「マルセイユ・ルーレット」本城雅人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元サッカー選手の村野隼介(むらのしゅんすけ)はユーロポールの捜査員としてサッカー賭博の取り締まりに加わることとなる。

タイトルのマルセイユ・ルーレットとはフランスサッカーの英雄ジダンが好んで使っていた技であり、サッカーを好きなら人ならだれでも一度ぐらいは聞いたことがあるだろう。著者は「スカウト・デイズ」でプロ野球のスカウトの物語を描いていたので、今回も同じように普通にスポーツを楽しんでいる上では見ることのできない視点からサッカーを描いていることを期待して手に取った。

物語はフランスを中心としたサッカー賭博を題材としており、異国の地でサッカーに関わる3人の日本人の視点で描く。サッカー賭博を捜査するユーロポールの村野隼介(むらのしゅんすけ)、父親が遺したフランスで子供向けのサッカー教室の運営に奮闘する平井美帆(ひらいみほ)、そして、フランスでプロのサッカー選手として生きる水野弘臣(みずのひろおみ)である。

もっとも印象的なのは水野弘臣(みずのひろおみ)である。大きな夢を追ってフランスの地にやってきたにもかかわらず、少しずつサッカー賭博の罠に嵌まり込んでいくのである。きっかけは試合後の仲間と気晴らしで、カジノに行ったことだった。そして、気がついたときには大きなサッカー賭博の組織のために八百長をせざるを得ない状況に陥っているのである。

一般の人ば持つ、八百長に関わるサッカー選手に対するイメージは、お酒や麻薬に溺れる人のような自制心のない人間だろう。しかし、実際にはサッカー賭博の組織は、普通のサッカー選手でさえも陥るように巧妙に罠を張り巡らしているのである。改めてサッカー選手に限らず、多くの注目を集めるプロ選手は、私生活さえも質素に送るべきだと感じた。

サッカー賭博が世の中に多く存在するのはサッカーファンとしては残念なことであるが、大きなお金の動くところには、そこで儲けようとする人々が集まってくるのは当然の流れで、それは現実として受け入れなければならないだろう。本書はサッカーにそんな新たな視点をもたらせてくれた。

著者の作品には他にもスポーツを題材にしたものがいくつかあるようなので、他の作品も読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「マルセイユ・ルーレット」
【amazon】「マルセイユ・ルーレット」

「スカウト・デイズ」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
プロ野球選手からスカウトに転向した久米純哉(くめじゅんや)はスカウトの伝説的な存在である先輩の堂神(どうがみ)とチームとしてスカウトとしての生き方を学んでいく。

先日読んだ同著者の「ミッドナイト・ジャーナル」が報道についてのこれまで知らなかった視点をもたらしてくれたので、著者の他の作品も読んでみたいと思いこちらに辿り着いた。タイトルからスカウトの生き方を扱った作品だとはわかるので、映画にもなった「マネーボール」のような話を想像していたりもしたが、実際にはもっと古く泥臭い人間同士の駆け引きを描いている。

スカウトの目的はドラフトでいい選手を獲得すること、と一般の人は思いがちであるし、実際その通りである。しかし本書を読むと、その先まで考えて自分達のチームが強くなること、少しでも優勝に近づくことを考えて選択をするスカウトがいることがわかる。例えば、選手の実力よりも同じ大学の後輩との人脈を考慮して獲得したり、故障持ちとわかっている選手を情報操作でライバルチームにドラフト一位で獲得させる、などである。

本書はスカウト1年目の久米純哉(くめじゅんや)がスカウトとして成長していく様子を描くと共に、純哉(じゅんや)の上司であり、スカウト界でも有名な堂神(どうがみ)の予想もつかないスカウトの手法を描いていく。

スカウトという普通に生きていると関わることのない世界を、見事に描いた作品。他にも著者の作品を見ると面白そうなタイトルのものが並んでいるのでぜひ引き続き読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「スカウト・デイズ」
【amazon】「スカウト・デイズ」

「ミッドナイト・ジャーナル」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第38回吉川英治文学新人賞受賞学品。埼玉県で女児の連れ去り未遂事件が発生した。中央新聞社の関口豪太郎(せきぐちごうたろう)は、7年前の児童誘拐殺害事件との関連を含めて、真実を誰よりも早く報道しようとする。

事件としては誘拐殺人事件という点で、昨今の小説や映画にありがちな必要以上に残虐な描写はほとんどない。むしろ物語は、その事件を報道する3人の新聞記者たちに焦点をあてている。中央新聞社のベテラン関口豪太郎(せきぐちごうたろう)、女性記者である藤瀬祐里(ふじせゆり)、松本博史(まつもとひろふみ)である。

3人は7年前の事件で共に行動し、結果的に誤報に関わった経験を持つが、今は別々の部署で働いている。それぞれが新たに女児連れ去り事件が発生したことで、過去の苦い思い出と向き合いながらもそれぞれの立場で事件の真相に近づこうとするのである。

事件の動きはそれほど多くはないが、その間、記者たちが真実を知ろうとして警察関係者との関係を築き、真実を話してもらうまでの駆け引きが面白い。新聞記者は真実を知るために、警察関係者たちとの人間関係の構築に時間をかけるのである。しかし、そんな時間をかけて構築された人間関係も、書くな、と言われたことを書いたり、逆に、嘘を教えられたりすることで壊れてしまうこともあるだ。

インターネットの存在によって早く報道することの意義が薄れながらも、そこに価値を感じて生きる記者たちの生き方を魅力的に描いている。著者の他の作品も読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「ミッドナイト・ジャーナル」
【amazon】「ミッドナイト・ジャーナル」