「ドーナツ経済学が世界を救う」ケイト・ラワース

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これまでの経済学とは考え方の異なるドーナツ経済学の概要と、その基準に従って世の中を良くする方法を提案する。

序盤では経済学の歴史と、これまでの経済学が主にGDPの向上を目指していたため、必ずしも人々の幸せや環境の維持といった、現代の人々が「良い」と感じる世界にはつながっていないことを説明する。そして、その後に本書のドーナツ経済学の基本的な考え方と、これまでの経済学との異なる次の7つの考え方を語っている。

  • 1.目標を変える
  • 2.全体を見る
  • 3.人間性を育む
  • 4.システムに精通する
  • 5.分配を設計する
  • 6.環境を創造する
  • 7.成長にこだわらない

経済学の歴史や現代社会との矛盾についての話は非常に面白い。経済学が面白そうだと思って本書に至ったのだが、過去の経済学のGDP重視の考え方を知ると、少なくとも今での経済学は趣味としてしか役に立たないだろうと感じた。

その一方で、環境的に安全社会的に公正な範囲にすべての人を入れるということを念頭においたドーナツ経済学の考え方はまさに今の世の中が目指すべきものと言えるだろう。中盤以降、ドーナツ経済学の観点から著者はさまざまな提案をするのだが、中でも特に再分配の手段として世界中で考えたり部分的に実行されている方法が興味深かった。バングラディシュのバングラペサやスイスのツァイトフォアゾルゲなどそれぞれ個別に調べてみたいと思った。

付録として社会的な土台の指標、環境的な上限の指標を書いてあるので項目だけでもしっかり頭に入れて、今後機会があれば詳しく調べてみたい。

社会的土台の12の分野
食料
健康
教育
所得と仕事
水と衛生
エネルギー
ネットワーク
住居
男女の平等
社会的な平等
政治的発言力
平和と正義
環境的な9の許容限界
気候変動
海洋酸性化
化学物質汚染
窒素及び燐酸肥料の投与
取水
土地転換
生物多様性の喪失
大気汚染
オゾン層の減少

経済学を学んだことがない人間にとっては理解するのが難しい箇所も多々あったが、全体的に興味深く読むことができた。

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「THINK BIGGER「最高の発想」を生み出す方法」シーナ・アイエンガー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
発想を生み出す方法THNK BIGGERについて説明している。

序盤はニュートン、ピカソ、ヘンリー・フォードなど過去の著名な人物の発明を例にとって基盤となる考えを説明する。それは、過去の斬新な発明や考えは、すでに知られていた技術や考えを単に組み合わせただけで、ゼロから何かを生み出そうとするのではなく、最適な組み合わせを考えることこそ重要、と言う考えである。

その後THINK BIGGERを6つのステップに分けて解説していく。

1.課題を選ぶ
2.課題を分解する
3.望みを比較する
4.箱の中と外を探す
5.選択マップ
6.第三の眼テスト

昨今多くの組織でブレインストーミングの文化が取り入れられているが、その効果が疑わしいのは実際に経験したことのある人なら薄々察していることだろう。

集団力学が個人の創造性を大きく妨げることも明らかになっている。人はさまざまなかたちで周りに忖度し、アイデアを間引いたり、最初や最後に提示されたアイデアに過度に影響されたり、最も都合のいいアイデアを選んだりする傾向がある。

もっとも印象的だったのは「課題の定義」を怠らないという言葉である。

複雑な課題に関しては、正しい課題を正しいレベルで特定しなければ、混乱し、労力を無駄にし、不本意な結果に終わるのは目に見えている。…
Think Biggerでは、意味がるほどには大きいが、解決できるほどには小さい課題を特定する。

それぞれの章で説明していることは納得のいくことばかりだが、全体の手法事態は組織のサイズなどによってカスタマイズする必要があるだろう。今後デザインスプリント等組織全体でアイデアを出す機会があったら本書で紹介されている考え方を部分的にでも取り入れてみたいと思った。

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「すべては「好き嫌い」から始まる」楠木建

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
良い悪いではなく好き嫌いについて語る。

基本的には僕の読書のスタイルは、フィクションで広げノンフィクションで掘り下げる、というイメージなのだが、本書はノンフィクションでありながらテーマの定まらない珍しい本である。したがって数ページ読んで、最後まで読むかどうか悩んだのだが、頑張って読んでみた。

大部分がどうでもいいことを呟いているだけではあるものの、いくつか目新しい表現や視点をもたらしてくれた。

服に凝るよりも、まずは姿勢を整えた方がよい。姿勢を整えるよりも、まずは体型を整えた方がよい。プレゼンテーションのテクニックを習得するよりも、まずは言葉を豊かにした方がよい。言葉を豊かにするよりも、まずは人に語りかけるべき内容を豊かにした方がよい。
「多様性が大切!」と言うくせに、通り一遍の労働条件しか認めない。いかにも矛盾している。

正直、テーマがはっきりしない独り言のような内容なので、人に勧められる本ではないが、こんな読書もたまには悪くないなと思った。

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「ザ・ロイヤルファミリー」早見和真

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第33回(2020年)山本周五郎賞受賞作品。栗須栄治(くりすえいじ)は馬主の秘書となり、少しずつ競走馬の世界に入っていくこととなる。

前半は栗須(くりす)が雇い主であり馬主である山王構造(さんのうこうぞう)社長と共に競馬の世界で一喜一憂していく様子を描く。そんななか、大学時代の恋人が経営する牧場で育った馬ロイヤルホープが、調教師や騎手などとともに一つのチームとして実績を積み重ねながら人気を獲得していくのである。

その様子からは競馬が決して馬や騎手だけで成り立っているわけではなく、馬主や牧場や考え抜かれた交配など、さまざまな要素を持った文化だということがわかる。

中盤以降は、山王社長の亡くなった後の物語である。三頭の馬を受け継いだ山王社長の腹違いの子供で大学生の中条耕一(なかじょうこういち)は、若さゆえの未熟さを抱えながらも、最先端の技術や斬新な視点でチームに関わっていくのである。

僕自身は競馬をやったことがないが、そんな人にも競馬の魅力が十分に伝わってくる。正直競馬に縁のない人には即効性のある有益な内容は含まれていないが、未知の世界を見せてくれる作品。

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「スカウト・デイズ」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
プロ野球選手からスカウトに転向した久米純哉(くめじゅんや)はスカウトの伝説的な存在である先輩の堂神(どうがみ)とチームとしてスカウトとしての生き方を学んでいく。

先日読んだ同著者の「ミッドナイト・ジャーナル」が報道についてのこれまで知らなかった視点をもたらしてくれたので、著者の他の作品も読んでみたいと思いこちらに辿り着いた。タイトルからスカウトの生き方を扱った作品だとはわかるので、映画にもなった「マネーボール」のような話を想像していたりもしたが、実際にはもっと古く泥臭い人間同士の駆け引きを描いている。

スカウトの目的はドラフトでいい選手を獲得すること、と一般の人は思いがちであるし、実際その通りである。しかし本書を読むと、その先まで考えて自分達のチームが強くなること、少しでも優勝に近づくことを考えて選択をするスカウトがいることがわかる。例えば、選手の実力よりも同じ大学の後輩との人脈を考慮して獲得したり、故障持ちとわかっている選手を情報操作でライバルチームにドラフト一位で獲得させる、などである。

本書はスカウト1年目の久米純哉(くめじゅんや)がスカウトとして成長していく様子を描くと共に、純哉(じゅんや)の上司であり、スカウト界でも有名な堂神(どうがみ)の予想もつかないスカウトの手法を描いていく。

スカウトという普通に生きていると関わることのない世界を、見事に描いた作品。他にも著者の作品を見ると面白そうなタイトルのものが並んでいるのでぜひ引き続き読んでみたいと思った。

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「どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法」Eiko

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
開脚するストレッチの方法を物語を交えて説明している。

最近、改めて体の柔軟性が大きく怪我のリスクを減らすことに考えが至り、毎日時間をとって柔軟性を向上させるよう努めている。そんななか一昔前に騒がれた本書を読んでみようと思い至った。

本書で紹介しているストレッチ方法はわずか6つのみ。ストレッチ方法だけだと20ページも必要ないので、本の厚みを増すために、小さな物語を追加したと言う印象である。

正直、本書の評価は、その情報に価値があるか、つまりそのストレッチ方法でどれだけ効果が出るかによるべきだろう。現在のところそれほど変化はないのでなんとも言えない。読み物として面白いか、という点では良くも悪くもなくほどほどである。まさにほんの一時期トレンドになった程度の本という印象で、同程度の情報としては今であればYouTubeを見れば十分である。

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「へたっぴさんのための背景の描き方入門」森永めぐ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
パースの使い方を中心として背景の描き方を説明する。

一点透視、二点透視、三点透視とパースの基本から説明し、その後実際の絵の中でパースを活かす方法を語っている。

パースの基本は知っているつもりでいたが、消失点の位置や視線の高さなど、今までぼんやりとしか意識していなかったことをおさらいすることができた。パースを知らない人にはさらに役に立つだろう。ちなみに、本書はあくまでもパースを利用した背景のシェイプの描き方であって、色の塗り方には一切ふれていない。

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「BUTTER」柚木麻子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女性記者の里佳(りか)は、連続不審死事件の被告となっている同世代の女性梶井真奈子(かじいまなこ)を取材するなかで、美食や贅沢を体験するようになる。

これまで独身女性として生きてきたために美食や贅沢にあまり興味のなかった里佳(りか)が、梶井真奈子(かじいまなこ)の事件の真相や、その真理を理解するために少しずつ、食にこだわり始めるところが面白い。それと並行して、友人の怜子(れいこ)や、里佳(りか)への情報提供者だった篠井(しのい)の過去や家族との状況が少しずつ明らかになってくる。どの家族にも大小さまざまな問題があることが描かれる。

序盤はやや焦れるほどゆっくり進み、中盤以降は物語は一気に速度を上げてしていく。食のあるべき楽しみ方や、女性としての社会での生き方など、複数のテーマが取り入れられており、それぞれの深みを感じさせる。一方で、複数のテーマを入れ込んだせいか、テーマがぶれている気もした。決して退屈ではないが、一貫した著者のこの作品を書くにあたって読者に訴えたいもの、つまりメインテーマがはっきりしない印象を受けた。

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「プロの画家になる!絵で生きていくための142条」佐々木豊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
画家の佐々木豊氏が、画家に対して一般の人が抱きがちな142の質問に答えていく。

自分みたいな祖神者にとって、美大に行くのはどれほど絵の上達に意味があるのかは、常に関心のあるところだろう。著者は次のように質問に答えている。

Q8 美大で学べるものはなんですか?
芸大で学ぶものは何もない。食堂の安いめしと青春があるだけだ…
美大は貸アトリエと思えばいいのだ。それは今も、そんなに変わりはない。

改めて、画家という生き方は、表面的な部分を楽しんでいる自分の想像以上に深いものだと思い知った。すぐに起こせる具体的な行動としては、著者の行っている絵の土台作りを真似したいと思ったし、近所で参加できそうな画家コミュニティを見つけて、定期的に刺激を受ける環境を作りたいと思った。

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「ローマ人の物語 迷走する帝国」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ帝国の物語の紀元三世紀の出来事を語る。73年間の間に22人も皇帝が交代する不安定な時代である。

タイトルからも伝わるようにすでにローマ帝国は全盛期を過ぎて、少しずつ衰退し始める。衰退の原因を一つに絞ることは難しいが、それらしい動きはこの時代の各所に見られる。なかでも印象的だったのはカラカラ帝の定めた法律「アントニヌス勅令」である。この法律はこれまでローマ市民と属州民と分かれていた市民を全てローマ市民とするということで、属州民にもローマ市民としての権利を与えることになるのである。この市民を平等に扱う聞こえの良い法律が少しずつローマ帝国を内面から蝕んでいくのである。

ローマ市民権は長く維持してきたその魅力を失ったのである。魅力を感じなくなれば、市民権に付随する義務感も責任感も感じなくなる。…誰でも持っているということは、誰も持っていないと同じことなのだ。

ローマ帝国の洗練された技術やシステムは驚くことばかりだが、間違いなくこれはよくないと思うことの一つが、皇帝に対する不信任を平和的に表明する制度が存在しないことである。それゆえに、未熟な皇帝が現れた時には、誰かが殺すしかないのである。この時代の混乱はまさにそんな不信任が繰り返された結果とも言えよう。

今回は普段にも増して学びが多い時代だった。

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「地の底のヤマ」西村健

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第33回(2012年)吉川英治文学新人賞受賞学品。炭鉱で栄えた福岡県の大牟田市で、警官として生きる猿渡鉄男(さるわたりてつお)の人生を描く。

大牟田市で警官の父親の元に生まれた猿渡鉄男(さるわたりてつお)は、やがて自分も警官として生きることとなる。大牟田市は炭鉱によって栄えたために、多くの人は旧労働組合組員、新燈籠組合組員、会社の人間と、炭鉱での立場で分かれており、それは小学校や中学校の子供たちのグループにまで影響を与えていた。それとあわせて昭和38年に起きた大規模な爆発事故によって障害を抱えた多くのCO2患者たちも街には多数住んでいた。

そんな街で警官として生きる猿渡鉄男(さるわたりてつお)はその職務の中で、人々の父親に対する尊敬の念を日々感じることとなる。父親は38年の爆発事故の混乱のなかでに何者かに殺害されており、その謎が鉄男(てつお)の心に何度も繰り返しやってくる。

また、鉄男(てつお)には中学生たちに友人たちと行った人には言えない過去があった。今では、その友人たちも大蔵省で働いていた理、検事になっていたりするので、過去の出来事を公に語ることはできなくなった。しかし、鉄男(てつお)は良心の呵責に苦しみ続けるのである。

大牟田市が炭鉱によって栄えた町だということも知らなかったし、昭和38年に起こった爆発事故についてもこの作品で初めて知った。石炭というエネルギーへの需要の大きさが大きな時代を作っていたことを伝えてくれる。著者はこの大牟田市で生まれ育ったというから、そんな著者の故郷の炭鉱の歴史を遺したいという強い思いが伝わってくる。

しかし、全体的に長すぎる印象は否めない。長い小説をすべて否定しているわけではない、実際、「白夜行」や「魍魎の匣」のように、その長さに必要性を感じる良い小説は存在する。しかし、本作品に関しては1400ページを超える長さが必要だったのかは疑問である。正直ページ数を3分の2程度に抑えたほうが書籍としての密度も上がるし、展開も読みやすくなるのではないかと感じた。

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「ミッドナイト・ジャーナル」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第38回吉川英治文学新人賞受賞学品。埼玉県で女児の連れ去り未遂事件が発生した。中央新聞社の関口豪太郎(せきぐちごうたろう)は、7年前の児童誘拐殺害事件との関連を含めて、真実を誰よりも早く報道しようとする。

事件としては誘拐殺人事件という点で、昨今の小説や映画にありがちな必要以上に残虐な描写はほとんどない。むしろ物語は、その事件を報道する3人の新聞記者たちに焦点をあてている。中央新聞社のベテラン関口豪太郎(せきぐちごうたろう)、女性記者である藤瀬祐里(ふじせゆり)、松本博史(まつもとひろふみ)である。

3人は7年前の事件で共に行動し、結果的に誤報に関わった経験を持つが、今は別々の部署で働いている。それぞれが新たに女児連れ去り事件が発生したことで、過去の苦い思い出と向き合いながらもそれぞれの立場で事件の真相に近づこうとするのである。

事件の動きはそれほど多くはないが、その間、記者たちが真実を知ろうとして警察関係者との関係を築き、真実を話してもらうまでの駆け引きが面白い。新聞記者は真実を知るために、警察関係者たちとの人間関係の構築に時間をかけるのである。しかし、そんな時間をかけて構築された人間関係も、書くな、と言われたことを書いたり、逆に、嘘を教えられたりすることで壊れてしまうこともあるだ。

インターネットの存在によって早く報道することの意義が薄れながらも、そこに価値を感じて生きる記者たちの生き方を魅力的に描いている。著者の他の作品も読んでみたいと思った。

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「金持ちフリーランス 貧乏サラリーマン」 やまもとりゅうけん

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
フリーランスという生き方のメリットを語る。

基本的にいっていることは、フリーランスのメリットと、貯蓄ではなく投資をすべきという考え方である。

著者の語っていることに大きな違和感は感じないが、特に目新しいことは書いていない。気になるのは著者自身のオンラインサロンについて何度も触れている点である。そのせいで、人に知識を分け与えるための本というよりも、自分のサービスのプロモーションのための本といった印象であるし、実際そうなのだろう。昨今このような本が増えてきているので、出版社も良い本を世に送り出すという哲学を持って欲しい。著者名だけでなく出版社名に注意することも、今後良い本を見極め、中身のない本に時間を費やさないためには必要だと思った。

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「絵画の教科書 アクリル画編」古山浩一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アクリル画家の著者がアクリル画の描き方を解説する。

アクリル絵の具で描く絵の上達のヒントがあるのではないかと思い本書に辿り着いた。

本書は次の6つの章に分かれている。

  • さまざまな下地を使いこなす
  • 明暗法を使いこなす
  • 画材道具を使いこなす
  • 人物を描く
  • 静物を描く
  • アクリル画表現の可能性

1章を丸々下地造りの説明をしており、著者自信下地づくりに大きな時間を割いている点が印象的だった。

明暗法についての説明でも学ぶ部分があった。光の当たり方によって明暗を使い分ける、近い場所のコントラストは強く、遠い場所のコントラストは弱い。このような説明を聞くとひどく当たり前のことのように聞こえるが、本書で立方体を明暗法で再現している手順を読むと、優れた画家は、今まで自分が意識していた以上に細かい部分まで考慮していることがわかった。

アクリル画について学ぶ本であるが、各ページに差し込まれている著者の作品や有名画家の作品もすばらしく大いに刺激になった。

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「色鉛筆で写真のような絵が描けるようになる本」慧人

★★★★☆ 4/5
色鉛筆を得意とするイラストレーターの著者がその制作過程を語る。

僕自身色鉛筆で絵を描くようになって2年ほど経ち、いろいろ限界を感じ始めたのでなにかヒントを期待し、本書を手に取った。

著者の興味深いところはその描く対象の選択である。著者はコーラやグラスやニンテンドーDSなど身の回りにあるものを主に描くのである。しかも立体絵、つまりただ描くだけではなく斜めから見た時に実際にそこに存在するかのようにリアルに描くことを得意としている。

本書ではそんな立体絵を描く筆者の制作過程を詳細に説明している。軽く塗り重ねる事で塗りムラを少なくできるということと、異なる硬さの色鉛筆を塗り重ねる事でより滑らかでリアルな表現が可能になることがなどがわかった。また、立体絵の制作過程の説明もあり、今までどちらかというと人物画や風景画を描くことが多かったがぜひ周囲の物を立体絵で描いてみたいと思った。単純な物を描く方が濃淡の微妙な色の濃淡を身につけるためには効果的なことだろう。

全体的にまだまだ僕自身伸びしろがあることを思い知ったし、良い刺激を与えてもらった。

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「フランス人はボンジュールと言いません」Bebechan

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フランス人でYouTubeでフランス語を教える著者がフランス語とフランス文化について語る。

細々とフランス語を勉強している中で、単純に文法やフランス語会話だけでなく、文化など言語学習とは少し異なる視点でフランス語に触れたいと思い本書に辿り着いた。

本書はフランス人の著者が初心者向けにフランス語やフランスの文化を説明する。すでにフランス語を数年学んでいる僕にとってもいくつか新しい発見があった。
フランス語の数字の読み方は非常に特殊だが、改めて本書でおさらいさせてもらった。

マドモアゼルというフランス語では誰でも一度は聞いたことがある単語が、今は使われなくなったというのを知らなかった。また日本語の「だよね」や英語の「don’t you?」のような使い方ができるフランス語、heinの使い方も本書を読んで初めて知った。このような単語は普通に文法書を読んでいるだけでは気づけないのでありがたい。

PACSという結婚に代わる制度や、恋人との付き合い方の考え方など日本とは異なる文化も紹介されており楽しめた。もう少し細かく調べて知りたいと思った。

著者のYouTubeでもぜひ見てみたいと思った。改めてフランス語学習のモチベーションを高めてもらった。

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「限界を越えるピアノ演奏法」川上昌裕

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
音楽家であり指導者でもある著者がピアノの学び方について語る。

大人の趣味としてピアノを練習している中で、ピアノに関する視点を少しでも多く取り入れられればと思い本書を手に取った。

読み始めて気づいたのだが、著者は盲目のピアニストとして有名な辻井伸行氏を指導した先生でもあるという事で、辻井伸行氏とのエピソードも含まれている。そんほかにもピアノ学習方法や、さまざまなジャンルの音楽を身につけるための考え方などを語っている。そのいくつかは他の分野の上達にも適応できそうなものである。

特に

  • インプットとアウトプットのバランス
  • クリエイティブとはゼロから作り出すことではない

の章などはデザイナー視点からも大いに共感できる。

残念ながら、タイトルにある限界を超えるピアノの演奏法らしきものは一切書いてなかった。ピアノの演奏を必ずしも知りたくて本書に辿り着いたわけではないが、いいことを語っている部分もあるだけに、商業主義のなかで内容と一致しないタイトルをつけている点が残念である。

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「スモールワールズ」一穂ミキ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第43回吉川英治文学新人賞受賞作品。6つの物語を収録した短編集である。

短編集というと作者にとって実験的な物語も多く、なかなか全体として印象に残りにくいのだが、本作品は3編ほど印象に残る作品があり、短編集としてはかなり打率が高い。特に2作品目の「魔王の帰還」、そして最後の2作品「愛を適量」「式日」である。

いずれの物語も、家族に問題を抱えている人々の揺れ動く心情を描いている。何が正しくて何が正しくないのか、そんな答えのない出来事に度々遭遇する。そんな人生のやりきれなさを存分に味わわせてくれる。

一穂ミキという著者に触れるのは今回が初めてだが、長編などにも触れたいと思った。

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「空の模様の描き方」クメキ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Clip Studio Paintでよる空をメインとした5つの絵の描き方を解説している。

晴天の空、夕焼けの空、星空、雨天の空など5つの絵をラフ作成から順を追って詳細に解説しているので、非常にわかりやすく、また絵を描くためのアイデアとしても刺激になった。

本書は基本的にはClip Studio Paint(以下クリスタ)による操作を解説しているが、Procreate、Photoshopさらにいえば実際のアナログ絵画にも十分応用可能である。

改めて空と雲のレイヤーを分けることは効率よく絵画作成を進める上で重要だと思ったし、筆者が多用しているメッシュ変形による空の効果はぜひ取り入れてみたいと思った。

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