オススメ度 ★★★★☆ 4/5
かつては報道カメラマンだった柴田雄司(しばたゆうじ)はアフガニスタンで拘束された学生時代の恋人とその娘の救出に向かう。
本作品の魅力は同時多発テロの後に世界から多くの関心を向けられることとなったアフガニスタンに焦点を当てていてている点だろう。柴田(しばた)はかつての恋人、優子(ゆうこ)を救うため、アメリカから懸賞金をかけられているアフガニスタンの英雄、ヘーゲルに会いに行く。
その道程で柴田(しばた)が出会う数々の試練の数々に、僕らが新聞などの報道を通じては知ることのないアフガニスタンの現実が見えてくる。ただ単に一人の人間に会うためだけに、大量の武器を購入し、地雷を避けることに神経を擦り減らし、ゲリラの襲撃を恐れながら進まなければならないのだ。僕ら日本人のうち、いったいどれほどの人がこの国の現実を知っているのだろうか。
そして、単に現在の悲惨な現実を訴えるだけでなく、この悲惨な状況が、アメリカ、ソ連などの大国のエゴによって引き起こされたということを訴えてくる。
ほとんど単一の民族が絶対多数として生活するがゆえに長く平和が維持されている日本。僕らはその平和をもはや当たり前のこととして受け止めている。その一方で、アフガニスタンは、地理的にアジアの中央であり多くの民族が集まる場所。多くの民族が集まればそこには多くの考え方の違いが存在する。そこにさらに大量の武器やお金を提供して諸外国が介入してくるのである。場所が違うだけでこんなにも平和を維持することが難しくなるのである。
生まれる場所を選ぶことのできないがゆえに、あの地に生まれ恐れおののきながら生きている人々に、僕らは安全な場所から同情することしかできないのだろうか。
柴田(しばた)に対してヘーゲルが語った言葉。これを聞くと今も細かい差別や偏見が残っているとはいえ、日本という国に生まれた幸せを感じずにはいられない。
目を逸らせてはいけない現実問題を取り入れながら、それでいて物語として読者を飽きさせない展開を交えてフィクションとして完成された作品である。新聞やテレビの報道からは知ることのできないなにかを感じることができるのではないだろうか。
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