「ちょっとピアノ 本気でピアノ 〜ブログでおなじみ、川上昌裕のレベルアップピアノ術〜」川上昌裕

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ピアノとの付き合い方をさまざまな視点から語る。

僕の場合は必ずしもピアノではなく電子ピアノやキーボードなのだが、ただただ音符を追って好きな曲を弾いているだけだと、いつまで経っても深みを感じられないと思い、新たな視点を得たく本書に辿り着いた。

本書は著者がブログに書いている内容をカテゴリごとにまとめて書籍化したものである。そのため体系的に順番に書かれているわけではなく、その場で思いついたことを羅列している感じではあるが、僕のように特定の目的もなくピアノの上達に関しての刺激や気づきを探している人間にとってはぴったりである。

「ちょっとピアノ 本気でピアノ 〜ブログでおなじみ、川上昌裕のレベルアップピアノ術〜」川上昌裕

結果的にいくつかの気づきが得られた、難しい曲をスムーズに弾くためには、指の筋肉をつけたり、指の感覚を研ぎ澄ます必要があり、そのためにハノンなどの練習にも力を入れるべきと感じた。また美しい音色を出すためには的確なペダリングをマスターすることも必要で、どんな練習があるのか知りたいと思った。

印象的だったのが著者がピアノ演奏のアルバイトの面接での出来事である。それなりにピアノの技術に自信を持っていた著者が、即興演奏ができないこと、同じ志願者のピアニストの即興演奏に驚いたことなどの体験を語っている。その出来事からはジャズピアノとクラシックピアノの考え方の違いの大きさが伝わってくる。今のところなんとなくピアノを練習しているが、上達するとどんなピアノを引きたいかを考えなければいけない時期が来るのだろう。

期待通りの刺激を与えてくれた。ピアノの練習や上達や進路で悩んでいる人にはちょうどいいのではないだろうか。

【楽天ブックス】「ちょっとピアノ 本気でピアノ」
【amazon】「ちょっとピアノ 本気でピアノ」

「WHYから始めよ!」サイモン・シネック

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
WHYを中心としてWHAT、HOWと外に向かう図をゴールデンサークルと呼び、WHYの重要性を語る。

TEDトークで、WHYの重要性を語る、有名な著者サイモン・シネックのプレゼンテーションを見たことがあったので、そのコンセプト自体は理解しているつもりでいたが、初めて動画を見てから数年経ち、改めてその世界に触れたいと思って書籍を手に取った。

WHYの重要性をさまざまな角度から例を交えて解説している。興味深かったのはのイノベーションの普及を示した図として有名な鐘形曲線で説明している章である。図の右側にいるレイト・レイトマジョリティ(後期多数派)やラガード(出遅れ)は値段、つまりWHATしか気にしないために、この層をターゲットにすると企業として低価格競争に巻き込まれてしまうのだ。つまり図の左側の層の、イノベーター(導入者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリー・マジョリティ(初期多数派)や忠誠心を抱いてもらうことこそ成功への近道で、そのためにWHATではなくWHYを広めるべきだと語る。

いくつかの企業の例を交えて説明している。サウスウェスト航空、マイクロソフト、ウォルマート、アップル、どれも興味深い話ばかりである。面白いのはWHYは重要だがWHYだけでも組織は動かないとしている点である。例えばアップルは常に企業の成功物語で名前の上がる企業であるが、著者はWHY型のスティーブ・ジョブズと、WHAT型のスティーブ・ウォズニアックの組み合わさったことが成功の大きな要因だとしている。アップルの成功の話を「Quiet」では、外向型人間と内向型人間が組み合わさったことを成功の要因として語っていたので、いろんな見方があるのだと感じた。

全体的に、本書の内容には自分の経験からも思い当たるふしが多々ある。常々多くの企業がWHYを明確にしないことでブランディングに失敗していると感じるし、株主の圧力ゆえにか、売上至上主義のなかでABテストなどでデータを重視しすぎた結果、WHYを見失ったWHAT型になっていると感じる。

例えば、Photoshopなどのクリエイティブツールを生み出したAdobeは、すでに当初の創造力を広める哲学を見失い、現在は詐欺まがいの手法で短期的な売り上げを上げることしか考えていない。iPhone以降10年以上革新的な製品を生み出していないアップルもAdobeほど惨憺とした例ではないが、WHYを失いかけている企業と言えるだろう。

昨今安定した売り上げを目指してサブスクリプション型のサービスを提供する企業が多く見られるが、WHYに共感できない企業のサブスクリプションサービスを利用しても、最終的にお金をむしり取られるだけである。著者が言うように、企業が本当に相手にすべき相手は低価格につられて簡単に動く人間ではなく、WHYを重視している人なのである。

当たり前ではあるが、動画で見ただけではわからない深みとともに著者の言いたいことが理解できた気がする。多くの企業のマーケター、ブランドデザイナーの必読の本とであろう。

【楽天ブックス】「WHYから始めよ!」
【amazon】「WHYから始めよ!」

「Rejection Proof: How I Beat Fear and Became Invincible Through 100 Days of Rejection」Jia Jiang

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
拒否される恐怖心を克服するために始めた拒否セラピー、それは100日かけて毎日拒否に出会うというもの。

何年か前に著者のTedTalkと拒否セラピーのクリスピークリームの回が印象に残っていた。それは拒否されるためにクリスピークリームで作るのが難しそうなドーナツを注文するにもかかわらず、店員は拒否することもなくそのドーナツを作って出してくれる、というもの。久しぶりにその動画が見たくて検索したところ、書籍化しているということでくその前後の出来事も知りたくなり本書を読むに至った。

驚いたのはクリスピークリームの出来事は拒否セラピーを始めて間もない3回目の出来事だということ。著者にとって拒否セラピーを始めてすぐにこのような印象を変える出来事に出会ったことは幸運だったことだろう。改めて、無茶な依頼にも親切に対応したクリスピークリームの店員Jackieのように、真剣な依頼には真剣に対応する人間でありたいと思った。

僕自身はそれほど他人からの拒否に恐怖心はないが、拒否に恐怖心を抱く人の気持ちが本書を通じてよくわかった。速い話が、拒否されるのが怖い人は、拒否は自分自身の性格や能力の否定と感じるのである。一方で、僕のように拒否に恐怖心のない人は、もともと自信があるせいもあるが、拒否はたまたまタイミングが悪かったり依頼側と回答側の相互利益が成立していないだけだと捉え、自分自身の性格や能力の欠如とはほとんど関連づけないのである。

中盤以降は、拒否セラピーで有名になったせいで、著者にもさまざまな依頼が舞い込む様子が描かれる。そんななか、著者はたびたび断る側にまわることとなる。その過程で拒否される側だけでなく、拒否する側の考え方にも気づいていくのである。

When you deliver a rejection to someone, give the bad news quickly and directly. You can add the reasons afterward, if the other persons wants to listen. No one enjoys rejection, but people particularly hate big setups and "yes-buts." They don't lessen the blow––in fact, the often do quite the opposite.
誰かの依頼を断る時は、簡潔にかつ直接伝えてください。相手が理由を知りたい時に、理由は後から付け加えればいいのです。断られるのが好きな人などいませんが、人は特に、長い前置きや、「はい、でも」のような言葉を嫌います。そんなものは衝撃を和らげるどころか時にはまったく反対に作用します。

終盤では拒否セラピーの最後の挑戦として、著者は、妻の転職の手助けをする。それは妻のもっとも働きたい会社であるGoogleへの転職を成功させることである。

上で書いたように、僕自身は著者ほど拒否されることに抵抗はないが、むしろ本書では拒否する側としての姿勢に学ぶ点が多かった。何かを依頼された時に単純にNOと言って終わりにするのではなく、自分の好みや都合が合わないことを説明することで、依頼側は自分自身の否定と捉えずに済むのである。この点は早速取り入れたい思った。

ぜひ日本語化して日本にも広まってほしい内容である。

英語新表現
cuss out 罵る、罵倒する
psych out 不安にさせる、心理的に見抜く
strike a nerve 神経質になる
conform to the norm 規範に従う
sell a bridge 騙す
stick up for 支持する、応援する
break out in hives じんましんがでる
measure up to 見合う、匹敵する
off the wall 型破りな、突飛な
far cry ほど遠い

「宇宙になぜ我々が存在するのか 最新素粒子論入門」村山斉

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宇宙の観測の歴史と共に素粒子論について説明する。

ここ最近素粒子論をもう少し理解しようと思っていろんな本を漁っている中で本書に辿り着いた。素粒子論の本の中では珍しく数式がほとんどなく文章を中心とされている。

これまでいくつか素粒子論の本に触れてきて思うのは、素粒子論の理解を難しくしているのは、どこまでが確認された事実で、どこまでが研究者の中で受け入れられている仮説なのかの線引きが曖昧なことだと感じる。それに対して、本書では歴史の流れに沿って、生じた仮説とその後の観測による確認を順を追って説明してくれるので、どのようにして現在の素粒子論に辿り着いたかが比較的わかりやすかった。

相変わらず理解できないことが多いが、発見しにくいニュートリノの存在や性質。電荷に影響を与える6種類のクォーク、重さのきっかけとなるヒッグス粒子など、漠然とであるが粒子の特徴について知識を深めることができた。引き続き本書で軽く触れられていたインフレーション理論、標準理論、核融合反応について知りたいと思った。

【楽天ブックス】「宇宙になぜ我々が存在するのか 最新素粒子論入門」
【amazon】「宇宙になぜ我々が存在するのか 最新素粒子論入門」

「メディアの闇「安倍官邸 VS. NHK森友取材全真相」」相澤冬樹

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
森友事件の取材の様子を語る。

森友事件について知りたいと思って本書を手に取った。

森友事件について詳細に説明するためには、その周辺の出来事や情報の確度を伝えるために情報を得た流れなどを説明する必要があるのは理解できる。しかし、それにしても、著者が認める優れた記者とそのエピソードの紹介に数ページ割いているにも関わらず全て仮名とするなど、脱線が多すぎる。

また、同時に著者自身の報道記者としての行動に自画自賛する雰囲気が滲み出ており、客観的な事実を知りたい側としては、その主観性の強さが本書の信頼性を損ねているように感じた。

全体的に「全真相」というには内容が薄い上に脱線が多すぎる。タイトルから森友事件に関する事実が書かれていると期待する読者は、自分と同じように期待を裏切られたと感じるだろう。内容としても残念だったし、売るために中身と一致しないタイトルを平然とつける出版社の存在を認識させられたことも含めて残念である。この出版社の本を読むのはしばらく控えたいと思った。

【楽天ブックス】「メディアの闇「安倍官邸 VS. NHK森友取材全真相」」
【amazon】「メディアの闇「安倍官邸 VS. NHK森友取材全真相」」

「移民大国アメリカ」西山隆行

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカの移民問題についてこれまでの歴史から現在の状況まで詳細に説明する。

日本も高齢者社会となり、経済を維持するためには移民の受け入れは避けられないだろう。そんななかアメリカが現在直面している移民関連の問題は、日本が近い未来に遭遇する問題と考えて知りたいと思い本書に辿り着いた。

多くの知らない事実を知ることができた。まず、移民問題といっても、不法移民、合法移民などざまざまな視点があり、多くの人が混在した視点で移民問題を語っているということ。また、二大政党の共和党、民主党の基本的な考えとして、民主党の方が移民に肯定的と捉えられ、非白人からの支持を集めているとされているが、それぞれの党の中でも移民賛成派、反対派がおり、党をまたがった議論になっているということなどである。

移民への国としての対応方針を決定する連邦政府に対して、州内住み着いて移民を社会に溶け込ませるための教育や福祉等の対応を強いられる州政府の関係も興味深い。決めるだけの連邦政府と、負担を強いられる州政府という構図になってしまうのも仕方のない話である。

中盤以降、キューバ系、メキシコ系、日本系、中国系、韓国系、ユダヤ系などの視点で、アメリカの中での影響力とロビー活動について触れている。ある国の中で特定の文化の人々が生きやすい環境を作るには、その国の中で影響力を強める必要がある。そのためにはロビー活動が欠かせないのだという。以前は強かった日本系コミュニティのロビー活動が最近は下火で、一方で韓国系や中国系が影響力を強めているのだという。

海外で同じ国の人間同士でつるむことをどこか馬鹿にした見方をすることがあり、日本人街などを敬遠する人も多いが、そこにはメリットもあるのだと再認識させられた。

改めて、アメリカの移民問題は思っている以上に複雑な問題であることがわかった。移民の国という理念があり国自体も移民によって作られた国という認識があるから、移民を受け入れるのが当然という考えも未だ根強く、そしてすでに大量の移民を受け入れてきたから、移民や不法移民の労働力に依存した社会構造ができあがっているから複雑な問題となっているのである。

引き続き、アメリカだけではなく世界の移民問題を知りたいと思った。次はフランスやドイツ、イギリスの移民問題などヨーロッパの国の実情について知りたい。

【楽天ブックス】「移民大国アメリカ」
【amazon】「移民大国アメリカ」

「予想通りに不合理」ダン・アリエリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人間は実際には世の中が思っているほど合理的に行動していないのではないか、そんな疑問を抱いた著者がさまざまな実験を通して人間の不合理さを確認していく。

人間の不合理な行動をさまざまな実験や研究結果とあわせて説明していく。本書で触れられている内容の中には聞いたことがある事象もあるので、有名な書籍だと「ファスト&スロー」や「ヤバい経済学」「影響力の武器」と似ている部分があるし、内容としても若干重なっている部分があるだろう。

それでも新鮮な内容や改めて日常生活の中で意識したいと思える発見がいくつかあった。個人的に印象的だったのが社会規範と市場規範を扱った「社会規範のコスト」の章とプラシーボ効果を扱った「価格の力」の章である。

普通にお願いすると引き受けている頼み事が、お金を払うと拒絶されたり不快感を与えることがあることは誰しも体験として知っているあろう。本書では、そんな行動を社会規範と市場規範という二つの言葉で説明している。

  • 社会規範…わたしたちの社交性や共同体の必要性と切っても切れない関係にある。たいていほのぼのとしている。
  • 市場規範…ほのぼのとしたものは何もない。賃金、価格、賃貸料、利息、費用便益など、やりとりはシビアだ。

仕事やプライベートで現在うまくいっていない関係があるのだとしたら、現在どちらの規範に基づいてやりとりしているか、関係者はそれぞれどちらの認識で受け取っているかを考えると解決への糸口が見えるかもしれない。

「価格の力」の章ではプラシーボ効果について深掘りしていく。誰もがプラシーボ効果というのは聞いたことがあるだろう。思い込みが実際に効用として現れるという現象である。驚いたのは今でも、長年効果があるとされてきた薬や治療法が実はただのプラシーボ効果だったと判明する例があるのだという。

数年前に妻の大腸癌の抗がん剤治療治療をデータを見て受けない決断をしたことがあった。データを見てわずか8%の人間にしか効果がないにもかかわらず高い費用とつらい副作用を考慮して決断したのだが、あれもひょっとしたら数年後にはただのプラシーボ効果だった判明するかもしれない。

一方で、高いお金を払っているからこそより高い確率でプラシーボ効果が発揮されるという点や、医師自身も信じているからこそ効果が出やすいという点で、医療費や薬代の高騰は今後も簡単には止まらないのだと思い知った。

前述のように似た内容の本によく出会うが、このような本にも定期的に触れる必要があるだろう。早速日常生活に活かしていきたい。

【楽天ブックス】「予想通りに不合理」
【amazon】「予想通りに不合理」

「コロナ狂騒録」海堂尊

★★★★☆ 4/5
2020年、コロナ禍に対処する東城医大の医師たちとコロナ禍で1年の延期をしながらも東京五輪に突き進む日本の政策を描く。

コロナ黙示録」に続く、コロナ三部作の第二弾である。政府の愚策と東京五輪開催への固執のためにコロナウィルスが蔓延するなかで、引き続きコロナ患者を受け入れ続ける東城医大が次第に疲弊していく様子を描く。

コロナ患者の対応のために、自分達の命を危険に晒しながらも疲弊していく医療現場からは、そんな医療現場を支援するのではなく誰の利益にもならない五輪開催に固執する政治に失望する声が上がるのだ。如月師長の声がそんな政府の愚策の現実を端的に語っている。

世の中で一番辛いのは、ゴールの見えない我慢をすることよ。それなのに一歩外に出たら能天気な人々は居酒屋でどんちゃん騒ぎ、あの患者さんはキャバクラに行って感染したなんて聞かされると気持ちが萎える。
こんな状況下で五輪開催に固執する連中から、五輪に看護師を派遣してほしいという要請が届き、その一報で、現場で懸命に働き、ギリギリで業務に携わっていた看護師のこころが折れた。彼らは『五輪かいのち』か、という二者択一の問いを、突きつけてきたのだ。
子供の運動会はやっちゃダメなのに、なぜ大人の運動会は、やってもいいんですか。

前作の繰り返しになるが、本書は著者の一つの視点から見た出来事にすぎないのですべてを鵜呑みにするのは危険である。それでも、本書を読んで強烈に感じたのは自責の念である。自分達の無知や政治への無関心や諦めが、日本の政治の堕落をどんどん加速させているのである。無駄と思いつつも、簡単ではないと知りつつも、一人一人が声をあげなければダメなのだ。

【楽天ブックス】「コロナ狂騒録」
【amazon】「コロナ狂騒録」

「博報堂デザインのブランディング」永井一史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長年ブランディングに関わってきた著者がその考え方を語る。

前半は著者のブランディングの考えを語り、後半はこれまで著者が手がけてきた事例を紹介している。

僕自身もデザイナーとしてブランディングに関わることはあるが、その過程で、言葉が定着していないために聞き手に伝わりやすい言葉選びに悩むことがある。そのため、本書のように他のブランディングに関わる方がどのような言葉を使っているのかが気になるところである。

本書では一般的にはブランドコンセプトと呼ばれることが多いブランドの核となる考えを「思い」と呼んでいる。そして、コンセプトデザイン、ビジュアルデザインと呼ぶことが多い、二つのデザインのカテゴリを思考のデザインカタチのデザインと呼んでいる。どれも結局受け手に伝わりやすいかどうかで場合によって使い分けるべきだろう。

また、デザインにおいて適切な情報のインプットが必要なのはよく知られたことであるが、著者はそのインプットを5つに分類している点が印象的である。

  • 歴史性 ブランドのオリジンにさかのぼる
  • 機能性 何の仕事、どんな商品かを考える
  • 文化性 どんな豊かさやライフスタイルを提案できるかを考える
  • 社会性 ブランドがどう社会に役立つのかを考える
  • 関係性 ブランドと生活者の関係性を考える。

漠然とインプットを探すと視点が曖昧になりがちだが、こうして整理されるとしっかり網羅できる点が良さそうである。このインプットのぶんらうい方法は早速取り入れたいと思った。

後半は事例説明ではあるが、伊右衛門、表参道ヒルズなど誰でも知っている有名ブランドが溢れているのは圧倒される。知識としてブランディングの手法を知っているだけでは叶わない実績のインパクトと大企業でブランディングに関わるメリットをあらためて感じた。

【楽天ブックス】「博報堂デザインのブランディング」
【amazon】「博報堂デザインのブランディング」

「コロナ黙示録」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2019年の終わりが近づく中で武漢でコロナウィルが広がり、東城大学医学部附属病院もコロナ患者の対応を強いられることとなる。

物語は彦根(ひこね)、速水(はやみ)、厚生労働省の白鳥(しらとり)など、これまで海堂尊が「チーム・バチスタの栄光」から作り上げた架空の東城大学医学部附属病院を中心とする医療の世界の主要人物たちがコロナ禍を迎え撃つ様子が描かれている。

物語はもちろんフィクションなので実際の登場人物とは名前が異なっているが、安倍首相ではなく安保首相とするなど、その名前や関連の出来事から、事実に近いことを書いていることがわかる。全体的に著者の医師としての立場から、コロナ禍の政策に対する怒りが伝わってくる。コロナ禍のみならず2020年周辺に起こった、東京五輪の開催や森友学園問題についても深く切り込んでいる。

医療従事者から見たコロナ禍の混乱は、最後に白鳥(しらとり)がつぶやく内容に凝縮されているだろう。

経済ばかり気にして医療のことは気に掛けない。そんな無法地帯の最前線で医療従事者がバタバタ倒れていく。そんな生き地獄で医療崩壊の一歩手前の惨状は、暗愚な安保首相と彼を取り巻く害虫官僚、粛々と間違った方針を強要し続けた僕たち厚生労働官僚、そうした実態を報じないメディアが作り出したものだったんだ。

もちろん著者自身の思いや偏見が混ざっていることは差し引いて考えなければならないが、政治の影響下にあるメディア(御用メディアと呼ぶらしい)の報道を見聞きしているだけではわからない真実が見えてくる。森友問題についてはもう少し詳細に掘り下げたいと思った。同じ著者の「コロナ狂騒録」の方も楽しみである。

【楽天ブックス】「コロナ黙示録」
【amazon】「コロナ黙示録」

「情弱すら騙せなくなったメディアの沈没」渡邉哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
昨今のメディアの凋落について過去の経緯や原因などを含めて説明している。

2021東京五輪の開会式や、2024東京都知事選など、昨今民放が世の中から大きく批判される機会が増えていている。その一つの原因はインターネットという情報発信・取得手段の普及であるが、それ以外にもさまざまな要因が絡んでいるのだろう。メディアの動きをより深く理解したくて本書にたどり着いた。

序盤ではテレビ番組制作の流れと、質の低下の原因について説明している。録画視聴が普及するに従って広告収入の低下を招く。そして、テレビ局はコストカットを強いられ、番組を外注に頼ることが多くなった結果、質の高い番組を作ることができなくなってきたのだという。つまり、現在は事件の報道に人を派遣するリソースもなければ、良い番組を制作する技術もないのである。

印象的だったのが、メディアと暴力団との関係について触れている点である。メディアと暴力団との関係は長く続いていながらも、その悪い印象を払拭するために、メディアはそこからの脱却を図ってきたのである。しかし、その過程でまたいくつかの事件が表面化しているのである。暴力団というと良いイメージを抱かない人も多いのかもしれないが、長い歴史の中で見ると、警察などの組織が未発達な時代に、暴力団は特定の地域や分野の治安維持のために存在意義を発揮していた組織である。従って、過去に暴力団と密接な関係があったというのは当然のことではあるのだが、それを改めてわかりやすく説明してくれている。

中盤以降では東京オリンピックでのロゴの盗作問題や出来事に関連する電通の力の弱体化や、NHKの問題について触れている。そして、最後にはすでに終わっているとしている新聞についても取り上げて現状やその原因に触れている。

興味深かったのが、多くの人が大歓迎すると思っていた電通の力の衰退を、著者は必ずしも良いこととは受け取っていない点である。これまで多くの関係者や関連企業が参加する国際イベントには人々が思っている以上の関係者調整が必要であり、これまでそのノウハウは電通と博報堂に集中してきたのである。著者の電通弱体化による懸念は、次第に海外の大きな資本がこれまでの電通の立ち位置を奪っていくことである。

現状のメディアに対して新たな視点をもたらしてくれた。本書で学んだ内容をふまえて今後もメディア情勢をじっくりみていきたいと思った。本書は読む前に持っていた期待にしっかり応えてくれた。

【楽天ブックス】「情弱すら騙せなくなったメディアの沈没」
【amazon】「情弱すら騙せなくなったメディアの沈没」

「具体と抽象」細谷功

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
具体と抽象について語る。

人間は動物に比べてずっと抽象的な概念の扱いに長けている。本書ではさまざまな事例を交えて、具体と抽象について語っている。例えば、人間同士の会話などで問題となる、物事の伝わりやすさは、想定している抽象度が語り手と受け手の間で異なることによって起きる。

最も印象的だったのは抽象と具体の世界をマジックミラーに例えた章である。

上(抽象側)の世界が見えている人には下(具体側)の世界は見えるが、具体レベルしか見えない人には、上(抽象側)は見えないということです。

基本的に具体側に近づけば近づくほど、誰でも理解できるようになっていく。逆に言えば、抽象側を広く理解できる人ほど、多くの視点を持っている賢い、時には変人と呼ばれる人間なのだろう。本書では相対性理論のアインシュタインを挙げているが、一般の人には問題の意味すら理解できない数学の問題なども、それのわかりやすい例である。

結局、多くの人が知りたいのは次の2点である。抽象寄りの人が、自分の立ち位置ほど抽象化した事象を理解できない人にどう対応すべきか抽象的思考能力を向上させるためにはどうすれば良いのか。しかし、残念ながら本書では、さまざまん経験を積むこととしか書いてない。実際、その答え以外ないだろう。

書いてあることはいずれももっともで、むしろ当たり前すぎる。しかし、当たり前にもかかわらず、この具体度と抽象度のずれが多くのコミュニケーションのずれを日常で気に生みながら、人はそれに対応する手段も持たず、また改善に努めようとさえしていないのである。

読後の感想としては、こんな当たり前のことをダラダラ書き連ねて、特に具体的な行動提案ももない残念な本という感じだったのだ。ちょっと時間が経ってみると、ここまで世の中の真理をしっかり語った本もなかったと、本書の斬新さに気づき始めた。つまり評価の難しい本である。ぜひ、自ら手に取って判断していただきたい。

【楽天ブックス】「具体と抽象」
【amazon】「具体と抽象」

「マルセイユ・ルーレット」本城雅人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元サッカー選手の村野隼介(むらのしゅんすけ)はユーロポールの捜査員としてサッカー賭博の取り締まりに加わることとなる。

タイトルのマルセイユ・ルーレットとはフランスサッカーの英雄ジダンが好んで使っていた技であり、サッカーを好きなら人ならだれでも一度ぐらいは聞いたことがあるだろう。著者は「スカウト・デイズ」でプロ野球のスカウトの物語を描いていたので、今回も同じように普通にスポーツを楽しんでいる上では見ることのできない視点からサッカーを描いていることを期待して手に取った。

物語はフランスを中心としたサッカー賭博を題材としており、異国の地でサッカーに関わる3人の日本人の視点で描く。サッカー賭博を捜査するユーロポールの村野隼介(むらのしゅんすけ)、父親が遺したフランスで子供向けのサッカー教室の運営に奮闘する平井美帆(ひらいみほ)、そして、フランスでプロのサッカー選手として生きる水野弘臣(みずのひろおみ)である。

もっとも印象的なのは水野弘臣(みずのひろおみ)である。大きな夢を追ってフランスの地にやってきたにもかかわらず、少しずつサッカー賭博の罠に嵌まり込んでいくのである。きっかけは試合後の仲間と気晴らしで、カジノに行ったことだった。そして、気がついたときには大きなサッカー賭博の組織のために八百長をせざるを得ない状況に陥っているのである。

一般の人ば持つ、八百長に関わるサッカー選手に対するイメージは、お酒や麻薬に溺れる人のような自制心のない人間だろう。しかし、実際にはサッカー賭博の組織は、普通のサッカー選手でさえも陥るように巧妙に罠を張り巡らしているのである。改めてサッカー選手に限らず、多くの注目を集めるプロ選手は、私生活さえも質素に送るべきだと感じた。

サッカー賭博が世の中に多く存在するのはサッカーファンとしては残念なことであるが、大きなお金の動くところには、そこで儲けようとする人々が集まってくるのは当然の流れで、それは現実として受け入れなければならないだろう。本書はサッカーにそんな新たな視点をもたらせてくれた。

著者の作品には他にもスポーツを題材にしたものがいくつかあるようなので、他の作品も読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「マルセイユ・ルーレット」
【amazon】「マルセイユ・ルーレット」

「サイゼリヤ革命 世界中どこにもない“本物”のレストランチェーン誕生秘話 」山口芳生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
安さと品質で大衆の心を掴んで発展を続けるサイゼリヤの根本にある考え方を語る。

本書を読んでみると、サイゼリアの企業の本質が世の中の幸せであることが伝わってくる。昨今世の中に溢れかえっている利益や株主のご機嫌取りしか考えてない企業の方々にぜひ見習ってほしい。

そんななかもっとも印象的だったのは、サイゼリヤの味に関する考え方である。

たまに来てもらうのであれば、インパクトのある味にしたほうがいいのは当然だ。何かの機会にふと思い出して「あれが食べたい」とたまらなくなる….
 だが、サイゼリヤはおいしさを「毎日食べても味わいがあり、いつまでも食べ続けたくなる味」ととらえた。

これは食べ物に関する事業だけでなくあらゆる面について言えることなのではないだろうか。最近はオンラインでのサービスが増え、クリック率やCV率が簡単に数値化できるようになったからこそ、その副作用としてインパクトばかりを求め過ぎている気がするからこそ、なおさらそう感じた。

後半は、サイゼリアの初期の奮闘の様子なども描かれており、大いに刺激を与えてくれる内容だった。なんといっても、味で世の中を幸せにするだけでなく、その過程で、日本の地方や海外にまで多くの雇用を生み出していることに大きく感銘を受けた。引き続き、世の中を良くするための取り組みを続けてほしいと思った。

【楽天ブックス】「サイゼリヤ革命」
【amazon】「サイゼリヤ革命」

「ドーナツ経済学が世界を救う」ケイト・ラワース

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これまでの経済学とは考え方の異なるドーナツ経済学の概要と、その基準に従って世の中を良くする方法を提案する。

序盤では経済学の歴史と、これまでの経済学が主にGDPの向上を目指していたため、必ずしも人々の幸せや環境の維持といった、現代の人々が「良い」と感じる世界にはつながっていないことを説明する。そして、その後に本書のドーナツ経済学の基本的な考え方と、これまでの経済学との異なる次の7つの考え方を語っている。

  • 1.目標を変える
  • 2.全体を見る
  • 3.人間性を育む
  • 4.システムに精通する
  • 5.分配を設計する
  • 6.環境を創造する
  • 7.成長にこだわらない

経済学の歴史や現代社会との矛盾についての話は非常に面白い。経済学が面白そうだと思って本書に至ったのだが、過去の経済学のGDP重視の考え方を知ると、少なくとも今での経済学は趣味としてしか役に立たないだろうと感じた。

その一方で、環境的に安全社会的に公正な範囲にすべての人を入れるということを念頭においたドーナツ経済学の考え方はまさに今の世の中が目指すべきものと言えるだろう。中盤以降、ドーナツ経済学の観点から著者はさまざまな提案をするのだが、中でも特に再分配の手段として世界中で考えたり部分的に実行されている方法が興味深かった。バングラディシュのバングラペサやスイスのツァイトフォアゾルゲなどそれぞれ個別に調べてみたいと思った。

付録として社会的な土台の指標、環境的な上限の指標を書いてあるので項目だけでもしっかり頭に入れて、今後機会があれば詳しく調べてみたい。

社会的土台の12の分野
食料
健康
教育
所得と仕事
水と衛生
エネルギー
ネットワーク
住居
男女の平等
社会的な平等
政治的発言力
平和と正義
環境的な9の許容限界
気候変動
海洋酸性化
化学物質汚染
窒素及び燐酸肥料の投与
取水
土地転換
生物多様性の喪失
大気汚染
オゾン層の減少

経済学を学んだことがない人間にとっては理解するのが難しい箇所も多々あったが、全体的に興味深く読むことができた。

【楽天ブックス】「ドーナツ経済学が世界を救う」
【amazon】「ドーナツ経済学が世界を救う」

「Whistleblower: My Unlikely Journey to Silicon Valley and Speaking Out Against Injustice」Susan J. Fowler

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Uberで日常的に起こっていた女性差別を世の中に公表した著者が、その生い立ちや公表に至るまでの経緯や心のうちを語る。

Uberでの出来事が中心と思っていたが、その生い立ちや大学時代の出来事、Uberに転職するまでの社会人としての様子についても詳細に語っている。

小学校時代は学校に行かずにクリスチャンの両親の元て家庭で教育を受けていたために、なかなか他の生徒と打ち解けられずにいる様子が描かれている。そんな、どちらかというと一般的な生徒に対して遅れをとっていた著者のキャリアは、目標を持ったことで、主体的な生き方に目覚めてから一気に動き出す。そこからの著者の行動力には驚かされることばかりである。

中盤からは大学での生活に触れている。大学では自殺願望の強い同僚の存在によって、研究者としての道を諦めざるを得なくなり、スタートアップで働くことを決意するのである。最初はなかなか良い会社に恵まれず、そんな経緯も含めて最終的なUberでの大きな行動につながっていくのだとわかる。

そして後半はUberに入社してからの様子と、組織の中で少しでも会社の文化を良い方向に変えようと奮闘する様子や、退職を決意してからから内部に蔓延っていた差別を公表するまでの経緯や葛藤を描いている。これほど行動力や信念を持った人間でも、正しさと、その行動が自分や友人家族へもたらすだろう影響の大きさの間で悩みながら行動に至ったことが伝わってくる

どちらかというとスタートアップは新しい文化を体現していることが多い印象を持っていたので、Uberでここまで女性差別が行われていたと言う事実に驚かされた。また、そんななかある程度のところで妥協点を見つけて組織の中で止まる人々の行動も理解できるからこそ、著者のように頑なに理想を追い求めて戦う姿は新鮮である。女性ではないので、残念ながら著者の行動に共感できるわけではないが、その信念に従った行動には大いに刺激を受けた。

英語慣用句
forced arbitration 強制仲裁
amicas curiae brief 裁判所に対する意見書
in the hot seat 厳しい立場にいる
blow the whistle 暴露する
take them up on their offer 申し出に応じる、お言葉に甘える
smear campaign 組織的中傷
gag order 発言禁止命令、報道禁止命令
turn the other cheek 甘んじて受け入れる

「De Ninguna Parte」Julia Navarro

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃にイスラエルの軍事作戦によって両親を目の前で殺されたAbir Nasrと、その作戦に参加していたユダヤ人のJacob Baudinの二人の人生を描く。

Abir Nasrは両親を失ったために、弟ととともに親戚夫妻JamalとFátimaのもとに引き取られ、パリという自由の国で思春期を過ごす。やがて過激なイスラム思想を持つ団体Círculoに属して、イスラム教の過激な教育を受けることとなる。

一方、ユダヤ人のJacobは自らが参加したイスラエル軍の作戦が原因で、当時少年だったAbirの両親が亡くなる。その際、AbirがJacobに向かって叫んだ「いつか復讐してやる」という言葉を忘れることができず、罪悪感を抱えたまま生きていくのである。

やがてアフガニスタンで特殊な教育を受けたAbirは、テレビ局への手紙を通じて世の中に警告を出すのである。囚われているイスラムの重要人物たちを解放しなければ民間人を殺していくと。長年Abirの夢に悩まされていたJacobはすぐにその人物がAbirであると気づき、Abirを確保するためにCIAや警察や各国の諜報機関が協力して動き出すのである。

イスラムの過激派やその近くの人々の視点で描かれる物語にこれまで触れたことがなかったので全体的に新鮮である。なかでも過激な思想を持つ父Jamalと兄Faridの元で生活する二人の女性が印象的である。母親のFátimaは複雑な思いを抱えながらもイスラム世界で良い妻の模範とされるように、ひたすら夫の言うことに従順にふるまう一方で、娘のNoraはイスラム教のしきたりのもとで生きることを拒み、やがて家を離れていく。

その他にも、Abirの初体験の相手であるMarionや、テロリストの要求を世界に発信し、その後はテロリストのターゲットとなったニュース番組で、報道を使命とするニュースキャスターHelenなど、それぞれが確固たる信念を持つ人間として描かれていて興味深い。

全体的にイスラム世界やイスラエルに対して新たな視点を与えてもらった。イスラム過激派のテロリストというと危険な思想を持った人々という印象を抱きがちがが、他の多くの場合と同様に、過激派の中にもいろんな温度感の人がいるのだと伝わってきた。

スペイン語慣用句
dar marcha atrás やりなおす、後戻りする
un campo de exterminio 強制収容所
un pirata informático ハッカー
cumplir con … …に敬意を払う
darse de bruces con … …と出会う

「THINK BIGGER「最高の発想」を生み出す方法」シーナ・アイエンガー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
発想を生み出す方法THNK BIGGERについて説明している。

序盤はニュートン、ピカソ、ヘンリー・フォードなど過去の著名な人物の発明を例にとって基盤となる考えを説明する。それは、過去の斬新な発明や考えは、すでに知られていた技術や考えを単に組み合わせただけで、ゼロから何かを生み出そうとするのではなく、最適な組み合わせを考えることこそ重要、と言う考えである。

その後THINK BIGGERを6つのステップに分けて解説していく。

1.課題を選ぶ
2.課題を分解する
3.望みを比較する
4.箱の中と外を探す
5.選択マップ
6.第三の眼テスト

昨今多くの組織でブレインストーミングの文化が取り入れられているが、その効果が疑わしいのは実際に経験したことのある人なら薄々察していることだろう。

集団力学が個人の創造性を大きく妨げることも明らかになっている。人はさまざまなかたちで周りに忖度し、アイデアを間引いたり、最初や最後に提示されたアイデアに過度に影響されたり、最も都合のいいアイデアを選んだりする傾向がある。

もっとも印象的だったのは「課題の定義」を怠らないという言葉である。

複雑な課題に関しては、正しい課題を正しいレベルで特定しなければ、混乱し、労力を無駄にし、不本意な結果に終わるのは目に見えている。…
Think Biggerでは、意味がるほどには大きいが、解決できるほどには小さい課題を特定する。

それぞれの章で説明していることは納得のいくことばかりだが、全体の手法事態は組織のサイズなどによってカスタマイズする必要があるだろう。今後デザインスプリント等組織全体でアイデアを出す機会があったら本書で紹介されている考え方を部分的にでも取り入れてみたいと思った。

【楽天ブックス】「THINK BIGGER「最高の発想」を生み出す方法」
【amazon】「THINK BIGGER「最高の発想」を生み出す方法」

「すべては「好き嫌い」から始まる」楠木建

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
良い悪いではなく好き嫌いについて語る。

基本的には僕の読書のスタイルは、フィクションで広げノンフィクションで掘り下げる、というイメージなのだが、本書はノンフィクションでありながらテーマの定まらない珍しい本である。したがって数ページ読んで、最後まで読むかどうか悩んだのだが、頑張って読んでみた。

大部分がどうでもいいことを呟いているだけではあるものの、いくつか目新しい表現や視点をもたらしてくれた。

服に凝るよりも、まずは姿勢を整えた方がよい。姿勢を整えるよりも、まずは体型を整えた方がよい。プレゼンテーションのテクニックを習得するよりも、まずは言葉を豊かにした方がよい。言葉を豊かにするよりも、まずは人に語りかけるべき内容を豊かにした方がよい。
「多様性が大切!」と言うくせに、通り一遍の労働条件しか認めない。いかにも矛盾している。

正直、テーマがはっきりしない独り言のような内容なので、人に勧められる本ではないが、こんな読書もたまには悪くないなと思った。

【楽天ブックス】「すべては「好き嫌い」から始まる」
【amazon】「すべては「好き嫌い」から始まる」

「スカウト・デイズ」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
プロ野球選手からスカウトに転向した久米純哉(くめじゅんや)はスカウトの伝説的な存在である先輩の堂神(どうがみ)とチームとしてスカウトとしての生き方を学んでいく。

先日読んだ同著者の「ミッドナイト・ジャーナル」が報道についてのこれまで知らなかった視点をもたらしてくれたので、著者の他の作品も読んでみたいと思いこちらに辿り着いた。タイトルからスカウトの生き方を扱った作品だとはわかるので、映画にもなった「マネーボール」のような話を想像していたりもしたが、実際にはもっと古く泥臭い人間同士の駆け引きを描いている。

スカウトの目的はドラフトでいい選手を獲得すること、と一般の人は思いがちであるし、実際その通りである。しかし本書を読むと、その先まで考えて自分達のチームが強くなること、少しでも優勝に近づくことを考えて選択をするスカウトがいることがわかる。例えば、選手の実力よりも同じ大学の後輩との人脈を考慮して獲得したり、故障持ちとわかっている選手を情報操作でライバルチームにドラフト一位で獲得させる、などである。

本書はスカウト1年目の久米純哉(くめじゅんや)がスカウトとして成長していく様子を描くと共に、純哉(じゅんや)の上司であり、スカウト界でも有名な堂神(どうがみ)の予想もつかないスカウトの手法を描いていく。

スカウトという普通に生きていると関わることのない世界を、見事に描いた作品。他にも著者の作品を見ると面白そうなタイトルのものが並んでいるのでぜひ引き続き読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「スカウト・デイズ」
【amazon】「スカウト・デイズ」