「中森明菜 消えた歌姫」西崎伸彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デビュー40周年を迎えたアイドル中森明菜についてその誕生の経緯から現在までを語る。

僕自身は十代を1990年代に過ごしたので、中森明菜誕生から全盛の1980年代とはずれており、その曲に触れるのは全盛期を過ぎたあとなのだが、それでも多く存在する80年代のアイドルの中では異質の存在という印象を持っている。

本書ではそのスター中森明菜の誕生から、90年代に入って人気に翳りが見えて焦る様子や、近藤真彦との恋愛、そしてその後の自殺騒動などについて触れている。基本的には中森明菜の周囲の人間の証言を集めて構成されていて、周囲の人の多くが、その才能を認めながらも、その強烈な個性と自己主張の激しさに振り回される様子が伝わってくる。

また、家族との関係の悪化についても触れられており、本書を読むと、どちらかというと周囲の人間に対して疑心暗鬼になった中森明菜自身にも問題があるようだ。つくづく、多すぎるお金は人を幸せにはしないなと感じてしまった。

正直、タイトルからもっと深く掘り下げた内容を期待していたがそこまでではなかった。それでも当時のメディアが報道する表面的な内容に対して見えなかった部分を説明している部分もあり、ほどほどに楽しむことができた。

【楽天ブックス】「中森明菜 消えた歌姫」
【amazon】「中森明菜 消えた歌姫」

「美しい合気道」白川竜次

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
合気道の基本的な動きを写真とともに解説している。

大部分は写真と補足説明なので、合気道をやってない人は動画も見ないとイメージがつきにくいだろう。章と章の間に著者の稽古や合気道に関する考え方が書かれており、そのなかのいくつかは合気道に対して新しい視点を与えてくれた。

書籍としてはちょっとどんな読者を想定しているのかがわかりにくい。合気道未経験者相手であれば合気道の効能や哲学や他の格闘技との違いを伝えた方が魅力を感じてもらえると思うし、自分のような経験者に対しての書籍であれば、それぞれの技を深く掘り下げてくれたほうが興味深く読めただろう。おそらく書籍としての完成度よりも、著者のYouTubeチャンネルへ誘導するための手段という意味合いが強いのだろう。

【楽天ブックス】「美しい合気道」
【amazon】「美しい合気道」

「電通巨大利権 東京五輪で搾取される国民」本間龍

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
東京オリンピックを中心に、日本のメディアに強い影響力を持つ電通の問題を語る。

東京オリンピックの開会式が電通のせいで貧相なものになったという声があったし、先日行われた東京都知事選挙でも候補者に対するメディアの対応への違いは電通の影響によるものと指摘する声もあった。日本の社会への電通の影響を知りたくなって本書にたどり着いた。

本書では現在の日本の総広告費に対する電通の割合などの数値的な部分から、オリンピックに関わるさまざまな電通の影響によって起こった出来事を語る。

興味深いのは、他国の広告業界と日本を比較している点である。日本のようにここまで一つの広告会社が大きくなっている例は海外にはなく、その理由として次の2つを挙げている。

  • 一業種多社
  • メディア購入と制作部門の同居

一業種多社とは、海外では同じ業界の異なる会社の広告を一つの広告代理店が担当することはできない。例えばトヨタを担当していたら同じ自動車業界のホンダや日産は担当できないのだが、現在電通や博報堂は、同じ業種のなかでも複数のスポンサーを抱えているのだという。

また、電通はコネ入社が非常に多い会社という。それによってそれぞれの社員の立場も実力だけでは測れない難しい関係になっていることも本書を読んで初めて知った。

たとえ縁故入社の新人社員の年俸が1千万円だとしても、その見返りとして数億〜数十億円の広告費を獲得出来れば十分元が取れるのだから、縁故入社組は体のいい「人質」とも称されている。

改めて、地上波を中心に世の中の出来事を捉えている人は、電通の意図を受けた各メディアに洗脳されているのだと感じたし、地上波のみから情報を取得することの危険性を再認識した。

また、政治と広告業界を理解すると、日本の仕組みがかなり理解できる気がした。

【楽天ブックス】「電通巨大利権」
【amazon】「電通巨大利権」

「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」鈴木忠平

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2004年から2011年まで中日ドラゴンズの監督を務め4度のリーグ優勝と1度53年ぶりの日本一に導いた落合博満を、当時のスポーツ新聞の担当記者が語る。

全12章のそれぞれの章で、著者である担当記者から見た落合と、落合が監督になったことによって変化を余儀なくされた選手目線で描かれている。

2000年以降プロ野球を見る機会がほとんどなかったため、落合といえば中日の主砲という印象が強い。しかし、本書を読むと非常に観察眼の優れた人間で、その能力によって常識や周囲の意見にブレることなく、その結果打者としても監督としても成功したのだとわかる。

それぞれの章の選手目線の物語はどれも面白い。落合の意見から新たな気づきを得てさらに優れた選手になる者もいれば、生き残りをかけて投げ方や打ち方をを大きく変える者もいる。落合自身は打者なので打者に与える影響が大きいようだ。打者目線から描いた福留孝介、和田一浩の章が面白かった。

この世界に好きとか嫌いを持ち込んだら、損するだけだよ

福留孝介のこの言葉には真のプロフェッショナルを感じる。

それはひとつのスイングを構成する一から十までの手順、すべてを繋げていくような作業だった。落合の言葉を耳にしていると、あの不思議なスイング動作の一つ一つに根拠があることがわかった。

和田一浩の気づきからは、どんな技術も終わりがなく、その道を突き詰めることの面白さを思い出させてくれる。

そんほかにも、日本シリーズでパーフェクト直前でピッチャーを変えたエピソードや、ヤクルトからの移籍後に怪我によって本来の力を発揮できなくなった川崎憲次郎を開幕投手にした際のやりとりなど、スポーツ好きなら間違いなく楽しめるであろう内容が溢れている。

報道が与える印象からは、どちらかというと冷徹な監督という印象があるが、本書を読むと、思っていた以上に感情に左右されて決断してきたことも伝わってくる。そして、改めて、先入観にとらわれず観察することの重要性を再認識させられた。

中日ファンでなくても、野球ファンでなくても、スポーツが好きでなくても、間違いなく気づきを得られるであろう一冊。

【楽天ブックス】「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」
【amazon】「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」

「ユートピア」湊かなえ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第29回(2016年)山本周五郎賞受賞作品。海沿いの田舎町鼻崎町で暮らす3人の女性すみれ、菜々子(ななこ)、光稀(みつき)をそれぞれの立場から描いていく。

それぞれの地元への関わり方の異なる3人の女性の視点が面白い。菜々子(ななこ)は鼻崎町で生まれ育ち、交通事故で車椅子生活となった娘久美香(くみか)を抱えている。陶芸家のすみれは元恋人の誘いで鼻崎町に移り住み芸術家仲間とともに、鼻崎町の景色や人を利用して自分の陶芸家としてのブランドを育てようとする。光稀(みつき)は夫の仕事の都合で鼻崎町に住むことになり、いつか再び都会で生活することを望んでいる。

やがて、光稀(みつき)の娘彩也子が車椅子生活の久美香(くみか)について描いた感想文を、すみれが自分の芸術家としての宣伝のために使ったことで、3人の日常に変化をもたらすのである。

どんな人間関係の中でも生まれそうな、気遣い、嫉妬、見栄、野心など様々な感情が自然な形で描かれる点が面白い。自分だったらどうするだろう、という本人としてのふるまいだけでなく、自分が親だったら子供にどう伝えるだろう、というような子供に見せる親としてのふるまいについてもいろいろ考えさせられた。

著者湊かなえ作品は本書で「告白」以来2作品目で、「告白」は個人的には本屋大賞受賞作品の割に不自然さが際立っていたことを考えると、しばらく読まない間にずいぶん作家としての技術が上がった印象を受けた。

【楽天ブックス】「ユートピア」
【amazon】「ユートピア」

「GIFTED」小野伸二

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
先日引退したサッカー選手、小野伸二が自らの人生について振り返る。

8歳でサッカーチームに入った時から、44歳で引退するまでを振り返っている。18歳でワールドカップに出場した時の話、清水エスパルスと浦和レッズで迷って最終的に浦和レッズを選択した話、フェイエノールトでの出来事など、様々な出来事を順を追って語っている。

まず驚いたのは10人兄弟の5男だということ。大谷翔平の例についても思うことだが、周囲が管理しすぎるより、放っておく方が自ら考えて毎日努力する天才が生まれやすいのかもしれない。

それぞれの章の間に小野伸二と関連深い人のインタビューが挟み込まれている。元日本代表監督の岡田武史氏、妻である小野千恵子氏、浦和レッズなどで同僚だった平川忠亮氏などである。身近な人間から見た等身大の小野伸二が見えてくる。サッカー選手という負けず嫌いな存在の割に、人間関係ではかなり優しい人間であることが伝わってきた。

また、長年小野伸二の代理人を務めた秋山氏のインタビューの次のコメントが印象的だった。

僕が難しいな、と思ったのは、「戦術が雑なチームほど伸二を欲しがる」という点です。理由は簡単で、伸二がいればチームが成立してしまうから。

チームスポーツであるサッカーが、最近より戦術が発展してきて、選手を実現するパーツ化していくなかで、小野のような幅広い技術を持つ人間がチームにフィットしづらくなっているのを感じた。この辺はサッカーに限らず、会社などの組織においても同じことが言えるだろう。

組織、個人、子育てなど、いろいろ考えさせられた。

【楽天ブックス】「GIFTED」
【amazon】「GIFTED」

「ナイルパーチの女子会」柚木麻子


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第28回山本周五郎賞受賞作品。商社に勤めていて高給取りだが独身で友達のいないアラサーの栄利子(えりこ)が、同い年の主婦ブロガー翔子(しょうこ)と出会うことから始まる。最初は自分にないものを持っている相手に惹かれたものの、その人間関係はあっさり破綻に向かっていく。

そして二人の友情関係だけでなく、栄利子(えりこ)は会社での地位が、翔子は夫との関係が、その出来事によって雪崩のように崩れていくのである。そんななか、傷つきながら大事なことに気づいていく、翔子(しょうこ)と栄利子(えりこ)の変化が面白い。

正直、「女子会」というタイトルからは、もう少し優しい、ほんわかした女性の世界を描くのかと想像していたのだが、実際には友情とか家族といった人間関係をかなり厳しい視点で描いていく。そして、その厳しい描き方が強烈なのがまた新鮮である。

何故、そうやって武装する癖に、人を求めるんだ。ならば、一人で居なさい。人を信じられるようになるまで、ずっと一人で居ることだよ。少しも恥ずかしいことではないんだよ。
哀しいかな。人間は超能力者ではない。何も発そうとしない相手から、何かを読み取ることなど出来ないのだ。

考えてみれば、どんな人間関係も、適度な距離感と、適度な関心という、つまり近づきすぎてもダメ出し、離れすぎても維持できない、という微妙な技術を要求される。そういう意味では、それがうまくできない人が世の中にたくさんいるのは当たり前のこと。にもかかわらず友達が多いことを良い人間、優れた人間であることの証明のような風潮がまかり通っているから、人間関係に悩む人は多いことだろう。

【楽天ブックス】「ナイルパーチの女子会」
【amazon】「ナイルパーチの女子会」

「女帝 小池百合子」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
都知事である小池百合子の子供時代から現在に至るまでを描く。

先日終わった都知事選の過程で都政についてもっと知りたくなって本書にたどり着いた。

本書では小池百合子の家庭環境から、学生時代、そしてエジプト滞在期間などを含めて現在に至るまでを詳細に描いている。その成長過程の中から、小池の容姿に対するコンプレックスと複雑な家庭環境の中で育ったが故に、少しでも人より上に立ちたいという強い意志が感じられる。

中盤以降は政治家になって主張や所属政党を臨機応変に変更しながら政治の世界を駆け登っていく様子が描かれている。正直ここ20年ほどの政治の細かい動きを把握していなかったが、そのなかで小池百合子がどのような役割をしたのかが見えてきた。

面白いのは、エジプト滞在時代のルームメイトの証言を多数引用している点だろう。そのルームメイトは当時、小池の乏しいアラビア語でカイロ大学に入学、卒業しようとしている浅はかな考えに驚きながらも年下の小池を応援していたという。しかし今、ま小池政治家になってしまったことによって、日本に対する危機感や、自分が当時厳しく指摘しなかった自分の責任として罪悪感まで抱えているのだという。

あまり期待していなかったが面白かった。もちろん本書の情報をすべて鵜呑みにするわけにはいかないが、実名を出している部分や調べればすぐにわかる部分も多いので、かなりの部分が真実なのだろう。改めてこんな人間に都知事をやらせておいて、さらに一時期は総理大臣になりそうな可能性まであったということで、日本は大丈夫なのかと不安になったし、こんな人間に利用されて切り捨てられ続けている日本の著名な政治家たちにも改めて失望した。

一方で、野心以外に信念も能力もないにもかかわらず、それをしっかり自分で理解してひたすら機会と立場を利用し、嘘で塗り固めながらも日本を代表する政治家まで上り詰めた小池百合子という女性に対して敬意さえ抱いてしまった。

その上で改めて考えてしまう。権力争いやパフォーマンスばかり気にかけている人ではなく、本当に能力がある人が政治を担うにはどんなシステムにすべきなのだろう。

【楽天ブックス】「女帝 小池百合子」
【amazon】「女帝 小池百合子」

「東京終了 現職都知事に消された政策ぜんぶ書く」舛添要一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
前都知事である舛添要一氏が現職や都政について語る。

2024年の都知事選が結果としては小池百合子氏の再選となった。国政というものは法律を作ったり整備したりするという印象で想像しやすいが、法律に関与しない地方自治体レベルの都政や県政についても詳しく知りたくなって本書にたどり着いた。

タイトルからもわかるように本書は前都知事となる舛添要一氏が現職を批判するような形をとっている。現職である小池都知事に対しては全体的にはパフォーマンスを重視して、内容の薄い政策にお金を費やすという意見である。

そんななか並行して舛添氏がと指定として実現しようと努めていたこと、意識していたことなどが語られる。都政というものが漠然としてではあるがわかるだろう。印象的だったのは、家と同じように住む人や文化の変化に応じて、都市も30年周期でリニューアルが必要、という考え方である。確かに以前は人気の街だった渋谷や原宿が違った印象を与えるようになるのを見ると、コンセプトを持って都市をリニューアルしていることが伝わってくる。

著者は、長年作家など行政経験の乏しい都知事が続いたために職員の意識が低下したことを嘆いている。改めてどんな人間が都知事にふさわしいのだろうと考えさせられた。1人の人間があらゆる知識を持っていることはありえないので、都知事に求めるものはむしろリーダーシップとコンセプトメーカーなのかもしれない。

全体的に主観的な意見が目立つが、現職の都知事を完全批判するようなタイトルの割には控えめな印象を受けた。本書は前都知事が現職を見た形で描かれているので、現実を少しでも偏見なく見つめるために、現職都知事の側から描いた都政についても読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「東京終了 現職都知事に消された政策ぜんぶ書く」
【amazon】「東京終了 現職都知事に消された政策ぜんぶ書く」

「ミニマムで学ぶスペイン語のことわざ」星野弥生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
100個のスペイン語のことわざを意味や使い方を交えて紹介する。

スペイン語をさらに向上させたいと思い本書にたどり着いた。

単にことわざを100個紹介するだけでなく、同じ意味の日本語のことわざや英語のことわざも紹介している。また実際にそのことわざを使用する場面をスペイン語の会話で紹介しているので、新しい表現や単語の使い方を知ることができる。

どんな言語の文化圏においてもことわざになる内容というのは似ていることと、スペイン語においても韻を踏むことを重視していることを知った。人々の叡智として広く広めるためには、その文化圏でよく知られた動物や物をことわざに用いるだけでなく、口にしやすい流れるようなリズム感も常に重要なのだろう。

【楽天ブックス】「ミニマムで学ぶスペイン語のことわざ」
【amazon】「ミニマムで学ぶスペイン語のことわざ」

「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第21回(2008年)山本周五郎賞受賞作品。2008年本屋大賞受賞作品。首相がラジコンヘリによって殺害された。犯人の濡れ衣を着せられた青柳雅春(あおやぎまさはる)はそんな陰謀から友人たちの力を借りて逃れようとする。

首相の暗殺から始まり。青柳雅春(あおやぎまさはる)の過去の恋人の様子を描きながら、少しずつ青柳雅春(あおやぎまさはる)自身の逃亡する様子へ物語がシフトしていく。

ジョン・F・ケネディの暗殺についても様々な憶測が語られており、現在どこまで明らかになっているのかわからないが、真実もひょっとしたらこの物語のようなことだったのかもしれない。

主人公の逃亡劇というスタイルはすでに使い古されてはいるものの個人的には楽しめたが、物語に特に新鮮さや深みは感じなかった。また、これまでの伊坂幸太郎の作品とは少しスタイルが異なるような印象を受けた。古くからの伊坂幸太郎ファンはこの作品をどのように受け止めたのだろう。

【楽天ブックス】「ゴールデンスランバー」
【amazon】「ゴールデンスランバー」

「神様のビオトープ」凪良ゆう

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
死んだはずの夫が家に帰ってきたので、うる波(は)は自分以外には見えない夫と共に過ごすこととなる。

美術講師をしながら生きる未亡人うる波の物語であるが、常に夫の鹿野(かの)くんと会話しているので、未亡人という雰囲気はほとんどない。そんなうる波と鹿野くんがの周囲で起こる出来事を暑かった4つの物語を描く。

どの物語にも少し変わった愛に関するテーマがある。著者凪良ゆうは小児愛者を扱うことが多いが、本書でも1編は小児愛者を扱っており、4編のなかでもっとも考えさせられた。

許されないとして、だとしたら僕はなんの罪になりますか?
僕は心の中まで、世間の人たちに合わせなくてはいけませんか?

軽く読めるからといって読み終わったらすぐに忘れるような薄っぺらさはなく、深みを感じさせる。そんな絶妙なバランスを感じさせる作品。

【楽天ブックス】「神様のビオトープ」
【amazon】「神様のビオトープ」

「世界最先端の研究が教える すごい心理学」内藤誼人

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
興味深い心理学調査とその結果について語る。

個人的に印象的だったのは「デキる人は軽いカバンを持つ」の話。この煽るようなタイトルが気に入らないが、身に覚えがあるのと、最近カバンが重いなと感じるので早速かばんの中身を見直したいと思った。

正直、どの心理学調査もそれなりに興味深くはあったが、読書を日常的にしている人なら聞いたことあるような話ばかりだろう。本全体としてエピソードの選択の順番も選択基準も著者のコメントも含め、まったくコンセプトが感じられない、ただの寄せ集めになってしまったのが残念である。タイトルの「すごい」も、売るためにこういうタイトルをつけることはわかっていても、内容とのギャップで失望感を増しているだけに感じた。

煽るようなタイトルと内容の薄さを考えると、この著者の本はもう読まないほうがいいなと思った。

【楽天ブックス】「世界最先端の研究が教える すごい心理学」
【amazon】「世界最先端の研究が教える すごい心理学」

「アーモンド」ソン・ウォンピョン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2020年本屋大賞翻訳小説部門受賞作品。感情を感じることができない「僕」ソン・ユンジェの物語。

子供が感情表現のできない人間だと気づいたユンジェの母は、社会に溶け込むために一般的に人間がするであろう言動をユンジェに教え込む。そんな少年時代を過ごしたユンジェは、やがて高校生になってゴニという悪友や、ドラという女性と知り合うこととなる。

正直、可もなく不可もなくという印象である。感情の感じ方が乏しいというだけでサヴァン症候群というわけでもない、そんな不思議な少年を描いた作者の意図がわからない。実際に著者の周囲に存在した人をモデルに描いているのか、何か別の意図があるのかもしれない。

【楽天ブックス】「アーモンド」
【amazon】「アーモンド」

「最強構図 知っていたらデザインうまくなる。」injecter-e

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインを6つの構図に分けて例とともにその作成の過程を説明する。

次の6つの構図を中心にバナー、名刺、ヒーローイメージなど静的なデザインを語っている。

  • 黄金比
  • 三分割
  • 対角線
  • 日の丸
  • シンメトリー
  • トライアングル

アイデアに詰まったとき、別の角度からデザインを考えると良い解決策になることも多く、構図から入るデザインの有用性を教えてくれる。黄金比や対角線はなかなか意識しないと使わない手法なので、こうしてその手法に名前をつけるとアイデアを考えやすいだろう。

一方で本書では取り上げられていないWEBデザインなどの動的デザインにも適用できるか考えてみたいと思った。早速明日のデザインから意識していきたい。

【楽天ブックス】「最強構図 知っていたらデザインうまくなる。」
【amazon】「最強構図 知っていたらデザインうまくなる。」

「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発」西村直人、永瀬美穂、吉羽龍太郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スクラムを導入することになった組織でスクラムマスターに任命されたボクを中心に、物語形式でスクラムの導入を説明する。

ここ10年ほど僕自身3つの組織でスクラムの導入を経験してきたが、デザインタスクをどう扱うか、見積もりに時間がかかりすぎる、などなかなか実際スクラムを体験してみると教科書通りにはいかないことは多々あり、そんなよく陥りがちな状況を解決するヒントがあるのではないかと期待して本書にたどり着いた。

書いてあることの多くはスクラムを経験のある人にとっては知っていることばかりだろう。それでも異なる説明に触れると違ったものが見えてくるもの。そんな中今まで比較的疎かにしていたと感じたのがインセプションデッキである。インセプションデッキとは10の質問という形でまとめられていり、その中でも本書では

  • 我々はなぜここにいるのか?
  • エレベーターピッチ
  • やらないことリスト

の3つに触れている。何事もそうだが、細かいところが気になると全体が見えなくなるもの。定期的にミッション等、一歩離れてプロジェクト全体を確認する機会が必要である。

そのほかに、これまた身に覚えのある長くなりがちなデイリースクラムについても繰り返し触れている。

デイリースクラムは、問題解決の場ではないことに注意してください。
デイリースクラムは、全員がその目的を理解していないとうまくいかない。たとえば、デイリースクラムが誰かへの進捗報告になっている場合だ。

全体的に実践形式で説明してくれている点がありがたい。明日からぜひこの新しい視点を持って関わっているプロジェクトを見てみたいと思った。

【楽天ブックス】「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発」
【amazon】「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発」

「ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか」熊谷徹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ドイツ在住29年の著者が、ドイツ人の質素だが幸せな生活について語る。

最近、日本をもっと良い国にするためには何をすべきなのだろう、と考えるようになり、そのヒントがあるのではないかと思い、本書にたどり着いた。

序盤はドイツ人の生活について語る。ドイツ人は年収が少ないが幸せを日本人よりも感じているという。また、質素倹約の意識が強く、世の中のサービスへの期待値もあまり高くないというのである。

決してドイツの人々の生活をすべて肯定しているわけではない。ドイツ人の生活のなかに、日本をもっと良くするためのヒントがあるだろう、という立場で語っている。

印象に残ったのは第2章のタイトルの「みんなが不便を「ちょっとだけ我慢する」社会」という言葉である。つまり、今ほど便利ではなくても人々は今の豊かな生活を送れるのではないか、ということである。具体的に挙げているのは、24時間営業の店や過剰包装である。そのほかにも、ドイツ人の休暇の取得や過ごし方などにも語っている。

確かに、僕自身も常々思っていることだが、24時間営業はなくなったとしても、人々は営業時間内に必要なものを買う習慣をつけるだけで特に問題にはならないだろう。一方で、著者が「おもてなし天国の日本」という言葉で語っているサービスの質の高さは、日本の文化として失いたくない。しかし、本書で語られるように現状が理想系ではない。日本のサービスの高さやこだわりの本質的な部分を維持した上で、サービス提供者と消費者の双方がより豊かな人生を満喫できる社会になるための最良の妥協点を探る努力は今度も必要だろう。

改めて日本の社会について考え直すきっかけとなった。

【楽天ブックス】「ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか」
【amazon】「ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか」

「28歳で政治家になる方法」田村亮

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
選挙戦術研究科と名乗る著者が政治家になる方法を語る。

最近残りの人生を考えて、もう少し人生を楽しむために何をしようかと考えたときに、政治家も面白そうと思っている。そんなわけでより現実的に政治家ってどんなものだろうと知りたくなって、本書に辿り着いた。

序盤は、政治家のメリットや面白さ、そして、誰もが政治に関わっているということを説いている。限られた人しかなれないという印象の政治家という職業も、実際には全ての人に開けているという意味では他の職業よりもずっと公平で、また、全ての人が少なからず政治に関わっているという意味では身近な職業だと気づくだろう。

序盤では現実の数値とともに政治家の実態を見せてくれるので、政治家という職業も結構面白そうだと感じるだろう。

中盤以降はより具体的なプランを語っている。本書では繰り返し市議会議員を狙うことを勧めている。そして市議会議員のなかでも当選しやすい選挙区の探し方を具体的に説明している。つまり出馬する地域を選べば、当選するのは一般的に思われているほど難しくないということである。もちろん、本書では当選をより確実にするために心がけることやるべきことを書いている。

興味深いのは落選する人としてあげている次の4つのタイプである。

  • 選挙と政治を区別していない人
  • すぐにブレる人
  • 高齢者層をあなどっている人
  • 頭のいい人

一つ目の「選挙と政治を区別していない人」というのは、いろんな分野で似たようなことが言えるが非常に面白い。つまり、選挙は当選するためのベストを尽くし、政治は当選してから考えろ、ということなのだろう。

後半からは実際に立候補した後にやるべき行動を、さらに具体的に説明している。実際にやるべきことがより具体的にイメージできることだろう。

本書を読んで、政治家になることは難しくないし、面白そうだと思った。とはいえすぐに次のステップとして市議会議員に立候補は飛躍しすぎだが、選挙の手伝いなど、もう少し深く関わって近くで政治というものを感じてみたいと思った。

【楽天ブックス】「28歳で政治家になる方法」
【amazon】「28歳で政治家になる方法」

「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」リリー・フランキー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2006年本屋大賞受賞作品。子供の頃わずか3年だけ一緒に住んだオトンとオカンとボクの3人の人生を描く。

著者自身の家族の物語、ボクの幼い頃から、やりたいことが見つからずにダラダラと過ごす学生時代など、その成長を描く。そんななか繰り返し描かれるのは、父と母、つまりオトンとオカンとの関係である。早いうちからオトンとオカンは別居することとなり、ボクはオトンとの連絡はとり続けながらもオカンとともに生活する。

やりたいことが定まらないまま、東京に出て美大に進むことを選び、なかなか勉学に集中できないにも関わらず友人に囲まれて日々を過ごす様子が描かれる。ボクを中心とした出来事だけではなく、当時起こった記憶に残る出来事が描かれているので世代が重なっている人は楽しめることだろう。

先日読んだ「錨を上げよ」に似ているなと感じた。この高度経済成長期に子供時代を過ごした人々が40代、50代になってあくせく働く時代を過ぎて、経済的に安定期に突入して、ちょっと人生を振り返って自分の体験を物語にしてみよう、と思うタイミングなのかもしれない。したがって、似たような本を読んだばかりのせいかあまり本屋大賞受賞作品というほど強い印象は感じなかった。読むタイミングが異なればまた違った印象を受けたかもしれない。ダラダラ生きてきた人生もつまらなくはないが、むしろしっかり生きてきた人の人生にもっと触れてみたいと感じた。

【楽天ブックス】「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
【amazon】「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」

「スマホ脳」アンデシュ・ハンセン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スマートFONを日常的に使うことの危険性について語る。

全体的に過去の人類の進化の過程とともに、なぜ人が現代病と呼ばれるストレス、うつ、依存症に陥るかを説明している。そして中盤以降は、スマホ、ブルーライト、SNSが人間にもたらす悪影響ををデータと共に説明していく。

もっとも印象的だったのは「シリコンバレーは罪悪感でいっぱい」の章である。そこではフェイスブックのいいね機能を開発した人物が、自分が発明によって世界中にSNS中毒を生み出したことに罪悪感を感じていることや、iPadの生みの親であるスティーブ・ジョブスはiPadを自分の子供には使わせなかったという事実が語られている。

たしかに、僕自身もサービスの開発に関わる仕事をしているが、常に焦点となるのは、ユーザーの幸せではなく、どうやって繰り返しサービスを利用する人を増やすか、である。つまり世の中の多くの企業が、ユーザーの依存を作り出すためにサービスの改善を繰り返しているのである。

そんななか、印象的だったのは著者が繰り返し語る次の言葉である

新しいテクノロジーに適応すればいいと考える人もいるが、私は違うと思う。人間がテクノロジーに順応するのではなく、テクノロジーが私たちに順応すべきなのだ。

企業が短期的な成功を数字を見て判断する限り、ユーザーの幸せよりリピートに焦点を当てるのは必然であり、それによって世界中に依存症が作られ続けるのである。幸せにフォーカスした企業が成功するためにはどんな社会の改善が必要なのだろうか、と考えさせられた。

最終的には「運動脳」と同様に運動を進めている。僕自身はスマホやSNSに依存しているとは思わないが、子供を持つ親として、子供に依存しない生活習慣を身につけさせることの必要性を考えさせられた。

【楽天ブックス】「スマホ脳」
【amazon】「スマホ脳」