「La novia gitana」Carmen Mola

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ジプシーの血を引く父と普通の家庭に育った母の元に生まれた娘Susana Macayaが、結婚式を目前に殺害された事件をElena Blancoがスペイン警察特殊分析班(BAC)のメンバーと共に解決に挑む。

物語はスペイン警察特殊分析班(BAC)のリーダーである警部とElena Blancoと、部外者でありながらも事件の捜査に関わることとなった若手警部補でありのÁngel Zárateを中心に、事件の真相に近づいていく様子を描く。

殺害されたSusanaの姉のLaraも6年前の結婚式直前に殺害されており犯罪手口が酷似していることから、容疑は父親に向けられる。父親がジプシーの血をひいておりジプシー社会と現在も深いつながりを持っている。その描写からはスペイン内における、ジプシーに対する偏見やジプシーの家に生まれた家庭の親たちの娘に対する複雑な思いが伝わってくる。

また、姉のLaraの事件で犯人とされた人物が現在も服役中であることから、無実の人物が服役していて真犯人はいまだ捕まっていないのではないかという不安が警察内に浮かび上がることから、警察の信用など対面を重んじる上司と、事件の解決を最優先に考えるElenaたちの思いの違いが面白い。

一方で、捜査と並行して警部Elenaの過去も少しずつ明らかになっていく。Elenaはマドリードの広場の近くに住み、広場を常に監視カメラで撮影し毎晩その動画を見ながら記憶にある男を探し続けるのである。次第に、それが行方不明になった息子を探すための行為であることが明らかになっていく。

また、Ángel Zárateも事件解決の中で葛藤を抱える。6年前のLaraの事件を捜査したのが、Ángel Zárateの上司だったからである。真相を解決し真犯人を見つけることが自分の恩師の経歴に傷をつけることなのではないかと考え、真相を調べることを最優先するスペイン警察特殊分析班(BAC)のメンバーたちと衝突することとなる。

事件の犯人や被害者だけでなく、捜査関係者の人生も描かれている点が面白かった。残念だったのは、最後の真犯人との対面から解決までの流れである。あまりにもありがちな展開でもう少し違った結末を描けないものかなと感じた。

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スペイン語慣用句
por lo bajo 小声で
cumplir la condena 刑に服す
cerrarse en banda 自分の意見をゆずらない
a ratos… y a ratos… …したり…したりする
echar la bronca 叱りつける
de par en par いっぱいに開けて

「El silencio de la ciudad blanca」Eva García Sáenz de Urturi

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
20年前に起こった連続殺人事件と同じ手口の事件が発生する。Vitoria署の新しい副署長の指揮のもAyalaは相棒のEstíbalizともに事件解決に動き出す。

前回読んだ「El libro negro de las horas」が物語だけでなく舞台や、取り入れている題材も含めて面白かったので、同じ著者の代表作として本作品を読むに至った。

物語は20歳の男女を殺害しVitoriaの歴史的な建造物に放置するという手口の事件から始まる。20年前にも5歳の男女、10歳の男女、15歳の男女を連続して殺害する事件があり、その犯人としてすでにTasioという男が投獄されており仮釈放間際となっている。冤罪の可能性を考慮しながらKrakenとEstíbalizは捜査をすすめるが、その際にも25歳、30歳、35歳の男女が殺害が続くのである。

Krakenは犯人として投獄されているのはTasioに会いにいく、一方で当時事件操作に関わりTasioを犯人としたIgnasioにも話を聞きにいく。TasioとIgnasioは双子の兄弟であるため、二人の人間関係が事件に関わっていると考えられるのである。

事件の解決の一方で、新しく副署長として赴任してきたAlbaとAyalaの関係が面白い。Albaは最近子供を流産し、Ayalaは妻を交通事故で失っているという辛い過去を打ち明けたことをきっかけに二人は少しずつ距離を縮めていくのである。そんなつらい過去を抱えながらも現在の職業に向き合う二人の会話が印象的である。

¿Sabes lo que es la resiliencia?
La capacidad de algunas personas en saber sacar lo bueno de las malas experiencias.
回復力ってなんだと思う?
悪い体験から良いものを抜き出す能力のことさ

やがて、事件の被害者は30歳の男女、35歳の男女と続き、Krakenの身近な人も不安を募らせていく。

ÁlavaやVitoriaといったバスク地方の都市を中心に、歴史的建造物、お祭りが多数登場するため、スペインの文化を知りたい人におすすめできるシリーズである。引き続きシリーズを読み続けたいと思った。

スペイン語慣用句
dar la cara しっかり向き合う
de igual a igual 対等に
en ristre 準備ができている、構えている
no pegar ojos 一睡もできない
a la par 同時に
a tientas 手探りで

「El libro negro de las horas」Eva García Sáenz de Urturi

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40年前に死んだはずの母親を、ある本と引き換えに返すという電話を受けたKrakenは、母と言われる人を救うためにその本を探すこととなる。

物語は、本と真実の追求に奔走する現代のKrakenが様子と、1970年代に孤児として育てられたItacaという女の子が成長していく様子を描く。

現代の物語では、Krakenの周囲に、古本屋を営んでいた人々の周りで不審死の報告が届く。Karakenは自らの出自を確認するために、祖父と共に亡き父の遺品を確認し始める。一方で70年代のItacaは捨てられたベラクルス学校でその美術の才能を発揮し始め、教師であるAquilinaにその才能を見出されて古書の複製の世界へと入り込んでいく。

なんといっても古書の複製という世界に引き入れてくれる点が面白い。世の中には本のコレクターという人々が存在し、本に大金を払う人がいるから、価値のある本を複製しようとする人たちもいるのである。しかし、そこにはさまざまなジレンマも同時に存在する。真実を知るためにKrakenは古書についての知識も得ていく。

そんななか古本屋から通常の本屋に転向したAlistairの言葉が深い。

¿Por qué lo dejó?
Porque amo los libros, pero los amo por su contenido, por las letras, por las palabras, por las historias que cuentan, por la que hacen sentir a un lector. Esa es la ecencia de los libros.
なぜ古本屋をやめたんですか?
なぜなら僕は本が好きだから、でもその内容が好きだからです。文字や言葉や本が語る物語や、本が読者に伝える感情が好きだからです。それこそが本の本質です。

En cuanto un coleccionista me dice que tiene más de cinco mil ejemplares en su bibliotecas, le perdo el respeto. Sé que es un fraude como lector un impostor un simple acumulador, un poseedor.
コレクターが本棚に5,000冊以上の本を持っていると聞いた途端にその人への敬意を失ってしまう。その人は偽の読書家で、詐欺師か、収集家か提供者です。

やがて現代ではKrakenは自らの実の母に近づいて行き、70年代のÍtacaは古書の複製の世界にどっぷりつかりながらも、愛する人と出会って、自らの人生を見つけようと動き出すのである。古書を扱った物語なだけにそこでさまざまな美しい言葉が登場する点が印象的である。

Hogar no es donde naciste, hogar es el lugar donde tus intentos de escapar cesan.
我が家とは生まれた場所ではない、我が家とは、逃れようという思いが消えた場所である。
Ese es el poder de la historias: advertirnos.Todo está en libros. Todo está ya escrito.
それが物語の力です。すべては本の中にあります。すべてはすでに書かれています。

Krakenシリーズの中途半端な作品から読み始めてしまったようだ。物語を楽しめるだけではなくまざまなスペインの文化を知ることができるので今後もこの著者の本を読んでみたいと思った。

スペイン語慣用句
a lo sumo 多くても
de bruces 腹這いに
hacer tiempo 時間を潰す

「Dime quién soy」Julia Navarro


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
失業中の新聞記者のGuillermo Albiは叔母からの依頼により、息子を捨てて家を出たとして、家族の中で誰も多くを語ろうとしない祖父母Amelia Garayoaの人生を調べることとなる。

Guillermo AlbiはAmeliaの消息を追って、スペイン、アルゼンチン、イギリス、ロシア、イタリアなど各地を飛び回る。そして、少しずつその人生が浮かび上がってくる。裕福な家に生まれて、父親の知り合いの息子と結婚したにも関わらず、恋をして息子を捨て家を出て革命へと関わっていく。

第二次世界大戦から、ベルリンの壁の崩壊まで動乱の時代を自らの正義のために生きていた女性の姿が、スペインや各国の歴史とともに描かれる。第二次世界大戦中の物語は、日本目線もしくはアメリカ目線で触れることが多く、本書のようにスペイン人から見た第二次世界大戦の物語は初めてだったので新鮮だった。フランコの独裁政権のもとで、近い考えを持つドイツのヒトラーが台頭していく中、どのように行動すべきか悩み、分裂していくスペインの人々の動きが興味深い。

そんな動乱のスペインの中でGuillermo Albiの取材により、若く美しい世間知らずな女性だったAmeliaが、自らの信念のために自らの美しさを利用して祖国のために勇敢に戦う女性に変貌していく様子を描いていく。

最初はスペイン語で1,000ページ越えということで躊躇したが、退屈な部分はほとんどなく、全体的に読みやすく物語としても十分楽しませてもらった。