「ダメだ!この会社 わが社も他社も丸裸 」山崎元/倉田真由美

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
11回の転職をした著者が自らの経験を基に、いい会社や悪い会社の傾向について、会社勤めをしたことのない漫画家倉田真由美と共に語る。
「こんな会社はだめだ」と端的に言い切るところが面白い。いくつか挙げると次のようなものだ

意味不明の肩書きが多い会社
役員フロアがゴージャスすぎる会社
上司・同僚を肩書きで呼び合う会社に未来なし

そんな表面的なことばかり書かれているかというとそんなことはない。本書で語られていることのなかで印象的だったのは、悪い会社も務める人の心の持ちようによってはいい会社になり、またその逆もありえるというところ。結局大事なのは自分の価値観に見合う会社を選ぶということなのだろう。こうやって書いてみると当たり前のようのことのように思えるのかもしれないが、しっかりと自らの価値観を見極めるまでにはある程度の年月を、価値観の合わない会社で働く必要があるのだ。
本書で書かれていることの多くが真実であったとしても、自ら経験するからこそしっかり理解できることなのだろう。それでも知識として持っておいて損はない。
【楽天ブックス】「ダメだ!この会社 わが社も他社も丸裸 」

「コンサル一年目が学ぶこと」大石哲之

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
外資系のコンサルティング会社出身者はその後さまざまな分野で活躍している。そんな彼らが1年目に学ぶ、その後の人生にずっと影響を及ぼすような内容とは何なのかを語る。

本書は4つの章に分かれている。「話す技術」「思考術」「デスクワーク術」「ビジネスマインド」である。どれも非常に論理的な考え方なので、普段から論理的な考え方をしている人にとっては、当たり前のことばかりなのかもしれないが、改めて自分の行動を見直し、それをさらに磨くためには本書はいいきっかけになるのではないだろうか。

話す技術のなかで、「PREPの型に従って話す」というのがある。PREPとはPoint、Reason、Example、Pointで、まず結論を話し、その理由を説明し、具体例を語った上で再度結論を繰り返す、という流れである。「結論を先に話す」というのはよく言われることではあるが、改めて自分自身の本日、昨日の職場での言動を振り返ってみるとすべてにおいてそのように実行できていたかは怪しい。

また「Quick and dirty」という考え方も、常にできているとは言い難い。「Quick and dirty」とは完璧ではないものでも早く人に精査させることによって軌道修正を行うということである。必要以上に間違ったものを作り込んで無駄な時間とエネルギーを使うことを避けるために非常に有効な考え方で、アジャイル開発などでも取り入れられている考え方だが、人の目を考えるとついつい作り込んでしまいがちである。

コンサルタントがなぜあれほど高い給料をもらえるのだろうか、というところに興味を持って本書を手に取ったのだが、彼らも特別なことをやっているわけではないということがわかった。本書では多くの参考図書が紹介されていたのであわせて読んでみたい。

参考図書
「まだ「会社」にいるの?」山口揚平
「得点力を鍛える」牧田幸裕
考えながら走る グローバル・キャリアを磨く「五つの力」」秋山ゆかり
なぜゴッホは貧乏でピカソは金持ちにだったのか?」山口揚平
「観想力・空気はなぜ透明か」三谷宏治

【楽天ブックス】「コンサル一年目が学ぶこと」

「僕の隣で勝手に幸せになってください」蒼井ブルー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
写真家である著者が発するツイートをまとめた本。
写真家ということで若い女性と接する機会が多いせいか、恋愛や男女関係に関するツイートが多く、ときどきはっとさせられるような独特な視点のツイートがあって面白い。
印象的なツイートはたくさんあったのだがなかでも個人的なヒットを3つ挙げておく。

電車で隣に立っている女子。吊り革を持つ手の甲にペンで「おとん誕プレ」と書かれていて、この時点で抱きしめたいし、もう一方の手には大きめのユニクロの袋を持っていて、おとんに贈るダウン的な物だと考えたら心まであたたかいし、おとんの子育て間違ってなかったし、結婚してないけど娘欲しいし。
まだ若いのに夢を叶えた人のこと尊敬する。もう若くないのに夢を叶えようとしている人のこと尊敬する。
今日が終わって欲しくなくて寝ようとしないの、明日ごと終わるからやめた方がいい。

ちょっとハゲを気にするツイートが多く、そこがなんか同じ男として共感できる。
【楽天ブックス】「僕の隣で勝手に幸せになってください」

「指を置く」佐藤雅彦/斎藤達也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
指を置くことで意味を持つ絵や図形をまとめている。
1時間ほどで読み終わる内容ではあるが、そのコンセプトを理解するのは中々難しい。冒頭で本書はこおように語っている。

通常の絵画や彫刻などの美術の鑑賞では、作品の前面に向かうのは、あなたの眼です。手や指は関与してきません。しかし、本書では自分の存在を敢えて、コンテンツに参加させます。そのとき、果たして自分の存在は、メディアへの没入感にどのような干渉を及ぼすのでしょうか。

僕が本書に辿り着いたのはユーザーインターフェースデザインの関連からだった。スマートフォンのタッチパネルがメインであるユーザーインターフェースデザインは、まさに本書の言う「自分の存在がコンテンツに参加したデザイン」である。そのための手がかりになるものが本書から得られたかどうかはまだわからないが、引き続き模索し続けたいと思った。
【楽天ブックス】「指を置く」

「薬剤師は薬を飲まない」宇多川久美子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
薬を飲まない薬剤師である著者がその理由を語る。
著者によると、世の中の年配者の多くがやっている薬を常用している状態というのはおかしいのだそうだ。なぜなら、薬が病気を治してくれるなら一定の期間飲めば薬は必要なくなるはずなのだから。実際には多くの場合、薬はただ症状を抑えるもので、完治させるものではないのだという。痛みや苦しみが発生する根本の原因を解決しないで、場当たり的に薬に頼って症状を抑えている限り、永遠に改善することはない。薬を手放して、自然治癒力や自己免疫力を維持することこそ健康な生活を送るために必要なのだそうだ。
言われてみればどれももっともな内容でたびたび頭痛薬を飲む自らの生活を反省する部分もあると感じた。内容としてはもっと年配の人に向けられて書かれているように感じたが考え方として持っておくことに早すぎるということはないだろう。
後半は健康な体を育むためのエクササイズも紹介している。薬剤師のエクササイズがどれほど本書の読者の役に立つかは疑問である。健康のための運動を日常的に行っている人にとっては後半は退屈かもしれない。
【楽天ブックス】「薬剤師は薬を飲まない」

「世界史を変えた薬」佐藤健太郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世界を大きく変えた薬について紹介する。
世の中にはわずかな違いで、歴史が大きく変わっていたかもしれないことがある。クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、というように。本書はそれを薬について語っているのだ。実際100年ほど前までは日本人の平均寿命は40歳程度だったのだというから驚きである。言い換えるなら「世界史を変えた薬」が生まれていなければ、僕はもう死んでいたかもしれないのである。
本書で扱っているそんな「世界史を変えた薬」とは、ビタミンC、ペニシリン、アスピリンなどである。薬のど素人の僕でさえ知っている名前ばかりである。つまりそれは現在ではそれほど広範囲で使用されているということなのだろう。大航海時代に多くの航海者が悩まされた壊血病を解決するビタミンCの発見に始まり、多くの興味深い歴史的事実を交えて、薬の発明を紹介している。薬という世界の入り口としては非常に面白い一冊である。
【楽天ブックス】「世界史を変えた薬」

「問題解決に効く「行為のデザイン」思考法」村田智明

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインの考え方について語る。
例えばハンガーにスーツをかける場合、ハンガーはズボンを先にかけてから上着をかけるようにできているが、それが人間のスーツを脱ぐ順番と一致しているだろうか。本書はそんなわかりやすい事例を盛り込みながらデザインについて語る。多くの人は「デザイン」というと、色や形を作る「デザイナー」と呼ばれる人だけが気にしていればいいことのように聞こえるが、本書を読めば、実際には世の中のすべての人が考え、関わることのできる分野なのだということがきっと伝わるだろう。
普段からデザインという業務に関わる人にとっても、改めて思い出させられる内容がいくつか含まれている。例えば「デザインは使う人になりきって考える必要がある」という考えは、言葉にすれば当たり前だが多くの人が忘れがちである。また「時間軸を考える」という考えもついおろそかになりがちである。
普段のデザイン業務を見直したくさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「行為のデザイン」思考法

「ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法 」大川翔

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
タイトルにあるように14歳でカナダのトップ大学に合格した大川翔が自分の勉強やこれまでの学校や家庭での過ごし方について語る。
経歴だけを見ると、このような偉業は才能のある特別な人間にしかできないものと思うかもしれないが、本書を読んでみるとそんなことはないとわかる。
まず、日本にはない飛び級というものがカナダには存在するのである。日本でも授業中に授業のスピードが遅くて退屈しているような人間を見た覚えがあるだろう。日本ではそのような人間は、他の生徒にあわせてゆっくりと進むしかないが、カナダではそのような生徒は飛び級という選択ができるのである。それによって大川翔くんは常に「ほどよいがんばり」を求められる環境に置かれたのである。本人のレベルよりも高すぎる環境は諦めを生む一方で、低い環境は「慢心」を生むのだろう。そういう意味では翔くんも日本の学校では慢心に溺れた「小学校のとき頭が良かった」生徒になったかもしれない。
もう一つ驚いたのは、何よりも弁護士である母親が勉強する能力と方法を熟知しており、それを翔くんに対してもしっかり実践したことである。それによって翔くん自身も効率的な勉強方法を身につけて行ったのである。
例えば、何かを達成するために必要なことは、その能力を伸ばすだけではなく、何をどこまでやればいいのかという分析である。試験のようなものの場合、実力を上げることはもちろん重要だが、同じように重要なのは、必要以上に時間をかけて他の分野や強化にかける時間が減ってしまうことである。
本書では翔くんがスピーチコンテストで優勝する様子が描かれているが、その過程はまさに分析と必要な技能のマスターに集中しており、目的達成のための理想形である。僕ら大人がそれを今語ることができることにそれほど驚きはないが、それを14歳の時点ですでにマスターしているということは人生のなかで大きな利益になるだろう。
本書を読んで思ったのは、14歳の天才時はしっかりと両親が計画して子育てを行えば、育てることができるということである。
【楽天ブックス】「ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法」

「マリー・アントワネットの生涯」藤本ひとみ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
フランス革命のなかで断頭台より最期を迎えた悲劇の王妃マリー・アントワネット。彼女の生涯を語る。
まず驚いたのは、マリー・アントワネットが有名なのは日本だけなのだそうだ。確かに、特に優れたことをしたわけではないし、なぜマリー・アントワネットという名前を日本人の多くが知っているのかというとよくわからない。僕個人としては幼い頃にみたアニメ「ベルサイユのばら」の印象が強いのかもしれないが、「マリー・アントワネット」という名前自体も魅力的で一役買っているような気がする。
さて、本書ではそんなマリー・アントワネットがオーストリアに生まれ、やがてフランスの王女になり最後と迎えるまでを描いている。本書で改めて彼女が行ったことを知ると、フランス国民のあれほどの怒りを買ったのも納得がいく。本書の中でいくつかのフランスの建物が紹介されており、今まであまりフランスという国に興味を持っていなかったのだが、いつか訪れてみたいと思った。
また、マリー・アントワネットの母マリア・テレジアが実は非常に魅力的な人間だと知った。機会があったら彼女の生き方にももう少し深く触れてみたいと思った。
【楽天ブックス】「マリー・アントワネットの生涯」

「嫌われる勇気」岸見一郎/古賀史健

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人生に悩む青年が「人は変われる、世界はシンプルである、誰もが幸福になれる」と言う哲人のもとを訪ね、その内容を問いただす。自分の人生を嘆きそれと比較しながら、哲人の話す内容はただの理想論と言う青年だったが次第にその考え方に心を奪われていくのである。

昨今アドラー心理学という言葉をよく聞くようになったので、比較的新しい考え方だと思っていた。しかし実際にはアドラーはフロイト、ユングと並ぶ心理学の三大巨頭なのだそうだ。

まず、興味をひいたのは原因論と目的論という考え方。例えば、とある引きこもりの男性がいて、ある人がその原因を幼少期の虐待にあるとする。これが原因論による考え方である。一方で目的論をベースにするアドラー心理学は次のように捉える。その男性は社会に出たくない故に幼少期の虐待を理由に引きこもることを選んでいる、と。アドラー心理学では常に「今」の「目的」に目を向けており、「過去に人はとらわれない」という考え方をしている点が興味深い。

他人の評価などのように、自分ではどうしようもないことに干渉するためにエネルギーをかけない、という点は、選択理論などでも語られ、最近では一般的な考え方になってきたが、それでも改めてアドラー心理学の中でそれを考え直すのも悪くない。

やはりもっとも印象的だったのは「貢献感で幸せを感じる」という考え方である。人はどうしても人や社会に貢献すると、金銭や感謝の言葉などのような見返りを求めてしまうが、そこから解き放たれて自ら満足することこそが幸せになる方法なのだ。
実はこの考え方、僕自身がこの1,2年至った考え方だったので、もう少し本書を早く読んでいればもっと早くここにたどり着いたのかもしれない、と思った。


【楽天ブックス】「嫌われる勇気」

「忍びの国」和田竜

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父、織田信長に認めてもらうため、織田信雄(おだのぶかつ)は伊賀を攻めることを決める。強力な部下に恵まれながらも自らの能力のせいでその忠誠を勝ち取ることのできない信雄(おだのぶかつ)と、とてつもない強さを持ちながらもお金のためにしか動かない伊賀の忍びたちの戦いが始まる。
伊賀という言葉からイメージするのは、やはり忍術というなにか胡散臭いもの。子供時代にみたハットリくんの世界が現実ではないとわかっていながらも、それでは実際に歴史上の伊賀の忍者とはどのような存在だったかと聞かれると未だによくわからない。そんな曖昧な「忍者」の認識に新たな視点をもたらしてくれるのが本作品である。
物語は、織田と伊賀という非常にわかりやすい構図で描かれる。織田方は誰もが天下を統一したことで知っている織田信長と、その息子、信雄(のぶかつ)を中心に展開する。すごい父を持った故に、自らの能力のなさを嘆き、父に認められるようとする信雄(のぶかつ)の姿に、400年という時を超えて共感する読者も多いのではないだろうか。そして伊賀の方では、類まれなる強さをほこりながらも妻に頭のあがらない無門(むもん)の様子が繰り返し描かれる。こちらもどこか現代の男性の共感を呼ぶのではないだろうか。
戦国の時代というと、日本の立派な武士道が見られるかとおもいきや、伊賀の人々は裏切りなど当たり前で、お金のためにしか動かないというのが面白い。また、信雄(のぶかつ)に仕える武士たちも、混乱の世の中で生き抜くために、仕える先を頻繁に変わるために必ずしも忠誠を誓っていない者も多いのである。
そんななか、信雄(のぶかつ)の維持と伊賀がぶつかるのである。信雄(のぶかつ)と無門(むもん)を中心とする物語に、個性のある脇役が加わり、軽快に楽しめる物語に仕上がっている。
【楽天ブックス】「忍びの国」

「供述によるとペレイラは…」アントニオ・タブッキ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
時代はファシズムの影が忍び寄るポルトガル。妻に先立たれた中年の男ペレイラは小さな新聞社に勤めて細々と働くなかで、モンテイロ・ロッシという若者に出会う。
僕自身は知らなかったのだが、非常に有名な作品らしく、「The Girl in the Spider’s Web」
の登場人物として出てきたジャーナリストが憧れる作品として挙げていたことから知り今回読むことになった。
まずは、この時代のスペイン、ポルトガルの情勢を僕自身がほとんど知らなかったことに驚かされた。フランコ政権やゲルニカについて書かれているので1940年前後を描いているのだろう。人々が思ったことを口にすることが非常に危険な政情であることが伝わって来る。
そして、「供述によると」という書き出しが何ども繰り返される不思議な世界観。アントニオ・タブッキという著者の他の作品にも触れていたらもっといろいろな側面が見えてくるのかもしれないが、初めて読むひとにとっては若干読みにくさを感じるのではないだろうか。
そして、物語は終盤に近づくにつれて、さえない中年男のペレイラの行動に少しずつ変化が現れてくるのである。英雄と呼べるような行動ではないが、ペレイラのするささやかな世界に対する抵抗が、むしろ現実的で共感を呼ぶのかもしれない。
【楽天ブックス】「供述によるとペレイラは…」

「聖の青春」大崎善生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃よりネフローゼという病気を患い、それゆえに将棋と出会い、命がけで将棋を指して29歳でこの世を去った村山聖(むらやまさとし)を描く。
著者大崎善生(おおさきよしお)は「将棋マガジン」などの編集部に務めた経歴を持つ作家なだけに、「将棋の子」など将棋関連のノンフィクションが面白い。本作品も将棋に人生をかけた1人の男を描いており、その過程で、将棋界の厳しさが見えてくるのである。残念ながら僕の知っている棋士は谷川浩司や羽生善治ぐらいなのだが、村山聖(むらやまさとし)はその2人を何度か破っているというから、本当に将来を期待された棋士だったのだろう。
本書のなかで描かれる、常に自分の死を意識している聖(さとし)の生き方は、読者に一生懸命毎日を生きることの尊さを改めて感じさせてくれるだろう。
そして、改めて思ったのは、自分のなかに、物事にすべてを賭けて取り組むからこそ見える世界への憧れがあることである。本書のなかで描かれている、村山聖のいくつかの重要な対局のなかで「神が指したかのような一手」と呼ばれるものがあるのである。きっとそれは、何年も将棋に取り組んだものだけがわかる一手なのだろう。きっと、何年も将棋という世界に没頭しない限り、指すことはおろか、その凄さを理解することすらもできないような世界なのだ。
【楽天ブックス】「聖の青春」

「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
中学校の駅伝にかける青春を描く。
追い詰められたときに力を発揮する設楽(したら)、素行は悪いが走ることは好きな大田(おおた)、バスケ部から参加したジロー、吹奏楽部から参加した渡部(わたべ)、桝井(ますい)に憧れて力をつけてきた俊介(しゅんすけ)、そしてずっと陸上部の駅伝をひっぱってきた桝井(ますい)。個性豊かな中学生たちが最後の駅伝にかける様子が、それぞれのそれまでの回想シーンなどと合わせて描かれる。
個人的には不良の大田(おおた)の心の描写が印象的である。すでに先生からも敬遠されるなか、桝井(ますい)からの誘いにしぶしぶ応じて駅伝に参加することになった大田だったが、走ることは好きでみんなの期待を越える活躍を見せるのである。

「やってもできない」それが表に出てしまうことを、俺はずっと避けてきた。できそうにない問題にぶつかると、できないと証明される前に投げ出した。そのうち投げ出すことに慣れてきて、ちょっとしたハードルでも俺は手を出そうとしなくなった。そして、その分、できないことも増えていった。
中学校の教師も、「お前はやればできrんだから」と馬鹿の一つ覚えみたいに言った。だけど、残念ながらそれは違う。俺はやったってできない。だいたいやればできるやつは、ちゃんとやっている。何にも力を注がない時間がこれだけ積み重なった俺にできることなど、一つもなくなっていた。

仲間とともに何かに一生懸命取り組むことのすがすがしさを改めて思い出させてくれる一冊。
【楽天ブックス】「あと少し、もう少し」

「塩の街」有川浩

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
塩害と呼ばれる災害が地球に広がり、多くの人が塩と化して亡くなった。そんななか出会った秋庭(あきば)と両親を失った真奈(まな)の物語。
塩害によって秩序を失った世界で生きる2人の様子が描かれる。なぜ「塩害」なのかという部分には触れられていないので、洪水や地震のようにもう少し実際に起こるような災害にしても著者が訴えたいものは訴えられたような気もする。
物語はそんな災害のなかで知り合った秋庭(あきば)と真奈(まな)が少しずつ絆を深めていくという流れである。著者有川浩の初期の作品ということで、物語自体に強い個性のようなものは感じられない。よくある物語の一つといった印象である。
【楽天ブックス】「塩の街」

「諦める力 勝てないのは努力が足りないからじゃない」為末大

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハードルのメダリストである著者が、自らの経験を基に、現在の日本のスポーツのありかたについて語る。
成功者は言う「諦めなかったから夢がかなった」。僕らは成功者の言葉を聞くことはたくさんあっても、失敗者の言葉を聞くことは少ない。そのため、「諦めなければ夢は叶う」という間違った考えを信じてしまい、それによって多くの競技者たちが引き際を間違えてつらい人生を送ることになるのである。本書で著者は繰り返し言うのである。確かに成功者は諦めなかったから成功したのだろう。しかし、その裏で諦めなかったけれども成功できなかった人がその何倍も存在するのであるのだと。

「やめなかったからこそできた」
こう主張する少数派の言葉に嘘はないが、現実の社会においては、はるかに敗者のほうが多いという事実はわかっておくべきだ。

ちょうど本書を読み終えたころに、世の中はまだ、リオ五輪の余韻に浮かれていた。バドミントンで金メダルととった女性ペアに、4年後もオリンピックを目指してくれるように頼んでいるタレントがいた。このような世の中の態度が、競技者に不要なプレッシャーを与えるのだと感じた。
周囲の人間は、夢を追いかけることばかりを強要するのではなく、その人の人生がよりより人生であるように、別の選択肢を示してあるべきなのだろう。スポーツの世界に没頭できるのはせいぜい人生の1/3程度なのだから。何かに頑張っている人に対して、多くの選択肢を示せる存在でありたいと思った。
【楽天ブックス】「諦める力 勝てないのは努力が足りないからじゃない」

「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
介護人キャシーは「提供者」の世話をする事を仕事としている。そして、ヘールシャムという場所で過ごした日々を思い出すのである。
物語の多くはキャシーの思い出話である。そこはヘールシャムという場所で、キャシーが同年代の子供達と一緒に過ごしている。普通の少年少女のよくある物語のように見えて、読み進めて行くうちに、妙な違和感に気付くだろう。
物語として「今までにない」、という印象。その点だけをとってみても本作品は評価できるだろう。しかし、読者を引き込みページをめくる手を止めるのを躊躇うような物語で亜はない。少年少女たちの退屈な日常を淡々と読み進めなければならない点は、好みがわかれる部分だろう。
【楽天ブックス】「わたしを離さないで」

「自分にできる努力しなくていい努力」和田秀樹

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
日本ではなぜか「努力は美しい」という考え方が広まっている。そして努力をしないと「怠け者」というレッテルを貼られる。その風潮が、正しい努力と、ただ単に辛い事に我慢するということを混同させ、しなくていい努力に耐え続ける人を多く生み出しているのだ。
本書で繰り返し語られる内容は、まさにそんな無駄な努力を続ける人に向けたものである。

正しい方法を知らずに、ただ時間とエネルギーを費やしても得られるものはない。
「努力した」ということに満足しては結果は出ない。
努力して向上しないことに力を注ぐより、努力して向上することに力を注ぐべき。

日々、いろんな人に出会う中で、こんな無駄な努力のワナに陥っている人をたくさん見かける。彼らに一体どんな言葉で説明すれば伝わるのか、それが知りたくて本書を手に取ったが、もちろんそんなことは本書には書かれていない。
【楽天ブックス】「自分にできる努力しなくていい努力」

「働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論」長谷川英祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
生物学者である著者が社会や組織を語る。
生物や昆虫の性質を引き合いにだしながら、世の中を説明して行く点が新鮮である。多くの人が知っているように生き物は種の存続を目的にそれぞれの行動が決まっている。しかし、そのような目的を持ちながらも種によっては群れを作ったり、1人のためにその他大勢が死ぬまで働いたり、ほかの生物の巣に入り込んだりと、戦略はさまざまである。ある種が、長い時間をかけてなぜ現在の行動に落ち着いたのかを考えると、その種にとってその生き方が、長期的なメリットがあることがわかる。
社会や組織や、人を新しい視点で見つめられるようになるかもしれない。
【楽天ブックス】「働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論」

「フランス人は10着しか服を持たない」ジェニファー・L・スコット

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フランスへのホームステイを機に考え方を大きく変えた、カリフォルニア育ちのアメリカ人女性の話である。

昨今「断捨離」や「ミニマリスト」「ミニマリズム」という考え方が浸透してきたが、本書もそんな考えを後押しするもの。つまり、物質主義にお分かれして「自分らしい生き方をしよう」ということである。ホームステイ先の家庭で、それまでのアメリカでの生活とはまったく異なる生活があることを知った著者はすこしずつその生活を取り入れて行くうちに、あるべき姿に気付いて行くのだ。

まず著者は、それまで持っていた大量の服のなかから本当に自分らしい物だけを残して捨てることにするのである。また、毎日化粧に多くの時間を費やすことを辞め、スナック菓子を食べながらテレビを見て過ごす事を辞めたのである。それによって彼女は、本当にいいものだけを持とうとするようになり、読書や散歩や美術鑑賞をすることに時間を費やすようになり、人生が満ち足りて行くのを実感するのである。

本書でもひしひしと伝わってくるが、このような生き方の本質は持ち物をなくすことではなく、本当に必要な物だけを持つ事であり、人生はそれによって豊かになる、ということである。

僕自身の生き方と似ている部分がかなりあったが、身習いたいと感じる部分もたくさんあった。例えば、小さなものでもいいものを持つということ。小さなものだから安いもので間に合わせるのではないのである。また、部屋の中でも常にしっかりとした装いをすることや、家族への料理でさえもしっかりとした盛りつけをするというのも真似したいと思った。どんな服を着るかなど、すべての振る舞いが相手への敬意なのだそうだ。

【楽天ブックス】「フランス人は10着しか服を持たない」