オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
タイトルにあるように14歳でカナダのトップ大学に合格した大川翔が自分の勉強やこれまでの学校や家庭での過ごし方について語る。
経歴だけを見ると、このような偉業は才能のある特別な人間にしかできないものと思うかもしれないが、本書を読んでみるとそんなことはないとわかる。
まず、日本にはない飛び級というものがカナダには存在するのである。日本でも授業中に授業のスピードが遅くて退屈しているような人間を見た覚えがあるだろう。日本ではそのような人間は、他の生徒にあわせてゆっくりと進むしかないが、カナダではそのような生徒は飛び級という選択ができるのである。それによって大川翔くんは常に「ほどよいがんばり」を求められる環境に置かれたのである。本人のレベルよりも高すぎる環境は諦めを生む一方で、低い環境は「慢心」を生むのだろう。そういう意味では翔くんも日本の学校では慢心に溺れた「小学校のとき頭が良かった」生徒になったかもしれない。
もう一つ驚いたのは、何よりも弁護士である母親が勉強する能力と方法を熟知しており、それを翔くんに対してもしっかり実践したことである。それによって翔くん自身も効率的な勉強方法を身につけて行ったのである。
例えば、何かを達成するために必要なことは、その能力を伸ばすだけではなく、何をどこまでやればいいのかという分析である。試験のようなものの場合、実力を上げることはもちろん重要だが、同じように重要なのは、必要以上に時間をかけて他の分野や強化にかける時間が減ってしまうことである。
本書では翔くんがスピーチコンテストで優勝する様子が描かれているが、その過程はまさに分析と必要な技能のマスターに集中しており、目的達成のための理想形である。僕ら大人がそれを今語ることができることにそれほど驚きはないが、それを14歳の時点ですでにマスターしているということは人生のなかで大きな利益になるだろう。
本書を読んで思ったのは、14歳の天才時はしっかりと両親が計画して子育てを行えば、育てることができるということである。
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カテゴリー: 和書
「マリー・アントワネットの生涯」藤本ひとみ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
フランス革命のなかで断頭台より最期を迎えた悲劇の王妃マリー・アントワネット。彼女の生涯を語る。
まず驚いたのは、マリー・アントワネットが有名なのは日本だけなのだそうだ。確かに、特に優れたことをしたわけではないし、なぜマリー・アントワネットという名前を日本人の多くが知っているのかというとよくわからない。僕個人としては幼い頃にみたアニメ「ベルサイユのばら」の印象が強いのかもしれないが、「マリー・アントワネット」という名前自体も魅力的で一役買っているような気がする。
さて、本書ではそんなマリー・アントワネットがオーストリアに生まれ、やがてフランスの王女になり最後と迎えるまでを描いている。本書で改めて彼女が行ったことを知ると、フランス国民のあれほどの怒りを買ったのも納得がいく。本書の中でいくつかのフランスの建物が紹介されており、今まであまりフランスという国に興味を持っていなかったのだが、いつか訪れてみたいと思った。
また、マリー・アントワネットの母マリア・テレジアが実は非常に魅力的な人間だと知った。機会があったら彼女の生き方にももう少し深く触れてみたいと思った。
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「嫌われる勇気」岸見一郎/古賀史健
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人生に悩む青年が「人は変われる、世界はシンプルである、誰もが幸福になれる」と言う哲人のもとを訪ね、その内容を問いただす。自分の人生を嘆きそれと比較しながら、哲人の話す内容はただの理想論と言う青年だったが次第にその考え方に心を奪われていくのである。
昨今アドラー心理学という言葉をよく聞くようになったので、比較的新しい考え方だと思っていた。しかし実際にはアドラーはフロイト、ユングと並ぶ心理学の三大巨頭なのだそうだ。
まず、興味をひいたのは原因論と目的論という考え方。例えば、とある引きこもりの男性がいて、ある人がその原因を幼少期の虐待にあるとする。これが原因論による考え方である。一方で目的論をベースにするアドラー心理学は次のように捉える。その男性は社会に出たくない故に幼少期の虐待を理由に引きこもることを選んでいる、と。アドラー心理学では常に「今」の「目的」に目を向けており、「過去に人はとらわれない」という考え方をしている点が興味深い。
他人の評価などのように、自分ではどうしようもないことに干渉するためにエネルギーをかけない、という点は、選択理論などでも語られ、最近では一般的な考え方になってきたが、それでも改めてアドラー心理学の中でそれを考え直すのも悪くない。
やはりもっとも印象的だったのは「貢献感で幸せを感じる」という考え方である。人はどうしても人や社会に貢献すると、金銭や感謝の言葉などのような見返りを求めてしまうが、そこから解き放たれて自ら満足することこそが幸せになる方法なのだ。
実はこの考え方、僕自身がこの1,2年至った考え方だったので、もう少し本書を早く読んでいればもっと早くここにたどり着いたのかもしれない、と思った。
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「忍びの国」和田竜
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父、織田信長に認めてもらうため、織田信雄(おだのぶかつ)は伊賀を攻めることを決める。強力な部下に恵まれながらも自らの能力のせいでその忠誠を勝ち取ることのできない信雄(おだのぶかつ)と、とてつもない強さを持ちながらもお金のためにしか動かない伊賀の忍びたちの戦いが始まる。
伊賀という言葉からイメージするのは、やはり忍術というなにか胡散臭いもの。子供時代にみたハットリくんの世界が現実ではないとわかっていながらも、それでは実際に歴史上の伊賀の忍者とはどのような存在だったかと聞かれると未だによくわからない。そんな曖昧な「忍者」の認識に新たな視点をもたらしてくれるのが本作品である。
物語は、織田と伊賀という非常にわかりやすい構図で描かれる。織田方は誰もが天下を統一したことで知っている織田信長と、その息子、信雄(のぶかつ)を中心に展開する。すごい父を持った故に、自らの能力のなさを嘆き、父に認められるようとする信雄(のぶかつ)の姿に、400年という時を超えて共感する読者も多いのではないだろうか。そして伊賀の方では、類まれなる強さをほこりながらも妻に頭のあがらない無門(むもん)の様子が繰り返し描かれる。こちらもどこか現代の男性の共感を呼ぶのではないだろうか。
戦国の時代というと、日本の立派な武士道が見られるかとおもいきや、伊賀の人々は裏切りなど当たり前で、お金のためにしか動かないというのが面白い。また、信雄(のぶかつ)に仕える武士たちも、混乱の世の中で生き抜くために、仕える先を頻繁に変わるために必ずしも忠誠を誓っていない者も多いのである。
そんななか、信雄(のぶかつ)の維持と伊賀がぶつかるのである。信雄(のぶかつ)と無門(むもん)を中心とする物語に、個性のある脇役が加わり、軽快に楽しめる物語に仕上がっている。
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「供述によるとペレイラは…」アントニオ・タブッキ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
時代はファシズムの影が忍び寄るポルトガル。妻に先立たれた中年の男ペレイラは小さな新聞社に勤めて細々と働くなかで、モンテイロ・ロッシという若者に出会う。
僕自身は知らなかったのだが、非常に有名な作品らしく、「The Girl in the Spider’s Web」
の登場人物として出てきたジャーナリストが憧れる作品として挙げていたことから知り今回読むことになった。
まずは、この時代のスペイン、ポルトガルの情勢を僕自身がほとんど知らなかったことに驚かされた。フランコ政権やゲルニカについて書かれているので1940年前後を描いているのだろう。人々が思ったことを口にすることが非常に危険な政情であることが伝わって来る。
そして、「供述によると」という書き出しが何ども繰り返される不思議な世界観。アントニオ・タブッキという著者の他の作品にも触れていたらもっといろいろな側面が見えてくるのかもしれないが、初めて読むひとにとっては若干読みにくさを感じるのではないだろうか。
そして、物語は終盤に近づくにつれて、さえない中年男のペレイラの行動に少しずつ変化が現れてくるのである。英雄と呼べるような行動ではないが、ペレイラのするささやかな世界に対する抵抗が、むしろ現実的で共感を呼ぶのかもしれない。
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「聖の青春」大崎善生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃よりネフローゼという病気を患い、それゆえに将棋と出会い、命がけで将棋を指して29歳でこの世を去った村山聖(むらやまさとし)を描く。
著者大崎善生(おおさきよしお)は「将棋マガジン」などの編集部に務めた経歴を持つ作家なだけに、「将棋の子」など将棋関連のノンフィクションが面白い。本作品も将棋に人生をかけた1人の男を描いており、その過程で、将棋界の厳しさが見えてくるのである。残念ながら僕の知っている棋士は谷川浩司や羽生善治ぐらいなのだが、村山聖(むらやまさとし)はその2人を何度か破っているというから、本当に将来を期待された棋士だったのだろう。
本書のなかで描かれる、常に自分の死を意識している聖(さとし)の生き方は、読者に一生懸命毎日を生きることの尊さを改めて感じさせてくれるだろう。
そして、改めて思ったのは、自分のなかに、物事にすべてを賭けて取り組むからこそ見える世界への憧れがあることである。本書のなかで描かれている、村山聖のいくつかの重要な対局のなかで「神が指したかのような一手」と呼ばれるものがあるのである。きっとそれは、何年も将棋に取り組んだものだけがわかる一手なのだろう。きっと、何年も将棋という世界に没頭しない限り、指すことはおろか、その凄さを理解することすらもできないような世界なのだ。
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「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
中学校の駅伝にかける青春を描く。
追い詰められたときに力を発揮する設楽(したら)、素行は悪いが走ることは好きな大田(おおた)、バスケ部から参加したジロー、吹奏楽部から参加した渡部(わたべ)、桝井(ますい)に憧れて力をつけてきた俊介(しゅんすけ)、そしてずっと陸上部の駅伝をひっぱってきた桝井(ますい)。個性豊かな中学生たちが最後の駅伝にかける様子が、それぞれのそれまでの回想シーンなどと合わせて描かれる。
個人的には不良の大田(おおた)の心の描写が印象的である。すでに先生からも敬遠されるなか、桝井(ますい)からの誘いにしぶしぶ応じて駅伝に参加することになった大田だったが、走ることは好きでみんなの期待を越える活躍を見せるのである。
仲間とともに何かに一生懸命取り組むことのすがすがしさを改めて思い出させてくれる一冊。
【楽天ブックス】「あと少し、もう少し」
「塩の街」有川浩
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
塩害と呼ばれる災害が地球に広がり、多くの人が塩と化して亡くなった。そんななか出会った秋庭(あきば)と両親を失った真奈(まな)の物語。
塩害によって秩序を失った世界で生きる2人の様子が描かれる。なぜ「塩害」なのかという部分には触れられていないので、洪水や地震のようにもう少し実際に起こるような災害にしても著者が訴えたいものは訴えられたような気もする。
物語はそんな災害のなかで知り合った秋庭(あきば)と真奈(まな)が少しずつ絆を深めていくという流れである。著者有川浩の初期の作品ということで、物語自体に強い個性のようなものは感じられない。よくある物語の一つといった印象である。
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「諦める力 勝てないのは努力が足りないからじゃない」為末大
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハードルのメダリストである著者が、自らの経験を基に、現在の日本のスポーツのありかたについて語る。
成功者は言う「諦めなかったから夢がかなった」。僕らは成功者の言葉を聞くことはたくさんあっても、失敗者の言葉を聞くことは少ない。そのため、「諦めなければ夢は叶う」という間違った考えを信じてしまい、それによって多くの競技者たちが引き際を間違えてつらい人生を送ることになるのである。本書で著者は繰り返し言うのである。確かに成功者は諦めなかったから成功したのだろう。しかし、その裏で諦めなかったけれども成功できなかった人がその何倍も存在するのであるのだと。
こう主張する少数派の言葉に嘘はないが、現実の社会においては、はるかに敗者のほうが多いという事実はわかっておくべきだ。
ちょうど本書を読み終えたころに、世の中はまだ、リオ五輪の余韻に浮かれていた。バドミントンで金メダルととった女性ペアに、4年後もオリンピックを目指してくれるように頼んでいるタレントがいた。このような世の中の態度が、競技者に不要なプレッシャーを与えるのだと感じた。
周囲の人間は、夢を追いかけることばかりを強要するのではなく、その人の人生がよりより人生であるように、別の選択肢を示してあるべきなのだろう。スポーツの世界に没頭できるのはせいぜい人生の1/3程度なのだから。何かに頑張っている人に対して、多くの選択肢を示せる存在でありたいと思った。
【楽天ブックス】「諦める力 勝てないのは努力が足りないからじゃない」
「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
介護人キャシーは「提供者」の世話をする事を仕事としている。そして、ヘールシャムという場所で過ごした日々を思い出すのである。
物語の多くはキャシーの思い出話である。そこはヘールシャムという場所で、キャシーが同年代の子供達と一緒に過ごしている。普通の少年少女のよくある物語のように見えて、読み進めて行くうちに、妙な違和感に気付くだろう。
物語として「今までにない」、という印象。その点だけをとってみても本作品は評価できるだろう。しかし、読者を引き込みページをめくる手を止めるのを躊躇うような物語で亜はない。少年少女たちの退屈な日常を淡々と読み進めなければならない点は、好みがわかれる部分だろう。
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「自分にできる努力しなくていい努力」和田秀樹
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
日本ではなぜか「努力は美しい」という考え方が広まっている。そして努力をしないと「怠け者」というレッテルを貼られる。その風潮が、正しい努力と、ただ単に辛い事に我慢するということを混同させ、しなくていい努力に耐え続ける人を多く生み出しているのだ。
本書で繰り返し語られる内容は、まさにそんな無駄な努力を続ける人に向けたものである。
「努力した」ということに満足しては結果は出ない。
努力して向上しないことに力を注ぐより、努力して向上することに力を注ぐべき。
日々、いろんな人に出会う中で、こんな無駄な努力のワナに陥っている人をたくさん見かける。彼らに一体どんな言葉で説明すれば伝わるのか、それが知りたくて本書を手に取ったが、もちろんそんなことは本書には書かれていない。
【楽天ブックス】「自分にできる努力しなくていい努力」
「働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論」長谷川英祐
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
生物学者である著者が社会や組織を語る。
生物や昆虫の性質を引き合いにだしながら、世の中を説明して行く点が新鮮である。多くの人が知っているように生き物は種の存続を目的にそれぞれの行動が決まっている。しかし、そのような目的を持ちながらも種によっては群れを作ったり、1人のためにその他大勢が死ぬまで働いたり、ほかの生物の巣に入り込んだりと、戦略はさまざまである。ある種が、長い時間をかけてなぜ現在の行動に落ち着いたのかを考えると、その種にとってその生き方が、長期的なメリットがあることがわかる。
社会や組織や、人を新しい視点で見つめられるようになるかもしれない。
【楽天ブックス】「働くアリに幸せを 存続と滅びの組織論」
「フランス人は10着しか服を持たない」ジェニファー・L・スコット
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フランスへのホームステイを機に考え方を大きく変えた、カリフォルニア育ちのアメリカ人女性の話である。
昨今「断捨離」や「ミニマリスト」「ミニマリズム」という考え方が浸透してきたが、本書もそんな考えを後押しするもの。つまり、物質主義にお分かれして「自分らしい生き方をしよう」ということである。ホームステイ先の家庭で、それまでのアメリカでの生活とはまったく異なる生活があることを知った著者はすこしずつその生活を取り入れて行くうちに、あるべき姿に気付いて行くのだ。
まず著者は、それまで持っていた大量の服のなかから本当に自分らしい物だけを残して捨てることにするのである。また、毎日化粧に多くの時間を費やすことを辞め、スナック菓子を食べながらテレビを見て過ごす事を辞めたのである。それによって彼女は、本当にいいものだけを持とうとするようになり、読書や散歩や美術鑑賞をすることに時間を費やすようになり、人生が満ち足りて行くのを実感するのである。
本書でもひしひしと伝わってくるが、このような生き方の本質は持ち物をなくすことではなく、本当に必要な物だけを持つ事であり、人生はそれによって豊かになる、ということである。
僕自身の生き方と似ている部分がかなりあったが、身習いたいと感じる部分もたくさんあった。例えば、小さなものでもいいものを持つということ。小さなものだから安いもので間に合わせるのではないのである。また、部屋の中でも常にしっかりとした装いをすることや、家族への料理でさえもしっかりとした盛りつけをするというのも真似したいと思った。どんな服を着るかなど、すべての振る舞いが相手への敬意なのだそうだ。
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「走る哲学」為末大
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
トラック競技で日本人初のメダルを獲得した著者がツイッターでつぶやく内容を集めたのが本書である。
以前より著者為末大の語る言葉が深い、というのは友人から聞いていた。実際ネット上でも彼の語る内容が物議を醸し出していたりもして、一般的な「スポーツ選手」というイメージから想像される人物とは少し異なる考え方を持っているということは知っていた。それでも彼の書籍を読むのは本書が初めてだったので、その視点の深さに改めて驚かされた。いくつか心に響いたものを取り上げるとこんな感じである。
また、自分と強く一致する部分があったことのも印象的だった。
何度でも読み返したくなるような、素敵な言葉にあふれている。
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「コンスタンティノープルの陥落」塩野七生
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
東ローマ帝国の首都として栄えたコンスタンティノープルの陥落を描く。著者塩野七生自身「ローマ人の物語」という大作を描いていることからもわかるように、誰もが古代の大帝国としてしっている「ローマ帝国」それが最終的にどのように東ローマ帝国となって、そして滅びたのかを知っている人は少ないだろう。本書はそんな歴史の一部分を、そこに関わった多くの登場人物の目線で描く。
正直登場人物が多いのと、宗教的な背景に対する知識が乏しいせいか、戦がはじまるまでの流れはあまり深く理解できなかった。しかし、一度観光で訪れたことのある、イスタンブールの名所、ガラタ塔やボスポラス海峡など、などが物語中で出てくるたびに、歴史の延長に僕らがいることを実感する。
戦いのなかで印象的だったのが、この戦いで大砲が大活躍したという点である。そして大砲の活躍の目覚ましさ故に、この戦いの前と後では、特に地中海地域では城壁の作られかたが変わったのだそうだ。これから西洋の城を見る時は城壁の形にも注意してみてみたい。
【楽天ブックス】「コンスタンティノープルの陥落」
「六百万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス」上阪徹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
今や料理をするとなったら欠かせないクックパッド。そのビジネスの根底にある理念を語る。
出版はすでに7年以上前なので新しい本とは言えないが、クックパッドの理念が伝わってくる内容である。Webサービスに関わっている人間であればいろいろ学べる部分があるだろう。まず、そのユーザーインターフェースについてはつぎのように語っている。
UIデザイナー等は常に意識していることであるが、なかなか企業という組織のなかで実現できないというのが実情である。ところがクックパッドは社員全員にその意識が徹底されているというのだから驚きである。また、検索結果でユーザーが求めている物を表示するためのシビアな取り組みも面白い。ただ単に検索キーワードに含まれているレシピを出すだけで満足していてはユーザーはすぐに離れて行ってしまうのだろう。
さらに印象的だったのは、いいレシピを選別する基準として「印刷された回数」という指標を用いている点である。「いいね」や「閲覧数」が簡単に測定できるとどうしても、その数でいいレシピを判断してしまうが、印刷というアナログな手法の回数こそがいいレシピである指標だと言う視点は見習いたい。また、ユーザーの利益になる広告しか掲載しないという強い意思にも感心してしまう。
理想を語ることは誰でもできるがなかなか実現できる企業は少ない中で、それを貫き続けた結果今のクックパッドがあるのだと感じた。自分でサービスと1から作りたいと思わせてくれる
【楽天ブックス】「六百万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス」
「メンタルが強い人がやめた13の習慣」エイミー・モーリン
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1時間で読めるような内容の薄い本なのかもしれないという恐れを抱いていたのだが、そんなことはなく、著者が母と夫を亡くすという辛い経験から立ち直ったことで得た13の辞めるべき習慣を描いている。
普段前向きに行きている人でも、思い当たる部分はあるだろう。また、誰でも周囲を見回せば前向きに生きられない人がたくさんいることだろう。そんな人への良き助言者になるためにも本書で書かれていることは役に立つ。
僕がやりがちなのは「孤独を恐れる習慣」である。しかし本書で書いてあるのは1人の時間を一切持たないような、家にいるときに常にテレビをつけてないと耐えられないような人のことであった。適度に孤独な時間があって、程よく人と会うことを求めるのはむしろ理想であるらしい。
僕にとっては周囲のネガティブな人の行動パターンを理解するという意味で本書は学べる部分があった。
【楽天ブックス】「メンタルが強い人がやめた13の習慣」
「村上海賊の娘」和田竜
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦国時代に瀬戸内海で勢力を誇っていた村上海賊を、戦に憧れる娘景(きょう)を中心に描く。
海賊という言葉はよく聞くけれども、どこか外国や物語の中にのみ登場する存在であって、日本の歴史にはそぐわない気がしていたのは僕だけだろうか。だからこそタイトルの「村上海賊」が不思議で魅力的に聞こえるのだろう。主人公が女性なのだが、残念なのが冒頭でいきなりその景(きょう)が嫁ぎ先に困るような醜女(しこめ)だと書かれているということだ。男性読者はいつもヒロインを理想の女性像と重ね合わせて読むからこれは非常に残念なのだが、本書を通じて景(きょう)の大活躍を見る事によってそんな考え方もくつがえされていく。
さて、物語は本願寺の地を狙う織田信長に対して、その地を守ろうとする本願寺側が兵糧を毛利家に求め、毛利家はその兵糧を運ぶために村上海賊を頼る、という構図である。しかし、本願寺、毛利、村上海賊もいずれも、異なる思いを抱えた人物が存在するために、いろんな駆け引きが発生するのである。
しかし、最初は「家の存続」や「地位の向上」を意識しながら行われていた細かい駆け引きが、やがて戦が本格化するにしたがって、潔よく、誇り高い行動に変わって行く様子が非常に爽快である。
村上海賊の景(きょう)はもちろん、弱虫であった弟の景親(かげちか)や雑賀党(さいかとう)の鈴木孫一(すずきまごいち)などかっこいい人物ばかりである。極めつけは景(きょう)の最大の敵となった七五三兵衛(しめのひょうえ)である。どのように決着するのかぜひ楽しんでいただきたい。
また、本書のなかではわずかな登場しかしない織田信長が、とてつもないオーラを放つ人間として描かれているのも印象的である。もちろん歴史上重要な人物なだけにそのように描くことは特に驚きでもないが、「今だったら誰にあたるのだろう?」と考えてしまう。
物語自体が面白いのはもちろん、歴史を読み解くと「○○が勝った」「○○が負けた」だけで終わってしまう出来事を、ここまで分厚い物語にし、そこに関わった人物をここまで人間味あふれる存在として見せることのできる著者の描写の技術に感動する。
【楽天ブックス】「村上海賊の娘(一)」、「村上海賊の娘(二)」、「村上海賊の娘(三)」、「村上海賊の娘(四)」
「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」塩野七生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アウグストゥスの統治の後の紀元14年から68年までを描く。
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロと支配者の変わるこの時代である。ローマの歴史に詳しくない人でも皇帝ネロの名前ぐらいは歴史の教科書で目にしたことがあるだろう。キリストの迫害で有名なネロゆえに、その性格も自分勝手な人間を思い描いていたが、本書を読むと決してそんなことはなかったのだとわかる。ネロ自信は立派であろうと努めたのである。
印象的だったのは、いい皇帝ほど歴史に名を残さず、いい皇帝ほど小さなことで非難されるというジレンマである。アウグストゥスがすでに国の基盤を作ったこの時代、皇帝のやるべきことは小さな事をコツコツ調整することであった。ティベリウスはそれを着実に行ったのだが、結果として良くも悪くも教科書に名を残すほどの人間にはならなかった。また、もし国のどこかの地で争いが起こっていれば国民の関心はそちらに向かい、細かい社会制度や皇帝自身の私生活など誰も気にしないのだが、平和に国が統治されれば人々の関心は細かいことに向かって行き、結果として皇帝の人間関係などが批判の対象となるのである。
いろんな部分で2000年前の出来事が現代と共通していると感じた。言い換えると、人間は2000年かけて、技術的には成長しても、人間的にはまったく成長していないのではないか、とも感じてしまったのである。過去から学べることはたくさんあるのに、限られた人間しかそれを意識し日々努めてはいないのかもしれない。
さて、絶頂を迎えたローマがこれからどのように終焉に向かって行くのか。「ローマ人の物語」もようやく折り返し。続きが楽しみである。
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「はなとゆめ」沖方丁
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
「枕草子」を書いた清少納言の物語。
28歳の清少納言は中宮定子のもとに使え始める。最初はその華やかさに気後れしていた清少納言だが少しずつその才能を表に出して行くことで、認められて行く。本書は清少納言が有名な歌を引用して会話をする様子が多く描かれている。
見方を変えればすこし知識をひけらかすようで不愉快な感じを与えるのが面白い。実際、清少納言の夫は歌を嫌っていたという。歌の知識があるものはその知識を用いて会話し、その楽しさを謳歌する一方で、歌の知識がないものはそれに嫉妬しそれを使うものに対してコンプレックスを抱くのである。これはどこか現代の人々に似ている部分を感じる。
やがて清少納言は藤原道長、定子の政治的な争いに巻き込まれて行くのであるが、そんななか中宮様からもらった紙を有効利用するために「枕」を綴り始めるのである。
当時の雰囲気を理解するには十分であるが、細かい人間関係やそれぞれの人の思惑まで理解できたとは言い難い。しっかり内容を理解するためには平安時代についての結構な知識が必要だろう本書の評価は読者の持っている平安時代の知識によって大きく異なるかもしれない。著者沖方丁(うぶかたとう)の歴史小説としては「光圀伝」「天地明察」が非常に有名でしかも読みやすいが、本作品に同じような読みやすさは期待しない方がいいだろう。
【楽天ブックス】「はなとゆめ」