オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃よりネフローゼという病気を患い、それゆえに将棋と出会い、命がけで将棋を指して29歳でこの世を去った村山聖(むらやまさとし)を描く。
著者大崎善生(おおさきよしお)は「将棋マガジン」などの編集部に務めた経歴を持つ作家なだけに、「将棋の子」など将棋関連のノンフィクションが面白い。本作品も将棋に人生をかけた1人の男を描いており、その過程で、将棋界の厳しさが見えてくるのである。残念ながら僕の知っている棋士は谷川浩司や羽生善治ぐらいなのだが、村山聖(むらやまさとし)はその2人を何度か破っているというから、本当に将来を期待された棋士だったのだろう。
本書のなかで描かれる、常に自分の死を意識している聖(さとし)の生き方は、読者に一生懸命毎日を生きることの尊さを改めて感じさせてくれるだろう。
そして、改めて思ったのは、自分のなかに、物事にすべてを賭けて取り組むからこそ見える世界への憧れがあることである。本書のなかで描かれている、村山聖のいくつかの重要な対局のなかで「神が指したかのような一手」と呼ばれるものがあるのである。きっとそれは、何年も将棋に取り組んだものだけがわかる一手なのだろう。きっと、何年も将棋という世界に没頭しない限り、指すことはおろか、その凄さを理解することすらもできないような世界なのだ。
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カテゴリー: おおさきよしお
「将棋の子」大崎善生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元将棋マガジン編集者の著者が何人かの棋士を目指す男たちを描いたノンフィクション。将棋界の厳しさを描く。
冒頭で一人の棋士の劇的な昇段の瞬間を描いている。奨励会というプロを目指す棋士たちのその厳しい現実に、一気にひきこまれてしまう。
将棋一筋に生きようとした彼らは、何をきっかけにこの道を進んだのか、そしてその道を進み続ける人はどうやってその後を生き、その道を諦めざるをえなかった人は今どうしているのか、何人かの奨励会にいた人たちに焦点をあてて、その子供時代、奨励会時代、そして今を描いている。どの人生も印象的で、そしてどの人生からも将棋界という世界の厳しさが感じられる。
同時に驚かされたのが、著者が本書のなかでなんども繰り返しているように、昭和57年組と呼ばれる、羽生善治のいる世代が将棋界にとってどれほど革命的だったかということである。また、コンピューターの発展によって、アマチュアからも強い人が育つようになり、将棋界は大きな変革期にあることも伺わせる。将棋界の現状を理解し、そこにさらに関心を持たせてくれる一冊である。
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「パイロットフィッシュ」 大崎善生
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回吉川英治文学新人賞受賞作品。
編集者に勤める主人公の山崎隆二(やまざきりゅうじ)の元に、昔の恋人である由紀子(ゆきこ)から電話がかかってきたところから物語は始まる。過去の二人の出会いや別れ、二人の間に起きた出来事。そして今の二人の生活を描く。
タイトルとなっている「パイロットフィッシュ」とは、他の魚が生活しやすいように水槽の水を奇麗にする魚のことである。人との出会いや別れ、そしてその人との間に起きた出来事が今の自分の言葉や行動に確かに根付いていることを意識させてくれる作品。僕のパイロットフィッシュは一体誰なのだろう。僕は誰のパイロットフィッシュになれるのだろう。いろんな人と出会い、いろんな経験をすることがしっかりしたオリジナリティのある人間をつくる礎であることを再認識させられた。
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