オススメ度 ★★★★☆ 4/5
本所深川の同心平四郎(へいしろう)と甥っ子弓之助(ゆみのすけ)の繰り広げる物語。
序盤は平四郎(へいしろう)が弓之助(ゆみのすけ)やその友人のおでこの助けを借りながら諍いを解決していく。そんななかで次第に江戸の時代の人々の暮らしが見えてくる。
写真や動画という技術のなかった江戸のような時代の人々の生活を僕らはなかなか想像することができないが、本書はそんな生活を本当に現実味を帯びた形で見せてくる。生きている中で人間関係に悩み、将来に悩み、恋に悩むのはいつの時代も変わらないのだろう。
そして、そんな遠い時代のことを弓之助(ゆみのすけ)やおでこといった愛される登場人物を作り上げて、面白おかしく見せてくれるのは、やはり著者宮部みゆきの技術あってのことだろう。
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カテゴリー: 和書
「握る男」原宏一
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
金森信二(かなもりしんじ)は生きていくために寿司職人になることを決意する。しかしそこで出会った年下の男ゲソこと徳武光一郎(とくたけこういちろう)はその才能と努力で彼を一気に追い抜きのし上がっていく。
序盤は寿司職人たちの厳しい生き方が描かれているが、同時に懐かしい昭和の時代を感じる事が出来る。その寿司屋が両国に位置する事から、1985年に現在の場所に両国国技館が完成した事で大きく変わっていくのである。
前半はそんななかで兄弟子の嫉妬やいろいろな人間関係のなかで努力する金森(かなもり)と、次第に頭角を現していくゲソの姿が描かれている。
後半では金森(かなもり)とゲソは社長とその右腕となってバブル時代をのし上がっていくのである。時に過剰ともおもえるゲソの行動や決断は一体どこへ向かっていくのか。
正直もう少し寿司職人の人生に迫った物を期待したのだが、どちらかというと寿司はただ物語に軽く味を添える素材の一つでしかなく、若い2人の成り上がり物語となっている。
タイトルから想像した内容とは若干異なるが、時代背景を反映しているのでそれなりに楽しむ事が出来るだろう。
【楽天ブックス】「握る男」
「最後の証人」柚木裕子
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「検事の本懐」に登場する元検察官の佐方貞人(さかたさだと)を扱った物語。本作品では息子を交通事故で失ったにも関わらず、加害者の権力者が、何の罰を受けない事に復讐を誓った夫婦の事件を担当する。
佐方(さかた)が裁判に向かう様子と、時間を数ヶ月前に遡って息子の復讐をしようと計画する夫婦の様子が交互に描かれる。終盤に向かうにつれてその二つの物語が一つに重なっていく。復讐を誓った夫婦が何らかの事件を起こしたのだろうがその詳細が裁判が始まるまで伏せられている点が面白い。
復讐は成功したのか、裁判の被告人は誰で佐方(さかた)は誰の弁護をしているのか。そして、裁判の行方を左右する最後の証人とは一体誰なのか。予想を越える展開だけでなく、正義感の強い佐方(さかた)の、胸に響く言葉は本作品でも健在である。
著者柚木裕子は今個人的に注目している作家である。佐方(さかた)弁護士を扱った作品だけでなく、今後の作品すべてが楽しみである。
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「デパートへ行こう!」真保裕一
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
いつから「デパート」という言葉を耳にしなくなったのだろう。いつから「デパート」という言葉は古くさい響きを持つようになったのだろう。本書の登場人物の一人である加治川(かじかわ)も幼い頃のデパートの思い出を持つ一人。大人になった今娘をデパートに誘うが、「ダサい」と一蹴され、それでも良き日の思い出を捨てきれずに深夜のデパートにやって来たのである。同じように複雑な事情を抱えた人々がデパートに集ってひと騒動繰り広げるのである。
かつては街を見下ろせたデパートの屋上は、いつのまにかオフィスビルに見下ろされるようになり、自殺を防止のためにフェンスが張り巡らされて眺めを楽しめる場所ではなくなった。物語中に散りばめられているそんな現代のデパート事情が興味深い。
物語としては登場人物が多いのとめまぐるしく変わる視点や舞台にやや追いつかない部分もあったが雰囲気が楽しむ分には問題ないだろう。喜劇として作られているとはいえやや作られすぎたエピソードや人間関係に抵抗を感じた。それでも幼い頃両親や友人と行ったデパートにもう一度足を運びたいと思わせる内容である。
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「水底フェスタ」辻村深月
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
村から出た芸能人、織場由貴美(おりばゆきみ)が戻ってきた。小さな村ではうわさばなしが人々の娯楽であり、広海(ひろみ)もまたそんな村で生きている一人だった。
小さな村という小さなコミュニティで生きる人々を描いた物語。村から出て行かないかぎり何においても選択肢の少ない場所。そんな場所だから、東京へ出て行って芸能人になった女性織場由貴美(おりばゆきみ)が戻ってきた事が少しずつ周囲に影響を与えていくのである。
彼女の目的は何なのか、広海(ひろみ)の知らないところで、村には何が起こっているのか、少しずつ開けてくる現実に苦しむ広海(ひろみ)と小さな村が抱える問題点が描かれている。
小さな村に住んだ事がないのでこの物語がどれほど現実的に描かれているのだかわからないが、著者辻村深月の長所はむしろ人々の抱える複雑な感情の表現であり、それを期待したのだが、残念ながら期待には沿う内容ではなかった。
【楽天ブックス】「水底フェスタ」
「鋼鉄の叫び」鈴木光司
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
テレビ局に勤める雪島忠信(ゆきしまただのぶ)は父親からの影響で戦時中の特攻についての番組を思い立つ。そこに、特攻を直前で辞めて生き延びた人がいるという不確かな情報を得る。生の声を聞くためにその人間を探そうとする。
本書のなかでも語られているが、戦争を経験した人の多くが他界し、戦争の生の声を聞けるのもあと数年なのだろう。きっとその後は戦争に対する関心も一気に薄れていくのだ。本書はそんな戦争における、日本のとった特攻という悲劇の作戦について読者に示してくれる一冊である。
忠信(ただのぶ)は戦争を体験している父親から一度戦時中の父親の体験を聞かされた事があり、それゆえに特攻という出来事へ執着する。そして、そんな忠信(ただのぶ)が得た特攻の生存者の情報。忠信(ただのぶ)はその情報の真偽を確かめるため奔走するのである。
一方で忠信(ただのぶ)の父親和広(かずひろ)の戦時中の体験も描かれる。そのつらい体験と、病気療養中に海軍病院で出会いその後特攻で亡くなった上官峰岸(みねぎし)の話。
そんな忠信(ただのぶ)とその父親のつながりをもって、戦争を遠い昔の出来事ではなく、世代を超えて現代に繋がる悲劇として巧みに伝えてくれる。
2,3年前に同じく特攻を描いて話題になった「永遠の0」といくつか共通する部分があるが、本作もまた鈴木光司らしく緻密に考え抜かれた深く感動的な作品に仕上がっている。
【楽天ブックス】「鋼鉄の叫び」
「人生教習所」垣根涼介
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
両親の勧めで人生再生セミナーに参加することになった東大生の浅川太郎(あさかわたろう)。会場である小笠原に向かうフェリーにそれぞれの参加者がぞれぞれの想いを抱えて集う。
3人の人生に悩む参加者に焦点があてられている浅川太郎(あさかわたろう)と、ヤクザとしての人生に疲れきった柏木真一(かしわぎしんいち)、自分の容姿に自信がないライターの森川由香(もりかわゆか)である。それぞれが出会った当初はそれぞれを蔑んだり敬遠したりしながらも、セミナーを通じてともに過ごす事に寄って少しずつ打ち解けていく。
著者が本書をもって何を訴えたいのかはわからないば、個人的に印象に残ったのはむしろ、そんな登場人物たちのエピソードではなく、舞台である小笠原の人々の経験談である。セミナー中に、戦時中の人々に当初の経験を話してもらうのだが、そこではアメリカから日本になった小笠原という場所に生きた人々の苦悩が見て取れる。彼らにとってはどこか遠くの地で決められたどうしようもないこと。その決定によって兄妹や友人とは離ればなれになってしまうだけでなく、日々使用する言葉までも変えなければならないのだ。
このような問題を語る時、人々の頭に浮かぶのは沖縄なのではないだろうか。小笠原という場所の歴史に興味を向けさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「人生教習所」
「私の男」桜庭一樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第138回直木賞受賞作品。
婚約者と結婚することになった花(はな)。長年一緒に過ごしてきた養父の淳悟(じゅんご)ともこれからは別々に生活する事になる。そんな微妙な親子の関係を描く。
序盤は花(はな)の、社会人であるにも関わらず、若すぎる父親淳悟(じゅんご)との親密な関係が同僚たちの目から描かれる。そして、物語が進むに従って2人の持つ過去が少しずつ明らかになっていくのである。
個人的にはあまり印象的といえる箇所はなかった。というのも親子の禁断の関係というのは、昨今ではあまりにもそこらじゅうで使われており、特に新しさを感じないのである。
むしろ花(はな)が奥尻島の震災孤児という設定なので、その2年後に起こった阪神大震災によって、人々の記憶から薄れてしまった災害について再び目を向けさせてくれた点が印象的である。
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「歓喜の仔」天童荒太
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
借金を抱えて父親がいなくなった。母は二階から飛び降りて寝たきりになった。誠は犯罪に手を染めながらも、中学生の正二(しょうじ)、小学生の香(かおり)とともに植物状態の母を介護しながら生きていく。
3人は借金を返すために暴力団から与えられた仕事をこなしつづける。自らを英雄化した幻想にのめりこむことで現実を耐えようとする誠(まこと)の心が痛々しい。正二(しょうじ)はその家庭環境故に学校で孤立しつづける。色彩を失ったような毎日を淡々とこたしつづける兄妹の様子を、物語時代も淡々と描き続ける。そんななか、死んだ人が見えるという香(かおり)の存在が物語に彩りをそえている。
上下二冊にわたって、そんな希望もない日々を淡々と描いているため、とても読んでて面白いとは言えないが、それはそれでその不毛な日々をしっかり描写しているともいえるのかもしれない。「歓喜の仔」というタイトルから、天童荒太の出世作「永遠の仔」との物語的なつながりを期待したが、残念ながらそれらしい箇所は見られなかった。
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「勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4」垣根涼介
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
不況の世の中で多くの会社が人員削減に努める。そんな人員削減を請け負う会社に勤める真介(しんすけ)の仕事を通じて、多くの人の人生の転機に触れる事が出来る。
「君たちに明日はない」シリーズの第4弾である。今回も真介(しんすけ)がその仕事のなかで、3つの企業の従業員を面接する。最初の物語では経営破綻に陥った航空会社でCAの面接を真介(しんすけ)が担当する。これまでの物語と違うのは、普段は退職を勧めるのに対して、今回は予定以上に退職希望者が出てしまったために慰留を勧める点だろう。毎週のように合コンを繰り返すCA。多くの日本人女性が憧れるCAという職業の様々な問題点が見えてくるだろう。
印象的だったのは、3つめの物語「永遠のディーバ」。かつでは音楽に情熱を注いでいたため、その延長で楽器を扱う会社に就職し管理職を努める男飯塚(いいづか)の物語。真介(しんすけ)は飯塚に退職を勧めながらも、その夢と仕事を割り切る事のできない生き方に苛立つ。一方飯塚(いいづか)は真介(しんすけ)の言葉をきっかけに改めて自分の生き方を考え始める。そこで描かれるのは、好きな物と努力と才能。どんな才能にめぐまれた人でも、世界一でなければいつかは味わう、自分より優れた才能にであったときの絶望。人は夢と才能と仕事と、どうやって生きていくべきなのか。そんなことを考えさせてくれる内容である。
もちろんほかの2つの物語も深さをもっているが、この3つめの物語はもう一度読み返したくなるほど印象的だった。
【楽天ブックス】「勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4」
「約束の地」樋口明雄
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大藪春彦賞受賞作品。
環境省の七倉航(ななくらわたる)は娘とともに八ヶ岳に赴任してきた。そこでは様々な人々が自然と関わって生きていた。
都会の文化のなかで育った七倉(ななくら)が次第に自然と向き合い、いくつもの苦難を経て、次第に引き込まれていく様子が描かれている。そんななかで今の日本が抱える自然保護の問題が見えてくる。後継者のいない猟師。密猟や乱獲による野生動物の減少。飢えて人里に降りてくる野生動物と人間のトラブルなど、いずれも都会に住んでいては意識しないことばかりではあるが、人々がもっと目を向けるべきことなのだろう。
本書ではそんな長年の人間の行いに対する自然の怒りの象徴のように、い「稲妻」と呼ばれるツキノワグマと「三本足」と呼ばれるイノシシが登場する。彼らの生き様、人間に対する振る舞いには感銘を受ける部分がある。自然に対する人間のありかたに目を向けさせてくれる作品。
【楽天ブックス】「約束の地(上)」、「約束の地(下)」
「エス」鈴木光司
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ネット上にある人物の自殺する様子を撮影した動画がアップロードされていた。プロダクションで働く孝則(たかのり)はその真相を探ろうとする。
「リング」シリーズの鈴木光司が久しぶりにあたらしいホラー小説を描いたのか、とあまり期待せずに読み始めたの。四人の少女を連続して誘拐して殺人した殺人鬼のその動機はなんだったのか。序盤はすこし謎めいた殺人事件にしか見えなかった物が、読み進めるに従って読者は「リング」と無関係ではない事に気づくだろう。
孝則(たかのり)はその自殺映像を託されてその謎を解明しようとする一方で、婚約者である、丸山茜(まるやまあかね)が最近見知らぬ人につけられていると訴える。幼いころに事件に巻き込まれた経験のある茜(あかね)にとっては無視できない出来事なのである。
そうした複数の不思議な出来事がやがて一本の流れへと繋がっていくのである。「リング」シリーズで、「ループ」を読んだときの驚きがここにもあった。かつての人気歌手や人気漫画かが、過去の人気作品にこだわりすぎると見苦しさを感じてしまうが、ここまで見事に過去の名作を蘇らせてくれると、そのすごさに感心してしまう。
まだまだ続編がありそうな内容。生き返った「リング」はどこへいくのか、今後の展開が楽しみである。
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「阪急電車」有川浩
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
関西圏の私鉄グループ阪急の路線の今津線で繰り広げられる人々のドラマを描く。
阪急電車はドラマを描く舞台を電車や駅に限定しただけにすぎない。電車のなかには通勤、通学など、送り迎えなど様々なドラマが繰り広げられる。本書が描くのはそんななかでも強く生きようとしている女性たちに焦点をあてているように感じる。
本書が扱う10人ほどの女性のなかでも特に印象的なのは、婚約者を同僚に奪われてその相手の結婚式に復讐を決意して参加する翔子(しょうこ)の生き方であるが、そのほかにも女子高生悦子(えつこ)と年上の馬鹿な彼氏の話や、ランドセルを背負った誇り高き少女の話など、魅力的な登場人物があふれている。
ローカル線ののんびりとした雰囲気を、強い女性たちの信念で味付した見事な一冊。
【楽天ブックス】「阪急電車」
「スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙」五條瑛
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第3回大藪春彦賞受賞作品。
北朝鮮の工作員チョンが日本に潜入した。葉山(はやま)はチョンの残したものを分析してその足取りを追ううちにしだいにチョンの人間性が明らかになっていく。
北朝鮮、日本、アメリカと国をまたいで繰り広げられる諜報活動。そんな中で生きる人々を描く。僕らは諜報活動やスパイと言った言葉を聞くと、そこに関わる人々は、どこか冷血で非人間的な印象をもっているが、むしろ本書で中心となるのはその生まれ育った境遇故に、国家間の陰謀に巻き込まれていったむしろ不幸な人々である。
物語はチョンと、チョンを追う人々と、人間としてのチョンと関わる事に成った、その家族の視点で描かれる。北朝鮮に住む、チョンの家族の目線では、その言論統制の厳しさが見え、また日本に潜入したチョンの目線からは日本の物質的な豊かさが感じられるだろう。
諜報活動を扱った物語は、往々にしてわかりやすい展開にはならず、どこか難しい印象が常にあり、そういう点では本書も例外ではない。ただ、国の違いに置ける文化や豊かさの違いなどが感じられる点が新しい。
【楽天ブックス】「スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙」
「利休にたずねよ」山本兼一
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第140回直木賞受賞作品。
千利休はその唯一にして確固たる美学ゆえにその地位を上りつめた。しかし、その美に対する信念ゆえに秀吉に疎まれ切腹を命じられる。
千利休の名前を聞いた事のない人など日本人でいるのだろうか。しかし、実際に彼が何をやっていたのか、そう考えると茶室に関わる何か、としか知らない。茶室や茶という文化が同時どのように人々に捉えられていたかすら普通は知らないだろう。本書は千利休の生活や行き方、そしてそこに関わる人たちの視点を通じてまさにそんな当時の様子を見せてくれる。
こういう風に書くと、ひどく退屈な歴史小説のように聞こえるかもしれないがそんなことはない。本書で何度も描かれる、利休の美しい物にたいする考え方は、永遠と受け継ぎたいと思わせる。むしろ日本人の物作りに対するこだわりの原点があるようにも感じられる。
本書を読むと世の中のすべてが違って見える。人の表情、仕草、歩き方、建物の形状、物の置き方…。すべてにおいてもっとも美しい方法というのがあるに違いない。きっと利休であれば最も美しい方法を選択しただろう。
【楽天ブックス】「利休にたずねよ」
「漂砂のうたう」木内昇
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第144回直木三十五賞受賞作品。
根津遊郭で働いている定九郎は大きな時代の流れに飲まれながらも、そこで働く花魁や遣手たちとともに生きていく。
そもそも遊郭とはどういう場所なのか。吉原という言葉やその話を聞いた事はあるけれど、実際にそれがどういったものでどうやって営業されるのか、そこで働く花魁たちはどのようにそこで働く事になったか、などわからないことばかりである。本書はまずそんな僕らには馴染みのない当時の遊郭の様子を見せてくれる。
そしてまた、本書の舞台は明治時代のはじめの頃。それまで武士として生きていた人々が他の生き方を探さなければいけないという大きな変革期。ちまたでは福沢諭吉の「学問のすすめ」が広まり学ぶことの重要性を世の中が意識し始める。そんな変化のなかで自らの生き方を考える人々の心のうちに、どこか現代の人々の悩みと共通したものを感じるだろう。
日本画のような非現実的な状態でしか知らない時代の人々の生活を、より現実味を帯びてみせてくれる作品。
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「光媒の花」道尾秀介
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回山本周五郎賞受賞作品。
人々の人生を切り取った6つの短編から成る物語。
母と息子、兄と妹、先生と生徒。この世界にある様々な人間関係のなかの6つを描いている。想い通りにいかないやり切れなさや希望のない未来は、自然と人の心を過去に向かわせるのだろうか。どの物語も、楽しいわけでも悲しい訳でも、希望を与えてくれるわけでもないが、なにか染み入ってくるものがある。
特徴的なのは、どの物語も植物や昆虫が象徴的に登場する点だろう。笹の花、キタテハチョウ、シロツメクサ、カタツムリ。幼い頃は昆虫や植物と触れる機会も多かったのに大人に成るに連れてそんな時間もとれなくなる。だからこそ植物や昆虫は過去の思い出とリンクするのだろうか。
この物語全体に漂うしみじみとした雰囲気は、周五郎賞受賞を納得させてくれる。
【楽天ブックス】「光媒の花」
「ALONE TOGETHER」本多孝好
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
殺した女性の娘を守って欲しいという依頼を受けた「僕」はその中学生の女性、立花サクラに近づいく。
一度は医者を志しながらもその道を諦めて塾の講師として働く「僕」はその特殊な能力で人の心に踏み込んでいく。誰もが自分自身が一番大切でありながらも人との関係を求めるのはなぜなのだろう。人間関係というものについて考えさせられるかもしれない。
独特なリズムと雰囲気を持った本多孝好の世界。簡素な台詞や控えめの感情描写で、物語中の意味の多くを読み手に委ねてしまっている点は読者に寄って好みの別れる部分だろう。
【楽天ブックス】「ALONE TOGETHER」
「レヴォリューションNo.3」金城一紀
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
落ちこぼれ男子校の通称ゾンビーズの男たちの自由奔放な生活を描く。
爽快さはあるかもしれないが、残念ながらそれ以上ではない。大人社会の矛盾やストレスや矛盾を、若さと無鉄砲な若者の目線から描く。むしろ高校生や中学生に受けるないようなのかもしれないが、すでに社会に出た人間から見ると、現実感が薄くうつってしまう。
著者の作品は直木賞を受賞した「GO」以来であるが、「GO」のような内容の深みは感じられない。
【楽天ブックス】「レヴォリューションNo.3」
「将棋の子」大崎善生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元将棋マガジン編集者の著者が何人かの棋士を目指す男たちを描いたノンフィクション。将棋界の厳しさを描く。
冒頭で一人の棋士の劇的な昇段の瞬間を描いている。奨励会というプロを目指す棋士たちのその厳しい現実に、一気にひきこまれてしまう。
将棋一筋に生きようとした彼らは、何をきっかけにこの道を進んだのか、そしてその道を進み続ける人はどうやってその後を生き、その道を諦めざるをえなかった人は今どうしているのか、何人かの奨励会にいた人たちに焦点をあてて、その子供時代、奨励会時代、そして今を描いている。どの人生も印象的で、そしてどの人生からも将棋界という世界の厳しさが感じられる。
同時に驚かされたのが、著者が本書のなかでなんども繰り返しているように、昭和57年組と呼ばれる、羽生善治のいる世代が将棋界にとってどれほど革命的だったかということである。また、コンピューターの発展によって、アマチュアからも強い人が育つようになり、将棋界は大きな変革期にあることも伺わせる。将棋界の現状を理解し、そこにさらに関心を持たせてくれる一冊である。
楽天ブックス】「将棋の子」