オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ポンペイウスと敵対したユリウス・カエサルがルビコン川を越える紀元前49年から、カエサルの暗殺の後の紀元前30年までを描く。
「ブルータス、お前もか」というセリフでカエサルがブルータスによって殺されるということを一般的な知識として持っている人は多いだろう。しかしカエサルやブルータスがどのような人物で、どのような経緯でそこに至ったかを知る人は少ないのではないだろうか。
本書を読み終わった時の率直な感想は、「カエサルは偉大な人間だった」ということである。先の時代を見る能力と、人を操る能力を見事に備えていて、それ故に戦いにも政治の能力にも長けていたのである。同時期の他の権力者と比較して抜きん出ているだけでなく、現代においてもこれほど能力のある人にはそうそう出会えるとは思えない。
本書で扱っているのはすべて紀元前の出来事である。僕らはなぜか、「紀元前」と聞くと大昔の印象を持つが、本書で描かれているローマの実情を見ると、すでに社会がある程度出来上がっていたことがわかる。「社会」という言葉は非常に曖昧だが、政治や裁判やコミュニティとするとわかりやすいかもしれない。ちなみに、現在の前の暦であるユリウス暦もカエサルの命によって作られ、その時代ですでに11分程度の誤差しかなく、ユリウス歴は1582年にグレゴリウス暦にとって変わられるまで1500年以上も使われたというから驚きである。
また、もう一人の誰もが聞いた事のある有名な人物としてクレオパトラも登場する。美人としては有名だが、彼女がどのような存在だったのか本書を読むまでまったく知らなかった。
このカエサルの時代はローマのもっとも面白い部分なのではないだろうか。カエサル自身が書いたという「ガリア戦記」もぜひ読んだみたい。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後(上)」、「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後(中)」、「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後(下)」
カテゴリー: 和書
「ビジョナリー・カンパニー(2)飛躍の法則」ジェームズ・C・コリンズ
オススメ度 ★★★★☆
前作「ビジョナリー・カンパニー」で取り上げられた企業の多くは最初から偉大だった。偉大な経営者に恵まれた、初期の段階で偉大な企業としての形を作り上げた。しかし、今偉大ではない企業が偉大になるためにはどうすればいいのか、本書はそんな問いに答えようとする。
第一弾の「ビジョナリー・カンパニー」はなかなかタイミングが合わなくてまだ読んでいない。それでもいろいろな本を読んでいるとこの「ビジョナリー・カンパニー(2)」こそ良書との声をよく聞くため、本書を先に読む事になった。冒頭にも書いた通り、本書は第一弾とは視点を変えて企業を分析している。つまり、偉大な企業ではなく、偉大になった企業を選別しその本質を分析していったのだ。
本書のなかで取り上げられている内容はどれも印象的だったが、なかでも第三章の「だれをバスにのせるか」の章は印象的であった。この章で言っているのは、偉大な企業は最初に人を選び、目的地は後から決める、というのである。個人的には偉大な企業というのは常に明確な目的地、つまりビジョンや哲学を持っていると思っていた。偉大になりきれない多くの企業は、才能豊かな人間がいても会社の向かい目的地がはっきりしていないせいでその能力を最大限に活かしきれていないのだと思っていた。しかし、本書では人の選択こそが重要で目的地はその選択した人との間で決めていけばいい、というのである。
また、もう一つの驚きとしては、良い企業として連想しがちな顧客重視や、品質重視の考え方などが、必ずしも偉大な企業になるためには必要ないとしている点である。
噂に違わぬ良書。もしこれから僕が起業に関わることがあるならぜひいろいろ参考にしたい。
【楽天ブックス】「ビジョナリー・カンパニー(2)飛躍の法則」
「アルゴリズムが世界を支配する」クリストファー・スタイナー
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アルゴリズムについて世の中の実例を交えて紹介する。
25年前証券取引所はディーラーで溢れ返っていた。ところが今では人はほとんどいない。コンピューター・プログラマーのピーターフィーが、プログラムを使って取引をすることを始めてからその方法は世界に広まり、今では世の中の多くの取引がコンピューターによって行われているのだ。
こんな冒頭の今日深い話に一気に引き込まれてしまった。僕らは確かにコンピューターがいろいろな事を行うのを受け入れている。しかし、どの程度のことまでがコンピューターにできて、どの程度の事から先が人間にしかできないのか、それを正確に把握しているだろうか。本書を読むとコンピューターの能力、(つまりアルゴリズム)の可能性を過小評価していたことに気付くだろう。
中盤ではコンピューターがクラシック音楽を作曲する話について触れている。今ではベートーベンやモーツァルトの曲のように人々を感動させる曲をコンピューターが作る事ができるのだという。そんなコンピュータの能力はもちろん興味深いが、むしろ面白いのは、人間はコンピュータが作った曲に感動するが、それはそれが「コンピューターが作った曲」だということを知らない場合なのだという。「これはコンピューターが作った曲」ということを知った途端に「何か情熱が感じられない」と言い出すのが面白い。
本書を読んで感じたのは、アルゴリズムにできないことはなくなるだろうが、アルゴリズムの社会への普及を阻んでいるのは技術ではなく、人々の意識なのだということだ。アルゴリズムやプログラムを深く理解することの必要性を感じた。
【楽天ブックス】「アルゴリズムが世界を支配する」
「いちばんやさしいアルゴリズムの本」みわよしこ
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
アルゴリズムについてやさしく解説している。
先日読んだ本「アルゴリズムが世界を支配する」で次のように書いてあった。今後アルゴリズムによってコンピューターが、今人間が行っている大部分の作業を行うようになるだろう、と。きっと今後はプログラム言語と同様にアルゴリズムが重要になってくるのだろう。その基礎を学びたいと思って本書を手に取った。
かなり優しく書こうとしている努力は見えるが、やさしいたとえ話のはずの箇所で妙に専門的な単語がでてきたり、それぞれの章によって想定の読者の知識が統一されていないような印象を受けた。誤字も目立ったので、もう少ししっかり改訂して欲しいと思った。
それでも最後の章にある著者のオススメのアルゴリズム関連本は、さらに深い知識を身につけたい人にとってはありがたい内容である。
【楽天ブックス】「いちばんやさしいアルゴリズムの本」
「三国志(二)」吉川英治
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
三国志の第二弾。董卓(とうたく)が権力を強めていく。
洛陽から長安へと董卓(とうたく)は移動する。王允(おういん)は美しい女性、貂蝉(ちょうせん)に命じて、董卓(とうたく)を討とうとする。
相変わらず人名の多さや、中国の地理に体する無知ゆえに物語にしっかり着いていってない感じもあるが、呂布(りょふ)、劉備(りゅうび)、曹操(そうそう)、孫策(そんさく)などそれぞれの個性が徐々に見えてくる。ようやく読み続けられるかも、と思えてきたが、きっと三国志の物語をしっかりと理解するには小説だけでなくマンガやゲームなど繰り返し触れる必要があるのだろう。
【楽天ブックス】「三国志(二)」
「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」ダニエル・ピンク
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
過去長い間、数学や物理などの左脳が得意とする技術が高く評価されてきた。しかしこれからは右脳の時代に向かっているという。そんな時代で生き抜くための方法やそのための能力を高める方法を著者が語る。
著者ダニエル・ピンクが言うには数学や物理や会計などの分野はコンピュータができるようになるか、またはインターネットの高速化も手伝って、インドや中国などの人件費が安い地域にアウトソースされ、先進国ではそれ以外の新たな能力が必要とされるという。今までのような左脳の能力に頼った生き方を抜け出さないと、新たな時代に適応できないというのである。
著者の言う、右脳が必要とされる能力とは、例えば、事実を印象的に伝える方法だったり、別分野の事柄を結びつけて新たなものを考え出す能力だったり、デザインだったりである。デザインに重みを置いている学校は成績が良いし、会社は業績がいい、などそれぞれその必要性を裏付ける物語とあわせて説明してくれるから興味深い。
新たな時代を生きるための「6つの慣性」を次のように表している。
特に最後の「モノ」よりも「生きがい」という点に関しては、自分自身だけでなく社会全体が物質主義の先へ移行していることを僕自身も感じていたので、印象的であった。それぞれにその能力を鍛える方法として誰にでもできそうな方法が紹介されている。またそれぞれの知識を深めるための良書にも触れられている点がありがたい。世界の見方が変わる一冊と言えるだろう。
【楽天ブックス】「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」
「三国志(一)」吉川英治
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の邪馬台国の時代。中国では後漢の霊帝の代。青年劉備(りゅうび)は関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)とともに世を救うために旅立つ。
物語としてはこれ以上ないというほどに有名な物語だが、これまで小説に限らずマンガ、アニメ、ゲーム含めて一切触れたことがなかった。それでも長く語り継がれる物語には相応の理由があるということで今回手に取った。
序盤は劉備(りゅうび)を中心としたよくある冒険物語といった印象を受けたが、その後の流れは単純な英雄伝説のようにはいかないらしく、物語の壮大さを感じさせる。
後半に入ると人名や地名などに着いていけない感じがしてきた。そもそも「三国志」の「三国」とは何を指すのかすら未だわかっていないが、頑張って読み進める事にする。
【楽天ブックス】「三国志(一)」
「アイデアのちから」チップ・ハース/ダン・ハース
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
重要でもないのに人々が何年も語り継ぐ都市伝説と、重要で広まって欲しいのにすぐに忘れ去られてしまう物語の違いは一体なんなのだろう。アイデアに普及力、影響力を与えるための方法を研究した著者がその内容を語る。
著者の説明によると力のあるアイデアは次の6つの要素を満たしているという。
頭文字をとるとSUCCESsとなる。本書ではそんな6原則について、例を交えながら説明する。アポロ計画の成功や「知の呪縛」など、有名な話もあれば、初めて聞いた話もあった。本書で説明されている内容を、本当に伝えたい話をするときは意識してとりいれてみるといいだろう。
【楽天ブックス】「アイデアのちから」
「サクラ咲く」辻村深月
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
学生たちの物語の3部作。
タイムマシンで未来からやってきた少年との友情。図書館の本のなかで行われる見知らぬ相手とのメッセージの交換。映画を作ろうとする映画同好会。どれも懐かしい教室のかおりが漂うような物語。辻村深月の他の作品のように、人間の感情を鋭く描き出すような描写は本作品にはなく、そのせいで物語自体に目新しさはないが、力を抜いた楽しめる青春小説に仕上がっている。
3つの物語が微妙に繋がっている点も読者を楽しませてくれるだろう。
【楽天ブックス】「サクラ咲く」
「魂を売らずに成功する 伝説のビジネス誌編集長が選んだ飛躍のルール52」アラン・M・ウェバー
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多くの起業家や偉大なリーダー達と話をした経験を持つ著者が、自分を偽らずに成功をする52のルールについてまとめた。
確かに「成功」という言葉は、金銭的に潤うという意味でとらえられることが多いが、それで本人が幸せになれるかというと、そんなことはないのだろう。特に高いモラルを備えた人間であれば社会の役に立ち、自らの良心に恥じない行動によって報酬を得て初めて「成功」と言えるのではないだろうか。
著者が本書を書く発端もまさにそれである。52のルールに著者自身の経験や見聞きした内容をふまえてわかりやすく説明をする。どれも世の中に存在する多くの企業の社長に聞かせたいことばばかりである。
残念ながら英語を日本語に無理に訳したせいか、どのルールも言葉的に陳腐な響きになってしまっているように感じる。
【楽天ブックス】「魂を売らずに成功する 伝説のビジネス誌編集長が選んだ飛躍のルール52」
「深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン」沢木耕太郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
イタリアについた著者はローマ、フィレンツェ、マカオ、マドリート、リスボンを経てロンドンへ向かう。
旅が終わりに近づいていくことで、著者が感じる淋しさがにじみ出てくる。全体としてヨーロッパは先進国であるためアジアや中東の国々に比べて文化や人々の振る舞いのなかに特に大きな目新しさはないのだろう。描かれるないようも、旅全体に対しての著者の感想の方が多いように思う。
そしてやがて最終目的地であるロンドン中央郵便局に向かうのである。
【楽天ブックス】「深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン」
「3分でダンスが踊れた」中谷彰宏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ダンスを趣味として楽しむ著者がダンスに対する考え方を語る。
冒頭で著者が書いているように、著者自身は別にダンスの先生の資格を持っているわけではなく生徒の一人だと言う。そんな著者が自身のダンスを通じた経験や考え方を語ってくれるのだが、競技ダンスよりも、パーティでのマナーや技術の向上の仕方に多く触れている点が面白い。姿勢やパートナーとの調和、そしてマナーを語ってくれるので、競技ダンスとしてどうしても技術や体力やスピードに偏ってしまいがちにとってはいろいろ考えさせられる内容が多い。
ダンス経験者には新しい視点を与えくれるだろう。また、ダンス未経験者もひょっとしたら興味をかき立てられてダンスを始めようと思ってくれるかもしれない。
【楽天ブックス】「3分でダンスが踊れた」
「珍妃の井戸」浅田次郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
列強諸国に侵略された清。そんななかひとりの妃、美しい姫、珍妃(チェンフェイ)が井戸に突き落とされて殺されたという。一体誰がどんな目的で珍妃(チェンフェイ)を殺したのか。日本、ロシア、ドイツ、イギリスの高官が協力してその真実に迫ろうとする。
光緒帝が愛した珍妃(チェンフェイ)が西太后によって殺害されたという実話に基づいているのであるが、そもそもその事実についてさえ中国史に疎い僕は知らなかった。著者はそんな歴史に疎い日本人にも楽しめるようにいくつかの謎を交えながら読者を物語に引き込んでいく。
真実の究明に協力することになった日本、ロシア、ドイツ、イギリスの高官4人は関係者に事実をたずねるのだが、それぞれ異なることを語るので、謎は次第に深まっていく。一体どれが真実なのか。その究明の過程で伝わってくるのは、一つの偉大な国を身勝手な理由から滅ぼした列強諸国への非難である。今、世界の中心にいる国々は過去の自分たちの非道な行いにもしっかり目を向けるべきなのだろう。
「蒼穹の昴」の続編ではあるが、物語の構成は大きく異なる。また「蒼穹の昴」を読んだときにも思った事だが、この物語を楽しむためには、もっと中国史に関する知識を持っている必要があるように感じた。
【楽天ブックス】「珍妃の井戸」
「リクルートのDNA 起業家精神とは何か」江副浩正
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多くの起業家を排出するリクルート。リクルートの創業者である著者がリクルートが成長する過程の出来事や社内の精神について語る。
むしろ著者の自伝的色合いが濃く、「リクルートの歴史」といったタイトルの方がふさわしいような印象を受けた。本書で語られるそのリクルート創業当時のいろんな困難は人間関係の重要さを教えてくれる。実際本書でも第二章で「私が学んだ名起業家の一言」とあるように、著者自身も非常に人とのつながりを大事にしている事が伝わってくる。また、リクルートが世の中に必要とされる物を提供する事を第一に考えた結果、大きくなってきた点も印象的である。
最後の章ではこれまでに失敗した事業も紹介している。失敗から学ぶことの大きさも本書では繰り返し触れられているのである。何か世の中のためになる仕事がしたくなってくる。
【楽天ブックス】「リクルートのDNA 起業家精神とは何か」
「情報を捨てるセンス選ぶ技術」ノリーナ・ハーツ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インターネットの普及によって情報が溢れかえるなか、どのように情報を取捨選択していくべきか、著者が語る。
いろんなメディアから様々な情報が発信され、毎日大量にその情報を受け取っているが、常にその情報の正しさに疑いを持っているだろうか。その情報が情報の受け手を意図した方向に導こうとしている可能性を考慮しているだろうか。同じグラフでも縦軸、横軸の取り方一つで見え方は大きく変わるのである。また、今ではどこの通販サイトにも取り入れられているユーザーレビューも、多くのサクラが存在するのである。本書が語ってくれるのは、そんな情報のすべてを鵜呑みにせず、真実を見極める方法である。
人は同じ考えを持つ人と一緒にいようとする傾向があるが、真実を見極めるためには反対意見を言ってくれる人を近くにおいておくべきだ、という考え方は何も情報のあふれる今に限った事ではなくずっと使える考え方のような気がする。
アフガン戦争に向かうブッシュを支持したアメリカ人や、2000年問題を過剰に警戒した世界の人々など、記憶に新しい過去の出来事のなかから、人々が間違った情報に操作された例をいくつか紹介している。真実を見抜く目を育む手助けになるかもしれない。
【楽天ブックス】「情報を捨てるセンス選ぶ技術」
「カレイドスコープの箱庭」海堂尊
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
医院長からの依頼で田口公平(たぐちこうへい)は術後に死亡した患者に関する処置の実態を調査することとなった。
誤診なのか検体の取り違えなのか、各々のスタッフの話を聞いて調査に努める田口公平(たぐちこうへい)だが、もちろん簡単に解決するはずもなく、やがていつものように厚生労働省のロジカルモンスター、白鳥圭輔(しらとりけいすけ)が調査に乗り出すことになる。
真相の究明の過程から病院内の権力争いや、スタッフ間の嫉妬が見えてくる。正直医療関係者でもなければ物語の流れをすべてしっかり理解するのは難しいかもしれない。一般の人はせいぜい漠然とトリックと犯人がわかる程度なのではないのだろうか。
シリーズを重ねるごとに専門的な内容が増えてくるだけでなく、過去のシリーズの人間関係も引きずってくるためにわかりにくくなっている点が海堂尊シリーズの残念なところである。
【楽天ブックス】「カレイドスコープの箱庭」
「迷子の王様 君たちに明日はない5」垣根涼介
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リストラを迫られた企業に対して、早期退職を促す会社で働く村上真介(むらかみしんすけ)の物語。
「君たちに明日はない」シリーズの第5弾で完結編である。今回もこれまでと同様に退職か会社に残るかを迫られた3人の男女の人生に迫る。化粧品メーカーでマネージャーを務める33歳の独身女性。電機メーカーで液晶テレビの製作に関わっていた42歳の男性。本が好きで書店に勤める33歳の女性の3人である。
いずれも一通りの社会人生活を送り、楽しむことも楽しみつくして生きる事意味を考え始める時期で、自分の好みや性格やコンプレックスなどを考えて、人生の岐路に立つ彼らの考えはどれも共感できる。特に2つめの親子2代にわたって電機メーカーで働いた男性が、退職を勧められて父親に助言を求めにいくシーンが印象的である。時代が変われば生き方も変わる。高度経済成長の真っただ中、「いい物が人を幸せにする」という時代に電機メーカーで働いていた人間と、すでに物が溢れ、すべての家庭に必要なものが行き渡った状態で、働いている人間とではいろいろ状況も異なるのだろう。結局人生の決断は本人にしかできないのだ。
三者それぞれに家族や友人、妻など周囲の人が大きく影響を与えているのが見える。
そして、終盤、真介は社長に会社をたたむ事を告げられる。新たな道を模索する真介は過去に自分が退職を勧めた人々に会ってその後の状況を聞くことにするのである。
終わってしまうのが悲しくなるほど、生き方の意味を考えさせてくれるシリーズ。もう一度全部読み直してみたくなった。
【楽天ブックス】「迷子の王様 君たちに明日はない5」
「できる上司は「教え方」がうまい」松尾昭仁
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
組織における教えることのメリットやその効果的な方法を説明する。
序盤は教える事の利点を語る。教える側にとっては「自分でやった方が早い」という考えを持つことは多く、その結果、部下を育てる事ができずに組織の効率性を損ねている例が多々あるのだろう。実際には、部下を育てて自分と同じ能力の人間を複数持つ事でこそ組織は効果的に機能するのである。
中盤以降は、教えるために有効な方法を順を追って説明している。ほめる事の重要性や、相手のレベルを見極めることなど、普段から教えることに慣れている人にとっては当たり前のことばかりではあるが、改めて教えることに重要な1つ1つの要素を本書を通じて見直すことができるだろう。
人間のタイプによって教え方を変えるという点が本書でもっとも面白い部分ではないだろうか。部下を「理論派」「行動派」という2つのタイプにわけるだけでなく、「まったくの初心者」「教え方に文句をつける部下」「根拠のない自身がある部下」「すぐにリスクを考えてしまう部下」「自分よりも年上の部下」「自分よりはるかに年下の部下」「本気で学ぶ気が感じられない部下」「頑張り過ぎる部下」と8つのタイプにわけでそれぞれの対処方法を説明している。必ずしも教える側、教えられる側としてだけでなく、人間として成長するためにはどう行動すべきか、という点で考えさせられる部分もあるだろう。
【楽天ブックス】「できる上司は「教え方」がうまい」
「わたしはマララ 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女」マララ・ユフザイ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
パキスタンのスワート地区で育った女性、マララ・ユフザイがタリバンの圧力や不安定な国政のもとでの人々の生活の様子を描く。
2001年の9.11直後はタリバンという言葉を何度も耳にしたが最近はあまり耳にしなくなったように思う。しかしそれは9.11から時間が経って人々の関心が薄れたから、メディアも取り上げる回数が少なくなったというだけなのだろう。本書で描かれるパキスタンの人々の生活の様子は、タリバンの脅威が国内ではその後もずっと続いていたことを教えてくれる。
タリバンは、女性が教育を受けることや肌をさらすことをイスラムの教えに背いているとして強制的にやめさせたり、そのような行いをしている人やそれに貢献している人を殺害したりするのである。著者マララは、そんななか教育の重要性を認識して学校を運営する父親と、強い信念をもった母親のもとで育つ。しかし、タリバンへの恐怖から多くの人は行動を制限され、公に逆らったひとは次々と殺されていくのである。友人や知り合いが殺され、死体が町に放置されるという、僕ら日本人から見れば異常としか思えない出来事が、著者の周囲では日常だったことが伝わってくるだろう。日本という安定した国でしっかりとした教育を受け、自由に外出できるような環境で生きられることの幸せを改めて感じられることだろう。
そして後半はタリバンによって顔に弾丸を受け、生死の境をさまよう様子が描かれている。顔に弾丸を受けてもなお、タリバンの攻撃は私の声を世界に届けることにつながった、と考えることのできるマララの姿勢が印象的である。女性の地位の向上や教育の重要性を語る一方で、十代の女の子らしい振る舞いや想いが文中に散りばめられている点も印象深い。マララのように恵まれない者は、試練を経て強い信念を育む一方、僕らのように恵まれた者はその価値を見失い、信念を持たずにただ悶々と生きているのだ。自らを律したくなる一冊。
【楽天ブックス】「わたしはマララ 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女」
「十字軍物語3」塩野七生
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第三次十字軍から第七次十字軍を描く。
十字軍物語の第3作目であるが、1作目、2作目で第一次十字軍、第二次十字軍を扱っていたのに対して、本書では第三次から第七次までの5つの十字軍を描く。お互いを認め合うサラディンとイギリスのリチャードの第三次十字軍の章以外では十字軍はむしろ政治的な要素が強かったり、惨憺たる結果に終わったりする。
印象的なのは惨憺たる結果に終わりながらも神に尽くした聖人とされたフランス王ルイである。自らの利益を考えずに神に尽くそうとし、それゆえに十字軍に参加した人々に大きな傷跡を残した彼の行動は、当時の世の中の人の考え方の現代との違いを示しているようだ。神には逆らってはならない。神に尽くせば救われる。今よりもずっとそう信じられていたのだろう。また、いずれの十字軍でも大きな戦力となった騎士団の動向も面白い。聖ヨハネ騎士団は十字軍の後ロードス島へ本拠地を移し、一方で聖堂(テンプル)騎士団は弾圧の末に消滅するのである。
ヤッファやアッコンなど拠点となった町にいつか行ってみたくなった。
【楽天ブックス】「十字軍物語3」