「GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」」リンダ・キャプライン・セイラー/ロビン・コヴィル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

成功する人とそうでない人の差はなんなのか。それは社会的知性(SQ)でもなければ、知能指数(IQ)でもなくでも、GRITという呼ばれる力なのだという。本書はそんな成功するための力「GRIT」について語っている。
序盤ではこれまで考えられていたIQの重要性を否定してからGRITに語っていく。GRITとは度胸(Guts)、復元力(Resillience)、自発性(Initiative)、執念(Tenacity)という4つの力で、多くの実例を交えて説明している。
まず印象的だったのは「夢を捨てされ」の章である。僕らは「夢を持つこと」はいいことだと教わってきた。それは確かに目標に向かう原動力となり得るのだが、夢を語ってばかりで実際にその1歩を踏み出さない人も多くいるのだという。夢想している暇があったら「今日できることをする」という考え方が重要なのだという。
また、拒絶されても立ち直る力を身につけるために、ある男性が行なったリジェクションセラピーの話も面白かった。投資家からの資金提要を断られたことがショックだった彼は立ち直る力を身につけるために、100日間連続で人に断られることを目標にしたのだ。断られるための無茶な要望にもかかわらず、受け入れてくれた人がいたことから、男性は自分の望みを叶えるためには拒絶を恐れずに、頼んでみることが重要なのだと知るのである。拒絶は人間の否定ではなく、ただ単にあなたの要求が相手の求めているものにマッチしなかったというだけなのだ。
終盤の「期限は無限」の章で紹介されていた、92歳の時にアルファベットを学び始め、98歳のときにベストセラーを書いた男性の話は、多くの読者へ、将来への希望を与えてくれるだろう。
多くの例は触れられているものの、実際にどのような方法をとればGRITが身に付けられるのかはわかりにくい。それでも「忍耐力」、「楽観主義」、「固定思考」よりも「成長思考」と、いくつかの鍵となる考え方を知れば今後の生き方のヒントとなるのではないだろうか。何よりもいい話に溢れているので一読の価値ありである。
【楽天ブックス】「GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」」

「羊と鋼の森」宮下奈都

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2016年本屋大賞受賞作品。高校生のときに、調律師の仕事に魅せられた男性外村(とむら)が、調律師として成長していく様子を描く。

調律師という仕事を、実際にその仕事に従事している人のの視点で見せてくれたことがありがたい。調律師という仕事があることは知っていたが、それはギターの音を合わせるように、一定の周波数に音を合わせる誰にでも機械的にできる作業かと思っていた。どんな仕事も毎日その作業を行う人のしか見えない深さがあるのだろう。それが、こうやって物語として触れると、自分がその仕事をしているかのように深く見えてくるから不思議である。

個人のピアノを調律するのと、コンサートのピアノの調律をするのは大きく違ことや、その会場の物の配置が変わっただけで音に影響が出るということが新鮮だった。また、物語中で語られるこんな言葉にも感動した。

持ち主に愛されてよく弾かれているピアノを調律するのはうれしい。一年経ってもあまり狂いのないピアノは、調律の作業は少なくて済むかもしれないが、やりがいも少ないと思う。

主人公である外村(とむら)のほかにも、同じ職場で調律師として働く人が出てくる。天才調律師の板鳥(いたどり)、元々はピアニストを目指していたが諦めて調律師となった秋野(あきの)、バンドでドラムをしている柳(やなぎ)である。調律師として生きる人にもいろんな過去があることが面白い。

毎日こつこつと技術を積み上げていく職人気質の仕事に改めて魅力を感じた。
【楽天ブックス】「羊と鋼の森」

「希望荘」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
妻と離婚して新しい人生を歩み始めた38歳の杉村は、知り合いからの勧めによって探偵事務所を開くこととなった。そんな杉村が扱った4つの事件を描く。
杉村三郎シリーズの3作品目で、前作「ペテロの葬列」で妻との別れを決意したあとの杉村を描いている。実は、娘がいて離婚経験者ということで、どこか年上のような気がしていたが予想以上に年齢が違いことを知り、今回はいつも以上に親近感を持って読むことができた。
4つの物語のなかでもっとも印象的だったのは3番目の事件「砂男」である。地元の繁盛していた蕎麦屋の若い亭主が、不倫をして失踪した事件で、その不倫相手の女性の行方を探すこととなるが、調査を進めるうちにその男性にはつらい過去があることがわかってくるのだ。父や妻の複雑な感情と行動を描いていて、4つの物語の中でもっとも宮部みゆきらしさを感じた。
また、4番目の物語である「ドッペルゲンガー」では東北大震災を題材にしている。阪神大震災を題材に含めた物語にはたびたび出会うが、東北大震災を描いている物語はまだ少ないため新鮮だった。
宮部みゆきは期待値が高いだけに、それなりの作品でも失望の方が大きくなってしまうのが評価の難しいところである。本作品もそれほど悪くはなかったのだが、宮部みゆきらしい人間の感情を切り開くような表現があまり見られなかったのが少し残念だった。
【楽天ブックス】「希望荘」

「スペースシャトルの落日 失われた24年間の真実」松浦晋也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人を宇宙に運ぶという輝かしい使命よりも、むしろコロンビア空中分解事故、チャレンジャー爆発事故で印象的なスペースシャトル。そもそもスペースシャトルという計画はどのような目的でどのようにして始まったのか知りたくて本書を手に取った。
面白いのはスペースシャトルを思い描く時誰もが最初に思い描くであろうあの大きな翼は、実はほとんど意味がないということ。言われてみれば確かに、宇宙は無重力空間だからもちろん翼による揚力は発生するはずもない。地球に帰還するときに少しだけ役に立つのだという。むしろその翼がスペースシャトルを設計する上で一つの大きな足かせになっているのだという。人を運ぶのに必要な設備と、物を運ぶのに必要な設備は大きく異なり、その2つを同時に詰め込もうとしたために困難になってしまったのだ。
ちなみに、報道でスペースシャトルのことを聞いていると、チャレンジャーやコロンビアなどいろんな名前があるけど見た目的な区別がつかないと思っていたが、どうやら機体は同じで名前だけが異なるということ。
本書を読んでスペースシャトルは、そもそもの設計として大きく間違っていたことや、政府や地方経済に大きく影響を与えるほどの巨大プロジェクトは、大きな政治的圧力がかかるゆえになかなかうまく進まないことがわかった。しかし、月面着陸を果たしたアポロ11号や奇跡の生還で知られるアポロ13号に代表されるアポロ計画はどのようにすすめられたのだろう。次はアポロ計画について知りたいと思った。
【楽天ブックス】「スペースシャトルの落日 失われた24年間の真実」

「The Da Vinci Code」Dan Brown

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ルーブル美術館のキュレーターJacques Saunièreが技術館の館内で殺された。その死ぬ間際に書き残したメッセージによって、警察から殺人の疑いをかけられた言語学者のLangdonはJacques Saunièreの孫娘Sophieとともに真実を探ることとなる。
映画化もされた有名作品ではあるが、すでに映画を見たかどうかも忘れており、新鮮な気持ちで読むことができた。本書でもっとも興味深いのはやはり、物語中でも最大のテーマになっている、イエス・キリストの新しい真実だろう。
なんとローマ帝国のコンスタンティヌス以前は、キリスト教およびユダヤ教は女性を神聖化していたのだという。ローマ帝国が国教として取り入れるにあたって、それまでの考え方を政治に都合のいい方向に変えていった結果、今の女性の地位が男性より低い世の中になっているというのである。
物語としてはキュレーターJacques Saunièreの残したメッセージの謎を少しずつ解きながら非常に価値のある宝物に近づいていくという使い古された形式ではあるが、その過程で描かれる真実が印象的なので物語全体を面白いものにしている。
本より映画のほうがいいこともたくさんあるので、映画を否定するわけではないのだが、映画を見てしまうと深い物語が2時間のひどく陳腐で大衆受けする物語になってしまうこともよくあり、この物語は映画が有名だっただけになおさらそんな印象を持っていたが、実際こうして原作を読んでみるととても素敵な物語だということを知った。
映画しか見ないでこの物語を評価した人に、おそらく物語の内容を忘れてしまったであろう今、改めて本書を読んで欲しいと思った。

「悲劇的なデザイン」ジョナサン・シャリアート、シンシア・サヴァール・ソシエ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインがおかしいせいで、人の死につながったり、大きな事故を起こしたケースを紹介しながらデザインの重要性を説く。
序盤は、医療機器の操作方法がおかしくて大量の放射線を浴びて死に至った患者の話や、操縦席の計器の表示がわかりにくくて墜落した飛行機の話などデザインが生み出した悲劇を紹介している。
「医療機器や飛行機のデザインは僕らが扱っているデザインとは違う」などと他人事と思ってはいけない。中盤以降ではFacebookやLinkedInなどのUI /UXによって一生忘れないようなひどい体験をした人のエピソードを紹介している。
本書を読めば、デザイナーは自分の仕事の大切さと責任を再確認することだろう。そして、デザイナーでない人でも、クリエイティブな世界で生きる人間は自分の作り出すものがどのような結果をユーザーにもたらす可能性があるのか、その責任の大きさを改めて認識することだろう。
インターネットが普及したせいで、実際に傷ついている人を目にする機会は少なくなったが、それでも確実に、自分たちの作ったものはユーザーに使いにくく感じさせたり、疎外感を与えたりしているのである。迷った時は僕らは、実際にそのような対応を店のスタッフにされたら自分がどう感じるのか考えるべきだ。そう考えることによってエラーメッセージひとつとってもたくさん改善すべき箇所が見えてくるにちがいない。
デザイナーだけでなく、多くの人に読んで欲しいと思った。終盤で著者も語っているが「人はみなデザイナー」であり、声をあげ、行動することで世の中は使いやすいもので溢れ、過ごしやすくなっていくのである。

関連書籍
「Thinking Objects:Contemporary Approaches to Product Design」ティム・パーソンズ
「Articulating Design Decisions」キャロル・リギ
「User-Centered Design Stories」トムグリーバー

【楽天ブックス】「悲劇的なデザイン」

「フラットデザインで考える新しいUIデザインのセオリー」宇野雄

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
YahooのUIデザイナーがフラットデザインについて語る。
出版が2014年ということで、移り変わりの激しいUIデザインにおいて4年前の本というとすでに古すぎるのではないかという懸念もあったが、デザインの移り変わりを理解するためには悪くないのではないかと感じで手に取った。
さて、序盤こそフラットデザインについて語っているものの、後半はなぜか「UIデザインの本質」といって、基本的なUIの役割について本の半分ほどを割いている点が残念である。多くのUIデザイナーにとっては前半の100ページまで読めば十分なのではないだろうか。唯一この本が与えてくれた新しい刺激は、今まであまり関心がなかったWindows Phoneで採用されているModern UIに目を向けてくれた点である。
【楽天ブックス】「フラットデザインで考える新しいUIデザインのセオリー」

「ルパンの消息」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
15年前に自殺した女性高校教師は、実は他殺だったというタレコミがあった。その死は高校生3人によって行われた「ルパン作戦」と呼ばれる行動に関係があるという。時効を目前に警察はその3人を呼び出し当時のことを語らせる。そうして少しずつ当時の出来事が明らかになっていく。

12年ぶりの2回目の読了である。すでに内容を忘れていたが、とても素敵な物語だったことを覚えていて、今回再度読みたくなった。

15年前に起こった事件の解明を機に呼び出されたのは当時高校生の橘、喜多(きた)、竜見(たつみ)である毎日のようにつるんでいたにもかかわらず、今はそれぞれがまったく異なる人生を送っているのが感慨深い。特に当時冷静な男であった橘(たちばな)が現在はホームレスとして生活をしている点が人生の不思議さを感じさせる。そして、3人の取り調べが進む中、徐々にルパン作戦の全貌が明らかになっていくのである。

もっとも印象に残ったのは同級生の死を、当時の供述をするなかで喜多(きた)が思い出すシーンである。

いつ相馬の死を忘れてしまったのだろう。あれほど嘆き、悔やみ、取り返しのつかない心の傷に思えたのに・・・。

どれほどつらい記憶でも時と忘れたり、乗り越えたりして、その記憶は風化し、それぞれが新しい人生を歩んでいくのだろう。

事件が3億円事件の時効直前、1975年を舞台にしているのも面白い。アポロ11号の月面着陸など、当時の高校生たちがどのように何を考えて生きていたかが伝わって来る。これはまさに著者横山秀夫が見てきた人生なんだと知り、もう一度その時代に起こった大きな出来事に目を向けてみたくなった。

12年前に読んだときとはまた異なる部分が印象に残るのが面白い。2回目に読んだ今回も良い作品を読んだときのみ感じられる読後の爽快感に溢れていた。あまり知られていない作品ではあるがぜひ多くの人に読んでもらいたいと思った。

【楽天ブックス】「ルパンの消息」

「人生の9割はPDCAでうまくいくシンプル思考」井上裕之

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
PDCAのPが「Plan」でDが「Do」で…と序盤でPDCAの本当に簡単な説明はしているものの、それ以降PDCAにはほとんど触れず、著者の生きるうえでの考え方をいろんな状況について語っている。著者の語る内容が間違っているとはまったく思わないしどれも賛同することばかりだけど、どれもどこかで聞いたような考え方ばかりで、ページ間のつながりも特になく趣味で書いた本という印象である。本書を読まなければわからないこと、気づけないことは特になかった。
きっと「PDCA」という言葉が入っているという理由だけで本書を買う人がいることを期待したのかもしれない。著者は本書以外にも多数の本を出しているらしいが、ぜひPDCAでもう少し内容の濃い本を書けるようにぜひPDCAして欲しいと思った。PDCAについては先日読んだ冨田和成氏の「鬼速PDCA」の方がずっとおすすめである。
【楽天ブックス】「人生の9割はPDCAでうまくいくシンプル思考」

「LIFE SHIFT」リンダ・グラッドソン/アンドリュー・スコット

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人間の寿命は過去から現在に至るまで伸び続け、現在もその勢いは続いている。2007年生まれの先進国の人の50%は107歳まで生きるのだという。そんな100歳まで生きることが普通となっていくなかで、人はどのように生きるべきかを語る。

何よりも100歳まで生きるということは65歳で引退するという選択をすると、その先35年もの引退期間を生きることとなり、必要な貯金の額も想定と大きくことなるという。なによりも、学生として勉強する時代と、社会にでて働く時代と、引退後の生活という3つの人生のステージの生き方が今後大きく変わっていくという。

個人として考えていかなければいけないのは、20代前半までで身につけた技術や知識だけで、その先100歳までの人生のための十分なお金を稼ぐのは難しいということ。学生を終えて社会に出た後も、仕事をする時期と、学んで新たな知識を身につける時期を送ったり、働きながら新たな知識を身につける必要がある。本書ではそんな寿命の変化が各世代に生きる人々にどのような影響を与えるのかを、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーンという架空の人物で説明している。

仕事や学びだけでなく、結婚やパートナーとの関係も変わってくるという。人生が長くなれば女性の出産による仕事から離れる期間もそれほど大きな問題ではなくなるために、女性と男性の関係が対等に近づいていくという。女性の出産期間にパートナーである夫がその生活を支えるように、男性の学びの期間に、そのパートナーの女性が生活費を補うような、それぞれの生活を経済的に支えあうようなパートナー関係が多くなるという。

個人的には僕自身が働くIT系の会社では多くの人がすでに考えている内容であるため、それほど大きな驚きはなかった。むしろ転職等をせずに1つの会社でずっと働き続けている人にこそ役立つのかもしれない。そんな人は本書を読んで、これからの時代の変化に対応できるような柔軟性を育む準備をしたほうがいいのではないだろうか。65歳まで1つの会社で生きてしまうと、その後他の生き方や働き方をするのはかなり難しくなってしまうだろう。
【楽天ブックス】「LIFE SHIFT」

「悲嘆の門」宮部みゆき

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
インターネット上に溢れる情報を監視する会社でバイトを始めた三島孝太郎は、同僚の一人がホームレスの失踪事件を追って失踪したことから、自分自身も真相を追い始める。やがて孝太郎(こうたろう)は夜間に動くガーゴイル像の噂を耳にする。
主人公が「サイバーパトロール」という、あまり世の中では知られていないアルバイトをしている設定にすることで、ネットでの言葉のやり取りが生み出す不安や恐怖の連鎖に警鐘を鳴らしているかのようだ。
そんな会社で働いているために、世の中を騒がせる事件の情報をより深く知ることとなり、同僚の失踪を機に、自らもその事件に入り込んでいくのである。そんな、序盤の展開は宮部みゆき作品らしく、読者を物語にどんどん引き込んでいく力を感じさせる。
ところが物語は中盤からファンタジー色が強くなる。個人的にはイメージできない世界が大きく、あまり物語についていけなかった印象を受けた。宮部みゆきは今までもファンタジーをいくつか世に出しているが、どれも時代物や現代物語に比べると魅力を感じないので、ひょっとしたら宮部みゆきのファンタジーが好きな人はまた異なる捉え方をするのかもしれない。
【楽天ブックス】「悲嘆の門(上)」「悲嘆の門(中)」「悲嘆の門(下)」

「まんがでわかる7つの習慣」小山鹿梨子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
思想家スティーブン・R・コヴィーの7つの習慣をまんがで説明している。どれも社会に出て20年近く経っている人間にとっては当たり前なことばかりではあるが、このような考えかたに繰り返し触れる事にはそれなりに意味があるのだろう。
本書で描いている7つの習慣は以下の7つである。

主体的である
終わりを思い描くことから始める
最優先事項を優先する
WinWinを考える
まず理解に徹し、そして理解される
シナジーを創り出す
刃を研ぐ

このなかで改めて大事にしたいと思ったのは、5番目の「まず理解に徹し、そして理解される」である。人の話を聞く時、ついうっかりと自分の立場に置き換えてその良し悪しを判断してしまいがちだが、実際にはその人の能力や容姿や年齢なども含めて、相手の気持ちに立とうとすると、いろいろ違った部分が見えてくるもの。もちろん、そこまで人を深く理解するためには、それなりに時間と真剣に聞く姿勢が必要ではあるが、表面的に理解したふりをしてアドバイスしても決して聞き入れられることはないだろう。
まんがなので2時間ほどで一気に読むことができたが、どちらかというとまだどのように生きていいか見えていない、20代の社会人向けの内容のような印象である。
【楽天ブックス】「まんがでわかる7つの習慣」

「たった1日で声まで良くなる話し方の教科書」魚住りえ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
滑舌の悪さを治したくて本書を手に取った。
本書を読んでわかったのは、滑舌の悪さは直せるということ、そして、腹式呼吸がいいということである。どうやらそれぞれの人間には声の響きやすい高さというのがあるようで、声をしっかり出すためには自分にとって適切な声の高さを理解することが必要なのだそうだ。
シャドウィングという英語の練習方法はよくやっているにもかかわらず、英語よりも何倍も日常生活において使うだろう日本語では一切練習をしないということがおかしな話だと思ってしまった。
とりあえず腹式呼吸を意識しながら話すことを習慣にしてみたいと思った。
【楽天ブックス】「たった1日で声まで良くなる話し方の教科書」

「ブロックチェーン入門」森川夢佑斗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近よくきく「ブロックチェーン」とはなんなのか、そこを理解したくて本書を手に取った。

正直本書を読むまでの僕の知識は乏しいもので話題の仮想通貨ビットコインとブロックチェーンの関連性も知らなかった。どうやらビットコインはブロックチェーンの技術を利用して発展した技術の一つで、ブロックチェーン自体は今後さまざまな分野に応用できる技術で、それによって今後世の中のいろんな取引の形態が変わる可能性があるのだという。

本書は、タイトルでは「ブロックチェーン」を謳っているが、半分ほどをビットコインに代表される仮想通貨の説明にも割いている。投資対象としてビットコインがどの程度信頼がおけるものなのかを理解したい僕にとってはおおいに役に立った。

本書を読んで理解したことは、まだまだ仮想通貨の技術は始まったばかりに過ぎず、ビットコインがこのまま不動の仮想通貨の地位を確立するのか、それともビットコインの弱点を改良されて次々に考え出されていく第2、第3の仮想通貨が世の中のスタンダードとなるのかはもう少し様子を見る必要があるということである。

正直本書だけではブロックチェーンやビットコインなどの仮想通貨についてしっかり理解することはできないが、現在の世の中の流れを漠然と理解するには非常に役に立つ本である。
【楽天ブックス】「ブロックチェーン入門」

「ローマ人の物語 危機と克服」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
悪名高き皇帝ネロの後のローマ帝国の物語で、紀元69年から98年までを描いている。
ガルバ、オトー、ヴィテリウス、ヴェスパシアヌス、ティトゥス、ドミニティアヌスと皇帝が次々と変わる時代だが、ローマ帝国自体は比較的安定していたようである。首相が次々と変わる日本のように国民がどこか政治に無関心な様子である。それは見方を変えると、すでに国自体がそう簡単に不安定な状態にならないという確信が国民のなかにあったのだろう。
次々変わる皇帝のその政策やふるまいをここまで連続して見せられると、どのような人間が信用を失いやすく、どのような人間が長く信頼を勝ち取れるかという傾向が見えてくるようだ。「歴史から学ぶことは多い」と言葉としては多くの人が知っていて、使ったりもするが、ローマ帝国の皇帝たちから学べることは、企業の経営者たちにも共通している気がする。まだローマ帝国の歴史なかばではあるが、結局カエサルとオクタビアヌスに勝る皇帝はいないのではないかと思えてくる。
本書のもう一つの個人的な見所はポンペイで有名なヴォスヴィオ火山の噴火である。当時ヴォスヴィオ火山の麓の町で生きていた男性がタキトゥスという当時の作家に送った手紙の全訳はそれが確かに現実に存在した悲劇であることを伝えてくれる。
トライアヌスが皇帝になったことで終わる本書。ローマ帝国はこの後「五賢帝時代」と呼ばれる時代に入っていくのである。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語 危機と克服(上)」「ローマ人の物語 危機と克服(中)」「ローマ人の物語 危機と克服(下)」

「自律神経が整う時間コントロール術」小林弘幸

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自律神経を整えるための生活方法を書いている。
正直僕自身も人生の効率化はかなり強く意識していて、本書に書いてある多くのこと、例えばミニマリズムや早起きや整理整頓、毎日の同じことを繰り返す、などはすでに生活に取り入れている。そんな僕でもいくつか現在できてなくて取り入れたいなと思えることがいくつかあった。

カバンの整理
朝はメールを見ない
スマホの通知機能はオフ
夕食は就寝の3時間前までに
記念日を大切に

どれも説明するまでもないかもしれないが、なかなかわかっていてもできないものだ。また、著者がロンドンの病院で働いていたときに出会った尊敬できる人の考え方が印象に残った。

I don’t believe anybody.

一見冷たく寂しく聞こえる言葉だが、人のせいにしないで常に冷静にいるために、また人の励ましや行為に心から感謝できる心構えなのだと、語っている。僕自身の普段の心構えと似ている部分もあるが、人へのアドバイスとして心に留めておきたいと思った。
全体的にはものすごい特別な内容が書かれているわけではない。試行錯誤をして生きてきた人がある程度の年齢に達すれば誰しもそれなりに独自の生き方や習慣を身につけており、そんななかの1人がそれを本にしてシェアしてくれたという印象である。もちろん上に書いたようにそのなかからも得られるものはあるが特別、知人にお勧めするほどの内容ではない。
【楽天ブックス】「自律神経が整う時間コントロール術」

「美術館で働くということ」オノユウリ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京都現代美術館の仕事の様子を描いた漫画である。
先日読んだ原田マハの「弾幕のゲルニカ」が以前か気になっていた学芸員という仕事に再び
目を向けた。
本書を読み始めて知ったのだが、どうやら展覧会などで美術館に訪れたときに、部屋の隅に座っている黒い服を着た女性は学芸員ではないらしい。学芸員という職業の名前を最初に知ったのが、美術館で座っている人を指してのことだっただけにこれには驚かされた。実際には、美術館にのんびり座っている暇もないほど、毎日忙しく、好きな画家や好きな美術に本当に深く関われる仕事だとわかった。
前半は展覧会などを企画する学芸員の仕事の様子が描かれており、美術館に所属する学芸員たちは自分のすすめる作家の展覧会を提案し、企画し、作家と一緒になって展覧会を開催するのだという。だから、ときには学芸員の意見が作家の作品に影響を与えることもあるのだという。そう考えると、決してただ美術を展示するだけの受け身な仕事でないことがわかる。人生で経験できる仕事はわずかだけど、こんな生き方もしてみたかったと思わせてくれるだろう。
後半のコレクション担当もとても面白かった。コレクション担当とは美術館の所蔵する作品を決定、管理する仕事で美術館が所蔵する作品を決める際には、何を後世に伝えるべきかを職員の間で議論して決めていくのだそうだ。そうやって議論のすでに決定された所蔵された作品が貸し出されたりする際には我が子を送り出す親のような気持ちになるのだという。
学芸員という仕事について知りたくて手に取った本ではあるが、むしろ美術の奥深さ、展覧会、美術館など、美術に対する考え方もさらに深めてくれた気がする。
【楽天ブックス】「美術館で働くということ」

「鬼速PDCA」冨田和成

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
野村証券にて数々の営業記録を達成した著者が自身が日常的に行うPDCAを解説する。
「今更PDCA?」と思うかもしれないが、誰もが耳にしたことのあるPDCAでも、実際に機能するように取り入れようとすると簡単ではない。成果をどのようにCheckし、どのようにActionするか、というのが非常に重要であり難しいのである。
また、本書では、PDCAを初めて耳にしたときに誰もが感じる違和感、AのActionについて、わかりやすくAdjustとしている。ここは僕自身もDoとActionの違いについてなかなかつかめなかったので、わかりやすく人に説明するために取り入れたいと思った。
後半は実際のPDCAの実施の仕方を細かく書いている。説明を読めばどれももっともと思えるもので特に驚く部分はないが実際日常的にここまで徹底している人はいないだろう。ここまで徹底してやっている人が世の中にはいるんだということ知ることがなにより大きな刺激になった。本書でも触れているが、普段目に見えない自分の進歩を、数値化することで目に見えるようにすることで毎日がより楽しくなる、というのはすごい共感できることで他の人にもこの感覚を感じて欲しいと思った。
普段行なっている、運動や勉強など改めて数値化してもっと徹底してPDCAできないか考えさせてもらった。
【楽天ブックス】「鬼速PDCA」

「サラバ!」西加奈子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第152回直木三十五賞受賞作品。イランで生まれ日本で育った圷歩(あくつあゆむ)の物語。

イランで生まれたことと、姉が少し変わった女性であったという点で、歩の人生は同年代の人間とは少し異なっていた。そして、父のエジプト赴任によりエジプトでの生活も経験していたことである。そしてやがて両親の離婚という一家の危機も経験するのである。本書はそんな歩がアラフォーになるまでを描いた物語である。

印象的だったのは、歩(あゆむ)が僕自身と一歳しか違わない同世代の男だということである。高校生の時に阪神大震災を経験し30代前半で東日本大震災を経験するなど、人生の重要なできごとが年齢的にも重なることが多く、読み進めながらついつい自分自身の人生を振り返ってしまう。そういう意味ではアラフォー世代の読者の心には強く響く部分があるだろう。

また、もう一つ印象的なこととしては、歩(あゆむ)自身が決して貧しい家で育ったわけでもなく、むしろ裕福な家庭で育ちながらも、姉の奇行や両親の離婚という悩みを抱えている点だろう。物質的に豊かでありながらも心が満たされない様子がひしひしと伝わってくるのである。

大学時代はその甘いマスクを武器に女性に不自由しない人生を送りながら、20代ではそれなりにやりたいことをする思い通りの人生を送りながらも、30代を過ぎて見た目や体の衰えとともに人生の陰りを感じるあたりはなかなか他人事として片付けられないリアルさを感じてしまった。

自分の人生を振り返りその意味を改めて考えたくなる一冊。歩がエジプトで小学生時代を経験しているため、「アラブの春」と呼ばれるイスラム諸国の民主化の流れに再び興味をもたせてくれた。

【楽天ブックス】「サラバ!(上)」「サラバ!(中)」「サラバ!(下)」

「「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命」重信メイ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
チュニジアに始まり、エジプト、リビアと続いた「アラブの春」と呼ばれるSNSを起点とした動き。日本での報道だと、どの国でも似たような民主化の動きが起こったかのように見えてしまうが、実際はどうだったのか、そもそも僕らがよくわかっていないイスラム諸国の現状はどのようなものなのか。レバノン生まれのジャーナリストである著者が語る。
本書を手に取ったのは直木賞受賞作品「サラバ!」のなかでアラブの春に触れられていたからである。日本での報道からだと、「アラブの春」は、イスラム諸国に平和が訪れたように聞こえてしまうが、もちろんそんなわずかな期間で国のすべてが解決するはずもなく、また「アラブの春」によってもたらされた新たな問題もあるのだということを知り、現状を詳しく知りたくなったのである。
本書ではチュニジア、エジプト、リビアなどの「アラブの春」の国々をはじめ、サウジアラビアやオマーンなどの国についても現状や、「アラブの春」の影響を説明している。もちろんそれぞれの国についての記述はわずか数ページでしかないので、それぞれの国の歴史と現状に軽く触れる程度で終わってしまうのだが、それでもイスラム諸国等について新しい気づきが得られた。
思っていた以上にイスラム諸国でも女性の社会進出は進んでいるということ。また、僕らがイスラム諸国を代表する報道機関とみなしているアルジャジーラは思ったほど中立ではないということ。そして、YouTubeを利用して西欧諸国の報道を操作しようとしている動きがかなりあり、世界的なメディアが裏を取らずにそのまま報道してしまうことがあるということである。
今後もSNSを良い方にも悪い方にも利用しようとする意識は高まるだろうし、一人の人間として真実を見出すためには情報選別の能力が求められるということを感じた。
【楽天ブックス】「「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命」