「amazon 世界最先端の戦略がわかる」成毛眞

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
さまざまな業界の勢力図を塗り替えて巨大な帝国を築きつつあるアマゾンのすごさとその戦略を語る。

GAFAとして、アップル、フェイスブック、グーグルと比較されることはあるが、そんななかでもアマゾンのすごいところは、業務の範囲を限定せずに手当たり次第に拡大している点だろう。そして不利と判断するとすぐに撤退し、有利と見ると資金力を活かして容赦無く拡大していくことが、本書を読むとよくわかる。

なかでも面白かったのは、楽天とアマゾンを比較する点である。企業の世界的なサイズは大きく違えと、日本では似た印象を持つこの二者であるが、著者はそのコンセプトには大きな違いがあるという。楽天のビジネスモデルは場所貸しなので、お客さんは出店してくれる企業だが、アマゾンにとってはお客さんはあくまでも消費者なのだという。そのため、初期は楽天が拡大しやすい一方、アマゾンは在庫管理や物流を整備しなければならない分時間がかかったというのである。言い換えれば、在庫管理と物流が整備されたら、楽天に勝ち目はないということだ。海外の本だとなかなか楽天とアマゾンを比較することはと思うだけに、この日本人目線の考察はありがたい。

知っていると思っている以上にアマゾンについて知ることができた。また、アマゾンの未来はそのまま世の中の未来になる点がおそろしくもあり、また楽しみである。全体的にアマゾンが今後つくっていく近い未来にさらに期待を抱かせる内容だった。特にAmazon Goの普及は楽しみである。

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「たのしごとデザイン論」カイシトモヤ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
アートディレクターである著者がデザインの仕事の仕方について語る。

少しでもデザイン力を向上させるてがかりになればと本書を読むに至った。

おそらく長年デザインをやっている人は同じような考え方にたどり着くのだろう。言語化の重要性とか、揃えるところとあえて崩すところを考えるなど、言っていることはどれももっともで、僕自身激しく同意することばかりで、今まさにデザイナーとしての道を歩き始めた人にとっては学ぶところがあるかもしれない。

ただ、残念ながら、書き方がダラダラと言いたいことをただ書き連ねるので読みにくい。デザイナーであるなら、無駄をそぎ落とすことの重要性をわかっているはずなのに、書籍においてそれをやらないというのがなんとも残念である。

ページ数を増やすという出版社側の意図かもしれないが、文字も大きく、ひょっとしたら「完全版」ではない前作の方がコアとなる部分だけにしぼった良い本なのかもしれない。

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「一九八四年」ジョージ・オーウェル

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ビッグブラザーの支配下で生きるウィンストン・スミスを描く。

ビッグブラザーの支配のもと、過去はビッグブラザーに都合よく書き換えられ、それ以外の記録を残すことは禁止されている。そして言葉も最低限の情報交換に必要なものだけに単純化されていく。そんななか、自分の心だけは豊かなままでいたいと努めるウィンストン・スミスを描く。

マッキントッシュの有名なCMに代表されるように、様々な箇所で引用されており、一度は読んでおかなければならないと思い、今回読むに至った。

ビッグブラザーの支配のもとで生きるウィンストン・スミスが、ジュリアという女性と恋に落ち、少しずつ思想的にも行動的にも大胆になっていくなかで、ビッグブラザーに対抗する組織と近づいていく様子を描く。

つまらないというわけでも、新鮮さがまったくないというわけでもないが、正直、現在の様々な物語が溢れる時代に生きた人々が本書を読んで、その面白さを享受できるかと問われれば、そんなことはない。古い物語を読むときは、その時代背景も考えながら楽しむべきだろう。

物語の舞台は1984年だが、発表は1949年と第二次世界大戦が終結して間もない時だというから驚きである。発表からも描こうとしていた未来からも遠い未来である現在から本書を読むと、当然、発表当時本書を読んでいた人々とは受ける印象がまったくことなることだろう。それでも、なぜこの物語が当時多くの人々に読まれ、80年近く経った今でも共通言語として語られる存在になったのかと考えた。

本書のあとがきでも触れられているが、単純な物語の斬新さだけではなく、発表当時もしくは発表後数十年のソビエト連邦の脅威に重なる部分が本書の認知を拡大に大きく寄与したのだろう。その流行は、メディアか政府によって意図して起こされたのか、人々の間で自然に起こったのかはわからないが、その結果、アメリカを代表する西洋諸国の間で、避けるべき未来を語る上での共通認識となっていったのではないだろうか。

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「スタンフォード式疲れない体」山田知生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
スタンフォード大学のトレーナーである著者が疲れない体づくりを語る。

スタンフォード大学は学業で有名な印象があったが、本書によるとスポーツでも長年目覚ましい成績をあげているという。本書はそんなスタンフォード大学で実践されている疲れの予防法について語っており、僕自身最近マッサージやストレッチなどコンディションづくりや体のケアに対して関心が高まっており、本書にたどり着いた。

まず、自らのコンディションを知ることの重要性を説いている。脈拍を定期的に測ることに「疲れ」を具体的な数値として計測できるようになるというのである。

そして、本書でもっとも印象的だったのはIAP呼吸法である。それはIntra Abdominal Pressureの略で「腹圧呼吸」とも書いており、簡単に言うと

息を吸うときも吐くときも、お腹の中の圧力を高めてお腹周りを固くする呼吸法

である。つまり、腹式呼吸とも異なり、これによって体幹が安定し正しい姿勢になり、無駄な動きがなくなるというのである。どちらかというと腹式呼吸が理想の呼吸という印象を持っていたためIAP呼吸法の考え方は新鮮だった。

ダメージ療法として「アイス・ヒート」メソッドも紹介している。簡単にいうと怪我をして24時間までは冷やし、24時間以降は温めるという方法で、注意しなければならないのは、怪我をした翌日だろうと24時間経つまでは冷やすということである。

終盤d根は睡眠と食事の重要性について語っている。睡眠は最低でも7時間、週末も平日も同じ時間に寝ることを勧めている。食事については、他の書籍でも触れていることと特に大きな違いはなく、日本人は炭水化物を摂りすぎなので、タンパク質の割合を増やすことを意識しなければならないという。ただ、本書でも言っているように、食事は厳しくしすぎると続かないので、できる範囲で徐々に習慣づけていきたい。

呼吸法、脈拍の定期的な測定、アイス・ヒートメソッドは早速取り入れていきたいと思った。

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「花まんま」朱川湊人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第133回直木賞受賞作品。大人になった人々が子供時代の不思議な体験を思い起こす。そんな6つの物語である。

ずっと心の奥にとどまっている、心残り、引っ掛かり、解決しないままの気がかりなど、すでに記憶に残るぐらいの年齢ではあるが、世の中のすべてを知っているとは言い切れない、そんな年代である小学生の頃の不思議な記憶を、それぞれの男女が吐き出していく。6つの物語に触れる中で、当時の情景が思い起こされ、当まだまだ貧富の差や、差別などがそこら中にあふれていたのだと感じるとともに、過去の生活の進歩を改めて感じる。

また、本書にふくまれる6つの物語のように、人の人生とは必ずしも、優しい人が幸せになるわけでもなく、悪い人が罰せられるわけでもなく、いつか完全にすべての謎が解けるような作られた映画のような物語でもなく、はっきりしないまま、何年経っても結末を知り得ない、やるせない部分を抱えているものなのだろう。

どれも同じ40代、50代の主人公が小学校の頃を思い起こす物語だから、どの物語からも昭和の懐かしい香りが漂ってくる。描ききらない微妙な空白が、40代の僕に当時の埃まみれの校庭や道端の匂いを感じさせてくれる。他の世代の人はどう思うかわかららないが、同年代の人には間違いなくおすすめできる作品。

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「55歳からのハローライフ」村上龍

55歳からのハローライフ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
50代のどこにでもいそうな男女を主人公にした5つの物語。50代になって人生の転機を迎え、新しい人生の物語である。

夫と離婚して婚活を始めた女性の話、定年後妻とキャンピングカーで全国を回ることを楽しみにしていた男性の話、本で出会った女性に恋をするトラックドライバーの話など、どれも魅力的な物語である。

個人的にはキャンピングカーの物語が印象的である。同じように喜んでくれると思った妻が、キャンピングカーの話に思っていたほど乗ってこないのである。そして少しずつ、妻や娘にもそれぞれ長い間育んできた楽しみの時間があることを知る。また、自分自身も仕事という時間の過ごし方がなくなった今、新たな生き方を改めて考え始め、多くのことに気付き始めるのである。

年齢を重ねて、人生が生きる価値のないものになっていく、などと考えている人がいるのなら本書はまさにおすすめである。何歳になっても人生は青春であり、ドラマであり、自分自身は主人公なのだ。どんな人の人生にもじっくり語ることのできる物語があることを再認識させてくれるだろう。

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「カラフル」森絵都

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
死んだ「ぼく」は天使によって人生の再挑戦の機会が与えられ、小林真(こばやしまこと)という中学3年生の人生を期間限定で引き受けることになる。

「ぼく」は小林真(こばやしまこと)を手探りをするように探りながら、その家族や友人とその関係を把握していく。そして、小林真(こばやしまこと)という人間が、絵は得意でありながらも、家族や友人との関係にいくつかの問題を抱えていることに気づいていく。

死んだ人間に再挑戦の機会が与えられる。この物語の流れはすでに多くの作家が使っている。すぐに思い浮かぶところだと「幽霊人命救助隊」「ミッドナイトライブラリー」で、どちらも自信を持って勧められる作品で、ある意味、この流れで描かれた物語にそうそうハズレはない。本書も例外ではない、他の作品にない点を挙げるなら、感受性豊かだが、人生思い通りに行動するほど時間もお金もない中学生を主人公に据えている点だろう。

それでも小林真(こばやしまこと)の人生を引受けることとなった「ぼく」は、できる範囲で友人や家族に自分の考えを伝えていく。知らないまま、伝えないままでいることよりも、事実と向き合うことを選んでいくのである。それによってこれまで見えてなかった、家族や友人たちの新たな側面が見えてくるのである。

ありがちな設定の物語とは読む意味がない物語という意味ではない。この手の物語は何度でも読むべきで、何度でも人生を前向きに補正してくれる作品である。

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「華麗なる一族」山崎豊子

華麗なる一族

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
阪神銀行の頭取である万俵大介(まんびょうだいすけ)とその家族を描く。

長男の鉄平(てっぺい)は関連会社である阪神特殊鋼の専務を務め、次男の銀平(ぎんぺい)は大介(だいすけ)と同じ阪神銀行で働く。面白いのは、家庭教師である相子(あいこ)の存在である。相子(あいこ)は家庭教師として万俵家と関わることになったにも関わらず、今では、万俵家の権力を広げるために、息子や娘たちの縁組みに奔走するのである。そして大介(だいすけ)は相子(あいこ)と妻の寧子(やすこ)と交互に夜を共にするのだ。

そんな複雑に入り組んだ銀行一家を率いる大介(だいすけ)だが、年銀行再編の流れのなかで、業界ランクと10位として、他行に吸収されず、その地位を守ったまま阪神銀行を大きくする方法を模索していく。その過程で銀行間や政治家との駆け引きが詳細に描かれる点が面白い。

山崎豊子の物語は、現実の出来事に対して緻密に調査しそれをフィクションとして作り上げるだけに、本作品も実際に起こったことがベースになっているだろうと考えると面白い。航空業界、報道、医療などについて書いているので次回は医療業界を描いた名作「白い巨塔」を読みたいと思った。

【楽天ブックス】「華麗なる一族(上)」「華麗なる一族(中)」「華麗なる一族(下)」

「ドローイングレッスン」ジュリエット・アリスティデス

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

先日読んだ、「ペインティングレッスン」の同じシリーズのドローイング版である。「ペインティングレッスン」が新たな視点をもたらしてくれたので、本作にも期待して手に取った。

本書はデザイン、ライン、明度、フォルムの4つの視点でドローイングを解説する。その過程で、さまざまな歴史的な美術の背景や、作品を紹介している。デザインの章では黄金比について多くの例を交えて解説しており、改めて黄金比の重要性を感じた。ちなみにフォルムとは3次元の錯覚を作り出すことで、写実主義の芸術家がたちが没頭した、絵に説得力を持たせるためには不可欠な技術なのだという。

測定法についても3つの測定法、サイトサイズ法、関係法、比較法を語っており、度々出てくるブロックインという手法ともに、長所と短所に、軽く触れているだけで、正確な解説には至ってないので、別の書籍などで理解できるまで調べてみたいと思った。

ペインティングレッスンと同様に明度の重要性を改めて感じるとともに、絵画とはいえ、不要なものを削ぎ落とし、意図した通りの再構成することが良い作品を作るためには重要で、ただみたものを写し取るだけではなくデザインと非常に似たものだと感じた。

「ペインティングレッスン」と同様に、人生をすべて費やしても足りないのではないかと思わせるぐらい、絵画の深さを感じさせてくれる一冊である。

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「直感と論理をつなぐ思考」佐宗邦威

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
PDCAによる改善の流れは今後ますます自動化され、正解がないものに取り組む直感的な発想法がより必要になるという。本書では直感的な考え方の必要性とそれを生み出す手法を語る。

本書ではこれから社会が向き合う2つの危機をオートメーションの波とVUCAの霧としている。VUCAとはVolattility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)である。そしてそんななか、論理的、戦略的思考ではいずれ限界がくると説いている。つまり、ゲームに勝つことよりも、ゲームを作り出すことこそた重要なのだという。「自分モード」から「他人モード」、「1→∞」から「0→1」、「Vision-Driven」とから「Issue-Driven」など様々な言い回しを使っているが言っていることは基本的に同じである。

「いかに答えを探すか」ではなく、「そもそも答えなどない」という前提で動くことが、大半の人・組織に求められるようになったわけだ。

そして、後半では「0→1で発想する様々な手法を紹介している。プロトタイピングメソッドによって早く作って早めに失敗することの重要性や、広く全体を見る鳥の目と狭く集中して物事を見つめる虫の目を使い分ける方法や、「画像」と「言葉」を往復する思考法を紹介している。

なかでも手書きと絵の重要性を説いている点が印象的である。どんなにアプリなどのデジタルツールが進歩したとしてもアプリの立ち上げまでの時間を考えると、すぐに開けてかけるノートとペンにはかなわないと著者は主張するのである。

僕自身もすでにコンセプトが出来上がっているものを作り上げるよりも、コンセプト自体を創造することに価値があると考えているので、本書で行っていることには共感する。アイデアの出し方についても、僕自身デザイナーとして、デザイン案を構築する中で、言葉とイメージを往復しながらアイデアを少しずつ固めていく手法をよく使う。本書で書かれている内容は、その手法の効果を裏付ける形となった。

ツールについては、iPadのApplePencilの登場でかなりアナログの感覚をデジテルツールでも再現できるようになったと感じているが、確かにアクセスや、アプリを開くまでの時間を考えると、本書で言っているようなこともあるのかもしれないと感じた。ノートを一冊常に持ち歩くように習慣づけることは間違い無く良いことだろう。さっそく素敵なノートを一冊購入しようと思った。

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「ペインティングレッスン」ジュリエット・アリスティデス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
有名な絵画の解説とともに、著者がその生徒たちに実践させている練習方法を紹介する。

上手なアーティストと自分の絵を比べると、今更ながらに技術にかなりの差があるのと感じ、その差を埋めるためにどのようなことをすればいいのかを知りたくて本書にたどり着いた。

本書では、構図、明度、色について説明しながら、有名な美術作品を紹介している、また、それとあわせて7つの練習の手法と実際の生徒たちのその練習の様子を紹介している。

  • モノクロの模写
  • モノクロのキャストペインティング
  • 明度を基調にした静物画
  • 暖色と寒色によるキャストペインティング
  • カラーの模写
  • カラーの静物画
  • 人物画

1つの絵を白黒に変換するときに、明暗をどのように解釈するかにも何通りものパターンがある。そのパターンを検討した上でベストなものを選択するという考えを今まで持っていなかったことに気づかされた。美大等でデッサンにかける時間を考えると当たり前なことかもしれないが、改めて、実際のものを見てそれを白黒に変化するデッサンの重要さを知ったので早速毎日の習慣に取り入れたい。

また、拭き取り技法、キャストペインティング、サイトサイズ法など、わからない用語がいくつかあった。おそらく美術を専門的に学んだ人にとっては常識だと思うので、しっかり調べて理解したいと思った。同じ著者の作品に「ドローイングレッスン」というのもあるので本書に続いて読んでみたい。

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「三体III 死神永生」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
女性の科学者である程心(チュン・シン)は三体危機の勃発によって、類の存続のための計画に関わっていくこととなる。

三体シリーズの完結編である。「三体II」で三体文明との均衡状態に至った人類のその後を、女性の科学者である程心(チュン・シン)を中心に描いている。

序盤は、三体文明の脅威にさらされ人類が智子(ソフォン)に監視されるなか程心(チュン・シン)が、人間を三体文明に送るという階梯計画(ラダープロジェクト)に関わっていく様子と、並行して、程心(チュン・シン)の大学時代の同級生である雲天明(ユンティエン・ミン)が、余命わずかとなり、死の間際に程心(チュン・シン)に星をプレゼントする様子を描いている。やがてこの2人の関係が人類の存続の大きな鍵となっていくのである。

また、暗黒森林抑止によって、三体文明との緊張状態保っていた人類だったが、暗黒森林抑止を保つ執剣者(ソードホルダー)の交代の時を迎える。三体文明はその交代の瞬間を狙って大きな動きを仕掛けてくるのである。

後半では、人類の存続をかけた3つの計画を中心に描く。大量移民計画、全宇宙への安全通知、高速宇宙船の開発である。程心(チュン・シン)は最期まで人類の存続に関わる存在となっていくのである。

中盤以降は程心(チュン・シン)も冬眠を繰り返し、時代がこれまでと比較しても格段に早く未来へ進んでいくため、現代から考え方も含めての乖離が大きくなり、理解が追いつかず、あまり楽しめなかった。三体全体の総括としては、「三体II 暗黒森林」が一番面白かった。「三体」全体的に哲学的な考えを、SFのなかに取り入れているのが大きな魅力と入れるのかもしれない。

個人的には、種と種の対立が、まるで個と個の対立のように描かれていて、実際にはこうはならないだろうと思える箇所が多々あった。例えば環境破壊に代表されるように、1人1人の人間は常に人類という種族の数百年後の存続を考えて行動をしているわけではない。暗黒森林のような脅威によって2つの種族が均衡状態になることは実際には簡単ではないだろう。

現代には存在しない技術や文化を描かなければSFとはなり得ないにも関わらず、現代の技術や文化から離れすぎると理解されないという、SFというカテゴリの創作者が持つであろう葛藤を感じた。そういう意味では本作品と比較される「プロジェクト ヘイル・メアリー」の方が程よい点をついていると感じた。

【楽天ブックス】「三体III 死神永生(上)」「三体III 死神永生(下)」

「三体II 黒暗森林」劉慈欣

三体II 黒暗森林

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
400数年後に三体文明からの侵略艦隊が到達することが明らかになり、また、地球は智子(ソフォン)によって監視されている。そんななか地球の未来は4人の面壁者に託されることとなった。

三体の続編である。ようやく物語が大きく動き始める。地球の動きは、三体文明の解き放った智子(ソフォン)によって監視されているが故に、4人の面壁者は地球を守る計画を、頭のなかだけにとどめて公にすることはできないが、あらゆるリソースを理由を言わずに自由に使える権限を持つのである。そして、本作品は面壁者の1人である羅輯(ルオ・ジー)が主に中心となって描かれる。

序盤はそんな4人の面壁者の苦悩や、計画を描く。もちろん行動から簡単にその内容が明らかになってしまうようでは、三体文明にも筒抜けになってしまうので、計画の核となる部分は頭の中にだけながら、それぞれの面壁者は行動を開始していくのだが、大きなリソースを使う権力なだけに、政治的な駆け引きも絡んでいく。また、一方で地球の三体文明を支持するグループ、地球三体協会(ETO)はそれぞれの面壁者の計画を破壊する、破壁人(ウォールブレイカー)を割り当てるのである。

そして、後半は185年後の様子を描く。羅輯(ルオ・ジー)を含む何人かの面壁者は冬眠して時を飛び越え、一方で三体文明の解き放った探査機が太陽系に到達し、地球は三体文明と初めて向かい合うこととなるのである。

正直、前作「三体」は物語展開に乏しく、三体の前評判が高すぎたので若干がっかりしたのだが、本作品は一気に物語が動いて最後まで期待を裏切らない展開となった。本書で三体文明との決着はついたようにも見えるので、むしろ三体IIIではどのような物語が描かれるのか非常に気になってくる。

【楽天ブックス】「三体II 黒暗森林(上)」「三体II 黒暗森林(下)」

「滅びの前のシャングリラ」凪良ゆう

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
1ヶ月後に地球に隕石が激突することが明らかになる。そんな滅亡の前の人々を描く。

小学生の江那友樹(えなゆうき)はクラスではいじめられっこという存在でありながらも、地球滅亡を前にクラスのヒロインである藤森さんに少しずつ近づいていく。また、目力信士(めぢからしんじ)は、40歳でヤクザとして生きてきたが、知り合いのヤクザか殺しの依頼されて実行に移そうとする。そんな2人を含む4人の視点から滅亡前の様子を描く。

地球滅亡を前にして、人々はずっと会いたかった人に会いに行ったり、好きな人に告白したり、略奪や欲望のままに行動したりする。そんな少しずつ混沌としていく世界の中で、藤森さんを守ろうとする友樹(ゆうき)や昔の恋人に会いにいく信士(しんじ)の前に様々な障害が立ちはだかるのである。

正直、地球滅亡前の人々の行動がなんとも現実感なく感じてしまうのは僕の想像力の欠如からなのだろうか。多くの人は残りの時間を考えると、使いきれないほどのお金を持っていることになるのし、食料も国としては余ることになるので、実際にはそこまで略奪する必要もなく、最後まで倫理的に行動する美学を持って普段通り行動する人が本書で描かれるよりも多いのではないかと感じてしまった。

著者の別の作品「流浪の月」が良かったので本書も読もうと思ったのだが、正直今回はあまり深みを感じなかった。ひょっとしたら、著者のなかにこの特殊な設定を通じてしか訴えられないものがあったのかもしれないが、残念ながら理解できなかった。

【楽天ブックス】「滅びの前のシャングリラ」

「税金を払うやつはバカ!」大村大次郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
国税局で10年間働いてきた著者が税金について語る。

昨今、自身の収入が少しずつではあるが増えてきたせいか、税金を意識する機会が多くなった。そんななか少しでも節税ができればと本書にたどり着いた。

面白いのは、国税局で働いてきた経歴を持ちながらも、税金をできるかぎり払わないことを推奨している点である。本書では個人事業主から会社員まで、支払う税金を少なくするための様々な方法を説明している。また、あわせて、日本の税金の制度のよくない点も説明している。

残念ながら会社員の僕がすぐに適用で起用できそうな方法は、せいぜい医療費控除に適用できる出費を知っただけで大きなものはなかった。むしろ節税の方法よりも、税金の制度について新たな視点をもたらしてくれた。例えば、消費税が公平な制度ではない、というのはよく耳にするが、消費税が格差社会を作るとまでは思っておらず、本書を読むまでしっかり理解していなかった。また、同様に消費税が非正規雇用を増やすことに貢献しているという視点も新鮮だった。

節税対策としてすぐに行動できる内容は少なかったが、税制度に対して新たな視点をもたらしてくれた。

【楽天ブックス】「税金を払うやつはバカ!」

「三体」劉慈欣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
各地で科学者たちの自殺が相次いでいる知った、ナノテク素材の研究者である汪森(ワン・ミャオ)だが、ある日自身も目の前にカウントダウンの数字が見えるようになる。

汪森(ワン・ミャオ)のカウントダウンから逃れようとする現代の様子に先んじて、文化大革命で科学者の父を亡くした葉文潔(イエ・ウェンジエ)が描かれ、時代を超えた大きな陰謀が陰謀が少しずつ形になっていくことを感じさせる。そんななか、汪森(ワン・ミャオ)は「三体」という仮想空間を舞台にしたゲームに魅せられていく。そこでは太陽が3つ存在し、その太陽の動きによって文明は何度も滅亡を繰り返すのである。

やがて、謎のカウントダウンから逃れようと奮闘する汪森(ワン・ミャオ)は、文潔(イエ・ウェンジエ)の存在を知り、そ少しずつ中国の田舎にある秘密の施設で過ごした文潔(ウェンジエ)の日々が明らかになっていく。

印象としては、本作品はまだ序章といった感じで、大きな展開はほとんどない。評価があまりにも高いためにちょっと拍子抜けした感じである。もちろん続編を読まなければ「三体」という作品自体の評価はできないが、長ければ良いと言うものでもなく、どの程度描きどの程度を読者に委ねるかと言うバランスが重要で、もう少しコンパクトに書けるのではないかと感じてしまった。

もし「三体」こそ最高のSFと思っているなら、個人的には鈴木光司の「ループ」をオススメしたい。「リング」「らせん」があまりにもホラーとして一人歩きしてしまったが、その完結編の「ループ」こそ日本の最高のSFである。

【楽天ブックス】「三体」

「サピエンス全史」ユヴァル・ノア・ハラリ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ホモ・サピエンス、つまり人類の進化の歴史を詳細に説明する。

人類の進化の歴史を詳細に説明するなかで、ホモ・サピエンスが現代のように地球の支配者となった主な要因について説明している。

例えば初期の大きな変化は農業革命である。農業革命によって、狩猟から農耕へと移ったことにより、人々は定住化し、住居を持ち、その住居や土地に愛着を持つようになったという。著者は本当にそれが良かったかどうかについては疑問を投げかけているが、種としての進歩の過程で、その中の一個体、または特定の集団が、狩猟と農耕の生活の違いを比較して良い方を選択するということができないと結論づけている点が面白い。

もっとも興味深かったのは、ホモ・サピエンスの想像上の秩序によって一緒に行動することができるという特性であり、その特性によって、ホモ・サピエンスは他の種を圧倒することができたという主張である。例えば、チンパンジーやクジラなどの哺乳類も、どこに天敵がいるなどの簡単な会話はかわすことができるが、一般的なコミュニケーションで行動を共にできるのはせいぜい150個体程度の集団であり、それ以上の個体数、1万、10万という個体が共通の目的を持って行動するためには、宗教や神話など想像上の秩序を共通認識として持つ必要があるというのである。

キリスト教やアメリカの独立宣言など例をあげればきりがないほどさまざまな形でホモ・サピエンスはそれをこれまでにやってきて、今この時点でも様々な想像上の秩序に依存した関係のなかで生きていることは間違いのない事実である。

悲しいことに、多くの絶滅が、ホモ・サピエンスがその大陸に到達した時期と重なっているという。これはホモ・サピエンスの一個体として真実として受け入れるしか無いだろう。

学生時代に歴史の授業で学んだより時から、20年以上経って、現在はるかに多くのホモ・サピエンスの歴史が判明されていることに驚かされた。このような本でも読まない限りなかなか目を向ける機会のない分野なので、新たに知ったことがたくさんあった。ただ、前回読んだ「21Lesson」でも感じたことだが、若干冗長な語りが多く全体的に読みにくい。読もうと思った時にはある程度の覚悟が必要である。まだ未読の「ホモデウス」も名前はよく聞く作品なのでぜひ読みたいとは思っているが、しばらく間を置きたいと思った。

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「ひと」小野寺史宣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生の柏木聖輔(かしわぎせいすけ)は、親が急死したために、大学を辞めて、偶然立ち寄った惣菜屋で働き始める。そんな聖輔(せいすけ)を描く。

聖輔(せいすけ)は高校生のときに交通事故で父親を失い、大学生になって母を突然死で失ったことで人生を大きく考え直さなければならなくなる。正直僕自身、両親に早くに先立たれる人の苦労を知らずにいた。しかし、実際にはそれほど珍しくない話で今回はそんな人生に触れることができた。

やがて聖輔(せいすけ)は親切な惣菜屋の店主や店員の助けを借りて、独り立ちしていく。物語を通じて感じるのは、なによりも聖輔(せいすけ)自身の真面目さが、多くの人の信用を集めているということである。

この惣菜屋の店主などのように、困っている人に機会を差し出せる人間になりたいと思った。また、本書の聖輔(せいすけ)のような、若い人間目線としては、約束を守ること、誠実でいることで多くの人の優しさを引き寄せるのだと感じた。子供達にはそのことを伝えていきたいと思った。

物語を読み終わってもう一度タイトルを見ると、そこに深い意味が感じられる。

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「お探し物は図書室まで」青山美智子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
近所の図書館を訪れたことによって人生が動き出す5人の男女を描く。

本書は5人の男女を描いている。ちょっとしたきっかけから近所の公民館を訪れ、そこで出会った司書に本を勧められたことで、人生が少しずつ動き出すのである。どの人生にも印象的なシーンはあったが、個人的に好きなシーンは35歳の諒(りょう)の章、40歳なつみの章、30歳浩哉の章の次の箇所である。

もう動き出しているじゃないの、私が行けと言ったわけじゃない。あなたがあの店に気がついたんだよ。自分で決めて自分の足で…すでに始まってるよ

独身の人が結婚してる人をいいなあって思って、結婚してる人がこどものいる人をいいなあって思って。そして子供のいる人が、独身の人をいいなあって思うの。ぐるぐる回るメリーゴーランド。…それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの。つまり、幸せに優劣も完成形もないってことよ。

俺の小さなひとことを、そこまで大事にしてくれてたなんて。

人に影響を与えられる本書の司書小町さゆりのような生き方は素敵だと思った。また、どの話にも言えることだが気の持ち方で人生はいくらでも好転させることができると改めて感じた。そして、なによりそのことを物語にして広めることをしているこの本とこの作家が素晴らしいと思った。

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「道具としてのベイズ統計」涌井良幸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ベイズ統計についてわかりやすく説明している。

本書でベイズ統計については3冊目である。概念的なところから入り少しずつ細かいことまで理解したいと考え、数式などを極力省略しないで実践的に説明している書籍をと思い本書にたどりついた。

これまでによんだベイズ統計の本のなかでもっともわかりやすかった。ベイズの定理の事前確立や事後確立を、事前分布、事後分布と確立分布という分布という考え方にも適用し、確立の総和が1であることを利用して、単純でかつ汎用性が高い考え方になることをわかりやすく説明している。

また、自然な共益分布を用いることによって計算が簡単になり、事象によって適した共益分布があるということも理解できた。二項分布ならベータ分布が適しているのということである。

一方で、分散が未知の場合の考え方あたりから、着いていくのが難しくなった。この辺はまたモチベーションの高い時にさらに繰り返し読んでしっかり身に付けたいと思った。以降は様々な手法についてExcelによる実際の実行方法なども含めて触れている。

理系の人間には問題ないだろうが、若干省略されていると感じる部分もあった。とはいえベイズ統計についてわかりやすくまとまっていて、初めて不足なくベイズ統計について知りたい人には最適と言えるだろう。

【楽天ブックス】「道具としてのベイズ統計」