「絵画の教科書 アクリル画編」古山浩一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アクリル画家の著者がアクリル画の描き方を解説する。

アクリル絵の具で描く絵の上達のヒントがあるのではないかと思い本書に辿り着いた。

本書は次の6つの章に分かれている。

  • さまざまな下地を使いこなす
  • 明暗法を使いこなす
  • 画材道具を使いこなす
  • 人物を描く
  • 静物を描く
  • アクリル画表現の可能性

1章を丸々下地造りの説明をしており、著者自信下地づくりに大きな時間を割いている点が印象的だった。

明暗法についての説明でも学ぶ部分があった。光の当たり方によって明暗を使い分ける、近い場所のコントラストは強く、遠い場所のコントラストは弱い。このような説明を聞くとひどく当たり前のことのように聞こえるが、本書で立方体を明暗法で再現している手順を読むと、優れた画家は、今まで自分が意識していた以上に細かい部分まで考慮していることがわかった。

アクリル画について学ぶ本であるが、各ページに差し込まれている著者の作品や有名画家の作品もすばらしく大いに刺激になった。

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「色鉛筆で写真のような絵が描けるようになる本」慧人

★★★★☆ 4/5
色鉛筆を得意とするイラストレーターの著者がその制作過程を語る。

僕自身色鉛筆で絵を描くようになって2年ほど経ち、いろいろ限界を感じ始めたのでなにかヒントを期待し、本書を手に取った。

著者の興味深いところはその描く対象の選択である。著者はコーラやグラスやニンテンドーDSなど身の回りにあるものを主に描くのである。しかも立体絵、つまりただ描くだけではなく斜めから見た時に実際にそこに存在するかのようにリアルに描くことを得意としている。

本書ではそんな立体絵を描く筆者の制作過程を詳細に説明している。軽く塗り重ねる事で塗りムラを少なくできるということと、異なる硬さの色鉛筆を塗り重ねる事でより滑らかでリアルな表現が可能になることがなどがわかった。また、立体絵の制作過程の説明もあり、今までどちらかというと人物画や風景画を描くことが多かったがぜひ周囲の物を立体絵で描いてみたいと思った。単純な物を描く方が濃淡の微妙な色の濃淡を身につけるためには効果的なことだろう。

全体的にまだまだ僕自身伸びしろがあることを思い知ったし、良い刺激を与えてもらった。

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「リボルバー」原田マハ


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
パリのオークション会社に拳銃が持ち込まれた。それはゴッホを撃った拳銃だという。高遠冴(たかとおさえ)は真実の裏付け調査を始める。

高遠冴(たかとおさえ)は会社の上司、仲間と共に、拳銃を持ち込んだサラという女性に拳銃が委ねられた経緯からゴーギャンの家系にそのヒントがあると考え、家族や愛人などの関係者を調べていく。その過程でゴーギャンの生き方や当時の感情に少しずつ触れることとなる。

そんな調査の中で高遠冴(たかとおさえ)はゴーギャンのさまざまな感情を想像しながらその思考に近づこうとする。ゴッホの絵が大きく進歩していくのを目にして、焦りや羨望を感じるあたりは、何かに秀でた人間を目の当たりにした時に誰もが覚えのある感情だろう。

遅くに画家を志したという点では似ていながらも、2人はかなり異なる人生を送ってきた。ゴーギャンは結婚して妻子がある一方、ゴッホは弟のテオをのぞけばほとんど孤独の身なのである。家族との関係も含めて二人の人生を想像することで真実に迫ろうとする。

ゴッホは家庭を築くことはできなかったが、弟テオとその妻ヨーの不屈の情熱に支えられて世に出た。一方ゴーギャンは家庭を築き、五人もの子供を授かっていたにもかかわらず、彼のために親身になって尽くしてくれる身内は存在しなかった。

ゴッホとゴーギャンという二人の画家が一時期一緒に過ごしたことは有名だが、そんな2人の関係に新たな視点を与えてくれる。そして、そんな新たな視点を持つことで改めて、それぞれの絵画を見直したくさせてくれる。ゴッホの「ひまわり」だけでなく、ゴーギャンの「マンゴーを持つ女」「かぐわしき大地」「死霊が見ている」「マリア礼賛」など、本書で触れられているさまざまな絵画を改めてじっくり鑑賞したいと思った。

ゴッホが自殺したというのが通説だが、それ自体も実は噂の域を出ないことを知った。いつものように著者原田マハはその経歴ゆえに絵画が絡むと見事にその知識を発揮するが、本作もこれまでの作品と同様に絵画と画家の人生を見事に物語に落とし込んでいる。

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「線は、僕を描く」砥上裕將

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
両親を失って親戚の家に身を寄せながら大学生活を送っていた青山霜介(あおやまそうすけ)は、アルバイトをきっかけに水墨画家篠田湖山(しのだこざん)に出会い、水墨画を学ぶこととなる。

霜介(そうすけ)の水墨画との出会いと学びを通じて、水墨画の魅力が伝わってくる。水墨画には4つの基本となる画題、蘭、竹、梅、菊があり、それらの習得に悪戦苦闘する霜介(そうすけ)の様子とその周囲の人間模様を描いている。

特に同じように水墨画に情熱を注ぐほかの登場人物の存在も物語をひきたてている。そのうち一人は、水墨画家の孫であり、霜介(そうすけ)と同じ年齢の千瑛(ちあき)であり、技術に優れている一方で、師である篠田湖山(しのだこざん)に認めらたいという思いを持ちながら、試行錯誤を続けるのである。元々は1年後の霜介(そうすけ)と千瑛(ちあき)の勝負という形で始まったが、水墨画に真剣い向かう中で少しずつお互いに心を開いていくのである。

全体的に物語を通じて、水墨画について興味を掻き立てらるだろう。他のアートと水墨画の大きな違いとして、水墨画におちては線をひくことと、塗ることは同時に行なわれるということである。また、本書では余白で表現をすることの重要性も語っており、水墨画に限らず、絵画やデザインでも通じる考え方だと感じた。

本書は水墨画がテーマだが、一つのことに情熱を注ぐことの魅力を改めて感じた。

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「星落ちて、なお」澤田瞳子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第165回直木賞受賞作品。明治時代、日本画家の娘として生まれたとよの画家としての人生を描く。

明治から大正にかけての6つの時期のとよの人生を描く。画鬼とよばれた父暁斎(きょうさい)の元で育ち、絵を学んでそだったとよは、暁斎(きょうさい)が亡くなったことで、自分の絵のスタイルや、その生き方を悩む様子を描いている。

また、とよだけでなく同じように父の影響を受けて、自らのスタイルに固執する兄周三郎(しゅうさぶろう)や、逆に絵の才能を開花させられなくて早々に居場所を失った弟の記六(きろく)など、画家の家に生まれたさまざな人生が見える。

日本画家として知っているのはせいぜい、狩野家、歌川家程度だったが、本書を読むと、歴史に名を残せなかった多くの画家たちがいたことがわかる。そして、現代の多くの芸術家と同じように、流行りや廃りのなかで自らのスタイルと求められるスタイルのなかで葛藤していたことがわかる。

後半には、関東大震災の場面があり、東北大震災と同じように、当時の家族を心配し、家まで歩いて行く様子が描かれている。物語の中で関東大震災に触れるのは初めてなので新鮮である。随分昔の話のように感じるが実際にはすでに電車が走っていたという事実に気付かされた。

全体的に、芸術家としての生き方の難しさを改めて感じさせられた。

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「完売画家」中島健太

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「絵描きは食えない」という常識を覆した完売画家と呼ばれる著者のこれまでの活動や考え方を語る。

僕自身、制作物や技術を売る人間なので、著者の考え方が、技術の上達やブランディングに活かせないかと考え、本書にたどりついた。

読み始めて気づいたのだが、著者はもともと体育会系の人間なのだという。また、論理的に物を考える傾向があり、それによって、行動や思考が筋道立って説明されていてでわかりやすかった。むしろ、だからこそ、このように一般的な美大出身の人とは異なる道を歩み始めたのかもしれない。

本書で繰り触れていることとして、美大の講師は、美術でお金を稼げなかった人がなっている場合が多く、その結果、美大ではお金の稼ぎ方を学べないという悪循環が起こっているというものがある。著者はそんななか周囲から白い目でみられながらも、自らの絵を売る方法を確立し、その過程や考え方を説明している。ギャラリーや美術団体の種類や傾向の話は印象的で、また、オンラインで販売することの画家としてのデメリットの話も興味深かった。

絵を描く技術については次の言葉が心に残った。

多くの人は、線を描き始める場所は決めていますが、描き終える場所は決めていない。そのため、終わるところを意識するためでも、速くなります。

本書では、美術業界において実践していることを描いているが、早く良質の作品を仕上げることの重要性や、人の求める要素を見極めたり、競争相手のいない領域で勝負することなどは、他のどんな業界においても言えることである。改めて今僕自身が毎日やっていることに取り入れられないか考えたみたい。

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「ドローイングレッスン」ジュリエット・アリスティデス

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

先日読んだ、「ペインティングレッスン」の同じシリーズのドローイング版である。「ペインティングレッスン」が新たな視点をもたらしてくれたので、本作にも期待して手に取った。

本書はデザイン、ライン、明度、フォルムの4つの視点でドローイングを解説する。その過程で、さまざまな歴史的な美術の背景や、作品を紹介している。デザインの章では黄金比について多くの例を交えて解説しており、改めて黄金比の重要性を感じた。ちなみにフォルムとは3次元の錯覚を作り出すことで、写実主義の芸術家がたちが没頭した、絵に説得力を持たせるためには不可欠な技術なのだという。

測定法についても3つの測定法、サイトサイズ法、関係法、比較法を語っており、度々出てくるブロックインという手法ともに、長所と短所に、軽く触れているだけで、正確な解説には至ってないので、別の書籍などで理解できるまで調べてみたいと思った。

ペインティングレッスンと同様に明度の重要性を改めて感じるとともに、絵画とはいえ、不要なものを削ぎ落とし、意図した通りの再構成することが良い作品を作るためには重要で、ただみたものを写し取るだけではなくデザインと非常に似たものだと感じた。

「ペインティングレッスン」と同様に、人生をすべて費やしても足りないのではないかと思わせるぐらい、絵画の深さを感じさせてくれる一冊である。

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「ペインティングレッスン」ジュリエット・アリスティデス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
有名な絵画の解説とともに、著者がその生徒たちに実践させている練習方法を紹介する。

上手なアーティストと自分の絵を比べると、今更ながらに技術にかなりの差があるのと感じ、その差を埋めるためにどのようなことをすればいいのかを知りたくて本書にたどり着いた。

本書では、構図、明度、色について説明しながら、有名な美術作品を紹介している、また、それとあわせて7つの練習の手法と実際の生徒たちのその練習の様子を紹介している。

  • モノクロの模写
  • モノクロのキャストペインティング
  • 明度を基調にした静物画
  • 暖色と寒色によるキャストペインティング
  • カラーの模写
  • カラーの静物画
  • 人物画

1つの絵を白黒に変換するときに、明暗をどのように解釈するかにも何通りものパターンがある。そのパターンを検討した上でベストなものを選択するという考えを今まで持っていなかったことに気づかされた。美大等でデッサンにかける時間を考えると当たり前なことかもしれないが、改めて、実際のものを見てそれを白黒に変化するデッサンの重要さを知ったので早速毎日の習慣に取り入れたい。

また、拭き取り技法、キャストペインティング、サイトサイズ法など、わからない用語がいくつかあった。おそらく美術を専門的に学んだ人にとっては常識だと思うので、しっかり調べて理解したいと思った。同じ著者の作品に「ドローイングレッスン」というのもあるので本書に続いて読んでみたい。

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「ヨハネス・イッテン 色彩論」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

僕自身デザイナーとして生きているので、色や形の感覚を深められる練習や知識はは徹底的に取り入れていこうと考えていて、そんななか本書に出会った。

世の中様々な色環が語られているが、本書の12色環は赤、青、黄の純色を基準にして分割していくもので、非常にわかりやすく、再現しやすいものである。また、レッド・オレンジとブルー・グリーンの第3次色をそれぞれ暖色と寒色の頂点とする点もわかりやすい。

7つの色彩対比について扱っている。色の多少の知識がある人なら色の対比が絵画やデザインにおいて重要なことはすでに知っていることだろう。しかし、7つもの対比を挙げることができるだろうか。本書では次の7つの対比について扱っており、それぞれに対して有名なアート作品も紹介している。

  • 色相対比 例)「聖母マリアの戴冠式」アンゲラン・シャロントン
  • 明暗対比 例)「レモン、オレンジとバラ」フランシスコ・デ・スルバラン、「黄金のヘルメットをかぶった人」レンブラント
  • 寒暖対比
  • 補色対比 例)「サン・ヴィクトワール山」ポール・セザンヌ
  • 同時対比 例)「衣服を剥ぎ取られるキリスト」エル・グレコ、「夜のカフェ」ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 彩度対比 例)「不思議な魚」パウル・クレー
  • 面積対比 例)「イカルスの堕落」ピーターブリューゲルI世

あまりいままで意識してこなかったのは同時対比である。参考に挙げられているアート作品を見て理解し、自分でも同時対比を利用した作品を作ってみにつけようと思った。

また、純度の明るさについての話も印象的だった。明るさを12段階に分けた時、純色の黄色は明るい方から4番目にくるが、青は9段目、赤は8段目にくるという。つまり、青、赤、黄を明るさで揃えるような場合には純色を使うことはできないのである。なんとなく体験から知っていることをこうして明確に言語化してもらうとさらに理解が深まる気がする。また、補食に対する調和のとれる比率についても紹介している。

  • イエローとヴァイオレットは1:3
  • オレンジとブルーは1:2
  • レッドとグリーンは1:1

もちろんこの辺は多少考案者の主観が入っていることは否めないが、スタート地点として知っておくことは役に立つだろう。

すでに出版から50年経っている本だが、いろいろ新たな視点をもたらしてくれた。

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「「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考」末永 幸歩

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アートの楽しみ方を中学生にもわかるように説明している。

絵画はカメラという技術が登場したことによって大きくその存在価値が変化していった。本書ではカメラ登場以降の芸術家たちの試行錯誤する様子を、マティス、カンディンスキー、ポロック、デュシャンなどを題材に説明し、それぞれの作品が美術にもたらした大きな考え方の変化を説明している。

僕自身過去それなりに美術にも触れてきたつもりでいたし多くの書籍を読んでもきたので、登場した画家やその作品は本書を読む前から知ってはいたが、本書では解説されているような美術史における意味を知らなかった。もちろん、本書の解説は数ある一つの解釈でしかないが、自分自身でアートの背景を想像して楽しんでいるだけではなく、人の意見や解釈を聞いてそれをもとにさらに考え方を発展させるというのは非常におもしろいことだと感じた。

また、美術を見るとき、どうしても僕らは自分たちが生きている現代の常識にとらわれてしまうが、その作品が作られた時代背景をしっかり理解することが重要なんだと改めて感じた。

今後美術作品に触れる際は、もっと他の人の意見を聞いて見るということもしてみたいと思うとともに、機会があればそういう場にも参加してみたいと思った。自分の感覚でしかないが、海外に比べると日本は一般の人が美術に触れる機会は少ないように思う。本書はそんな日本の一般の人が感じる、美術への近づきがたさを多少なりとも緩和できるのではないだろうか。

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「アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法」秋元雄史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ビジネス業界においてもアートに注目が集まる中、その考え方を語る。

まずはデザインとアーティストの違いを「解決策」と「問いかけ」と説明した上で、さまざまなアーティストやアートを紹介している。現代のビジネスに役立つとしたら、その常識を打ち破って問いを投げかける完成なのだという。

しかし、著者も「学びに即効性はない」としており、ビジネスにアートが役に立つと言われたから少しかじってみる程度ではまったく役に立たないし、そもそも「アートはビジネスに役に立つ」という考え自体が、現代アートの鑑賞は自らの頭で考えるトレーニングになるという。よく「現代アートはわからない」という人がいるが、著者に言わせれば、わからないからこそ面白いのだという。

なかでも「使用価値」と「交換価値」という考え方で現代アートを理解するという話が印象的であった。使用価値がほとんどないのに交換価値の代表的なものがお金であり、現代アートもまた使用価値がほとんどないにも関わらず、アーティストの著名度によって大きく値段が上がる可能性があるのである。

また、本書のなかではさまざまな現代アートのアーティストたちが紹介されている。それを一つ一つみるのも一つの楽しみになるだろう。章と章の間で、注意書きでそれぞれのアーティストを紹介しているが、特にページを割いて紹介している次のアーティストはしっかりチェックして、アーティスト名から作品がイメージできるようにしておきたい。ダミアン・ハーストの作品などは一度見たら忘れることはないだろう。

全体的に特にアートについて新しい考え方をもたらしてくれた印象はあまりないが、多くのアーティストを知ることができた点がありがたい。

  • ヨーゼフ・ボイス
  • リアム・ギリック
  • リクリット・ティラバーニャ
  • スゥ・ドーホー
  • ジェフ・クーンズ
  • 増田セバスチャン
  • 松山智一
  • 葉山有樹
  • 沖潤子

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「モダン」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ニューヨーク近代美術館MoMAに関連する5つの物語を収録している。

アンドリュー・ワイエスの作品展を開こうとした、日本の美術館とMoMAのやりとりを描いた作品。そして、MoMAの警備員が幽霊に出会う物語が印象に残った。アンドリュー・ワイエスという画家は名前しか知らなかったが、調べてみると確かに見たことがある絵で、その絵の裏側にある物語を知ることができた。また、警備員を主人公にした物語からは、警備員という普通なら誰も目を向けない存在に対する著者の優しさを感じた。著者の体験が色濃く反映されているように感じた。

そして、最後のMoMAに勤める日本人女性を扱った物語は、原田マハ自身を題材にしているのではないだろうか。全体的にMoMAという美術館のすばらしさを訴えており、MoMAの創始者であるアルフレッド・バー・ジュニアという人の行き方や、MoMAの歴史に興味を持った。

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「たゆたえども沈まず」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の美術を世界に広めるべくパリに渡った2人の日本人、林忠正(はやしただまさ)、重吉(じゅうきち)が、同じくパリで美術を生業とする2人のオランダ人と出会う。

2人のオランダ人とは、テオとフィンセント・ファン・ゴッホである。弟のテオは当時のフランスの主流派な絵画を扱う仕事をしながらも、浮世絵や印象派などの新しい芸術の流れに惹かれていく。一方で兄のフィンセントはテオの収入に頼って安定しない生活をしながらも、少しずつ絵描きとして生きることを目指していく。

今でこそ、印象派や浮世絵は絵画の一つの流れとして認知されているが、それまでの宗教画などの世界では当時異端として扱われ、よのなかに認められるまでに時間がかかったことがわかる。また1800年代には3回の万国博覧会が開かれるなど、パリが世界の文化の中心だったことが伝わってくる。本書に登場する林忠正(はやしただまさ)は実在の人物で、日本の文化や美術の普及に努めたことがわかった。本書の物語を通じて、世界的でもっとも有名な画家の一人であるゴッホの人生に、日本人や日本の文化が大きく影響を与えたことがわかる。日本人として誇らしさを感じさせてくれる。

ゴッホの狂気の人生は絵画に詳しくなくても知っている人は多いだろう。しかし、本書のように弟のテオとの関係のなかでその人生に触れるとまた違った面が見えてくる気がする。同じように、これまで美術の一派に過ぎなかった、印象派、浮世絵というものについても新たな視点を与えてくれる。

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「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」二宮敦人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
妻の奇妙な行動によって藝大に興味を持った著者が、藝大生のインタビューをしながらその実態を描く。

もっとも興味深かったのは、音校と美校の文化の違いである。美術は、作った作品はそのまま自分の作品として存在し続けるのに対して、音楽はその音の流れている一瞬一瞬が作品である。また、美術では、作ったもの自体が評価されるのに対して、音楽では演奏するその人自身も舞台に上がる作品の一部だという認識の違いがあるのだそうだ。そのため、美校の生徒は時間にルーズだが音校の生徒は非常に時間に厳格で、美校の生徒は制作の為の作業着なのに対して、音校の生徒は常にハイヒールを履くなど、見た目に非常に気を使うのだそうだ。そんな、まったく異なる人種が共存する場所が藝大なのだという。

また、インタビューに答えた藝大生のこだわりも面白かった。口笛を極める学生や、からくり人形を歯車から作る学生など、どれも「なんのためにそんなことのために時間を費やすのだろう」と思ってしまうよう内容だが、その考え自体が、頭が凝り固まっている証拠なのだろう。そして、世の中の人がそうやって常識の範囲で物事を考えるからこそ、藝術という枠にはまらない分野が必要なのだろう。

どうやってそれまでの枠を壊すか。藝術とはそんな分野なのかもしれない。僕自身デザイナーという仕事をしており、どちらかというと頭が柔らかいほうのつもりではいるが、それでも多くの刺激をくれる一冊であった。

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「美術館で働くということ」オノユウリ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京都現代美術館の仕事の様子を描いた漫画である。
先日読んだ原田マハの「弾幕のゲルニカ」が以前か気になっていた学芸員という仕事に再び
目を向けた。
本書を読み始めて知ったのだが、どうやら展覧会などで美術館に訪れたときに、部屋の隅に座っている黒い服を着た女性は学芸員ではないらしい。学芸員という職業の名前を最初に知ったのが、美術館で座っている人を指してのことだっただけにこれには驚かされた。実際には、美術館にのんびり座っている暇もないほど、毎日忙しく、好きな画家や好きな美術に本当に深く関われる仕事だとわかった。
前半は展覧会などを企画する学芸員の仕事の様子が描かれており、美術館に所属する学芸員たちは自分のすすめる作家の展覧会を提案し、企画し、作家と一緒になって展覧会を開催するのだという。だから、ときには学芸員の意見が作家の作品に影響を与えることもあるのだという。そう考えると、決してただ美術を展示するだけの受け身な仕事でないことがわかる。人生で経験できる仕事はわずかだけど、こんな生き方もしてみたかったと思わせてくれるだろう。
後半のコレクション担当もとても面白かった。コレクション担当とは美術館の所蔵する作品を決定、管理する仕事で美術館が所蔵する作品を決める際には、何を後世に伝えるべきかを職員の間で議論して決めていくのだそうだ。そうやって議論のすでに決定された所蔵された作品が貸し出されたりする際には我が子を送り出す親のような気持ちになるのだという。
学芸員という仕事について知りたくて手に取った本ではあるが、むしろ美術の奥深さ、展覧会、美術館など、美術に対する考え方もさらに深めてくれた気がする。
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「暗幕のゲルニカ」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
イラクへの武力行使を発表された国連安保理ロビーにあるゲルニカには暗幕がかけられていた。戦争の悲惨さを訴えるゲルニカに武力行使を発表する場で暗幕をかけた理由が何なのか。ピカソに人生をかけたMomaのキュレーター八神瑤子(やがみようこ)はそんなピカソ騒動に巻き込まれていく。

まず自分の無知さを知ったのが、ピカソが作成したゲルニカは、絵画の他に3つのタペストリーがあり、その1つがニューヨークの国際連合本部にあるのだという。本書はそんな「もう一つのゲルニカ」と、ピカソ自身がゲルニカを描く様子とそのときの世界の情勢を描いている。

本書は2001年の同時多発テロ直後の現代と、1937年のゲルニカ爆撃時のピカソとその周囲の人々を交互に描いている。1937年の場面ではパリ博覧会のための絵画を依頼されたピカソが、描く絵画の題材に悩む様子からゲルニカができるまで、そしてゲルニカがアメリカに渡るまでを描いており、現代の場面では同時多発テロからアメリカのイラク侵攻を描いている。

ゲルニカがゲルニカという町で起きた惨劇の様子を描いているということは知っていたが、その惨劇がどのような状況のもとで起こったのかは本書を読むまで漠然としか知らなかった。本書によって、ヒトラー、ムッソリーニ、フランコの独裁政治という歴史とあわせてゲルニカを理解する事ができた。

また、ゲルニカという絵画が公開当初から大きな物議を引き起こし、混乱する世界状況の中で秘密裏にアメリカに渡ったというのも今回始めて知った事実である。

1937年を場面としたゲルニカとピカソにまつわる物語はとても印象的だったが、現代の物語の描き方は若干安っぽい印象を受けた。必ずしも現代と絡めて物語を構成しなくてもよかったのはないだろうか。一つの有名な絵画を生み出すまでの画家の苦悩や当時の状況を描くだけでも十分魅力的な物語になるのではないかと感じた。
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「世界を変えた100日 写真がとらえた歴史の瞬間」日経ナショナルジオグラフィク社

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
歴史を変えた瞬間の写真をその背景の説明とあわせて紹介している。「歴史を変えた100日」というからには著者が思う、写真が発明されてからの歴史の変わった瞬間ベスト100といってもいいようなものなのだが、僕の知らなかった出来事が多く含まれていたことが驚きだった。
初期の写真は、出来事をそのまま撮ったのではなく、人々に意図した印象を与えるために、遺体を並べ直したりするなど当然のようにされていたというのが印象に残った。今それをやれば教団されそうだが、考えてみればそれほど不思議ではないことなのかもしれない。
本書で取り上げられていた事件、例えば「インディアン大虐殺」や「キューバ危機」、「アルメニアの大虐殺」などは、機会があればもっと知識を深めていきたいと思った。また「真珠湾攻撃」は日本人として生きていると気付かないが、世界から見ても大きな出来事だったということは今回初めて知ることができた。確かに、日本の真珠湾攻撃が、アメリカがどちらの側につくかを決定付けたと考えれば大きな歴史の転換点だと言えるのだろう。
過去の出来事に対して新たな視点をもたらしてくるとともに、探究心を掻き立ててくれる一冊。

ウンデット・ニーの虐殺
1890年12月29日、サウスダコタ州ウーンデッド・ニーで、ミネコンジュー他のスー族インディアンのバンドに対して、米軍の第7騎兵隊が行った民族浄化。(Wikipedia「ウンデット・ニーの虐殺」

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「日本のデザイン 美意識がつくる未来」原研哉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本らしいこれからのデザインについて著者が見解を語っている。
「繊細」「丁寧」「緻密」「簡潔」という日本独自の価値観と、ミニマリズムという世の中の流れを重ね合わせて考えている点が興味深い。
そして、持論を語るだけでなく、多くのデザイン事例を引き合いにだしており、どれもすぐれたデザイナーのものの見方を知ることができるだろう。デザイナーとして長く生きた著者だからこそ、かっこいいデザインではなく、世の中をよくするデザインに目を向けている点が、自分の考えと重なる部分があり興味深く読むことができた。
印象的だったのは、いいデザインは万国共通ではなく、その場所や文化を生かしたものであるという点である。言って見ればあたりまえなのかもしれないが、日本にいながらアメリカやヨーロッパのデザインを何も考えずに真似してしまうのは、ついやってしまうことである。
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「アートディレクションの「型」」水口克夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
数々の有名広告を手がけた実績を持つ著者がアートディレクションの心がけを語る。
本書では「つくる」「かたる」「すすめる」と、大きく3つに分けてアートディレクションの「型」を語っているのが、印象的だったのは「つくる」の章。そんななかでも今後意識したいと重っったのは。

「?」と「!」をつくる

というもの。単純に綺麗なものをつくるだけでなく、見た人がまず「ん?」となり、そして、「あ、そういうことか!」となるような広告はいい広告だというのである。言われてみればそれほど驚くことではないかもしれないが、これを常に頭においてデザインができているかというと疑問である。
もうひとつが

捨てる

である。これもそこらじゅうで語られることであって、シンプルなものがもっともわかりやすく使いやすく、理解しやすい、と誰もが分かっていながらも、世の中には複雑なものが増えていってしまう。ある程度の経験を積んだデザイナーなら誰しもこの意識はもっているだろうが、本書で取り上げる実例を見るとその「捨て方」のバッサリ具合が徹底していて驚かされる。こちらもぜひ改めて意識したい。
残念ながら実例が20年以上前のものばかりで、リアルタイムに見た記憶のある広告が少なかった。本書のターゲット層はきっともっと下の世代であろうことを考えると、その違和感は他の読者にはもっと激しいのではないだろうか。
上でも語っているが、とりたてて新しいことを語っているわけではないので、多くのデザイン関連書籍の一冊として読むべきなのだろう。
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「シヴェルニーの食卓」原田マハ

印象派の画家たちを扱った4つの物語。
「楽園のカンヴァス」と同様に、著者原田マハのキュレーターとしての知識を活かした作品。4つの物語はいずれも印象派の画家達を扱っている。クロード・モネ、メアリー・カサット、エドガー・ドガ、ポール・セザンヌ、ゴッホなどである。(この画家達を「印象派」とひとくくりにしてしまうことには議論があるだろうが)。ある程度西洋絵画に興味を持っている人なら誰でも名前ぐらいは聞いた事があるだろうし、どんな絵画なのかすぐに頭に浮かぶかもしれない。
本書が描く4つの物語はいずれもそんな画家達の日常を描いている。そこには絵を見ただけではわからないいろいろなものが見えてくる。ドガの踊り子に対する執着。セザンヌの貧乏生活。女性でありながらもすべてを捨てて画家を目ざしたメアリー・カサット。
今まで絵画に親しんできた人はさらに興味をかきたてられるだろうし、そうじゃない人は美術館に行きたくなるかもしれない。
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