていないのにまだやるのか」というミッシェルのバラックに対する非難と、それと同時に自分自身が夫の夢を邪魔する障害でありたくないという葛藤が印象的であった。それは、対象が大統領という特別なものである以外は、仕事や趣味に打ち込みすぎる夫を非難する、どこにでもいる夫婦のようだ。

ホワイトハウスの生活も驚きである。ホワイトハウスでは窓を開けることすら、許可なしにはできないのだそうだ。また、2人の女の子は常にシークレットサービスが身近にいなければいけないということで、ミッシェルが思春期の子供たちにどのような影響を与えるのかを懸念している点も興味深い。

全体的にもっとも刺激的だったのは、バラックとミッシェルの、自分の人生を少しでも自分の理想の近づけようとする努力である。バラックは世の中を少しでもよくしたいという思いを常に持っており法律家から政治家の道へ進み、それを間近で見ていたミッシェルも、やがて大きな収入源となっている法律家の道から、慈善事業の方向へ少しずつシフトしていくのである。「お金より大切なものがある。」と誰もがいいながらも、やりたい仕事をそれまでの半分の給料で受け入れることは簡単なことではないだろう。

全体的には、ミッシェルの視点を通じて、アメリカの黒人に対する現状がよくわかったし、バラックが本当に純粋に世の中のためを思っていることも伝わってきた。またこのような大統領が出ればいいと感じた。

「グロースの時代」森岡康一

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
元フェイスブックジャパン副代表の著者が日本でフェイスブックをどのように広めていったのかを語る。

転職を繰り返してフェイスブックにたどり着いた著者が、その過程での大きな出来事や転機となった出会いなどについてカタッている。

グロースに関する技術や知識を求めて本書を手に取ったのだが、精神的な部分の重要性に多くページを割いている。情熱や根性は何かをやり遂げる上では無視できないことでしっかり覚えておきたいことだが、すぐに利用できるような知識を探している人にとっては期待外れに終わるだろう。しかし、実際に大きなグロースを経験したフェイスブックジャパンの様子からは何かヒントが得られるのではないだろうか。

【楽天ブックス】「グロースの時代」

「いちばんやさしいグロースハックの教本」金山裕樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ヤフーなどでグロースハックの経験を持つ著者がグロースハックについて語る。

グロースハックというのはここ3年ぐらい急速に広まった言葉で、これまでにも何度か関連する講座や本にも触れてきて一通り知っている気でいたが、それでも本書でまたいくつか新しいことを学ぶことができた。

まず、興味深かったのは「グロース担当のチームは3人で構成する」ということ。たしかに3人から4人に増えると、情報を共有するためのコストが急激に高まるので、論理的に非常に理解できる話ではある。しっかり頭に置いておきたい。

本書では基本的にARRRAモデル、つまり(Activation, Retention, Referral, Revenue, Aquisition)を中心に語っている。全体的にファシリテーションやアイデアの選別の手法などの話が多い。そんななかでも覚えておきたいと思ったのは、解決策を不明度と前提が崩れた時のインパクトで解決法を分類するジャベリンボードという手法、そして大きな離脱を視覚的にわかりやすく描いたユーザーオンボーディングファネルである。

ほかにも、バイラル係数、バイラルサイクルタイム、LTV、4種類のレベニューモデルなど、知らなかった言葉や、知っていても曖昧に覚えていた言葉などを改めて学ぶことができた。「いちばんやさしい」と書いてあり表面的な内容かとも思ったが、読んだ印象としては、必要な事項は網羅されているような印象を受けた。グロースハックを考える上で効率よく学べる本としておすすめしたい。

【楽天ブックス】「いちばんやさしいグロースハックの教本」

「GRIT やり抜く力」 アンジェラ・ダックワース

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人間の成功は才能よりもやり抜く力「GRIT」にかかっているという。そんなGRITについて研究した著者がGRITについて語る。

最近そこらじゅうで語られているように、才能よりも努力を褒めるべきというのは本書でも同じである。1万時間の法則や、意図的な練習の仕方にも触れているが、教育に関する本をすでに多く読んでいる人にとってはあまり目新しい情報は無いかもしれない。

個人的にもっとも印象に残ったのは、著者であり2人の女の子の母である著者が自分たちの考えを紹介した「おとなも子どもも「やり抜く力」が身につく4つのルール」である。

(1)家族全員(パパもママも)、ひとつはハードなことに挑戦しなければならない。
(2)やめてもよい
ただしやめるには条件があり、シーズンが終わるまで、たとえば授業料をすでに払った期間が終わるなど、区切りのよい時期がくるまでやめてはならない。始めたことは最後までやり通すべきであり、最低もある程度の期間は、一生懸命取り組む必要がある。言い換えれば、きょう先生に怒鳴られたから、競争で負けたから、明日は朝練があって寝坊できないのがつらいから、などという理由でやめてはならない。 (3)「ハードなこと」は自分で選ぶ (4)新しいことでも、いまやっていることでも構わないが、最低でもひとつのことを2年間は続けなければならない。

とくに(2)のやめてもよい、というのはぜひ参考にしたいと思った。もちろん無理強いするのを正しいと思っていたわけではないが、いつでもやめていいというのも「GRIT」を育てられないだろうと感じていたため、本書の指標はすっと納得できると感じた。

【楽天ブックス】「GRIT やり抜く力」

「お金は寝かせて増やしなさい」水瀬ケンイチ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インデックス投資家である著者が、インデックス投資の賢い方法を説明している。

基本的に必要な情報は前半部分に詰まっていて、まずは、アクティブファンドの多くがインデックスファンドに勝てないということと、過去、リーマンショックや東日本大震災などの大きな出来事があっても、結局長い目で見れば世界の株価は右肩あがりだという事実である。この2つの事実によって、結局インデックス投資がもっとも手間なくリスクが少なく資産を増やせる方法と結論づけている。

本書で進めているインデックス投資は

・毎月一定額を買い足す
・世界市場のポートフォリオに従う

ということである。

まず、積立投資(毎月一定額を買い足す)ことによって、安いときに多く買い高い時に少なく買うという流れが自然に出来上がる。また、世界市場のポートフォリオ(国内株式:先進国株式:新興国株式=1:8:1)に従うことによって、一部分の国の経済に依存しないことができる。

本書ではあわせて、自分のリスクの許容度を知るということもページを割いて説明している。なんとなく「大丈夫だろう」から一つ上の視点を身につけるためにいいかもしれない。最後の章では、切り崩しについても触れている。斬り崩しは一定額ではなく、一定の率で売っていくことにより、高い時に多く売って、安い時に少なく売るという流れが出来上がる。

投資の本は世の中にあふれているが、そんななかではかなりの良書と感じた。本書の中で繰り返し触れている本「ウォール街のランダムウォーカー」もぜひ読んでみたいと思った。

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「クリエイティブのつかいかた ビジネスに活かすトップクリエイター12人の仕事術」西澤明洋

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日経デザインに連載された内容をまとめたもので、著者が12人のクリエイターにインタビューした内容と、その際の著者の気づきを説明している。

多くのクリエイターが1970年代生まれということで、僕自身と世代が被っているため共感する部分が多い。インターネットが一気に世の中に広まる時期という、クリエイターになる道が確立されていなかった時代に社会に出てきた人々が多く、、さまざなバックグラウンドを持っている点が興味深い。エンジニアやデザイナーという枠にとらわれない考え方も面白く、いい刺激を与えてもらった。

クリエイターの方にとっては多くの刺激になるのではないだろうか。

【楽天ブックス】「クリエイティブのつかいかた ビジネスに活かすトップクリエイター12人の仕事術」