「ルパンの消息」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

15年前に自殺した女性高校教師は、実は他殺だったというタレコミがあった。その死は高校生3人によって行われた「ルパン作戦」と呼ばれる行動に関係があるという。時効を目前に警察はその3人を呼び出し当時のことを語らせる。そうして少しずつ当時の出来事が明らかになっていく。
12年ぶりの2回目の読了である。すでに内容を忘れていたが、とても素敵な物語だったことを覚えていて、今回再度読みたくなった。
15年前に起こった事件の解明を機に呼び出されたのは当時高校生の橘、喜多(きた)、竜見(たつみ)である毎日のようにつるんでいたにもかかわらず、今はそれぞれがまったく異なる人生を送っているのが感慨深い。特に当時冷静な男であった橘(たちばな)が現在はホームレスとして生活をしている点が人生の不思議さを感じさせる。そして、3人の取り調べが進む中、徐々にルパン作戦の全貌が明らかになっていくのである。
もっとも印象に残ったのは同級生の死を、当時の供述をするなかで喜多(きた)が思い出すシーンである。

いつ相馬の死を忘れてしまったのだろう。あれほど嘆き、悔やみ、取り返しのつかない心の傷に思えたのに・・・。

どれほどつらい記憶でも時と忘れたり、乗り越えたりして、その記憶は風化し、それぞれが新しい人生を歩んでいくのだろう。
事件が3億円事件の時効直前、1975年を舞台にしているのも面白い。アポロ11号の月面着陸など、当時の高校生たちがどのように何を考えて生きていたかが伝わって来る。これはまさに著者横山秀夫が見てきた人生なんだと知り、もう一度その時代に起こった大きな出来事に目を向けてみたくなった。
12年前に読んだときとはまた異なる部分が印象に残るのが面白い。2回目に読んだ今回も良い作品を読んだときのみ感じられる読後の爽快感に溢れていた。あまり知られていない作品ではあるがぜひ多くの人に読んでもらいたいと思った。
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「人生の9割はPDCAでうまくいくシンプル思考」井上裕之

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
PDCAのPが「Plan」でDが「Do」で…と序盤でPDCAの本当に簡単な説明はしているものの、それ以降PDCAにはほとんど触れず、著者の生きるうえでの考え方をいろんな状況について語っている。著者の語る内容が間違っているとはまったく思わないしどれも賛同することばかりだけど、どれもどこかで聞いたような考え方ばかりで、ページ間のつながりも特になく趣味で書いた本という印象である。本書を読まなければわからないこと、気づけないことは特になかった。
きっと「PDCA」という言葉が入っているという理由だけで本書を買う人がいることを期待したのかもしれない。著者は本書以外にも多数の本を出しているらしいが、ぜひPDCAでもう少し内容の濃い本を書けるようにぜひPDCAして欲しいと思った。PDCAについては先日読んだ冨田和成氏の「鬼速PDCA」の方がずっとおすすめである。
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「LIFE SHIFT」リンダ・グラッドソン/アンドリュー・スコット

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

人間の寿命は過去から現在に至るまで伸び続け、現在もその勢いは続いている。2007年生まれの先進国の人の50%は107歳まで生きるのだという。そんな100歳まで生きることが普通となっていくなかで、人はどのように生きるべきかを語る。
何よりも100歳まで生きるということは65歳で引退するという選択をすると、その先35年もの引退期間を生きることとなり、必要な貯金の額も想定と大きくことなるという。なによりも、学生として勉強する時代と、社会にでて働く時代と、引退後の生活という3つの人生のステージの生き方が今後大きく変わっていくという。
個人として考えていかなければいけないのは、20代前半までで身につけた技術や知識だけで、その先100歳までの人生のための十分なお金を稼ぐのは難しいということ。学生を終えて社会に出た後も、仕事をする時期と、学んで新たな知識を身につける時期を送ったり、働きながら新たな知識を身につける必要がある。本書ではそんな寿命の変化は、各世代に生きる人々にどのような影響を与えるのかを、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーンという架空の人物で説明している。
仕事や学びだけでなく、結婚やパートナーとの関係も変わってくるという。人生が長くなれば女性の出産による仕事から離れる期間もそれほど大きな問題ではなくなるために、女性と男性の関係が対等に近づいていくという。女性の出産期間にパートナーである夫がその生活を支えるように、男性の学びの期間に、そのパートナーの女性が生活費を補うような、それぞれの生活を経済的に支えあうようなパートナー関係が多くなるという。
個人的には僕自身が働くIT系の会社では多くの人がすでに考えている内容であるため、それほど大きな驚きはなかった。むしろ転職等をせずに1つの会社でずっと働き続けている人にこそ役立つのかもしれない。そんな人は本書を読んで、これからの時代の変化に対応できるような柔軟性を育む準備をしたほうがいいのではないだろうか。65歳まで1つの会社で生きてしまうと、その後他の生き方や働き方をするのはかなり難しくなってしまうだろう。
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「悲嘆の門」宮部みゆき

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
インターネット上に溢れる情報を監視する会社でバイトを始めた三島孝太郎は、同僚の一人がホームレスの失踪事件を追って失踪したことから、自分自身も真相を追い始める。やがて孝太郎(こうたろう)は夜間に動くガーゴイル像の噂を耳にする。
主人公が「サイバーパトロール」という、あまり世の中では知られていないアルバイトをしている設定にすることで、ネットでの言葉のやり取りが生み出す不安や恐怖の連鎖に警鐘を鳴らしているかのようだ。
そんな会社で働いているために、世の中を騒がせる事件の情報をより深く知ることとなり、同僚の失踪を機に、自らもその事件に入り込んでいくのである。そんな、序盤の展開は宮部みゆき作品らしく、読者を物語にどんどん引き込んでいく力を感じさせる。
ところが物語は中盤からファンタジー色が強くなる。個人的にはイメージできない世界が大きく、あまり物語についていけなかった印象を受けた。宮部みゆきは今までもファンタジーをいくつか世に出しているが、どれも時代物や現代物語に比べると魅力を感じないので、ひょっとしたら宮部みゆきのファンタジーが好きな人はまた異なる捉え方をするのかもしれない。
【楽天ブックス】「悲嘆の門(上)」「悲嘆の門(中)」「悲嘆の門(下)」

「まんがでわかる7つの習慣」小山鹿梨子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
思想家スティーブン・R・コヴィーの7つの習慣をまんがで説明している。どれも社会に出て20年近く経っている人間にとっては当たり前なことばかりではあるが、このような考えかたに繰り返し触れる事にはそれなりに意味があるのだろう。
本書で描いている7つの習慣は以下の7つである。

主体的である
終わりを思い描くことから始める
最優先事項を優先する
WinWinを考える
まず理解に徹し、そして理解される
シナジーを創り出す
刃を研ぐ

このなかで改めて大事にしたいと思ったのは、5番目の「まず理解に徹し、そして理解される」である。人の話を聞く時、ついうっかりと自分の立場に置き換えてその良し悪しを判断してしまいがちだが、実際にはその人の能力や容姿や年齢なども含めて、相手の気持ちに立とうとすると、いろいろ違った部分が見えてくるもの。もちろん、そこまで人を深く理解するためには、それなりに時間と真剣に聞く姿勢が必要ではあるが、表面的に理解したふりをしてアドバイスしても決して聞き入れられることはないだろう。
まんがなので2時間ほどで一気に読むことができたが、どちらかというとまだどのように生きていいか見えていない、20代の社会人向けの内容のような印象である。
【楽天ブックス】「まんがでわかる7つの習慣」

「たった1日で声まで良くなる話し方の教科書」魚住りえ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
滑舌の悪さを治したくて本書を手に取った。
本書を読んでわかったのは、滑舌の悪さは直せるということ、そして、腹式呼吸がいいということである。どうやらそれぞれの人間には声の響きやすい高さというのがあるようで、声をしっかり出すためには自分にとって適切な声の高さを理解することが必要なのだそうだ。
シャドウィングという英語の練習方法はよくやっているにもかかわらず、英語よりも何倍も日常生活において使うだろう日本語では一切練習をしないということがおかしな話だと思ってしまった。
とりあえず腹式呼吸を意識しながら話すことを習慣にしてみたいと思った。
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「ブロックチェーン入門」森川夢佑斗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近よくきく「ブロックチェーン」とはなんなのか、そこを理解したくて本書を手に取った。
正直本書を読むまでの僕の知識は乏しいもので話題の仮想通貨ビットコインとブロックチェーンの関連性も知らなかった。どうやらビットコインはブロックチェーンの技術を利用して発展した技術の一つで、ブロックチェーン自体は今後さまざまな分野に応用できる技術で、それによって今後世の中のいろんな取引の形態が変わる可能性があるのだという。
本書は、タイトルでは「ブロックチェーン」を謳っているが、半分ほどをビットコインに代表される仮想通貨の説明にも割いている。投資対象としてビットコインがどの程度信頼がおけるものなのかを理解したい僕にとってはおおいに役に立った。
本書を読んで理解したことは、まだまだ仮想通貨の技術は始まったばかりに過ぎず、ビットコインがこのまま不動の仮想通貨の地位を確立するのか、それともビットコインの弱点を改良されて次々に考え出されていく第2、第3の仮想通貨が世の中のスタンダードとなるのかはもう少し様子を見る必要があるということである。
正直本書だけではブロックチェーンやビットコインなどの仮想通貨についてしっかり理解することはできないが、現在の世の中の流れを漠然と理解するには非常に役に立つ本である。
【楽天ブックス】「ブロックチェーン入門」

「ローマ人の物語 危機と克服」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
悪名高き皇帝ネロの後のローマ帝国の物語で、紀元69年から98年までを描いている。
ガルバ、オトー、ヴィテリウス、ヴェスパシアヌス、ティトゥス、ドミニティアヌスと皇帝が次々と変わる時代だが、ローマ帝国自体は比較的安定していたようである。首相が次々と変わる日本のように国民がどこか政治に無関心な様子である。それは見方を変えると、すでに国自体がそう簡単に不安定な状態にならないという確信が国民のなかにあったのだろう。
次々変わる皇帝のその政策やふるまいをここまで連続して見せられると、どのような人間が信用を失いやすく、どのような人間が長く信頼を勝ち取れるかという傾向が見えてくるようだ。「歴史から学ぶことは多い」と言葉としては多くの人が知っていて、使ったりもするが、ローマ帝国の皇帝たちから学べることは、企業の経営者たちにも共通している気がする。まだローマ帝国の歴史なかばではあるが、結局カエサルとオクタビアヌスに勝る皇帝はいないのではないかと思えてくる。
本書のもう一つの個人的な見所はポンペイで有名なヴォスヴィオ火山の噴火である。当時ヴォスヴィオ火山の麓の町で生きていた男性がタキトゥスという当時の作家に送った手紙の全訳はそれが確かに現実に存在した悲劇であることを伝えてくれる。
トライアヌスが皇帝になったことで終わる本書。ローマ帝国はこの後「五賢帝時代」と呼ばれる時代に入っていくのである。
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「自律神経が整う時間コントロール術」小林弘幸

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自律神経を整えるための生活方法を書いている。
正直僕自身も人生の効率化はかなり強く意識していて、本書に書いてある多くのこと、例えばミニマリズムや早起きや整理整頓、毎日の同じことを繰り返す、などはすでに生活に取り入れている。そんな僕でもいくつか現在できてなくて取り入れたいなと思えることがいくつかあった。

カバンの整理
朝はメールを見ない
スマホの通知機能はオフ
夕食は就寝の3時間前までに
記念日を大切に

どれも説明するまでもないかもしれないが、なかなかわかっていてもできないものだ。また、著者がロンドンの病院で働いていたときに出会った尊敬できる人の考え方が印象に残った。

I don’t believe anybody.

一見冷たく寂しく聞こえる言葉だが、人のせいにしないで常に冷静にいるために、また人の励ましや行為に心から感謝できる心構えなのだと、語っている。僕自身の普段の心構えと似ている部分もあるが、人へのアドバイスとして心に留めておきたいと思った。
全体的にはものすごい特別な内容が書かれているわけではない。試行錯誤をして生きてきた人がある程度の年齢に達すれば誰しもそれなりに独自の生き方や習慣を身につけており、そんななかの1人がそれを本にしてシェアしてくれたという印象である。もちろん上に書いたようにそのなかからも得られるものはあるが特別、知人にお勧めするほどの内容ではない。
【楽天ブックス】「自律神経が整う時間コントロール術」

「美術館で働くということ」オノユウリ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京都現代美術館の仕事の様子を描いた漫画である。
先日読んだ原田マハの「弾幕のゲルニカ」が以前か気になっていた学芸員という仕事に再び
目を向けた。
本書を読み始めて知ったのだが、どうやら展覧会などで美術館に訪れたときに、部屋の隅に座っている黒い服を着た女性は学芸員ではないらしい。学芸員という職業の名前を最初に知ったのが、美術館で座っている人を指してのことだっただけにこれには驚かされた。実際には、美術館にのんびり座っている暇もないほど、毎日忙しく、好きな画家や好きな美術に本当に深く関われる仕事だとわかった。
前半は展覧会などを企画する学芸員の仕事の様子が描かれており、美術館に所属する学芸員たちは自分のすすめる作家の展覧会を提案し、企画し、作家と一緒になって展覧会を開催するのだという。だから、ときには学芸員の意見が作家の作品に影響を与えることもあるのだという。そう考えると、決してただ美術を展示するだけの受け身な仕事でないことがわかる。人生で経験できる仕事はわずかだけど、こんな生き方もしてみたかったと思わせてくれるだろう。
後半のコレクション担当もとても面白かった。コレクション担当とは美術館の所蔵する作品を決定、管理する仕事で美術館が所蔵する作品を決める際には、何を後世に伝えるべきかを職員の間で議論して決めていくのだそうだ。そうやって議論のすでに決定された所蔵された作品が貸し出されたりする際には我が子を送り出す親のような気持ちになるのだという。
学芸員という仕事について知りたくて手に取った本ではあるが、むしろ美術の奥深さ、展覧会、美術館など、美術に対する考え方もさらに深めてくれた気がする。
【楽天ブックス】「美術館で働くということ」

「鬼速PDCA」冨田和成

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
野村証券にて数々の営業記録を達成した著者が自身が日常的に行うPDCAを解説する。
「今更PDCA?」と思うかもしれないが、誰もが耳にしたことのあるPDCAでも、実際に機能するように取り入れようとすると簡単ではない。成果をどのようにCheckし、どのようにActionするか、というのが非常に重要であり難しいのである。
また、本書では、PDCAを初めて耳にしたときに誰もが感じる違和感、AのActionについて、わかりやすくAdjustとしている。ここは僕自身もDoとActionの違いについてなかなかつかめなかったので、わかりやすく人に説明するために取り入れたいと思った。
後半は実際のPDCAの実施の仕方を細かく書いている。説明を読めばどれももっともと思えるもので特に驚く部分はないが実際日常的にここまで徹底している人はいないだろう。ここまで徹底してやっている人が世の中にはいるんだということ知ることがなにより大きな刺激になった。本書でも触れているが、普段目に見えない自分の進歩を、数値化することで目に見えるようにすることで毎日がより楽しくなる、というのはすごい共感できることで他の人にもこの感覚を感じて欲しいと思った。
普段行なっている、運動や勉強など改めて数値化してもっと徹底してPDCAできないか考えさせてもらった。
【楽天ブックス】「鬼速PDCA」

「サラバ!」西加奈子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第152回直木三十五賞受賞作品。

イランで生まれ日本で育った圷歩(あくつあゆむ)の物語。
イランで生まれたことと、姉が少し変わった女性であったという点で、歩の人生は同年代の人間とは少し異なっていた。そして、父のエジプト赴任によりエジプトでの生活も経験していたことである。そしてやがて両親の離婚という一家の危機も経験するのである。本書はそんな歩がアラフォーになるまでを描いた物語である。
僕にとって印象的だったのは、歩(あゆむ)が僕自身と一歳しか違わない同世代の男だということである。高校生の時に阪神大震災を経験し30代前半で東日本大震災を経験するなど、人生の重要なできごとが年齢的にも重なることが多く、読み進めながらついつい自分自身の人生を振り返ってしまう。そういう意味ではアラフォー世代の読者の心には強く響く部分があるだろう。
また、もう一つ印象的なこととしては、歩(あゆむ)自身が決して貧しい家で育ったわけでもなく、むしろ裕福な家庭で育ちながらも、姉の奇行や両親の離婚という悩みを抱えている点だろう。物質的に豊かでありながらも心が満たされない様子がひしひしと伝わってくるのである。
大学時代はその甘いマスクを武器に女性に不自由しない人生を送りながら、20代ではそれなりにやりたいことをする思い通りの人生を送りながらも、30代を過ぎて見た目や体の衰えとともに人生の陰りを感じるあたりはなかなか他人事として片付けられないリアルさを感じてしまった。
自分の人生を振り返りその意味を改めて考えたくなる一冊。歩がエジプトで小学生時代を経験しているため、「アラブの春」と呼ばれるイスラム諸国の民主化の流れに再び興味をもたせてくれた。
【楽天ブックス】「サラバ!(上)」「サラバ!(中)」「サラバ!(下)」

「「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命」重信メイ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
チュニジアに始まり、エジプト、リビアと続いた「アラブの春」と呼ばれるSNSを起点とした動き。日本での報道だと、どの国でも似たような民主化の動きが起こったかのように見えてしまうが、実際はどうだったのか、そもそも僕らがよくわかっていないイスラム諸国の現状はどのようなものなのか。レバノン生まれのジャーナリストである著者が語る。
本書を手に取ったのは直木賞受賞作品「サラバ!」のなかでアラブの春に触れられていたからである。日本での報道からだと、「アラブの春」は、イスラム諸国に平和が訪れたように聞こえてしまうが、もちろんそんなわずかな期間で国のすべてが解決するはずもなく、また「アラブの春」によってもたらされた新たな問題もあるのだということを知り、現状を詳しく知りたくなったのである。
本書ではチュニジア、エジプト、リビアなどの「アラブの春」の国々をはじめ、サウジアラビアやオマーンなどの国についても現状や、「アラブの春」の影響を説明している。もちろんそれぞれの国についての記述はわずか数ページでしかないので、それぞれの国の歴史と現状に軽く触れる程度で終わってしまうのだが、それでもイスラム諸国等について新しい気づきが得られた。
思っていた以上にイスラム諸国でも女性の社会進出は進んでいるということ。また、僕らがイスラム諸国を代表する報道機関とみなしているアルジャジーラは思ったほど中立ではないということ。そして、YouTubeを利用して西欧諸国の報道を操作しようとしている動きがかなりあり、世界的なメディアが裏を取らずにそのまま報道してしまうことがあるということである。
今後もSNSを良い方にも悪い方にも利用しようとする意識は高まるだろうし、一人の人間として真実を見出すためには情報選別の能力が求められるということを感じた。
【楽天ブックス】「「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命」

「「引きずらない」人の習慣 怒り、悲しみ、不安のワナにハマらない」西多昌規

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人生において、怒りや悲しみを引きずるのは悪い事ではないが、早く立ち直って前向きに冷静に生きることができれば人生はきっと良くなるはず。僕自身、どちらかというとまさに「引きずらない人」なのだが、「引きずる人」に今以上にいいアドバイスを与えられたらと考え、本書を手に取った。
気になったのは次の項目。

引きずる人は興味を持てるものが少ない、引きずらない人は好奇心が強い
引きずる人は白黒二択で考える、引きずらない人はグレーでも納得できる
引きずる人はまず言い訳をする、引きずらない人はまず素直に謝る
いい汗をかくことは、メンタルにもプラスの効果がある

どれも思い当たることばかり、引きずるか引きずらないかという性格と直接関連性があるとは思っていなかったが、どれも「引きずらない」自分自身に当てはまることばかり。周囲を見渡しても「引きずらない」人は往々にして、多趣味で忙しく、運動をしていることが多いように感じる。
前半は日常的な出来事に対して「引きずらない」ための方法を書いているが、後半では、身近な人の死や、失恋など、引きずらないわけにはいかないような大きな悲しみに対する方法としても触れている。僕自身それほど大きな悲しみにはまだ出会っていないがぜひ次のことはぜひ覚えておきたいと思った。

自分と同じ経験をした人を探す

思ったのは、こういう本を読む人も大部分は「引きずらない人」なのではないかということ。
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「超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪速阪教授の70分講義」橋本幸士

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
数学関連の書籍というとだいたい途中からついていけなくなるもの。それでも部分的にで新しい考え方に触れられたり、新しい方面に好奇心をかきたてることができればいいと思って本書も読み始めた。
超ひも理論とはなんだろう。一時期ポアンカレ予想を理解しようとした時も似たような話が出てきたが、どうやらこの話はそれとは別物で、どうやら次元の話のようだ。
僕の理解した範囲で説明すると、陽子は3つのクオークから成り立ち、そのクオークを説明するのに異次元の存在を考えたほうが都合いいということなのだとか。そして超ひも理論はその次元の存在を根底から覆すものなのだそうで、本書はそこに至るまでを高校生にもわかるように説明している。
個人的には、高次元の存在が低次元の世界に存在したときには、消えることが可能という考え方はすごく印象に残ったが、納得するほど理解できたとはとても言えないので、いくつか気になる単語や参考文献を残しておいて今後の読書につなげたい。
本書はタイトルからもわかるように、物理学者のパパが娘に超ひも理論を少しずつ説明していくという体裁をとっているが、パパが「娘に仕事を説明できることができて幸せだった。」と書いている点が印象的だった。やはり父親は、自分が人生で大きな時間を費やす分野を娘に理解してほしいんだろうなと感じた。

新語
クオーク
グルーオン
ファインマン図
マルダセナ予想
ヤンミルズ理論

関連書籍
「大栗先生の超弦理論入門」

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「スティーブ・ジョブズ」ウォルター・アイザックソン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アップルを創り、マッキントッシュ、iPod、iPhoneを生み出して世界を大きく変えたスティーブ・ジョブズを描く。

もはや本書を読まなくても、誰もが聞いたことあるほどの有名な世界を変えたエピソードである。アップルが取り入れたコンピューターのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)に始まり、その後ジョブズがアップルを離れた後のアップルの低迷。そしてアップルに戻ってからのiPodによる音楽革命やiPhoneの登場などである。

なぜこれほど多くの画期的な製品をアップルは生み出せたのか。本書はその答えを知るための大きな手がかりとなるだろう。やはりアップルのトップであるステーブ・ジョブズが自分たちの作り出すものに対して並々ならぬこだわりを持ったためだろう。誰もがシンプルなものがいいとわかっていながらも世の中には複雑な製品が溢れているのである。アップルのこだわりである

洗練を突きつめると簡潔になる

というのがどれほど難しいことか、組織でものづくりに関わったことがある人ならわかるだろう。それに加えて、ジョブズが重視したのはいつだって「利益を出す」ことではなく「世界を変えるような新しいものを生み出す」ことだったのも大きいだろう。

世の中に「利益を出す」こと以外の目的を優先して動いている会社がどれほどあるんだろうか。もちろん、会社の創設時にはそのような熱い思いを持っている会社はあることだろう。それを持続することがどれほど難しいことか、多くの社員を抱え、多くの生活が会社の存続に委ねられてきたときに、「利益を出す」ことを優先してしまうことが、多くの企業にとってどれほど避けがたいものなのか、よくわかるのではないかろうか。

そんな多くの素晴らしい製品を生み出したジョブズだが、人間的にはかなり偏った性格だったようだ。もちろんそれも話には聞いていたが、本書を読むと改めてその偏りがわかる。家族や身近な人に対する接し方はとても普通の人が耐えられるものではなく、それによってジョブズも多くの困難にぶつかったようにも感じる。

本書でそのようなジョブズの性格を深く知ると、一般的に「普通」の人間性を持った人間が革新的な製品を生み出すことはできないのだろうか、とさえ思ってしまう。
さて、ジョブズ

なきアップルは今後どうなっていくのか、その動向に今後も注目したいと思った。
【楽天ブックス】「スティーブ・ジョブズ(1)」「スティーブ・ジョブズ(2)」

「暗幕のゲルニカ」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
イラクへの武力行使を発表された国連安保理ロビーにあるゲルニカには暗幕がかけられていた。戦争の悲惨さを訴えるゲルニカに武力行使を発表する場で暗幕をかけた理由が何なのか。ピカソに人生をかけたMomaのキュレーター八神瑤子(やがみようこ)はそんなピカソ騒動に巻き込まれていく。

まず自分の無知さを知ったのが、ピカソが作成したゲルニカは、絵画の他に3つのタペストリーがあり、その1つがニューヨークの国際連合本部にあるのだという。本書はそんな「もう一つのゲルニカ」と、ピカソ自身がゲルニカを描く様子とそのときの世界の情勢を描いている。

本書は2001年の同時多発テロ直後の現代と、1937年のゲルニカ爆撃時のピカソとその周囲の人々を交互に描いている。1937年の場面ではパリ博覧会のための絵画を依頼されたピカソが、描く絵画の題材に悩む様子からゲルニカができるまで、そしてゲルニカがアメリカに渡るまでを描いており、現代の場面では同時多発テロからアメリカのイラク侵攻を描いている。

ゲルニカがゲルニカという町で起きた惨劇の様子を描いているということは知っていたが、その惨劇がどのような状況のもとで起こったのかは本書を読むまで漠然としか知らなかった。本書によって、ヒトラー、ムッソリーニ、フランコの独裁政治という歴史とあわせてゲルニカを理解する事ができた。

また、ゲルニカという絵画が公開当初から大きな物議を引き起こし、混乱する世界状況の中で秘密裏にアメリカに渡ったというのも今回始めて知った事実である。

1937年を場面としたゲルニカとピカソにまつわる物語はとても印象的だったが、現代の物語の描き方は若干安っぽい印象を受けた。必ずしも現代と絡めて物語を構成しなくてもよかったのはないだろうか。一つの有名な絵画を生み出すまでの画家の苦悩や当時の状況を描くだけでも十分魅力的な物語になるのではないかと感じた。
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「ミセス・ケネディ 私だけが知る大統領夫人の素顔」クリント・ヒル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ケネディの暗殺といえばもはや知らないことがいないほどの大事件。そのとき隣に座っていたケネディ夫人は僕自身にとってはそれほど有名な人物ではなかったのだが、フィリピン人の英語の先生が、「私のお手本となる人」としてダイアナ妃とケネディ夫人を挙げたので興味を抱いた。
本書はケネディが1960年に大統領に就任したときから、ケネディ夫人のシークレット・サービスつまりボディガードとして働いた男性クリント・ヒルによって書かれている。クリント・ヒルはあの暗殺の瞬間夫人を守るために後ろから車に飛び乗った男性なので覚えている人もいるのではないだろうか。そんな常に身辺にいる男性から描かれたからこそ、ジャクリーン・ケネディの素顔が見えてくる。
1960年にケネディが大統領に就任した時、ケネディ夫人はまだ31歳でアメリカの歴史上もっとも若いファーストレディだったという、この事実を聞いただけで僕自身が生まれる前のできごとであるにもかかわらず当時の熱狂が想像出来る。
さて、そんな若いファーストレディだったからには、結構稚拙なこともしたのではないかと思っていたのだが、本書を読み進めてみると、ずっと芯を持った人間だったということが伝わって来る。まずそれを感じさせたのはホワイトハウスに住み始めてからホワイトハウスのなかの公開されている部屋の改修に動いた行動力である。

ホワイトハウスはすべてのアメリカ国民のものよ。この国で一番素晴らしい家でなくては

そしてもっとも印象的だったのは、隣で夫を暗殺された直後に、地に染まったスーツを着ているケネディ夫人に着替えを促した著者に対しての言葉である。

自分が何をしたのか、犯人に見せつけましょう。

自立した女性がお手本にしたくなる理由がしっかり伝わってきた。本書の大部分はケネディ暗殺までの3年間を描いているが、その後のケネディ夫人の人生の選択についてももっと知りたいと思った。
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「一流の育て方 ビジネスでも勉強でもズバ抜けて活躍できる子を育てる」ムーギー・キム/ミセス・パンプキン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

子育てに関する書籍の多くが、研究結果や著者の体験談を語っているのに対して、本書は実際にいい人生を送っていると思われる子供たちにその親の育て方をアンケートして、その回答をもとに良い育て方はこうあるべきだ、と語っている。
多くの大人になった子供立ちの、自分の親の子育てに関する感想を読むと、子育ての大切さと難しさを改めて感じるが、同時に子育てのヒントとなりそうな多く考え方に出会うことができた。なかでも印象的だったのが

「人に迷惑をかけるな」より「役に立て」

である。確かに「人に迷惑をかけるな」と考えると、人に全く迷惑をかけないで生きるというのはできないので、すべての行動が消極的になってしまう。それに対して「役に立て」と考えると、迷惑をかけてもそれ以上に役に立っていれば認められるという考えが育めるのだろう。
もう一つ、頭に常においておきたいと思った考え方は

子どもは親の真似をする

である。
これは多くの親には耳の痛い話なのかもしれない。勉強しろと言いながら自分が勉強しない親や、本を読めといいながら、自分が本を読まない親など世の中にたくさんいることだろう。幸運なことに、僕自身は勉強も運動も毎日継続して行うことが好きなので、そういう姿を見せてあげたいと思った。
これまでにも子育てや教育に関する本をいくつか読んでみたが本書が一番印象的だった。子育ての中でもっとも難しそうに感じるのは、自由のなかにどれだけ的確な情報と選択肢を提供するかということ。また単純に学問や運動の能力の向上だけでなく、自ら考えそれを実行する計画力や意志の強さをどのように育むかということである。
大人になった子供たちの感想に、「もっと選択肢を見せて欲しかった」とか「もっと厳しく接して欲しかった」という含まれているという点である。大人が思っているほど子供は、優しいだけを求めているのではないということに気づく。本書で出会った考え方をしっかりと取り入れて今後も試行錯誤していきたいと思った。
「ずば抜けて活躍できる」かどうかはわからないが、本書が目指しているのは、単純に学歴などの表面的な幸せではなく、子供自身が大人になっても幸せを感じる育て方だと感じた。これから子供を育てるという人にはぜひ読んでほしいと思った一冊。
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「星野リゾートの教科書 サービスと利益両立の法則」中沢康彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

星野社長がどれほど教科書を重視しているかを語っている。
古い旅館を再生する際に、星野社長がどれほど、過去に書かれた教科書となる本を重視してきたかを描いている。個々の再生エピソードも含まれているが、基本的には本に書かれた内容をどのようにしっかりと実践してきたかである。
印象的だったのは、本で読んだ内容を中途半端に実践するのではなく、しっかり書かれた通りに実践することが大切、という部分である。賛否両論あるかもしれないが、確かに部分的にだけ取り入れて満足してしまうことも往々にあるだろう。
内容はそれほど印書的なものではなかったが、これまで星野社長が読んで実際に役立った多くの本を紹介している。今後の読書の幅を広げるという意味では意義のある内容である。ぜひ読みたいと思った本を挙げておく。

「イノベーターの条件」 ピーター・F・ドラッガー
「エクセレント・カンパニー」
「柔らかい心で生きる」矢代静一
「1分間エンパワーメント」
「1分間顧客サービス」
「サービス・リーダーシプトは何か」ベッツィ・サンダース
「顧客ロイヤルティの時代」内田和成、嶋口充輝
「経験価値マーケティング」バーンド・H・シュミット
「ブランディング22の法則」アル・ライズ、ローラ・ライズ
「ニューポジショニングの法則」
「ブランド・エクイティ戦略」デービッド・A・アーカー
「ONE to ONEマーケティング」
「競争の戦略」マイケル・E・ポーター
「The Myth of Excellence」Fred Crawford, Ryan Mathews
「ストラテジック・マインド」大前研一
「戦略サファリ」ヘンリー・ミンツバーグ

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