「へたっぴさんのための背景の描き方入門」森永めぐ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
パースの使い方を中心として背景の描き方を説明する。

一点透視、二点透視、三点透視とパースの基本から説明し、その後実際の絵の中でパースを活かす方法を語っている。

パースの基本は知っているつもりでいたが、消失点の位置や視線の高さなど、今までぼんやりとしか意識していなかったことをおさらいすることができた。パースを知らない人にはさらに役に立つだろう。ちなみに、本書はあくまでもパースを利用した背景のシェイプの描き方であって、色の塗り方には一切ふれていない。

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「BUTTER」柚木麻子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女性記者の里佳(りか)は、連続不審死事件の被告となっている同世代の女性梶井真奈子(かじいまなこ)を取材するなかで、美食や贅沢を体験するようになる。

これまで独身女性として生きてきたために美食や贅沢にあまり興味のなかった里佳(りか)が、梶井真奈子(かじいまなこ)の事件の真相や、その真理を理解するために少しずつ、食にこだわり始めるところが面白い。それと並行して、友人の怜子(れいこ)や、里佳(りか)への情報提供者だった篠井(しのい)の過去や家族との状況が少しずつ明らかになってくる。どの家族にも大小さまざまな問題があることが描かれる。

序盤はやや焦れるほどゆっくり進み、中盤以降は物語は一気に速度を上げてしていく。食のあるべき楽しみ方や、女性としての社会での生き方など、複数のテーマが取り入れられており、それぞれの深みを感じさせる。一方で、複数のテーマを入れ込んだせいか、テーマがぶれている気もした。決して退屈ではないが、一貫した著者のこの作品を書くにあたって読者に訴えたいもの、つまりメインテーマがはっきりしない印象を受けた。

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「プロの画家になる!絵で生きていくための142条」佐々木豊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
画家の佐々木豊氏が、画家に対して一般の人が抱きがちな142の質問に答えていく。

自分みたいな祖神者にとって、美大に行くのはどれほど絵の上達に意味があるのかは、常に関心のあるところだろう。著者は次のように質問に答えている。

Q8 美大で学べるものはなんですか?
芸大で学ぶものは何もない。食堂の安いめしと青春があるだけだ…
美大は貸アトリエと思えばいいのだ。それは今も、そんなに変わりはない。

改めて、画家という生き方は、表面的な部分を楽しんでいる自分の想像以上に深いものだと思い知った。すぐに起こせる具体的な行動としては、著者の行っている絵の土台作りを真似したいと思ったし、近所で参加できそうな画家コミュニティを見つけて、定期的に刺激を受ける環境を作りたいと思った。

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「ローマ人の物語 迷走する帝国」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ帝国の物語の紀元三世紀の出来事を語る。73年間の間に22人も皇帝が交代する不安定な時代である。

タイトルからも伝わるようにすでにローマ帝国は全盛期を過ぎて、少しずつ衰退し始める。衰退の原因を一つに絞ることは難しいが、それらしい動きはこの時代の各所に見られる。なかでも印象的だったのはカラカラ帝の定めた法律「アントニヌス勅令」である。この法律はこれまでローマ市民と属州民と分かれていた市民を全てローマ市民とするということで、属州民にもローマ市民としての権利を与えることになるのである。この市民を平等に扱う聞こえの良い法律が少しずつローマ帝国を内面から蝕んでいくのである。

ローマ市民権は長く維持してきたその魅力を失ったのである。魅力を感じなくなれば、市民権に付随する義務感も責任感も感じなくなる。…誰でも持っているということは、誰も持っていないと同じことなのだ。

ローマ帝国の洗練された技術やシステムは驚くことばかりだが、間違いなくこれはよくないと思うことの一つが、皇帝に対する不信任を平和的に表明する制度が存在しないことである。それゆえに、未熟な皇帝が現れた時には、誰かが殺すしかないのである。この時代の混乱はまさにそんな不信任が繰り返された結果とも言えよう。

今回は普段にも増して学びが多い時代だった。

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「地の底のヤマ」西村健

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第33回(2012年)吉川英治文学新人賞受賞学品。炭鉱で栄えた福岡県の大牟田市で、警官として生きる猿渡鉄男(さるわたりてつお)の人生を描く。

大牟田市で警官の父親の元に生まれた猿渡鉄男(さるわたりてつお)は、やがて自分も警官として生きることとなる。大牟田市は炭鉱によって栄えたために、多くの人は旧労働組合組員、新燈籠組合組員、会社の人間と、炭鉱での立場で分かれており、それは小学校や中学校の子供たちのグループにまで影響を与えていた。それとあわせて昭和38年に起きた大規模な爆発事故によって障害を抱えた多くのCO2患者たちも街には多数住んでいた。

そんな街で警官として生きる猿渡鉄男(さるわたりてつお)はその職務の中で、人々の父親に対する尊敬の念を日々感じることとなる。父親は38年の爆発事故の混乱のなかでに何者かに殺害されており、その謎が鉄男(てつお)の心に何度も繰り返しやってくる。

また、鉄男(てつお)には中学生たちに友人たちと行った人には言えない過去があった。今では、その友人たちも大蔵省で働いていた理、検事になっていたりするので、過去の出来事を公に語ることはできなくなった。しかし、鉄男(てつお)は良心の呵責に苦しみ続けるのである。

大牟田市が炭鉱によって栄えた町だということも知らなかったし、昭和38年に起こった爆発事故についてもこの作品で初めて知った。石炭というエネルギーへの需要の大きさが大きな時代を作っていたことを伝えてくれる。著者はこの大牟田市で生まれ育ったというから、そんな著者の故郷の炭鉱の歴史を遺したいという強い思いが伝わってくる。

しかし、全体的に長すぎる印象は否めない。長い小説をすべて否定しているわけではない、実際、「白夜行」や「魍魎の匣」のように、その長さに必要性を感じる良い小説は存在する。しかし、本作品に関しては1400ページを超える長さが必要だったのかは疑問である。正直ページ数を3分の2程度に抑えたほうが書籍としての密度も上がるし、展開も読みやすくなるのではないかと感じた。

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「ミッドナイト・ジャーナル」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第38回吉川英治文学新人賞受賞学品。埼玉県で女児の連れ去り未遂事件が発生した。中央新聞社の関口豪太郎(せきぐちごうたろう)は、7年前の児童誘拐殺害事件との関連を含めて、真実を誰よりも早く報道しようとする。

事件としては誘拐殺人事件という点で、昨今の小説や映画にありがちな必要以上に残虐な描写はほとんどない。むしろ物語は、その事件を報道する3人の新聞記者たちに焦点をあてている。中央新聞社のベテラン関口豪太郎(せきぐちごうたろう)、女性記者である藤瀬祐里(ふじせゆり)、松本博史(まつもとひろふみ)である。

3人は7年前の事件で共に行動し、結果的に誤報に関わった経験を持つが、今は別々の部署で働いている。それぞれが新たに女児連れ去り事件が発生したことで、過去の苦い思い出と向き合いながらもそれぞれの立場で事件の真相に近づこうとするのである。

事件の動きはそれほど多くはないが、その間、記者たちが真実を知ろうとして警察関係者との関係を築き、真実を話してもらうまでの駆け引きが面白い。新聞記者は真実を知るために、警察関係者たちとの人間関係の構築に時間をかけるのである。しかし、そんな時間をかけて構築された人間関係も、書くな、と言われたことを書いたり、逆に、嘘を教えられたりすることで壊れてしまうこともあるだ。

インターネットの存在によって早く報道することの意義が薄れながらも、そこに価値を感じて生きる記者たちの生き方を魅力的に描いている。著者の他の作品も読んでみたいと思った。

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「金持ちフリーランス 貧乏サラリーマン」 やまもとりゅうけん

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
フリーランスという生き方のメリットを語る。

基本的にいっていることは、フリーランスのメリットと、貯蓄ではなく投資をすべきという考え方である。

著者の語っていることに大きな違和感は感じないが、特に目新しいことは書いていない。気になるのは著者自身のオンラインサロンについて何度も触れている点である。そのせいで、人に知識を分け与えるための本というよりも、自分のサービスのプロモーションのための本といった印象であるし、実際そうなのだろう。昨今このような本が増えてきているので、出版社も良い本を世に送り出すという哲学を持って欲しい。著者名だけでなく出版社名に注意することも、今後良い本を見極め、中身のない本に時間を費やさないためには必要だと思った。

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「絵画の教科書 アクリル画編」古山浩一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アクリル画家の著者がアクリル画の描き方を解説する。

アクリル絵の具で描く絵の上達のヒントがあるのではないかと思い本書に辿り着いた。

本書は次の6つの章に分かれている。

  • さまざまな下地を使いこなす
  • 明暗法を使いこなす
  • 画材道具を使いこなす
  • 人物を描く
  • 静物を描く
  • アクリル画表現の可能性

1章を丸々下地造りの説明をしており、著者自信下地づくりに大きな時間を割いている点が印象的だった。

明暗法についての説明でも学ぶ部分があった。光の当たり方によって明暗を使い分ける、近い場所のコントラストは強く、遠い場所のコントラストは弱い。このような説明を聞くとひどく当たり前のことのように聞こえるが、本書で立方体を明暗法で再現している手順を読むと、優れた画家は、今まで自分が意識していた以上に細かい部分まで考慮していることがわかった。

アクリル画について学ぶ本であるが、各ページに差し込まれている著者の作品や有名画家の作品もすばらしく大いに刺激になった。

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「色鉛筆で写真のような絵が描けるようになる本」慧人

★★★★☆ 4/5
色鉛筆を得意とするイラストレーターの著者がその制作過程を語る。

僕自身色鉛筆で絵を描くようになって2年ほど経ち、いろいろ限界を感じ始めたのでなにかヒントを期待し、本書を手に取った。

著者の興味深いところはその描く対象の選択である。著者はコーラやグラスやニンテンドーDSなど身の回りにあるものを主に描くのである。しかも立体絵、つまりただ描くだけではなく斜めから見た時に実際にそこに存在するかのようにリアルに描くことを得意としている。

本書ではそんな立体絵を描く筆者の制作過程を詳細に説明している。軽く塗り重ねる事で塗りムラを少なくできるということと、異なる硬さの色鉛筆を塗り重ねる事でより滑らかでリアルな表現が可能になることがなどがわかった。また、立体絵の制作過程の説明もあり、今までどちらかというと人物画や風景画を描くことが多かったがぜひ周囲の物を立体絵で描いてみたいと思った。単純な物を描く方が濃淡の微妙な色の濃淡を身につけるためには効果的なことだろう。

全体的にまだまだ僕自身伸びしろがあることを思い知ったし、良い刺激を与えてもらった。

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「フランス人はボンジュールと言いません」Bebechan

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フランス人でYouTubeでフランス語を教える著者がフランス語とフランス文化について語る。

細々とフランス語を勉強している中で、単純に文法やフランス語会話だけでなく、文化など言語学習とは少し異なる視点でフランス語に触れたいと思い本書に辿り着いた。

本書はフランス人の著者が初心者向けにフランス語やフランスの文化を説明する。すでにフランス語を数年学んでいる僕にとってもいくつか新しい発見があった。
フランス語の数字の読み方は非常に特殊だが、改めて本書でおさらいさせてもらった。

マドモアゼルというフランス語では誰でも一度は聞いたことがある単語が、今は使われなくなったというのを知らなかった。また日本語の「だよね」や英語の「don’t you?」のような使い方ができるフランス語、heinの使い方も本書を読んで初めて知った。このような単語は普通に文法書を読んでいるだけでは気づけないのでありがたい。

PACSという結婚に代わる制度や、恋人との付き合い方の考え方など日本とは異なる文化も紹介されており楽しめた。もう少し細かく調べて知りたいと思った。

著者のYouTubeでもぜひ見てみたいと思った。改めてフランス語学習のモチベーションを高めてもらった。

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「限界を越えるピアノ演奏法」川上昌裕

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
音楽家であり指導者でもある著者がピアノの学び方について語る。

大人の趣味としてピアノを練習している中で、ピアノに関する視点を少しでも多く取り入れられればと思い本書を手に取った。

読み始めて気づいたのだが、著者は盲目のピアニストとして有名な辻井伸行氏を指導した先生でもあるという事で、辻井伸行氏とのエピソードも含まれている。そんほかにもピアノ学習方法や、さまざまなジャンルの音楽を身につけるための考え方などを語っている。そのいくつかは他の分野の上達にも適応できそうなものである。

特に

  • インプットとアウトプットのバランス
  • クリエイティブとはゼロから作り出すことではない

の章などはデザイナー視点からも大いに共感できる。

残念ながら、タイトルにある限界を超えるピアノの演奏法らしきものは一切書いてなかった。ピアノの演奏を必ずしも知りたくて本書に辿り着いたわけではないが、いいことを語っている部分もあるだけに、商業主義のなかで内容と一致しないタイトルをつけている点が残念である。

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「スモールワールズ」一穂ミキ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第43回吉川英治文学新人賞受賞作品。6つの物語を収録した短編集である。

短編集というと作者にとって実験的な物語も多く、なかなか全体として印象に残りにくいのだが、本作品は3編ほど印象に残る作品があり、短編集としてはかなり打率が高い。特に2作品目の「魔王の帰還」、そして最後の2作品「愛を適量」「式日」である。

いずれの物語も、家族に問題を抱えている人々の揺れ動く心情を描いている。何が正しくて何が正しくないのか、そんな答えのない出来事に度々遭遇する。そんな人生のやりきれなさを存分に味わわせてくれる。

一穂ミキという著者に触れるのは今回が初めてだが、長編などにも触れたいと思った。

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「空の模様の描き方」クメキ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Clip Studio Paintでよる空をメインとした5つの絵の描き方を解説している。

晴天の空、夕焼けの空、星空、雨天の空など5つの絵をラフ作成から順を追って詳細に解説しているので、非常にわかりやすく、また絵を描くためのアイデアとしても刺激になった。

本書は基本的にはClip Studio Paint(以下クリスタ)による操作を解説しているが、Procreate、Photoshopさらにいえば実際のアナログ絵画にも十分応用可能である。

改めて空と雲のレイヤーを分けることは効率よく絵画作成を進める上で重要だと思ったし、筆者が多用しているメッシュ変形による空の効果はぜひ取り入れてみたいと思った。

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「塞王の楯」今村翔吾

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第166回直木賞受賞作品。戦国時代の戦乱の中、親を失い、石垣造りを生業とする飛田屋の頭源斎(げんさい)に拾われた匡介(きょうすけ)が飛田屋の頭として成長していく様子を描く。

何よりもまず、石垣造りという職業に魅了される。戦乱の時代だからこそニーズがあったその職業と、石を積むという作業の深さを味わえる。石垣造り職人は、積方、山方、荷方の3つに分けられ、それぞれ、石を積む人、切り出す人、運ぶ人としてそれぞれの分野で技術を磨き、共同して石垣造りをするのである。

豊臣家によって世の平穏が訪れ、戦国時代の終わりを感じさせる中、源斎(げんさい)がその立場を匡介(きょうすけ)に譲りわたしていく過程を描く。飛田屋の家に生まれながらも匡介(きょうすけ)に立場を譲った玲次(れいじ)の存在も面白い。匡介(きょうすけ)と玲次(れいじ)は互いの技術を尊重しながら共に飛田屋に尽くすのである。

物語は大津城の城主、京極家からの依頼によって大津城と京極家と飛田屋は関わっていくこととなる。また、鉄砲作りの彦九郎(ひこくろう)の存在も物語を面白くしている。石垣造りに飛田屋が頑丈な石垣を作ることで世の中の平和に貢献できると信じる一方、鉄砲造りに賭ける彦九郎(ひこくろう)は、強い武器をつくってこそ、人は戦いをやめると信じている点が面白い。

物語はやがて大津城を舞台に東西の決戦の時を迎える。そしてそこは、石垣、鉄砲と手段は異なれど自分達の仕事を通じて平和な世界を作ろうとする匡介(きょうすけ)と彦九郎(ひこくろう)の一騎討ちの場ともなるのである。

非常に楽しめた。現代は失われた石垣造りや鉄砲造りという職業を、当時の人々の葛藤を巧みに絡めて素敵な物語に仕上げている。

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「恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」エイミー・C・エドモントン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
組織における心理的安全性の重要性とその実現の方法について語る。

心理的安全性という言葉を聞くようになってしばらく経つ。VUCA(Volatility, Undertainty, Ambiauity)と呼ばれる現代においてすべての立場の人間が思っていることを発言する環境をどのように作り上げるのか、が組織の生き残りの鍵となる。本書は多くの例を交えながら心理的安全性を説明する。

まず心理的安全性という言葉の定義がわかりにくいと感じているのは僕だけではないと思うが、その言葉の解釈に対するよくある誤解として次の5つに触れている

  • 心理的安全性は、感じよく振る舞うこととは関係がない
  • 心理的安全性は、性格の問題ではない
  • 心理的安全性は、信頼の別名ではない
  • 心理的安全性は、目標達成基準を下げることではない

つまり、心理的安全性の実現を努力しない理由はないということである。

本書を手に取る人間にとって重要なのは、どうやって心理的安全性を実現するかであろう。本書ではその手順を土台をつくる、参加を求める、生産的に対応するの3つに分けて次のように説明している。

土台をつくる
・仕事をフレーミングする
・目的を際立たせる
参加を求める
・状況的謙虚さ
・発言を引き出す問い
・システムと仕組み
生産的に対応する
・感謝を表す
・失敗を恥ずかしいものではないとする
・明確な違反について処罰する

要所要所に差し込まれる物語も面白い。スペースシャトルのコロンビア号やチャレンジャー号の事故はそこら中で触れられているのでそれほど新鮮ではないが、映画にもなったハドソン川着陸のパイロットたちの物語や全員が協力してメルトダウンを防いだ福島第二号原子力発電所の話は本書で初めて知った。

心理的安全性はリーダーだけが実現に努めることではない。組織のすべての人間が日々努めることなのだと改めて感じだ。また、心理的安全性は会社などの組織においてのみ重要なのではなく、同じ考えは家庭にも適用できると感じた。さっそく今日から意識して行動したい。

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「無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた」元山文菜

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
現在も多くの会社で行われている、会社の無駄作業をまとめ代替案と共に紹介している。

僕自身はIT業界に勤めており、現在もスタートアップで仕事をしているので、リモートワーク、ペーパーレスなど新しい業務の進め方に慣れているが、世の中には今も古い方式に縛られている組織も多いらしい。本書ではそんな無駄作業をまとめている。

個人的には会議のムダの話がうっかりしていると陥りそうだと思った。本書でいう

  • とりあえず会議
  • ラジオミーティング

である。聞き流しているだけのミーティングなど、発言しない人が存在する会議は撲滅すべきだと改めて思った。

正直普段から新しい業界で仕事をしている人にとってはあまり目新しい内容はないだろう。強いていえば、世の中の古い会社ってこんなことをまだやっているんだ、という世間を知るための学びにはなるかもしれない。

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「ポイズンドーター・ホーリーマザー」湊かなえ

オススメ度 ★☆☆☆☆ 1/5
女性目線の人間関係を扱った6編の物語。

先日読んだ「ユートピア」が比較的面白かったので、湊かなえ作品のなかで良い作品を読み損ねているのではないかと思い、本書にたどり着いた。

6編とも女性目線の物語で、すべての物語で交通事故や殺人事件で誰かが亡くなる事件が起きる。

著者湊かなえは毎回女性の醜い部分を書くことにこだわっているように感じるが、本作品も嫉妬や自意識や他責など、女性の醜い部分を存分に描いており、残念ながら楽しい部分や見習うべき部分、共感できる部分はほとんどなかった。

正直、著者が何を伝えたくて本作品を描いたのか掴みかねた。単に描きたいものを描くだけでなく、大切なことを物語を通じて伝えたいとか、少しでも世の中を良くしたいとか、物語の作者にも自身の大義を持ってほしいと思うが、本書からは感じなかった。

最後の2編「ポイズンドーター」と「ホーリーマザー」は娘目線、母親目線と物語の裏と面になっている。娘は母を毒親と言い続け、母親の側は娘を恩知らずと見る物語である。普段人の文句ばかり言って自ら人生を変えるための行動をしないような人が読むと、何か感じるものがあるのかもしれない。

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「平場の月」朝倉かすみ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
50代になった青砥(あおと)は高校時代の同級生の須藤(すとう)と出会う。二人は少しずつ距離を縮めていく。

序盤にすでに須藤(すとう)が亡くなったことを知った青砥(あおと)が、須藤(すとう)との出会いを回想する形で物語は進んでいく。どちらも一度の結婚と離婚をしたあとに出会ったから、学生のようにキラキラしていない感じがありそうな雰囲気を醸し出している。恋愛に無鉄砲になれないために、なかなか前進しない関係や周囲にいる人の噂を話す人たちの存在を描いているところが面白い。

50代の男女の物語というのが新鮮である。若い頃はは50代といえば、すでに人生の晩年のような印象を持っていたが、自分自身アラフィスに近づいた今、50代でも生き方次第でいくらでも青春できることを知っている。そういう意味ではもっと50代の青春を描いた物語が増えてきても良いだろう。

似た物語が一切思い付かないぐらい、新鮮さを感じさせてくれる物語である。

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「過労死ゼロの社会を 高橋まつりさんんはなぜ亡くなったのか」高橋幸美/川人博

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
新入社員で電通に勤務し、過労のため自殺した高橋まつりさんの事件について語る。

日本のテレビ、新聞に大きな影響力を持つ電通について知ることは、メディアを通じて流れこむ情報を補正し正しい真実を見極めるための助けになるだろう。そう考えて電通関連の書籍を読み漁っている中で本書にたどり着いた。

本書は、最初に高橋まつりさんの自殺の後に判明した事実、次に母の高橋幸美さんからみたまつりさんとの思い出や自殺が起きるまでの様子、そして最後に弁護を担当した川人博(かわひとひろし)さんの過労死やそれを生み出した企業に対しての思いの順番に書かれている。

事実に関しては、すでにネットで見聞きした情報以上のことはなかったが、むしろ印象的だったのは第2章の母親の当時の体験談である。

大学合格までの話は、むしろ子育てをする親目線でいろいろ考えさせられた。シングルマザーの母親の元で、都内で育ったわけでもないのに自ら勉強をして東大に合格するような人間が育つのだと驚かされた。しかし、一方でその何事にも一生懸命で混乱から逃げることをしない生き方が不幸な結果に繋がった一因とも考えられるのでなんともいえない。

この事件を聞いた人のなかには「自殺する前にどうして会社を辞めないんだ?」という感想を抱いた人も多いと思う。本書の幸美さんの手記を読むと高橋まつりさん本人も、幸美さん自身も、それを理解していたし、自殺する当日ですら幸美さんがまつりさんにで電話で語っていたことがわかる。

「死んじゃダメだよ。会社なんでやめてしまいなさい」と言うと、「うんうん」と聞いていました。

改めて、睡眠不足で神経が衰弱すると正常な判断ができなくなるのだと感じた。周囲の人間としてできることは言葉で正論をぶつけることではなく、強制的に会社を休ませたり辞めさせたりするなど、制約を与えることなのだと感じた。

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「六人の嘘つきな大学生」浅倉秋成

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人気企業の内定のための最終選考で6人の大学生が残った。採用担当者はその6人に、グループディスカッションで内定者を1名決めるように伝える。

序盤は6人のなかの一人波多野翔吾(はたのしょうご)目線で物語が進む。指定された日時に6人は、その企業の会議室に集まって内定者を決めるディスカッションを始めるのである。隣室で採用担当者がカメラで観察しているので、自分勝手なふるまいをするわけにもいかないが、内定を勝ち取るために自己主張もしていかなければならない。

そんなディスカッションは、会議室の入り口脇にあった封筒が見つかったことで大きく動き出す。その封筒には参加者6人のそれぞれの過去の犯罪や愚かな行為が告発されていたのである。

後半はその数年後の物語。6人のうちの1人が、当時のグループディスカッションの真実を探ろうと当時の関係者に話を聞いて回るる。採用担当者の意見が面白い。

『落とした学生の中に、もっと優秀なやつがいたんじゃないか?』保証しますけどね、一万パーセント、いましたよ。絶対にいました。

グーグルの人事について扱った「ワーク・ルールズ!」でもの採用の難しさについて書いてあったが、今の形の企業側も死亡者側にも膨大な時間を要する就職・採用活動はいつ今の形をだっするんだろう、と考えさせられた。

アニメ「デスノート」やドラマ「ライアーゲーム」のような一時期流行った心理戦を描いた物語と予想していたが、そんな空気を感じさせたのは序盤だけで、中盤以降からは、現在の就職活動の問題人間の二面性を取り入れた、深みを感じさせる内容だった。

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