「あかんべえ」宮部みゆき 

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
生死の境を乗り得たおりんにはなぜか幽霊が見えるようになる。両親が開いた料理屋「ふね屋」に住み着く5人の幽霊。同い年の女の子お梅、美男子の玄之介(げんのすけ)、色っぽいおみつなど、彼らはなぜこの家に住み着いているのか、そしてなぜおりんにだけ5人全員が見えるのか。
江戸の時代を描きながら幽霊という存在を巧みに使って面白おかしく当時の人々の人間関係を描く。なんとも宮部みゆきらしい作品。本作品を面白くさせているのはそんな5人の幽霊たちだけじゃなく、純粋で真っすぐなおりんの言動だろう。

なによ、あの言いっぷりは!あんな意地悪なこと言うのなら、さっさと出ていってくれればいいのに!そうよ、あたしたちがこんなに苦労しているのは、みんなお化けさんたちのせいじゃないの!

きっと本当は誰もが心のうちを素直に表に出して、心の赴くままに行動したいのだろう。しかし、実際には大人になるに従ってそれは難しくなっていく。だからこそおりんに魅力を感じるのである。
そして次第に幽霊たちがその家に住み着いている理由が明らかになっていく。

どうしてあなたはお父とお母に大事にされて、どうしてあたしはお父に殺められて、井戸にいなくちゃならなかった?

産まれた場所や両親など、人にはどんなに強い意志を持とうと選べない物があり、それに翻弄されてしまう人生もまたあることを改めて認識させられる。
【楽天ブックス】「あかんべえ(上)」「あかんべえ(下)」

「海賊とよばれた男」百田尚樹

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は社員は家族という信念を持って戦後の混乱期を乗り越えていく。
読み始めるまで知らなかったのだが、この物語は出光興産の創業者・出光佐三をモデルにして書かれている。石炭から石油へとエネルギーが移行していく時代にいち早く石油に目をつけて自ら会社を起こし、時代の流れにのって大きくなっていくのだ。
本書で描かれている出来事はフィクションの体裁をとってはいるが、いずれも実際に起こった出来事を描いている。そんな数ある出来事のなかでも、なんといってもイギリスの脅威のなかイランに向かった大型タンカー日章丸のエピソードは、単に「面白い」という言葉では説明しきれない。信念と誇りをもって物事に立ち向かうことの素晴らしさと尊さを改めて感じるだろう。

辛かった日々は、すべて、この日の喜びのためにあったのだ。

「信念」とか「誇り」という言葉は、戦争などの争乱の時代にしか語られないような印象があるが、そんなことはない、日々の仕事に大してもそんな心を忘れずに常に全力で立ち向かった人がいるのである。
僕らはなぜこんな偉大な出来事をもっと語りついでいかないのだろうか。本書を読めばきっとみんなそう感じるだろう。著者百田尚樹がこの物語を書かなければいけないと思った理由は読者には間違いなく伝わるだろう。

【楽天ブックス】「海賊とよばれた男(上)」「海賊とよばれた男(下)」

「小暮写真館」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校生の花菱英一(はなびしえいいち)の父親が引っ越し先として選んだのは、元写真屋さん「小暮写真館」の建物。ある女子高生が「小暮写真館」で撮ったとされる心霊写真を持ち込んでくる。
「小暮写真館」という看板のかかったままの家に住む事になったため、英一(えいいち)のもとには、心霊写真が持ち込まれ、それを基にいろんな形の人間関係やそれぞれの心のうちを描かれる。高校生ゆえに、同じ高校の登場人物たちも個性豊かで気楽に読み勧められるなかに、心に刺さる内容があるのが非常に巧い。

人は語りたがる。秘密を。重荷を。
いつでもいいというわけではない。誰でもいいというわけではない。時と相手を選ばない秘密は秘密ではないからだ。
僕を責めたりなんかしない。まず第一に自分の浅はかさを責めるだろう。そういう人なんだ。僕はよく知ってた。知りすぎるくらい知ってた
泣かせようなんて、これっぽっちも思わないんだよ。幸せにしようって、いつも本気で思ってるんだよ。だけどね、何でか泣かせちゃうことがあるんだ。

そして花菱(はなびし)家も複雑な事情を抱えている。現在は英一(えいいち)とその8歳年下の光(ひかる)との2人兄弟だが、7年前に妹の風子(ふうこ)が亡くなっているのである。そして常に家族の頭にはその亡くなった妹の存在が残っているのだ。物語が終盤に差し掛かるに連れて英一(えいいち)の向き合うものは、亡くなった妹を含めた自分自身の家族や友人との人間関係になっていく。
手に取った瞬間に挫けそうになるような分厚い本だが、読む価値ありである。
【楽天ブックス】「小暮写眞館」

「ヤバい経済学」スティーブン・D・レヴィット/スティーブン・J・ダブナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1990年代の後半のアメリカ。誰もが犯罪の増加を予想する中、殺人率は5年間で50%以上も減少した。多くの人がその理由を語り始めたという。銃規制、好景気、取り締まりなど、しかしどれも直接的な理由ではない。犯罪が激減した理由はその20年以上前のあるできごとにあったのだ。
わずか数ページで心を引きつけられた。経済学と聞くと、どこか退屈な数学と経済の話のように感じるかもしれないが本書で書かれているのはいずれも身近で興味深い話ばかりである。大相撲の八百長はなぜ起こるのか。なぜギャングは麻薬を売るのか。子供の名前はどうやって決まるのか。こんな興味深い内容を、数値やインセンティブの考え方を用いて、今までになかった視点で説明する。
個人的には冒頭のアメリカの犯罪率の話だけでなく、お金を渡したら献血が減った話や、保育園で迎えにくる母親の遅刻に罰金を与えたらなぜか遅刻が増えた話などが印象的だった。お金を使って物事を重い通りに運びたいならそこで与えるお金の量は常に意識しなければならないのだろう。
なんだか世の中の仕組みが今まで以上に見えてくるような気にさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「ヤバい経済学」

「社長の時間の使い方 儲かる会社にすぐ変わる!」吉澤大

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
時間の使い方を自由に選択できる社長は、その時間をどういうふうに使うべきか、という視点に立って語る。
基本的に本書で書かれているのは、時間とお金を常にその効果に見合うかを考慮して選択するということに尽きるが、普段から心がけている人にとっては特に新しい内容ではないだろう。
Googleカレンダーなどの新しい技術にも触れているが、基本的には著者が普段やっている事をそのまま本にしただけといった印象である。
【楽天ブックス】「社長の時間の使い方 儲かる会社にすぐ変わる!」

「奇跡の脳」ジル・ボルト・テイラー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
脳解剖学者である著者が、脳卒中を経験しそこから回復する過程を、その脳解剖学者という視点で振り返る。
脳卒中というと、どちらかというと不幸な病気と言う印象を持っていたが、本書で著者が描くその体験はむしろ恍惚とした幸福な体験として描かれている。母親のジジと辛抱強く協力して、脳卒中によって失った脳の機能を回復していく様子に、脳の未知の力を感じてしまう。また、合わせて思うように話したり行動できない脳卒中患者に対する考え方も改めてくれる。
後半はやや宗教的とも聞こえるような、著者の脳卒中体験が基になった感覚的な説明だったため理解しにくいと感じたが、全体としては脳卒中や脳に対して興味を抱かせてくれた。
【楽天ブックス】「奇跡の脳」

「やがて、警官は微睡る」日明恩

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
横浜のホテルが犯人グループに占拠された。偶然居合わせた武本(たけもと)は状況を打開しようと、ホテルマン西島(にしじま)とともに行動を起こす。
「それでも警官は微笑う」シリーズの第3弾である。強面だが職務に忠実な武本(たけもと)と、饒舌だが切れ者のキャリア潮崎(しおざき)を中心に展開されるシリーズである。本作品はホテルの占拠と言うややシリーズの他の作品と比較すると派手な幕開けである。犯人グループの一人から手に入れた無線によって武本(たけもと)は潮崎(しおざき)と交信することになる。
犯人も無線を聞いているはず、という前提の中で武本(たけもと)に意思を伝えようと、潮崎(しおざき)はその饒舌さからくる世間話のなかに様々な情報を差し込んでいくのである。
そんな事件の渦中にありながらも、警察という組織の中で迅速な行動をできずにいる潮崎(しおざき)と同僚のやりとりが面白い。正義を全うしようとする警察間同士でも、それぞれ信じる方法は異なり、それが大きな組織の機能を弱めてしまうのである。そんなシリーズに共通して潮崎が持つ葛藤もまた物語の見所のひとつである。

技術はどんどん向上し、その恩恵に国民は積極的に与っている。同時に、技術の進歩に応じた、今までにはなかった犯罪も起こっている。そんな中、警察は取り残されつつある。その遅れをマンパワーと、団結力で補っている。それがこの国の現状だ。

全体的には日明恩らしさが所々に感じられつつも、事件自体を派手にしすぎたせいか、人間関係などの人と人との感情や世の中のシステムに対するやるせなさのようなものが他の作品と比較すると少なかった点が残念である。本作品の終わり方はまだまだ続編がありそうな雰囲気なので次回作に期待したい。
【楽天ブックス】「やがて、警官は微睡る」

「日暮らし」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
本所深川の同心平四郎(へいしろう)と甥っ子弓之助(ゆみのすけ)の繰り広げる物語。
序盤は平四郎(へいしろう)が弓之助(ゆみのすけ)やその友人のおでこの助けを借りながら諍いを解決していく。そんななかで次第に江戸の時代の人々の暮らしが見えてくる。
写真や動画という技術のなかった江戸のような時代の人々の生活を僕らはなかなか想像することができないが、本書はそんな生活を本当に現実味を帯びた形で見せてくる。生きている中で人間関係に悩み、将来に悩み、恋に悩むのはいつの時代も変わらないのだろう。
そして、そんな遠い時代のことを弓之助(ゆみのすけ)やおでこといった愛される登場人物を作り上げて、面白おかしく見せてくれるのは、やはり著者宮部みゆきの技術あってのことだろう。
【楽天ブックス】「日暮らし(上)」「日暮らし(中)」「日暮らし(下)」

「握る男」原宏一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
金森信二(かなもりしんじ)は生きていくために寿司職人になることを決意する。しかしそこで出会った年下の男ゲソこと徳武光一郎(とくたけこういちろう)はその才能と努力で彼を一気に追い抜きのし上がっていく。
序盤は寿司職人たちの厳しい生き方が描かれているが、同時に懐かしい昭和の時代を感じる事が出来る。その寿司屋が両国に位置する事から、1985年に現在の場所に両国国技館が完成した事で大きく変わっていくのである。
前半はそんななかで兄弟子の嫉妬やいろいろな人間関係のなかで努力する金森(かなもり)と、次第に頭角を現していくゲソの姿が描かれている。
後半では金森(かなもり)とゲソは社長とその右腕となってバブル時代をのし上がっていくのである。時に過剰ともおもえるゲソの行動や決断は一体どこへ向かっていくのか。
正直もう少し寿司職人の人生に迫った物を期待したのだが、どちらかというと寿司はただ物語に軽く味を添える素材の一つでしかなく、若い2人の成り上がり物語となっている。
タイトルから想像した内容とは若干異なるが、時代背景を反映しているのでそれなりに楽しむ事が出来るだろう。
【楽天ブックス】「握る男」

「最後の証人」柚木裕子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「検事の本懐」に登場する元検察官の佐方貞人(さかたさだと)を扱った物語。本作品では息子を交通事故で失ったにも関わらず、加害者の権力者が、何の罰を受けない事に復讐を誓った夫婦の事件を担当する。
佐方(さかた)が裁判に向かう様子と、時間を数ヶ月前に遡って息子の復讐をしようと計画する夫婦の様子が交互に描かれる。終盤に向かうにつれてその二つの物語が一つに重なっていく。復讐を誓った夫婦が何らかの事件を起こしたのだろうがその詳細が裁判が始まるまで伏せられている点が面白い。
復讐は成功したのか、裁判の被告人は誰で佐方(さかた)は誰の弁護をしているのか。そして、裁判の行方を左右する最後の証人とは一体誰なのか。予想を越える展開だけでなく、正義感の強い佐方(さかた)の、胸に響く言葉は本作品でも健在である。

誰でも過ちは犯す。しかし、一度ならば過ちだが、二度は違う。二度目に犯した過ちはその人間の生き方だ

著者柚木裕子は今個人的に注目している作家である。佐方(さかた)弁護士を扱った作品だけでなく、今後の作品すべてが楽しみである。
【楽天ブックス】「最後の証人」

「デパートへ行こう!」真保裕一

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
いつから「デパート」という言葉を耳にしなくなったのだろう。いつから「デパート」という言葉は古くさい響きを持つようになったのだろう。本書の登場人物の一人である加治川(かじかわ)も幼い頃のデパートの思い出を持つ一人。大人になった今娘をデパートに誘うが、「ダサい」と一蹴され、それでも良き日の思い出を捨てきれずに深夜のデパートにやって来たのである。同じように複雑な事情を抱えた人々がデパートに集ってひと騒動繰り広げるのである。
かつては街を見下ろせたデパートの屋上は、いつのまにかオフィスビルに見下ろされるようになり、自殺を防止のためにフェンスが張り巡らされて眺めを楽しめる場所ではなくなった。物語中に散りばめられているそんな現代のデパート事情が興味深い。
物語としては登場人物が多いのとめまぐるしく変わる視点や舞台にやや追いつかない部分もあったが雰囲気が楽しむ分には問題ないだろう。喜劇として作られているとはいえやや作られすぎたエピソードや人間関係に抵抗を感じた。それでも幼い頃両親や友人と行ったデパートにもう一度足を運びたいと思わせる内容である。
【楽天ブックス】「デパートへ行こう!」

「水底フェスタ」辻村深月

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
村から出た芸能人、織場由貴美(おりばゆきみ)が戻ってきた。小さな村ではうわさばなしが人々の娯楽であり、広海(ひろみ)もまたそんな村で生きている一人だった。
小さな村という小さなコミュニティで生きる人々を描いた物語。村から出て行かないかぎり何においても選択肢の少ない場所。そんな場所だから、東京へ出て行って芸能人になった女性織場由貴美(おりばゆきみ)が戻ってきた事が少しずつ周囲に影響を与えていくのである。

彼女について声を荒げる人々は、皆、結局彼女を無視できない。身近だった彼女の存在に寄って浮き彫りになってしまう自分自身の矮小さを持て余し、だからこそ過剰に自分を防衛しようとしてあがいて、攻撃するのだ。

彼女の目的は何なのか、広海(ひろみ)の知らないところで、村には何が起こっているのか、少しずつ開けてくる現実に苦しむ広海(ひろみ)と小さな村が抱える問題点が描かれている。
小さな村に住んだ事がないのでこの物語がどれほど現実的に描かれているのだかわからないが、著者辻村深月の長所はむしろ人々の抱える複雑な感情の表現であり、それを期待したのだが、残念ながら期待には沿う内容ではなかった。
【楽天ブックス】「水底フェスタ」

「鋼鉄の叫び」鈴木光司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
テレビ局に勤める雪島忠信(ゆきしまただのぶ)は父親からの影響で戦時中の特攻についての番組を思い立つ。そこに、特攻を直前で辞めて生き延びた人がいるという不確かな情報を得る。生の声を聞くためにその人間を探そうとする。
本書のなかでも語られているが、戦争を経験した人の多くが他界し、戦争の生の声を聞けるのもあと数年なのだろう。きっとその後は戦争に対する関心も一気に薄れていくのだ。本書はそんな戦争における、日本のとった特攻という悲劇の作戦について読者に示してくれる一冊である。
忠信(ただのぶ)は戦争を体験している父親から一度戦時中の父親の体験を聞かされた事があり、それゆえに特攻という出来事へ執着する。そして、そんな忠信(ただのぶ)が得た特攻の生存者の情報。忠信(ただのぶ)はその情報の真偽を確かめるため奔走するのである。
一方で忠信(ただのぶ)の父親和広(かずひろ)の戦時中の体験も描かれる。そのつらい体験と、病気療養中に海軍病院で出会いその後特攻で亡くなった上官峰岸(みねぎし)の話。
そんな忠信(ただのぶ)とその父親のつながりをもって、戦争を遠い昔の出来事ではなく、世代を超えて現代に繋がる悲劇として巧みに伝えてくれる。
2,3年前に同じく特攻を描いて話題になった「永遠の0」といくつか共通する部分があるが、本作もまた鈴木光司らしく緻密に考え抜かれた深く感動的な作品に仕上がっている。
【楽天ブックス】「鋼鉄の叫び」

「人生教習所」垣根涼介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
両親の勧めで人生再生セミナーに参加することになった東大生の浅川太郎(あさかわたろう)。会場である小笠原に向かうフェリーにそれぞれの参加者がぞれぞれの想いを抱えて集う。
3人の人生に悩む参加者に焦点があてられている浅川太郎(あさかわたろう)と、ヤクザとしての人生に疲れきった柏木真一(かしわぎしんいち)、自分の容姿に自信がないライターの森川由香(もりかわゆか)である。それぞれが出会った当初はそれぞれを蔑んだり敬遠したりしながらも、セミナーを通じてともに過ごす事に寄って少しずつ打ち解けていく。
著者が本書をもって何を訴えたいのかはわからないば、個人的に印象に残ったのはむしろ、そんな登場人物たちのエピソードではなく、舞台である小笠原の人々の経験談である。セミナー中に、戦時中の人々に当初の経験を話してもらうのだが、そこではアメリカから日本になった小笠原という場所に生きた人々の苦悩が見て取れる。彼らにとってはどこか遠くの地で決められたどうしようもないこと。その決定によって兄妹や友人とは離ればなれになってしまうだけでなく、日々使用する言葉までも変えなければならないのだ。

それまで学校に上がっていた星条旗がするすると降ろされると、代わりに日章旗が揚げられました。そしれそれまでハワイから来ていた先生に代わり、日本の本土から来た先生が日本語で言いました。
みなさん、おめでとう。『返還』により、小笠原は『日本』になりました。
アメリカ人が支配していた頃は、よかったなあ。物資が豊富でなんでもかんでもグアムから運んでくれた。

このような問題を語る時、人々の頭に浮かぶのは沖縄なのではないだろうか。小笠原という場所の歴史に興味を向けさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「人生教習所」

「私の男」桜庭一樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第138回直木賞受賞作品。
婚約者と結婚することになった花(はな)。長年一緒に過ごしてきた養父の淳悟(じゅんご)ともこれからは別々に生活する事になる。そんな微妙な親子の関係を描く。
序盤は花(はな)の、社会人であるにも関わらず、若すぎる父親淳悟(じゅんご)との親密な関係が同僚たちの目から描かれる。そして、物語が進むに従って2人の持つ過去が少しずつ明らかになっていくのである。
個人的にはあまり印象的といえる箇所はなかった。というのも親子の禁断の関係というのは、昨今ではあまりにもそこらじゅうで使われており、特に新しさを感じないのである。
むしろ花(はな)が奥尻島の震災孤児という設定なので、その2年後に起こった阪神大震災によって、人々の記憶から薄れてしまった災害について再び目を向けさせてくれた点が印象的である。
【楽天ブックス】「私の男」

「歓喜の仔」天童荒太

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
借金を抱えて父親がいなくなった。母は二階から飛び降りて寝たきりになった。誠は犯罪に手を染めながらも、中学生の正二(しょうじ)、小学生の香(かおり)とともに植物状態の母を介護しながら生きていく。
3人は借金を返すために暴力団から与えられた仕事をこなしつづける。自らを英雄化した幻想にのめりこむことで現実を耐えようとする誠(まこと)の心が痛々しい。正二(しょうじ)はその家庭環境故に学校で孤立しつづける。色彩を失ったような毎日を淡々とこたしつづける兄妹の様子を、物語時代も淡々と描き続ける。そんななか、死んだ人が見えるという香(かおり)の存在が物語に彩りをそえている。
上下二冊にわたって、そんな希望もない日々を淡々と描いているため、とても読んでて面白いとは言えないが、それはそれでその不毛な日々をしっかり描写しているともいえるのかもしれない。「歓喜の仔」というタイトルから、天童荒太の出世作「永遠の仔」との物語的なつながりを期待したが、残念ながらそれらしい箇所は見られなかった。
【楽天ブックス】「歓喜の仔(上)」「歓喜の仔(下)」

「勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
不況の世の中で多くの会社が人員削減に努める。そんな人員削減を請け負う会社に勤める真介(しんすけ)の仕事を通じて、多くの人の人生の転機に触れる事が出来る。
「君たちに明日はない」シリーズの第4弾である。今回も真介(しんすけ)がその仕事のなかで、3つの企業の従業員を面接する。最初の物語では経営破綻に陥った航空会社でCAの面接を真介(しんすけ)が担当する。これまでの物語と違うのは、普段は退職を勧めるのに対して、今回は予定以上に退職希望者が出てしまったために慰留を勧める点だろう。毎週のように合コンを繰り返すCA。多くの日本人女性が憧れるCAという職業の様々な問題点が見えてくるだろう。
印象的だったのは、3つめの物語「永遠のディーバ」。かつでは音楽に情熱を注いでいたため、その延長で楽器を扱う会社に就職し管理職を努める男飯塚(いいづか)の物語。真介(しんすけ)は飯塚に退職を勧めながらも、その夢と仕事を割り切る事のできない生き方に苛立つ。一方飯塚(いいづか)は真介(しんすけ)の言葉をきっかけに改めて自分の生き方を考え始める。そこで描かれるのは、好きな物と努力と才能。どんな才能にめぐまれた人でも、世界一でなければいつかは味わう、自分より優れた才能にであったときの絶望。人は夢と才能と仕事と、どうやって生きていくべきなのか。そんなことを考えさせてくれる内容である。

結局は、気持ちなんです。次々と見せつけられる実力の差やセンスの壁に、それでも挫けずにその行為をやり続けるに値する、自分の中の必然です。その必然に支えられた情熱こそが、絶え間なく技術を支え、センスを磨き、実力を蓄えてくれる。

もちろんほかの2つの物語も深さをもっているが、この3つめの物語はもう一度読み返したくなるほど印象的だった。

将来は、確かに大事だ。でも、だからと言って、その将来のために今のすべてを犠牲にするなんて馬鹿げている。何故なら、どんな年齢になっても、死ぬ寸前まで常に将来はあるからだ。その将来の備えのために、常に犠牲となっていく今という時間。

【楽天ブックス】「勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4」

「約束の地」樋口明雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大藪春彦賞受賞作品。
環境省の七倉航(ななくらわたる)は娘とともに八ヶ岳に赴任してきた。そこでは様々な人々が自然と関わって生きていた。
都会の文化のなかで育った七倉(ななくら)が次第に自然と向き合い、いくつもの苦難を経て、次第に引き込まれていく様子が描かれている。そんななかで今の日本が抱える自然保護の問題が見えてくる。後継者のいない猟師。密猟や乱獲による野生動物の減少。飢えて人里に降りてくる野生動物と人間のトラブルなど、いずれも都会に住んでいては意識しないことばかりではあるが、人々がもっと目を向けるべきことなのだろう。

人はむかし、山の動物と棲み分けをしていた。多少の干渉はあったにしろ、基本的には互いの生活圏を侵害しないという不文率を守り、それぞれが暮らしていた。そんなルールを一方的な都合で破棄し、山や動物をさながら所有物のように好き勝手に蹂躙し始めたのは人間なのである。自然がそんな人間を赦すはずがない。

本書ではそんな長年の人間の行いに対する自然の怒りの象徴のように、い「稲妻」と呼ばれるツキノワグマと「三本足」と呼ばれるイノシシが登場する。彼らの生き様、人間に対する振る舞いには感銘を受ける部分がある。自然に対する人間のありかたに目を向けさせてくれる作品。
【楽天ブックス】「約束の地(上)」「約束の地(下)」

「エス」鈴木光司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ネット上にある人物の自殺する様子を撮影した動画がアップロードされていた。プロダクションで働く孝則(たかのり)はその真相を探ろうとする。
「リング」シリーズの鈴木光司が久しぶりにあたらしいホラー小説を描いたのか、とあまり期待せずに読み始めたの。四人の少女を連続して誘拐して殺人した殺人鬼のその動機はなんだったのか。序盤はすこし謎めいた殺人事件にしか見えなかった物が、読み進めるに従って読者は「リング」と無関係ではない事に気づくだろう。
孝則(たかのり)はその自殺映像を託されてその謎を解明しようとする一方で、婚約者である、丸山茜(まるやまあかね)が最近見知らぬ人につけられていると訴える。幼いころに事件に巻き込まれた経験のある茜(あかね)にとっては無視できない出来事なのである。
そうした複数の不思議な出来事がやがて一本の流れへと繋がっていくのである。「リング」シリーズで、「ループ」を読んだときの驚きがここにもあった。かつての人気歌手や人気漫画かが、過去の人気作品にこだわりすぎると見苦しさを感じてしまうが、ここまで見事に過去の名作を蘇らせてくれると、そのすごさに感心してしまう。
まだまだ続編がありそうな内容。生き返った「リング」はどこへいくのか、今後の展開が楽しみである。
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「阪急電車」有川浩

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
関西圏の私鉄グループ阪急の路線の今津線で繰り広げられる人々のドラマを描く。
阪急電車はドラマを描く舞台を電車や駅に限定しただけにすぎない。電車のなかには通勤、通学など、送り迎えなど様々なドラマが繰り広げられる。本書が描くのはそんななかでも強く生きようとしている女性たちに焦点をあてているように感じる。
本書が扱う10人ほどの女性のなかでも特に印象的なのは、婚約者を同僚に奪われてその相手の結婚式に復讐を決意して参加する翔子(しょうこ)の生き方であるが、そのほかにも女子高生悦子(えつこ)と年上の馬鹿な彼氏の話や、ランドセルを背負った誇り高き少女の話など、魅力的な登場人物があふれている。
ローカル線ののんびりとした雰囲気を、強い女性たちの信念で味付した見事な一冊。
【楽天ブックス】「阪急電車」