「クリエイティブのつかいかた ビジネスに活かすトップクリエイター12人の仕事術」西澤明洋

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日経デザインに連載された内容をまとめたもので、著者が12人のクリエイターにインタビューした内容と、その際の著者の気づきを説明している。

多くのクリエイターが1970年代生まれということで、僕自身と世代が被っているため共感する部分が多い。インターネットが一気に世の中に広まる時期という、クリエイターになる道が確立されていなかった時代に社会に出てきた人々が多く、、さまざなバックグラウンドを持っている点が興味深い。エンジニアやデザイナーという枠にとらわれない考え方も面白く、いい刺激を与えてもらった。

クリエイターの方にとっては多くの刺激になるのではないだろうか。

【楽天ブックス】「クリエイティブのつかいかた ビジネスに活かすトップクリエイター12人の仕事術」

「ブランドのはじめかた 5つのケースでわかった経営とデザインの幸せな関係」中川淳、西澤明洋

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ブランドを専門としたブランドデザイン会社、エイトブランディング代表の著者が過去の事例を交えながら、ブランドデザインについて説明する。

COEDOビールや、Nana’s Green Teaなどを例に、そのブランドができるまでを説明している。基本的なブランディングの考え方としては今まで知っていたことと大きな違いはなかったが、それでもいくつか覚えておきたいと感じたことがあった。 単に今まで見たこともないようなものをつくればいいのではない、ということです。ビールのブランドである以上、ビールに見えなければならないのです。新しいブランドにもある種の「ビールっぽさ」が求められるのであり、今までにないからという理由で、炭酸飲料のように見えるビールのパッケージを作るのは大きな間違いです。

ブランディングというとどうしても、「違いを強調する」方向に走りがちだが、結局大事なのは「程よさ」を見極めることなのだろう。

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「Show Dog 靴にすべてを。」フィル・ナイト

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ナイキの共同創業者である著者がナイキの創業から現在に至るまでの発展を描く。

ナイキといえば今やスポーツブランドの頂点なので、信念やミッションを持った勢いのある創業をイメージしていた。しかし本書を読んで、その創業は日本の靴メーカーの販売代理店でしかなく、創業者たちも片手間に仕事をしていたに過ぎなかったとわかる。多くの人が今のブランドイメージとずいぶんギャップを感じるのではないだろうか。

しかし、やがて日本の靴メーカーと決別をして独自の靴を作り始めると、その勢いは一気に加速する。本書の一番のクライマックスは、Nikeというブランド名が決まり、少しずつ、オリンピックの代表やスポーツ選手のなかにNikeを履く選手が増えくるところではないだろうか。ブランド名の他の案は今となっては笑えるものばかりだが、ブランド名のかっこよさはその音の響きだけでなく、そのブランドのかっこよさと結びつくもの。どの案になったとしてもかっこよい印象と結びついていたのではないだろうか。

本書のタイトルである「Shoe Dog」とは、靴に人生を捧げる人たちのこと。著者をはじめ、本書には「Shoe Dog」が多数登場する。Shoe Dogであるバウワーマンなどの人との恵まれた出会いによってNikeは大きくなったのは間違いない。悲しいのは、著者の息子の2人、トラヴィスとマシューが最後までスポーツに入れ込むことはなかったということだ。仕事と家族のどちらにも人生を捧げることは、なんと難しいことだろう。

本書でもっとも印象に残った言葉は、著者が経済学の教授から聞いたという言葉である。

商品が国境を越えれば、兵士が国境を越えることはない

驚いたことのもう一つは、タイガーウッズやマイケル・ジョーダンと深い交流があったこと。考えてみれば当たり前かもしれないが、著名なスポーツ選手にとって著者は単に靴のメーカーの社長ではなく、自分たちが有名になるためのチャンスをくれた人なのだ。だから、彼らは一生感謝を表現し続けるのだろう。そういう点を考えると、靴メーカーというのも偉大な仕事なんだと感じた。

企業の成功物語は世の中に溢れているが、その中でもかなり面白い部類に入る一冊。

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「百貨の魔法」村山早紀


オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
昭和の時代からある町にある百貨店。その百貨店には願いを叶えてくれる白い猫がいるという。そんな百貨店で繰り広げられる物語を描く。

物語を通じて、今ではあまり聞かなくなった、百貨店というお店の世界観に触れられた気がする。ただ単にものを売るための場所ではなく、憩いの場所やおもてなしなどを提供する場所だったことがわかる。エレベーターガールなど、懐かしい職業も登場し、昭和の時代のサービスと、今のサービスの違いを考えさせられる。古いものを過度に賛美するのも変だし、新しいものが必ずしも正しいというわけではないけれど、どちらからも学ぶ部分はあるだろう。

物語は、百貨店で働く、いろんな部署の人物からの視点で展開する。そんなそれぞれの人の考え方には、いくつかはっとさせられるようなものも含まれていた。

ひとはひとりでも育つものです。親と縁のないのはやはり寂しいことですが、代わりに、地上にしっかり立てる足を手に入れられるような気がします。
鏡を見なければ、ひとは自分と向かい合えません。見たくないからと真実から目をそらせば、その中にある美しさを見つけることができないんです。

最後は、百貨店の人間関係から後継者問題が絡んでくるが、個人的には前半の軽いノリで最後まで通してしまった方がいい作品になった気がする。

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「デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す」前田育男

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マツダのデザインを変えた著者が、デザイン本部へのリーダー就任から、優れたデザインの車を世の中に送り出すまでを語る。

本書を読むまで知らなかったことだが、1996年よりマツダの株式保有率をフォードがあげたことによって事実上フォードの傘下に入っていた。しかし、そんな時代が、現在のマツダの発展の大きなきっかけとなるのである。なぜなら、「マツダとはどんな会社であるべきか?」を問い直すことになったからである。2009年にフォードの統治が終わりを告げ、著者がデザインリーダーとなってからは自分たちの会社のオリジナリティの追求の熱は一気に加速することとなる。「魂動」というコンセプトはそんななかから生まれたのである。

興味深いのは、やはり著者の悩みや葛藤の過程が描かれていることだろう。おそらく僕と同じように、一般の人は、すごいデザイナーとはいいデザインを颯爽と生み出す、というような印象を持っているのだろう。しかし、本書で著者が吐露している当時の心境は、責任の大きさや、社員からの期待や諦めに苦しみながら試行錯誤する様子である。

また、デザインという感覚的なものでありながらも、「魂動」というコンセプトの2文字をひねり出すまでに多くの時間をかけている点も興味深い点ではないだろうか。本書で著者も述べているように、デザインはもちろん見た目や感覚を重視するものである。しかし、その方向性を共有するための言葉も非常に重視しているのだ。

それまで言われるがままに自分のタスクだけをこなしていたモデラーや、効率ばかりを考えていた開発部門や生産部門が、「魂動」を形にするためのデザイナーの熱意を共有する場を設けることで、少しずつ自ら「魂動」の実現へと動くように変わっていくのである。いいものを作るためには文化がなによりも重要なんだと感じた。

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「ノーマンズランド」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ストロベリーナイト」シリーズである。硝子の太陽ルージュ、ノワールの後の物語である。

物語は、姫川玲子(ひめかわれいこ)を中心とした殺人事件の捜査と、バレー部の高校生の男女2人を描いた甘い恋の物語が並行して進み、やがて、2つの物語が交わる形式をとっている。

自分のまわりですでに2人の刑事が殉職して自らの行動を振り返る一方で、女子大生の殺害事件の捜査を進めるのだが、容疑者として上がっている人物の周辺に不審な匂いを嗅ぎ取る。高校生の物語は、隣の中学校の女子バレーのエースの庄野初海(しょうのはつみ)に憧れた江川利嗣(えがわとしつぐ)が、高校で初海(はつみ)と同じバレー部になり少しずつ近づいていく。

そして、物語は北朝鮮による日本人拉致と絡んで進んでいく。犯人との対面によって、日本人拉致による北朝鮮側の工作員の視点が描かれているところがもっとも印象的だった。確かに僕らは、一方的に日本人拉致で北朝鮮を非難しているが、国のために、拉致を実行しなければならなかった北朝鮮工作員の心情はどのようなものだったのだろう。

「硝子の太陽 ルージュ」、「ノワール」のような一気読み感はないが、やるせなさや深みを感じさせる作品。どちらかとこちらのテイストの方が好きである。

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「わたし、定時で帰ります。」朱野帰子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
定時に帰ると心に決めた、女性社員東山結衣(ひがしやまゆい)が残業が常態化している組織のなかで悪戦苦闘する様子を描く。

まず、このようなタイトルの本が世の中に出ることが、大きな時代の変化だと思う。そんな背景もあって本書に興味を持ったのかもしれない。

定時に帰ると決めて、時間内の生産性をあげようと努める結衣(ゆい)に、残業なしでは間に合うはずのないプロジェクトや、残業することで頑張っているとみられたい社員など、実際の組織のなかで見覚えのある多くの困難が襲いかかる。

正直もう少し単純で薄い物語を想像していたが、「仕事の時間の長さよりも、生産性が大事」と言う人間が、気がついたら、部下を守る為だったり、自分が無責任に見られないだったりと、気がついたら自らも残業の嵐にひたってしまう様子が本当にうまく描かれている。著者は実際の、IT企業を体験しているかかなりの下調べをしたのだと感じた。

24時間戦えるバブル期の会社のイメージが大きく変わっている現代において、その変化を物語に落とし込んだ一冊。一読の価値ありである。

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「エアビーアンドビー ストーリー」リー・キャラガー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
創業者の3人が出会い、エアビーアンドビーを作り成長させていく様子が描かれている。

序盤は、チェスキー、ゲビア、ブレチャージクの出会いと、少しずつコンセプトを変えながらエアビーアンドビーが大きくなっていく様子が描かれている。その過程で、3人の創業者がそれぞれの担当分野において少しずつ成長していく様子が興味深い。

エアビーアンドビーというサービスを知っていて、それゆえに興味を持って本書を手に取ったのだが、本書を読むといろいろ想像もしていなかった困難があったことを知る。

例えば、エアビーアンドビーは、自分の部屋に見知らぬ人を宿泊させるというサービスの形態ゆえ、犯罪まがいのことが全く起こらないということはありえない。本書では、エアビーアンドビーで起こった幾つかの犯罪や悲劇と、それに対応するエアビーアンドビーの様子も描かれている。そんななか最初は投資家などのアドバイスを聞いて責任逃れや結論の先延ばしをするような対応をしていた創業者のチェスキーが、それでは騒動が治らないと見るとすぐに自分たちの信念に立ち返るところに舵を切るところは、組織としてユーザーに向き合うすべての人にとって学ぶ部分があるだろう。

また、考えてみればありそうな話だが、エアビーアンドビーはそのプラットフォームを通じて行われる人種差別とも戦っているのだという。例えば、白人のプロフィール画像の人にしか部屋を貸さないホストや、アジア系のユーザーを差別するホストがいるのだそうだ。しかし、これは改めて考えてみると、ユーザーの属性によって部屋を貸すか貸さないかを選択するのは、許されてもいいと感じるぶぶもある。例えば、静かな住宅であれば子供を連れた家族の宿泊には貸したくないなどはホストが選べていいはずで、この辺の線引きが非常に難しいと感じた。

ホテルチェーンなどの既存の勢力から受ける攻撃についても触れている。エアビーアンドビーの拡大に影響を受けてか、ホテルチェーンのいくつかも民泊事業へのシフトする様子をみると、エアビーアンドビーはまさに「世界を変えている」のだと感じる。

印象的だったのは、創業者の3人が困難に出会うたびに、繰り返していた偉人たちの言葉で、本書の中でも効果的に使われている。一つはガンジーの言葉で、見事にエアビーアンドビーの状況にも当てはまる。

はじめに彼らは無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろうーーだが勝つのは我々だ
悲観主義者はだいたい正しい。だが世界を変えるのは楽観主義者だ。

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「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」山口周

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グローバル企業が幹部にアートの勉強をさせる動きが活発になってきた。なぜアートを学ぶ必要があるのか。本書はその理由を世の中の動きとあわせて説明する。

本書では意思決定のクオリティを左右する要素として「アート」「サイエンス」「クラフト」という言葉を使っている。これまでの世の中では「サイエンス」と「クラフト」が主流だった。なぜなら、組織においては説明責任が求められことが多く、それゆえに、「説明できる」「サイエンス」「クラフト」が主流になりがちなのだ。しかし、「説明できる」ゆえに伝えやすく、他の多くの組織に取っても導入しやすいため、結局「サイエンス」「クラフト」という2つの要素だけに頼る組織は、他の組織と差別化がしにくく、レッドオーシャンから抜け出せないのだという。

そして、だからこそ「アート」の要素が今後組織の生き残りを左右していくと説明しており、その過程でいろんな実例を挙げている。そんななかでも面白かったのは、高学歴者を幹部に連ねながらも反社会的行為に走ったオウム真理教や、DeNAの不祥事、ホリエモンやナチスの下でユダヤ人を大量虐殺するシステムを作り上げたアイヒマンを例に上げて、「偏差値は高いが美意識が低い」と言っている点である。おそらく多くの読者が、学歴が「人の良さ」を決めるものではないという点には同意するのではないだろうか。本書ではそれを「美意識」「誠実性」という言葉で説明している。

なぜ人間に美学とモラルが必要かといえば、一つには意外かもしれませんが、最終的に大変効率がいいからです。「効率がいい」というと語弊があるかもしれませんが、より大局を見て、一本筋が通っていると、大きな意味で大変効率がいいのです。

なぜ、効率的かというと、本書では、変化の早い今の世の中において、法律は変わる可能性があり、法律だけを基準に組織の良し悪しを判断していると、組織全体が法律の変化に大きく影響を受けてしまうのだ。一方、「美意識」「誠実性」に基づいた善悪の判断の方が長く有効なのである。

その他に興味深かった話は、日本のクルマのデザインを変えた、前田育夫氏の話である。彼の書籍がいくつか出ているようなのでこれを機に読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」

「真実の檻」下村敦史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生の石黒洋平(いしぐろようへい)は、亡くなった母の部屋で見つけた写真によって、自分の本当の父親は死刑囚だったことを知る。苦悩の末、本当の父の罪が冤罪であることを信じて19年前の事件の真相を知るために動きだす。

初めて読む作家である。人生のあるときに自分の出生を知った。というのは、物語としては使い古された展開にも思える。あえてそこに踏み込むには、何かこれまでにない展開を描こうとしているからなのでは、と期待して読み始める。

石黒洋平(いしぐろようへい)は苦悩の末に、父親の無実の罪を晴らすことを決意し、雑誌記者夏木涼子(なつきりょうこ)の協力を取り付ける。

正直、ここまでの流れで、人間の心情描写にあまり深みを感じず、行動や決断がやたら早いのが少し残念だった。人生を左右する大きな決断や、見知らぬ人と行動を共にすることに対する警戒など、現実であればもう少し躊躇しそうな場面で、あまりにもあっさり決断しているのである。心情描写は男性作家より女性作家がすぐれている部分ではあるが、この辺は今後に期待したい。

また、弁護士や検事などの法律的な説明がかなり詳細で、他の刑事小説にはない新鮮さを感じた。最後は、頑張って予想外であろうとしたゆえの予想どおり、といった印象で、もう一捻り、またはそれ以外の部分での深みが欲しかった。昨今の社会問題に触れるわけでもなく、今このタイミングで、改めてこの使い古された舞台設定で描く理由はないように感じた。

この著者の代表作として、江戸川乱歩賞を受賞した「闇に香る嘘」というのがあるので是非次回読んでみたい。

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「「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣」石川和男

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
著者が自身の組織でも徹底している残業しないための習慣を説明している。

一般的に言われていることとほとんど変わらず、特別新しいことはない。目次を読めば言おうとしていることは理解できるだろう。

しかし、わかっていても組織として実行するには、組織のなかに存在する様々なタイプの人を納得させなければならないのである。著者のように、組織の中心にいる人間が、組織を残業しないチームに変えるのと、中堅や平社員が変えるのでは労力も手法も大きくことなるだろう。むしろ、本当に必要とされている本は、残業しないチームにどのように周囲を説得しながら変えていくか、という本なのかもしれない。

【楽天ブックス】「「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣」

「面白くて眠れなくなる素粒子」竹内薫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
素粒子をわかりやすく解説している。

素粒子について新しく得た知識は原子核が陽子と中性子によってできており、陽子と中性子は3つクォークと呼ばれる素粒子でできている。というところまで。その先は予想どおりわかりにくい。

面白かったのは、物理学者のタイプの話で、理論物理学者と実験物理学者という大きく2つのタイプがいるというものぐらい。超ひも理論の本を読むのは本作品で2作目だが、相変わらずとらえどころのない感じ。わかりやすく話しているせいか、どこまでがたとえ話でどこまでが実際の話なのかがわかりにくいと感じたが、後半では、著者が、ほとんどが妄想だと言っていることを考慮すると、実際の話はほとんどない気もしてきた。

「どういうものなんだろうと考えること、どういうものなのか頭の中に具体的なイメージを浮かべようとすること」はNGです。
どこまでが本当で、どこからが妄想なのか、私たちにはもうわからないんです。

とっつきにくい世界の一つの足がかりとしてはわるくないかもしれない。
 
【楽天ブックス】「面白くて眠れなくなる素粒子」

「ムーンナイトダイバー」天童荒太

天童荒太といえば、有名な作品は「永遠の仔」だろう。どちらかといえば悲しい物語が多い。本作品もそんな部類の一つで、震災で両親と兄を失った瀬奈舟作(せなふなさく)を扱っている。舟作はその4年半後、ダイビングのスキルを活かして遺留品を海から回収する仕事をすることとなるのだ。

天童荒太

夜の海に潜る場面から物語が始まるため最初は前後の状況がわからないが、物語が進む中で、少しずつ、震災のことやそれぞれの過去が明らかになっていく。そんななか、遺品回収に関わる遺族の心情や、周囲への配慮はとてもフィクションとは思えない深みがあり、報道では伝わらない遺族の気持ちの深い部分に触れられた気がした。特に、少しでも価値のあるものを回収してしまうと、お金のための行動とみなされかねないために避けるべき、という考え方は、遺族の気持ちや周囲の目線の複雑さを表している気がした。

物語は、夫を亡くした女性の登場が、舟作(ふなさく)に個人的な依頼をしてくることで、動くこととなる。

わたしの願いというのは、ダイバーの方に、この、夫がしていた指輪を探さないでほしい、ということです。

なぜ、探すようにではなく、探さないようにと依頼するのか。その女性のつらい気持ちに触れることが、震災ゆえに傷ついたまま生きてきた舟作(ふなさく)自身にとっての転機にもなっていく。

【楽天ブックス】「ムーンナイトダイバー」

「スティーヴン・ジェラード自伝 君はひとりじゃない」 スティーヴン・ジェラード

ジェラード

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元イングランドの代表選手で、プレミアリーグのリバプールで1998年から2015年までの17年間中心選手として活躍したジェラードが、自身のサッカー選手としてのこれまでの出来事や思いを語る。

本書ではジェラードが、クラブチームやイングランド代表での出来事を気持ちの向くままに語っている。重要な試合での出来事の描写はサッカー好きでなければあまり楽しめないかもしれないが、ジェラードが、チーム内の若手選手や、移籍に悩む選手の相談相手になる場面は、だれにとっても学べる点があるだろう。

本書で語られるいくつかの試合の重要な場面は、どれもすぐにYouTubeで検索することができ、第三者として試合を見ていたいままでと違った楽しみ方ができる。

【楽天ブックス】「スティーヴン・ジェラード自伝 君はひとりじゃない」

「UIデザイン みんなで考え、カイゼンする。」栄前田勝太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
UIデザインはもはやデザイナーが1人で行うことではない。すぐれたUI、すぐれたサービスを作るためには組織全体で取り組むことが必要である。そんなコンセプトの元で、取り組むべきことを順を追って説明している。

正直、普段アジャイル開発でUIデザインに関わっている僕にとっては知っていることばかりだったが。それでもいくつかこれまでに聞いたことのないUX手法を知ることができた。

6up Sketches
6コマ漫画。あるアイデアについて、ターゲットユーザーがそのサービスを使う前から使った後の様子を描き、チームでそのアイデアが達成すべきストーリーを共有することが目的。

UIフロー図
元は37Signalsの記事で紹介されていたもの。画面を矢印で繋げていくものですが、画面内でユーザーが見るものとユーザーがすることに分解して情報の関係を記述し、画面遷移図よりも詳細で、利用の流れも把握しやすいという特徴があります。

本書でもっとも興味深方のは第5章の「デザインシステムを作り育てよう」であるが、内容としては「Design System」の内容を説明しているだけなので、詳しい人はそちらを読むべきだろう。こちらも新しい知識として次の2つはしっかりチェックしておきたい。

Awesome Design Systems
Storybook for Vue

その他にもUXハニカムとUXピラミッドという考え方に久しぶりに触れたので、共通言語としてしっかり覚えておきたいと思った。

UXハニカム
役にたつ、好ましい、アクセスしやすい、信頼できる、見つけやすい、使いやすいの6つを価値があるための要素としている。
UXピラミッド
UXハニカムをピラミッド図にしたもので、上から 満足できる 好ましい、価値がある
安心できる 役にたつ、信頼できる 利用できる 使いやすい、アクセスしやすい、見つけやすい と表す

【楽天ブックス】「UIデザインみんなで考え、カイゼンする。」

「Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで」玉置真一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
UXデザインを始めるための方法についてやさしく説明している。

本書の面白いところは、UXの方法を知っているだけでは組織にUXデザインを浸透させることはできない、という前提にたって、どのように組織の中に浸透させるか、という点についても書いているところだろう。

UXについては

ユーザビリティ評価
プロトタイピング
ペルソナ
シナリオ
ユーザー調査
カスタマージャーニーマップ
共感ペルソナによるユーザーモデリング

というすでにUXを勉強している人にとってはおなじみの手法を取り扱っているが、ところどころ、次のような新しいUXデザインの手法に触れることができた。

– ユーザービリティの評価手法 – ヒューリスティック評価 – 認知的ウォークスルー – NEM(Novice Expert ration Method) – 弟子入りインタビュー – 構造化シナリオ法 – ペルソナ共感図 – Seeing – Saying – Doing – Feeling – Hearing – Thinking

すでに試みたことのあるUXの手法でも、呼び方が異なったり、呼び方自体を知らなかったりすると、組織のなかに浸透させるの障害となりうるので、どんなUXの手法もすぐに理解できるようにしておきたいと思った。

また、本書の中で引用されてた書籍にも時間があれば目を通していきたい。 「Experience Vision」山崎和彦、上田義弘

【楽天ブックス】「Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで」

「P&G式「勝つために戦う」戦略」A・G・ラフリー、ロジャー・L・マーティン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
P&Gの歴史や内部の出来事を例に、戦略について体系的に説明している。

まず本書では戦略を次の「5つの選択」としている。

(1)勝利のアスピレーション
 どんな勝利を望んでいるのか?
(2)戦場選択
 どこで戦うか?
(3)戦法選択
 どうやって勝つか?
(4)中核的能力
 勝つためにはどんな能力が必要か?
(5)経営システム
 その戦略的選択をするためにはどんな経営システムが必要か?

そして、「5つの選択」と同じように大事なのが、戦略的論理フローという枠組み、およびリバースエンジニアリングというプロセルなのだという。続く章では、この5つの選択と1つの枠組み、1つのプロセスについて例に挙げながら説明していくのである。

「5つの選択」のなかの最初の3つは、よく聞く項目であるが、それでも新しい学びはあるもので、例えば戦場選択について本書では次のいずれかであると説明している。

地理
製品タイプ
消費者セグメント
流通チャネル(消費者にどうやってリーチするか?)
製品の垂直的段階(製品製造のどの段階に参入するか?バリューチェーンのどの位置を占めるか)

製品タイプ 消費者セグメント 流通チャネル(消費者にどうやってリーチするか?) 製品の垂直的段階(製品製造のどの段階に参入するか?バリューチェーンのどの位置を占めるか)

地理、製品タイプ、消費者セグメントあたりは「戦場選択」という言葉を聞いたときにすぐに思いつくかもしれないが、流通チャネル、製品の垂直的段階という戦場選択があることはついつい忘れがちである。

そして本書で印象的なパートは、「5つの選択」の後半以降である。中核的能力は「勝つための能力」であり
、本書ではその能力は結局次のいずれかに当てはまるとしている。

消費者知見(買い物客やエンドユーザーを本当に理解する能力)
イノベーション
ブランド・ビルディング
市場攻略能力
グローバルな規模

そして(5)の「経営システム」とは、これらの選択と能力を支援するシステムを組織のなかに築くことである。それができてはじめて機能する組織が出来上がるのである。そのためのシステムを

戦略を立案・レビューするシステム
中核的能力を支援するシステム

の2つに絞って説明しており、立案した戦略をレビューできない以前のP&Gを悪い例としてあげている。

もっとも印象的だったのが、最後の「リバースエンジニアリング」と呼ばれるプロセスである。それは戦略の作り方である。

(1)選択肢の枠組み
(2)戦略の選択肢を作る
 選択肢を目標に至るまでの幸福な物語の形で表現する。
(3)前提条件を特定する
 選択肢が有効に機能するためにどのような前提条件が必要なのかを明確にする。チーム全体が一丸となって行動するために重要。
(4)選択肢の阻害要因を洗い出す
 案に批判的な目を向け、実現の難しい条件を整理する。懐疑派のメンバーの意見をよく聞くことは全員が納得するためにも重要なステップ。
(5)検証策を立案する
(6)検証を実施する
(7)選択する

としている。やはりポイントは(4)の阻害要因の洗い出しを、(2)の選択肢を作るフェーズと完全に分けている点だろう。ブレインストーミングの原則にもあるように、アイデアの拡散フェーズと収束、検証フェーズを明確に区別してこそ、組織の中にある多数の知見を効果的に行かせるのだ。

その一方で、上がったアイデアを徹底的に検証する方法を、よくある悪い戦略づくりの例として、「時間のかかりすぎ」「妥協に流される」「創造性が失われる」と一蹴している。そのような悪い戦略づくりを毎日のように目にしている僕にとっては非常に耳の痛い話である。今度機会があったら、本書で勧めているように「前提条件」「阻害要因」を明確にする方法で取り組んでみたいと思った。

企業戦略について、新たな視点をたくさんもたらせてくれた一冊。残念ながらすべて理解できたとは言い難い。繰り返し読み直したい。

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「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」奥平和行

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
メルカリの創業から上場までのその急成長を描く。

フリマアプリという、特に画期的なアイデアではないにもかかわらず、わずか5年でユニコーン企業へと成長したメルカリ。他のフリマアプリとどんなところが違ったからここまで急成長できたのだろうか。その理由を知りたくて本書を手に取った。

個人的に印象的だったのはアメリカでメルカリを普及するために、日本とは大きく異なるブランド戦略をとったことである。日本の赤いロゴとは異なり、アメリカでは青いロゴ、青いUIにしたうえで、「売るためのアプリ」であることを強調したのだという。文化や地域によって戦略を変えるのは、当たり前のことに聞こえるだろうが、実際にアプリを開発している状況を知って入ればそれが簡単な決断ではないことはわかるだろう。

また、メルカリがインドの優秀な学生の採用に力を入れている点も本書を読んで知った。すでにIT業界ではメルカリが優秀なエンジニアを徹底的に採用しているのは周知の事実であるが、その徹底した採用戦略に驚かされた。

結局、急成長のための明確な理由はわからなかった。運やタイミングにめぐまれるという部分はもちろんあっただろうが、それ以上に、経営者の周囲にあった人脈ゆえの良い出会いが大きな要素だったのだと感じる。そして、今、その成長して大きくなったがゆえのさまざまな問題に現在ぶつかっているという。本書で描かれている内容をふまえたうえで、引き続きメルカリの動向を注意してみてみたいと思った。

マイクロサービスアーキテクチャー

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「極夜行」角幡唯介


オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
北極などの極地では、太陽が昇らず、月も昇らない「極夜」という暗黒に包まれた時期がある。本書はそんな「極夜」に魅了された著者の80日にわたる極夜旅行の記録である。

地球は丸く地域によって、日の長さにが異なることは常識とし知っているが、それでも赤道付近は暑く、北欧の白夜程度というものが存在する、という程度までだろう。人の住まない、北極や南極がどのような様子かまでは今までまったく意識してこなかったということに、本書を読んで気づかされた。

北極点とは半年が極夜で半年が太陽の沈まない白夜、つまり日の出と日の入りが年に一度づずしかない極端な場所のことである。

著者は、犬を連れてグリーンランドのシオラパルクを出発し、事前に食料や燃料を貯蔵しておいた場所を経由しながら極夜旅行を続ける。そんななかシロクマによって食料が荒らされていたり、ブリザードにあったりと予想外の困難に出会いながらも、狼やウサギを狩ったりしながら一つずつ乗り越えていく様子が面白い。

写真がもう少し添付されているとありがたいと思ったが、考えてみれば極夜だから写真を撮るのは難しいのだろう。人生においてまず見ることのないだろう世界を垣間見せてくれた。

【楽天ブックス】「極夜行」

「スティグマータ」近藤史恵

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ツール・ド・フランスを走ることになった白石誓(しらいしちかう)は、対戦相手でありかつての英雄、ドミトリー・メネンコからチーム内のある人物に注意を向けるよう依頼される。そしてレースは始まる。

「サクリファイス」に始まる近藤史恵のロードレースを扱ったシリーズの第5弾である。感覚が2,3年ずつ開いてしまうので前作をよく覚えていないのだが、現在白石誓(しらいしちかう)はフランスを拠点としてプロのサイクルロードレーサーとして生活している。

このシリーズを読んでいる人には言うまでもないが、白石誓(しらいしちかう)は優勝を狙うようなレーサーではない。むしろ同じチームのエースを優勝させるために、風除けや囮となるアシスタントとして働くレーサーである。そんな設定が、ロードレースの特殊性と、他のスポーツにはない深みを感じさせれてくれる。

本書でも、すでに30を過ぎてキャリアの終わりが見え始めたレーサー達の葛藤が面白い。かつての英雄や、期待されながらも思ったような成績を収めることのできないエースなどである。本書では特に、かつての英雄でドーピングによってロードレース界から姿を消したドミトリー・メネンコの復活劇に焦点をあてている。彼は本当に以前のように戦えるのか、彼を取り巻く不安の影の正体はなんなのか。

そんな様々な要素や人間関係を織り交ぜて、23日間のツール・ド・フランスを描いている。ロードレーサーという、自分が選ばなかった生き方を少し体感できた気がする。

【楽天ブックス】「スティグマータ」