「ぎょらん」町田そのこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人が死ぬ際に最期の思いをこめて遺すと言われるぎょらんと呼ばれる珠がある。身近な人の死とともにぎょらんに出会った人々を描く。

7編の短編集という形式をとってはいるが、視点が変わるだけで、登場人物は共通している。いずれの物語でも、親友や家族の死に直面した人々の本心や、自分自身の本心を知って戸惑う様子が描かれる。そして、答えや救いを求める彼らの前にぎょらんが登場するのである。

高校生、若い社会人から年配の人々までのさまざまな立場の人のぎょらんとの出会いを描いている。人生のどんなフェーズにおいても身近な人の死はある日突発的に訪れることが伝わってくる。

あの日、私たちにはまだ仲直りできる未来があったのだ。

そんな中、全編を通して鍵となる人物が、親友の死に遭遇してから長い間引きこもり生活を送っていた男性御船朱鷺(みふねとき)である。朱鷺(とき)はやがて葬儀社で働くことで社会復帰をしながらも、同時に自分の人生を大きく狂わせたぎょらんの真実に迫ろうとする。自分を苦しめたぎょらんとはなんだったのか、なぜぎょらんに出会って幸せになる人もいれば、苦しむ人もいるのか。

涙無くしては読めないポイントがいくつもあり、久しぶりに良い作品に出会ったという印象である。町田そのこ本屋大賞を受賞した「52ヘルツのクジラたち」で初めて触れた。実際そちらのの方が有名な作品だと思うが、個人的には本書の方が深みがあるし、何倍もよかった。実は本書の方が前に書かれた作品ということで、他の作品も読んでみたいと思った。

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「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年本屋大賞作品。過去から逃れてキナコは大分の田舎町で1人で生きていくことを決める。

キナコは1人で生きていくと決意しながらも、口のきけない男の子と出会い、その恵まれない家庭環境に過去の自分を重ね合わせ、その子を救おうと行動を始める。 そして、そんな現在の様子と並行して、キナコの過去が明らかになっていく。うまくいかない家族との関係、そしてアンさんと呼ぶ人との出会いよってそんな家族のしがらみから救われたことなどがわかる。

最近、日本で評価される本の多くが、家族や恋人など狭い人間関係と小さな地域のなかで起きる出来事を描いているような印象を持っており、本作品も似たような印象を受けた。もちろん、人の幸せは、身近な人との関係による部分が大きいし、人生で起きる大きな出来事よりも、それぞれの人間が物事をどう受け止めるかが重要で、そういう物語が評価されるのもわからなくもないが、最近はちょっと似通いすぎていて新鮮さをあまり感じなかった。

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