「ひかりの剣」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
医学部剣道部の大会で、今年も東城大と帝華大は優勝を狙う。東城大の主将は速水(はやみ)。帝華大の主将は清川(きよかわ)である。

チームバチスタの栄光」などの作品からなる世界の物語のひとつ。東城大の速水(はやみ)は後に「ジェネラルルージュの凱旋」で天才外科医となって活躍する。また清川(きよかわ)は「ジーン・ワルツ」で産婦人科医師として登場する。どちらも後に優れた医師となる。そんな2人がまだ学生で医者になるための勉強をしていたころ、物語としては「ブラックペアン1983」と時期を同じくしている。

そういった意味では、剣道を題材とした青春物語としても楽しめるが、海堂尊のほかの作品を読んでいればさらに楽しめるだろう。剣道部の顧問として速水(はやみ)や清川(きよかわ)とかかわる後の院長の高階(たかしな)先生の行動の理由も「ブラックペアン」を読んでいれば理解できるだろう。

さて、それにしても最近映画化された誉田哲也の「武士道シックスティーン」といい本作品といい、世の中は剣道ブームなのだろうか。実際に経験したことはないが、本作品の描写を素直に受け取ると、なんとも剣道というスポーツが魅力的に見えてしまう。そしてそんな剣道物語につきものなのが、すぐれた女性剣士の存在ではないだろうか。本作品でも帝華大にひかりという剣士が登場する。

また、本作品で面白いのは、数十年前を物語の舞台としているにもかかわらず、そこで活躍する剣道を愛した青年たちは、決して古い青春ドラマに出てくるような、頭の固い努力家ではない点ではないだろうか。清川(きよかわ)などは常に手を抜こうと考えている点が面白い。

そしてもうひとつ顧問の高階(たかしな)先生の言葉の奥深さも本作品の魅力である。

今の君は自分の才能を持て余し、その重さに押し潰されている。大きな才能は祝福ではない。呪いだよ。

余計なことを考えずに一気に読書の世界に没頭したい人にお勧めである。
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「武士道シックスティーン」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃から剣道で強くなるためだけを目標に生きてきた香織(かおり)と、日本舞踊から剣道の道に入った勝ち負けにこだわらない早苗は高校で同じ剣道部に所属することとなる。

基本的に物語は、香織(かおり)と早苗(さなえ)という、同じ剣道部に所属しながらもまったく正反対の取り組み方をする二人の目線で交互に展開していく。最初はやはり香織(かおり)の異様なまでの勝負へのこだわり方が面白いだろう。そして、その剣道に対する姿勢は当然のように他の部員や顧問の先生との摩擦を生む。

「お前には、負ける者の気持ちが、分かるか」 
「・・・・・・わかりますよ。人並みになら」
「どう分かる。どう思った。負けたとき。」
「・・・・・・次は斬る。ただそれだけです。」

一方で早苗(さなえ)は勝ち負けよりも、自分の剣道を少しでもいいものにしようと心がける。序盤はそんな張り詰めた香織(かおり)目線と、のほほんとした早苗(さなえ)目線がなんともリズミカルに進んでいく。

次第に今までの自分の剣道への取り組み方に疑問を抱き始める香織(かおり)。そして早苗(さなえ)もまた香織(かおり)に影響されていろんなことを考えるようになる。
違ったタイプの人間が出会ってお互い刺激を受け合い、少しずつ人間として成長していく。

そんなありがちの物語なのだが、それでも自信を持ってお勧めできるのは、誉田哲也らしい独特の会話のテンポと、登場人物それぞれが持っているしっかりした個性のせいだろうか。香織(かおり)には優しい兄と厳しい父が、早苗(さなえ)には、情けない父と自分勝手な姉が、それぞれ物語にとってもいい味を出しており、香織(かおり)、早苗(さなえ)の生きかたにも大きく影響を与えていることがわかる。

すがすがしい読み心地の青春小説。新しい何かを始めたくなる4月。こんな時期に読むのにまさにぴったりの作品。といってもいまさら剣道はさすがに始められないが。
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