オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元日本代表監督のイビチャ・オシムが南アフリカワールドカップの日本代表を振り返る。
日本は南アフリカワールドカップの予選リーグでカメルーン、オランダ、デンマークと戦い、最終的に決勝トーナメント1回戦でパラグアイに破れて大会を後にした。今まで多くの雑誌やメディア、テレビ番組でこの4試合について語られてきたが、やはり経験豊かな監督の目線は異なる。負けた試合はもちろん、勝った試合についても良くなかった点や改善方法を示してくれる。
オシムに言わせると、パラグアイは決勝トーナメントに残った16チームのなかでもっとも勝ちやすい相手だったという。前回大会のトルコと動揺、相手にめぐまれたにも関わらずベスト8に進めなかった事を嘆く。孤立してしまった本田をどうすれば機能させることができたのか。選手の間に「引き分けでもいい」という考えがあったのではないか、などである。
そして日本代表だけでなくその他の印象に残ったチームや選手についても語っている。スペイン、オランダはもちろん、予想外に終わったブラジルやイタリア。すばらしい活躍をしたウルグアイのフォルランなどである。本書を読むと改めて、オシムの視点で試合を見直したくなる。
また、サッカー界の流れについても語る。スペインの優勝がサッカー界にもたらすもの。モウリーニョ主義への懸念、日本サッカーの向かうべき方向など、本書によってまたサッカーが1つ深く見れるようになるのではないだろうか。
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カテゴリー: 和書
「宮本武蔵(一)」吉川英治
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
もはや説明するまでもないが、数ある宮本武蔵の小説のなかでも人気の吉川英治の作品。すでに本書を原作とする井上雄彦のマンガ「バガボンド」の方が有名である事もあり、わざわざ小説を読もうと思い立つこともなかったが、おそらく日本の小説ベスト100のようなものを作れば間違いなく入ってくるだろうシリーズ。これを機会にと最初の1冊を手に取った。
本書では武蔵(たけぞう)が又八とともに関ヶ原に赴き、やがて追われる身となり、その後、沢庵和尚によって更生し再び修行の旅に出て奈良宝蔵院に訪れるまでを描いている。
すでにマンガで読んでいる内容ではあるが、マンガと違って小説は心情描写が伝わりやすく、特に沢庵和尚と武蔵(たけぞう)のやり取りの部分は涙を誘う。
続きが楽しみだ。
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「ストレスフリーの仕事術」デビッド・アレン
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ストレスを軽減させる仕事の進め方についておそらく本書に限らずさまざまな方法がいろんな人によって編み出されていると思うが、著者が紹介しているのは、自分が今抱えているプロジェクトをすべて書き出すという方法である。そしてなるべく1つ1つを具体的に書くというもの。細かい物まで含めると大抵の人が1日に100から200のプロジェクトを抱えているというから驚きである。
確かに僕の周囲にも仕事の進め方が非効率だと思う人は多々見かける。そんな人が読んだらひょっとしたら気づく事があるかもしれない。ただ、翻訳のせいかお世辞にも面白いとは言えない。読みにくいわけではないのだが、どこか頭を素通りしてしまうような印象があり、内容もかなり冗長に思える箇所が多かった。
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「世界はひとつの教室」サイマル・カーン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ここ数年話題になっているカーン・アカデミーの創始者である著者サイマル・カーン氏がその設立までの経緯と現在の教育に関する考え方を語る。
カーン・アカデミーは、著者がいとこの教育のためにアップしたYouTubeの動画が多くの人に視聴されことから始まる。そのエピソードについてはいろんな雑誌やメディアで取り上げられているから聞いた事がある人も多いだろう。本書ではそんなきっかけを経て大きくなっていく過程でカーン・アカデミーに起こったことや著者が感じたことを書いている。
カーン氏によると、どうやら教育というのはもう100年以上も現在のスタイルで続いているのだそうだ。それは1人の教師が語り、数十名の生徒が聞くというスタイルである。カーン氏が主張するのは、世の中の変化にあわせて、いろいろなものが改善され進歩していく中で、教育も同様に発展していくべきだということである。
今の教育スタイルでは早く理解した人は先に進む事を許されずただ退屈な時間を過ごし、理解が遅い人は授業のスピードについていけずに落伍者となるのである。また、カーン氏は現在の理解度をはかるテストについても疑問を投げかけている。例えば80点や90点で合格とするテストがあるが、それはつまり1割、2割を理解していないということで、そのまま次に進んでしまうのは大きな問題だという。
そして後半では、若い生徒たちだけでなく、社会人となってからの教育についても触れている。一生学び続けることの重要性かそのための環境づくりなど、いろいろ考えさせられることが多いだろう。
授業料が払えない学生やいじめ問題など、教育が注目を集める中、カーン氏の世の中の教育を少しでも良くしようという気持ちが伝わってくる。自分でも何か世の中に役立つことを始めたくさせてくれる一冊。
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「3時間台で完走するマラソン まずはウォーキングから」金哲彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
マラソンを走る上での準備や考え方について語る。
今年3回目のフルマラソン挑戦を決意し、何か新しいヒントが得られることを望んで本書を手に取った。著者は他にも数多くのマラソン関連書籍を出している金哲彦氏である。
腹式呼吸や胸式呼吸、有酸素運動や無酸素運動などの運動や筋肉に関する基本的な内容から、ペース走、ウインドスプリントなどマラソンを走る上で有効な練習方法について解説している。また、フルマラソンを走るための練習だけでなく、ダイエット目的の体重を落とすための正しい方法についても説明しているので、マラソンを日常的に行うすべての人に役立つ内容なのではないだろうか。
印象的なのは著者が走る事と同じくらい重要なこととして、生活習慣の改善を強調していることだろう。食生活、入浴、ストレッチなど生活を少しずつ改善する事でマラソンだけでなく、生活にハリが出てくるというのだ。
正しいフォームや怪我のケアなど、本書によってマラソンに関する新しい知識をまたいくつか得る事ができた。出来る範囲で反映していこうと思う。
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「旅が仕事 通訳ガイドの異文化ウォッチング」志緒野マリ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
18年のガイドの経験を持つ著者が、その仕事のなかで知った文化の違いや経験について語る。
通訳ガイドという資格について興味を持っていたため、その現場の様子を知りたくて本書を手に取った。もう20年近く前に書かれているためにおそらく現在の状況とは違う部分もあるだろうが、ガイドとして外国の人と触れ合う機会の多い著者が描く内容はどれも面白い。
海外旅行に何度か行った事がある人ならわかるだろうが、日本人の几帳面さは世界でも最高レベルである。だからこそガイドは日本人の害外旅行を案内する際と、外国人が日本を旅行する際の案内のしかたを大きく変えなければならない。また、各国の宗教による制約も常に意識しなければいけないことなど、知識として持ってはいても実際の経験者が語るとまた違って聞こえてくる。
広く視野を持つために様々な文化に触れることは重要なのだろう。改めてそんなことを感じさせてくれる一冊である。
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「ウルトラマラソン マン」ディーン・カーナゼス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
46時間で320km走り抜いた経験を持つ著者が、学生時代のマラソンの経験や、社会人になって再びマラソンにのめり込み、その中で経験したレースや生活について語る。
著者はいくつものマラソンレースに参加しているがなかでもウェスタンステーツ100、バッドウォーターウルトラマラソン、南極マラソンは面白い。僕らはマラソンというとせいぜい42kmの距離でしか考えないが、本書で語られるマラソンを知るとフルマラソンが可愛く思えてくる。距離が長いだけでなく標高差の激しいマラソンは、場所に寄っては冬のように寒くも夏のように暑くもなるのである。
バッドウォーターでは、高い気温で熱せられたアスファルトによってシューズが溶けてしまうというから驚きである。また、南極マラソンでは下手をすると気管支が凍ってしまうというのだから、そんな環境でマラソンをしようとすることがどれほどの挑戦か想像できるだろう。
きっと多くの人から変人扱いされているのだろうが、著者の人生はものすごい充実感あふれるものに違いない。
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「タイド」鈴木光司
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
予備校の数学教師の柏田誠二(かしわだせいじ)は生徒から不思議な話を聞かされる。その内容から柏田(かしわだ)はリングの世界へと導かれていく。
時間が経ってしまって前後関係がわかりにくいかもしれないが、本作品は「ループ」の物語の最後で、リングの世界へと送り込まれた二見馨(ふたみかおる)のその後を描いている。リングウィルスを撲滅するために送り込まれて、柏木(かしわぎ)という人格で生きているが、リングウィルスはすでに沈静化し生きる事の意義を失っていた柏木(かしわぎ)。そんな時、生徒の一人から不思議な話を聞かされるのである。
実は「エス」を先に読んでしまったために、「エス」に続く物語だと予想して読み始めたのだが実際には「エス」の前の物語のようだ。残念ながらこれまでの「リング」「らせん」「ループ」を読んでいない人にな意味の分からない部分が多いだろう。むしろ著者のなかにある1つの世界を矛盾のないものにするために書かれたという印象さえ受けた。
リングワールドをこれからも楽しみたいという人以外は読むべき本ではないだろう。
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「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」石持浅海
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
横浜の女子校に通う上杉小春(うえすぎこはる)は碓氷優佳(うすいゆか)と同じクラスになる。一緒に学生生活を送る中で少しずつ優佳(ゆか)の能力に魅了されていく。
石持浅海の作品に触れている人ならばすぐに気づく事だろう。本書は「扉は閉ざされたまま」「君の望む死に方」「彼女が追ってくる」で見事な推理で活躍した碓氷優佳(うすいゆか)の高校時代を描いてている。物語の目線を上杉小春(うえすぎこはる)という普通の女子高生に据えることで、碓氷優佳(うすいゆか)のどこか不思議な空気を演出している。
受験、恋愛、夢など、女子高生の生活のなかで起きる出来事の中で碓氷優佳(うすいゆか)がその洞察力を見せて物事を解決していく。石持浅海ファン、というか碓氷優佳(うすいゆか)ファンには読み逃せない作品だろう。
舞台が女子校ということで、あまり緊迫感のある推理にならないのが残念な部分。また、本書だけを楽しもうと思っている人にはあまり進めない。あくまでも他の碓氷優佳(うすいゆか)登場作品とあわせて1つの世界を楽しむのがいいだろう。
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「ユリゴコロ」沼田まほかる
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5亮介(りょうすけ)が母を事故でなくした後、一人暮らしの父親の家の押し入れで不思議なノートを見つける。それは過去の殺人を告白したものだった。
過去の記憶のなかで、幼いある日を境に、母親が別の人間になった記憶を持っている。亮介(りょうすけ)が見つけたノートはそんな記憶を呼び起こすのである。この不思議なノートと不思議な記憶は、読者を物語に引き込むのには十分であろう。しかし、沼田まほかるの描く世界はどこか一般のミステリーとは異なる。スピード感や面白さよりも、じわじわ染み込んでくる寂寥感、孤独感などを大切にしているようだ。
本書も体裁こそ亡くなった母親の真実の姿を探す、という形をとっているが、過程やその結末には著者の独特な世界観が伺える。好みの別れる部分かもしれないし、読む人の人生の立ち位置によって大きく受け取り方の異なる部分なのではないだろうか。
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「踊りませんか? 社交ダンスの世界」浅野素女
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
パリに移り住んで社交ダンスの魅力に取り憑かれた著者が、それぞれのダンスの起源や魅力について語る。
冒頭で語られていることではあるが、著者は別に社交ダンスの先生でも技術の優れたダンサーでもない。多くの人と同じように社交ダンスが好きな一人の女性である。本書には技術的なことはほとんど書かれていないのである。むしろだからこそ社交ダンスの本としては珍しいかもしれない。
僕自身社交ダンスをここ3年ほど楽しんではいるが、考えてみると10ダンスと言われるモダン5種目(ワルツ、タンゴ、スローフォックストロット、ヴェニーズワルツ、クイックステップ)、ラテン5種目(ルンバ、チャチャチャ、サンバ、ジャイブ、パソドブレ)がどうやって生まれてどのように今の形になったのかまったく知らなかったのである。
例えば社交ダンスのなかでおそらく最初に習い、もっとも時間をかけて練習するだろうワルツについてさえも、きっと発祥はヨーロッパだろうと思いながらも正確なところは知らなかったのだ。本書が語るのはまさにそんな部分。どうやらワルツは多くの歴史を乗り越えて今の形になっていったのだという。
それぞれのダンスについて語る中で、著者のダンスについての考え方も見えてくる。
きっと本書を読む事でそれぞれのダンスにさらに深い姿勢で臨む事ができるようになるだろう。社交ダンスをしたことがなくて本書を読んだ人は社交ダンスを始めたくなるかもしれない。
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「聞く笑う、ツナグ。」高島彩
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元フジテレビアナウンサーの高島彩が過去の経験や仕事や生活のなかで意識している事を語る。
別に高島彩のファンでもないのだが、彼女の好感度が高い事は普通に知っていた。そんな彼女がどのように考えて生きているのかちょっと興味を持って手に取ってみた。
アナウンサーを志望したきっかけや、新人時代の苦労、印象に残ったできごとについて語っている。主役ではなく、タレントや役者を引き立たせるべき存在であるがゆえの心構えが見えてくる。彼女の考え方は、一般の人にとっても普段の良好な人間関係の構築に役立つのではないだろうか。
個人的に印象的だったのは、初対面の際はベージュの服を着るという考え方。自らを主張するのではなく誰もが緊張する初対面の場を少しでも和ませようとするその意識はちょっと見習うべき事なのかもしれない。
予想した通りタレント本ということで濃密な内容というわけではないが、短時間で程よい読後感を与えてくれる。
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「巨鯨の海」伊東潤
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
紀伊半島にある太地(たいじ)。そこは江戸から明治にかけて捕鯨が盛んに行われていた。そんな時代に生きた人々を描く。
有名な「白鯨」にあるように捕鯨という文化が世界に存在していたことは知っていても、日本で捕鯨によって栄えた町がある事は知らなかった。本書はそんな人々の様子を数編に分けて描いている。厳しい規則や鯨漁に献身する人々への保障など、生死をかけた仕事ゆえに形成される社会制度が見えてくる。
そうして数編にわたって当時の捕鯨の様子を読むうちに、自分がどれほどこの時代のの日本について知らないかが見えてくる。実際江戸や東京で起こった事はいろんな書物で見る機会があるが、なかなか地方の町の歴史について知る機会はないのである。また、舟の動力のように、僕らが現在その存在を当然のこととして受け入れている物がないことによって生じる当時の人々の苦労は想像できない。
物語の最後を締めくくる「大背美流れ」は実際に起こった出来事で、太地(たいじ)の捕鯨を衰退させるきっかけにもなったのだという。
まだまだ知らない事がたくさんあることを認識させてくれる一冊。国内の文化や歴史にももっと目を向けていきたいと思った。
【楽天ブックス】「巨鯨の海」
「職業は武装解除」瀬谷ルミ子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者は紛争地帯で平和のために武装解除の手助けをしている。本書ではそのきっかけと、これまでの仕事の内容やそこで直面する問題について語っている。
そもそも「武装解除」がなぜ職業になるのか、武装解除になぜ手助けが必要か、普通の生活をしている人にはその部分がわからないのではないだろうか。
紛争地帯だった場所では紛争が終わっても、長い間武装して戦争をしていた人たちは働くための知識や技術を持たないため生きる術がない。しかし手元には相変わらず武器が残っているから、彼らは再び武器を手に取ろうとする。そういう人々が大勢いる限りその国はいつまでたっても平和にならないというのである。著者が職業として言う「武装解除」はそんな長年戦闘に明け暮れて教育も受けてない人々に、武器と引き換えに教育や援助を与え平和な社会に適応させることなのである。
著者は高校のときに見た報道写真を見たことをきっかけに、世界を飛び回るようになったのだ。ルワンダ、アフガニスタン、コートジボアール、シエラネオネなどアフリカを中心に活動しており、本書ではそんななかでの経験の一部を紹介しているのだが、もちろん生死の境で生きてきた人々を、裕福な国から訪れた女性が簡単に説得できるはずもなく、そこでは多くの問題が生じる。
要は、若造の私には、彼らの問題を解決するスキルが何もなかったのだ。好奇心だけで人々の心のなかを土足で踏み荒らした挙げ句、「良いことをした」と自己満足して帰国しようとしていた。
皆が手を取り合って仲良しでなくても、殺し合わずに共存できている状態であれば、それもひとつの「平和」の形であり得る。
犯罪に問われる恐れがあるのに武装解除や和平に応じるお人好しはいない。和平合意の際は、武装勢力が武器を手放して兵士を辞めることと引き換えに無罪にすると明記される。平和とは、時に残酷なトレードオフのうえで成り立っている。
日本は、原爆まで落とされて、ボロボロになったんだろう?なのに、今は世界有数の経済大国で、この国にも日本車が溢れているし、高級な電化製品はすべて日本製だ。どうしたら、そうやって復興できるのか、教えてくれないか?
生死の危険に隣り合わせの場所で、著者の直面する現実や葛藤はどれも新鮮である。世界のありかただけでなく、著者の選んだ生き方と行動力に触れることで、自らの生き方まで見つめ直すきっかけになるだろう。
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「64」横山秀夫
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2012年このミステリーがすごい!国内編第1位作品。
未解決に終わった少女誘拐殺人事件。警察庁長官の遺族への訪問を前に刑事部、警務部に不穏な動きが起こり始める。
三上義信(みかみよしのぶ)は広報官という役職で、それは警察の花形である刑事とは異なりむしろ刑事から忌み嫌われる存在。元々は刑事として誘拐事件に関わった事もあり、刑事に戻りたいという想いを抱えながら広報官という仕事を努めている。そして、さらに娘のあゆみが行方をくらましているという家庭事情も抱えているのである。そんな厚い人物設定がすでに横山秀夫らしく期待させてくれる。
物語は警察庁長官がすでに14年もの間未解決状態にある少女誘拐殺人事件の遺族のもとを訪れるという、世間向けの警察アピールを意図する事から動き出す。どうやらその誘拐事件の影には隠蔽された警察の不手際があったらしいという事実が浮かんでくる。
隠蔽された事実を巡って、組織内の権力争いが激化する。刑事部と警務部、地方と東京、あらゆる側面で対立が起こり、利害を一致する者同士が一時的に協力し、そしてまた敵対する。また、広報官役割である故にマスコミ対策についても描かれる。報道協定や、各メディアのあり方についても考えさせられるだろう。
深く分厚い印象的な物語。世界のどこを切り取ってもその場所にはその場所の人の深いドラマがある。そう感じさせてくれる作品。
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「ホテルローヤル」桜木紫乃
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第149回直木賞受賞作品。
田舎町の寂れたラブホテル「ホテルローヤル」を描いた物語。ホテルの利用者や従業員、そこに出入りする業者など、時代を前後しながら人々の様子を描く。
最近こういう青春時代を過ぎてすでに生き甲斐もなくただ時を重ねるだけの疲れきった人々を描いた作品によく出会う気がする。残念ながら僕にはとくに印象に残る物はなかったが、直木賞受賞作品という事なので、ひょっとしたらもっと上の世代に読者には何か強く訴えるものがあるのかもしれない。
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「ケルベロスの肖像」海堂尊

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
東城大学病院に脅迫状が送られてきた。AIセンターのセンター長となった田口(たぐち)はその犯人を突き止める任務を与えられる。
「チーム・バチスタの栄光」に始まるシリーズの完結編である。「ブラックペアン1988」などの過去の物語や「螺鈿迷宮」などの東城大学病院以外の物語が絡み合って物語が完結に向かう。
シリーズの他の作品と同じように、本作品も物語のなかに現代の日本の医療の問題点が描かれている。司法解剖と遺体を傷つけないAIの有用性はシリーズを通して著者が訴え続けている事の1つであるが、本作品ではエピソード自体へ重みがかかっているように感じる。
過去の登場人物やエピソードが何度も言及されるので、残念ながら過去の作品に馴染みのない方にはあまり楽しめそうにない内容である。本作品がシリーズの完結編という事で、シリーズ通じて活躍した厚生労働省の役人白鳥(しらとり)やロジカルモンスター彦根(ひこね)の爽快な展開が見られなくなるのが残念である。
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「スリジエセンター1991」 海堂尊
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東城医大へ赴任した天才外科医天城雪彦(あまぎゆきひこ)は常識はずれな行動で注目を浴びる。それに対抗しようとする未来の病院長高階(たかしな)や佐伯(さえき)病院長など病院内の権力争いは熾烈をきわめていく。
「ブラックペアン1988」「ブレイズメス1990」に続くチームバチスタの10年以上前を描いた物語。「チームバチスタの栄光」など現代のシリーズの方を読んでいる読者は、高階(たかしな)は病院長になるはずだし、本書では生意気な新人の速水(はやみ)は天才外科医になるということを知っているから、きっと物語とあわせてその関連性を楽しむ事ができるだろう。
本書では高階(たかしな)、佐伯(さえき)、天城(あまぎ)など、それぞれの思惑で病院内の主導権を握ろうとする。ただ単純に多くの支持を集めるために医療のあるべき姿を語るだけでなく、それぞれが状況に応じて手を組んだり裏切ったりしながら地位を固めようとする様子が面白い。
医療はすべての人に平等であるべき、という高階(たかしな)や看護婦たちの語る内容も正しいと思うが、一方で天城(あまぎ)の主張するように、お金がなければ高い技術の医療は提供できないという意見にもうなずける。そこに正しい答えはないのだ。その時の世間の意識が医療の形を変えていくのだろう。
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「あなたが愛した記憶」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
幼い子供を殺害した曽根崎(そねざき)は周囲からの信頼も厚い男だった。彼の動機はなんだったのか。
実はこういう物語の始まり方には何度かであった事がある気がする。有名なところだと横山秀夫の「半落ち」もそのような内容ではなかっただろうか。本作品もきっと人には理解されない正義を物語を通じて描いていくのだろう、と思ったし、多くの読者もそう思うのではないだろうか。しかし、その予想は意外な方向に外れていく。
物語は最初の弁護士と曽根崎(そねざき)とのやり取りから一転、その後は曽根崎(そねざき)目線のおそらく数ヶ月前の物語になる。探偵業を営む曽根崎(そねざき)のもとに、自らを曽根崎の娘と名乗る女子高生民代(たみよ)が訪れるのだ。
同じ時期に女性を狙った連続強姦殺人事件が起きているが、どうやら民代(たみよ)はその犯人に心当たりがあるらしい。一体どうしてそれを知っているのか、そもそも女子高生のわりにやけに大人びた民代(たみよ)はどんな秘密を抱えているのか。
相変わらず誉田哲也の物語は読者を一気に引き込む力がある。久しぶりの一気読みの一冊。
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「だから御社のWebは二度と読む気がしない」戸田覚
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インターネットというものが人々の生活に入り込んですでに10年以上が経過している。印刷物と異なるのは企業が頻繁にサイト上の情報を更新できるというものだ。いつでも変更できるという意識があるからだろうか、多くの企業はウェブサイト上に書かれる文言には、印刷物に書かれる文言ほどコストも時間もかけていないのである。
本書は企業がサイト上の文言を考える上で注意するべきことを、大手企業サイトの悪例を参考にしながら語る。
個人的に現在のインターネット事情に感じることと著者の言う事がぴったりだったので興味深く読む事ができた。また、現場での作業に活かせそうな内容にもいくつか出会うことができた。
本書が発行されたのがすでに6年が経っているが、世の中にあふれるサイトは相変わらず読みにくいものばかりである。制作に関わる企業はもっとライティングの重要性を理解するべきなのだろう。
ライティングの重要性を語りながらも本書中にかなりの脱字があったことはやや気になったが特に内容に影響する物でもない。著者が行っているというライティングのセミナーも参加してみたくなった。
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