「ただいま神様当番」青山美智子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ある朝目を覚ますと腕に「神様当番」という文字が現れ、神様を名乗る老人が現れる。そんな奇妙な体験をした男女5人の物語である。

突如神様当番となった、OL、小学生、男子高校生、イギリス人の大学非常勤講師、零細企業社長の5人を描く。それぞれが、自分の日々の人生に悶々とした思いを抱えながらも、神様と出会うことによって新たな視野が開くまでを描いている。

青山美智子さんの作品には常に、今あるものに目を向けて、前向きに生きようという温かいメッセージが詰まっている気がする。

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「UXライティングの教科書」キネレット・イフラ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
UXライティングについて語る。

全体で3つの章に分かれており、重要なのはPart1のボイス&トーンとPart3のユーザビリティである。Part2のエクスペリエンスとエンゲージメントはさまざまな会社の解決策を紹介しており、参考程度に見るのがいいだろう。

ボイス&トーンでは、会話体ライティングの重要性について語っている。ヒントとおさえるべき原則は次の項目である。

  • 思い浮かんだままの言葉を使う
  • 音読する
  • 味気ない定型文は避ける
  • 質問をする

会話体ライティングの6原則

  • ユーザーに直接語りかける
  • あくまでも自然に
  • 短くまとめ、ポイントを押さえる
  • 耳慣れた、いつもどおりの言葉を使う
  • 能動態を使う
  • 流れを作る

また、ライティングによってモチベーションを高める考え方も次のように説明している。

1.行動の方法ではなく、行動することの価値を伝える
2.ニコニコ効果、ワクワク効果
3.ユーザーに敬意を払う
4.ソーシャルプルーフ(社会的証明)

全体的に特に新しいと思える内容はなく、今まで持っていたライティングの知識の再確認の機会となった。ちなみに、本書が英語圏の文化によって書かれた書籍であることを意識しなければならない。例えば、日本語圏では、会話で「あなた」を使うことはかなり稀である。普通は相手の名前を呼ぶか、そもそも動作の主体を文章に含めない。その点で「You」を多用する言語のライティングと同じに考えてはならないだろう。

同様に、日本語圏では顧客対応においてしばしば過剰に尊敬語、丁寧語、謙譲語を織り交ぜる傾向があり、これを「会話体」と認識してしまうとライティングは悲惨なものになってしまうだろう。

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「影響力の武器[第三飯]」ロバート・B・チャルディーニ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
社会心理学者の著者が、人から承諾を引き出すテクニックにはどんなものがあるのかを語る。

人が承諾をしやすいパターンを6つの章に分けて解説している。次の6つである。

  • 返報性
  • コミットメントと一貫性
  • 社会的証明
  • 好意
  • 権威
  • 希少性

いずれの例についても、それに関連するエピソード、研究結果だけでなく、防衛法についても語っている。つまり、本書を読むことによって、このパターンを利用するだけでなく、このパターンで利用されないようにすることもできるのである。

どのエピソードも面白かったが、個人的に印象的だったのは、玩具メーカーがクリスマス後の売上の落ち込みを防ぐためにたどり着いた戦略である。コミットメントと一貫性を利用したその戦略には感心するしかない。

ある意味、最後の章で紹介されていた次の読者からのエピソードに、返報性、コミットメントと一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性の全ての要素が含まれている気がする。

スーパーマーケットにちょっとした試飲コーナーがありました。感じのいい女の子が飲み物を差し出してくれました。飲んでみると悪くありません。それからその飲み物の感想を聞かれました。「美味しい」と答えたら、四缶パックの購入を勧められました。… 購入は断りました。けれども、そのセールスウーマンは諦めませんでした。「一缶だけでもいかがでしょう?」と言いました。でも私も諦めませんでした。
そうしたら彼女は、その飲み物がブラジルからの輸入品で、今後のこのスーパーマーケットで手に入るかどうかはわからないと言いました。

さっそく自分の仕事や趣味や、毎日の人間関係のなかに取り入れられないか、考えてみようと思った。

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「育ちのいい人が身につけているちょっとした習慣」菅原圭

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
育ちのいい人が身につけている習慣について語る。

特に決まった順番もなく、著者が思う良い習慣をひたすら書き連ねている。

実際にその習慣をする人が、育ちのいい人なのかは一切関係ない。あまりにも特異な状況について書いている点もあり、著者が日常で行き交う人や、電車や公共の場所で見かける人に対して、目について不快な行動をひたすら並べてページを増やしているといった印象である。

どんなに普段から洗練された行動を心がけている人でも、1つ2つ、新しい気づきがあるかもしれない。ただ、目次を読むだけで十分である。

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「SIMPLE RULES「仕事が早い人」はここまでシンプルに考える」ドナルド・サル/キャスリーン・アイゼンハート

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
単純なルールによって成功したさまざまな事例を紹介し、シンプルなルールの力とその方法を説明する。

イエズス会やミツバチの行動など、あらゆる組織の例をあげて、シンプルなルールが機能することを説明していく。中盤ではビジネスシーンを中心に成功した例を紹介しており、後半ではうつ病や婚活などプライベートでの例を紹介している。

そんななかでシンプルなルールを3つのカテゴリに分けている。

  • 境界線ルール
  • 優先順位ルール
  • 停止ルール

である。

シンプルなルール=簡単にできるルール

ではないということである。シンプルなルールだからこそ、外部から押し付けるのではなく、現場の経験や長い時間をかけて発展や試行錯誤が重要なのである。シンプルなルールをつくる基本として4つ挙げている

  • 「自分の経験」をとことん利用する
  • 「他社の経験」をうまく拝借する
  • 「科学的証拠」で巧みに補強する
  • 「話しあい」でレベルを上げる

である。

改めてシンプルなルールはを作ることで行動を起こしやすくなると気づいた。今までも無意識に作っているものなどあったが、さっそく意識して会社やチームのコミュニケーション指標や毎日の趣味にとりいれてみたいと思った。

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「四十九日のレシピ」伊吹有喜

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
亡くなった妻乙美(おとみ)は夫に四十九日までのタスクを与えていた。夫と別れて実家に戻ってきた娘の百合子(ゆりこ)と、妻の愉快な友人たちと共に熱田良平(あつたりょうへい)は四十九日の準備を始める。

失意の熱田良平(あつたりょうへい)の元に、井本(いもと)と名乗る19歳の女性が訪れることから物語は始まる。乙美(おとみ)が生前関わっていた互助活動で知り合った井本(いもと)に、自分が死んだ後にやるべきことを頼んでいたのだという。良平(りょうへい)へ井本(いもと)に促されて49日の準備を始め、そこに娘の百合子(ゆりこ)やお手伝いのハルミが加わることで少しずつ賑やかになっていくのである。

楽しい雰囲気の展開のなかに、人生の深みを感じさせてくれる。特に新鮮さを感じるのは乙美(おとみ)は良平(りょうへい)の後妻であり、娘の百合子(ゆりこ)も子供がいないということである。

子供を持つ人生だけがあるべき姿でない、そんな生き方の多様性を教えてくれる。結局人をうらやむのではなく自分の人生のなかでできることに楽しみを見出すことが、幸せになる近道なのだと改めて感じた。

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「獣の奏者II 王獣編」上橋菜穂子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
傷ついた王獣の子リランの世話をすることとなったエリンは、少しずつリランと会話をしようと試みる。

獣の奏者I 闘蛇編」を読んだのはすでに10年以上前で、物語の流れをほとんど覚えていなかったが、ファンタジー熱が再燃したので続きを読みたくなった。

物語は王獣リランと竪琴の音色を通じて少しずつ会話ができるようになるリランと、王獣を制御する力をみにつけたことによって政治の中に巻き込まれていく様子を描いている。

自らの権力を中心に考える者もいれば、人間や動物の種としての存続を優先に考えるものもいて、そんな考え方の違いから争いごとが起きるのは、現実も幻想世界も同じである。

闘蛇と王獣という2つの想像の動物を中心に作られるファンタジーであり、単純化されすぎているという批判はあるかもしれない。「十二国記」と並んで、知名度の高い数少ない日本初のファンタジーの一つであることを考えると、物語の面白さに関係なく読んでおくべきなのだろう。

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「銀行とデザイン デザインを企業文化に浸透させるために」金沢洋/金子直樹/堀佑子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
三井住友銀行(以下SMBC)のインハウスデザイナーが社内の文化を変えてデザインの強い組織にする過程を描く。

他の会社でインハウスデザイナーがどのようにデザインの文化を組織に広めていくのかを知りたくて本書にたどりついた。

世の中の変化に危機感を感じたSMBCは2016年にようやくインハウスデザイナーの採用を開始する。2017年までに入社した3人のデザイナーが本書の著者であり、「デザイナーは見た目を整える人」という考えを持っていた組織にデザインの文化を広げていく過程を説明している。

面白かったのはSMBCのデザインチームはデザイナーズミッションを掲げていることである。

  • 高いプレゼンス
  • デザイン経営の中心
  • 一流の人材、一流の品質
  • 力を発揮する環境は自ら創る

組織が大きくなればなるほど、単に会社やサービスのミッションやビジョンや中期目標だけだはなく、チームや部署などのミドルサイズのユニットにもミッションや目標、原則を掲げることが重要である。それによって毎日の作業に忙殺されるだけでなくチームとしてのまとまりを持って動けるのである。

デザインシステムの5原則として次のように定義している。

  • 一貫性
  • わかりやすさ
  • インタラクション
  • 社会的責任
  • クラフツマンシップ

一般的ではあるし、インタラクションという言葉がここに含まれるのは疑問ではあるが、その辺は組織次第である。人まねではなく組織にあった原則を考え抜くことが必要なのだろう

最後の章の「デザイナーとして意識していること」はどれも共感することばかりである。

  • インハウスデザイナーの強み
  • 本質的なデザインの成果
  • バランス感覚
  • あきらめない姿勢
  • マネジメント層への定期報告
  • デザイナー以外にデザインの価値を伝える
  • 考えが保守的な人にはユーザーの声を伝える
  • 「ふわっとした考え」はすぐに可視化

改めて単に上流から下流までのデザイン業務をこなすだけでなく、社内に文化を浸透させていくことの難しさと重要さを感じた。

また、本書の執筆に関わったSMBCのデザイナーたちがみんな、HCD-Net人間中心設計専門家資格を保持していることも印象的だった。資格自体を取得したとしても、知識や技術が極端に変わるわけではないが、それによって意気込みや安心感が周囲に伝わるなら、メリットはあるのだと感じた。

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「みんなではじめるデザイン批評」アーロン・イリザリー/アダム・コナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
長年デザイン批評に関わってきた著者がデザイン批評を機能させるための方法を語る。

デザインレビューを導入しようとしても、自己防衛に走る人が多くなかなかうまくいかないことが多い。そんな状態の解決策があるのではないかと思い本書に辿り着いた。

本書では、レビューで起こりがちな反応を次の3つに分類しており、必要なのは批評だけだと語る。

  • 反応型
  • 指示型
  • 批評

批評のベストプラクティスとして次の6つを挙げており、それぞれについて詳細に語る。

  • 質問で始める
  • フィルターを通す
  • 思い込みをしない
  • 押し付けない
  • 長所について話す
  • 視点について話す

繰り返し触れているのは、批評とは常に目的に対しての分析であるべきだということと、目的とは次の四つの要素から構成されるということである

  • ペルソナ
  • シナリオ
  • 目標
  • 原則

全体的に翻訳よくなかったのでわかりにくいが、目標は目的、原則は仮説デザインコンセプトという言葉のほうが日本のデザイン文化にしっくりくると感じた。

その他、批評でやってはいけないことなどについても触れている。

  • フィードバックを依頼したのに、聴かない
  • 賞賛や承認が欲しくてフィードバックを求める
  • フィードバックをまったく求めない

批評をする側のベストプラクティス

  • 目的を忘れない
  • 聴いて、考えてから反応する
  • 基本に戻る
  • 参加する

シャレットデザインスタジオなどの発想手法についても触れていたのでしっかり覚えておきたい。

全体的に、改めて批評を文化として取り入れるためには、良いファシリテーションが重要だと感じた。ファシリターターが覚えておくべき批評の4つのルールを挙げている。

  • 誰もが平等
  • 誰もが批評家
  • 問題解決を避ける
  • 変更についての決定を急がない

なかでも特に難しいのは、「問題解決を避ける」である。人間の脳は分析的思考と創造的思考を同時には行わないために、解決策を考え始めると分析的思考ができなくなるというのである。

デザイン・レビューに時間かける人は多く、デザイン・レビューは往々にして批評と同じと考えられている。だが、デザイン・レビューは批評ではない。デザイン・レビューはしばしば、プロセスを先に進める、あるいは実際に稼働させることを目指して、何らかの承認得るために計画される。

本書ではデザイン・レビューとデザイン批評を別物と考えており、どのように定義して分けて考えているのか曖昧だった。個人的には日本語で使われているデザイン・レビューとは必ずしも承認を求めるための場ではなく、本書の考え方はデザイン・レビューでも使えると感じた。ただ、建設的に批評の場と承認の場を混在すべきでないという考えは間違いないので、この辺を解決していきたい。

どの考えもさっそく実践に取り入れていきたい。また最後の章に扱いにくい人の対処方法があるので、必要になった時に戻ってきたい。

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「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
児童精神科医の著者が、少年院の少年たちのなかに認知力が弱い少年たちがいる事実を語る。

まず驚かされたのはある非行少年が写した図である。Rey複雑図形の模写という課題で、単純な図形の集まりで、小学生低学年でさえ綺麗にできそうな図である。しかし、少年院のある少年にとっては満足に認識できていないのである。実際それが、著者の関心を、少年たちの認知能力へ向けさせた出来事となる。

見る力がこれだけ弱いとおそらく聞く力もかなり弱くて、我々大人の言うことが殆ど聞き取れないか、聞き取れても歪んで聞こえている可能性があるのであるのです。

著者は非行少年の特徴を5つ+1の要素として、次のように分類している。

認知機能の弱さ
感情統制の弱さ
融通の利かなさ
不適切な自己評価
対人スキルの乏しさ
一身体的不器用さ

一般的な人間が持っている機能を持たないというだけで、犯罪者になってしまう少年たちの存在を著者は嘆く。そして、中盤以降、このような少年たちが犯罪を犯して少年院に入るまで、誰からも気づかれない理由など、さまざまな問題を挙げて説明していくのである。

こういう少年たちが存在していると認識することが、社会を良くしていく最初のステップなのだろう。社会とはまず多数派のために作られ、その後少しずつ障害者などの少数派に向けた環境が整っていくものである。最近はバリアフリーも進み、社会もある程度成熟したように感じていたが、本書を読んで、まだまだ変えなければならない部分があると感じた。

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「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ帝国の道路、下水、医療、教育について語る。

ローマ帝国をここまで歴史に沿って説明してきたが、本書ではインフラに焦点をあてて解説している。本書のサブタイトルである「すべての道はローマに通ず」という言葉は、歴史に興味がない人でも聞いたことがあるぐらい有名な言葉で、それ自体がどれほどローマ帝国のインフラが優れていたかを語っていることだろう。

明らかになっているローマ帝国のインフラと著者の考察が、国に限らず、組織やコミュニティなど、多くの人が共同で活動する団体をどのように整備していくべきかを考える上で、新鮮な視点を提供してくれる。

自国の防衛という最も重要な目的を、異民族との往来を断つことによって実現するか、それとも、自国内の人々の往来を促進することによって実現するか。

同じ時代に東方で万里の長城という壁を作った人々がいる一方、人々のつながりをつくる道路と橋を作ることにこだわったローマ人の考え方が面白い。

インフラとは、経済力があるからやるのではなく、インフラを重要と考えるからやるのだ…

これまでローマ帝国の歴史を見てきて、リーダーのあるべき姿など様々なことを知った。そんななか、これまでの戦いの歴史と比較すると退屈に聞こえがちな「インフラ」という本書のテーマだが、予想以上に多くの学びがあった。

さて、ここまでしっかりとしたインフラを備えた国がどうやって滅びてしまったのか、そのきっかけは何だったのか。シリーズは次からローマ帝国の滅亡へと進んでいくので、さらに続きを読み進めるのが楽しみになった。

【楽天ブックス】「ローマ人の物語 全ての道はローマに通ず(上)」「ローマ人の物語 全ての道はローマに通ず(下)」
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「ローザ・パークス自伝」ローザパークス

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
公民権運動の母と言われるローザ・パークスがその人生を語る。

ローザ・パークスとは、1955年に白人にバスの席を譲ることを拒否して逮捕された黒人女性で、その後大きな公民権運動のきっかけとなった人物である。先日読んだ「Quiet」のなかで、内向的な人が歴史を変えた例としてローザ・パークスの名前が挙がっていたので本書にたどり着いた。

本書では、ローザ・パークスの幼い頃からの家族や親戚との様子を時系列で語っていく。その中で奴隷解放のあとも引き続きたくさんの黒人に対する差別が行われてきたことがわかる。正直、自由の国を謳うアメリカという国でなぜつい最近までこんなことが平然と起こっていたのか不思議である。

やがて、物語は1955年のローザ・パークス逮捕とその後の出来事について語るのである

初めてこの物語を聴いた時、ローザ・パークスのとった行動は、日常の中で一般的な黒人女性に起こったことのように見えた。しかし、実際には彼女の夫は早くから黒人の権利を勝ち取る運動に関わっていて、ローザ・パークス自身にも、公民権に関する強い意志があったのだということを知った。

また、それまでにも白人とのトラブルから大きな運動に発展させられる出来事がないかを、常に黒人の権利を求める行動をしていた人々が探していたことも初めて知った。つまり、素行不良の黒人が白人とトラブルを起こしても大きな運動のきっかけにはならないが、ローザ・パークスのような前科も素行不良もなく真面目な女性であることが多くの人々の心に触れると考えて、黒人の権利を求める人々が利用したのである。

公民権運動を扱った物語に触れると毎回思うことだが、むしろ、自分達の権利のために行動した黒人たちより、そのままの状態のほうが自分達の権利が守られるのに、他の白人たちからの敵意を恐れずに黒人の権利拡大に手を貸した一部の白人たちの行動に心を動かされる。こういう白人たちの行動はそれほど多くは語られないが、本書でも描かれているし、映画にもなった物語「The Help」でも語られている。そのような、自分の利益よりも正しいと感じることに従って生きられる人間でありたいと改めて思った。

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「店長がバカすぎて」早見和真

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
都内の書店で働く谷原京子(たにはらきょうこ)を描く。

タイトルのとおり、谷原京子(たにはらきょうこ)は店長の突飛な鼓動に悩まされ続ける。ただ、タイトルは「店長がバカすぎて」だが、内容はさらに「営業がバカすぎて」や「小説家がバカすぎて」と続き、つまり毎日周囲の言動に悩まされる書店員を描いているのである。

もはやインターネットによる販売によって、本屋の存在意義は薄れていくばかり。そんな本屋さんの悩みや葛藤が、谷原京子(たにはらきょうこ)の毎日を通じて伝わってくるだろう。

本書が本屋大賞にノミネートされた理由は、本書が本屋さんの日常を描いており、その描き方が、本屋で働く人々の共感を勝ち取ったからなのだろう。そういう意味では、本屋の日常を比較的リアルに描けているかもしれないが、一般の人の心に刺さるかはなんとも言えないところである。

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「だれでもデザイン 未来をつくる教室」山中俊治

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインエンジニアの著者が中高生向けに開いたデザインの教室の様子を記録している。

著者自身プロダクトデザインを多く手がけていることもあってか、序盤はスケッチをすることの重要性を説明している。

MacbookAirのネジの向きや、初代マッキントッシュの形の話は興味深く、製造過程を意識するということの重要性を教えてもらった。また、アメリカと日本の食文化の違いで、スプーンの理想の形が変わるという話も、文化の違いを考えることが良いデザインを生み出すためには必要だと改めて教えてもらった。

全体的に学生多態に向けたデザインの授業であるが、そのなかでアイデアを発展させる方法を、デザインという作業に初めて触れる学生たちに教えているところが興味深い。僕自身仕事で、デザイン初心者に接する機会は多々あるので、その際にデザインを説明する言葉として、本書で出てくるいくつかの言葉を覚えておきたいと思った。

アイデアって時間がかかる。今日体験したように短時間で頭を活性化することも効果的ではありますが、ちょっと間をおいたりすることも大切です。
自分に自信がないと、どうしても「誰からも文句を言われないもの」を作ろうとしちゃうんだよね。でもそれは無難でつまらないものに至る道でしかない。
誰もが知っているようなかっこいい車は、大体ひとり、または2,3人でデザインしています。
完成前のデザインはいいところも悪いところもあるのが当たり前なんだけど、悪いところは目につきやすいからそればっかり集中していいところを殺してしまうんです。その結果、悪くはないけど、なんか普通だねってものになったり、なにがしたかったのかわからなくなっちゃう。

合間にいくつか著者が手がけたプロダクトの話が挿入されている。そんななか紹介されている、義足の女の子の走る姿が美しい。ただ単に役に立つものを作るだけではなく、使いたいと思えるもの、そして、ファッションのように仲間内で話題に上ったり、選ぶことを楽しめるものへと発展させるのがデザインの進化だと感じた。

なかなかWebやアプリなどのスクリーン上のデザインの世界にいると気づかない、デザインの視点を与えてくれた。

「アイデアの作り方」ジェームス・W・ヤング

【楽天ブックス】「だれでもデザイン 未来をつくる教室」
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「インターセックス」帚木蓬生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
泌尿生殖器科を専門とする医師、秋野翔子(あきのしょうこ)はサンビーチ病院に転勤し、インターセックスの患者たちの診療をすることとなる。

読み終わるまで気づかなかったが2011年に続いて2回目の読了である。医師、秋野翔子の活動を通じて、男とも女とも言えないその中間の存在であるインターセックスの存在に目を向けさせてくれる。

そんななか、一括りにインターセックスという言葉でまとめられる存在のなかにも、男に寄った人、女に寄った人などさまざまな存在があることがわかる。興味深いのはインターセックスの治療方針に関するサンビーチ病院の院長である岸川(きしかわ)の考え方と翔子(しょうこ)の考え方の違いである。

岸川(きしかわ)は性器があいまいだと人格も曖昧なままになるので、幼い頃に手術によって男か女に近づけるべきという考えである一方、翔子(しょうこ)は男女の間で曖昧な存在も人間として受け入れて、命の危険がない限り本人の意思を尊重すべきというのである。

また思っていた以上に多くのインターセックスが世の中に存在するという事実にも驚かされた。

インターセックスの新生児は、千五百人にひとり、広義のインターセックス、つまり性器が曖昧な新生児は百人にひとり半と言われている。

多くの人が、ほとんど誰にもそれを知られずに生きていくのだろう。2011年に読んだ時も似たようなことを感じたということは、世の中があまり進歩していないという事なのかもしれないが、それでも最近LGBTなどの言葉が世間に認知され始め、少しずつ世の中は多様性を受け入れる方向へ動いていると感じている。やがてインターセックスの人々がもっとオープンに自由に生きられる日が来ればいいと感じた。

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「赤と青とエスキース」青山美智子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
メルボルンに交換留学生として訪れたレイは、同じくメルボルンに滞在していた日本人ブーは期間限定の恋に落ちる。

先日読んだ「お探し物は図書室まで」の物語のやさしさと深みのバランスの見事さに魅了されて、著者の作品をすべて読んでみたいと思い本書にたどり着いた。

5編から成る短編集という形をとっているが、少しずつ物語に繋がりがあり、常に物語中の画家が描いたエスキースが存在している。そして、アートに関心を持ちながら生きていく人々の人生の様子が見える。

そんななかでも印象的だったのが、額縁工房の青年を扱った第二章である。額縁という絵画においてはサポート役の存在の大きさに目を向けてくれる。額縁を作る人たちが、絵に対して合う額を選ぶことを結婚と表現するところが面白い。

心を込めて取り組ませていただくよ完璧な結婚となるように

必ずしも若い男女だけに焦点をあてているわけでもなく、中年や晩年の人たちの迷いながらも信念を持った生き方を見せてくれる。そして、合わせて美術のすばらしさと言葉の美しさを感じられるだろう。

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「「辞める人、ぶら下がる人、潰れる人」さて、どうする?」上村紀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
産業医の著者が組織の病を取り除く方法を解説する。

過去所属していた会社で、最初はみんな楽しげに働いていたのに、数年経つとほとんどすべての人がギスギスしているという状態があった、そんな組織の雰囲気改善のヒントがあるのではないかと思い本書に辿り着いた。

本書では会社が取り組むべき個人活性を次の3つの要素で捉えている。

  • 働きがい
  • 働きやすさ
  • 心身コンディション

そして、離職を次の3につに分類して、必ずしもすべての離職が悪いわけではないと強調している。

  • 積極的離職
  • 消極的離職
  • 離脱

そもそも離職よりも深刻な状態として、「消極的定着」の存在を挙げている。つまり転職するほどの能力がないので転職できないが、会社の不満を言い続けて会社に留まる人間のことである。

また、本書では会社の人材を5つのカテゴリーに分けて考えている。

  • ハイポテンシャル人材
  • 立ち上がり人材
  • 優秀人材
  • 普通人材
  • ぶら下がり人材

印象的だったのは、優秀人材の扱いである。優秀人材はどちらにせよ転職していくのは避けられないので、優秀人材の離職を防ぐためにコストを無闇にかけることは薦めていない。会社として優先すべきはハイポテンシャルな人材なのである。

最後に、定着スコアと従業員満足度を指標として、組織の状態を4つに分けて説明している。

  • パラダイス 定着スコアも従業員満足度も高い
  • ステップ 定着スコアは低いが、従業員満足度は高い
  • ぶらさがり 定着スコアは高いが、従業員満足度は低い
  • 荒野 定着スコアも従業員満足度も低い

必ずしもパラダイスだけが正解というわけではなく、組織によってはステップ型を目指すという方向性もありだろう。

組織を作りかたを、人材や離職のパターンなどの指標をともに体系的にまとめているので、組織づくりの指標となるだろう。

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「黙ってられるか」川淵三郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Jリーグの創設し日本のサッカーのレベルを大きく向上させた著者がその考え方を語る。

先日読んだ「独裁力」に続いて引き続きもっと深く著者のリーダーシップの考え方を知りたいと思い読み始めた。

独裁力」と重なる話も多かったが、本書ではJリーグ時代のエピソードがより多く描かれている。ただのリーダーシップについてだけでなく、どのように政治家と繋がりを持ち、そのなかでJリーグを大きくするという目的の前の障害を乗り越えていったのかなどを語っている。

そんななか、興味深いのはマスコミの力を前向きに捉えている点である。必ずしもマスコミに評価されることではなく、マスコミにたたかれることすら、大きな視点ではやりたいことの達成を後押ししたというのである。改めて、何かを達成するためには、実行だけでなく周知の動きが大事なのだと感じた。

また、巻末に巨人軍オーナーの渡邊恒雄氏との対談の様子が描かれている。正直、渡邊氏については、野球のことになったときにだけ登場するえらそうな老人、という否定的な印象しかなかった。しかし、本書を読むと、渡邊恒雄氏も今ではJリーグや著者川淵三郎氏の功績を認めていて、自らの間違いを認め成長できる人なんだと感じ、渡邊恒雄氏の見方が少し変わった。

川淵三郎氏はすでに80歳を超えているという。改めて、仕事に一生を通じて全力投球することの清々しさを感じた。

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「独裁力」川淵三郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

Jリーグの創設に関わっただけでなく、日本バスケットボール界の問題まで解決した著者が、その考え方を語る。

先日読んだ「日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由」で、その「リーダーは独裁者でいい」という考え方に惹かれ、組織を動かすためのヒントが得られることを期待して手に取った。

前半は、日本バスケットボール界の問題やそれに関わり始めた過程と、そのなかでやったことなどが描かれている。正直バスケットボール界にはあまり関心がなかったが、どのスポーツでも同じようなことが起こっているのだと感じた。つまり、みんなそのスポーツを盛り上げようとしているのだが、その指向性の違いから混乱が生じたり諍いが生じて結果的にそのスポーツの発展を阻害しているのだ。

そして後半の「リーダーは独裁者たれ」という章で、リーダーたる考え方や、影響を与えた出来事、もしくはお手本となる人物やその行動を語っている。そのなかで、ハンス・オフトジーコイビチャ・オシム岡田武史など、数々の日本代表監督についても語っている。著者も最初からリーダーシップを持っていたわけではなく、たくさんの人との出会いから学んで身につけていったものだということがわかる。

印象的だったのは次の項目である。

  • リーダーには理論武装が必要
  • インパクトのある言葉で「発信力」を持たせる
  • リーダーは人に好かれなくていい
  • ノイジー・マイノリティーに引きずられるな
  • 私利私欲がない独裁者であれ

特に発信力については、あまり今まで意識して取り組んでこなかったことなので、ぜひ今後の活動として考えてみたいと思った。改めてリーダー像というものを考え直すきっかけとなった。

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「日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由」葦原一正

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スポーツビジネスコンサルタントの著者が日本のスポーツビジネスを成功させるための考えを語る。

サッカーなどのスポーツを眼にする機会が多い中で、スポーツという、人間の生存に必要不可欠とはいえない分野をビジネスにするのは想像以上に難しいだろう。そこにビジネスを軌道に乗せるヒントがあるのではないかと思って手に取った。

本書ではスポーツビジネスに必要なものを次の5つに分けて解説している。

  • Governance
  • Professional
  • Arena
  • Global
  • Engagement

である。

興味深いのはGovernanceの章である。Governanceとはつまり意思決定のプロセスのことで、それを明確にすることが重要性を説いている。そして、スポーツなだけに強いチームを作ることに捉われがちだが、著者は「勝利と経営は別物」と語る。

動員数は大事な要素の1つではあるが、それがすべてではなく、もっと大事なものが存在する。

次のProfessionalの章ではプロの定義や著者が出会ってきたプロとしてのお手本のような振る舞いを挙げている。プロリーグの定義という基本的なことすら自分がわかってないことに気づかされた。

Arenaの章ではチームの専用のアリーナやスタジアムを保有することのメリットを語っている。スタジアムもそのスポーツ専用のスタジアムと、維持費の回収を考えて、他の用途にも使えるようにしたスタジアムでは、ビジネスとしてスポーツを展開する上ではいろいろ異なることがあることがわかった。スタジアムやアリーナの構造や席の配置も、何を目的に応じて考え抜かれたデザインであることを感じた。

全体的に著者はバスケットボールリーグに大きく関わってきたが、Jリーグやプロ野球など、より認知されている例を交えて解説している点がありがたい。その過程で、必ずしもJリーグのように昇降格がある開放型モデルが必ずしも良いとはいえないことも知った。開放型は年俸の高騰化を招き経営に負担を与える。つまりプロ野球のような閉鎖型モデルにもリーグ運営目線で考えるとメリットがあるのである。

普段、なにげなく見ているスポーツの裏に、多くの知らない事情が溢れていることに気づかされた。そんななか特に印象的だったのは、Jリーグの創設だけでなくBリーグにも関わった川淵三郎の言葉である。

リーダーは時に独裁者でいい。自らが率いる組織を正しく発展させるための理念を持ち、そのための手段が私利私欲によるものでなければ、独裁的に権限を発動させてもいい。

これは僕自身、スポーツに限らず、組織などを見て感じる悩みに見事に答えている。合意ばかりを重視してスピードが遅くなったり当たり障りのない決断しかできない組織は決して大きなことを成し遂げることはできない。独裁的な権限を与えることも考えてみるべきだろう。

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