オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
テロリストが仕掛けた時限爆弾によって成田空港に向かう289人の乗客を乗せた航空機が墜落の危機に瀕する。女性パイロットの高城玲子(たきれいこ)の手に乗客の命はゆだねられる。
トラブルに巻き込まれた航空機を生還させるという物語は決して少なくない。小説でも映画でも、その多くは、そこにいる人々の恐怖やそれを克服して協力し合う人間物語を描いており、本作品にもその要素は十分に入っているが、同時に、航空機に取り入れられている技術や、それに関わるスタッフの役割などに触れている点が新しい。
物語は墜落の危機に瀕した航空機だけでなく、機内に乗っている要注意人物の存在によって国家間の脅威にまで発展した展開になっていく。その過程で、過去の多くの航空機事故に触れている。内容としては、著者のデビュー作ということもあって、力のこもった作品に仕上がっている。
個人的な感想としては、航空機内のパイロットや一般乗客、そして爆弾を持ち込んだテロリスト、国の運命を担う各国政府。多くの視点があるのはいいと思うのだが、どれかをメインに扱って、はっきりと視点に優劣をつけたほうがよかったのではないだろうか。おそらく本作品でもメインは女性パイロット高城玲子(たきれいこ)など機体に穴の開いた状態で生還しようとする姿だろうが、テロリストから自衛隊など、すべてをその視点から頑張って描きすぎててしまって複雑になりすぎてしまった感がある。とはいえ、現在の問題点や過去の事件など多くの要素をまとめて一つの物語に仕上げるという姿勢は評価したい。今後の作品に対する。
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カテゴリー: 和書
「国境事変」誉田哲也
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新宿で殺害された在日朝鮮人の吉男(よしお)。事件を担当する警視庁捜査一課は事件解決のために弟の英男(ひでお)を追求する。しかし英男(ひでお)は公安が長年かけて作った情報提供者であった。刑事と公安という同じ警察組織内の目的を異にする組織の思惑が交錯し始める。
公安嫌いの刑事東(あずま)と、公安でありながら、どこかその仕事に疑問を抱いて任務に就いている川尻(かわじり)。この2人の目線で物語は進む。印象的なのは、川尻(かわじり)の学生時代の経験や、在日朝鮮人であるがゆえに、普通の生活を送ることができない英男(ひでお)の過去やその経験から来る言葉だろう。
そして、物語はたびたび国境の島、対馬に向けられる。これほど重要な位置にありながらも、僕ら日本人がほとんど意識することのない島。その重要性を知るだろう。
いくつかの組織名称が登場するゆえに若干組織の利害関係がわかりにくく、スピード感にも欠ける部分があるが、それよりむしろ、すれ違いながらも少しずつ近づいていく、東(あずま)と川尻(かわじり)という二人の警察職員の緊張感が面白い。
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「ジーン・ワルツ」海堂尊
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
曽根崎理恵(そねざきりえ)は、医学部の助教授であり講義を受け持つと同時に、閉院が決定しているクリニックで5人の妊婦を診る医師でもある。理恵(りえ)と妊婦たちを描いた物語である。
ここ数年医療崩壊が叫ばれており、その中でも小児科と産婦人科がもっとも人手不足に悩まされているという。本作品でも、現場を知らない政策とそれによって被害を拡大していく地域医療の現状に触れている。また、体外受精や代理母出産など、出産の方法が増えているにもかかわらず、父親、母親の定義すら明治時代から変えようとしない、現行法の問題点にも興味深く切り込んでいく。
とはいえ物語はそんな難しい話ばかりではなく、後半は出産を間近に控えて大きな決断を迫られる妊婦たちと、それを支える理恵(りえ)を含む医師たちの人間ドラマへと進んでいく。
生まれるとともに死ぬことが定まっている子を身ごもった女性。すでに片腕がないことを知りながら、中絶を迷う女性。何年も不妊治療を続けてきてようやく妊娠するにいたった女性など、いずれも考えさせられることばかりである。そうやってつらい決断を考えた末に出していく女性たちについつい涙腺を刺激されてしまった。
そして、地域医療の崩壊に抵抗しようと、水面下で動く理恵(りえ)がなんともかっこいい。こんな風に、人の幸せに貢献できる人生を、きっと誰もがうらやましく感じてしまうだろう。
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「名残り火 てのひらの闇II」藤原伊織
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
堀江(ほりえ)の同僚の柿島(かきしま)が集団暴行を受けて死亡する。不信に思った堀江(ほりえ)が事件を探るうちに不信な点が見えてくる。
藤原伊織(ふじわらいおり)の遺作となった本作品。実際あとがきには本編の第8章まで著者校正を入れた、と書いてあるからなんともやるせない。
さて、内容はというと、本作品はタイトルからもわかるとおり「てのひらの闇」の続編として位置づけられている。「てのひらの闇」を読んだのだすでに2年以上も前の話で、同じく藤原伊織作品でお気に入りの一つでもある「シリウスの道」とかなり主人公のキャラクターがかぶっているため思い出すのにかなり時間がかかったが、歯に衣着せぬ物言いと、乱暴なバイクの運転が個性的なバーのオーナーのナミちゃんや、堀江(ほりえ)の元部下で行動力のある大原(おおはら)の振る舞いに触れるうちにぼんやりと思い出してきた。
とはいえ、本作品を楽しむ上で必ずしも前作品を読む必要はなく、本作品から入った人でも十分に楽しめるだろう。事件の真相に迫るにつれて、コンビニ業界の内部事情に話が及ぶ点も面白い。
例によって人を引き込むその物語と、読者を魅了する登場人物たちによって、改めて、藤原伊織の作品がこれ以上新しく世に出てくることがないことを残念に思うのである。
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「残光」東直己
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
札幌で起こった立てこもり事件をニュースで知って、榊原健三(さかきばら)は再び札幌に行くことを決意する。
読み進めて感じたのは、どうやらこの作品は、なにか別の作品の続編であって、十分にこの作品の良さを堪能するためには、その作品から読むべきではなかったか、というもの。物語の過程で、過去の出来事についていろいろ補足的に記述はあるのだが、どうも話に着いて行っていないような感覚は最後まで感じていたように感じる。
全体的には、榊原健三(さかきばらけんぞう)が警察内部に存在する犯罪組織から子供を守るために奮闘する、という物語。典型的なハードボイルドという印象を受けたが、ラストシーンだけは、その経過と比較すると現代の若者の姿を特異な状況を通じて描いており、かなり斬新な印象を受けたが、話の流れからは、少々受け入れ難い感じも受けた。ぜひ他の読者の意見も聞いてみたいところだ。
僕にとって東直己作品の初挑戦ということで、日本推理作家協会賞受賞作品を手にとったのだが、引きつづきこの著者の作品を読みたい、と思わせるほどではなかった。
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「樹海に消えたルポライター?霊眼?」中村啓
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
山梨の山林に住むカラスの胃から大量の人骨が発見された。同時期に姿を消した友人の真弓(まゆみ)を探し始めた享子(きょうこ)の周囲で不吉なことが重なって起きるようになる。
開始わずか数ページで、赤子の遺体を破砕機にかける、という、久しく味わっていなかったと思えるような怖いシーンから始まり、ひょっとしたら「リング」のようなホラーかも、と思わせてくれるが、その後は、失踪した友人を探す、享子(きょうこ)を中心とする物語に落ち着く。
失踪した真弓(まゆみ)が占星術などのスピリチュアルな分野を担当していたため、その足取りを追う過程で、チベットのダライラマや前世との因縁など、非科学的な分野へと物語は広がり、最初は抵抗を見せていた享子(きょうこ)自身も、霊能者などと言葉を交わすことで次第に、そんな不思議な物の存在を受け入れ始める。
いくつかの非科学的な話が語られる中で、本作品では「第三の眼」の存在が鍵となっている。見えないものを見る第三の眼。それは人間が進化した形なのか、それとも人間が進化する過程で捨てたものなのか。物語の本筋と関連して描かれる不思議な逸話が非常に面白い。
個人的には「2つの目で見る世界が3次元なら、3つの目では4次元の世界が見えるかも」という言葉が、明らかに飛躍しすげてはいるが印象的だった。
若干、物理的な展開を多くしすぎて、また登場人物も多くなりすぎた感があるが、昨今こういう現実の物語と、非現実の話をバランスよく盛り込んだ作品にはなかなか出会えないだけに新鮮さを感じた。物語のややわかりにくい部分は著者の経験不足ということとして受け止めると、今後の作品での成長に注目したいところだ。
「六月六日生まれの天使」愛川晶
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
目を覚ますと隣に全裸の男性が寝ていた。男の名前どころか自分の名前も思い出せない。どうやら記憶を失ってしまったらしい。
そんな意外と物語ではよく使われる記憶喪失を題材にした作品。本作品が他の作品と違うのは、その主人公となる記憶を失った女性だけでなく、そこにいた男性も「前向性健忘」という記憶の障害を抱えている点だろう。
「前向性健忘」は「博士の愛した数式」で有名になった病気で、ある時期以降の記憶を蓄積できないというもの。本作品でも冬樹(ふゆき)という男性は小一時間ごとに新しい記憶をリセットしてしまうために、そのたびに目の前にいる女性の名前どころかそこにいる理由さえも忘れてしまう。
それが本作品の面白さであり、布石なのだが、記憶を失ったもの同士のちぐはぐなやりとりがやや不必要に長く、また、あまりにも使い古された(そのわりに現実ではあまり見ない)「記憶喪失」という題材にかなりのチープさを感じてしまう。
しだいに女性は自分の記憶を取り戻して、自分の持っている醜い過去と直面していくわけだが、物語はそれだけでは終わらない。帯に「必ずもう一度読みたくなります」というのは決して嘘ではないが、それは「面白いから」ではなく、「よくわからないから」であり、もう少しシンプルな構成にできなかったものか、という印象が強かった。
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「警官の紋章」佐々木譲
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
洞爺湖サミットを間近に控えているなか。勤務中の警察官が拳銃を所持したまま行方をくらました。その警察官の目的はなんなのか。津久井(つくい)巡査部長がその調査に充てられる。
「笑う警官」「警視庁から来た男」に続く、北海道警の大規模な汚職事件に続く物語の第3弾である。前2作と同様に、津久井(つくい)のほか、佐伯(さえき)警部補、そして、小島百合(こじまゆり)は本作品でも登場し、それぞれがそれぞれの任務を遂行しながらも、再び相互にかかわりあうことになる。
本作品は、途中かなり過去の事件に触れられて物語が進んでいくために、前2作品を読んでいないと少々着いていくのは厳しいかもしれない。とはいえ、複雑な捜査や内部事情だけでなく、このシリーズの独特なテンポも大きな魅力ではある。
さて、実は今回あとがきを読むまで本シリーズは完全なるフィクションだと思っていたのだが、どうやら実際にあった北海道警の汚職事件を題材にしているらしい。ひょっとしたら僕が無知だけだったのかもしれないが、ここにいたってようやくそれに気付き、最初からそれを知っていたら本シリーズは何倍も楽しめただろう、と反省している。
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「告白」湊かなえ
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第6回本屋大賞受賞作品。
娘を生徒に殺された女性教師は、最後の日のホームルームである告白をする。自分の行ったことに苦悩する生徒。子供の行動に悩む親や兄弟。一つの事件を機に見えてくる人の心を描く。
映画がヒットしているそのまっただなかで読むことになった。基本的に告白や日記という形で物語は進むため、ややスピード感に欠け、単調な印象を受けた。
娘を殺された教師の告白から始まり、その殺人に関わった生徒二人の目線、その親の日記と続く。物語に必要とはいえ、中学生の日記にしてはあまりにも長く、描写が上手すぎるという点は読みながら不自然さが拭えなかった。
最後まで非難と復讐の物語。現実の世界では、常に救いがあるわけではないので、必ずしも希望の見出せる作品にする必要はないが、それにしてももう少し上手い描き方はなかったのだろうか、と感じた。
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「マーケティング」恩蔵直人
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
マーケティングについて全体的に広く浅く、わかりやすく解説している。僕のように普段マーケティングなんてほとんど考えていない人間が、軽く広く知識を身につけるのにまさにぴったりの一冊。いろんなマーケティングの考え方の間に、その手法を採用している代表的な企業や、例えとして用いられる小話がまた面白い。
また、本書ではマーケティングは必ずしも企業の営利目的だけでなく、昨今では大学など人のニーズを知る必要があるものすべてに適用されるべきだと書いている。そう考えると、人と人とのプライベートな人間関係にまで応用できるのかもしれない。
僕自身は言ってみれば製造過程に関わっているため、あまりマーケティングを意識することはないが、AIDAモデルや4つのPぐらいは自然と口に出てくるようになっておくべきなのかも、と思った。
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「英語で自分をアピールできますか?」アンディ・バーバー、長尾和夫
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
よくある自己紹介を例にとって解説している。辞書で英単語の意味から調べても文章の中でのその単語の使い方がわからない。英語の文章の意味が理解できても実際の会話で使うタイミングがわからない、というのは英語を勉強しているとしばしば感じることだが、「社内の人間関係」「自分の趣味について」など、自己紹介で話されると思われる40のテーマについて、それぞれ10?20程度の文章で構成された自己紹介を掲載しているので、丸暗記してしまえばかなり応用の利く内容だろう。
中には目からウロコの表現も多々あった。
また、それぞれのあとには、自己紹介を順序だてたりわかりやすく説明するためによく使われる表現も解説している。一度読んだだけですべてを覚えられるものではないが、しばらく繰り返し読むことになりそうだ。
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「アイルランドの薔薇」石持浅海
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
南北アイルランドの統一を目指す武装勢力NCSの1人が、とある宿で殺される。同行していたNCSのメンバー2人と、同じ日に宿泊していた一般客数人が、事件が解決するまで宿にとどまることを決める。
限られた空間で物語を最後まで展開する流れは、石持浅海(いしもちあさみ)作品の特長である。本作品ではその空間はアイルランドのスライゴーという場所にある宿である。他の石持作品と異なる点は、日本以外を舞台としている点と、その国の歴史的背景を物語に取り入れている点だろう。
実際、本作品では、アイルランドとグレートブリテン王国(いわゆるイギリス)の悲劇的な歴史について触れている。中途半端な位置にある国境の理由や、それぞれの宗教の違いについて理解を深めることになるだろう。
さて、本作品ではたまたま宿泊していた中にいた日本人、フジが事件の解決への大きな役を担う。今回も最後で読者の想像を見事に裏切ってくれる。
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「漆黒の王子」初野晴
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
暴力団組員が連続して睡眠中に死亡する事件が連続して起こった。そこへ「ガネーシャ」と名乗る犯行声明が届く。一方、地下の暗闇では、記憶を失った女性が地下で暮らす数人のホームレスと出会う。
最近の注目の作家の一人、初野晴(はつのせい)の作品ということで迷わず手に取った。物語は、面子を保つために、ガネーシャという人間を見つけ出そうとする暴力団たちの様子と、地下でガネーシャと名乗った記憶をなくした女性が、そこに住むホームレスたちと徐々に心を通わせていく様子を同時に描いていく。
この2つの物語が同時期に起こっていることなのか、それともどちらかが過去でどちらかが現在なのか、など読み手にはわからない。ただ、ガネーシャという名前が共通するのみである。
そして、少しずつ人数が減っていく暴力団組員の中で、その幹部たちが過去に犯した大きな罪が少しずつ明らかになっていく。そして眠っている間に死んでいくという殺人の真相も。
地下で過ごすホームレスや、暴力団を扱っているという点でやや物語に入りにくいという印象は残念ながら最後まで拭えなかったが、初野晴(はつのせい)らしいというような独特の視点から物事を捉えた文章にもいくつか触れることができた。
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「6時間後に君は死ぬ」高野和明
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人の未来が見えるという青年、圭史(けいし)。その周辺で起きる5つの物語である。
5つの物語はいずれも、いろいろなことに悩みながら生きている女性を描いている。そこで起こった不思議な出来事によってその生きかたを見つめなおすのである。印象的だったのは表題作の「6時間後に君は死ぬ」や同じ女性と、予言者圭史(けいし)を描いた「3時間後に君は死ぬ」ではない2作品「時の魔法使い」と「ドールハウスのダンサー」である。
「時の魔法使い」は、脚本家を目指して貧乏生活を続ける女性、未来(みく)が20年前の幼い自分と出会うというもの。幼い自分と一日一緒にすごすことで、自分の人生を、つまりそれは目の前にいる20年前の自分である女の子がこれから体験するであろう人生を、改めて考えるのである。そして、女の子と別れるときになって、今、園子に何かを伝えれば自分の過去、現在を変えられることに気付くのだ。
そして、「ドールハウスのダンサー」。こちらはなぜか涙が溢れてきてしまった。真っ直ぐにプロのダンサーになるという夢を追いかけて生きる女性、美帆(みほ)を描く、そして夢をかなえられる人間はわずかであり、努力が必ずしも報われるものではないという現実さえも容赦なく見せてくれる。そんな中、美帆(みほ)の記憶の奥に眠ってデジャビュのように現れるドールハウス。その世界観がなんとも印象に残る。
上に挙げた2作品の他が、ややありきたりの物語となってしまった点だけが残念。
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「ガーディアン」石持浅海
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
勅使河原冴(てしがわらさえ)にはガーディアン、つまり守護者が憑いている。どうやらそれは死んだ父親らしい。だから怪我もしないし、誰かが冴(さえ)に対して悪意をもって攻撃しようとするとガーディアンはその悪意の大きさに応じた対応をしてくれる。
ガーディアンと、女性を主人公としていることから、過去の石持浅海作品とは若干異なる作品かもしれないと考えていたのだが、ガーディアンという不思議な存在以外は石持ワールド全快である。
ガーディアンは冴(さえ)の意識に関係なく、冴(さえ)に危害を加えようとした人に相応の報復をする。たとえそれが、冴(さえ)の友達だろうと関係なく。この非現実手はありながらも一貫したガーディアンの行動指針が物語に不思議な面白さを与えてくれる。
さて、物語では、同じプロジェクトに参加していた6人のうちの男性の1人が不自然に階段から落ちて死んだことにより、その人間関係が一変する。ある人は、ガーディアンの容赦ない仕打ちに、冴(さえ)から距離を取ることを選び、また冴(さえ)自身も、ガーディアンが、男を殺したということから、男が自分に殺意を持ったに違いないという結論に至り、人から殺意をもたれるほど憎まれた、という事実に悩む。
例のごとく、登場人物の何人かがやたらと洞察力、推理力に優れていたり、と突っ込みどころは満載なのだが、石本作品5作品目にして、その中毒性を改めて認識させてくれる作品である。「扉は閉ざされたまま」「セリヌンティウスの舟」など、タイトルの美しさもその魅力の一つだろうか。
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「交渉人・爆弾魔」五十嵐貴久
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
交渉人である遠野麻衣子の携帯に、シヴァと名乗る人物から、宗教団体の幹部を釈放するよう要求があった。時を同じくして都内で爆弾事件が発生する。
「交渉人」の続編であり、遠野麻衣子も前作で活躍したヒロインであり、前作の2年後を描いている。交渉人という言葉は、すでにその名を使った数多くのドラマや映画が存在していることからも分かるとおり、一般的なものとなっている。
そんな中、僕らが持っているイメージはおそらく、立てこもり犯などと電話で交渉する姿だろう。ところが本作品の「交渉」はメールと、警視庁のウェブサイトへのメッセージのアップロードという形を取っている。どちらかというと「交渉人」というより、優れた洞察力を持つ女性刑事の事件といった印象が強い。
物語では中盤、爆弾が仕掛けられているという情報をメディアが流したことによって、都内は逃げようとする人々でパニックになり、交通網は麻痺していく様子が描かれている。そこには物語の展開という以上に、日本の大都市の大規模なテロに対する備えに対する作者の危惧が見て取れるような気がする。
ただ個人的にはやや違和感を覚えた。たった一つの爆弾の存在だけで、人々は電車から勝手に降りようとするだろうか、と。物語に必要な展開だったから、と言ってしまえばそれまでだが。
ケチをつけられるところはいくつかあったが、物語の演出として受け入れられる程度のもの、五十嵐貴久のほかの作品と同様に、一気に読ませるそのスピード感は評価できる。
ちなみに本作品は米倉涼子主演のドラマ「交渉人」とはまったく関係がない。
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「果つる底なき」池井戸潤
「ダンサー」柴田哲孝
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
遺伝子工学の研究所から姿を消した謎の生命体「ダンサー」。ルポライター有賀雄二郎(ありがゆうじろう)は同じ時期に姿を消した息子の雄輝(ゆうき)を探す。
柴田哲孝の久しぶりの作品。「TENGU」で大きな衝撃を与えてくれた著者だが、その後、同じく未確認生物を扱った「KAPPA」「RYU」はややマンネリな印象を受けた。そしてやや間を置いて出版された本作品。人に危害を与える生き物を扱っているという点では前の3作と共通しているが、そこには遺伝子操作という今までの作品にはなかった最先端技術が盛り込まれている。
本作品ではなんらかの遺伝子操作で生み出された「ダンサー」が一人の女性志摩子(しまこ)のもとへと向かう。志摩子(しまこ)と「ダンサー」の関係。それががもっともこの物語の面白い部分であり、読者はどういうつながりが二人にあるのだろう、と考えさせられる。その答えは、人間の未知なる可能性を見事に取り入れたものとなっている。
同時にそんな超自然的な展開に説得力を持たせるために、世界で報告されている不思議な症例について触れている点も柴田哲孝らしい。「サイ追跡」「帰巣本能」という言葉にはなんとも好奇心をかきたてられる。
さて、本作品は「KAPPA」の10年以上後を描いており、ルポライター有賀雄二郎(ありがゆうじろう)の息子の雄輝(ゆうき)はすでに大学生となっており、本作品ではその2人が十二分に活躍する。あまりにも早くこの2人が歳をとってしまったころから、おそらく著者自身、このシリーズをそう長く書き続ける気がないことが想像でき、その点はやや残念である。
そして、2人のたくましい親子だけでなく、有賀(ありが)のもう1人のパートナーである犬のジャックも活躍する。彼目線で描かれたシーンは涙を誘う。長年共に過ごした主である有賀(ありが)に対する思いに、命の尊さを感じるかもしれない。その一方で事件を形成している要因の一つが、命の尊さを無視した動物実験の結果というところがこの作品の深いものに仕上げているのだろう。
「TENGU」にこそ及ばないが、十分に満足のいく作品だった。
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「追伸」真保裕一
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ギリシアに滞在している山上悟と日本にいる奈美子の手紙のやりとりで構成される物語。本作品に手紙の内容以外の要素は一切ない。作者である真保裕一の一つの挑戦的な作品である。
2人の何往復にもわたる手紙のやりとりによって少しずつ2人の置かれた状況や、その家族、周囲の人との関係までもが明らかになっていく。きっと、小説を書いた経験のある人や、実際に小説家として生きている人にとってはそれなりにその技法に読み応えを感じるのだろう。しかし、ただ単に読者として普段物語を楽しんでいる僕は物足りなさを感じた。
とはいえ、携帯電話やメールやインスタントメッセンジャーなど、多くの気軽なコミュニケーション手段が日常の中に取り入れられている昨今において、手紙というものの存在意義のようなものを感じるきっかけにはなった。
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「武士道シックスティーン」誉田哲也
![](https://i0.wp.com/thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/1677/16778001.jpg?resize=150%2C219)
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃から剣道で強くなるためだけを目標に生きてきた香織(かおり)と、日本舞踊から剣道の道に入った勝ち負けにこだわらない早苗は高校で同じ剣道部に所属することとなる。
基本的に物語は、香織(かおり)と早苗(さなえ)という、同じ剣道部に所属しながらもまったく正反対の取り組み方をする二人の目線で交互に展開していく。最初はやはり香織(かおり)の異様なまでの勝負へのこだわり方が面白いだろう。そして、その剣道に対する姿勢は当然のように他の部員や顧問の先生との摩擦を生む。
「お前には、負ける者の気持ちが、分かるか」
「・・・・・・わかりますよ。人並みになら」
「どう分かる。どう思った。負けたとき。」
「・・・・・・次は斬る。ただそれだけです。」
一方で早苗(さなえ)は勝ち負けよりも、自分の剣道を少しでもいいものにしようと心がける。序盤はそんな張り詰めた香織(かおり)目線と、のほほんとした早苗(さなえ)目線がなんともリズミカルに進んでいく。
次第に今までの自分の剣道への取り組み方に疑問を抱き始める香織(かおり)。そして早苗(さなえ)もまた香織(かおり)に影響されていろんなことを考えるようになる。
違ったタイプの人間が出会ってお互い刺激を受け合い、少しずつ人間として成長していく。
そんなありがちの物語なのだが、それでも自信を持ってお勧めできるのは、誉田哲也らしい独特の会話のテンポと、登場人物それぞれが持っているしっかりした個性のせいだろうか。香織(かおり)には優しい兄と厳しい父が、早苗(さなえ)には、情けない父と自分勝手な姉が、それぞれ物語にとってもいい味を出しており、香織(かおり)、早苗(さなえ)の生きかたにも大きく影響を与えていることがわかる。
すがすがしい読み心地の青春小説。新しい何かを始めたくなる4月。こんな時期に読むのにまさにぴったりの作品。といってもいまさら剣道はさすがに始められないが。
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