「ギフト」日明恩

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
レンタルビデオ店によく訪れた少年は死者を見ることができる。過去の出来事を引きずって立ち直れない元刑事須賀原(すがわら)は少年と一緒に死者の言葉を聞こうとする。
死者が見える、という比較的使い古された設定ではあるが、著者もそこは十分に理解しているのだろう。最初に少年が登場するシーンで、少年は「シックス・センス」のDVDのパッケージを見て涙を流している、というように、その考え自体決してオリジナルではないということは、過去の幽霊が登場する映画の名前を作品中に多く出すことによって早々に主張している。そういうわけで、ではその題材をどうやってオリジナルの物語として紡ぎあげるか、という視点で楽しむことになった。
著者、日明恩はこれまでにも「鎮火報」や「そして警官は奔る」など、登場人物の深い心情描写で非常に印象に残っているのだが、消防士や警察官など、基本的には現実的な物語だった。そういう意味で死者が見える超能力者というのは非常に新しいのだが、物語中では死者も生者同様のふるまいしかしないため、人と人の物語として安心して読み進められるだろう。
さて、須賀原(すがわら)と少年はその少年の能力によって、数人の死者と話をすることになる。交差点の事故で亡くなった年配の女性。幼くして池に落ちた幼い女の子。虐待されても人と一緒にいることを好む犬。死者も生きている人も含めて、自分のことよりも、家族や兄弟のことを必死に思いやっているのが印象的である。
そして最終的に、須賀原(すがわら)は、未だ忘れられない過去の出来事と向き合うこととなる。それはつまり須賀原(すがわら)が職務質問をしたためにあわてて交差点へ飛び出して事故死した少年、その霊と会話することである。何故そんな行為に及んだのか、何故そんなにあわてて逃げる必要があったのか。そんな疑問が明らかになるにつれて、人間の持つ複雑かつやさしい気持ちに触れることができるのではないだろうか。
本作品が示す、死者と言葉を交わすことで次第に解けていく誤解は、つまり、もっと会話を交わすことができれば、多くの死者を救うことができたということを暗示しているのだろう。
人と人との「思いやり」の物語。死者の言葉を通じでそれが感じられる。未だ実力に注目度が追いついていないと思える日明恩のお勧めできる本の一つ。ちなみに、テーマとしては高野和明の「幽霊人命救助隊」なども非常に近い気がする。本作品が気に入った方はぜひそちらも手にとってほしいところ。
【楽天ブックス】「ギフト」

「エデン」近藤史恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
白石誓(しらいしちかう)はフランスのロードレースチームに所属している。ツール・ド。フランスで出会ったのは、敵チームに所属していて、めきめきと頭角を現してきたニコラとその幼馴染であるドニだった。
「サクリファイス」の続編である。前作は日本でのロードレースを扱っていたたが本作品はその3年後の物語。全作品と同様ロードレースという日本ではとても注目度が高いとはいえないプロスポーツの世界ゆえに、その世界に身を置く選手たちやその環境などどれも新しいことばかりで非常に面白い。
誓(ちかう)は、チームのエースであるフィンランド人のミッコをアシストすることを自らの役割としてレースを戦うが、すでにチームの解散が現実味を帯びている状態ゆえに、チーム内の選手間や監督との間に不和が広がる。
そしてレース全体を覆うのはドーピング問題。それはもはやドーピングをした選手がいるチームの問題だけに限らず、ドーピングの事実が発覚することはロードレースの人気の低下、そしてスポンサー離れにつながるゆえに、選手たち全員に影響を与える問題。さまざまな要素を物語に織り込みながら誓(ちかう)はレースを戦っていく。
そして全作品にも劣らないラスト。すでに出版されている続編「サヴァイブ」も近いうちに読みたいと思わせる十分な内容である。

最初は罪のない、誰も傷つけない嘘のはずだった。
マイヨ・ジョーヌ
自転車ロードレース・ツール・ド・フランスにおいて、個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージである。各ステージの所要時間を加算し、合計所要時間が最も少なかった選手がマイヨ・ジョーヌ着用の権利を得る。(Wikipedia「マイヨ・ジョーヌ」

【楽天ブックス】「エデン」

「万能鑑定士Qの事件簿IV」松岡圭祐」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
都内で放火が相次いだ。狙われた家には必ずひとつの古い邦画映画ポスターがあった。
鑑定士凛田莉子(りんだりこ)シリーズの第4弾である。今回もシリーズではおなじみの流れとなりつつあるが、冴えない記者小笠原(おがさわら)と冴えない刑事葉山(はやま)とともに物語は展開するが、そこに臨床心理士として嵯峨敏也(さがとしや)が加わる。「千里眼」「催眠」シリーズから松岡圭祐作品を愛読している人にとっては注目すべき点だろう。
さて、物語は各地に眠っていた古い邦画ポスターをめぐって展開する。犯人の狙いはなんなのか、何故ポスターを燃やす必要があるのか、と。
力を抜いて楽しめる一冊。例によって雑学好きにもお勧めである。
【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿IV」

「現代アートビジネス」小山登美夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ギャラリストである著者がその経験のなかから得た知識をもとに、現代アートについて語る。アーティストたちはどうやって有名になっていくのか、展覧会はどうやって開かれるのか、アートの値段はどうやって決まるのか、など、どこか敷居の高い世界、として距離を置いてしまうような空気のある現代アートについて、非常にわかりやすく解説している。
個人的に面白かったのは第3章の「アートの価値はどう決まる」である。世の中に最初に出たときの値段であるプライマリープライス、そしてオークションや売買などを経て変化するセカンダリープライス。と、アートの値段の決まり方を示してくれる。
そのほかにも、村上隆と奈良美智とのエピソードや海外のアート事情など、どれも興味を掻き立ててくれるだろう。そして、全体を通じて、現代アートをビジネスとしてだけでなく、作品、アーティスト、業界全体含めて「温かく育てていこう」という著者のアートに対する思いが伝わってくる。

アートは「商品」である前に、「作品」です。世界に一点しか存在しない。工業製品のように大量生産ができるわけでもないのです。作品には生身の人間が関わっているからこそ、アートは高額商品となり得るのです。

「ちょっとギャラリーを訪れてみようかな」と思わせる一冊である。

サザビーズ
現在も操業する世界最古の国際競売会社。インターネット上でオークションを開催した世界初の美術品オークションハウスでもある。(Wikipedia「サザビーズ」
クリスティーズ
世界中で知られているオークションハウス(競売会社)。ライバル社であるサザビーズと比べ、より大きな市場占有率を幾年にも渡って保持してきており、収益からみるとクリスティーズ社は現在、世界で最も規模の大きいオークションハウスである。(Wikipedia「クリスティーズ」
ジュリアン・オピー
イギリスの現代美術家である。シンプルな点と線による独特な顔を生み出し、世界の名だたる美術館に作品が貯蔵されている。(Wikipedia「ジュリアン・オピー」
キース・へリング
ストリートアートの先駆者とも呼べる画家で、1980年代アメリカの代表的芸術家として知られる。シンプルな線と色とで構成された彼の絵は日本でも人気があり、キースの作品をプリントしたTシャツがユニクロなどから販売されるなど広く知られている。(Wikipedia「キース・ヘリング」
ジャン=ミッシェル・バスキア
ニューヨーク市ブルックリンで生まれたアメリカの画家。1983年にはアンディ・ウォーホールと知り合い、作品を共同制作するようにもなる。(Wikipedia「ジャン=ミシェル・バスキア」
参考サイト
Julian Opie |
Keith Haring
Tomio Koyama Gallery 小山登美夫ギャラリー

【楽天ブックス】「現代アートビジネス」

「万能鑑定士Qの事件簿III」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
音響効果を用いて詐欺を働いていたのはかつてのミリオンセラーのヒットを多く飛ばした音楽プロデューサーだった。凛田莉子(りんだりこ)はその企みに挑む。
万能鑑定士シリーズの第3弾。前の物語はIとIIにわたって繋がっていたが、本作品はIIIだけで完結している。詐欺を働く音楽プロデューサーはTK氏を想起させる。おそらく述べられていることのいくつかは現実のTK氏のことと重なるのだろう。
詐欺を防ごうと奮闘する物語でありながら、どこか力を抜いて読める作品。なんだかすこしずつ凛田莉子(りんだりこ)のやっていることは千里眼シリーズの岬美由紀(みさきみゆき)のやっていることと変わらなくなったように感じる。
まだ読んでいない続編が次々と出ているようだが、もう少し深みのある物語に発展することを期待している。
【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿III」

「プロフェッショナルを演じる仕事術」若林計志

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
さらに向上するために、プロフェッショナルの経験談や方法を聞いて実践しようと思っても、多くの人が数日続けるだけですぐにやめてしまう。そもそもそのモチベーションはどうやって維持すればいいのか。そんな新しい自分になるための心構えをまとめている。
また、その際人が陥りやすい罠を、人間の心理的傾向を元にわかりやすく説明している。いずれも誰にとっても思い当たるふしのあることばかりなのではないだろうか。

人は自分の手に入らないものを批判する気持ちをどこかに持っています。デートの誘いを断られれば「もともとそんなに好きじゃなかった」と言い、他人がもっているものを見て「そんなものは役にたたない」と批判します。

また、中盤で取り上げられている3つのコンプレックスの反応「同一視」「投影」「反動形成」は呼び名はときどき耳にするが意味をしっかり知ったのは初めてで、この内容を知っていれば自分がもし陥りそうになった場合に修正が効くのではないだろうか。
その他にも「アンラーン」の重要性や「ハロー効果」など興味深い内容を飽きさせないような構成でつづっている。
個人的に僕自身は勉強を始めれば永遠とやってられるぐらいでむしろ本書のターゲットとなる読者層とは異なるのかもしれないが、それでも楽しむことができた。本書の内容は誰にでも「本当に今のままでいいのか?」とか「書かれているような負の罠に嵌っていないか?」と考えさせてくれるだろう。

自分に合わないと思うものを拒否するのは簡単だけど、そんな事をしていたら君の価値観は死ぬまで拡がる事はないよ。

【楽天ブックス】「プロフェッショナルを演じる仕事術」

「サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉」春山昇華

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2007年の夏、サブプライムローンを初めとする住宅ローンへの不安から起こった金融危機。本書は「サブプライム」という言葉でひとくくりにされている問題を、住宅バブル、略奪的貸付、金融技術、世界の余剰資金という複数の視点から見つめ解説する。
理系の僕は正直言って経済には疎く、なかなかこの手の内容が理解できない。本書を手に取ったのも数日前に読んだマイケル・ルイスの「世紀の空売り」の細かい金融商品の仕組みが理解できなかったからである。本書も8割も理解できれば上出来かな、と思っていたのだが、非常に読みやすくわかりやすい。著者があとがきで「学生にもわかるような解説書にするという難題」と書いているとおり、経済の知識が未熟な人にも十分に理解できるような内容になっている。
興味深かったのが、サブプライム問題を理解するためにはアメリカという国の背景を理解する必要があるという説明のなかで、日本や欧州は消費者が冷遇されているが、アメリカは消費者が優遇されているという点である。アメリカでは借金をして豊かな生活をする文化が日本よりもはるかに染み付いているゆえに、金融商品がさまざまなニーズにこたえる形で発達しているのである。それ以外にもアフガン戦争やカードローンなどをサブプライム問題をここまで深刻にした要素としてあげている。
また、本書ではサブプライム問題の解説とともに、今後の世界の姿を描いている。今までアメリカが輸入超過で貿易赤字を生むことで、世界の景気を支えていた、それゆえに今後は世界の景気を支えるためにはアメリカに変わる貿易赤字大国が必要、というのはひょっとしたら経済に詳しい人には常識なのかもしれないが、僕にとっては非常に新鮮だった。
今まで見えなかった世界の動きが少し見えるようになった気がする。

国際決済銀行
通貨価値および金融システムの安定を中央銀行が追求することを支援するために、そうした分野についての国際協力を推進し、また、中央銀行の銀行として機能することを目的としている組織。1930年に第一次世界大戦で敗戦したドイツの賠償金支払いを取り扱う機関として設立された。本部はスイスのバーゼル。(Wikipedia「国際決済銀行」

【楽天ブックス】「サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉」

「Beフラット」中村安希

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者が多くの政治家たちをインタビューし、その会話のなかで疑問に思ったことなどを素直につづる。
「インパラの朝」の旅行記の女性ならではの独特かつ素直な視点と、深く考えて生きている様子に好感を抱いて、本作品にも同様のものを期待して手にとったのだが、読み始めてすぐ実は旅行記ではないと気づき、読むのをやめようかとも思ったのだが、読み進めるうちに本作品も悪くないと思い始めた。
政治関連の本というとどうしても、漠然とした政策や理念の羅列になってしまって何一つ具体的なことが見えてこないのだが、本書ではそんな僕らが思っていることを著者が代弁してくれる。わからないことをはっきりと「わからない」と言ってくれる著者の姿勢が新鮮である。政治家の説明だけ聞くと正論に聞こえるけど、なんだかそれは正論過ぎて実現しそうにない、と言ってくれるところもなんだかほっとする。
そして、日本の状況をアメリカや北欧など、著者の海外での経験と照らし合わせて比較して見せてくれる。著者は別に「ああすべき」とか「こうすべき」と語っているわけではないが、「どうすればいいんだろう?」と読者が素直に考えてしまうような、少し敬遠したくなるような政治や政策を近くに運んできてくれるようなそんな一冊である。
政治や政策を熟知している人には別に薦められるような内容でもないが、イマイチ政治に関心がない、という人は読んでみるといいのではないだろうか。
【楽天ブックス】「Beフラット」

「現代アート、超入門!」藤田令伊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
西洋絵画の良さはわかるが現代アートは何がいいのかさっぱりわからない。という人は多いだろう。実際僕もそんななかの一人。一体現代アートはどうやって楽しめばいいのか?そんな人にまさにうってつけの一冊。
著者は元々は普通のサラリーマンだったという経歴ゆえに、普通の人の目線に立って解説を進めていくため、難しい話は一切ない。ピカソの「アヴィニヨンの娘たち」、デュシャンの「泉」、アンディ・ウォーホルの「ブリロボックス」など節目となった作品や、マグリットの「光の帝国」やマーク・ロスコの作品のように意味不明なものまで、その楽しみ方を非常にわかりやすく解説している。
すでに現代アートを楽しめている人にはほとんど意味のない内容だが、現代アートに興味を持ちつつも「さっぱりわからない」という人が一皮向けるのにはちょうどいい一冊。個人的に本書を読んで思ったのは、もはや現代アートにおいては「アート」=「美術」という等式は成り立たないということ。

史上初のキュビズム絵画とされ、アートの歴史に名を刻んだ「アヴィニョンの娘たち」は必ずしも「美しい」絵ではない。実際、ピカソ自身、美しく描こうとしたわけでもない。そして、「美」を求めない作家や作品は、現代アートにはゴロゴロしている。

個人的には現代アートとは、常に人々の既成概念を破壊しようとして進化しているように感じた。できるだけ現代アートの動向にもアンテナを張っておきたいと思う。

あれこれと思い巡らせた結果、「わかった!」という答えが得られなくてもかまわない。アート鑑賞は、必ずしも「わからあんければならないもの」ではないし、「わからないことがわかる」のも収穫となる場合がある。

複雑なことを考えずに現代アートを楽しもう、と思えるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「現代アート、超入門!」

「ダークゾーン」貴志祐介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
目が覚めるとそこは不思議な世界。現実の世界では将棋のプロを目指していた塚田裕史(つかだひろし)は、その世界で、18体のそれぞれの能力を持った生き物を動かして、敵である青軍と七番勝負をすることとなる。そこは夢なのか仮想空間なのか。
なんとも突飛な舞台設定である。実際著者である貴志祐介は「クリムゾンの迷宮」でも人間同士で生き残りをかけたゲームのような物語を描いているが、本作品では塚田(つかだ)含む登場人物たちは、なぜその場所にいて、なぜ戦うことになったかがわからなく、その点が物語のカギなのだと推測できる。
さて、理由もわからず塚田(つかだ)は現実世界で知り合いだった人間を駒として青軍と戦うのだが、その過程で、将棋や囲碁、チェスなど伝統的なゲームについて言及される点が興味深い。またその舞台となっている場所が昨今有名になった長崎の軍艦島をモチーフとしている点も個人的には好奇心を刺激してくれた。むしろそこまで調べ上げているなら将棋や囲碁の純粋な勝負の世界を描いたほうが面白い物語になったのではないかと感じた。
感想としてはやはりこの非現実すぎる物語をすんなり楽しむのは誰にとってもなかなか難しいのではないかと思う。とはいえこのような物語を世に出せるのは著者の過去の実績があるからゆえなのだろう。普通の人が同じものを書いてもまず出版社は却下するに違いない。そういう意味では現代アート的感覚で触れてみるのもいいかもしれない。
【楽天ブックス】「ダークゾーン」

「デザインセンスを身につける」ウジトモコ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインの重要性と、優れたデザインをするための考え方を著者の経験から示している。
どちらかというとデザイナー向けではなく、デザインの重要性を軽視しがちな人向けである。どこかで聞いたような話も多い中、個人的に印象的だったのは冒頭のアイコンデザインの話である。
アイコンデザインというと、つい数年前までデザイナーの仕事でしかなかったのだが、ここ数年は、Twitter、Facebookとオンラインでのコミュニケーションが一般の人にまで普及してきたため、すべての人が「アイコンデザイン」を考えなければいけない時代になっているという。しかし、多くの人がただ漠然と自分の写真をアイコンとして設定したり、顔を出すのを嫌がって、ペットなどの動物をアイコンに設定するケースも多い。
ところがアイコンによってその人が相手に与える印象は大きく異なってしまう。たとえば、同じ日常的な会話、「おやすみ」でも、その隣に表示されるアイコンの顔がアップなら押し付けがましい印象を受けるだろうし、小さく顔の映ったアイコンならまた違った印象を受けるだろう。こうやって考えると、オンラインだけのコミュニケーションが日常的になっている昨今、決してアイコンデザインを疎かにしてはいけない、と著者は言うのだ。多くの読者は読み終わったあとにアイコンを変えたくなるのではないだろうか。
また、AppleやGoogle、スターバックスなど誰もが知っている企業を例に挙げながらデザインの重要性を説いていく、冒頭でも書いたとおり、どちらかというとデザインへの関心の低い人向けであるが、そういう人は「デザインセンスを身につける」という本はなかなか手に取らないと思うが実際どうなんだろう。
【楽天ブックス】「デザインセンスを身につける」

「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」金哲彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リクルートランニングクラブで小出義雄監督とともにコーチとして活躍した著者が、フルマラソンの魅力やトレーニングの基礎知識、そして、タイプ別のトレーニングメニューを紹介している。

先日読んだ小出義雄監督の「マラソンは毎日走っても完走できない」とは異なって本書の著者はインターバルトレーニングを推奨していないなど、若干異なる部分もあって戸惑うが、全体的には非常に読みやすい。本書では基本的な項目の説明ののち、3つのタイプの人間に合ったトレーニングメニューをフルマラソンの100日前から掲載している。何から始めればいいかわからないようなマラソン初心者にとっても、非常に具体的でわかりやすい内容と言えるだろう。

個人的には、どのメニューも外での練習を基本としていてジムなどで行う場合などの代替練習などにも触れてほしいと感じたりもしたが、基本的には満足のいく内容である。むしろトレーニングメニューは永久保存版にしたいくらいである。
【楽天ブックス】「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」

「図解でわかる!ディズニー感動のサービス」小松田勝

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
オープン当時オリエンタルランドに入社し、ディズニーランドのあらゆる部門の発展を見てきた著者が、30年経っても衰えを知らないそのホスピタリティについて語る。
確かに東京ディズニーランドといえば日本ではもはや一人勝ち状態。ディズニーランドのなかでも「東京ディズニーランド」は優れた評価を得ているという。
本書で描かれるディズニーランドの理念やその理由はいずれも納得のいくもので興味深く読むことができた。たとえば、「「いらっしゃいませ」はNG。」いまや「いらっしゃいませ」と言わないサービス業の方が珍しいのではないかと思うほど浸透しているこの言葉。なぜそれを言ってはいけないのか…それでも説明を聞くと納得がいく。

彼らのマニュアルには、こう書いてあります
「ゲストには『いらっしゃいませ』と言わないでください」
「いらっしゃいませ!」では、ゲストが返事をしにくいため、ゲストとの間のコミュニケーションを断ち切ってしまうと考えるからです。

その他にもほかの業種や人間関係にいかせそうなエピソードが満載。今悩んでいる何かを解決ヒントになるかもしれない。

ジョン・グッドマンの法則
* 商品・サービスの不満情報は、満足情報の2倍の量で伝達されていく
* 苦情を言った客がその後満足すると、80%以上が再購入する。これは、苦情を言わなかった客の再購入率60%よりも高い
* 一方で、苦情を言った客が企業の対応に不満を抱くと、再購入率はゼロになる。
kurikuri @Wiki – ジョン・グッドマンの法則

【楽天ブックス】「図解でわかる!ディズニー感動のサービス」

「月と蟹」道尾秀介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第144回直木賞受賞作品。
転向してきた慎一(しんいち)と春也(はるや)はクラスで孤立し、やがて2人だけで遊ぶようになる。2人はヤドカリを火であぶりながら願い事をつぶやく。
10歳の小学生慎一(しんいち)を中心に据えた物語。母と祖父との3人で暮らし、学校では春也(はるや)というただ一人の友達と遊ぶ。そんな生活のなかで、慎一(しんいち)は周囲の小さな変化を敏感に感じる。変化を恐れながらも好奇心を抑えられず、そのうえで小学生という自分の無力さも感じている。そんな世の中のことを知りつつも大人になりきれない中途半端な年齢の心をうまく描いている気がする。
物語のなかで何度も登場するシーンでもあるが、そんな彼らの気持ちを象徴しているのが、ヤドカリを焼くシーンだろう。何の根拠もなく、ヤドカリを焼いて願い事をつぶやく。彼らはそれで願いが叶うなどと信じているわけでもなく、ただ単に自分の思い通りにいかない世の中に対して何もできない自分の不甲斐ない思いをなだめているのだろう。
自分の小学生のころを思い出してしまった。そういえばそうやって、今考えるとありえないようなことに願いをかけたりしたな、と。
さて、「向日葵の咲かない夏」という作品で本作品の著者道尾秀介からは距離を置こうと思ったのだが、本作品はまったく別の著者が書いたような雰囲気の異なる作品に仕上がっている。機会があったら別の作品も読んでみたいと思った。
【楽天ブックス】「月と蟹」

「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」マイケル・ルイス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
サブプライム・ローンにまつわる大変動を予期し、それをもとに財をなす準備をあらかじめ整えていた一握りの人物に焦点をあて、その過程と心の内を描く。
残念ながら、僕自身が本書で書かれていることをすべて理解ししたなどとは言えない。というのも、全体的に著者の別の作品「マネーボール」同様非常に読みやすい文体で書かれているが、聞き慣れない金融商品や専門用語など調べなければ分からないことや、調べてもわからないこともまた多く含まれているのだ。それでも、「勝ち組」の側にいた彼らが感じた金融という虚像に対するなんともやるせない空気が本書を読むことで伝わってくるのだ。
そしてまた、漠然とではあるが世界中がアメリカ発の住宅好況に酔っていた2000年代半ばにその裏で何が起こっていたかを理解することもできるだろう。メディアなどで語られるサブプライムローン問題は非常に簡潔で、あまりにもわかりやすいために逆に「なんでこんなわかりきったことが起こったのか?」とさえ思えてしまうが、実際に起こっていたのは、ひたすら複雑になった債権と、その複雑さについていけずに不当な格付けをする格付け機関。そして、それをなんの疑問も持たずに信じきっていたトレーダー達という構図なのである。言ってみれば、購入相手を見つけるためにわかり難く構成された債権のわかりにくさに世界が飲み込まれてしまったようなものである。
正直、最初の時点での僕の感想は、自らを賢いと思い込んでいるトレーダーたちさえも気づかなかったことに目をつけ、そんなエリート達を出し抜くなんてなんて爽快なことなのだろう、というものだっが、実際にスティーヴ・アイズマンやマイケル・バーリ達を襲ったのは「勝利の爽快感」などというものではなく、形も根拠もないものを信じ気って混乱へと突き進んだ世の中へ対する虚しさのようである。
しっかり理解するためにはまだまだ僕の知識は足りない。類する本をいくつも読む必要がありそうだ。

ABS(アセットバックトセキュリティ)(Asset Backed Security)
ABSとは、資産担保証券とも呼ばれ、対象資産としての債権や不動産を裏づけに、(SPCを通じて)証券を発行・売却することで、資産をオフバランス化し、それに伴い現金を得る資産流動化取引を行った際に発行される資産を担保とした証券のこと。(exBuzzwords用語解説「ABSとは」
ISDA
“International Swap and Derivatives Association”の略で、日本語では「国際スワップ・デリバティブ協会」のことをいう。ISDAは、OTCデリバティブの効率的かつ着実な発展を促進するため、1985年にアメリカ合衆国のニューヨークで設立されたデリバティブに関する世界的な組織(全世界的な業界団体)で、OTCデリバティブ市場の主要参加者(会員)により構成されている。(ISDAとは|金融経済用語集

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「マラソンは毎日走っても完走できない 「ゆっくり」「速く」「長く」で目指す42.195キロ」小出義雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高橋尚子をオリンピック金メダルに導いたことで有名な、小出義雄監督が、マラソン初心者がやりがちな間違えや、効果的に記録を伸ばすためのトレーニングを紹介する。

なんといっても本書の帯のコピー「マラソンの練習が分かっていないから30kmあたりで歩いてしまう人が多いんだよね」。この言葉にやられてしまった。実際僕が唯一挑戦したフルマラソンは26km付近で失速。その後は歩いてゴールするのがやっと。毎週のようにスカッシュやサッカーをやっていて体力に自信のある僕のよこを、おそらくマラソン以外のスポーツなど一切していないだろう年配の人たちが最後はどんどん抜いて行くのだ。恐らくマラソンに対する考えを間違えていたのだろう、と漠然と感じさせてくれる経験だった。

さて、本書のなかにはその答えに近いものが書かれている。一度もフルマラソンになど挑戦したことのない人が思い描く「マラソン」とは、せいぜい学生時代の校内マラソンの延長で、5キロかせいぜい10キロ程度なのだろう。そういう人は、肺活量を鍛えるためにひたすら走りがちだが、本書ではむしろ「足をつくる」ということを重視している。

肺活量はたしかに勝負のなかでは疎かにできなものなんだろうが、完走という目標をもっているひとにはたしかに優先度の低いものなのだろう。本書では、「足をつくる」ことを意識しつつ、その目標をハーフマラソン、フルマラソン、と、目標となるレース別にメニューを紹介している。

個人的には、そのトレーニングが、どの筋肉を鍛え、どういう状況で役に立つか、といった内容が書かれていなかったのが残念だが、それでも、読めばいやでもモチベーションがあがってくるに違いない。
【楽天ブックス】「マラソンは毎日走っても完走できない 「ゆっくり」「速く」「長く」で目指す42.195キロ」

「インターセックス」帚木蓬生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
サンビーチ病院に転勤した秋野翔子(あきのしょうこ)。その病院では、性転換や染色体の異常で、男でも女でもないインターセックスと呼ばれる患者たちの治療を専門としていた。
もう数年前にドラマでやっていた金八先生の第6シリーズの頃から、「性同一性障害」などは非常に興味のある分野である。本書のタイトルとなっている「インターセックス」。この言葉の意味を知っている人はどれほどいるのだろう。僕自身も実は、本書に触れるまで、「ゲイ」と「ニューハーフ」と「インターセックス」の違いを知らなかったのである。軽くイギリス人のゲイの友人の解説をここですると、「ゲイ」は「同姓が恋愛対象」。「ニューハーフ」は男でありながら女性の気持ちを持っている人。そして「インターセックス」は体が男と女の中間な状態であること。なのだそうだ。(シビアな話なので間違っていたら申し訳ない)。
さて、本書で扱っているのはそんな中の「インターセックス」であるから、一見女性でありながら、実は膣がなかった、卵巣がなかった、などの症例が挙げられている。おそらく僕らが思っている以上に多く存在する「インターセックス」。その患者たちへの態度として、幼い頃に周囲が「男」か「女」かを決めてしまってそれにしたがって手術を行って、その性に従って育てるべきだと、主張するサンビーチ病院の院長岸川(きしかわ)と、「男」でも「女」でもない「インターセックス」の存在をそのまま受け入れて、本人の希望がない限り手術を行うべきではないという翔子(しょうこ)の主張の対比が非常に興味深い。
そして、物語中で「インターセックス」の人たちが集まってそれぞれが自身のことを語り合う場面で出た、「インターセックス」をさらに3つに分けることこそ重要という意見が印象的だった。今までのmaleとfemaleだけでなく、そこに、性染色体はXYだが女性器が欠如したいる人をhem、その逆のmemそして、双方の性器を有している人をhermを加えて性の表現を5つにするというもの。まだまだ、長い時間がかかるだろうが少しずつ世の中が変わっていけばいいと思った。
さて、物語はそのように「インターセックス」や「性転換」に触れながら進むが、やがて翔子(しょうこ)はサンビーチ病院の過去に不振な事件が重なっていることに気づくのである。
正直、病院の陰謀なのか、「インターセックス」の現状なのか、とちょっとどっちづかずになってしまったのが残念であるが、全体的には知的好奇心をかきたててくれる内容である。

【楽天ブックス】「インターセックス」

「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流世界最強マネジメント」フェラン・ソリアーノ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マンチェスターユナイテッドやレアルマドリードにチームの強さの上でも収益の面でも大きく遅れをとったスペインの名門FCバルセロナ。2003年に最高責任者に就任した著者が、FCバルセロナが世界最強のチームになるまでの過程を論理的に説明していく。
本書はサッカーのチームをその題材として描いているが、内容はいろんなことに応用できるだろう。印象的だったのは第4章の「リーダーシップ」である。この章ではチームを4つのタイプに分類し、それぞれのタイプに応じて指導者が取るべきリーダーシップのタイプについて語っている。
たとえば、チームのタイプが「能力はあるが意欲に欠けるチーム」であれば指導者は「メンバーの意見を聞き決断を下す」役割を担うべきで、チームのタイプが「能力があり意欲にあふれたチーム」であるならば、「メンバーに任務を委任し、摩擦が起きそうなときだけ解決に向けて調整をする」役割となる。というようにである。
一体世の中のどれほどの「リーダー」が、自分のチームのタイプに応じて自らの振る舞いを変えているだろうか。「リーダーは変わる必要がある」ということを漠然と理解している人もいるだろうが、ここまではっきりと示してくれるのは非常に新鮮である。そして、本書ではリーダーのタイプと合わせて、実際にバルセロナで指揮をとった、ライカールトやグアルディオラの言動にも触れているのである。僕自身、過去転職を繰り返して多くの自己顕示欲旺盛な「リーダー」を見てきたが、本書はそんな彼らに突きつけて見せたい内容に溢れている。
さて、「リーダーシップ」の内容にだけ触れたが、それ以外にも興味深い内容ばかりだ。「チーム作り」や「戦略」「報酬のあり方」など、もちろんいずれもサッカーを基に話が進められているが、どれも現実に応用可能だろう。
全体的には、バルセロナの成績だけでなく、所属した選手や周囲のビッグクラブ、たとえば銀河系軍団のレアル・マドリードなどに触れているため、サッカーを知らない人間がどれほど内容を楽しめるかはやや疑問だが、個人的にはお薦めの一冊である。
【楽天ブックス】「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流世界最強マネジメント」

「ロードムービー」辻村深月

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
5編の物語からなる作品。著者辻村深月を有名にした「冷たい校舎の時は止まる」を読んだのはもう数年前なので断言できないのだが、5編のうちいくつかは(2つは明らかに)その作品と同じ世界で、作品内に登場した人物の未来または過去を描いているので、あの世界観が好きな人には見逃せない作品なのではないだろうか。
個人的に好きなのは4編めの「トーキョー語り」。東京から転校してきた女生徒へのイジメを描いた作品。そして最後の「雪の降る道」。「雪の降る道」は病気で学校を休んでいるヒロくんと、毎日お見舞いにくる幼なじみのみーちゃんの物語。この2人の名前を聞いてぴんとくるならもう説明はいらないのだろうが、「冷たい校舎」のなかの回想シーンで触れられたヒロと美月(みづき)ちゃんの幼い頃の物語である。
全体的に「冷たい校舎」を読んでいればかなり楽しめる内容になっているが、この作品から辻村作品に触れる人にとってどのような印象を与えるかはやや疑問である。
【楽天ブックス】「ロードムービー」

「誘拐児」翔田寛

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第54回江戸川乱歩賞受賞作品。
終戦翌年に誘拐事件が発生し、5歳の男の子は戻ってこなかった。そして15年後とある殺人事件が起きる。また時を同じくして、母親をなくした、良雄(よしお)は5歳より前の記憶がないことに気づく。
きっかけとなる事件が戦後に発生したということで、戦後の混乱の様子が描かれている。本作品はそんな混乱に便乗した事件を発端としている。物語中の主な舞台となっている時代も、戦後の混乱の15年後ということで、とても今「現代」と言えるような時代ではないだろう。パソコンも携帯も普及していなかった時代の物語である。
江戸川乱歩賞ということで期待したのだがよくある小説という印象であまり個性が感じられない。著者はいろいろ考え抜いて本作品を作り上げたのだろうが、残念ながら1ヶ月もすれば読んだことすら忘れてしまうだろう。

ノモンハン事件
1939年(昭和14年)5月から同年9月にかけて、満州国とモンゴル人民共和国の間の国境線をめぐって発生した日ソ両軍の国境紛争事件。(Wikipedia「ノモンハン事件」
大政翼賛会
1940年(昭和15年)10月12日から1945年(昭和20年)6月13日まで存在していた公事結社。国粋主義的勢力から社会主義的勢力までをも取り込んだ左右合同の組織である。(Wikipedia「大政翼賛会」

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